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攻略レベル35「欲の魔女」Vl

体育館一帯を飲み込むように深淵の闇が欲の魔女を中心にして広がっていく。


「私が貴方より弱いって勘違いされるのもなんだか癪だからぁ〜圧勝させてもらうわね」


 小さく一歩を踏み出すと、地鳴らしのような轟音を立てながら風圧を生み出した。

 京太は防ぐまもなく体を後方に飛ばされると、勢いよく壁に背中を打ちつけられる。


「踏み込みだけで風圧起こすとか‥‥バグってんな」


 実際今の俺にこれだけの火力を出すことはできない。だからこそ痛感させられる力の差、戦闘はいつもウサギ任せにしていたのがここに来て裏目にでやがった。


「だいじょーぶ〜?キツイの〜?一撃で仕留めないように急所は外したつもりよ?」


「安心しろよ。急所どころか対したダメージも入ってねぇからよぉ——————ッ!」


 震えた膝を押さえながら立ち上がると、戦闘が始まってから微動だにしていない楓に鋭い眼光を向ける。


「行くぞ‥‥ッ!」


 左手にありったけの闇の力を纏うと、眼前目掛けて払い上げた。本来闇の力は人間が持つ筋力や身体能力を跳ね上げさせるドーピングのようなもの。

 今の俺だって手を払うだけで軽トラックを吹き飛ばすくらいの風圧を起こす力は持っている。それをあの華奢な女が一身に食らえば死にはしないだろうが確実に怯むはず。

 その瞬間、少ないが残りの闇の力をぶっぱして奴に近づき1発の拳を顔面にお見舞いしてやる!


 目にも止まらない速度で風の壁が楓に迫る。一方彼女は俄然態度を変えず妖艶な笑みを浮かべたままま動かない。

 攻撃を阻止しようと闇の力を行使する予感も、避けようと駆け出す感じもない。


「つまらない攻撃ね〜それが死神の力だとしたら興味欲減退もいいところかしら〜」


 一息。ため息に近い省略の息を吹きかけると放たれた風圧は進行方向を捻じ曲げられた。


「な、なんだよ‥‥それ」


「安心なさい、そう絶望欲を掻き立てなくても大丈夫よ。貴方と私は持つ闇の力の保有量は同じでも、戦闘における経験値が違うだけなんだから」


 何が安心しろ、だ。絶望するには十分な理由だろうが。

 経験値?それだけでここまで力の差が生まれるのか?

 違う、今はそれを考えてる暇じゃない。どうにかしてこの状況を打破する策を考えねぇと!


「—————死に戻りしてちょーだい」


「は?」


「なんか興が削がれたというかぁ〜今は貴方をボコボコにしたところで私の満足欲は満たされないなぁ〜って思って。だからさっさと死に戻りしなさい、次の私が必ず貴方を搾取するから」

 

 楓はその場に座り込むと、ビリビリと肌に感じていたプレッシャーが解かれるのを感じる。


「戦うのも飽きてきたし。さっさと自殺してくれないかしら?嫌なら私が介錯を渡してあげるけど」


 もはやこの場の主導権は彼女は握られている。生かすも殺すも楓の思うがまま。今の自分が出せる闇の力を行使しても彼女の前では無惨にも消滅した。

 

 だからこそ、胸の底から湧き上がる感情。


 ——————恐怖


 膝から崩れ落ちると、なすすべなく俺はその場に項垂れた。


「動かないってことは‥‥もしかして戦意欲喪失した感じ?な〜ら〜今ここで奪っちゃおうかしら」


 闇の力‥‥結局それが通用しなかったら俺は俺だったんだ。それを剥ぎ取られたら何もない無個性の自分。


 それが、桐谷京太という人間だったんだ。


 

 失って初めて気づくかけがえのない存在。


 今に思えば、奇跡だったのかもしれない。こんなを俺を見つけてくれた彼女。


 暗闇の中にいた俺に、一筋の光を与えてくれた彼女。


 望月詩織との出会いは俺の運命を変えてくれた。


 

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