ありきたりな勇者伝説
私の名はデス
世界一の大剣使いヘクターの
相棒であり
世界一のプログラマーだ
我々に不可能は無い
この最悪な歴史を
塗り替えたいと願うのなら
その願い
私のプログラムで
叶えよう
【序章】
百年前この世界を襲った悪魔力の脅威 この世界に存在する魔法使いや魔術師、占い師が使う魔力 聖なる魔力を『聖魔力』と呼ぶのに対し、人々や動物達の精神を蝕み、魔物と化してしまう悪しき魔力を『悪魔力』と呼ぶ
その悪魔力が世界に溢れ 動物や人間達を 次々に魔物化して行った
この現象を抑えようと各国は世界中の調査を決行 中でも当時最も栄えていたローレシア王国の王子ザッツロードが、ついに原因を発見 悪魔力を生み出していた 悪の根源であったとする邪悪な王を倒し その力を聖魔力の結晶である宝玉の力を使い封印した …と言われている
しかし、その詳細は王子の国ローレシア王国にのみ残されているだけで 後に勇者と称えられたザッツロード王子と同行したと言われている 仲間の剣士の故郷 アバロン王国には残されていない
原因は多々憶測されている 有力とされるのが、その後に起こった大規模な国同士の戦い
悪魔力が抑えられた世界で 時を置かずして起こされた闘争が 歴史の一部を消し去り その失われた歴史を知る術は 今はもう無い
そして 現代――
再び 封印されたはずの 悪魔力の脅威が 世界を脅かす
野生の動物達の魔物化現象が再発
この現象は正に百年前と同じ
世界各国では再調査が開始され 当時の勇者ザッツロードの末裔である ローレシア王国第二王子 ザッツロード6世も 今 旅に出る
【 ローレシア城 】
ローレシア王国 玉座の間、現国王イシュラーンの前に跪くザッツロード6世 この大陸を魔王の手から守ったとされる勇者ザッツロードの末裔が治める ローレシア王国の第二王子 彼は今 旅立ちの日を迎えている イシュラーンからの長旅への忠告と共に伝えられる言葉
「まずは このローレシア国にある魔法使いの町キャリトール 占い師の村テキスツ、魔導師の村ソイッドへ向かい お前に力を貸してくれる 強い仲間を得るが良い」
ザッツロード6世はそれを敬しく受ける
「はい、父上」
イシュラーンが頷いて言う
「吉報を待っているぞ」
ザッツロードはイシュラーンへ敬礼すると 力強い足取りで玉座の間を後にする 彼を見送った王の下に大臣が駆け寄っているのが垣間見える 兵らの敬礼を受けながらザッツロードは城の外へ出る 城の入り口から城下の町を見下ろすザッツロード そこへ一頭の立派な白馬が連れて来られる
「どうかお気を付けて」
馬を連れてきた馬子に礼を言って ザッツロードは騎乗し国を後にする
その頃、占い師の村テキスツでは1人の占い師レーミヤが 自身の前に置いた水晶玉へ手を翳して言う
「水晶玉よ… ローレシアの勇者、ザッツロード6世 彼の行く末を見せて…」
言葉と共に水晶玉へ魔力を送る 水晶玉は淡く光り、未来の情景を映し出す それを見ながらレーミヤが言う
「勇者ザッツロードと仲間達 美しい魔石を集めて 暗い洞窟の奥へ 石の力を使って…」
水晶玉に映される情景から推理するレーミヤだが 映像だけでは限界がある為言葉が止まる
「これは?」
勇者と仲間の1人が何かを言い合っている 仲間は必死の形相、勇者が何かを言っている 次の映像では 仲間の魔力者たちが力を合わせ、魔石の力を増幅させる レーミヤが言う
「これが悪魔力を封印する時の様子なの?」
水晶玉の光が消える 誰かが部屋のドアを叩く レーミヤが一度驚いた後言う
「どうぞ」
入ってきたのはレーミヤの友人
「よう!お前今日、ローレシアの勇者が旅立つって言ってただろ?あれ、やっぱり当たってたよ さっき知らせが来たんだ ザッツロード王子が旅立ったってさ?」
友人がレーミヤの水晶玉の近くへ行き 続て言う
「次は?この先、王子はどうなるんだ?」
笑顔を向ける友人に レーミヤが苦笑して言う
