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攻略レベル1「幼馴染」VIII

  「素晴らしい、とても素敵ですよ」


 張り詰めた空気の中、進み出てくる1人の少女。

 

 山崎を除き、筋肉が隆起したゴツい人間が多く集まるこの状況において、それはとてつもなくいびつなものだった。


「な、なんだよ愛ちゃん。もしかしてこういう過激なのも平気な感じ?やばっ!マジで惚れちゃうわー俺」


「黙りなさい、家畜の分際でこれ以上人の言葉を使うな」


 今までの彼女からは到底考えられない台詞が口から飛び出したことにより、山崎以外の人間は身体を硬直させた。


「随分派手になされましたね。貴方が本当に死んでしまうのではないかと、内心ヒヤヒヤしていましたよ?」


 血と埃で汚れた山崎の頬を触ると、優しく撫でた。


「はは‥‥すみませんウサギさん。でも僕‥‥‥」


「身を休めて。これ以上身体を痛めつけては、貴方の愛する人がその身を案ずることになりますよ?」


 そう言われ、ふと綾乃を振り返ると彼女は目を潤ませてこちらを見ていた。


「まだ貴方は非力で、誰かを守る力を持っていない。それでも尚立ち向かった貴方は、人を殴るしか能のない豚共と比べて尊いものを持っています。どうかそれを忘れずに」


 ウサギさんはそっと立ち上がると、綾乃を見て優しく微笑んだ。


 綾乃はそんなウサギさんと僕を交互に何回も視線を送ると、小首を傾げた。


「あ、そうだ!山崎さん。靴をお借りしてもよろしいですか?」


「え?あ、はい。全然いいですけど。サイズ合わないと思いますよ?」


「それは大丈夫です。私こう見えて足は大きいので!なんたって”ウサギ”ですから!」


 ウサギは関係ないのでは?僕は心の中で突っ込みながら彼女に靴を渡すと、ウサギさんは自身のハイヒールを脱いでその場に並べた。


 「ここからはハデス様の従属筆頭ウサギが、愛を信じる主役達に継ぐ鎮魂歌レクイエムを奏でさせていただきます」

 

 そうしてウサギは瞳を緋色に染めると、闇の力を開眼させた。




 


 

「あ、愛ちゃん。さっき俺になんて言ったの?ごめん聞き間違いかな?今俺のこと———もが!?」


 私は右足の靴先を豚の口に突っ込むと、そのままレストランの木製カウンター目掛けて蹴り上げました。

 

 ブヒブヒと笑いながら近寄ってくる一頭の豚。なんてけがらわしい。


「愛ちゃん!?何してんの!?」


 巻き上がる埃の中ブヒブヒと慌てふためいています。どうやらあの豚はこの群れを率いるリーダーだったようですね。


「なんで彼氏の弘樹蹴飛ばしてんだよ!?てか何であんな飛ぶの!?」


「そんなことより取り押さえろ!コイツ普通じゃねぇって!」


 先ほど蹴り飛ばした雄より少しサイズの大きい豚が舞い散る埃を身に纏いながらこちらに突進してきます。


 この服はハデス様より送られたお召し物。汚れたら困りますね。丁度レストランの床が木で助かっちゃいました。


 床に指を捻じ込み、長方形の木材を取り出すとそのまま雄豚目掛けて投擲とうてきし、頭蓋骨を粉砕します。


「——————アァッ」


 白目を剥いた豚はその場で倒れ込み、またも要らない埃を撒き散らした。いい迷惑ですねほんと。


 そんな中、ひとつの疑問が彼女に問いかけた。


「でも私だけの鎮魂歌?一体何をすればいいのでしょうか?ここにはそんなものはありませんし」


「テメェいい加減にッ!!!」


 すると私の背後からレストランの椅子を持ち上げ、ドタドタと迫りくる最後の豚が2匹現れました。


 溜め息を吐きながら私は振り返ると、そこに思わぬものが目に入りました。


「あった!やっぱりあるじゃないですか!レストランにはこれがなくては!!」


 私はとりあえず回し蹴りを両方に喰らわして首をへし折ったあと、そのまま目的のものへと近寄った。


「よかったーー!これでハデス様の求める鎮魂歌レクイエムを奏でられます!」


 これで大丈夫!私は習い事をやっていたので多分弾けると思います!




