ありきたりな勇者伝説。3
ヘクターがデスへ呼び掛ける
「デス!」
デスが答える
「間に合う」
レーミヤが膝を折り ザッツロードが俯く 次の瞬間 プログラマーのデスの横に置かれていた宝玉の周囲に数字の羅列が纏わり宝玉が強く光る レーミヤとザッツロードが開放され 2人が地面に膝を着く ヴェルアロンスライツァーとロキが向かう 息を切らせるザッツロードの横に立つヴェルアロンスライツァー ザッツロードがヴェルアロンスライツァーを見上げて言う
「…はぁ…はぁ 聞こえて …はぁ …いたよ」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「そうか、行けそうか?」
ロキが続ける
「…行かぬ訳には」
ロキの言葉に ザッツロードが頷き整わない息のまま言う
「はぁ…はぁ… 急が ないと…」
ザッツロードが立ち上がり 隣でレーミヤも立ち上がり言う
「ザッツ、力を貸して頂戴… 私1人では 皆を連れて飛べないわ」
レーミヤの言葉にザッツロードが頷く 2人が移動魔法の詠唱を始める ヴェルアロンスライツァーとロキを含め 4人の周囲に移動魔法の魔力が纏わり付く ザッツロードの頭に声が響く
『逃が さない…』
遅れてウィザードが叫ぶ
「別の悪魔力が!?…逃げろっ!!」
ヘクターがプログラマーを抱えて走り出す ヴェルアロンスライツァーが地に倒れているラーニャを担ぎ ロキがミラを担ぎ 皆が一斉に逃げ出す後方で爆発が起きる 相棒を抱えている者は相棒を庇いながら地面に身を打ち付ける 遅れて走っていたザッツロードとレーミヤが吹き飛ばされ地面に滑り込む 再び後方から悪魔力の攻撃が襲い掛かる ウィザードがバリアを張り その攻撃から皆を守る レーミヤが言う
「移動魔法が出来ないっ 強い悪魔力が移動魔法を 遮断してしまうんだわ!」
ザッツロードも移動魔法の詠唱を試すが 聖魔力が薄れる ヘクターが声を荒げる
「クソッ!どうしたら!?」
ヘクターの後ろで ウィザードが言う
「あれが別の悪魔力の正体か!?」
その声に 皆がウィザードの視線を追う ザッツロードが言う
「さっきのドラゴン!?」
ヘクターが顔を顰めて言う
「あの野郎!生きてやがったか!!」
ヘクターが剣を構え ヴェルアロンスライツァー、ロキが続く 意識を失っていたラーニャとミラが目を覚まし辺りを見渡しラーニャが叫ぶ
「ちょ、ちょっと!なにっ!?どうなってるの!?」
ミラが言う
「…まるで地獄絵図ね」
周囲を燃やす炎を見て悲鳴を上げるラーニャ ミラも言うと共に言葉を失う 彼女達の声を聞きヴェルアロンスライツァーが言う
「移動魔法も使えず、宝玉の聖魔力も悪魔力を抑える事に使われ 我らの力には出来ない」
ロキが言う
「…そして、その宝玉の聖魔力も残り僅か 正に万事休すだ」
ロキの言葉にラーニャが呆れて言う
「もお~!最悪じゃなーい!?」
ラーニャの普段の物言いに ヴェルアロンスライツァーとロキが笑って ヴェルアロンスライツァーが言う
「その声を聞けて良かった」
ラーニャが疑問する
「え?」
ロキが言う
「…悪い気分のままで居るよりは… うるさいぐらいの方がましだな」
ラーニャが怒って言う
「うるさいって何よぉ!?」
再び笑うヴェルアロンスライツァーとロキ 武器を構え直してヴェルアロンスライツァーが言う
「期待はしないが、何か良い策を思い付いてくれる事を 期待する」
ロキが言う
「…それを矛盾と言う」
2人が軽く笑ってから ドラゴンへ向かって駆け出して行く ヘクターがザッツロードを振り返り苦笑と共に言う
「ま、何とかしてくれよな?」
ラーニャが怒って言う
「ちょっと!なんで こんな時に3人とも笑ってるのぉ!?」
ミラが呆れて言う
「あなたがTPOをわきまえないからよ」
ラーニャがミラへ向いて怒る
「はぁ!?私が一番焦ってるじゃない!?この状況に、一番 !合ってるでしょ?!」
レーミヤが苦笑する ザッツロードが呆気に取られ笑う 笑いながらザッツロードがふと思い付く
「…あ、そうだ…?」
ザッツロードが通信機を取り出す それを見たラーニャが言う
「ザッツ?…通信機って!?何考えてるの!?ここからじゃソルベキア所か一番近いデネシアにだって届かないわよ!」
ザッツロードが言う
「うん、大陸には届かないけど… この島は 元々”彼ら”が見つけたと言っていた まさか魔王の島だとは思ってもいなかったって?…だったら その”彼ら”は もしかしたら?」
通信機の作り出す映像に 1人の人物 カイザが映る
『よぉ~ 勇者様~ 生きてたかー!』
ラーニャとミラが声を合わせる
「「カイザ!!」」
ザッツロードが通信機に向かって言う
「カイザ!君が居てくれて助かったよ!」
カイザがニヤリと笑って言う
『そうだろ~?まぁ、このイカレタ海上を行けるのは この海賊カイザ様以外 だ・れ・も 居ないだろーなーぁ?あーははははは!』
通信機の中で大笑いするカイザ ザッツロードも微笑みながら言う
「カイザ!その『海賊カイザ様』に頼みがあるんだ!今すぐ結界の洞窟へ 僕達を助けに来て欲しい!」
ザッツロードに続き ラーニャとミラが続けて通信機に頼み込む
「お願い!」「あなただけが頼りよ!」
カイザが通信機を覗き込み ニヤリと笑って言う
『だはあーははははっ 良いね~ 勇者様と仲間の可愛い子ちゃんに 「お願い!あなただけが頼りよ!」だってよー!』
遠ざかったカイザの映像にザッツロードが詰め寄る
「カイザ!来てくれるのかい!?」
カイザは再び通信機へ視線を戻し言う
『う~ん…実は今~ お前達のひじょーに近くに居る』
ラーニャとミラが目を輝かせてカイザの名を呼ぶ
「「カイザァ!!」」
カイザが腕組みをして悩む姿で言う
『でもなぁ?その辺すげー時化ってんだよなぁ… 危ないから止めちゃおっかな~?』
ラーニャが怒って言う
「え!?」
続いてミラも怒って言う
「ちょっと!?」
カイザがニヤリと笑んで言う
『1人たりねぇ~だろ?ほらっ!…お前たちの中に居る 一番の美人さんがよ?』
全員の視線がレーミヤへ注がれる
「え?わ、私?」
驚いて自分を指差すレーミヤにラーニャとミラが言う
「レーミヤ!今は緊急事態だから!一生に一度の不幸だと思って!」
「レーミヤ、今は我慢よ 世界を救う為に 小汚い海賊相手でも笑顔で!」
通信機からカイザの声が聞こえる
『おーい ちょっとぉ… 聞こえてるぞー?』
ラーニャとミラに文字通り後押しされ レーミヤが通信機の前に立つ 通信の映像の中のカイザが画面に近づく レーミヤが恥ずかしそうに言う
「え…えっと お願いします」
カイザが表情を落として言う
『…堅ぇ…もっと カワユく!』
レーミヤが言う
「え!?…え?」
レーミヤがラーニャとミラへ視線で助けを求める 二人が身振り手振りでアドバイスを送る レーミヤが顔を赤らめ両手を頬に当てながら画面を再び見て 意を決して言う
「お…お願いっカイザ…!」
カイザが画面に近づき ニヤケて言う
『おおおーーー!!!』
レーミヤが恥ずかしさの余りうずくまって言う
「いやぁっ!」
ザッツロードが画面に戻って言おうとする
「カイザ!」
しかし画面がチラ付き音声が途絶え映像が不鮮明になる その不鮮明な画面の中でカイザが誰かに殴られている ザッツロードが必死に声を掛けるが
「カイザ!?カイザ!聞こえるかい!?」
音声は消えたままで不鮮明な画面の中でカイザが頭を擦っている 振り返ったカイザが通信機に近づこうとした所で通信が途絶える
「カイザ!!」
ザッツロードが叫ぶが通信機はもう映像を映さない ザッツロードが仲間を振り返りながら言う
「来て…くれるよね?」
仲間を振り返ったザッツロード その場所では レーミヤが恥ずかしがり ラーニャがニヤけ ミラが呆れている
ヘクター、ヴェルアロンスライツァー、ロキが剣を構える中へ ザッツロードが剣を手に加わる ヘクターがザッツロードへ視線を向け言う
「よう!なんか良い案は出たか?」
視線をドラゴンへ向けザッツロードが言う
「カイザが!…たぶん 助けに来てくれる」
ヘクターが衝撃を受け思わず剣を下ろし ザッツロードへ向いて問う
「あぁ?なんだよ その『たぶん』って!?」
ザッツロードが苦笑しながら言う
「いやぁ… 最後の確認が出来ないまま通信が途絶えてしまって… でも、効力はあったと思うから」
ヘクターが疑問して言う
「『効力』ぅ?」
ザッツロードの苦笑が引きつる ヴェルアロンスライツァーが話を聞いて視線を変えず言う
「カイザ?あの海賊が 我らを助けに参ると?」
ザッツロードが視線を変えず答える
「うん、海賊は海を知り尽くしているって言うから 何とか来てくれると思う」
ザッツロードの答えに ロキが問う
「…とは言え奴ら海賊は 自分らの身の安全を 第一に考えるとも言っていたが?」
ザッツロードの脳裏にレーミヤとカイザの通信時の映像が流れる 再び顔を引きつらせて言う
「た、たぶん 大丈夫だと思う…よ?は、はは…」
沈黙が流れる ヘクターが剣を構え直して言う
「まぁしょうがねぇ!今はそのカイザって奴を当てにして 踏ん張るぜ!」
皆が頷く
ロキが銃を放ち ヴェルアロンスライツァーがその助力を使い斬り付ける ヘクターが攻撃するとその後へザッツロードが剣を突き刺す 4人の攻撃を受けてもドラゴンは悲鳴を上げる事も無く襲い掛かる ヘクターが言う
「なんだよコイツ!さっきよりパワーアップしてんのか!?」
ヴェルアロンスライツァーがドラゴンへ視線を向けたまま言う
「パワーが上がっていると言うより こちらの攻撃に反応が無い」
ロキが続いて言う
「…まるで痛みを感じていない様だ」
ザッツロードが目を細めて言う
「あのドラゴン… 生命力が感じられない?…悪魔力に操られているだけなのかもしれない!」
ヘクターが言う
「なんてこった!それじゃ屍相手かよ!?」
ドラゴンが皆へ尾を払う 全員が回避する ドラゴンが続けて口を開け炎を吐き出す ウィザードがバリアで防ぐ ドラゴンがウィザードへ目標を定め襲い掛かる ウィザードが対物バリアを張って防ぐ ドラゴンが対物バリアごとウィザードへの攻撃を続ける ウィザードが表情を歪ませ言う
「…クッ!」
ウィザードがバリアを解除し上空へ回避する ドラゴンがウィザードを捕まえようと手を伸ばす それをかわすウィザード 続いて襲い掛かってきたドラゴンの炎をバリアで防いだ所へドラゴンの尾が降りかかる ウィザードがハッとする ヘクターが声を上げる
「デスッ!」
ヘクターが声を上げるのと同時にウィザードがドラゴンの尾に弾かれ 地面に叩き付けられる ヘクターが驚き叫ぶ
「デスー!!」
ヘクターがウィザードの下へ駆け付ける ヘクターを目掛けドラゴンの攻撃が降りかかる ヴェルアロンスライツァーとロキが攻撃を仕掛けドラゴンの注意を逸らす ヘクターがウィザードを抱え呼びかける
「デス!!おいっ!大丈夫か!?デス!デス!!」
ヘクターがウィザードを抱き起こす ヘクターに遅れ来たザッツロードが回復魔法を使う そこへラーニャとミラが走って来て ラーニャが叫ぶ
「ヘクター!みんなー!」
ミラが続けて言う
「カイザが来たわ!!みんな!急いで!!」
ラーニャとミラが叫ぶ ヴェルアロンスライツァーとロキが振り返り 互いに頷き ドラゴンの攻撃を払い除けて退避する ザッツロードがヘクターへ言う
「ヘクター!船へ!」
ヘクターが意識の無いウィザードを担ぎ上げ 悔しそうに言う
「クソッ!逃げるっきゃねーのかよ!!」
ウィザードを担いだヘクターとザッツロードが走る ヘクターが走りながらプログラマーを呼ぶ
「おいデス!逃げるぞ!もう良い!走れー!!」
プログラマーが入力作業を止め ヘクターに続き走る
全員が浜辺へ辿り着く カイザの海賊船がすぐ近くまで来ている ザッツロードとヴェルアロンスライツァー、ロキ、ヘクターが後ろを振り返る プログラマーがプログラム作成を再開させる しかし宝玉の光りが弱まる プログラマーが言う
「聖魔力が …尽きた」
宝玉の光りが完全に消える ドラゴンと共に悪魔力の霧がザッツロードたちの前に広がる 船の方を向いていたラーニャがその黒い影に気付いて振り返り悲鳴を上げる
「きゃぁああ!」
ミラが言う
「間に合わないわ」
皆がドラゴンを見上げる ウィザードを担いだままヘクターが言う
「ちくしょうっ!もう少しだってのに!!」
ヘクターがザッツロードへウィザードを押し付けながら言う
「ザッツ!俺が奴を引き付ける!その間にコイツを連れて逃げてくれ!」
ザッツロードが驚いて顔を横に振る
「そんな事は出来ないよ!残るなら 僕が!」
ヘクターが強く言う
「お前じゃ力不足だろ!!」
ザッツロードが一瞬返す言葉を失うが言う
「うっ…け、けど!!」
ザッツロードが唇を噛み締めながら俯く ヘクターが更に近づき言う
「頼む!コイツとデスを守ってくれ!」
ザッツロードが ハッとして言う
「ヘクター…ッ」
ザッツロードが迷いながらも ウィザードを受け取ろうとする そこへプログラマーが言う
「ヘクター、お前が残るのなら 当然、私も残る」
ヘクターが驚いてプログラマーへ振り返る 一瞬、間を置いてヘクターが叫ぶ
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!残ったらお前まで死んじまうじゃねーか!!」
ヘクターの言葉を聞いて ザッツロードの手が止まる
「やっぱり 僕も残るよっ 例え力不足でも …僕には 残らなければいけない 責任がある!」
ヘクターがザッツロードへ向いて声を上げる
「あぁ!?お前まで!馬鹿言ってんじゃっ」
ヘクターの言葉を制して 強い眼差しを向けたザッツロードが言う
「君たちを置いては!絶対に行けないよ!」
言葉を失うヘクター プログラマーが言う
「残ろうが残るまいが …大した差は無いだろう 宝玉の力が無い今 たとえ船で島を脱出しようとも 奴が追ってくれば 大陸まで逃げ切る事すら難しい」
プログラマーの言葉を聞き ヘクターが言う
「…へっ どっちにしても逃げ切れねぇなら …戦うか?」
ヘクターの言葉に ザッツロードが微笑み言う
「うん、今 僕達に出来る事をやろう 最後まで…」
話を聞いていた仲間たち ラーニャが言う
「もぉお!ガルバディアの宝玉さえ持って来てたら!!」
ミラが言う
「悔やんでも仕方がないわ」
横に立ったミラが言う その横に立ったヴェルアロンスライツァーとロキが続ける
「例えあったとしても 稼げる時間は十年余り」
「…十年か…長いのか短いのか…」
プログラマーが言う
「例え数日でも 時間があれば出来る事はあった筈だ」
プログラマーの言葉を聞いたラーニャが驚いて言う
「えぇ!?デスがそーゆう事言う様になったなんて」
ミラが続ける
「月日の流れって凄いわね」
ヘクターが一瞬哀しそうな顔をする それに気付いたレーミヤが言う
「ヘクター…」
レーミヤの声にヘクターがハッとして顔を上げ 表情を明るくして言う
「…んっ!?なんだ?」
わざと明るく振舞って居る事が分かり レーミヤは悲しそうに言う
「…あなたが居てくれて とても助かったけど …ごめんなさい」
誤魔化すヘクター
「…え?何の事だよ?」
プログラマーが言う
「こうなると分かっていれば アバロンに残る事が出来た」
ラーニャが気付いて言う
「あ!そっか!タニアさんと赤ちゃんが!」
思わず言ったラーニャがハッとして口を押さえる ミラがラーニャに言う
「…ばかっ!」
間を置いてからヘクターが笑う
「ははっ!しょうがねーって!その為にも最後まで出来る事やらねーとだろ!」
船が近づき甲板からカイザの叫ぶ声が聞こえる
「おーい!!これ以上行けねぇー!泳いで来やがれー!」
カイザの声を聞いたラーニャが言う
「駄目!駄目だよ!!死んで良い筈なんか無い!ヘクター!!タニアさんと赤ちゃんに会いたいでしょ!!?皆だってっ 死にたくなんかないでしょ!?」
ラーニャの言葉にヘクターが叫ぶ
「…それはそうだ …けど しかたがねーだろっ!?宝玉がねぇーんじゃ 打つ手なしなんだよ!!」
ヘクター声に怯むラーニャ 船から声が届く
「その宝玉のお届けだー!受け取りやがれぇーー!!」
皆が驚いて船へ視線を向ける 船からヘクターを目掛けて宝玉が投げ飛ばされてくる 猛スピードで飛ばされてきた宝玉をヘクターが体を張って受け止める 何とか止めた手の中にある宝玉を見たヘクターが目を丸くする
「なっ!?な… んで!?」
驚き固まるヘクター そのヘクターの手から宝玉が奪われる 驚いて相手を振り返るヘクター プログラマーが宝玉を片手に言う
「早く避難しろ」
言うと共にプログラマーは地面に座り宝玉を横に置いてタイピングを開始する 宝玉に数字の羅列が纏わり宝玉が激しく光ると、悪魔力の霧と悪魔力に操られているドラゴンが仰け反る その強い光に目を細めながらヘクターが言う
「デスッ!?お前 まさかこれに気付いて!?」
デスが言う
「強い聖魔力の塊が近づいているのは分かっていた しかし 間に合うのか それが宝玉であるのかまでは 確証が無かった …だが、プログラムだけは作っておいた」
皆が驚く ザッツロードが言う
「こんな奇跡を信じてプログラムを作っておいてくれるなんて…デス、君には驚かされてばかりだよ」
ザッツロードの言葉にプログラマーのデスが視線を変えずに言う
「驚く事は無い、私は常に 120%の可能性を考えて行動している」
呆気に取られるザッツロード 間を置いてザッツロードと魔力使い達が笑う 船からカイザが叫ぶ
「おおーーい!早くしろおぉお!こっちが持たねぇー!」
ザッツロードがカイザを振り向き 皆へ視線を戻して言う
「さあ みんな!急ごう!」
皆が頷き船を目指して走り始める ヘクターがプログラマーを呼ぶ
「デス!いくぞ!」
ヘクターの声に プログラマーが頷き手を止め モバイルPCを地面に置く 全員が海へ走り船から降ろされている網に捕まる それを確認したカイザが船員へ向け声を上げる
「取り舵いっぱーい!!全速前進!!いそげぇーー!!」
船が向きを変え動き始める 皆が振り返って島を見る 強い光りを放つ宝玉に黒い霧が抑えられている その中をドラゴンの影がもがきザッツロードたちへ向かって来る ヘクターが声を上げる
「あいつ!まさか島から出られるのか!?」
ヘクターの隣で網にしがみ付いているプログラマーが答える
「結界がある限り あの魔王が外へ出る事はない」
ザッツロードが船の上へ顔を向けて叫ぶ
「カイザ!急いでくれ!!」
カイザが言う
「やってるよ!俺たちだってこんな所には 一秒だって居たくねぇー!」
船の速度が上がる 網にしがみ付いているのが苦しくなる カイザが言う
「お前ら!自力で上がって来い 今はそっちに動力使ってる余裕がねーんだ!」
カイザの声を受け ザッツロードたちが網を登り始める 魔力使いたちに続きヴェルアロンスライツァー、ロキが登り ザッツロードがヘクターに手を貸して言う
「ヘクター、大丈夫かい!?」
ザッツロードの言葉にウィザードを抱えているヘクターが上を見上げて言う
「おうっ!何とかなる デス!引っ付いてるか!?」
プログラマーの声が続く
「なんとか な…」
ヘクターが自身の後ろを見下ろす プログラマーが見上げて返事をする ヘクターが頷いて網を登る 皆が網を上り終え船の後方から島へ目を向ける 浜辺まで来たドラゴンが船を目掛けて炎を吐き出す 黒い炎が悪魔力を纏い船の後方へ届く カイザが叫ぶ
「ああーー!!俺の船に何しやがる!!」
カイザが声を上げる 詠唱を終えてザッツロードと魔力使い達が一斉にマジックバリアを張る 船に届き掛けていたドラゴンの黒い炎が弾かれる ヘクターが声を上げる
「よっしゃぁあ!」
炎を弾かれたドラゴンがその手を振りかざす ヘクターが叫ぶ
「やべぇえ!みんな伏せろ!!」
ヘクターの声にマジックバリアを張っていたザッツロードと魔力使い達の行動が遅れる ラーニャが悲鳴を上げる
「うそっ!?」
ラーニャが声を上げる中 ラーニャをヴェルアロンスライツァーが庇い ミラをロキが庇い レーミヤをカイザが庇い ザッツロードをヘクターが庇う 皆が伏せると共に ドラゴンの手がギリギリ船の後方 伏せたザッツロードたちの頭上を過ぎる 皆が思わず閉じていた目を開くと同時にヘクターの声が響く
「デスッ!!」
ドラゴンの手にプログラマーが握られている 再びドラゴンが空いている手を船へ向ける ヘクターが剣を抜いて叫びつつ 船から飛び出す
「この野郎ぉ!!」
プログラマーの声が届く
「ヘクター!来るな!」
ザッツロードが叫んで手を伸ばす
「駄目だヘクター!!間に合わない!!」
ザッツロードの手は届かず ヘクターが船から離れる ラーニャとミラが同時に叫ぶ
「「ヘクター!!」」
