推しと共に、虐められて死にました。
———これは数週間前のことだった。
「うわっ!」
俺は地面に頭を強く打った。
くらくらとよろけながらも、必死に落とした小さなキーホルダーを手に取った。
「…ふぅ、よかった。傷ついてない…」
大切そうに手に取ったキーホルダーには、推しが刻まれていた。
しかし、そのキーホルダーをすぐに誰かが奪い、握った。
「あっ…」
「よそ見するんじゃねぇよ!!」
俺の足を強く踏み込み、頭を殴る。
殴られた自分の頭から、血が流れ出る。
ズキズキと痛みが広がっていく。
「…返して、それ」
「それって、このちんけなキーホルダーのことか?」
あいつがキーホルダーを汚らしい手でベタベタと触る。
あぁ、可哀想な俺の推し。あんな奴に汚されて…
俺は痛い頭を押さえて立ち上がり、あいつに向かって一言言い放った。
「俺の大切なものなんだ!!!」
奴は「は?」という顔を俺に向ける。
キーホルダー、たかがキーホルダーだ。
だけど、俺にとっては大切なオタ活グッズのひとつだった。
こんなことになった経緯を今更説明しよう。
俺は天野 星。15歳。
毎日推しに金を貢ぎ、オタ活に励んできた。
しかし、オタ活に励みすぎて「キモい」と思われたのだろうか…
虐められるようになってしまったのだ。
大切な推しは踏み潰され、割られ、投げ飛ばされ…
本当にコイツらが憎い。
俺の推しをこんな目に遭わせるだなんて…
「…お前らっ、俺の推しをこんな目に遭わせておいて…ッ」
俺は我慢できずに癇癪を起こし、手を握りしめて、推しのとあるセリフを叫んだ。
「『腕一本でも置いて行け』!!!」
____勿論、殴り合いで相手に勝てるわけがなかった。
でも、推しのセリフのおかげか、少し力が湧き上がっていた気がした。
どんどん意識が遠のいていく。
俺は…推しと共に死ねるなんて、幸せ者だな。
でも、このまま死ぬのは嫌だ。
死ぬのなら…
あのゲームに転生したい。
「…ゆるさ……ない…ぞ……」
その想いと言葉と共に、俺はこの世を去った。