 一方ウサギが家畜共を蹂躙していた頃、ハデスはルナと共にその光景を眺望していた。


「あの子は確か、貴方がこの世界に死に戻りして始めての従属だったわねハデス」


「あぁ」


「最初は転生もさせていない、悪魔でもない子を引き連れて一体何の役に立つの?と思ったけれど。なるほどね、米一粒程度だけれど理解できたわ」


 ルナは無表情でウサギの戦闘を眺めてると、再び口を開いた。


「ただ闇の力を感じるのは貴方が力を与えたからかしら?下級悪魔の分際でやってくれるわね。今ここで死になさい」


「いやいや!悪魔が人間と契約して力を授けるのは禁忌ではないはずだ。それを死神から聞いていたからこそ俺はウサギに実行した。もっとも————」


「人間という貧弱な種族である以上、闇の力を意のままに操ることはできない。今あの子が行使しているあれだって時間制限があるわ‥‥‥10分といったところね」


 彼女が推測したタイムリミットは正しい。ウサギは人間であるが故に闇の力をフルに利用することはできない。


「ただあの子の身のこなし。闇の力が補填されているとは言え人間にしてはずば抜けている。単純な身体能力で比べれば貴方は愚か、私に匹敵するわ」


「ほー?お前が褒めるなんて—————」


早合点はやがてんしないでちょうだい。闇の力を抜きにした時の話よ。本気でやり合えばあの子なんて小指一つで足りるわ————こんな風にね」


 ルナはは小指を立てるとフッと息を吐いて見せると、俺は鈴木蘭と出会った日のことを頭によぎらせた。


「あいつ真夜中の電柱の陰に一人腰掛けて座っていたんだ。最初は売春だとか汚らしい真似をしているのかと思ったがそうじゃなかった。複雑な事情は省略するが、今じゃ忠実な下僕だ」


「売春‥‥そうね、あの子からは処女の匂いがする。とても皮肉なことにね————あら」    


 最後の男の意識を刈り取ると、ウサギは麗しい長い銀髪を掻き分けた。


「鎮魂歌を奏で終わったようだな。それでは我も向かうとしようか」


「最後に聞かせなさい」


 思いがけられず呼び止められたことに、俺は飛び降りる初動作をキャンセルした。


「前の話に戻るけど。今日貴方はあの方より権能を受け取った。でもそれは合わせて2回目。貴方が初めてあの方と邂逅した日に”死に戻り”の権能を授かったはずよ?」


「あぁそれは、初回特典サービスだったらしい」

 

「初回‥‥どういうこと?」

 

 ルナに背を向けていた俺は、笑みを溢しながら再び彼女に振り返った。

 

「俺はあの日。ビルから飛び降りて自分の命を投げ捨てたあの日。死神と出会った」


————憎き相手に仕返しがしたいか?ならば力を与えてやる。


 今でもあいつの台詞を鮮明に覚えている。


「なんとも無様な顔をしていたと聞いたわ」


「‥‥否定はしねぇよ。その通りだったと思うし」


 彼女を、妹を、母親を目の前で犯された俺にはもう人としていられる心がその時既に失われていた。


「貴方は自身が死んだ事実を取り消して再び世界に死に戻り、そして安藤武光なる彼女を奪った男に復讐を果たした。それで終わりじゃない?ハッピーエンドを迎えた貴方がどうしてまた死に戻りの力を使ったの?彼女と付き合う一年前のこの世界に」


 


——————————————————————


随分長くなりましたが、次回で「幼馴染編」完結です。

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