叫んだラーニャとミラの横に人が走って来る それと共に ヒュッと音が響く ドラゴン目掛け飛び掛っていたヘクターの体に鞭が巻き付き その鞭に引かれヘクターの身体が甲板へ引き戻される 鞭の操作のままに甲板へ叩き付けられたヘクターは無理やり立ち上がり 再び向かおうとするが そのヘクターの身体をヴェルアロンスライツァーとロキが2人掛りで押さえ付ける ヘクターが声を上げて暴れる
「離せええ!!」
しかし、2人に両腕を押さえられ動けなくなったヘクターは 力の限り叫び続ける
「離せ!離せっつてんだ!ちくしょぉおお!!デスーー!!」
ヘクターの声が響く中 スピードを増した船が 島から遠ざかって行く 島が見えなくなると暴れていたヘクターが力を失って言う
「…デス?お… 俺が 傍に… 居たのに…?」
ヴェルアロンスライツァーとロキが顔を見合わせた後ヘクターを離す ヘクターがその場に崩れる ザッツロードがヘクターの横へ行って言う
「ヘクター ごめん 僕を庇ったせいで」
ヘクターが島のあった方を見つめていた状態からザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが思わず一度視線を外し 再びヘクターへ戻して言う
「僕のせいだ… ごめん ヘクター…」
間を置いてヘクターが再び島へ視線を向けて言う
「…げぇよ… ちげぇ… 俺が… 俺が欲張って… 皆 守ろうとしたから…」
ザッツロードが驚き疑問する
「え?」
ザッツロードがヘクターを見る ヘクターが息を吐き俯いて言う
「全部だ…全部守りかった… 相棒のデスも…ガキの頃に離されて 再会した兄貴も… タニアと生まれてくる子供と平和に暮らす為の 世界を救える勇者様も 全部… 全部守っちまおうって… 欲張った挙句に… 相棒のデスは島に置き去りにしちまって 兄貴は意識が戻らねぇ…」
ザッツロードがヘクターへ問う
「あ、兄貴って…?」
バーネットがやって来て言う
「あのガルバディアのウィザードは ヘクターの双子の兄貴らしいぜ?…とは聞いても 信じられねぇよな?」
バーネットがザッツロードの後ろに立っている 振り返ったザッツロードが驚いて声を上げる
「バ、バーネット陛下!?」
バーネットが苦笑して近づき言う
「奴は今 あの魔力使いの連中が船室で治療している 意識は相変わらず戻らねぇ …が、一応体温があるって事は生きてんじゃねーか?」
バーネットが言いながらヘクターの横に屈む
「あのプログラマーも 宝玉の近くにいりゃぁ ドラゴンや悪魔力から身を守って ついでに 何とか生き残る事が出来るかも知れねぇ… てめぇが助けに行かなくて 誰が行くんだぁ?ヘクター?」
バーネットの言葉にヘクターが顔を上げ バーネットを見て 力なく言う
「俺が… 助けに…」
バーネットが苦笑して言う
「なんなら 俺が行くかぁ?」
ヘクターが立ち上がって叫ぶ
「俺がっ!俺が行く!!」
ヘクターがバーネットに掴みかかって叫ぶ バーネットが笑う
「はっはー、んなら いつまでもグダグダしてんじゃねぇよ?シャキっとしやがれってんだ!それとも一発食らうかぁ?」
バーネットが鞭を床に叩き付ける ヘクターとザッツロードがすくみ上がる ヘクターが苦笑して言う
「い、いや、遠慮しとくぜ …今食らったら 俺が死にそうだ」
バーネットがにやりと笑って言う
「そぉか?そりゃ残念だなぁ?ははははは!」
ザッツロードが顔を引きつらせつつ苦笑する ヘクターが気を取り直して言う
「あに… ウィザードのデスは、船室だって?」
ヘクターの問いにバーネットが頷いて言う
「ああ、行ってやれよ 魔力使いの連中にも礼を言っときやがれよ?皆死にそうなツラしながら 回復魔法をやってたんだからなぁ?」
バーネットの言葉に頷いてヘクターが船室へ向かって行く バーネットが一息吐くと ザッツロードが声を掛ける
「バーネット陛下 あの宝玉は?バーネット陛下が?」
バーネットが振り返って言う
「あん?ああ、あれなぁ!?役に立ったみてぇで良かったぜぇ… 苦労の甲斐がありやがったってもんだ まぁ… だいぶ偶然も重なったけどな?」
バーネットの返答にザッツロードが微笑む
「本当に…助かりました 有難う御座います!!」
ザッツロードが言い終えると同時に頭を下げる バーネットがニッと笑って言う
「おうよ!お陰で大変な目に会いやがった …あの瞬間だけは 本気で殺されやがるかと思ったぜ?」
バーネットの返答にザッツロードが苦笑する
「殺されるだなんて… ベネテクト国はガルバディア国とも仲が悪いのですか?」
ザッツロードの問いに バーネットは笑みを止め 首を傾げて問う
「あん?何でそこでガルバディアが出て来やがるんだぁ?…それから ガルバディア国『とも』って言うんじゃねぇよ?ベネテクトが彼方此方に敵作ってるみてぇじゃねぇか!?ああん?」
バーネットの言葉に ザッツロードが笑って言う
「あはは… え?しかし…?あの宝玉はガルバディア国の物では?」
バーネットが言う
「ちげぇよ!…って?てめぇら?ガルバディアの宝玉は 持って行きやがらなかったのか?」
束の間の沈黙が流れる ザッツロードが頷く
「はい 時間が 無かったので」
バーネットが問う
「時間?何の時間だぁ?」
バーネットが首を傾げる ザッツロードが慌てて言う
「何って!ソルベキアがロボット兵を あの島へ送る と…?」
ザッツロードが語尾を弱めて考える バーネットが更に首を傾げて言う
「ソルベキアが?俺の知る限り… んな話はねぇと思うが…?まぁ」
バーネットが怒りに肩眉を震わせながら言う
「ベネテクト国は~ つい最近出来たばかりの小っせぇえ国だしなぁ?由緒正しきローレシア国様にぃ?無視されたってぇ… 殺され掛けたってぇ… 文句は~…」
言葉を切ったバーネットが ザッツロードの胸倉を掴み上げ叫ぶ
「あるに決まってんだろがぁああ!!」
ザッツロードが驚く
「え!?え!?おわっ!!」
バーネットが怒って叫ぶ
「おいってめぇええ!!てめぇえのクソ親父に 俺は ぶっ殺されかけたんだぞぉおお!!」
ザッツロードが衝撃を受け驚いて言う
「えええ!?ちょ、ちょっと待って下さい バーネット陛下っ!?」
バーネットが凄んで言う
「代わりに打たせろ…」
ザッツロードが疑問する
「え?」
バーネットが叫ぶ
「てめぇの親父の代わりに 一発 殴らせろっつってんだ この野郎がぁああ!!」
ザッツロードが悲鳴を上げる
「えぇええ!?」
バーネットの鞭の音が響く
ザッツロードが床に打ち付けた腰を擦りながら船室へ入ってくる 入ってすぐにあるテーブルに聖魔力の失われた宝玉が4つ置かれている それを見たザッツロードはそこへ自分の持っていた宝玉を置き その先にある階段を降りると そこに並べられているベッドに皆が眠っている 一番左の端に備えられているベッドに寝かされているウィザード その左で回復魔法を掛けつつ眠ってしまったレーミヤ、反対側でヘクターがウィザードの手を握りながら見つめている ザッツロードがヘクターの横に立つと ヘクターが視線を変えずに言う
「…コイツ、すげー体温低くてよ、けど…これ位あれば いつも通りだから… きっと大丈夫だ…」
言葉を聞いたザッツロードが微笑み言う
「良かった…」
ザッツロードが言うと ヘクターが頷き言う
「礼を言いたかったんだけどな… 皆 寝ちまってる」
ヘクターの言葉を聞きながら ザッツロードがレーミヤに毛布を掛け 言う
「うん、皆 疲れてるんだ… ヘクター、君もだろ?」
ザッツロードの言葉を聞いて ヘクターが苦笑しながら頷いて言う
「けど… 眠れそうにねぇ… 目ぇ閉じるとあいつの姿が 見えるんだ… こっちのデスにはよ、触れるけど …向こうのデスには …また 触れなくなっちまったな…」
ヘクターが苦しそうに目を細める ザッツロードも苦しそうな顔をする しかし気を持ち直し ヘクターの肩を叩いて言う
「また迎えに行くんだろ?ヘクター?ソイッド村からガルバディアへ 助けに行ったあの時みたいに」
ザッツロードの言葉を聞き 一度ザッツロードへ視線を向けたヘクターが 視線を戻して言う
「… …ああ、そうだな?また助けに行くぜ!今回も 必ず…っ」
言い終えると共に ヘクターが眠りに落ちる ザッツロードは一瞬驚くが 苦笑し ヘクターへ毛布を掛ける 立ち上がったザッツロードが辺りを見渡す ヴェルアロンスライツァー、ロキ、ミラ、ラーニャ、ヘクター、レーミヤ 皆が眠りに着いている ザッツロードが1つ息を吐き 空いているベッドに腰を掛けて思う
(僕らは… 僕は…)
ザッツロードが頭を抱える
皆が乗ったカイザの海賊船が暗闇の中を行く
ザッツロードが目を覚まし顔を向けた先 窓の外は暗く ザッツロードの他は眠っている ザッツロードがそれを一瞥すると立ち上がり 1人船室を出て行く…―
15年後――
ローレシア城 地下 機械制御操作室 大きな部屋に最新のソルベキア国のコンピュータを所狭しと揃えた部屋の中で ローレシア国第二王子ザッツロード7世(以下ザッツロード)は ソルベキアのプログラマーによって操作された機械を使い 先代勇者の旅を体感していた
全てのプログラムが終了し 無数の配線が成されたヘッドギアを外されるザッツロード ソルベキア国の研究者が問う
「ザッツロード王子、いかがでしたか?」
重そうなヘッドギアを外され 肩が凝っている様子でザッツロードが答える
「うん、先代勇者ザッツロード6世の旅を まるで自分が行っている様に 見る事が出来たよ」
ソルベキア国の研究者は満足そうに頷き言う
「それは何よりで」
ソルベキア国の研究者が去って行く そこへ 現代の魔法使いソニヤ、魔術師ラナ、占い師セーリアが現れ ソニヤが言う
「やっぱりガルバディアのウィザードに続いて強い魔力を使いこなせるのは キャリトールの魔法使いなのよ!」
ラナが言う
「何言ってるの?一番最初に結界を抑えるバリアを放てなくなったのは その魔法使いだったわ?先代も現代も世界で2番目に強い魔力使いは魔術師の方よ」
セーリアが苦笑して言う
「まぁまぁ、魔法使いも魔術師も2人で協力して戦っていたじゃない?2つの力が合わされば 一番強いでしょ?」
数時間前と変わらぬ仲間の様子に ザッツロードが微笑して言う
「皆も先代の魔法使いや魔術師や占い師の記憶を見たんだよね?どうだった?」
ザッツロードの問いに 言い争っていたソニヤとラナがザッツロードへ振り向いて ソニヤが言う
「どうって… 一言で言われても」
ラナが続いて言う
「何に関して どうだったか?って聞いてもらえないと範囲が大きすぎるわ」
二人に言われ 頭を掻きながら謝罪するザッツロード
「ああ、ごめん…」
その様子を見た2人が一度顔を合わせてから笑い出す 2人が笑う様子に微笑して理由を問うザッツロード
「え…?あは?何で笑うんだい?」
ソニヤが笑いのまま言う
「だって~ザッツの感じ、まるで先代勇者ザッツロード6世とソックリなんだもん」
ラナが続いて言う
「勇者様は 相変わらず仲間の魔力使いに 謝ってばかりね?」
2人の指摘に再び苦笑するザッツロード そこへセーリアが言う
「さ、お話はそこまでにして、本題に入らないと フォリオッド大臣様がずっとお待ちよ?」
セーリアの言葉を聞いて ザッツロードとソニヤとラナが彼女の示す方へ視線を向ける 今か今かと待っていたフォリオッドが1つ咳払いをする ザッツロードが苦笑して言う
「ああ、すまないフォリオッド 先代勇者の旅は一通り見させてもらったよ 僕らの役目は その先代勇者と仲間たちが開いてしまった結界から現れた 魔王を倒す事… と言う事になるのだろうか?」
ザッツロードと仲間たちの視線を受け フォリオッドが言う
「勿論、魔王を倒して頂けたら最高の結果となりますが、しかし、魔王は悪魔力がある限りその動きを止めることは無いと言われています、よってザッツロード王子やお仲間の方々には もうすぐ消滅してしまうといわれている 魔王の島への結界の再生 これこそが何よりも急ぎ執り行わねばならぬ事 どうか再び各国へ返還された宝玉を集めその偉業を成し遂げて下さいませ」
フォリオッドの話を聞き ソニヤが言う
「結界の再生よりも、やっぱり勇者様には 魔王討伐!の方が合ってると思うんだけどなぁ~?」
ラナが呆れて言う
「その討伐が出来ないから 結界を再生させるんじゃない」
ソニヤが続けて言う
「それは分かってるけどさ?15年前と今では科学の進歩が全然違うんだし?ソルベキアのロボット兵でも借りてさ?いっきに魔王へ襲い掛かれば倒せるかもしれないじゃない?」
ラナがいう
「そのソルベキアのロボット兵の動力は悪魔力よ?魔王に逆利用されたら それこそ世界のおしまいだわ!」
ソニヤが納得して言う
「あ~そっかぁ」
2人の会話が終ると ザッツロードが頷いてから言う
「うん、初代勇者ザッツロード1世の様に 魔王を倒して更に悪魔力を封印出来る事が一番望ましいけど 今やらなければいけない事は 僕の叔父である先代勇者ザッツロード6世が開いてしまった結界の再生だ これはローレシア国が責任を持って行わなわねばなら無い事だし ザッツロードの名を継いだ僕の役目だ」
ザッツロードの言葉に頷く仲間たち ラナが言う
「その勇者の仲間だった魔法使いや魔術師、占い師の責任と役目でもあるわ」
ラナの言葉に ソニヤとセーリアも頷く フォリオッドが言う
「各国もローレシアの勇者へ力を貸してくれるはずです 共に再び宝玉を得て 一刻も早く悪魔力を封じる 結界の再生を行って下さい」
ザッツロードと仲間たちが頷き 機械室を出て行く
ローレシア城を出た所で ソニヤがザッツロードへ問う
「ねぇザッツ!最初はどこの国へ行くの?」
ラナが言う
「やっぱり初代勇者が仲間にしたと言う アバロンが無難かしら?」
ザッツロード考える セーリアが言う
「ローレシアから北へ向かってガルバディア国へ …となると 先代の勇者様と同じね?」
3人に問われザッツロードが言う
「それじゃ… 今回は 初代勇者の仲間でもあり、皆と同じく先代勇者の仲間であった 大剣使いの国 アバロンへ行こうか?」
【 アバロン国 】
アバロン城へやって来たザッツロードと仲間たち 賑う城下町を通り 城へと向かう 開放されている玉座の間の前まで止められる事も無く進み 衛兵へ名乗り 国王への謁見を要求する 少し待つと 謁見が許される 名を呼ばれ通されるザッツロードたち アバロン国国王ヴィクトール13世の前に跪き ザッツロードが言う
「ローレシア国第二王子ザッツロード7世です」
ザッツロードがそう言って敬礼する ヴィクトールが頷き言う
「噂は聞いていた、ローレシア国の3代目勇者 ザッツロードが旅に出たと それで、旅の目的は何だろうか?」
ヴィクトールの問いに ザッツロードは顔を上げ答える
「はい、私は先代勇者ザッツロード6世が行った大事の責任を果たす為 世界各国に保管されている宝玉を集め、その力を使い 今壊れようとしている魔王の島への結界を 修復すべく旅に出ました どうか、このアバロン国に保管されている宝玉を 私に貸し与えて頂きたく存じます」
ザッツロードが言い終えると共に頭を下げる ヴィクトールが言う
「先代勇者の大事の責任を果たす事が 結界の修復? …それだけの為に ローレシア国は再び勇者を選任したと言う事か?」
ヴィクトールの言葉に間を置いてからザッツロードは返答する
「お恥ずかしい事ですが …ヴィクトール陛下の仰る通りになります」
ヴィクトールが少し首を傾げて言う
「では もう魔王を倒そうと言う考えは無いのだな?」
ザッツロードはヴィクトールの言葉に一瞬驚き 間を置いて答える
「…ローレシア国一代目勇者同様 魔王を倒し、悪魔力を封じる事が出来れば… 一番だと思います、しかし 魔王の島の 悪魔力の量はとても計りかねません」
ザッツロードの言葉にヴィクトールが間を空けずに言う
「魔王を倒す事は不可能であると?」
ザッツロードが驚いて言う
「え…?そ…それは」
視線を向け強く言い放ったヴィクトールの言葉に ザッツロードが思わず声を漏らし沈黙する しばらくの沈黙の後ヴィクトールが言う
「貴公の話は分かった、そして 残念だが我が国の宝玉は 現在、他の者へ託されている」
ヴィクトールの言葉にザッツロードの後ろに控えていたソニヤが声を上げる
「えぇええ!?」
ソニアがハッと口を押さえて小さくなる 隣のラナが無言で叱る ザッツロードへ視線を戻したヴィクトールが続けて言う
「更に、貴公へ託す予定であった兵が 先日旅に出てしまった 折角 来て貰ったのだが 現在 我がアバロン国が貴公へ託す事の出来るものは 何も無いのだ」
言葉を聞いたザッツロードが思わず沈黙する ヴィクトールが目を細め言う
「申し訳ないが、これが事実だ 理解願いたい 3代目勇者ザッツロード殿」
ザッツロードが何とか返事をする
「…はい」
伝令の兵が玉座の間の入り口に立って言う
「ヴィクトール陛下、お客様が…」
伝令の言葉に ザッツロードへ視線を向けていたヴィクトールが ハッと視線を兵へ向け言う
「分かった、すぐに向かう」
伝令の兵が返事と共に立ち去ると ヴィクトールが玉座から立ち上がり言う
「話は以上だ」
ザッツロードが返事をする
「はい、有難う御座いました」
ザッツロードが言い終わる前にヴィクトールは歩き出し ザッツロードの横を過ぎ 玉座の間を後にする ザッツロードは下げていた顔を上げ ヴィクトールが出て行った方を見る
アバロン城を後にしたザッツロードと仲間たち ソニヤが言う
「あれがヴィクトール陛下!?何だか 先代魔法使いラーニャの記憶にあるのとは 全然違う感じ!」
ラナが言う
「私もそう感じたわ、先代魔術師ミラの記憶にあったヴィクトール陛下は もっとお優しくて親身になって下さる方だったわ」
ソニヤに続きラナが少し怒った様に言う ザッツロードがそれを聞きながら言う
「うん… 僕もそう感じたよ、でも もしかしたら… ヴィクトール陛下は僕達に期待して下さっていたのかもしれない」
ソニヤが言う
「期待!?」
ソニヤがザッツロードへ問う その横でセーリアが言う
「そうね、私もそう思うわ ヴィクトール陛下は 今回の勇者も魔王を倒すため 旅に出ると思っていた様子だったし」
ザッツロードがセーリアの言葉に頷き言う
「だとしたら、期待を踏みにじってしまったのは僕らの方だ…」
少し落ち込むように視線を落とすザッツロード それを見てラナが言う
「だけど、もし私たちの目的がヴィクトール陛下の望むものであったとして それでもアバロン国の宝玉も兵も無しよ?そう考えると 期待していたとは言い切られないじゃない?」
ソニヤが言う
「あ~そっかぁ」
ラナの言葉にソニヤが納得する 2人の言葉を聞きザッツロードは視線を上げ微笑して言う
「それもそうだね、どちらにしても結果は同じだったんだ アバロンの宝玉と兵は諦めよう」
ザッツロードの言葉にソニヤとラナが頷く と、その時セーリアが言う
「あら?あの人…」
セーリアの言葉にザッツロードたちが彼女の視線の先を見る ソニヤが声を上げる
「あー!ヘクター!」
指を刺しながら名を呼んだソニヤ 呼ばれた男がその声に気付いて振り返り 指差されている事に少し驚く ラナが慌ててソニヤを制して言う
「ちょっと!私たちは先代の記憶を知っているから彼を知ってるけど 向こうは私たちの事知らないのよ!」
ラナに言われて ソニヤが慌てて口を手で押さえる しかし既に遅いため ザッツロードが代わって謝る
「すみません、有名なアバロン国3番隊のヘクター隊長に 仲間が興奮してしまったみたいで」
すまなそうな顔でザッツロードが謝ると 相手のヘクター(偽)は共に居たもう1人の人物へ視線を向けて微笑んでいる 視線をザッツロードへ戻し ヘクター(偽)が言う
「おう!ありがとな そう言って貰えると嬉しいんだけどよ!俺はその ヘクター隊長じゃないぜ?」
ザッツロードが思わず言う
「え!?」
ザッツロードたちが驚く ヘクター(偽)がニコニコ笑って言う
「ははは、ふつー分かるだろ?ヘクター隊長は 俺たちの年代から見れば 親父位の歳だぜ?俺ってそんなに老けて見えるか?」
ヘクター(偽)の言葉を受け ザッツロードたちが顔を見合わせる ソニヤが言う
「あ~そうだ、そうだよ!私たちが知ってるヘクターって」
ラナが続ける
「15年前の姿ね… うかつだったわ」
ヘクター(偽)が笑って言う
「15年前か~ 俺もそのちょっと前ぐらいの頃 アバロンでよくヘクター隊長見てたなぁ かっこ良かったよなぁ~!」
ヘクター(偽)の言葉を聞いてザッツロードたちが思わず微笑む セーリアが彼の腰に備えられている大剣を見て言う
「あなたもアバロンの大剣使いなのですね?」