「実は、さっき見ていたの」
友人が言う
「ほんとか!?それで!それで!?」
レーミヤが首を横に振って言う
「分からなかったわ、ただ… 王家の宝玉を集めてたみたい」
友人が疑問して言う
「王家の宝玉?ああ!前回の魔王封印の時にも使われた 凄い魔力を持つって言う宝玉だろ?今は各国で保管してるって、あの宝玉を使って悪魔力を封印するのか?!」
レーミヤが苦笑して言う
「たぶん… ね?」
レーミヤのあいまいな返答に 友人は構わずに言う
「そっかー やっぱり我等がローレシアの勇者様は 100年前のザッツロード1世に続いて今回も魔王から世界を救って下さるんだ~!」
意気揚々と言う友人に レーミヤが少し考えている レーミヤの様子に気付いた友人が不思議そうに言う
「どうかしたのか?」
レーミヤが言う
「世界を救うと言っても 肝心の魔王の居場所が分からないじゃない?そもそも… 魔王って言うのが居るのかどうかだって」
友人が不満そうに言う
「魔王は居るさ!そうじゃなかったら 今この世界に溢れている魔物は何なのさ?」
レーミヤが困りつつ言う
「魔物と言っても、元は普通の野生動物や家畜が…」
友人が言う
「それがっ ある日突然 魔物化してしまうだ!やっぱり魔王が魔物を増やして 世界を手に入れようとしてるんだろ!?」
友人の言葉に 返す言葉を失うレーミヤ 物言いたげなレーミヤの様子に 友人は気を取り直して言う
「…まぁ、その魔王の居場所を突き止めるのも 勇者様の仕事だろ?俺たちは 我らが王子 ザッツロード王子を応援しようぜ!?」
レーミヤが苦笑して言う
「ええ… そうね?」
【 キャリトールの町 】
キャリトールの町へ行くと ザッツロードの姿を確認した町人から 100年前の勇者の仲間だった魔法使いの末裔ラーニャへ あっという間に連絡が届き ラーニャが自ら現れ仲間に志願する それを受け入れたザッツロード2人は道草を食う事も無く 次なる目的地 占い師の村テキスツを目指す その道中 ラーニャが言う
「あのイシュラーン国王陛下の息子だからさ?きっと、ちょっと怖い位な人なんじゃないかな~?なんて、思ってたの、だーかーらっ!すっごく意外~」
ザッツロードが苦笑して言う
「あはは…」
魔法使いの町キャリトールの人々特有の髪色を優雅になびかせ くるっと回っておどけて見せる つい先ほど仲間になった魔法使い、ラーニャの言葉にザッツロードは慣れない様子で苦笑する ラーニャは構わず続ける
「でも良かったかも?私 あんまり王子様ーとか勇者様ーって見せ付ける感じなのって好きじゃないから ちょっと抜けてる位の方が!」
ザッツロードが衝撃を受け それでも苦笑して言う
「”抜けてる”ってヒドイなぁ~」
ラーニャが一度笑って言う
「ごめんごめん!でも、勇者様と その仲間の魔法使い…か~」
ラーニャは 自分の現状に満足な様子 しかし 次第に表情を曇らせて言う
「あ~でも、お母さんはあんまり話したがらなかったんだよね、先祖から受け継がれてきたって言う 魔王討伐の話… 自慢したって良いぐらいだと思うのに」
ラーニャの言葉に ザッツロードも頷き言う
「僕の父上も余りお話して下さらなかったよ たぶん、犠牲になった人達の事も考えての事だと思う」
ラーニャが言う
「犠牲?…ああ、そっか、魔王を討伐する旅に出るって事は その被害が出てるって事だもんね 良い事… じゃ、ないんだ…」
先ほどまでの陽気さが一転して俯くラーニャ ザッツロードは元気付けるために優しく言う
「でも、僕達はそんな人々の希望を受けて旅をするんだから、胸を張って良いと思うよ?」
ラーニャが素直に元気になって言う
「そっか… そうだよね!さっすが勇者様!」
途端に明るくなったラーニャに ザッツロードの方が呆気に取られ笑う
【 テキスツ村 】
占いを続けていたレーミヤ 水晶玉に映る2人の人物 そして… 店のドアが開く
「ごめんくださ~い」
