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攻略レベル35「欲の魔女」II

「————勧誘するなら今しかない。そうですね!?」


「——————は?」


 なんだ?何が起きてる?ここは‥‥間違いない表彰台だ。


 俺は確か昼寝した拍子にマラソン大会を優勝しちまって、それでここに—————


 違和感、が京太の脳裏を掠める。もはや目の前に広がるこの光景を俗に言う既視感デジャブなどでは片付けられなかった。


 ————何かが、おかしい。


 具体生の欠片もない根拠だが、それでも俺の心が激しく揺さぶられているのには理由がある。


——記憶だ。俺はこの生徒会役員のインタビューも、鋭く光る体育会系部員どもの目も一度味わっている‥‥‥はずだ。


「あ、あの桐谷君?大丈夫ですか?」


「え、あ、はい。すみません大丈夫です。それでえーーと。なんでしたっけ?」






 そして迎えた学校主催マラソン大会打ち上げ。場所は体育館で用意された長机には沢山のパーティ料理が並べられていた。


 俺は木原に連れられそのまま打ち上げ会に参加した。流石に優勝者が参加しないわけにはいかないらしく、半強制的に参加しているのだ。


「はぁー!すげぇなこんなたくさんの料理並べられてんの俺見たことないわ!お偉いさんのパーティとかでありそうだよな!」


「あーうん」


「うちの学校って可愛い子多いよな。生徒会役員なんか特にさ」


「あーうん」


「おい聞いてんのか?京太!ずっと空返事で、生きてんのか?」


 自分の世界に入り込んでいたからか木原に声をかけられ、思わず勢いよく振り向いてしまった。


「な、なんだよ。びっくりしたなぁ」


「折角の打ち上げだぜ?ぼーっとしてるといい女の子と出会えないぜ!?」


「お前は合コンにでも来てるのか?」


 すごく腑に落ちないが気のせいか。コイツとこんな会話をした記憶はないし、この豪華絢爛な会場も一回見れば忘れるはずがない。


 一瞬肝を冷やしたけど流石にありえないよな。


「桐谷京太さん」


 すると背後から鈴の声質を持った女子が俺の肩を突くと同時に声をかけた。


「友人との談笑中申し訳ありません。今回のマラソン大会優勝者である桐谷さんにはあちらの席にて打ち上げを楽しんでもらいたいため、移動をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 少女が示す視線の先、そこには一変なんの変哲もない学習用椅子をキラキラと光る装飾が施された、大袈裟に言うと玉座が体育館ステージ上にあった。


「へ?あそこに?」


 パリピ日本代表の木原も流石に、と思ったのか頬が引きっている。


「さぁどうぞ」


 背中を押されるがまま誘導されると、専用の食事や飲み物が用意された、まさにいたせりつくせりの

席に腰を下ろした。


「あのー‥‥流石にちょっと恥ずかしいんですけど」


「そんなことないですよ?それに今日の主役なんですから、これくらい目立ってくれなくては」


 たかが体力比べで、しかもマラソンでここまで崇め奉られることがこの学校以外に存在するのだろうか?


 こんなの幼稚園の時のお誕生日会以来だ。


「それでは私はこれで。何かありましたら我々生徒会役員をお呼びくだされば大丈夫ですので」


 そう言うと彼女はこの別世界の空間から俺1人残して去っていった。

 

「それにしても視線が棘みたいに刺さるな。どうしてこんな罰ゲームを受けなくちゃいけないんだ。もういっそ黙って帰ったらダメか?」


「こんにちは桐谷君」


「ん?」

 