セーリアに言われ ヘクター(偽)はハッと腰の剣へ手を置いて言う
「え?あ、ああ、まぁ…そんな所だぜ?はは…」
ヘクター(偽)の顔を見ていたソニヤが言う
「もしかして~ ヘクターの息子だったりして?」
ヘクター(偽)が衝撃を受けて言う
「へ!?お、俺が?!」
ラナが言う
「まさか…そんな偶然なんて…?」
ラナが否定しようとするが 記憶の中にあるヘクターに余りにも似ているので否定しきれずヘクター(偽)を見上げる ザッツロードも気付かない内に見つめている ヘクター(偽)が両手を前で左右へ振って否定する
「いやいやいや、俺はヘクター隊長の息子じゃねーよ!?そんなに似てるか?ま、まぁそう言って貰えると嬉し…ってあれ?さっきも言ったっけ?はは…」
ザッツロードたちとヘクター(偽)が話をしていると 連れのデス(偽)が辺りを見渡し ヘクター(偽)へ小声で言う
「フォーリっ… いや… エドの連中が…」
ヘクター(偽)がハッとして周囲を見て表情を変え言う
「あ、わりぃ、その~俺たち… そそ!旅の途中なんだ!だから行くわ!じゃぁな?」
言うと共に立ち去ろうとするヘクター(偽) ソニヤが思わず呼び止める
「え?ちょっと ヘクター!」
ヘクター(偽)が再び呼び止められ振り返る ソニヤが止めたけどどうしよう?と無言で仲間たちへ視線を向ける セーリアが微笑して言う
「旅の途中という事は これからどちらかへ?」
ヘクター(偽)がう~んと少し考えてから言う
「あんま決めてねーんだけど… とりあえずベネテクトとかかなぁ?」
ソニヤとラナが顔を見合せザッツロードへ視線を向ける ザッツロードがその視線に驚いていると セーリアが言う
「ベネテクトへ向かわれるのですか?私たちもベネテクトには用があるのです、もし宜しかったらご一緒出来ませんか?私たちローレシア領域から来たのですが、アバロン領域の魔物多さに驚いてしまって… そのアバロンの大剣使いさんとご一緒して頂けると とても心強いのですが?」
笑顔で言われ ヘクター(偽)がたじろぐ セーリアの後ろでソニヤとラナも笑顔を向ける ザッツロードが苦笑している ヘクター(偽)は困惑しながら連れへ顔を向けて問う 連れが少し焦りながら小声で何か言い ヘクター(偽)が頷いて言う
「分かった!一緒に行くぜ!」
ソニヤが喜んで言う
「やったぁー!」
ヘクター(偽)が続けて言う
「 け ど !行くならこいつも一緒だ、」
言いながら連れのデス(偽)を示して続ける
「でもって、こいつは全っ然戦えねぇ それでも俺と一緒に行く事になるけど …構わねぇか?」
ヘクター(偽)の言葉にザッツロードたちが顔を見合わせる 少し間を置いてザッツロードが言う
「うん、僕らは特に構わないけど でも… 戦えない人を旅に連れて行くのは 少し危険なのでは?それとも 彼の護衛を頼まれての旅なのかい?」
ザッツロードの言葉にヘクター(偽)は少し考えてから言う
「あ~ まぁ… そんな所かな?ああ、お前らに迷惑は掛けねぇよ?俺が守り切るからさ!」
ザッツロードたちは先代のヘクターの記憶を思い出し ソニヤが言う
「ますます ヘクターみたいね?」
セーリアが言う
「ほんと、こんな偶然ってあるのかしら」
ラナが言う
「運命… かもしれないわね?」
ヘクター(偽)が疑問して言う
「え?」
ザッツロードが構わず続ける
「それじゃ、宜しく!僕はザッツロード、ソニヤとラナとセーリアだ、君達は?」
ザッツロードに自己紹介され ヘクター(偽)が一瞬たじろぐ しかし気を取り直して言う
「あ…あぁ、俺は… …うん!ヘクターだ」
ソニヤが驚いて言う
「えぇえ!?」
ヘクター(偽)が言う
「いや、アバロンじゃ… 今流行りだぜ?ほら、お前らも知ってただろ!?ヘクター隊長 だから、俺もヘクターなんだよ、うん!」
ソニヤが納得して言う
「あ~なるほどぉ」
ザッツロードが苦笑しながら更に問う
「分かった、宜しくヘクター、それで、そちらの方は?」
ザッツロードに言われ振り返るヘクター(偽) 振り返った勢いのままに言う
「ああ、こいつはテス…」
ソニヤが驚いて言う
「え?!デス?!」
ヘクター(偽)がハッとして言う
「え?あ、ああ!そう!そう!…デスだ!」
セーリアが不思議そうな顔で言う
「ガルバディアの方…?」
言いながらデスの目を覗き込む デス(偽)が目を逸らす ヘクター(偽)が言う
「いや、ガルバディアの民じゃねぇよ?でもデスなんだよ!うん、はは…」
ソニヤがポカーンとした表情で言う
「へぇ~すごい偶然…?」
続いてラナが首を傾げながら言う
「なんだか変な感じだけど、まぁアバロンの大剣使いなら 実力はあるんじゃない?」
ラナの言葉にザッツロードが頷く ヘクター(偽)が辺りを見渡し言う
「あ、なぁ?行くんなら行こうぜ?え~と、ほら、あんま ノロノロしてんの俺好きじゃねぇーんだわ?」
ヘクター(偽)の言葉に頷き ザッツロードが言う
「そうだね、僕達も急がないと」
ザッツロードと仲間たちが頷く
【 ベネテクト国(道中) 】
ヘクター(偽)とデス(偽)を仲間にしたザッツロードたちはベネテクト国へ向かう 道中 ヘクター(偽)が驚いて言う
「ええ!?まぢかよ!?あんたらが勇者ザッツロードと仲間たち!?」
ザッツロードが苦笑して言う
「見えない…かな?」
ザッツロードの言葉にヘクター(偽)が視線をザッツロードへ向けて言う
「あ、いや ンな事はねぇけど… なんっつーか想像してたのと ちょっと ちげぇなって言うか…?もっとゴッツイ兄ちゃんなのかと思ってたぜ?」
ソニヤとラナがごついザッツロードを想像して笑う ザッツロードは苦笑に汗を含ませ言う
「まぁ…、そう言う訳で 各国へ宝玉を求めて旅をしているんだ、ヘクターたちは何処へ行くんだい?」
問われたヘクター(偽)が微笑して言う
「あー… まぁ特にどっか行こうって決めてる訳じゃねぇーんだけど、俺は修行の旅に出るつもりだったんだ」
ソニヤが問う
「『つもり』って?」
ヘクター(偽)が一瞬焦るが 普通に戻って言う
「俺はー そのつもりだったんだけど、たまたま訳あってテス…いや、デスも一緒になったもんだから… まぁどっちにしろ修行の旅にはなるんだけどな?」
会話を聞いていたラナがデス(偽)を見ながら言う
「どんな事情があるにしろ、まったく戦えない一般の人を連れて 修行の旅だなんて 自信過剰なのか… 馬鹿なのか?って感じよね?」
ラナの言葉にデス(偽)が言う
「私は別に… あのまま分かれても 良いと思っていたのだが」
ヘクター(偽)が怒って言う
「だめに決まってんだろ!?良いか!?今度 勝手に死のうとなんかしたら 絶対ぇ許さねーからな!!」
ヘクターの言葉に 驚くザッツロードたち 沈黙が流れる ソニヤが言う
「死のうとって…自…殺とか?」
ヘクター(偽)が溜め息を吐いて言う
「ああ、まったく… あ、そうだ、戦闘中のコイツの護衛は、俺がやるから気にしなくて良いんだけどさ、もし…それ以外で、コイツがまた死のうとかしてたら わりぃけど止めてやってくれねぇか?」
ヘクター(偽)がザッツロードたちへ視線を向けて言う ザッツロードが驚きそれに答えて言う
「え!?ああ!それはもちろん!止めるよ!…ね?みんな!」
ラナがあわてて言う
「え?あ、も、もちろん!」
セーリアが少し慌てて言う
「え、ええ!もちろんよ!」
ラナがそっぽを向いて言う
「まぁ…目の前で死なれるのも嫌だし」
ヘクター(偽)が微笑んで言う
「助かるぜ、あ!デス、お前も 皆が止めてくれるからって また 勝手に死のうとなんかすんなよ?」
デス(偽)が呆れた様子で言う
「…お陰で する気も無くなった」
デス(偽)が顔を背ける それを見ながらザッツロードたちが顔を合わせる ソニヤが言う
「そう言えば、先代のデスも 最初は死のうと してなかったっけ?」
セーリアが苦笑して言う
「死のうと…と言う訳では無いと思うけど」
ラナがいう
「まぁ、それでも良い って感じはあったわよね?」
ザッツロードが苦笑する ソニヤが言う
「やっぱり名前が悪いんじゃないの?ウィザードのデスもプログラマーのデスも…一般人のデスも!」
ソニヤの言葉にラナが言う
「それを言ってしまったら ガルバディアの人は 皆って事になるけど… 今の所 そうらしいわね」
【 ベネテクト国 】
ベネテクト城へ向かうザッツロードたち ソニヤが言う
「そういえばー ベネテクトのお城は完成したのかな?」
ソニヤの言葉にザッツロードが言う
「いや、確か15、6年前に国王のバーネット2世が破壊して 再度 建築中になってしまったから 少なくても後… 3、4年は掛かるはずだよ」
ソニヤが驚いて言う
「え?!また壊しちゃったの?!」
ラナが呆れて言う
「ベネテクト国に お城が完成する日は来るのかしら?」
ベネテクト城へ辿り着いたザッツロードたち 人気の無い辺りを見渡してソニヤが言う
「あれー?全然人が居ないよ?」
ラナが続ける
「建設途中…ではあるみたいだけど 誰も居ないだなんて」
ザッツロードも辺りを見渡してから言う
「それじゃ、あの場所へ行ってみようか?」
ザッツロードの言葉にソニヤが振り返って言う
「地下にあるバーネット陛下のお部屋ね?!」
ザッツロードが微笑んで頷く ザッツロードたちは自分達の知る先代勇者たちの記憶を頼りに ベネテクト城地下の部屋へ向かい そこにある扉をノックし、ザッツロードが言う
「バーネット陛下!いらっしゃいますか?私はローレシア国の第二王子ザッツロードです」
ザッツロードが声を掛けてしばらく待つが 応答は無い ソニヤが言う
「居ないのかしら?」
ソニヤが言いながらドアの取っ手へ手を伸ばす ラナが慌てて言う
「ちょっと!勝手に駄目よっ」
ラナが慌てて止める しかし声より先に取っ手を引いたソニヤが言う
「あ…鍵が掛かってるわ」
扉は開かない ザッツロードがもう一度声を掛け ノックをするが返事はない ザッツロードが皆へ振り返って言う
「居ないみたいだ…どうしよう?」
皆が考える セーリアが言う
「近くの町へ行ってみましょう?町の人が知ってるかもしれないわ」
皆が頷き ベネテクト城の近郊の町へ向かう
【 ベネテクト国(近郊の町) 】
町に辿り着いたザッツロードたちは町の人に話を聞いて驚き ザッツロードが言う
「バーネット陛下がお亡くなりに!?」
セーリアが声を上げる
「そんなっ!どうして!?」
ソニヤとラナがセーリアの発言に驚く 町の人が2人の問いに答える
「バーネット陛下は息子のベーネット王子に殺されてしまったらしい… まぁ、バーネット陛下も最近は少し様子がおかしかったからな やっぱりベネテクトは隣国のアバロンと上手く行かないと 傾いてしまうのかも知れない… その点!新国王のベーネット陛下は 早速アバロンと上手くやってるみたいだし、今度こそベネテクトも安泰だろう!」
笑顔で締めくくる町の人へ デス(偽)が問う
「それで?その新国王はどこに居るんだ?」
デス(偽)の言葉にハッとするザッツロードが言う
「そ、そうだった 現ベネテクト国王の えっと… ベーネット陛下はどちらに?」
ザッツロードの言葉に町の人が一軒の宿を指差して言う
「今はあちらにいらっしゃるよ、もうすぐ出てくると思う そうしたら… 俺たち町のみんなからの贈り物を渡すんだぜ!?あ、これベーネット陛下には内緒な!」
町の人が笑顔でそう言うと去って行く ザッツロードが町の人の指差した宿を見上げる ラナが声を掛ける
「さ、行きましょ?早く宝玉を頂かないと また他の人に渡ってしまうかも知れないじゃない?」
ザッツロードが頷いて言う
「あ、うん、そうだね?」
皆で宿へ向かう
宿主へ名乗り、ベーネットの泊まっている部屋を聞いたザッツロードたち ザッツロードは教えられた部屋をノックして声を掛ける
「ベーネット陛下、私はローレシア国第二王子のザッツロードと申します、どうか 少しお時間を頂けないでしょうか?」
間もなく扉が開き ベーネットが現れ言う
「ローレシアの第二王子殿が …私に何か用だろうか?」
ザッツロードはその場に膝を着き 敬礼して言う
「お寛ぎの所申し訳有りません、私はローレシア国の3代目勇者として 魔王の島の結界を再生させるべく各国に保管されている宝玉をお借りしようと 旅をしております どうかベネテクト国に保管されている宝玉を 私にお貸し頂けませんでしょうか?」
ザッツロードの言葉を聞いたベーネットがしばらく考えて言う
「宝玉?…すまないが、私には 分からないな」
ソニヤが思わず声を上げる
「えぇえ!?」
ザッツロードも声を音にしないまでも驚きの表情を作る しばしの沈黙 ベーネットが言う
「…用件はそれだけだろうか?だとしたら、私は君達の役には立てそうに無い 失礼するよ」
扉を閉めようとしたベーネットをソニヤが止める
「ま、待って!」
思わず止めたソニヤが ザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが戸惑いながら何とか言葉を言う
「あ、あのっ…ち、地下の部屋に」
ベーネットが疑問して言う
「…地下の部屋?」
ザッツロードの言葉を復唱するベーネット ザッツロードの後ろからラナが言う
「ベネテクト城の地下にある バーネット陛下のお部屋にあるかもしれません」
続いてセーリアが言う
「失礼ながら、先ほど伺ったのですが お部屋の扉に鍵か掛けられており、声を掛けてもお返事はありませんでした」
ソニヤが慌てて言う
「あの扉の鍵を開けてもらえませんか!?私、隠し扉の場所覚えてるし!」
ラナとセーリアが同時に振り返ってソニヤを無言で叱る ソニヤが慌てて口を押さえる ザッツロードたちの話を聞いてベーネットが考え言う
「その宝玉と言うのは…ローレシア国からベネテクト国が預かっていたと言う事だろうか?」
ザッツロードが慌てて言う
「あ~ いや、その…」
ベーネットの言葉に悩むザッツロード ベーネットがザッツロードを見つめて言う
「すまないが 私は少し忙しいのだ、これからすぐにアバロンへ向かわなければならなくてね?父から王の座を奪ってしまった以上 私は今、この国の為に出来る事を 全力でやらなければならないのだ」
ベーネットの言葉に ザッツロードが一度視線を落とすが その視線を上げて言う
「私も!この世界の為 3代目勇者としてやらなければいけない事があるのです、そして その為に宝玉が必要なのです ベーネット陛下、どうかベネテクト城の地下にあるお部屋の鍵を私に預けて頂けませんでしょうか?もちろん、宝玉以外の物には 絶対に手を触れません!お願いします!」
ザッツロードの言葉にベーネットが驚く ザッツロードの仲間たちも その大胆なお願いに驚く ベーネットがしばらく考えて言う
「…ザッツロード王子、君の気持ちは分かった 世界の為 か… 小さなベネテクト国一国の為に 私は必死になっていたが もっと大きな視野を持つ事も 大切かもしれないな」
ザッツロードがハッとして 慌てて言う
「え!?あ、いや…生意気を言ってしまって …失礼しました」
頭を下げるザッツロードにベーネットは微笑んで言う
「いや、大切な事に気付かされた気分だ それで、その宝玉があるかもしれないと言う 地下部屋の鍵なのだが あいにく私は あの部屋の入り口の鍵を持っていないのだよ」
再びソニヤの声が響く
「えぇええ!?」
ベーネットは微笑んで続ける
「従って、破壊してくれて構わない」
今度はソニヤとザッツロードの声が重なる
「「えぇええ!?」」
その反応にベーネットが笑う
「あっははははっ …いや、失礼 しかし事実なのだ、私も共に行こう 君達が警備の者に不審者と思われては大変だからね?」
ベーネット共に宿を出たザッツロードたち そこには町中の人々がベーネットの外出を待っている その様子に驚いたベーネットが言う
「これは…?一体…?」
ベーネットの下に町の代表が近づき言う
「ベーネット新国王陛下、城下の町々をツヴァイザー国の者よりお守り頂き 本当に有難う御座いました」
「これは我々からの心ばかりのお礼です どうかお受け取り下さい」
町の代表がベネテクト国の紋章が入った重厚なマントを手渡す 驚くベーネット 町の人々が跪く ベーネットはそれを受け取り身に纏うと言う
「有難う諸君 私は… 必ず このベネテクト国と そこに住まう民を守り、そして 慈愛に満ちた美しい国を 諸君と共に造っていくと約束する!」
ベーネットの言葉に 町の人々と彼らを取り囲むように居た兵たちが喝采を上げる
町の人々に見送られ 町を出たベーネットとザッツロードたち セーリアの移動魔法でベネテクト城へ向かう ベネテクト城に辿り着いたベーネットとザッツロードたち、ザッツロードが問う
「ベーネット陛下、ツヴァイザー国と戦っておられたのですか?」
ザッツロードの問いに 地下室へ向かって歩きながらベーネットが答える
「ああ、私がベネテクトの前王バーネット2世を殺害したと聞き付けたツヴァイザーが 時を空けずして攻め込んできたのだ、運良くアバロンの部隊に助けられ 更に助力を得た上で ベネテクト国内の3つの町を守り抜いた… 今日はその礼を伝えるべくアバロンへ上がる予定なのだ」
話を聞いていたソニヤが問う
「その… ベーネット陛下が バーネット陛下を殺害したって… 本当なの?」
ベーネットが沈黙する ラナが慌てて言う
「ばかっ!」
ラナがソニヤの頭を殴る 殴られた頭を押さえながらソニヤがラナを振り返る 地下室の扉の前に立ったベーネットが答える
「…本当だ、父は デネシアの奴隷を扱き使って 城の再建を急がせていた 私は… その父の奴隷たちへの扱いが許せなかったのだ… 毎日彼らを怯えさせ重労を架している その姿を幼い頃からずっと見ていた そして 私がいつか王位を譲られる日が来たら 絶対にその様な事をしない王になりたいと 思っていたのだが…」
扉に手を置きそこまで言ったベーネットが その手を握って続ける
「私は その日まで待つ事が 出来なかった…」
ベーネットの脳裏にバーネット殺害時の映像が思い出される 話を聞いていたソニヤが何か言い掛け言葉を飲む ベーネットが気を取り直して振り返り言う
「さて、この部屋で良かっただろうか?」
ザッツロードがハッとして頷く
「はい、この部屋だと思います」
ザッツロードが言うのに続いて ラナが一歩前へ出て言う
「重厚な扉みたいですが、私が全力で魔力を放てば壊せると思います、ベーネット陛下 どうか私たちの後ろまでお下がり下さい」
ラナの言葉にベーネットが笑って言う
「いや、そんな手間を掛けなくとも この扉は破壊出来るんだ そこの柱の影まで下がってくれ」
ソニヤが疑問する
「え?」
そのソニヤの背を軽く押してベーネットが共に柱の影まで行く 皆が柱の陰に隠れると ベーネットが柱の近くの壁を数箇所叩く
「たしか…この辺りだったと思うのだが…?」
ザッツロードたちが不思議そうに眺めていると ベーネットの叩いた数回目のレンガが1つ分奥に押し込まれる それと共にベーネットが両耳を塞いで壁側へ身を寄せる
ザッツロードがベーネットのその行動に疑問の声を上げる
「え?」
と同時に 激しい爆音が轟き ザッツロードたちが隠れている柱以外の通路が爆発した炎に焼かれる しばらく間を置いて ベーネットがザッツロードたちを振り返り 苦笑して言う
「すまない、先に説明しておくべきだったな?」
ベーネットの視線の先 ザッツロードたちが驚き腰を抜かしている
硝煙が残る通路を進み地下部屋へ入るベーネットとザッツロードたち 扉を入ってすぐにある部屋はザッツロードたちが先代の記憶で見た映像と変わらず 狭い部屋に重厚な机と椅子が置かれ 壁にはバーネット1世の肖像画とその他の絵が飾られている 入って来た扉のあった場所から正面と左手に扉がある ソニヤが左手の扉を指差して言い掛ける
「ベーネット陛下、そっちの部屋…」
しかし途中で言葉を止めて言い直す
「あ、でも 宝物庫だから また鍵が…」
ソニヤの言葉にザッツロードたちが先ほどの爆発を思い出し焦る そこへベーネットが言う
「こちらの部屋か?それなら私が鍵を持っている 爆破の必要は無い」
言いながらベーネットが鍵を開ける ザッツロードたちがホッと胸を撫で下ろす 間もなく鍵の開く音がする ベーネットが扉を開けると ソニアが扉に近づき言う
「この宝物庫の右側の壁に…」
言いながら指を刺す ベーネットが首を傾げて言う
「宝物庫?この部屋は…」
言いながら部屋の扉を大きく開いて続ける
「私の部屋なのだが?」
部屋を見たソニヤが驚いて言う
「あれー!?」
ベーネットがその様子を眺めて言う
「うん…?あぁ、もしかしたら 私が生まれる前までは宝物庫だったのかもしれない 今は別の場所に移されているのだ しかし… その場所で 私は宝玉と呼ばれそうな宝を 見た事はないな」