ラーニャが声を掛けながらドアを押し開けると その先に居たレーミヤが 驚きの余り椅子から立ち上がると 言葉をこぼす
「え…まさか…!?」
レーミヤの言葉に疑問を返すラーニャ
「え?」
ラーニャに続いて入店するザッツロードはそんな2人を不思議そうに眺めてから ラーニャへ問う
「どうかしたのかい?…知り合い?」
ザッツロードの言葉に無言で首を横に振るラーニャ レーミヤはハッと我に返ると 自分を落ち着かせるため 再び水晶玉へ目を向ける 水晶玉にはザッツロードと ザッツロードの仲間が会話をしながら歩いている姿 そして、そこに自分も入っている 驚きが最高潮になり 硬直するレーミヤ そんなレーミヤの前にラーニャとザッツロードが 不思議そうに立つと ザッツロードが言う
「あの…占いをお願いしたいのですが…?」
レーミアが何とか言葉を返す
「あ…っ は、はいっ」
レーミヤの様子に ラーニャは思いのままに言葉を口にする
「…大丈夫かな?」
ラーニャの失礼な言葉を ザッツロードが慌てて止めて言う
「ラ、ラーニャッ!失礼だよっ!…うんっ えっと… あの この村で一番の占い師だと聞いて来たんです、僕は」
レーミヤが慌てて言う
「え、ええ、ごめんなさい、分かっています ザッツロード王子 …いえ、勇者ザッツロード様」
レーミヤの言葉に感心するザッツロード、一方ラーニャは不満げに言う
「この村だってローレシア領域の村なんだから 自国の王子様の名前ぐらい知ってるわよ?」
ザッツロードが再びラーニャを止めようとする レーミヤは一度気持ちを落ち着かせて言う
「…それでは、勇者ザッツロード様 何を占いましょう?」
接客体制に入ったレーミヤへ ザッツロードが一度微笑んでから言う
「はい、僕が集めるべき 仲間たちの事を教えて下さい」
ザッツロードの言葉にレーミヤは頷くと 水晶玉へ魔力を送る 水晶玉にレーミヤの知らない人物が数人映る レーミヤが彼らの特徴を言う
「見えました、1人 強力な魔法を扱う人物…」
ラーニャが疑問して言う
「魔法…?あ、あたしの事?」
レーミヤが言う
「1人 大きな剣を扱う剣士…」
ザッツロードが言う
「大きな剣… 大剣使い、アバロンの戦士かな?」
レーミヤが言う
「1人 万物を自在に操る者…」
ラーニャが言う
「万物を操る…?」
水晶玉に魔力を送るのを止め、レーミヤがザッツロードを見上げて言う
「他にも数名の方が見えましたが 旅の途中で出会いや別れがあるようです」
【 ソイッド村 】
ソイッド村へ向かうザッツロードたち 道中でラーニャが言う
「ソイッドの魔術師かぁ~」
キャリトールの魔法使いに続き、テキスツの占い師を仲間に迎えた 勇者ザッツロードは 魔術師の村と呼ばれるソイッドへ向かう 気の乗らないラーニャの言葉に ザッツロードは問う
「魔法使いと魔術師は仲が悪いのかい?どちらも聖魔力を使う 魔力者って事では 同じ様な事なんじゃ?」
人差し指を突き刺し、ザッツロードの言葉を即肯定するラーニャ
「だーかーら よっ!」
しかし、意味が分からないと言った顔をするザッツロードにラーニャは続ける
「私達は呪文を唱えてこの世界に満ちている聖魔力を攻撃の力に変える、魔術師は精霊や大地に語り掛けてその力を借りる」
ザッツロードが腕組みをして考えて言う
「う~ん… やっぱり同じ様な…」
再びラーニャが人差し指を指して言う
「だーかーらっ!そのどっちが正しいのか!って事で ず~~っと言い争ってる訳!」
言われたザッツロードが 呆れて言う
「え?あぁ… そうなんだ? はは…」
ラーニャが ザッツロードの顔を覗き込んで言う
「ザッツはどっちだと思う?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え!?ぼ、僕は…」
分からないと言いたそうなザッツロードに ラーニャは詰め寄って言う
「ザッツだって簡単な回復魔法とか使えるでしょ?精霊様に語り掛けたりしてる?」
