攻略レベル35「欲の魔女」lV
「欲の魔女?」
「悪魔と契約し、貴方のように闇の力を行使できる人間のことよ」
「それが今回の一件とどんな繋がりがあるんだ?」
「あの方の力を司った貴方が、そう何度も死に戻る原因を産み出している存在が現実世界にいるのだとしたら。それが1番可能性が高い————私が勝手に関連付けてるだけよ」
「そうか‥‥いや、でも可能性があるってなら助かる。憶測でもなんでもいい、今は藁にも縋りたい状況だからな」
実際ここでルナが提言してくれなければ、俺は再び何のヒントもなしに現実世界に戻ることになる。
そうなれば天才的なひらめきが頭に降りてこない限り、永遠と死に戻りの力を行使することになるだろう。
「教えてくれ、その欲の魔女って存在を」
真っ直ぐ視線をルナに向けると、それに応えるように彼女は話を始めてくれた。
「欲の魔女というのは人間のあらゆる欲を支配することができる者のことよ。食欲、性欲そして睡眠欲のみに関わらずね。彼女自身が欲に飢えているからこそ顕現した権能なのかも知れないけど」
「彼女‥‥ってことは女で間違いないんだな。魔女って言うくらいだし」
「えぇ、もし貴方が欲の魔女に殺されたのだとしたら。死ぬ寸前に自身の欲を支配された可能性が高いわ」
「欲が支配されたらどうなるんだ?」
単純に疑問に思った質問をルナにぶつける。間接的だとしても、直接欲を操られたくらいで人間死ぬとは思わないからだ。
「欲は感情に、そして感情は行動に直結するわ。もし彼女が睡眠欲を操り、貴方を熟睡させたのだとしたら、鈍器なり刃物なりで容易く殺せるもの」
そうなったら抵抗もできず、なす術なく殺されるってわけか。
「ただその可能性はない。と思うわ」
前言撤回すると、彼女は指を顎にあえて少し考える。
「ん?というと?」
「もし彼女が貴方を狙っているのだとしたら。正攻法な殺人をしないはずよ。あの子が、欲の魔女が欲しているのは貴方のその力。死神様から直接注ぎ込まれた闇の力にあるわ」
「さっきも言ってたが、どうやって俺からその闇の力を奪えるんだ?そんな装置やらなんやらでもあるのか?」
首を横に2度振ると、ルナは俺の質問を否定した。
「権能の簒奪なんて簡単よ。性行為をすればいいだけだもの」
「‥‥‥‥パードゥン?」
性行為?せ、セックスのことだよな?聞き間違いでもなく子作りのことだよな?
どういう因果関係だよ‥‥‥
「闇の世界に携わっているものが権能を継承するには性行為が1番簡単な方法よ。死神様は貴方にホイホイと簡単に権能を与えているけど、実際には死と隣り合わせな行為なのよ?イカされた者は空に、全てを対象の相手に奪われるのだから」
「へ?じゃあ俺以外の悪魔と契約した人間達はその悪魔と性行為して権能を手に入れてるってことか?嘘だろ‥‥そんな貞操観念が浅い連中が集まってる集団なのかよ」
「悪魔は人間の中にいる存在よ、だからその行為は必要ないわ。問題は外部にいる悪魔と契約した人間から権能を奪う、もしくは継承する時に必要なものよ。例えば欲の魔女が貴方の力を奪うみたいなケースね」
「えーと、つまり‥‥魔女さんは俺の力を奪うために性行為をしようとしてるってこと?え?てことは俺、毎回ヤってる途中で死んでるってこと?」
見知らぬ女に抱かられながら死ぬとか意味わからなすぎて笑えてくるわ。
「それも違うと思うわ。最後まで彼女と貴方が行為を全うしていたとしたら、そもそも貴方は死に戻りの権能すら行使できないもの」
「ははは、もしかして死に戻りも奪われちゃう感じですか?」
「そうなったら権能なんて行使できないでしょ?つまり貴方は奪われる直前で自害したんじゃないの?惨たらしくおめおめとね」
またこの子は辛口言葉を‥‥‥
しかしその場で自害っつったら舌噛みか?だとしてもよくできたな。あれ相当痛いっていうのに。
「まぁ十中八九発情させられた欲は性欲ね。そうなったら体全体に高熱が帯び始め、意識が朦朧とし、冷静な思考を保つことができないもの。そうなったらなす術なく男の貴方でも彼女に犯されるという状況になってもおかしくないと思うわ」
「なるほどな。けどそれが理由だとしてどうすればいい?欲を抑えるって言ったって魔女の名を冠するくらいなんだからそう簡単に対抗できるわけないだろ?」
実際闇の力の差でも相手の方が何枚も上手な可能性が出てくるしな。
「対抗手段はただ一つ。彼女の言葉に同意しないことよ」
「同意?例えば?」
「例えばそうね。彼女が貴方に好意を仄めかす言葉を言ってきたとする、そうしたら貴方は心を動じず冷静にいることが条件よ。少しでも動揺したり、照れたりした地点で彼女の権能に侵されるわ」
んな無茶な‥‥超絶美人美少女だったらどうすんだよ。男である以上動じないってことはまず無理だって。
「まぁでも‥‥唯一だってなら頑張るしかないのか。あークソ。なんで初っ端からこんな初見殺しに遭遇すっかなぁ‥‥」
「まぁ精々頑張りなさい。応援してる」
「‥‥へ?今‥‥なんて?」
「何も言っていないわ、早く現実に帰りなさい。彼女に一泡吹かせることが今の貴方がすることでしょ?」
「え!?いや、ちょ——————」
眩い真っ白な光に包み込まれると、ルナの姿が見えなくなると同時に闇の世界から現実世界へと帰還した。