ベーネットの言葉を聞いてザッツロードたちが顔を見合わせる ミラが思い付いた様に言う
「ベーネット陛下、その新しい宝物庫にも 隠し扉があって …その扉の存在を忘れていらしたり なんて事は…?」
ミラの言葉にベーネットが顔を横に振って微笑し言う
「君達は色々面白い事を言うな?歳は私とそれ程変わらない筈なのに この部屋が宝物庫だったのではないか、とか… 隠し扉が、など まるで昔のベネテクト国を知っているかの様だ」
ザッツロードたちが苦笑する ベーネットが続ける
「ちなみに、この部屋の隠し扉と言うのは?私は知らないのだが 聞かされていなかったのなら 今もそこに忘れられていると言う可能性も あるだろう?」
ベーネットが言いながら部屋へ入る ソニヤがそれに続き壁を指差す
「確か、そこの右から5番目辺りのレンガが」
ベーネットが言う
「この辺りか?」
ソニヤの指示に従いベーネットが壁のレンガを押すと 隣の壁が開く ソニヤが声を上げる
「あったぁー!宝玉!」
ベーネットが一瞬驚き 微笑して宝玉を手に取って言う
「これが宝玉か… では、君たちにお返ししよう」
ベーネットが言いながらソニヤへ手渡す ソニヤは受け取りながら言う
「あ~いや、返すって言うか…あたしたちが 借りるって感じで…」
ソニアがおどおどと言うが ベーネットは微笑んで言う
「そうなのか?では それで構わない」
ベーネットとソニヤが ベーネットの部屋から出てザッツロードたちの下へ戻る ソニヤが宝玉をザッツロードへ手渡す その間にベーネットが部屋を眺めている その視線の先が部屋に置かれている机と椅子へ向けられ止まる 宝玉を受け取ったザッツロードがベーネットへ礼を言おうと視線を向け ベーネットの様子に気付き言葉を飲む 少し間を置き 俯いたベーネットが 気を取り直しザッツロードたちへ顔を向けて言う
「さて、宝玉も無事見付かった これでもう ここへの用は無いだろう?私も アバロンへ向かわねば」
ベーネットが言いながら部屋の出口へ向かう ザッツロードたちがそれに続く 部屋を出た所でベーネットが室内を返り見る ラナが言う
「扉が無くなってしまって…このままでは物騒なんじゃない?」
その言葉にベーネットが軽く笑って言う
「ああ、しばらくこの部屋は 封印することにしよう」
セーリアが問う
「封印?」
ベーネットが頷いて側面の壁のレンガを押す ザッツロードたちの近くで物音がする ザッツロードたちが驚いて辺りを見渡すと 扉のあった場所へ大量の土砂が落ちる 出入り口が塞がった事を確認してベーネットが振り返って言う
「これでしばらく 私を含め 誰も入る事が出来ない いつか… いや?もう開かれる事は 無いかもしれないな…」
ベーネットが言い終えると共にその場を後にする ザッツロードたちもそれに続く
城の門を出たベーネットとザッツロードたち ベーネットがザッツロードたちを振り返って言う
「ここでお別れだ、ザッツロード王子 世界を救う偉業 きっと成し遂げてくれ」
ザッツロードが言う
「はい、有難う御座います、ベーネット陛下」
ベーネットは頷き 魔法アイテムを片手に持ち移動魔法を唱え 程なくして姿を消す
ベネテクト国を後にしたザッツロードたち、次なる宝玉を保管する国スプローニ国へ向かう 道中 皆を振り返りソニヤが言う
「バーネット陛下の件は残念だったけど…ベーネット陛下も良い人だったわね?」
その言葉にザッツロードが頷いて言う
「うん、ベネテクト国の人々にとても期待されて… 僕とそれ程歳が違わないのに すごく凛々しく見えたよ」
ソニヤが苦笑して言う
「ザッツも国印が刻まれたマントを纏ったら ソコソコ良くなるんじゃないの?」
ザッツロードが苦笑する ミラが呆れながら言う
「そういう問題じゃなくて… まぁザッツは第二王子様だから ちょっと気合が足りないのよ …たまに少し出るみたいだけど?」
ザッツロードが衝撃を受け 苦笑して言う
「う…『たまに』か… はは… もう少し持続出来る様に 頑張るよ…」
ザッツロードがソニヤとラナの言葉に落ち込みながら2人から歩く速度を下げて遠ざかる 苦笑するセーリアが過ぎ その後ろを歩くヘクター(偽)とデス(偽)の所で落ち着く ヘクター(偽)が言う
「なぁ?宝玉ってよー?確か前の勇者の時に その魔力を使い切っちまったんじゃ無かったか?たった15年で復活すんのかよ?」
ザッツロードが答える
「完全ではないのだけど、その15年分の魔力を増幅する技術が出来たんだ それに…」
ザッツロードが言い掛けた所で 続きをデス(偽)が言う
「先代勇者が魔王の島に張った結界が …もう持たないらしい」
ザッツロードが驚いて言う
「え?!…どうしてその事を知ってるんだい?一般には発表されていないのに?!」
デス(偽)が少し間を置いてから答える
「以前… 少し機密を知る者に会い 聞いたんだ それと、犠牲にな… いや、何でもない」
デス(偽)が一度ザッツロードを見上げ 目を逸らして言葉を濁す ヘクター(偽)が首を傾げる ザッツロードが少し驚いて問う
「その『機密を知る者』と言うのは?」
ザッツロードに問われ デス(偽)が視線を逸らす ソニヤの悲鳴が響く
「きゃぁ!なに!?コイツ!!」
皆の視線がソニヤの前に現れたロボット兵に注がれる 故障したソルベキアのロボット兵が その通常の戦闘プログラムから外れ奇妙な動きをしている やがてそのロボット兵がソニヤに気付き 襲い掛かって来る ソニヤが悲鳴を上げる
「いやぁあ!来ないでー!!」
魔法の詠唱が間に合わないスピードで ロボット兵がソニヤへ襲い掛かる ザッツロードとヘクター(偽)が急いで剣を抜き助けに向かうが 間に合わない ザッツロードが叫ぶ
「ソニヤー!」
ロボット兵の攻撃を アンドロイドのデスが防ぎなぎ払う ザッツロードたちが驚いてそのアンドロイドのデスを見る そこへバッツスクロイツが現れ言う
「大丈ー夫かい?お嬢ーさん?」
ザッツロードたちがバッツスクロイツを見る バッツスクロイツが皆の視線に気付くとニッと笑い アンドロイドのデスへ命令を送る
「デス、そいつぶっ壊して良いぜ、AIイカレちまってるんだ… かわいそーだけど 楽にしてやれ」
バッツスクロイツがそう言って手を振ると アンドロイドのデスがロボット兵を攻撃 ロボット兵はあっけなくやられ その動きを止める ザッツロードたちが驚異的な力と速さに目を奪われている間に バッツスクロイツが地面に座り込んでいるソニヤへ手を差し伸べる ソニヤがそれに気付いて手を取って言う
「あ、ありが…とう…」
バッツスクロイツが笑んで言う
「いやいや、レディに優しくするのはとーぜん!」
ラナが疑問して言う
「『れでぃ』?」
バッツスクロイツがラナへ振り返って言う
「あれー?こっちじゃー 女の子の事『レディ』って 言わないのー?」
ソニヤが言う
「『こっち』ってどっちよ?」
バッツスクロイツが初めて知った様子で 空を見上げて言う
「へぇー… やっぱー ちょーっち 違ったりー?するんだー?」
独り言を言うバッツスクロイツの下へザッツロードたちが集まり ザッツロードが言う
「仲間を助けてくれて有難う!本当に 危ない所だった」
ザッツロードの言葉に 振り返ったバッツスクロイツが笑顔で言う
「だな!レディに先行させるなんてー あんた、ジェントルメンじゃないぜ?」
ザッツロードが問う
「じぇ…『じぇんとるめん』?」
ザッツロードが疑問し顔を引きつらせる バッツスクロイツがその様子に気付いて言う
「あぁー ジェントルマンも言わないーっかぁ… あ!あれだ、代名詞は気を付けないとー …だな?」
再び独り言を言うバッツスクロイツに ザッツロードたちが疑問する セーリアが呆気に取られて言う
「…変な人 ね」
思わず言ったセーリアに ザッツロードたちが驚いてから苦笑する そんなザッツロードたちに気付かぬまま視線を戻したバッツスクロイツが言う
「さて、んじゃ 俺たちはー?これで!気を付けろよ?この辺けっこー マシーンの残骸があるーって 感じだから!」
片手をひらひらさせ バッツスクロイツはアンドロイドのデスと共にその場を立ち去る ザッツロードが言い掛ける
「あ…」
思わず片手で追おうとしたザッツロードがその手を戻し首を傾けて言う
「『ましーん』って… 何だろう…?」
ザッツロードの仲間たちが ザッツロードの後ろで同じ様に首を傾げる
スプローニ城へ向かうザッツロードたち 城下町に人々の歓声が上がる 声のした方を向いてラナが言う
「何かしら 随分にぎやかね?」
皆が一度足を止めるが ザッツロードが言う
「分からないけど、とりあえず 先にお城へ行って宝玉を預かろう?確認はその後で」
ザッツロードの言葉にセーリアが頷く
「そうね、宝玉を預かる事が最優先だわ」
ソニアを除く皆が先行し ソニヤが慌てて言う
「あ!ちょっと 待ってよぉ~」
ソニヤが追いかける スプローニ城へ入るザッツロードたち その隣を大剣使いと黒いローブで全身を纏った人物が通り過ぎる それを目で追うソニヤ 皆が先に行き置いてかれそうになって ラナに呼ばれる
「置いてくわよ」
ソニヤが言う
「あ、もぉお~ 待ってったらぁ~」
ソニヤが慌てて追い駆ける 玉座の間入り口でザッツロードが衛兵に名乗ると 衛兵が問う
「うん?今回の勇者様はアバロンの大剣使いとは別行動なんだな?」
兵の言葉にザッツロードが疑問して言う
「え?」
もう1人の兵が「おいっ…」とザッツロードと話した兵を叱る様に声を掛け 首を横に振る その様子に会話をしていた兵があっと声を漏らすと 改めて言う
「いや、なんでもない 聞かなかった事にしてくれ」
言い終えると共に王へ来客を告げる
「ローレシア国第二王子、ザッツロード殿とお仲間の方々です!」
「通せ!」
「はっ!」
兵に合図をされ ザッツロードたちが玉座の間へ進み入ると 玉座に座るスプローニ国王の前へ跪きザッツロードが言う
「ローレシア国第二王子、ザッツロードです スプローニ国国王ラグヴェルス陛下、お目通りを有難う御座います」
ザッツロードの言葉に スプローニ国王が頷いて言う
「うむ、我がスプローニ国へよくぞ参られた ザッツロード王子… それとも 勇者ザッツロード殿とお呼びするべきだろうか?」
敬礼するザッツロード スプローニ国王が再び頷いて言う
「そなたがこの場所に来た理由は、言わずとも分かる しかし、時既に遅しだ 我が国の宝玉は アバロン国の大剣使いオライオン殿に託した」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?アバロンの…!?」
スプローニ国王が頷いて言う
「わしも悩んだ… しかし、オライオン殿であれ、勇者ザッツロード殿であれ、わしから見ればどちらも先代勇者とその仲間の血族 わしはそなたらが行うであろう事を 信じている」
ザッツロードが一瞬呆気に取られた後言う
「ラグヴェルス陛下… 有難う御座います!」
頭を下げるザッツロードへ スプローニ国王が続ける
「世界には 先代勇者ザッツロードとその仲間たちの行いが 間違いであったのでは無いかと疑う者も居る、しかし 魔王と強大な悪魔力を相手に戦い抜いた彼らを わしは誇りに思っておる そして その彼らは今も 島に残された仲間の事を想い嘆いておる 現代の勇者ザッツロード殿、どうか再び アバロン国の大剣使いオライオン殿と共に彼らを その苦しみから解放してやって欲しい」
スプローニ国王の言葉に ザッツロードは考えてから顔を上げ問う
「島に残されたと言うのは… ガルバディア国のプログラマーの事ですね?」
ザッツロードの問いにスプローニ国王が頷く ザッツロードが続ける
「ラグヴェルス陛下、ソルベキア国の調査の者が言うには その… 現在あの島に 生命反応は 無い… との事です 残念ですが 恐らく、そのプログラマーは もう…」
ザッツロードの言葉に スプローニ国王は静かに息を吐いて言う
「周囲を悪魔力に覆われ 日の光りも差し込まぬ結界の中で 15年の年月を生き抜ける者は… 到底居ないだろう その事は彼らも分かっている筈、それでも 共に戦った仲間の身体や魂があの島には今もある筈だ たとえ骨や塵になっていたとしても… その一欠けらでもこの大陸に帰してやれれば それで良い」
スプローニ国王の言葉に ザッツロードは頷き敬礼して言う
「はい!私は先代勇者の仲間を あの島から きっと救い出します!」
ザッツロードの言葉を聞いて スプローニ国王が深く頷く
「彼らに代わり、わしから頼ませてもらおう 勇者ザッツロード どうかよろしく頼む」
ザッツロードが言う
「はい!ラグヴェルス陛下!」
王との謁見をすませたザッツロードと仲間たちがスプローニ城から外へ向かう ソニヤがザッツロードを振り返って言う
「スプローニのラグヴェルス陛下は 変わってなかったね?」
ザッツロードが微笑して言う
「うん、スプローニのラグヴェルス陛下は 前回の時も勇者と仲間たちを信じてくれて… 結果的に失敗してしまったのにも拘らず また僕達に期待してくれた… その期待に今度こそ答えたい」
ザッツロードの言葉に仲間たちが頷く ザッツロードたちから離れて歩いていたヘクター(偽)とデス(偽) ヘクター(偽)が遠くを見て言う
「あ?あれ!アバロンの大剣使いじゃねーか?」
ヘクター(偽)の言葉にザッツロードたちが ヘクター(偽)の視線の先を見る 彼らの視線の先では オライオン&シュライツvsロスラグ の戦いが行われている ラナが言う
「ねえ、あの大剣使い ラグヴェルス陛下が言っていた アバロンのオライオンって人じゃない?」
ラナに続きソニヤが言う
「あー!そーだよ!あたし、さっきあの人お城の前で見たもん!」
ザッツロードが言う
「行ってみよう!」
ザッツロードの言葉に皆が頷いて走り出す
オライオンとロスラグが激しく戦っている ロスラグの発砲した銃弾をオライオンが大剣の側面で防ぎ 追ってそこへ振るわれる長剣を身を翻してかわす その様子を見てソニヤ、ラナ、セーリアが言う
「見てあの人!銃と長剣を!」
「両方使うなんて…」
「なんて器用な方なのかしら…」
ザッツロードたちの前でロスラグが 片手づつに持った銃と剣 両方の武器を使いこなす オライオンとロスラグの間合いが広がり 両者が一度間を置いて オライオンが言う
「お前、口だけじゃなくて中々やるじゃねーか!」
ロスラグが言う
「『口だけ』ってのは余計だ!今からでもかまわん!命が惜しければ 大人しくその宝玉を渡せ!」
ロスラグが言って 銃を肩に置き長剣をオライオンへ向ける ロスラグの言葉にザッツロードたちが驚き ソニヤが言う
「え!?あの人も宝玉を狙ってるの!?」
セーリアが言う
「一体 彼の先代は誰かしら?」
ラナが言う
「長剣使いのヴェルアロンスライツァー?それとも銃使いのロキ?」
ザッツロードが続けて言う
「もしかして… その両方だったり?」
仲間たちが驚いてザッツロードを向いてから 互いに顔を見合わせ ソニヤが言う
「た、確かに 両 方…?」
彼らの戦いが再開される オライオンが言う
「悪ぃけど!あんま遊んでる暇ねーから 相棒の力も使わせてもらうぜ?!」
オライオンが言うと今までオライオンの後方に離れていた 黒いローブを纏ったシュライツが空に浮かび上がる それを見てラナが言う
「まさかっあのローブの人!」
ソニヤが言う
「ガルバディアのウィザード!?」
シュライツが両手に炎を灯しオライオンの大剣へ放つ オライオンの大剣がそれを受け 大剣に炎が灯る それを見たロスラグが言う
「…アバロンの魔法剣士とは卿の事か!だが俺も負けんっ!」
ロスラグが左腕に取り付けている機械を操作し プログラムで出来た透明な盾を左腕に装着する オライオンの魔法剣を盾で防ぎつつロスラグが剣を振るう オライオンへ振るわれたロスラグの剣を シュライツがソードバリアを張って防ぐ そのまま戦いが続くが両者一歩も譲らない やがて息を切らした2人が地に膝を付き オライオンが言う
「はぁ、はぁ、…お前、器用な奴だな はぁ」
ロスラグが言う
「…はぁ、はぁ、卿こそ 本気の俺をここまで追い詰めるとは… 流石は アバロン国3番隊隊長ヘクターの息子 と言う所か…」
言い終えたロスラグが立ち上がり言う
「…卿になら 宝玉を預けられる、認めよう 行くが良い!」
オライオンも言いながら立ち上がる
「お?そっか?良かったぁ~」
オライオンがロスラグと握手して言う
「お互い宝玉を集めて いつか落ち合おうぜ!」
ロスラグが呆気に取られて言う
「…なるほど、それも良いか… よし!分かった!」
握手を終えたオライオンがシュライツと共にスプローニ国を後にする その後姿を見送ったロスラグが ザッツロードたちへ振り返って言う
「…それで?諸卿は俺に用か?さっきっから…」
ロスラグが長剣と銃を収納し腕の機械を操作してプログラムを終了させると言う
「ずーーっと見てたッスね?!チョー気になってたッス!」
ザッツロードたちがロスラグの傍へ行って自己紹介する
「あの、僕はローレシア国の第二王子ザッツロード7世です、後ろにいるのが…」
ザッツロードの言葉を制しロスラグが凄い形相で怒り 瞬時に剣と銃を向けて言う
「ローレシアのザッツロ…!?まさかっ お前か!…じゃなかった 貴殿か!勇者ザッツロードと言うのは!!」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え!?え!?い、一体…っ」
ロスラグが怒って言う
「貴殿が勇者ザッツロードなのか?と訊いている!答えよ!勇者ザッツロード!!」
ロスラグの行動に終始驚いていたザッツロードと仲間たち ソニヤが言う
「勇者ザッツロード~って 呼びながらザッツロードか?って質問してるよ?あの人」
ラナが呆れて言う
「…聞いている こっちの頭が おかしくなりそうだわ」
ザッツロードが焦りながら言う
「あの… はい、僕が3代目の勇者ザッツロードですが… あなたは?」
ザッツロードの言葉にロスラグが一度 目を見開き強く瞑り全身の力を上昇させながら言う
「俺は…私はっ!この日を待っていたぞ!勇者ザッツロード!我が師 スプローニ国第二部隊ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長の仇!彼らに代わりに このヴェルアロンロキスライグが取ってくれるっ!!」
ザッツロードが衝撃を受け焦って言う
「へ?ええ?いや…!?ちょっと待ってくれっ!?」
ロスラグが叫ぶ
「問答無用!いざっ参る!!」
言うと共にロスラグがザッツロードへ攻撃を開始する 遅れたザッツロードが呆気に取られる ロスラグの剣をヘクター(偽)が防ぐ ザッツロードがハッとして言う
「ヘクターっ!?」
ヘクター(偽)が言う
「ザッツ!早く剣を抜け!コイツ 言っても分かりそうにねぇよ!」
ザッツロードが慌てて言う
「で、でも…」
体勢を整えたロスラグが再び攻撃を開始する ヘクター(偽)がロスラグの銃弾を大剣の側面でふせぎ 続けて振り下ろされた長剣の攻撃を後方に回避 そこへ ロスラグが言う
「甘いっ!」
ロスラグが長剣の特性その長さを生かし続け様に突き攻撃 咄嗟に避けたヘクター(偽)の腕を傷つける ヘクター(偽)が悲鳴を上げる
「クッ!」
ザッツロードが焦って言う
「ヘクター!…仕方がないっ」
ザッツロードが言うと共に剣を抜いてロスラグへ斬り付ける ロスラグが銃を放つ ザッツロードが一瞬焦るが その銃弾がバリアに弾かれる ロスラグが視線をバリアを放ったラナへ向けラナへ長剣を振るう そこへソニヤの放った炎がロスラグへ向けられる それに気付いたロスラグが回避 ザッツロードたちから一度離れ 再び体勢を整える
ロスラグが自分の前に並んだザッツロードたちを見て 舌打ちをしてから左腕の機械を操作して剣に銃弾を打ち込む 剣に炎が灯される ザッツロードたちが驚いて言う
「あれはっ!」「魔法剣!?」
ロスラグが剣を振りかざしながら言う
「これでも食らえー!」
ロスラグが剣を振るうと 炎がザッツロードたち目掛けて襲い掛かる ミラがマジックバリアを張るが その炎を切り裂きロスラグがザッツロードへ斬り付ける ザッツロードが剣で防御 ロスラグへ襲い掛かろうとするヘクター(偽)ロスラグが銃をヘクター(偽)へ発砲 ソニヤの炎をロスラグが透明な盾で防ぐ ロスラグがザッツロード目掛けて攻撃を続ける セーリアがザッツロードへ先読みの魔法を放つ それを受けてザッツロードの回避率が上昇 しばらく戦いを続けて 再び両者の間合いが開く
ザッツロードの後ろでソニヤが言う
「ちょっと!あいつ変だけど強いよ!」
ロスラグが怒って 剣で示して言う