ザッツロードが詰め寄って来たラーニャを押し留める体勢で言う
「そう… 言われても 確かに魔法を使う時、魔法の呪文を言うけれど、僕はその呪文の言葉の意味までは分からないし…もしかしたら”精霊様お願いします”って言ってるのかな?」
ラーニャが詰め寄って言う
「言ってるの?」
ザッツロードが押さえながら言う
「いや、だから分からない言葉だから」
ラーニャが更に寄って言う
「それじゃ 心の中では?」
ザッツロードが視線を逸らして言う
「言ってない…かな?」
ラーニャが笑顔で言う
「でしょ!?」
ザッツロードが焦りながら考えて言う
「あ、でも… ”その人の傷を治してくれ”って気持ちで呪文を言うから やっぱりお願いしてるのかも?」
再びラーニャが詰め寄って言う
「どっちよ!」
ラーニャに詰め寄られ続けているザッツロード レーミヤが苦笑して言う
「まぁまぁ… その答えが今出たら 魔法使いと魔術師の争いは とっくに終っているんじゃない?」
レーミヤの言葉に ラーニャが体勢を戻して言う
「…それも、そうよね?」
ザッツロードが開放されてホッと息を吐く レーミヤが微笑みを送る ザッツロードがレーミヤに苦笑して見せる
【 ソイッド村 】
ソイッド村へ辿り着いたザッツロードたちは 村の長を訪ねる 入り口をくぐろうとしたザッツロード だが中から聞こえた話し声に立ち止まる ミラが言う
「お断りだわ!」
村人の声がする
「しかし、誘いを断るとなればそれはローレシアへの反逆と見なされるぞ」
ミラの声がする
「だったら何?間違った事をするのを 傍で黙って見てろって言うの!?」
村人の声がする
「そうは言っていない、お前はお前の意見を言って良い」
ミラの声がする
「言ったって『聞かれなかった』んじゃない!」
ザッツロードたちが顔を見合わせてから部屋の中を覗く 部屋の中では1人の老人と数人の村人 そして1人の若い魔術師ミラが居る 村人が言う
「とにかく、お前は ただ同行すれば良いんだ」
ミラが言う
「嫌だって言ってるでしょ?」
村人が言う
「最悪、我らソイッドの村が ローレシア領域から外されるかもしれないのだぞ?」
ミラが言う
「それが何よ?外されれば外されたで この村だけでやって行ったら良いわ」
村人が言う
「ローレシア領域の外はガルバディアやソルベキアのプログラマー達の世界だ、我々では一溜まりも無い」
ミラが言う
「そんな弱気だから!相変わらずキャリトールの魔法使い”なんかに”馬鹿にされるのよ!って…っ!?」
部屋を飛び出そうとしたミラが ザッツロードとぶつかりそうになり、初めてザッツロード達の存在に気付いて驚く ラーニャが強い視線で言う
「キャリトールの魔法使い”なんか”で悪かったわね?」
ミラが沈黙した後 ラーニャの言葉に返す事も無く そのまま立ち去って行く ザッツロードと仲間たちが改めて挨拶と共に部屋へ入ると 長老を初め、その場に居た村人達も一応の歓迎をするが ザッツロードらに仲間として提供出来る魔術師は先ほどの若い魔術師だけだと言う
その場を後にしたザッツロードたち 建物から出た先、ラーニャが強い口調で言う
「あのさっ?出来るだけ各国の情報を集めて 出来るだけ各国の兵を仲間にしよう!って言う ザッツの考え 悪くないと思うよ?でもねっ?やっぱり一番重要なのは チームワーク だと思うわけ!私はっ!」
早口で捲くし立てるラーニャを ザッツロードが苦笑して押さえる その横でレーミヤが言う
「とりあえず、一度あの方と”落ち着いて” お話してからでも…」
レーミヤの言葉に ザッツロードが賛成の頷きをして見せる ラーニャが膨れっ面で言う
「絶対 無理だと思う!」
小さい村の中、1人の魔術師を見付けるのは簡単 見つけたミラに声を掛け様とするザッツロードへ ミラが言う
「あの会話を聞いた上で、私を追って来るなんて… 馬鹿なのか 自信過剰なのか どっち?」
ザッツロードが苦笑する