 タンタンと音を立て、ステージに上がる階段を登ってくると見知った女子生徒が現れた。


「こうしてお話しするのは初めてですよね?私は2年A組の金川愛莉。生徒会の書記を務めさせてもらってます」


「あ、初めまして。2年B組の桐谷京太です。こちらこそよろしくお願いします」


 端的に、そして自己紹介も含めて省略した挨拶を済ませると、俺はそそくさと彼女との会話を済ました。


 こんな学校に名が知れ渡ったネームドキャラと話していては目立つというもの。


 まぁもう既に目立ってるから変わりはないと思うが。


 暫くして彼女は下段にいる生徒会役員に呼ばれると自身の仕事を全うしに向かった。


「どーしよ。マジで帰りたい。さっきからニヤニヤとこちらに向けてくる視線が痛い」


 帰らない。帰らないけどトイレに行かせて欲しい。もちろん決して?うん。帰りはしない。ただちょーっとトイレに行きたいだけなんだ。


 自室の温もりに思いを馳せながら、俺は荘厳な椅子より腰を上げる。一つ一つの行動に生徒全員の視線が集まるからそのたびに顔が赤面する。 


 一歩一歩注目を浴びながら俺は下段に降りる階段へと足を進めた。


「あれあれあれ〜?どこに行かれるんです?」


 うわっ、何この金髪美女。てか胸でかいな。


「いやあの〜少しお手洗いに」


「あらそうですか。ならよかったです。てっきりお帰りになられるかと思いましたから」


「あははは、そんなわけないじゃないですか〜少しお腹の調子が悪いだけですよ〜」


 核心を突かれ、俺はゆっくりと彼女の表情を伺いながら真っ直ぐ階段を降りていく。


「それよりも見事でした。まさかあんなに早いとは思いませんでした桐谷京太君—————貴方のこと好きになっちゃいそう」


 何故だろう—————彼女の言葉一つ一つに心がざわざわする。言い方を変えると、ムラムラしてくる。


 というか。


 今すぐ彼女を犯したい。


「—————ッ!?」


 その場に踏みとどまると、とてつもない衝動が京太の足を踏み留めていた。


 なんだ、これ‥‥!体が熱い—————!?


 無限に溢れ出てくる性欲が、彼の理性をみだし始める。


「どうしましたか?京太君?」


 ドクンッ


 名前を呼ばれるたびに心臓が跳ね上がる。そのあとに来るジンワリと生暖かい感覚。


 まるで詩織に。あの初恋をした時の抑揚に似たそれだ。


 ついにその場に膝を着くと、収まらない脈動を直に感じながら頭を抑えていた。


 自慰行為だ‥‥それさえすれば確実に収まる‥‥はず。


「はやく‥‥トイレに」

 

 這いつくばうように目的地へと向かう京太。そんな彼に何か柔らかいものが覆いかぶさった。


「ほんとうは、何をしにいかれるんですか?」


 どたぷん。とプリンのように柔らかくて、それでいて気持ちいい丸みを帯びた物体が背中に押しつけられる。


「お腹の調子が‥‥と言っていましたけど。ほんとうは《《ここ》》の調子が盛んになったからではないのですか?」


 雄を刺激する雌香が鼻腔を突き抜けて脳へ。表情筋は解され、思考が停止する京太の股間部にシミひとつない細く純白な手が伸ばされ、布越しに男性器を優しく撫でた。


「トイレなんて行かなくても。今すぐ、私がここで処理してあげてもいいんですよ?ハデスさん?」


 ————ハデス。不意に放たれた言葉は朦朧としていた京太の意識を一瞬であるが覚醒させた。


 なぜ?どうして?そんな思考が頭に過ぎると、そんな考えは雑念と跳ね除けられてしまうほどの快感に襲われた。


 地面に伏せていた体を気づかぬうちに起こされ、彼女の性器と京太の性器が擦り合うそんな体制になっていたからだ。


「騎乗位はお好きかしら。そのまま素股、してあげる」


 左へ、右へ、彼女は下半身を動かすと股関に刺激を与える。


 そして——————


「れろ……んちゅ。ちゅっ、ちゅる、ちゅう。ん、れろ」


 彼女はそのまま体を前に倒すと、ピンク色の妖艶な唇を京太の唇に重ね合わせ、そのまま舌を溶け込ませる。


 粘膜同士の擦れ合い。唾液が染み込んだ舌肉に愛撫をされると、ぞわぞわとした電流が皮膚の表面に伝播していく。

 

「すごい‥‥貴方の中に秘められた魔力が舌越しに伝わるわ。やっぱあの骨と契約しただけあっていいもの持ってるわね。私の所有欲が疼くわぁ〜。貴方をわたしのモノにしたい支配欲も一緒に、ね?」


 これは、不味い。絶対に‥‥


「今から貴方はわたしとひとつになる。その前にお願いがあるんだけどぉ〜」


 こんな、こんなところで俺の夢は、願望は。


「ヤってる時にさ、すぐイッてくれない?まぁ性欲MAXの今の貴方なら言わなくてもそうなるだろうけど、万が一も考えてね?」


 どうにか、どうにかして死なないと。何もかもが奪われる。


「そうね。30秒くらいでイッてくれたら〜、貴方をわたしの犬にしてあげる。わたしが貴方を飼うの、勿論首輪を付けてね?朝は生徒会の仕事があるから構ってあげられないけどー、お昼は一緒にお弁当を食べるの。私が作ったのを特別にあげるわ。喉が渇いたら私の唾液を飲ましてあげる。私のは特別製だから甘くて美味しいはずよ。夜は思う存分貴方の性欲を満たしてあげる。何十回でもヤッて、最後はお互いに繋がった状態で眠りに落ちるの。眠った状態でも射精って起きるらしいから朝にはきっと私の子宮はドロドロになってるわね」


 魅惑的な言葉の応酬。もはや性器の快感のままに動く獣と化してしまった京太に冷静な思考ができない。


 だが彼女による誘惑が行われる前に、京太は奥の手を行使することを決意していた。


 口の中に広がる鉄の味。大量に舌から噴き出る血を喉に流しながら、少しずつ狭まる器官が喉元に蓋をする。


 死因は窒息死。


たった今桐谷京太は、”死に戻り”の権能を行使したのだ。

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