「『変だけど』は余計だ!そこの魔術師!」
ソニヤが怒って言い返す
「あたしは魔法使いよ!!」
ヘクター(偽)が言う
「けど、まじで 変だけど厄介な相手だぜ、どうする?」
ザッツロードがヘクター(偽)へ少し顔を向けて返事をしようとすると ロスラグが銃口をヘクター(偽)へ向けて言う
「おい!そこも!『変だけど』はお互い様だ!偽者大剣使い!」
ヘクター(偽)が焦って言う
「て、てめーっ!」
ザッツロードが ヘクター(偽)へ顔を向けて問う
「え?偽者って…?」
ザッツロードの問いに ヘクター(偽)が焦って言う
「え!?いや、あのっ…」
ロスラグが衝撃を受けて言う
「あー!!お前ら!俺を無視して 話してんじゃねーッス!」
ロスラグが左手の機械を操作して 銃を剣に放つ 再び剣に炎が灯る ザッツロードの仲間たちが戦闘態勢に戻りロスラグへ向く ロスラグが剣を握り締めザッツロードへ視線を向ける その剣の炎が弱まって消える ロスラグがハッとして言う
「あーっ!チャージが… クッ!ならば 実力あるのみ!」
ヘクター(偽)がロスラグへ武器を構えて言う
「い、今はそれ所じゃねぇーだろっ!」
ヘクター(偽)の言動に ザッツロードも剣を構え直して言う
「あ、うん、そうだね!」
ロスラグが剣を向けて言う
「勇者ザッツロードよ!このヴェルアロンロキスライグが成敗してくれる!!だあああ!!」
ロスラグが言うと共にザッツロード目掛け突撃するザッツロードが構える 剣を振り上げるロスラグ その剣が振り下ろされる前に ロスラグの剣と銃が横から押さえられる 皆が驚く中 ロスラグを押さえた人物ヴェルアロンスライツァーが言う
「何事かと来てみれば やはり貴殿だったか」
ロキが続けて言う
「…卿は何をしている?」
ロスラグが自分を抑えるヴェルアロンスライツァーとロキを確認して驚いて言う
「ロキ隊長!ヴェルアロンスライツァー副隊長!」
3人の様子を見てソニヤが言う
「…え?なに?どうなってるの?」
ラナも戦闘態勢を解除して言う
「あの2人」
セーリアが横に来て言う
「先代勇者に同行した ローゼント国のヴェルアロンスライツァーとスプローニ国のロキだわ」
ザッツロードとヘクター(偽)も武器を下ろして顔を見合わせる ロスラグがもがきながら言う
「は、離して下さいッス!ロキ隊長!ヴェルアロンスライツァー副隊長!こいつら 例の勇者ッスよ!また宝玉を狙って来やがったッスよ!」
ヴェルアロンスライツァーが言う
「それで、何故貴殿が応戦している」
ロキが呆れて言う
「…応戦では無く 卿が一方的に迷惑を掛けたのだろう」
ロスラグが言う
「お、俺はっ…」
ヴェルアロンスライツァーとロキがザッツロードたちへ振り向いて ヴェルアロンスライツァーが言う
「隊員が迷惑を掛けた、謝ろう」
ロキが言う
「…コレの事は気にせず 行ってくれて構わない」
ロスラグが言う
「『コレ』って言わないで欲しいッス ロキ隊長、ヴェルアロンスライツァー副隊長も 俺の事は名前で呼んで欲しいッス!」
ロスラグがもがきながら言う ヴェルアロンスライツァーがロスラグへ顔を向けて言う
「ならば貴殿は 我らへ己の名を教える事だ」
ロスラグが言う
「ヴェルアロンロキスライグッスよ!いっつも言ってるじゃないッスか!」
ロキが言う
「…本名とは思えん」
ロキが顔を背ける ヴェルアロンスライツァーが無表情に間を置いてから言う
「分かった、隊員A 大人しく訓練へ戻れ」
ロスラグが衝撃を受けて言う
「『隊員A』になっちゃったッスか!?せめてロスラグって呼んで下さいッス~」
ロスラグが半泣きでもがく ロスラグがそのまま2人に片腕ずつ掴まれ連れて行かれる ザッツロードがハッと我に返って言う
「あ、待って下さい!ロキ、ヴェルアロンスライツァー!」
ザッツロードに呼ばれ 2人が足を止める ロスラグがザッツロードを睨み付けて言う
「おいっお前!ロキ隊長とヴェルアロンスライツァー副隊長を 呼び捨てにすんじゃねえッス!」
ザッツロードがロスラグを押さえる2人に近づく ロキとヴェルアロンスライツァーが互いに顔を見合わせてから ロスラグを離し ザッツロードへ向き直りヴェルアロンスライツァーが言う
「私とロキに何か用だろうか?勇者ザッツロード」
ザッツロードがヴェルアロンスライツァーへ顔を向け問う
「あ…あの、僕たちは宝玉を集め魔王の島へ向かい 結界の修復を行うつもりです …えっと、急な相談なのですが、先代勇者ザッツロードと共に戦って下さった あなた方2人の助力を頂けると…」
ザッツロードが語尾を弱めて2人へ視線を向ける ソニヤが駆け付けて続ける
「そうよ!今回も力を貸して欲しいの!ね?良いでしょ!?」
ラナが走って来てソニヤへ言う
「ちょっと!礼儀をわきまえなさい」
セーリアもやって来て言う
「私たちが知らない魔王の事も 良くご存知なのでは と思います、どうか世界の為に 今一度勇者ザッツロードに力を貸して頂けないでしょうか?」
ザッツロードたちの言葉を聞いて ロスラグが叫ぶ
「だーれがローレシアのヘボ勇者になんかに 手を貸すもんかッス!さっさと国へ帰れッス!」
ソニヤが怒って言う
「アンタになんか頼んで無いわよ!」
ヴェルアロンスライツァーとロキがザッツロードから一度視線を外し ヴェルアロンスライツァーが言う
「申し訳ないが、貴殿からのお誘い 私は引き受けかねる」
ヴェルアロンスライツァーの言葉にソニヤが声を上げる
「そんなっ!」
ソニアに続きラナがロキを見上げて言う
「ロキ、このスプローニ国のある 世界を守るため、もう一度勇者に力を貸して貰いたいの」
ロキは無言で顔を横に振る ラナが驚いて言う
「そんなっ どうして?!」
ロキが答える
「…たとえ世界が救われても 帰るべき国を失っては意味が無い 俺は、スプローニ国を守る兵だ」
ロキの言葉を聞いてソニヤが叫ぶ
「なんでまた そっちに行っちゃってんのよ!?前は 世界が救われないと国も無くなっちゃう って言ったじゃない!?」
ソニヤの言葉を聞いたヴェルアロンスライツァーとロキが一瞬驚き ロキが言う
「…確かに、以前の時はそうだった だが、今は この国が危険に晒されている、俺はそれを知った上で 国を離れる事は出来ない」
ロキの言葉を聞いたセーリアがヴェルアロンスライツァーを見上げて問う
「あなたも このスプローニ国を守る為に?」
ヴェルアロンスライツァーがセーリアへ向き直って言う
「スプローニ国に危険が迫ったとあれば このヴェルアロンスライツァー、全力を持って 恩あるスプローニ国を守らせてもらう だが、それとは別に 私にはやらねばならぬ事もある 私にとってそれは 世界を救う事以上に値する」
ソニヤが驚いて言う
「世界を救う事以上!?」
ラナも声に出さないまま驚く 話を聞いていたザッツロードが頷いて言う
「…分かりました、ロキ、ヴェルアロンスライツァー、先代勇者への助力、当人に代わり 礼を言わせて貰います」
ザッツロードが敬礼を見せると ヴェルアロンスライツァーが軽い敬礼で返し ロキが無言で受け取る ヴェルアロンスライツァーが言う
「3代目勇者ザッツロード殿、貴殿の活躍を願う」
ロキが言う
「…精々励む事だ」
2人が立ち去り それをロスラグが追う ザッツロードが少し残念そうに微笑してから仲間へ振り返り言う
「残念だったけど しょうが無い …さぁ、シュレイザー国へ向かおうか?」
ザッツロードの言葉にソニヤ、ラナ、セーリアが頷く ザッツロードがヘクター(偽)とデス(偽)へ目を向けて言う
「そう言えば…?」
ヘクター(偽)がザッツロードの視線に 焦って言う
「あ!あのよ…?えっとぉ~」
ヘクター(偽)が隣のデス(偽)へ視線を向けてから 改めてザッツロードへ視線を戻して言う
「わりぃ!あのさ!?俺ら… この辺で抜けるわ!」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
ザッツロードと共に皆も驚き ソニヤが詰め寄って言う
「何で?そんな急に!?」
ヘクター(偽)が焦りながら 後ろのデス(偽)の下まで下がりつつ言う
「あ~ほら?俺も?この国で ちょと修行するってのも 良いかなぁ~?なんて?」
ラナが声を掛ける
「ちょ、ヘクター!」
ヘクター(偽)はデス(偽)の手を取り 逃げる様に走り去っていく ザッツロードが慌てて言う
「あっ!ヘクター!デス!」
ザッツロードが声を掛けるが 2人は振り返る事無く遠ざかって行く ザッツロードが言う
「ちゃんと お礼を… 言おうと思ってたんだけどな…?」
残されたザッツロードが頭を掻く
ソニヤが困った様子で言う
「え~!どうしよー!?」
ザッツロードが振り返り言う
「どうかしたのかい?ソニヤ?」
ソニヤが怒って言う
「どうかしたのかい?じゃないわよ!ヘクターが抜けちゃったじゃない!?」
ザッツロードが呆気に取られつつ言う
「え…?ああ、しょうがないよ?ヘクターたちにも用があるんだろうし」
ザッツロードの横に来てラナが言う
「しょうがない…と言うか、あのヘクターたちって最初から何だか様子がおかしかったのよね」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え?そうだったかい?」
ラナが驚いて言う
「まさか!?気付いてなかったって訳じゃ…」
驚くラナの横へセーリアが来て言う
「ま、まぁ…今はそれよりも なんとかシュレイザー国まで行って 宝玉を得ないと」
セーリアに顔を向けてザッツロードが頷き言う
「うん、ヘクターたちが抜けてしまって大変かもしれないけど みんなで力を合わせれば きっと何とかなるはずだよ」
ザッツロードが言うと共に歩き始める ソニヤが呆れて言う
「もぉ~何でそんなに楽観的なんだろ?先代勇者はもっと心配してたじゃな~い」
ラナが言う
「ザッツは先代じゃなくて現代の勇者様よ」
言いながらラナがザッツロードを追う セーリアも微笑み それに続く ソニヤが言う
「え~?ま、待ってってば~っ!?」
スプローニ国を出たザッツロードたち シュレイザー国へ向かう 道中 ザッツロードたちはソルベキア国のロボット兵と戦う ミラとソニヤが同時に魔法詠唱を行い ミラが言う
「ザッツ!ロボット兵には通常の魔法が通じないわ 私たちが魔力をあなたの剣に送るから!」
ソニヤが続けて言う
「受け取んなさいよ~!?」
ミラとソニヤがザッツロードの持つ剣へ炎の魔法を灯す ザッツロードが慌てて言う
「ふ、2人分の魔法は大きすぎるよっ!」
ザッツロードが剣に受け取った魔力の大きさに顔を歪ませる ザッツロードにロボット兵が襲い掛かる セーリアが叫ぶ
「ザッツ!危ないわ!」
ザッツロードが自分に襲い掛かるロボット兵へ視線を向け 魔力の強すぎる剣を必死に振りかざす ザッツロードの魔法剣でロボット兵が吹き飛ばされる 残りのロボット兵がザッツロードと仲間たちに襲い掛かる ザッツロードが剣を振るいロボット兵たちを引き付ける
「僕が引き付ける!その間に皆逃げるんだ!」
ソニヤが叫ぶ
「そんな事 出来る訳無いじゃない!」
ソニアが皆から離れたザッツロードの下へ向かう ラナが叫んでソニヤの後を追おうとする
「ソニヤ!」
その手をセーリアが掴んで言う
「ラナ!私たちで助けを呼びに行きましょ!」
ラナが振り返って叫ぶ
「助けって!?何処に!?」
その間にセーリアが移動魔法の詠唱を開始している ラナがザッツロードたちへ向けて叫ぶ
「ザッツ!ソニヤ!すぐ戻るから!必ず待ってなさいよ!」
ラナが言っている間に移動魔法が終了し2人が消える 2人が消えるのとほぼ同時にソニヤの魔法詠唱が終了し ザッツロードの剣に放たれる ザッツロードがロボット兵と戦う
ザッツロードが3体のロボット兵のうち 防御を行いながら1体を倒した頃 セーリアたちがアンドロイドのデスとバッツスクロイツを連れて帰って来る ラナがバッツの腕を掴んで叫ぶ
「あれよ!お願い!早く助けてあげて」
バッツスクロイツがのん気に言う
「オーケーオーケー!それじゃー デス?サクッっとやっちゃって!」
アンドロイドのデスがロボット兵へ視線を向け 武器を持って飛び掛る あっという間に2体のロボット兵が倒される ザッツロードとソニヤが呆気に取られる その前でアンドロイドのデスが武器を片付けバッツスクロイツの近くへ戻る ラナとセーリアがホッと胸を撫で下ろす ザッツロードとソニヤがやって来てザッツロードが言う
「先日に引き続き、助かりました」
バッツスクロイツが笑顔で答える
「ああ!スーパーデンジャラスな所だったな?だから言っただろー?この辺マシーンの残骸が多いから気をつけろーって?」
ザッツロードが頷いて言う
「はい、すみません、折角警告を頂いていたのに」
ザッツロードの謝罪をバッツスクロイツが笑顔で受ける それを見てザッツロードが皆へ問う
「ところで…?一体どうやって彼らを?」
ザッツロードの問いにバッツスクロイツが答える
「いやーまじで びっくりしたっよー?道端で休憩ーしてたらー?このレディたちが 空からー?飛んで来るーんだから!デスが止めなかったら?俺に直撃だったーっての!」
バッツスクロイツの言葉にセーリアが顔を赤くして両手で覆って言う
「ご、ごめんなさい、焦っていたものだから つい…」
ラナが苦笑しながらフォローする
「まぁ、あの状況じゃしょうがないわよ、咄嗟に彼らの事を思い出せただけでも大したものだわ」
ザッツロードも微笑んで言う
「うん、本当に セーリアの機転が無かったら 僕たちはあのままロボット兵にやられてた ありがとう、セーリア、ラナも」
ラナが苦笑して言う
「私は…何も…」
視線を下げるラナにセーリアが言う
「ラナが必死にお願いしてくれたのよ?私だけだったら 連れて来られなかったかも知れないわ」
セーリアの言葉を聞いてバッツスクロイツが笑って言う
「ああ、そっちのレディの 涙の訴えーに コロッとねー?」
バッツスクロイツの言葉にラナが顔を赤くして怒る
「ちょっ!」
バッツスクロイツがにやにや笑う 皆が笑う ひと段落して ザッツロードが改めてバッツスクロイツへ向いて言う
「2度も助けてもらって 本当に有難う …あ、僕はザッツロード こちらがソニヤ、ラナ、セーリア 君達は?」
ザッツロードの言葉に バッツスクロイツが笑顔で自分を親指で指して名乗る
「俺はバッツ、こっちはデスだ」
ソニヤとラナが声を合わせて驚く
「「デスー!?」」
バッツスクロイツがそれに驚く
「え?」
バッツスクロイツが改めて言う
「あ~正式にはDemonic Subaltern Uhlan試作0号機なんだよ、だから頭とってDeSU デスって事なんだけどー…」
バッツスクロイツが得意げに言ってザッツロードたちを見る ザッツロードたちがポカーンとしている それに気付いたバッツスクロイツが空笑いしながら言う
「えーっと、ちょっちこっちの世界じゃ難しかったかな?はは…あぁ、ついでに俺は バッツスクロイツってのが本名だけど、まーバッツで良いから?」
バッツスクロイツが片手をひらひらさせて言う ザッツロードたちが何とか平常心に戻り ソニヤがアンドロイドのデスを見上げながら言う
「えーっと、それじゃバッツ、このロボット兵はソルベキアのロボット兵なの?随分形が違うけど」
ソニヤの問いに 一度ソニヤへ視線を向けたバッツスクロイツがアンドロイドのデスを見上げて言う
「いや、違うぜレディ、コイツはそのロボット兵ってのとは違う 俺はー そのソルベキアって国は 知らないんだけどさ、その国が造ったって言うあのロボット達の事ならある程度は分かってる あいつらは動力エネルギーが空気中の電子だろ?けど、デスは俺たちと同じ、水や食料をエネルギーに変換してるんだ だからエネルギー変換用のシステムが小型化出来て、より人間に近いサイズに出来る …それとソートプロセッサーをAIと分離してないなんて、俺から見るとナンセンス!これじゃいつまでたっても…」
バッツスクロイツがペラペラ話す ザッツロードたちは理解出来ず 顔を引きつらせる それに気付いてバッツスクロイツが話を止めて言う
「あぁーゴメンゴメン、メカの話になるとつい」
バッツスクロスが言いながら頭を掻く ザッツロードが改めて問う
「とりあえず、ソルベキアのロボット兵とは違うって事と、とても強いって事は分かったよ」
バッツスクロイツが頷きながら言う
「おーけー!それで十分だ」
ザッツロードがバッツスクロイツの正面から言う
「それで、何度も助けてもらっておいてこんな事言うのも難だけど どうか1つ 頼まれて欲しいんだ シュレイザー国まで 僕らと一緒に来てもらえないだろうか?」
ザッツロードの言葉にバッツスクロスはザッツロードの仲間たちへ一度視線を巡らせてから言う
「もーちろん!この先も危険だーって分かってるのにー?そこへ レディたちと アンタ1人を行かせるーだなんて事、出来っこナッシングーってね?」
ザッツロードと仲間たちが喜び ザッツロードが言う
「助かるよ!これで安心だ!」
ザッツロードの言葉にバッツスクロイツがうんうんと頷く
シュレイザー国の城下町へ入ったザッツロードたち バッツスクロイツが初めて見るその風景に歓声を上げる
「すげー!見ろよデス!あれ船だぜ!?木造で!ホントに海の上に浮いてるなんてー すげー感動だ!それにあの家!家も木で出来てるぜ!?ウッドハウスってまじで!超ナチュラルって感じー?」
この世界で普通の事に驚き感激するバッツスクロイツを ザッツロードたちが不思議そうに眺め ソニアが言う
「ねぇザッツ、バッツって…なんか変」
ソニヤの言葉に苦笑しながら ザッツロードが言う
「あ…はは… ま、まぁ良いんじゃないかな?船を見るのが初めての人は 居るだろうし…」
ラナが言って首を傾げる
「船を見るのが初めてなのは分かるとして… 木で造られた家が無い国なんて それこそ無いはずよ?」
セーリアが同じく苦笑しながら言う
「ま、まぁまぁ、シュレイザー城へ行きましょ?ね?」
ザッツロードたちがシュレイザー城へ向かう 城内へ入り玉座の間の前へ辿り着くと中からオライオンの声がする
「あんたが持ってたって何の役にも立たないだろ!俺に渡せって!」
続いてシュレイザー国王の声が続く
「い、嫌じゃ~ 宝玉は わ、渡さんぞぉ~」
ザッツロードたちが顔を見合わせ入り口前の衛兵へ名乗る
「私はローレシア国第二王子のザッツロード7世です、シュレイザー国王陛下へ謁見をお願いします」
ザッツロードの言葉を聞いた衛兵が シュレイザー国王へ進言する
「ローレシア国第二王子ザッツロード7世殿です!」
その言葉に シュレイザー国王が答える
「あぁあ~~ な、何という事だ ま、また勇者殿がぁ~… と、通せ~~」
玉座の間へ通されたザッツロードたち 中へ入ると シュレイダー国王の前に居るオライオンが振り返る ザッツロードがオライオンの隣に跪く、隣のオライオンがザッツロードへ向く ザッツロードがシュレイザー国王へ敬礼して言う
「ローレシア国第二王子ザッツロード7世です」
ザッツロードの言葉を聞いたオライオンが言う
「ローレシアのザッツロード… もしかして勇者ザッツロードか!?」
オライオンの言葉にザッツロードが顔を向けて言う
「ああ、君がアバロン国の大剣使いだね?名前は…確かオライオンだったかな?」
二人の前でシュレイザー国王が玉座に身を縮めながら言う
「ど、どっちにも渡さん~~ わ、渡さんぞぉ~~」
それを聞いたザッツロードが驚いて言う
「え?!シュ、シュレイザー国国王陛下、私は魔王の島の結界を再生させる為、その宝玉をお借りしたく」
ザッツロードがそこまで言うと シュレイザー国王が顔を横に振って言う
「い、嫌じゃ~~ ど、どうせまた失敗するのであろ~~? そ、そうに決まっておる~~!」
言いながら宝玉を両手で握り締めて 玉座に縮まる ザッツロードが焦って言う
「いいえ!宝玉が無ければ 結界が壊れて悪魔力が世界に溢れてしまいます シュレイザー国国王陛下!どうかその宝玉を私にお貸し下さい その宝玉の力が必要なのです!」
ザッツロードが言うと 今まで縮まっていたシュレイザー国王が ザッツロードへ顔を向けて言う
「そ、それは困る… し、しかし~~ お、おい、 そっちの~~ ボウボウ頭!お、お前も宝玉で ま、魔王の島へ い、行くと言うておったな?ど、どっちが し、失敗しないのだ~~?」
シュレイザー国王の言葉にザッツロードが隣のオライオンを振り向く オライオンがその視線に気付いて言う
「あ?ボウボウ頭って… 俺の事か?」
ザッツロードが苦笑し シュレイザー国王が頷く オライオンが言う
「俺が魔王をぶっ倒す!!」
ザッツロードが驚いて言う
「な!?魔王は倒せないよ!?」
オライオンが疑問して言う
「あ?」