【 道中 】
レーミヤが水晶玉に映された宝玉の話をすると ミラが自分の母親から聞いたと言う100年前の話を一行に聞かせる
「勇者と同行した魔術師は初めから反対だったのよ 宝玉は、勇者達が手に取る前から 封印を司る精霊に語り掛けていた… それを、その場から持ち去ってしまう と言う事に」
ラーニャがあどけて言う
「宝玉まで 精霊様 に語り掛けちゃうんだ?」
ラーニャの言葉にムッと話を止めるミラ そんな2人に焦るザッツロード 傍から見守るレーミヤが声を掛ける
「しかし、宝玉の力を使う事で 魔王へ何らかのアクションを行う事が出来る と言う事は やはり本当なのね?」
ミラが言う
「”なんらかの”よ? それが良い事なのかどうか… それすら教えてもらえなかったわ」
ラーニャが言う
「でも手かがりは その宝玉 って事に、変わりないんじゃない?」
レーミアが考えてから言う
「後はあの場所…」
ラーニャが言う
「水晶玉に映った洞窟の?でも、その場所に ただ行ってもダメなんじゃない?宝玉が無かったら何も起きないかもよ?」
彼女達の会話を聞きながらザッツロードが声を上げる
「う~ん…」
皆の意見に悩むザッツロード 全員の視線が集まると その視線に気付き答えを言う
「やっぱり… もう少し 情報を集めてみないと…?」
全員の力が抜ける それを感じたザッツロードが苦笑を見せる ミラが気を取り直して言う
「宝玉を保管する国や100年前勇者に同行した仲間の末裔たちに 会いに行く旅 って事ね…」
ラーニャが言う
「出来れば”最後まで同行して居た仲間の末裔”が良いわよね?途中で抜けちゃったら~?分かるものも分からないじゃない?」
ミラがラーニャを無言で睨み付ける
【 ガルバディア国 】
ザッツロードと仲間達はローレシアから北東にあるガルバディア国へ向かう 山を越えてから気温が下がり肌寒くなる 寒さに震えながらガルバディア城に辿り着いた一行の前に 無機質な城門が見える しかし人気は無い 城門前で立ち止まって会話をする ラーニャが言う
「これがガルバディア城?なんだか…誰も居ないみたい」
辺りを見渡しながらザッツロードが言う
「門は開いているみたいだし、取り合えず国王様に会って 宝玉と… それから出来たら兵を与えてもらおう」
ザッツロードに続き 周囲を見渡しながら ミラが言う
「ガルバディアの人って 私会った事が無いわ」
ミラの言葉に レーミヤが答える
「ガルバディアの人は、昔から姿を見せない人だったの、だから数年前にプログラマーと呼ばれている人たちが、自分の姿を映像化して 私たちの前に現れた時には皆驚いたみたい」
レーミアの言葉にラーニャが問う
「映像化って?」
レーミヤが答える
「私も見た事は無いと思うのだけど ”見た”と言う人の話しでは 実在している人間と見分けが付かないらしいわ だから私たちが気が付かないだけで どこかの町で見かけているのかもしれないわね?」
ミラが疑問して言う
「目に見えるけど 触れられない映像?…まるで 幽霊ね?…でも、それで?彼らがプログラムと呼ばれる力を使って 私たちに危害を与える事は出来ても、私たちが彼らに攻撃する事は出来ないって事よね?」
それを聞いてラーニャが不安そうに言う
「お、お化けと同じって事…?ねぇ?それってちょっと危険じゃない?私たち入って大丈夫なの!?」
ザッツロードが皆を振り返って言う
「父上が事前にガルバディアの国王へ 連絡を入れて下さったから 大丈夫だと思うよ、行ってみよう?」
ラーニャが不安そうに言う
「大丈夫だと思うって… ”思う”ってどういう事~?」
ラーニャが怯える ザッツロードは進んでしまう ミラがラーニャの横に来て言う
「怖いならそこで怯えてなさい」
ミラの言葉にラーニャが怒って言う
「い、行くわよ!怖くなんか無いわ!」
