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攻略レベル35「欲の魔女」V

「さーて、これからどうするか。相手の正体と対策らしいものはある程度分かったものの、根本的な解決策が見つかってないんだよなぁ」


 古い木の扉を開けて、和式便所から出ると目的地であるパーティ会場に向かって緊張の一足一足を踏み出した。

 

「ここに欲の魔女がいるかもしれない。いや、この際いると思った方がいいな。相手に先制される前にさっさと見つけて終わりにしよう」


 高鳴る鼓動を胸に抑え、湧き上がる恐怖の感情を噛み殺しながらいざ!決戦の舞台へと通じる扉に手を掛けた。


「は?」


 闇の世界に行っている間は現実世界の時間は停止するため打ち上げがお開きになり、俺1人残されるといったことはあり得ない。

 だからこその異常事態。長い机に並べられたご馳走や荘厳に飾り付けられた主役の椅子、陽気に流れれるジャズ系のBGMだけを残して体育館は静まり返っていた。


「なにが、起こってるんだ?」


 額に汗を浮かべながらステージまで歩み寄るも、至って何か特別変わってるものはなく、嫌な予感だけが胸中で膨張していくばかりだった。


「は、はは。これは‥‥帰った方がいいな。うん。てか人がいないんじゃそもそも魔女だって探しようがないし、死に戻るきっかけさえ生まれなきゃそもそも攻略なんかしなくてもいいもんな!」


 主役席に背を向け、さっさと自宅に帰ってしまおうと早歩きで昇降口に向かった。と、その時。


「あらあらあらあらあら?こぉーんなに美味しそうなご馳走があるのにもう帰っちゃうなんて、食欲も独占欲も乏しい存在なのね〜貴方」


 一瞬にして全身に鳥肌を逆立てると、嫌な寒気が背筋を走る。

 今までに感じたことのないゾッとする気配、ひしひしと伝わる鋭い視線。あらゆる要因が後ろを振りむこうにも阻止されてできなかった。


「別にこちらを振り向かなくてもいいわ〜恐怖欲でそれどころじゃだろうし」


「‥‥‥あんたは?」


「あれあれ?私のこと知らない?表向きじゃ結構有名だと思うんだけどなぁ〜」


 昼食時のアナウンスや頻繁に配られる生徒会プリントにてよく載っている存在。それは親しくなくとも学校に通う生徒ならば誰しもが周知していると言っても過言ではない。


「生徒会長。確か名前は————花丘楓」


「はぁーい!はじめまして桐谷京太君。私の名前を知ってるようでよかったぁ〜いちいち自己紹介するのも横柄欲を刺激するからしたくないのよね〜」


「前から思ってたけど独特な喋り方っすね会長。もしかしなくてもあんたって‥‥魔女っすよね?」


 こんな不可解な状況に1人現れる。そんなシチュエーションにおいて確かめるのもわざとらしいと思ったが、ここはアイツから名乗り出るのを待つとしよう。


「ん〜?どうしてそれを知ってるのかな〜?かなかな〜?あー!もしかして!ルナちゃんから聞いたのかな?かな?ならもう隠す必要ないかもね」


 そう言って妖艶な笑みを浮かべながら指を鳴らして見せると、体内から溢れん魔力を放出した。


「ごめんね〜京太ちゃん。私は私の目的のために今から貴方のその力を頂いちゃうけど〜いいかしら?」


「そこまで俺の力を求める理由はなんですか?もうその力が有れば十分だと思うんですけど」


 実際奴に及ばない力を持つ俺でも十分この世界では好き勝手できる。これ以上力を望んだとしてこの世界でなにができるのか。疑問を持ってしまうほどに。


 答えを待つ俺を見下げるなり、彼女は笑って言葉を返した。


「人って欲求の権化なの。一度欲しいものが手に入ってもそれだけじゃ満足しないの。次に、次にと無尽蔵に欲は湧き続けるの。私もそう。この力を手に入れて一番最初に欲しかったものを手にした時、確かに私の欲は満たされた。けどそれはほんの一瞬。さらなる欲しいものができた時には満たされたものなんて綺麗さっぱり消えていたの」


 あからさまに悲しみの表情を浮かべるも、一喜一憂が如く今度は口角を吊り上げ、甲高い声を館中に響かせた。


「永遠に私の欲を満たしてくれる。そんなものがあるとしたら、貴方の持つ死神の力しかあり得ない。だーかーら。”死に戻り”の権能、ちょーだい?」

 

 死に戻り。その言葉を彼女が放った瞬間、体が跳ね上がる。

 ルナの言っていた通りこの力を知っているからこそコイツは俺に近づいた。それが京太の中で確信になった。


「天国に行くくらい気持ちよーくさせてあげるからそこでお寝んねしてくれない?って言っても従ってくれないわよね?」


「当たり前だろ。俺だってお前の言う欲ってわけじゃないが、死んでも叶えなきゃいけない野望ってのがある。それにお前みたいな尻軽女に抱かれるなんてクソごめんだ」


 舌を出して小馬鹿にすると、楓は額に青筋を浮かべて拳を握りしめた。尖った爪が手のひらに食い込むほどに。


「そぉーお?じゃあーもぉいいわ。勝手になさい」


 椅子より立ち上がり、軽い体を跳ねさせてステージより飛び降りると異様なオーラが漂い始める。

 まるで森の中で蛇を見つけたような、家でムカデを見つけたような。ゾッとする感覚が京太の脳裏を掠めた。


「わたしー、か弱い女の子に見えるけどー?貴方くらい捻り潰せるの暴力欲は兼ね備えてるんだぞ?」


 戦うつもりか?まぁ権能を行使されるよりはグンと勝率が増す分歓迎するが‥‥嫌に胸騒ぎがする。

 手加減はしない方がいいか。


「ま、最初からするつもりはねぇけどさ」


 コイツが俺を食おうってなら俺もコイツの力を手に入れればいい。

 彼女を寝取られ、この世に蔓延る男共を手早く殺すためにも。その欲の権能。


 ここで奪ってしまおう。


 全ては、俺の目的のために。



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