ザッツロードが説明する
「魔王は悪魔力に操られているんだ、悪魔力がある限り 魔王はその動きを止める事が無いんだよ」
ザッツロードの言葉を聞いてオライオンがニヤッと笑って言う
「なら!その悪魔力を止めれば良いんだろ?」
オライオンの言葉にザッツロードが首を傾げて言う
「止めるって!?今のところ結界で防ぐしか無いはずだよ」
オライオンが言う
「あ?結界で?んな事したら また犠牲になる奴とか出んじゃねーか?!親父が言ってたぜ?10年しかもたない筈だった結界が10年以上ももってるのは 親父の相棒のプログラマーが 凄いプログラムで結界を守ってるんだって」
ザッツロードが驚いて言う
「それは本当かい!?」
シュレイザー国王が慌てて言う
「お、おい、 よ、余を無視して~~ ふ、2人で話すでない~~っ」
シュレイザー国王の言葉を無視して ザッツロードが驚いてオライオンに詰め寄る オライオンが得意げに言う
「ああ!だから、親父はそのプログラマーを助ける為に旅に出たんだ!俺も親父の手助けをする為に旅に出た!まずは魔王の島に居る親父の相棒を助けて、今度こそ魔王の奴を倒してやるんだ!…って事で!」
そこまで言ったオライオンがシュレイザー国王へ向き直って言う
「シュレイザー国王!その宝玉は俺がもらってくぜ!」
勢い良く言われ ビクリッと身を震わせるジュレイザー国王 オライオンとザッツロードを交互に見てから言う
「わ、分かった ほ、宝玉を~~ か、貸してやる、 で、で? ど、どっちが~~ ほ、本当に成し遂げるんじゃ? だ、だいたい~~ な、なんで アバロンのボウボウと勇者が べ、別々になっちょるんじゃ?」
シュレイザー国王が2人を交互に指差しながら問う ザッツロードとオライオンが顔を見合わせる その様子にシュレイザー国王が問う
「ふ、2人に分かれておったら~~ ど、どっちに預けたらよいか~~ わ、わ、分からんっ」
顔を見合わせていたザッツロードがオライオンへ言う
「オライオン、悪魔力を止める手があるのかい?宝玉に蓄積された聖魔力は前回より少ないんだ、とても悪魔力を止めるなんて」
言われたオライオンは 一度ザッツロードから視線を落とし 再び戻してから言う
「出来るかどうかは分からねーけど、親父の相棒のプログラマーを助けるには まず、あの島に入らなきゃいけねー その為に宝玉が必要なんだ」
オライオンの言葉にザッツロードが驚いて問う
「あの島に入るのに 宝玉が必要なのかい?」
ザッツロードの言葉にオライオンが驚く
「あ!?何言ってるんだよ?魔王の島の悪魔力はすげー濃度が高くなっちまったから 宝玉が無ければ 島に近付く事だって出来ねーんだぜ!?」
オライオンが言いながらシュレイザー国王を振り向く シュレイザー国王がうんうんと頷く
「よ、余とて~~ し、知っておるわ~~!だ、だから~~ あの島の調査は~~ ぜ~~んぜん はかどらないんじゃ~~」
シュレイザー国王の言葉にザッツロードが驚き 視線を落として言う
「そんな重要な事… 何故 父上は教えて下さらなかったのだろう…」
独り言を言うザッツロード それをオライオンとシュレイザー国王が見下ろし オライオンがシュレイザー国王へ言う
「シュレイザー国王!これで分かっただろ!?俺に預けるべきだって!」
ザッツロードが慌てて言う
「!?ま、待ってくれオライオン!」
オライオンは立ち上がってシュレイザー国王へ詰め寄る シュレイザー国王は後退りながらも言う
「わ、分かった~~ ボ、ボウボウ! お、お前に あ、預けてやるわ!」
ザッツロードが慌てて声を掛けるが
「シュレイザー国王!?」
ザッツロードの目の前でシュレイザー国王からオライオンへ宝玉が渡される オライオンが受け取った宝玉を見て1つ頷くと ザッツロードへ向きニッと笑って言う
「俺に任せとけって 3代目勇者!」
オライオンが自信を持って言う そのオライオンへシュレイザー国王が言う
「おい~~っボ、ボウボウ~~!お、終ったら ちゃ、ちゃんと~~ 返すのだぞ~~?ぞ?」
シュレイザー国王の言葉に 振り返ったオライオンが頷いて言う
「ああ!ちゃんと返してやるよ!」
シュレイザー国王が言う
「そ、そうか~~、うんうん、それなら さ、さっさと~~ 行って参れ~~~、ほ、ほれっほれっ」
シュレイザー国王がオライオンを手で払う オライオンは苦笑しながらも出入り口へ向き ザッツロードへ声を掛けると共に走り出す
「じゃあなー!」
ザッツロードが慌てて言う
「オライオン!待ってくれ! あ、シュレイザー国王陛下 失礼致します!…オライオン!」
シュレイザー国王への挨拶もそこそこにザッツロードが走ってオライオンを追いかける ザッツロードの仲間たちが驚く中 ザッツロードとオライオンが両サイドを走り抜けて行く ソニヤが慌てて言う
「ちょ、ザッツ!待って!」
仲間たちも急いでその後を追う
ザッツロードが叫びながらオライオンを呼び止める
「オライオーン!」
オライオンが仕方なく町中で立ち止まり振り返って言う
「何だよー?しつこい勇者だなぁ」
そこへ息を切らせながらやって来たザッツロードが立ち止まり息を整えながら言う
「はぁ、はぁ、き、君は、その宝玉で 何を する気なんだい?」
ザッツロードの問いに オライオンが溜め息を吐いて言う ザッツロードの仲間たちが追いつく オライオンが全員を見渡しながら言う
「だから!言っただろ?この宝玉を持って魔王の島へ行って 親父の相棒を探し出すんだ!世界一の大剣使いの親父と 世界一のプログラマーのデスが居れば!きっと お前の言う悪魔力を止める方法だって分かる!魔王だってぶっ倒せるぜ!」
オライオンの言葉に顔を横へ振ってザッツロードが言う
「しかしっ 悪魔力を止める方法が分からないのに 今その宝玉の力を使い切ってしまったら その後はどうするつもりなんだい!?」
ザッツロードの言葉に オライオンが少し考えてから言う
「んなの分かんねーけど 親父の相棒のプログラマーなら きっと 残った宝玉だけでも 何とかしてくれるって!」
ソニヤが驚いて言う
「そ、それじゃ!何の対策も無く行動しちゃおうって事なの!?それで 何とか出来なかったら どうするつもりなのよ!?」
ソニヤの言葉に 視線を合わせ間を置いたオライオンが言う
「それはー …まぁ どうしようもねーな!」
ザッツロードたちが驚いて言う
「えぇえ!?」
ザッツロードがオライオンに詰め寄って言う
「ど、どうしようもねーって 大変な事じゃないか!?」
オライオンが明後日の方向を見ながら言う
「どーしよーもねぇ事は どーしよーもねぇんだよ、これしか親父の相棒のプログラマーを助ける方法がねーんだから」
オライオンの言葉にラナが言う
「さっきから貴方の言う 父親の相棒のプログラマーって 15年前に魔王の島に残った ガルバディアのプログラマーの事でしょ?」
「ああ、そうだぜ?」
腕組みをしながらラナへ向いて言うオライオン その隣でセーリアが言い辛そうに言い掛ける
「しかし、その方は…もう」
そこまで言い掛けた時 遠くの方から声が聞こえる
「おにーちゃーん」
その場にいる全員が声の方を向く オライオンが驚いて声を上げる
「ミーナ!ニーナ!なんでお前達がっ!?」
2人の少女(ミーナ、ニーナ)が後ろに仲間を引き連れオライオンの下まで走って来る オライオンが2人の仲間を見ると共に片方の少女の腕に触れる ニーナが笑顔でオライオンの手を取る もう1人の少女がオライオンへ言う
「まさかこんな所で会えるなんて、何故 兄さんがシュレイザー国に居るの?」
オライオンが驚いて言う
「お前らこそっ!何でアバロンから出たんだよ!?危ねぇじゃねーか!」
オライオンが半ば怒った様子で言う オライオンの手に触れているニーナが言う
「私たち、お兄ちゃんがアバロンを出てから 私たちもお父さんのお手伝いしたいと思って ローレシアに向かったの」
オライオンが驚いてニーナへ怒鳴る
「ローレシアだって!?なんでローレシアなんかに!?」
ミーナが言う
「ローレシア領域なら魔物もそれ程強くないし、それに兄さんが東へ向かったって事は分かってたから 逆側へ行ったのよ」
ニーナが続ける
「でも、道に迷っちゃって 迷い込んだ村で リーザたちに会ったの、とってもお世話になったのよ」
ニーナが言うと共にもう片方の手を後ろに居た仲間へ向ける 仲間の中で一番前に居たリーザロッテがその手を取ってオライオンへ微笑んで言う
「初めまして、アバロン国3番隊隊長オライオン 私はリーザロッテ 後ろにいるのは仲間のレイト、ヴェイン、ロイとシャルよ」
言うと共にリーザロッテがオライオンへ握手を求める オライオンが一度ミーナとニーナに視線を送ってから 握手を受け言う
「よろしく!妹達が世話になったみてぇーで ありがとな!」
リーザロッテが微笑んで言う
「私たちこそ 助かったわ」
挨拶を終えたリーザロッテが ザッツロードへ視線を向ける ザッツロードがハッとして言う
「もしや、ツヴァイザー国のリーザロッテ王女では!?」
ザッツロードの言葉にソニヤが驚く
「え!?王女様!?」
ラナが考えながら言う
「通りで、聞いたことある名前だと思ったのよね」
ザッツロードへ向いたリーザロッテが言う
「ええ、ところで貴方の持つその剣の柄にある国印… 貴方がローレシア国の勇者ザッツロードね?初めまして、でも 初対面で悪いのだけど 私たちローレシアとローレシアの勇者様には もう、うんざりしてるのよ」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
リーザロッテが片手を腰に置いて機嫌悪そうに言う ザッツロードが疑問する リーザロッテの後ろに居たレイトが言う
「我らは先日!ローレシア国において!不条理に命を狙われた!今回の事はツヴァイザー国とローレシア国の国家問題… いや!世界的な問題となるであろう!」
レイトが持っている槍の柄で地面を叩いて語尾を強める リーザロッテもそれを肯定する様に一度頷く ザッツロードが驚いて言う
「そんなっ!一体何があったのですか!?」
リーザロッテが怒って言う
「何が ですって?白々しい!それこそ何が『ローレシアの勇者様』よ、あんな歴史を知っていて尚 勇者だなんて名乗って世界を回れる 貴方の気が知れ無いわ」
リーザロッテが言って顔を背ける ソニヤが怒って言う
「ちょっと何よ!さっきっから一方的に!理由も言わずに人を悪く言うなんて 貴女何様よ!?」
ソニヤの横に居たラナが言う
「何様かと言えば 一応、お姫様 なんじゃないの?」
それを聞いたソニヤが 一瞬焦りすぐに怒りに戻って言う
「お姫様だからって何よ!人として礼儀くらいわきまえたら!?」
ソニヤがリーザロッテを指差して声を上げると リーザロッテの後ろに仕えていたレイトが ソニヤへ向けて怒って言う
「無礼者!貴様!リーザロッテ様に何たる物言いを!」
レイトの怒りにソニヤが一瞬怯えるが何とか体制を立て直す リーザロッテがレイトを押さえて言う
「良いわ、ならこの場で言ってあげる ローレシアの勇者様とお仲間さん、私たちは歴史から消された竜族の村で 115年前のローレシアと勇者様の本当の話を教えて頂いたのよ」
ソニヤが言う
「竜族の村!?」
ラナが言う
「そんな村があるなんて…聞いた事も無いわ」
ソニヤとラナが顔を見合わせる リーザロッテが2人を見て言う
「面白いわよね?竜族の村はローレシアの隣国デネシア領域にありながら ローレシアによる入村禁止令が敷かれていたのよ? 私たちも、他の助力が無ければ それを切り抜ける事は出来なかったでしょうね」
仲間たちがザッツロードへ視線を向ける ザッツロードは驚いた様子 それでも気を取り直して問う
「そんな村が有るなんて…私は知りませんでした それに 115年前のローレシアと勇者の本当の話というのは?一体どう言う事ですか?」
ザッツロードの問いに リーザロッテが微笑んで言う
「115年前の勇者 ローレシア国の王子ザッツロードはキャリトール、テキスツ、ソイッドの魔法に秀でた仲間とアバロンの大剣使い、そして竜族の代表を仲間に 悪魔力の調査を行ったのよ 彼らはその調査の間に世界各国に奉られていた聖魔力の結晶 宝玉の存在を知り 同時に現代私たちが魔王の島と呼んでいるあの島の存在も知ったの」
オライオン含むザッツロードと仲間たちはリーザロッテの話しに聞き入っている リーザロッテは彼らを見渡してから続ける
「当時は船の技術が今ほど整っていなかったから 彼らは仲間の竜族の背に乗って島へ向かったそうよ、あの島の存在を知っていたのは当時空を自在に飛び回ることの出来た竜族だけだったらしいわ そして、島へ辿り着いた勇者と仲間たちは その島から悪魔力が噴出している事を知った」
リーザロッテの話に ソニヤが声を上げる
「それじゃ、やっぱり魔王の島に居た魔王が 世界を手に入れるために悪魔力をばら撒いていたって事?」
ソニヤの言葉にヴェインが笑う
「ふっ 島からは悪魔力が噴出していただけで、魔王などと言うものは 端から存在しない!」
ヴェインの言葉にソニヤとラナが驚き ラナが言う
「魔王は居ない …ですって?」
ラナが思わず言葉を溢す リーザロッテが会話を止めさせる
「その件は話の続きを聞いていけば分かるわ」
リーザロッテの言葉を聞いて 皆の視線がリーザロッテへ戻る リーザロッテが続ける
「ザッツロード王子から報告を受けた当時のローレシア国国王は 王子からの情報を各国へ配信、同時に悪魔力を封じる為 各国に奉られている聖魔力の結晶である宝玉を貸し与えて欲しいと打診した 結果 貸し渋る国もあったらしいけど、全ての国が承諾して、ザッツロード王子が自らそれを受け取りに世界を回ったそうよ しかし、問題はここから」
リーザロッテがザッツロードへ向き直って言う
「世界各国の宝玉を得たローレシアの王は その集められた宝玉の底知れない魔力の大きさに魅入られてしまった そして、ローレシアの王は宝玉の力を使い 自らが世界の王となる事を求めるようになり、世界的な大戦争が起きた これがローレシアと勇者様の真実よ …勇者だなんて、ただ各国から宝玉を預かるためだけの単なる称号だったわけね?他国から見れば、宝玉を奪って 戦争の引き金を作り出した大嘘吐きよ?それに、ザッツロード王子が見つけたとされる島の存在を知っていたのは 元々竜族だった訳だしね?」
リーザロッテの話を聞いてザッツロードが視線を落とすがハッと気付いて問う
「確かに、お話がそれで終わりなら勇者はただの称号で、各国との約束を不意にした嘘吐きです しかし、私の前の先代勇者たちが魔王の島へ行った時 あの島の悪魔力は確かに聖魔力の結界によって封じられていたのです!ローレシアが宝玉を私利私欲のために使ったのだとしたら 他国に宝玉は無かったはず だとしたら あの結界は一体誰が?!」
ザッツロードの問いを正面から受けたリーザロッテが微笑して言う
「良い質問だわ勇者ザッツロード、でも期待しないで頂戴?その時のザッツロード王子が張ったのでは無いわ!さっき彼女が聞きたがっていた魔王もここで登場よ」
リーザロッテが言いながらソニヤへ視線を向ける ソニヤがリーザロッテに同じ様に視線を向け返す リーザロッテが言う
「宝玉は全ての国や町から王子の手を経てローレシアへ渡されていた、ただ1つを除いて… その1つは竜族の村にあったの 竜族はその宝玉の魔力のお陰で 竜や人の姿へ自在にその身を変える事が出来た 勇者たちを連れて魔王の島まで行く任を請け負っていた彼らは宝玉をローレシアへ渡す事無く その宝玉は竜族の村に残されていたのよ」
リーザロッテの話を聞きソニアが声を上げる
「それじゃ!」
リーザロッテが頷いて言う
「竜族はローレシアと勇者に代わり その宝玉を持って島へ行き 宝玉と何人もの竜族たちの力で悪魔力へ結界を張った …そして、勇者と共に旅をした 竜族の青年がその結界の防人として島に残ったのよ 分かる?あろう事か… 先代勇者たちが傷つけた魔王と呼ばれたドラゴンこそ その結界を守っていた竜族なのよ!」
ラナが思わず叫ぶ
「そんなっ!」
ソニヤが続く
「嘘よ!!」
ソニヤがリーザロッテへ掴み掛かって言う
「そんなの嘘よ!あのドラゴンがっ …結界を守っていた竜族だなんて…」
ソニヤが言いながら力を失い リーザロッテの服を掴んだまま悔しそうに頭を下げる リーザロッテをソニヤから守ろうとしていたレイトをリーザロッテが手で制し、視線をザッツロードへ向ける ザッツロードが視線を落としたまま言う
「…では あの声は やはりドラゴンが… その竜族の青年が 先代勇者ザッツロードへ 警告していたと言う事なのか…」
言葉を失うザッツロードたち リーザロッテの後ろにいるロイが彼らの様子を見て言う
「…現代の勇者たちは 真実を知らなかったらしい」
ロイの隣にいるシャルロッテが続ける
「そ、そそそそんなっ ゆ、勇者様はっ ローレシアの王子様なのにっ な、何も知らずに居たなんてっ 信じられないですぅ!」
シャルロッテへ顔を向けヴェインが言う
「ではこの様は芝居か?…ふっ だとしたら 大した名役者だな?」
彼らの言葉を聞いてリーザロッテが ソニヤの手を自分の服から離しつつ言う
「そして、それを知った私たちが 真相を確認する為 ローレシアへ向かった所 命を狙われた… 口封じの為でしょうね?」
リーザロッテの言葉にザッツロードたちが顔を上げる 今まで黙っていたオライオンが叫ぶ
「ちょっと待て!口封じのために命を狙われたって!?まさかお前らもっ!?」
オライオンが言いながらニーナとミーナへ視線を向ける 2人が頷く ミーナが言う
「悪魔力が噴出する部屋に入れられて、閉じ込められたのよ!」
ニーナが言う
「意識が遠くなって…もう死んじゃうのかと思って…怖かったの」
2人の話を聞いたオライオンがザッツロードを睨み付ける 皆の視線がザッツロードへ向けられる ザッツロードが呆気に取られて言う
「父上が…?ローレシアが…?そんな… そんな話は 僕は 何も知らず…」
オライオンが怒って叫ぶ
「てめー この野郎!何が勇者だ!よくも妹たちを!」
オライオンが怒ってザッツロードの襟首を掴む ソニヤがオライオンを押さえて言う
「待ってよ!ザッツは関係ないわ!あんたの妹たちを危険な目に会わせたのは ローレシアのキルビーグ陛下でしょ!?」
オライオンがソニヤへ顔を向け怒鳴る
「その国王はコイツの親父だろ!こいつ!父親と結託してまた宝玉を集めて回ってたんじゃねーか!お前らも!勇者の仲間も同じだぜ!!」
オライオンの言葉にラナが一歩出て言う
「それは濡れ衣だわ!私たちは そんな歴史なんて知らなかった!先代の魔術師だって知らなかったのよ!」
セーリアがオライオンへ向いて言う
「オライオン、きっと貴方も貴方のお父様も知らなかったはず、先代勇者と仲間たちは そんな歴史を知らなかったから 魔王の島の結界を解いてしまったのでしょう?」
オライオンが振り向いて言う
「わかんねーぜ!?親父はともかく、あの時だってローレシアがあの島に魔王が居るから討伐するんだって言って 戦いを始めたんだ!いつの時代だってローレシアが悪事をするんだろ!」
ザッツロードが視線を落としたまま大声で止める
「やめてくれ!!」
オライオンへ反論しようとしていたザッツロードの仲間たちや その場に居た者が黙ってザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが顔を上げ 静かに言う
「オライオン、君の妹達をローレシアが危険な目に会わせたと言うのであれば ローレシアの王子として僕は謝る、無事で何よりだった そして リーザロッテ王女 貴女方にも大変な事を…」
ザッツロードの謝罪にリーザロッテは腕を組んで言う
「まぁ、謝って済む事では無いけれどね?」
ザッツロードが頷いて言う
「はい、事実の確認をした上で後日正式にローレシア国から謝罪と賠償をさせます そして、115年前の真実…僕は勿論、仲間たちも本当にその話を知りませんでした これは嘘偽り無い本当の事です 僕たちは…そして先代勇者ザッツロード6世たちも その竜族の事やローレシアが起こした戦争の話を知りませんでした リーザロッテ王女を疑う訳では有りませんが、そのお話は僕がローレシアへ戻り、改めて確認をさせて頂け無いでしょうか?」
ザッツロードが真っ直ぐにリーザロッテを見つめる リーザロッテが言う
「良いわ、精々確認して頂戴 ただ、貴方やローレシアが何と言おうと 私たちは私たちが知り得たこの歴史こそ真実であると確信しているの 私はその上で世界を救う為の旅を続けるわ!」
リーザロッテの言葉にレイトが反応してリーザロッテへ言う
「ひ…姫様、それではまだツヴァイザーへは …お戻り 頂けないのでしょうか…?」
