ずぅーとなかったわたしの中のイライラと邪推が鎌首あげて、中にいるわたしの出自を探ろうとするまでの夢
その伴奏は、レキントギターの硬い高音だった。
だけど、小振りのトランジスタグラマーみたいなボディが先に来たから、ラテンの乾いた風より瀬戸内を渡ってくる柔らかな汐の潤いでそれを感じる。
そう、かもめが一緒に飛んでるほかの誰かの柔らかな羽を1本口に加えて運んで来たような
それを思い描いて、こんなにもお日様が高く昇ってるのに、頬を撫でる柔らかな待ち時間がなくなってしまうのがもったいなくて、いまだ目を開けていない。
とっくに覚めているのに
あと少しあと少し
あと5分あと5分
と、布団の縁を鼻の下のくすぐりまで引っ張り上げたまま。
辺り一面上下左右の分からぬ身の上だから、見ているのがわたしなのか見られてるのがわたしなのか定かでない。きっと、そのどちらもが違うのだ。幽体離脱の四字熟語は、現の身の上になってから、この桃源を写し取ろうとするつじつま合わせ。
耶蘇の坊主が言うところの方便でしかない。
ともあれ。
じっとりの重たい湿った雪に降り籠められた日常にイヤイヤしてた身の上が、耳の穴の奥まで潤ってくる爽やかなレキントギターに満ちた南の楽園に紛れ込めたんだから、「みぃつけた」からってすぐには剝がさないでいてもらいたい。
もちろん。
わたしは窮屈で染め抜かれた上下同じ色の服なんか纏ってやしない。
は・だ・か・ん・ぼ・う・だ。
大人でなかったら、ほんとうの全てすっぽんぽんの爽やかな高音質の潤いを全ての毛穴で味わいたい。だって、チクチクするところなんて、ひとつもないんだもの。
「うーん」っと、目をつむり鼻の穴いっぱいで此処の空気みんな吸い込むような欲深な大きな深呼吸をした。
そしたら。
鼻の穴から一巡したのか、表と裏をひっくり返すようにジグソーパズルに変換される。
レキントギターが奏でるポロロンを、ひとつぶひとつぶ箸で器用につまんで、コバルトブルーや何とかキャメルが発色させたパーツで組み立てるジグソーパズル。ジグソーパズルで組み立ててる絵の中は、幸せ顔したたくさんのひとが群れている。
でも、わたしだけがここにはいない。
消えて、無くなり、ひとりシコシコとピンセットやらノズルのついた噴霧器で地味に作業をしてる。
きっと、止水栓をひねるようなこんな鬱々のジッとした作業ばかりだから、毎分のミクロン単位で脂肪の層が重なっていってイモムシみたいなからだになっていくんだ。
ダメダメ、ダメダメ、、だっメ、ダっぁメェーーーーーーーー軽やかにしなやかに流れゆく音を、そんな固まって動かない絵なんかに置き換えたりしたら、ダぁあぁぁーメ。
見ているものは、奏でるものに
聞こえるものは、嗅ぐわしいものに
嗅ぐわしいものは、美味しいものに
身の上がそんなバラバラを感じたらなら、ハッピーに変換しなきゃ。かもめが加えてたほかの誰かの柔らかな羽、くるくる廻って落ちてくる。サンサンの南風あびてる感じで布団に固まってるのはもうやめにして、ガバリ起き上がってハッピーを作るくタイミングだよ。
シューシューが音を立てて落ちてくる。
火を使い蒸気をたて、朝にふさわしい香ぐわしい匂いが満ちてくる。
蒸籠に盛った糯米が、おのれのからだから捻りでてくる甘い匂いが右ほほをくすぐる。
いっしょに煮てる小豆の目方と同じだけの分銅できっちり測られ注がれた白砂糖のマリアージュしてく甘い匂いが左ほほをくすぐる。
裸んぼうを拭いで割烹着に包まれたわたしは、あたまに結わえる三角巾の結び目が堅く短く、いまだあたまが決まらない。じょじょに下腹が張ってくトイレが見つからないような溜まったイライラが始まりそうな気配に支配されているのに、それでも大人だからと、それをちっとも苦にしないでいると・・・・やっとこさぁ、爪のたった小さな蝶々結びを拵える。
拵えるでなくて、拵えるが、口からすぅーと出てきた。それを見つけて、ずぅーとなかったわたしの中からイライラと邪推が鎌首あげて、中にいるわたしの出自を探ろうとするのを感じ、覚めた。