リーザロッテがレイトへ向き直って言う
「当たり前じゃない!ローレシアの勇者話があんな歴史だったと知った以上 本当に世界を救う勇者は ツヴァイザーから生まれるのよ!」
リーザロッテの言葉を聞いた リーザロッテの仲間たちが苦笑の表情を浮かべる リーザロッテがザッツロードへ向き直って言う
「と、言う訳だから 貴方はもうお役御免よ、さっさと国へ帰って大人しくしているのね」
リーザロッテが言うと共に立ち去ろうと背を向ける ニーナが声を掛けて止める
「リーザっ」
リーザロッテがニーナの声に振り返り ニーナとミーナへ向けて言う
「ニーナ、ミーナ、貴女たちと会えて本当に良かったわ、お父様によろしくね?」
リーザロッテと仲間たちが立ち去る ソニヤがザッツロードを見上げて言う
「ザッツ、ローレシアに戻るの?」
ザッツロードがソニヤへ頷いて言う
「うん、あの話が真実なのか… いや?父上が 本当にそれを知った上でリーザロッテ王女やオライオンの妹たちに酷い事をしたのか 全て確認しないと… それに、もし あの歴史が史実であったなら リーザロッテ王女の言う通り 僕は …勇者だなんて 名乗れないよ」
ソニヤの隣へ来てラナが言う
「私たちも、事実が分からなければ 勇者の仲間と胸を張っては言えないわね」
ザッツロードとソニヤがラナを見る セーリアがザッツロードの隣に来て言う
「それじゃ、ローレシアへ向かいましょ?」
セーリアの言葉にザッツロードと仲間たちが頷く オライオンが妹たちを連れて歩き出す ザッツロードがそれに気付いて声を掛ける
「オライオン」
立ち止まったオライオンが振り返らずに言う
「俺は、過去の歴史なんか どーでも良いんだ、俺がやる事は変わんねーからな」
言うと共に歩みを再開させ ミーナがザッツロードたちを振り返る中 オライオンと妹達が立ち去る ザッツロードの隣にバッツスクロイツが現れ言う
「なんっかー 色々大変ーって感じみたいだな?まぁ、刺激があっておもし… あ、いや」
バッツスクロイツが両手を顔の前で振って誤魔化してから言う
「う~んうん、それじゃ俺たちは?この辺で~ お別れ~ かなぁ~?しばらく この国も見てみたいからーって?ああ それと ザッツ?あんまレディたちを危険な目に合わせるなよ?レディたちも なんかあったら また俺の胸に ばびゅーんと飛んでいらっしゃい!」
バッツスクロスが言いながら笑顔で自分の胸を叩いてみせる ザッツロードの仲間たちが笑う ザッツロードが苦笑する
「じゃあな!また会おー!」
バッツスクロイツが片手をひらひらさせながらアンドロイドのデスと共に去って行く ザッツロードたちが頷き合いセーリアが移動魔法の詠唱を開始する セーリアが言う
「…? あら?おかしいわ」
詠唱を開始しようとしたセーリアが詠唱を止め疑問する セーリアの言動にソニヤが疑問して言う
「どーしたの?呪文でも忘れた?」
ザッツロードがセーリアへ問う
「どうかしたのかい?」
セーリアが言う
「移動魔法陣が反応しないの、対人移動の方も確認したのだけど」
セーリアに続いてラナも移動魔法を確認しながら言う
「…国境の魔法抑止装置が起動しているみたいね これじゃ今居る このシュレイザー国の領地以外へは 移動魔法で飛ぶ事が出来ないわ」
ソニヤが泣き声で言って移動魔法を試す
「え~!?そんなぁ」
3人がザッツロードへ視線を向ける 視線を受けたザッツロードが言う
「シュレイザー国で 何かあったのかもしれない、移動魔法が止められるという事は 他国から閉鎖されていると言う事だから 誰かに聞いたらきっと…」
ザッツロードが言いながら周囲を見渡すが 町中に人が居ない事に気付いて言う
「あ…あれ?」
ザッツロードが呆気に取られる 仲間たちも周囲を見渡して驚く ソニヤが言う
「そう言えば…」
ラナが言う
「話に夢中になり過ぎていて、気付かなかったわ」
ソニヤとラナが顔を見合わせる ザッツロードが苦笑して言う
「仕方ない、城下の門まで行こう 門兵に聞いたら分かるはずだ」
ザッツロードの提案に皆が頷き歩き始める
城下町城門に辿り着くとニーナとミーナが門兵と話している ザッツロードたちに気付きつつ門兵へ問う
「国境の移動魔法陣が閉鎖されている様なんだけど シュレイザー国で何かあったのだろうか?」
問われた門兵が溜め息を付いて言う
「お前達もか?最近の旅人は情報収集がなっていないな?もっとも それが平和の証でもあったのだろうが…」
言いながら隣の門兵へ目配せを送る もう1人の門兵が肯定するように頷いてから言う
「世界大戦が決定されたのだ、移動魔法は一通り止められている それでも国軍以外は直接向かいさえすれば 国境を越えられる筈だ 旅を続けるのであれば 精々気を付けて歩いて行く事だな」
門兵の言葉を聞いて ザッツロードと仲間たちが驚き ザッツロードが言う
「せ、世界大戦だって!?一体どこの国が!?」
ザッツロードの言葉に門兵が顔を向けて言う
「我がシュレイザー国側にはスプローニ、カイッズ、ローゼントの3国が付いた 恐らくローレシア国も我々の側へ付くだろう」
セーリアが驚いて声を上げる
「そんなっそれではっ!」
ザッツロードと仲間たちが驚いてセーリアを見る 門兵が頷いて言う
「対するはアバロン国とベネテクト国だ いくら武力に秀でたアバロン国と言えベネテクト国が加わった所で 相手は5カ国 これでは勝負は決まったも同然だろう」
言葉を失うザッツロードたち もう1人の門番が言う
「お前達も、この少女達と一緒に しばらくシュレイザー国で大人しくしていたら良い すぐに決着が付いて 移動魔法も使える様になる」
もう1人の門番も言葉を繋げる
「うむ、多少時間がかかっても 今下手に旅を続けて大戦に巻き込まれるより よっぽど良いだろう」
話を聞いて ソニヤが叫ぶ
「もぉ~!魔王の島の結界が壊れるかもしれないって言う時に 何やってるのよ国王様たちは!」
ソニヤの言葉にラナも頷く
「結界が壊れて悪魔力が世界を覆ってしまったら 国も何も無いと言うのに…」
ザッツロードの仲間たちがザッツロードへ視線を向ける ザッツロードが言う
「うん、今こそ 世界各国が力を合わせなければいけない時だ 115年前の話が嘘であれ本当であれ とにかく一度、急いでローレシア国へ戻らないと」
ザッツロードの言葉に門兵たちが顔を合わせてから言う
「なら、気を付けてな、ソルベキアのロボット兵は落ち着いたみたいだが 今でも残っているものがある」
門兵の言葉にソニヤとラナが顔を歪ませラナが言う言う
「そうだった…」
ソニヤが言う
「あ~ん!バッツたちが居ないんじゃまた大変な事に!」
二人の意見にセーリアが苦笑して言う
「さっそくラナにバッツの胸へ飛び込んでもらわないといけないかもしれないわね?」
ラナが慌てて言う
「え!?い、嫌よ!!セーリアが飛び込んだら良いじゃない!?」
セーリアが焦って言う
「えぇ!?わ、私は無理よ…」
ラナが怒って言う
「私だって嫌よ!」
2人が叫んでいると それまで黙っていたニーナが言う
「あの…皆さんはローレシアへ…帰るんですよね?」
ニーナの近くにいたソニヤが頷いて言う
「そうよ、そう言えば貴方たちは?オライオンと一緒だったんじゃないの?」
ニーナの隣にいたミーナが続ける
「兄さんは送るって言ってくれたんだけど、私たち今の今まで移動魔法が使えないなんて知らなかったから 断ってしまったの」
ミーナへ向いてセーリアが驚く
「あら?貴方たちアバロンの人なのに移動魔法を使えるの?」
ニーナが微笑んで言う
「うん!2人で力を合わせれば使えるの!」
ニーナと共に微笑んでいたミーナが視線を落として言う
「だけど、肝心の移動魔法の使用を止められてしまっては…」
ニーナがひらめいた様子で言う
「ねぇミーナ、勇者様たちと一緒に行くってどうかな?」
ミーナとソニヤが声を合わせる
「「えぇえ~!?」」
ニーナがソニヤへ向いて首を傾げる
「ダメ?」
ソニヤが驚いて言う
「え?いや、えっと…?」
ソニヤが慌ててザッツロードへ視線を向ける 無言の問いかけにザッツロードが一瞬驚いてから答える
「ローレシアへ行くにはどちらにしろアバロンを通るから 僕らは構わないよ?」
ニーナが微笑んで言う
「良かったーありがとう、ね?ミーナ?」
ニーナの笑顔にミーナが戸惑いながらも頷いて言う
「えっ!?えっと…う ん まぁ…いっか…」
セーリアがザッツロードへ向いて言う
「でも…彼女達が魔法を使えるとしても やっぱりもう一人は剣士か誰か居ないとソルベキアのロボット兵とは戦えないわ、一度町へ戻って傭兵を雇った方が良いんじゃないかしら?」
セーリアの言葉に頷いてザッツロードが言う
「そうだね、戦争中は傭兵も忙しいだろうけど… もしかしたら 戦争は好きじゃない …なんて傭兵が残ってるかもしれない」
ザッツロードがそう言って町へ向きなおすと その背にニーナとミーナの声が重なる
「「待って!」」
驚いて振り返ったザッツロードにミーナとニーナが言う
「私たちには、剣士の傭兵が付いてるから」
「うん、きっと大丈夫なの!」
言葉を聞いたザッツロードとセーリアが顔を見合わせ ザッツロードが言う
「本当かい!?それは助かるよ」
ニーナ、ミーナを仲間に加えたザッツロードたちがシュレイザー国を出発する 門を出てしばらく歩いた後 周囲を見渡しながらソニヤが問う
「それで?剣士の傭兵って何処よ?」
皆の視線がミーナとニーナへ注がれる 手を繋いで歩く2人が微笑んでニーナが言う
「剣士の傭兵は、私たちに危険が迫った時に出てきてくれるの!」
ミーナが続ける
「それ以外の時には出しておけないわ」
2人の答えにザッツロードたちが顔を見合わせる ラナが2人へ向き直って問う
「それって…どこかその辺りの草むらにでも身を隠してるって事?」
ラナの言葉を聞きながらソニヤが言う
「変なの~?」
ミーナが言う
「大丈夫、その時にはちゃんと出て来てくれるから」
ニーナが言う
「私たちにも 誰が出てきてくれるか分からないの」
2人の言葉にザッツロードたちが再び顔を見合わせる ザッツロードが苦笑と共に言う
「まぁ… その時が来ないのが一番だけど、来てしまった時は よろしく頼むよ」
ザッツロードの言葉に2人が頷いて言う
「うん!」「まかせといて!」
道端で野宿をするザッツロードたち 薪を囲いザッツロードの左手にニーナ、ミーナの順で居る ザッツロードが剣の手入れを終え、油が入った入れ物の容器に蓋をしようとするが 手を滑らせ蓋が隣に居るニーナの下まで転がって行く ザッツロードが小さく声を上げて蓋の行方を目で追う
「あっ」
ニーナが自分の身に蓋が当たった事に気付いて言う
「ん?何かな?」
ニーナが蓋を手に取り両手で物の確認をする ザッツロードが苦笑しながら手を伸ばして言う
「ごめん、手が滑ってしまって…」
ニーナが顔を向けて微笑んで言う
「この匂い知ってるよ、剣のお手入れに使う油よね?はい、」
ザッツロードが手を差し出したままニーナの言葉に頷いて言う
「うん、そうだよ …ん?」
ニーナはザッツロードの手より離れた場所へ蓋を手渡す その行動に疑問するザッツロード 2人の様子に気付いたミーナが言う
「ああ、ニーナは目が見えないのよ」
ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
ニーナが微笑んで言う
「うん、見えないのー」
ザッツロードが驚きながらニーナの手に手を伸ばし 蓋を受け取る 話を聞いていたソニヤが言う
「そっか、それで」
ソニヤに続いてラナが言う
「いつも手を繋いで歩いているのはそう言う事だったのね?」
二人の言葉に ニーナとミーナが頷きニーナが言う
「私は生まれた時から目が見えなくって、でも双子のミーナの目は見えるのよ 面白いでしょ?」
ニーナの言葉にミーナが頷く ラナが不思議そうに言う
「見た目が同じって事は一卵性の双子よね?それでも片方は見えて片方は見えないだなんて…そんな事もあるのね」
ラナの言葉を聞いていたソニヤがニーナへ向いて言う
「え~それじゃニーナはミーナの事羨ましいって思わないの?」
ソニヤの言葉にラナが声を上げる
「ばかっ!」
その声に驚いたソニヤがハッとして謝る
「あ、ごめん!その… つい」
ソニヤが視線を下げる ニーナが微笑んで言う
「ううん、大丈夫よ、ミーナの目が見えるお陰で 私は助けてもらえるし それにアバロンの皆はとっても私に優しくしてくれるの」
ニーナと共に微笑んでミーナが言う
「そ、私が羨ましくなるくらい皆ニーナに甘いのよ?」
ミーナの言葉にニーナが笑う
「うん、でもミーナには一杯迷惑掛けちゃってるから 大変なのはミーナの方だと思うの」
ニーナの言葉にミーナが少し怒って言う
「だから!何度も言ってるでしょ!?私は、ニーナの事迷惑だなんて一度も思った事無いったら!」
ミーナに言葉を聞いてニーナが少し怒る
「思わない方が変だよ?たまには本心 言って欲しいな?」
ミーナが怒って言う
「これが本心だったらっ」
二人の言い合いに ミーナの隣に座っているセーリアが困りながら言う
「ま、まぁまぁ、2人の仲が良いって事は分かったから お互いの事を想い合って 喧嘩になってしまっては良くないわ」
セーリアの言葉に2人が落ち着いて ニーナが言う
「そうだね ごめんねミーナ、私 とっても感謝してるって事が 言いたかったの」
ミーナが少し恥ずかしげに言う
「あ、あたしも そう、ニーナのお陰で色々 それこそ目に見えない事を教えてもらえて 凄く感謝してるって事が言いたくて…」
ニーナが言う
「ホント?」
ミーナが苦笑して言う
「ホントだよ」
2人が笑顔を見せる ザッツロードたちも微笑む
道中、ソルベキアのロボット兵と対戦 ザッツロードが剣を構え ソニヤがザッツロードの剣へ魔法を放つ セーリアが先読みの魔法を詠唱する ラナがニーナたちへ言う
「ニーナ!ミーナ!剣士の傭兵は何処!?」
ラナの言葉に2人が頷き ニーナが取り出した袋を2人で両手で持って言う
「「お願い!助けて!」」
2人が声を合わせて言うと共に 2人の手に握られた袋の中身が強い光りを発する 眩い光りが消えるとその場所にオライオンとシュライツが現れる それを見たラナが驚いて声を上げる
「オライオン!?一体どうやって?まだシュレイザー国内に居たって事?」
ラナが疑問している間にオライオンはシュライツの援護を受け魔法剣を構える それを確認したミーナが叫ぶ
「兄さん!あのソルベキアのロボット兵をやっつけて!」
ミーナがロボット兵を指差し叫ぶと オライオンが無言でその目標へ走り出し攻撃を開始する 終始一言も言葉を発する事無く ロボット兵を倒し他に敵が居なくなったところで ニーナが微笑んで言う
「ありがとうなの、お兄ちゃん!」
オライオンがニーナへ一度視線を向けた後 忽然と消える それを見ていたザッツロードたちが驚き ラナがポカーンと問う
「一体どうなって…?」
ニーナとミーナが2人で微笑んでミーナが言う
「不思議でしょ?」
ニーナが続ける
「あれは実体のお兄ちゃんじゃないの、でも攻撃はちゃんと利くのよ?」
理解に苦しむラナの下へザッツロードたちも来る ラナが再び言う
「大昔に失われた召還魔法の一種かしら?でも呪文も言って無かったし… ねぇ?その袋には何が入っているの?」
ラナが言いながらニーナへ近づく ニーナが袋を抱いて言う
「綺麗な宝石だって言ってたの でも人に見せちゃダメって言われたから 見せられないの ミーナも見た事が無いのよ?」
言葉を聞いてラナがミーナへ顔を向ける ミーナが溜め息を付いて言う
「そう、誰にも見せない様にって言われてるから見せないんだって 私に位、見せたって良いと思うんだけど」
ニーナが困って言う
「ダ~メ~!」
ミーナが呆れて言う
「はいはい、ニーナの大好きな人との約束だもんね、分かってる!」
話を聞いていたソニヤが問う
「『大好きな人』って?」
セーリアが微笑して問いを重ねる
「恋人かしら?」
セーリアの言葉にニーナが顔を赤くする ザッツロードたちが驚く ミーナが溜め息を付いて言う
「初恋の相手なのよ?でも、その宝石をニーナに渡したっきり その後一度も現れないんだから」
ソニヤが声を上げる
「えぇえ!?なにそれ?」
ラナが首を傾げて言う
「綺麗な宝石を見知らぬ女の子に渡すなんて事、普通無いわよね?知り合いではないの?」
ラナの言葉にニーナが顔を横に振る
「あの日初めて会った人なの、すごく優しい声で…でもちょっと寂しそうで 多分お金持ちの人だと思うの、良い匂いがしたから」
ニーナの言葉を聞いてソニヤが苦笑して言う
「う~ん…それじゃ私たちには分からないわね…髪の色とか着ていた服の感じとか分かると良いんだけど」
ソニヤの言葉にミーナが言う
「でも、ニーナは一度会った人の事は次に会った時も分かるのよ、だから 向こうから来てくれれば分かるはずだから」
セーリアが笑顔でニーナへ言う
「それまで待ってるのね?」
セーリアの言葉を聞いたニーナが頷いて言う
「ずっとずっと待ってる…きっと来てくれると思うの」
スプローニ城城下町へ辿り着いたザッツロードたち、旅の必要品を揃える中 城や町の様子を見たラナが言う
「もう大戦が始まって数日経ったのに スプローニ国内にその雰囲気は見えないわね」
ラナに倣い辺りを見渡すザッツロードたち ソニアが視線を落として言う
「スプローニ国はシュレイザー国と手を組んで…きっと隣国のベネテクト国と戦ったんだよね?そのスプローニ国が無傷って事は…」
ラナがソニヤを一度見てから視線を変えて言う
「ベネテクト国一国でその両国を押さえるのは厳しい筈よ、頼りのアバロンはローゼントやカイッズ…もしかしたらローレシアも加わっての戦いがあるから ベネテクトへ手を貸す余裕は無いでしょうからね」
ラナの変えた視線の先 セーリアが哀しそうな顔で言う
「ベーネット陛下…ご無事だと良いのだけど」
仲間たちの会話にザッツロードも表情を暗くする その隣でミーナとニーナが銃に関するアイテムを見て話している ミーナが言う
「これが銃ね 大きさが沢山あるみたいだけど…やっぱり大きい方が遠くまで飛ぶのかしら?」
ニーナが言う
「わ~重たいの、それに…なんだか火薬の匂いがするの」
ミーナが疑問して言う
「え?銃弾は入ってないんじゃないの?」
ニーナが言う
「燃えた火薬の匂いよ? これは中古品なの?」
ミーナが問う
「試し撃ちとかではなくて?」
ニーナが言う
「ううん、きっと いっぱい使ったと思うの 人の汗の匂いもするから」
2人の会話を聞いていた店主が咳払いをしてから言う
「お嬢ちゃんたち、うちの銃は全て新品だよ?変な事言わないで欲しいね」
銃から顔を上げたミーナが少し焦って言う
「あ…えっと」
その横でニーナが首を傾げて言う
「おじさん、嘘をついてるの どうして?中古の武器だって 使い込んだ方が良い事も有るって お父さん言ってたの」
ニーナの言葉に店主 がムッとして言う
「うるさい!銃は新品が一番なんだ!小娘が生意気言ってんじゃない!買う気が無いなら向こうに行け!」
言いながら店主はニーナが手にしている銃を奪い取る その勢いにニーナが体勢を崩す
「きゃっ」
ミーナが慌てて呼ぶ
「ニーナッ!」
ミーナが手を伸ばすが届かない ニーナが衝撃に怯え目を瞑る ニーナの身体が地面に当たる前に受け止められる
「?」
ニーナが不思議に思い 自分を抱き止めた相手の体に触れる ミーナが慌てて言う
「あ、ありがとうございます」
ニーナを受け止めた相手を見た店主が驚いて声を上げる
「ロ、ロキ隊長っ!」
後方から現れたザッツロードがその名に驚き 店主の視線を追って相手を見る ニーナがロキの手助けを得て立ち上がる 体勢を戻したニーナがロキへ向いて微笑んで言う
「ありがとうなの、もうちょっとで転んじゃう所だったの」
ロキの腕に触れたままニーナがロキを見上げる ロキがニーナの言葉を聞いた後 店主へ顔を向けて言う
「…この店で購入した銃を使った 俺の部下が怪我をした シャムが起きたそうだ 購入した当日の出来事… 店の銃は全て新品だと言う 卿の言葉を信じた部下は 事前の手入れを行わなかった 部下にも落ち度はある… が、この女性が言う言葉が正しければ 卿のした事はスプローニ国憲法第三項六条武器販売条約に違反する」
ロキの言葉にたじろぐ店主 更にロキが続ける
「…そして、先ほど行った卿の行動には スプロー二国新法三百六十五条一項言論の制止抑制禁止条例 及びスプローニ国内における婦女暴行罪にも触れている 卿は店の営業停止だけでなく スプローニ国内の滞在も危ぶまれるだろう」
ロキの言葉に店主の顔が青ざめる ニーナが首を傾げながら言う
「難しい言葉がいっぱいなの…」
店主がテーブルに頭を押し付けんばかりに下げて叫ぶ
「す、すみませんでした!どうか見逃してください!ロキ隊長!」
店主の叫び声にニーナがビクッと驚く ロキが視線を向けないまま 自分の腕に触れているニーナの手に触れる ニーナがロキを見上げる ロキが店主へ視線を向けたまま言う
「…武器販売条約違反を取り消す事は出来ない、俺の部下への謝罪と慰謝料、そして刑罰を受けろ …もう1つの方は」
ロキの言葉を聞いて亭主がニーナへ顔を向ける ロキが変わらぬ口調で続ける
「…こちらの女性次第だ」
ロキに言われ意味が分からないニーナ
「?」
店主がニーナへ謝罪する
「さ、さっきは悪かった!お嬢ちゃん!いや、お嬢様!どうか許してくれ!!」
店主の言葉にニーナが沈黙する ロキがニーナを見下ろし問う
「…卿の判断に委ねる この男が本心で謝罪を行っており、以後 悔い改めるであろうと判断されるのであれば 罰則は課さない」
ロキの言葉を聞いたニーナが微笑んで言う
「おじさんは、お兄さんの事が 凄く怖いって思ってるの でも… 今さえ乗り越えれば 大丈夫だって思ってるのー!」
ニーナの言葉を聞いた亭主が驚いてニーナを見る ロキが頷いて言う
「…的確な分析 且つ回答だ 店主を連行しろ」
ロキが言うと共に辺りからスプローニ国国内警備部隊が現れ店主を連行して行く 終始黙っていたザッツロードが呆気に取られながらも何とかロキへ声を掛ける
「あの… ロ…」
ザッツロードの言葉をかき消すタイミングで ニーナがロキへ話し掛ける
「お兄さん!もしかして お父さんのお友達?ロキさんって名前 ニーナ聞いた事あるの!」
ザッツロードが呆気に取られる ロキが首を傾げて問う
「…卿の言うお父さんとは誰だ?俺もその名を聞いてからでなければ 判断しかねる」
2人の会話にミーナが言う
「も~ニーナったら ここはアバロンじゃないんだから、皆がニーナの事知ってる訳じゃなーいの!」
ニーナがハッとして言う
「あ~忘れてたの、だってアバロンと同じ位優しくしてもらえたから 間違えちゃったの」
ニーナが照れる 2人の会話を聞いてロキが言う
「アバロン… 俺がアバロンで面識のある人物はアバロン国3番隊元隊長ヘクターとヴィクトール13世国王陛下だ」
ロキの言葉を聞いてニーナが顔を明るめ言う
「アバロン3番隊元隊長ヘクターは 私たちのお父さんなの お兄さん やっぱりお父さんのお友達のロキさんなの!ミーナ、良かったね お父さんのお友達発見なのー!」
ニーナとミーナが話を進める ザッツロードたちが苦笑しながら会話の終了を待つ 一通り会話が終わり ロキがザッツロードたちへ視線を向け言う
「…それで、諸卿も俺に何か用か?」
会話の糸口を掴んだザッツロードがホッとして言う
「あの…スプローニ国は… ベネテクト国と戦ったんですよね? その…」
ザッツロードが言葉を詰まらせると ソニヤが声を張る
「ベネテクト国はどうなったの!?貴方やヴェルアロンスライツァーの部隊も戦ったんでしょ!?」
ソニヤの言葉にロキがソニヤへ向いて答える
「…俺の部隊はこの国の防衛に当たっていた 個人的に確認へは行ったが 直接ベネテクト国の兵とは戦ってはいない そして、ヴェルアロンスライツァーはこの大戦が決定された時点で 部隊から脱退した 行き先については聞いていない」
ロキの言葉を聞いてザッツロードたちが顔を見合わせる ラナが視線をどこかへ向けて言う
「ヴェルアロンスライツァーはローゼント国に戻ったのかしら?彼は元々ローゼント国の兵でしょ?」
ロキがラナへ顔を向けて言う
「…それは無い 奴は祖国へ対する忠誠心が皆無なのだ」
セーリアが静かに問う
「ベネテクト国は…ベーネット陛下の事は 分かりますか…?」
皆の視線が一度セーリアへ向けられ 一度落とされてから 次にロキへ注がれる 皆の様子を眺めたロキが軽く首を傾げて言う
「…諸卿はどうやら勘違いをしているらしい ベネテクト国は 我らスプローニ国とシュレイザー国に 勝利した」
その場に居たロキ以外の人物が驚いて言葉を失う ロキが続ける
「…そして卿の言う ベーネット国王は 大した指揮官だ あの指揮能力は… 俺には到底真似出来ない もし出来る者が居るとしたら それは アバロン国3番隊元隊長ヘクターであろうな」
ロキの言葉にニーナとミーナが表情を明るめる セーリアが押さえきれない様子でロキに詰め寄って言う
「ではっ!ベーネット陛下はご無事なのですね!?」
ザッツロードたちが驚く ロキも少し驚いた様子でセーリアへ言う
「…無事であろう 多少の怪我は負っているかも知れんが …それ以上については 俺には分かりかねる」
セーリアが微笑んで言う
「良かった…」
セーリアが胸を撫で下ろす
アバロン国へ到着したザッツロードたちとニーナとミーナ ニーナが言う
「ザッツ、皆、ありがとうなの またアバロンに寄る事があったら きっと会いに来てなの!」
ミーナが言う
「ローレシア国の事は信用出来ないけど、ザッツたちの事は信用したいって思うから」
2人の言葉にザッツロードが頷いて言う
「うん、きっと寄らせてもらうよ、君たちの信用に報いたいからね」
ザッツロードの返答に2人は微笑むと 手を繋いでアバロン城下町へ歩いていく その後姿を見送るザッツロードたち 彼女達が見えなくなりザッツロードは仲間を振り返って言う
「さぁ、ローレシアまで後少しだ 急ごう」
アバロン国とローレシア国の関所を越えると ソニヤとラナがローレシアの方角を見て声を上げる
「ちょっと!あれ!!」
「あれはっ!ドラゴンッ!?」
ラナの声とほぼ同時にその方角を向いたザッツロードが驚く
「ローレシアが!!」
ザッツロードが思わず駆け出しそうになるのを ソニヤが腕を掴んで言う
「ザッツッ!」
ザッツロードが振り向いて声を荒げる
「何をするんだ!離してくれ!」
ソニヤの横に居るラナが言う
「落ち着いて!今セーリアが移動魔法の詠唱をしているから ここからなら移動魔法でローレシア城へ行けるわ!」
ザッツロードが落ち着きを取り戻し視線をセーリアへ向ける セーリアが詠唱を行っている事を理解したザッツロードが再びローレシアへ目を向ける
「父上っ…皆っ…」
ザッツロードが歯を食いしばると共に 移動魔法の詠唱が終了しザッツロードたちがローレシアへ飛ばされる
ローレシア城 城下町に降り立ったザッツロードたち 地に足をつけると共に走りだすザッツロード 仲間たちもその後を追う 黒いドラゴンが城を攻撃している 城からも応戦しているがまったく歯が立たない ドラゴンが城の入り口の門を破壊する そこへ雪崩れ込む兵士達 その兵の姿を見たザッツロードが叫ぶ
「あれはっ!」
ラナが言う
「アバロン兵!」
ソニヤが指差して言う
「見て!兵士たちの先頭に居るの!」
ソニヤの声に視線を向けるザッツロード その人物を見つけてザッツロードが叫ぶ
「ヴィクトール陛下!?」
ヴィクトールが部隊の指揮を執り 城内への突入を指示している アバロン兵が城内へ突入していく それと共に ドラゴンが姿を消す ラナが驚いて言う
「ドラゴンが!」
セーリアが続ける
「消えたわ!?」
ソニヤが辺りを見渡して言う
「どこに消えたの!?」
ソニヤが言いながら探す ザッツロードが言う
「それより 今はローレシアをっ!!」
ザッツロードが一段とスピードを上げて走り抜ける
ザッツロードが城の門へ辿り着いた時 すでに戦いが終わっている 通路では兵たちが剣を納めていて 立っている兵と 怪我を負って座り込んでいる兵 アバロン兵とローレシア兵が居る その様子でアバロン側の勝利が分かる ザッツロードが呆気に取られた後 玉座の間へ向かって再び走り始める ソニヤが声を上げる
「ザッツ!」
仲間たちがザッツロードの後を追う 玉座の間に辿り着くと 入り口を入ってすぐアバロン兵に道を塞がれる ザッツロードが中の様子を確認して叫ぶ
「父上!!」
その声に キルビーグの拘束を命じたヴィクトールが振り返って言う
「ザッツロード王子、戻っていたのか …かまわん、通せ!」
ヴィクトールの命に従い アバロン兵がザッツロードの行く手を開く ザッツロードがゆっくり歩き出す 兵が掃け床に座しているキルビーグの姿が見える ザッツロードが慌てて駆け寄る キルビーグの身に触れようとした所で道を塞がれ バーネットが言う
「おっと、残念だがここまでだ とは言え… はっはー 心配すんな、大した怪我じゃねぇからよぉ?」
ザッツロードが道を塞がれ一瞬焦るが その言葉に安心して顔を上げ言葉の主に驚いて言う
「え!?そんなっ バーネット陛下っ!?」
言われたバーネットの方が驚いて言う
「あん?何で俺を知ってんだぁ?俺はてめぇと会った事なんざ… ねぇんだが?」
バーネットが言いながらザッツロードの顔を覗き込む その横でヴィクトールが笑って言う
「ふふ…っ では、その辺りも含めて 詳しく聞かせて頂こうか?」
ザッツロードとバーネットがヴィクトールへ視線を向ける ヴィクトールが彼らに相手を知らせるように キルビーグへ視線を向ける 全員の視線が拘束されたキルビーグへ向く
【 アバロン国 】
ザッツロードと仲間たちはローレシア城でアバロン兵に捕らえられ アバロン城地下牢へと入れられる ソニヤが牢の鉄格子を両手で握りながら外へ泣き声で言う
「そんなぁ~ ローレシアの勇者様と仲間たちなのに~」
その様子に振り向いたラナが言う
「だったらお止めなさい、情け無い」
ラナの言葉を聞いて ソニヤが怒って振り返り言う
「そんな事言ったって!このままじゃ悪魔力に世界が覆われて終っちゃう前に 私たちが終っちゃうじゃない!」
ラナがソニヤから視線を逸らして言う
「どちらにしても終ってしまうなら 尚更情けない事はしたくないわね」
ソニヤがラナへ掴みかかって言う
「どんなに情けなくったって!それで助かれば良いじゃない!」
2人を見守っていたセーリアがたしなめる
「まぁまぁ、きっと一時的な事だと思うから 少し待ってみましょう?」
セーリアの言葉にソニヤが彼女へ掴み掛かって言う
「ほんと!?ほんとに一時的なの!?それって、ただちょっとの間 ここで待たされてるだけって事!?」
セーリアが苦笑しながら言う
「きっとそうだと思うわ、だってあのヴィクトール陛下が 酷い事をするだなんて思えないじゃない?」
ソニヤが言う
「そっか…そうよね!あのヴィクトール陛下なら…」
ソニヤが表情を明るめた時 隣の牢屋から 床を叩き付ける鞭の音が響く ザッツロードの仲間たちが驚いて耳を澄ます チョッポクルスが慌てて言う
「ひ、ひぃ~~ や、やめろ~~ た、叩くでない~~!」
バーネットが叫ぶ
「てめぇええ!このカスチョッポクルスがぁああ!…てめぇえが裏で糸引いてやがったのかぁああ!!」
チョッポクルスが言う
「そ、そうじゃぁ~~ お、お前らが~~ か、カメの様に の、のろのろ~~のろのろ~~として お、おるから~~ よ、余が ちょっと あ、後押ししてやったのじゃぁ~~ そ、それと その名で呼ぶでないっ」
バーネットが怒りを押し殺して言う
「てめぇえ… よくもやってくれやがったなぁ!?てめぇえが世界大戦を勃発させようなんざ 3000年はえぇ~~んだよ!!」
鞭の音が響く チョッポクルスが怯えて言う
「ひ、ひぃい~~ バ、バーネット そ、その鞭を~~ ふ、振るうでないっ こ、怖いではないか~~ で、でも よ、余は知っとるんじゃぞ~~?」
バーネットが不機嫌に疑問する
「あぁあ?!」
チョッポクルスが言う
「お、お前たち~~ バ、バーネット1と2 ど、どっちも~~ て、敵と む、息子にしか~~ む、鞭打つ事は~~ し、しないとっ ほ、他は~~ た、ただの脅しじゃろ~~」
バーネットが間を置いて言う
「…はっはー 安心しろ… チョッポクルス… てめぇえは 十分 敵だぁああ!」
鞭の音が響く チョッポクルスが慌てて言う
「て、敵ではないわ~~ み、味方じゃぁあ~~ だ、だから い、言っちょるじゃろ~? よ、余は~~ お、お前達が な、中々事を始めんから~~ ちょ、ちょっと後押しした だ、だけじゃぁ~~ あ、あのまま~~ の、のろのろ~~っと しておったら~~ あ、悪魔力が せ、世界中に溢れてしまうんじゃぞ~~?そ、それから その名で呼ぶなと申しておるっ」
バーネットが怒って言う
「あぁあ!?味方だぁあ?!悪魔力だぁあ?!…なら 何で世界大戦の前に ベネテクトを襲わせやがった?てめぇえ~がツヴァイザーを脅しやがったんだろぉがぁあ!?」
チョッポクルスが言う
「そ、それは~~」
バーネットが問う
「それは!?」
チョッポクルスが恥ずかしげに言う
「さ、最初のは~~ よ、余の き、妃に… ちょ、ちょっと良い所を み、見せてやろうと おおお、思ってのぉ~~?」
鞭の音が響く チョッポクルスが慌てて言う
「いいいい、いた~~っ バ、バーネットっ い、今 ちょ、ちょちょちょ ちょっと 掠ったっ 掠ったぞぉお~~?…ま、まぁ~~ そ、そう怒るでないっ あ、相変わらず ち、ちっこい奴じゃの? よ、余は~~ ちょ、ちょこっと べ、ベネテクトの~~ ま、町の ひ、ひとつ ふた~つ か、かる~く こ、壊してまいれ~~と い、言っただけじゃぁ~~」
バーネットが怒りを押し殺して言う
「てめぇ… 一発殴らせろ!このカスチョッポクルスがぁあああ!!」
アバロン兵らが慌てて言う
「いけませんッバーネット様!」「バーネット様!!ヴィクトール陛下が殴ってはいけないと」「バーネット様どうかお気をお静め下さい!」
チョッポクルスが面白そうに言う
「は、ははは~~ あ、当たらんの~~? バーネット~~?そ、それから よ、余をその名で呼ぶでないっ」
バーネットが怒って叫ぶ
「離せこらぁああ!!」
会話を聞いていたザッツロードと仲間たち ソニヤが仲間へ顔を向けて問う
「…チョッポクルス って…なに?」
セーリアが苦笑しながら首を傾けて答える
「さ、さぁ…?」
隣でラナが呆れながら言う
「とりあえず …今隣に バーネット陛下が居るって事は分かったわね」
仲間たちが顔を見合わせてから ザッツロードへ視線を向ける ザッツロードは床を見つめたまま動かない ザッツロードの様子を伺って仲間たちが落胆するが 足音が聞こえ顔を上げる 通路をバーネットが通る ソニヤが呼び止める
「あっ… バーネット陛下!」
ソニヤの呼び掛けに バーネットが足を止め振り返る ラナが問う
「あのっ私たちはっ…」
ラナが続ける言葉を捜す バーネットが2人を見てから言う
「安心しろぉ てめぇら叩いたって 何も出ねぇって事は知ってる、前回に続き 今回もどぉせ勇者様どもは 何も知らずに宝玉集めに狩り出されやがったんだろ?歴代ローレシア国王の、まぁ得意技みてぇなもんだからな?はっはー」
バーネットが笑いながら立ち去ろうとする ザッツロードが唇を噛み締めて立ち上がりバーネットを呼ぶ
「バーネット陛下!」
バーネットが再び立ち止まると 溜め息を吐き だるそうに振り返る ザッツロードがバーネットを見つめて言う
「父上は… キルビーグは無事ですか!?」
ザッツロードと視線を合わせていたバーネットが意地悪く笑んで言う
「知らねぇな?」
バーネットの返答に衝撃を受け ザッツロードが驚く 仲間たちも息を飲む 間を置いてバーネットが笑って言う
「…と、言いてぇ所だが ハッ!そっちも安心しろ、殺したりなんざしねぇよ?今はヴィクトールと話をしている ずーっとダンマリだからよぉ、飽きてこっちに来てたんだ まぁ 呼ばれたって事は 何かあったんだろうぜ?」
バーネットの返答にザッツロードと仲間たちが安心し思わず微笑む バーネットが軽く笑って再び歩き出そうと視線を変えるが もう一度振り返って言う
「あぁ、後 俺を陛下って呼ぶんじゃねーよ 分かったな?」
言って立ち去るバーネット ソニヤが疑問して問う
「え?どういう事?バーネット陛下!?」
ソニヤの問いに遠くでバーネットが叫ぶ
「…陛下じゃねーつってんだろっ」
バーネットはそのまま居なくなる 仲間たちがザッツロードへ振り返り言う ソニヤが微笑して言う
「ザッツ、お父さん大丈夫だって」
ラナが言う
「これで一安心ね」
セーリアが微笑んで言う
「ヴィクトール陛下ですもの、酷い事はなさらないはずよ?」
ソニヤが軽く笑って言う
「セーリア、それさっきも言ったって~」
セーリアが焦って言う
「え?そ、そうだったかしら?」
ラナが苦笑して言う
「言ってたわね」
仲間たちが笑い合う 仲間たちがザッツロードへ視線を送る ザッツロードが微笑んで言う
「うん… ありがとう、みんな」
数日後、ザッツロードたちが保釈される 1人のアバロン兵が牢屋の鍵を開けて言う
「出ろ、お前達は釈放だ」
ザッツロードと仲間たちが顔を見合わせてから 牢を出る ザッツロードが兵に問う
「あの… ローレシア国王がどうなったか 分かりますか?」
ザッツロードの問いに 兵が考えてから言う
「詳しい事は分からない、しかし現在このアバロン城に幽閉されている事は確かだ そして、扱いには丁重に規している 安心されよと ヴィクトール陛下からの言伝だ」
兵の言葉にザッツロードが胸を撫で下ろして言う
「ありがとうございます、ヴィクトール陛下のお心遣いに感謝します」
ザッツロードの言葉を聞いた兵が頷き 手で道を指し示す その横の牢から声が掛かる
「お、おいっ そ、そこの~~兵!よ、余はどうなる~~?ま、まだ~~~ ここから出さんのか~~?」
声を聞いた兵が振り返り 牢の前へ行く 兵を見たシュレイザー国王が喜んで牢に近づく 兵が言う
「貴殿にも言伝を預かっている」
兵の言葉にシュレイザー国王が表情を明るめて言う
「お、おお~~ そ、そうかっ や、やっと こ、この小汚い部屋から で、出られるのだな~~?」
シュレイザー国王の言葉に間を置いてから 兵が言う
「てめぇええは 一生!!そこに居やがれ!このっ カスチョッポクルスがぁああ!! …との事だ 確かに伝えたぞ」
兵の言葉を聞いたシュレイザー国王が怒って言う
「な、何?い、一生じゃと?じょ、冗談ではない~~っ お、おいっ!な、なら 余からも こ、言伝じゃ~~! さ、さっさと余を きゃ、客室へ移せ~~ こ、このバカーネット!と つ、伝えて参れっ そ、それと そ、その名で余を呼ぶでない」
シュレイザー国王の言葉を聞いて間を置いた兵が歩き出す それを見てジュレイザー国王が言う
「お、おい~~っ ちゃ、ちゃんと~~~ つ、伝えるのだぞ~~?ぞ?」
兵が無視して歩いていく ザッツロードたちが半笑いでそれを見ている ソニヤが言う
「だから… チョッポクルスって… なに?」
それを聞いたザッツロードがソニヤへ振り返って言う
「あぁ… チョッポクルスって言うのは シュレイザー国の国王陛下のお名前なんだよ」
ソニヤとラナが声を合わせる
「「えぇええ~!?」」
ザッツロードの言葉を聞いた仲間たちが驚く ラナが呆れて言う
「な、名前?一国の国王様の名前が…チョ、」
ソニヤが言う
「チョッポクルス?!」
遠ざかった牢から声が届く
「お、おい~~っ だ、誰じゃ!? よ、余の名を呼ぶ者は~~? そ、その名を呼ぶでない~~っ」
チョッポクルスの声を聞いて半笑いのザッツロードが言う
「ご本人も…お気に召して無いらしくて 王様の事を名前で呼ばないようにって お布令があったりするんだ」
ザッツロードの言葉を聞いてソニヤが苦笑して言う
「ま、まぁ…」
ラナが言う
「その気持ちは 良く分かるわね」
皆が頷き 苦笑しながら立ち去る
アバロン城を出たザッツロードたち 変わらぬ賑わいのアバロン城下町を抜け 城下町の門を過ぎても歩みを止めないザッツロードに仲間たちが疑問しソニヤが問う
「…ザッツ?ねぇ?どこに行くの?」
ザッツロードが言う
「え?」
ソニヤの言葉にザッツロードが振り返ると 仲間たちが不思議そうな顔をしている ザッツロードが苦笑して謝って言う
「あぁ、ごめん、きっとローレシアへ行っても 僕は国内への入国を許されないと思うから とりあえずソルベキアに向かおうかと思って」
ラナが問う
「ソルベキアに?」
ソニヤが言う
「何でローレシアが駄目ならソルベキアなの?」
ザッツロードが問いに答えようとした所でセーリアが言う
「もしかして…スファルツ卿のお屋敷に?」
セーリアの言葉に仲間たちが納得の声を上げ ソニヤが言う
「なるほどー」
ザッツロードが言う
「うん、僕がローレシアの他に知っている所って言うと そこしか思い付かなくて スファルツ卿には申し訳ないけど 色々情報も教えて貰らえると思うから」
ラナが言う
「他に行くところが無いのだから 仕方ないんじゃない?」
ラナに言われ ザッツロードがもう一度頷き 皆が歩みを再開させる