ザッツロードたちは窓の無い建物が立ち並ぶ中 人気も無い一本道を進み 城の入り口へ辿り着く 閉じられている扉にザッツロードが手を触れようとすると 扉は勢い良く開く ザッツロードと仲間達が驚いている その驚きが止まないうちに 扉の奥にあったいくつもの扉が開き ザッツロード達の行く先が開かれる 各々顔を見合わせると ラーニャとミラの2人がザッツロードの背を押して ゆっくり進み始める レーミヤが苦笑している
ただひたすらに まっすぐ進んで行った先 一際大きな扉が開くと その先の玉座の間へ入ったザッツロード達の目前に玉座がある しかし、そこに人は居ない 周囲を見渡しながらラーニャが言う
「…誰もいないわ」
ラーニャと共に周囲を見渡すミラが続ける
「なによ、ここまで人を引き込んでおいて 誰も居ないだなんて」
2人と同く 辺りを見渡したザッツロードが正面を向いて言う
「ガルバディア国 国王様!私はローレシア国第二王子ザッツロード6世です!折り入ってお願いがあります!」
広い空間にザッツロードの声が響くが 目に見える反応は無い 仲間達が顔を見合わせる ザッツロードがもう一度息を吸い込み言う
「私の父である、ローレシア国王イシュラーンから連絡をしてあると思うのですが… 私は勇者ザッツロードの末裔として魔王討伐の旅を始めました、各国の優秀な兵と共に この世界の平和のため 各国に納められている宝玉を集めています、どうか このガルバディア国のそれらを 私に預けて頂きたいと存じます!」
再びザッツの声が響き渡る その反響が消え 再び訪れた静寂に仲間たちが肩を落とした瞬間 玉座の後方の壁が 先ほど通って来たドアと同様に開く 肩を落としていた仲間たちが驚く しかし、ザッツロードは彼女たちより少し落ち着いた様子で開いた扉へ向かう 仲間たちもそれに続く
進んだ先、小さな部屋の中心に宝玉が置かれている 仲間たちは息を呑み それでも喜んだ表情で顔を見合わせる そんな彼女達を後ろにザッツロードが宝玉を手に入れ 確認した後、仲間たちを振り返る と、その仲間たちの後ろに1人の青年プログラマーが立っている ザッツロードが呆気に取られる ザッツロードの様子に仲間たちが疑問しながら後ろを振り返ると ラーニャが悲鳴を上げる
「きゃぁああ!で、出た…っ」
ラーニャが震える ミラも目を見開いて驚くと 2人は思わず抱き合って怖がる しかし、すぐにハッと顔を見合わせ離れる ザッツロードがプログラマーの前へ行き声を掛ける
「君は?」
ザッツロードの簡素な質問に プログラマーは少し間を置いてから答える
『”ガルバディア国の優秀な兵”だが?不要なら今すぐに そうと言え』
ブログラマーの言葉にザッツロードの後方、ラーニャとミラが顔を顰める 彼女達の前ザッツロードは微笑むと 握手の手を差し伸べて言う
「不要だなんて とんでもない!僕はローレシア国のザッツロード6世、よろしく」
ザッツロードの言葉に無反応なプログラマー 沈黙が流れ ザッツロードが少し戸惑う そこへレーミヤが来て言う
「私はレーミヤ、後ろの2人はラーニャとミラよ、あなたは?」
レーミヤの言葉に 彼女へ向いたプログラマーが言う
『ガルバディアの民の名は全て デスと呼ばれる そして…』
レーミヤの言葉に答えたプログラマーは 顔だけをザッツの方へ向け続ける
『この姿はホログラムと呼ばれる映像だ、握手は出来ない』
ザッツロードが呆気に取られて言う
「あ…」
ザッツロードが気付くと 差し伸べていた手で恥ずかしそうに頭を掻く
【 道中 】
ガルバディア城を出たザッツロードと仲間達 地図を見ながらザッツロードが言う
「ここから南のアバロン国へ行きたい所だけど このアバロン山脈を越える事は出来ないし… ここから東へ向かってベネテクト国へ行こうか?」
ザッツロードの疑問符付きの提案に ラーニャが言う
「行こうか?じゃなくて 行こう!って言おうよ~?ザッツは勇者様なんだからー!」
ラーニャの言葉に ザッツロードが苦笑して言う
「あれ?ラーニャは”勇者様ー”って感じ なのは嫌いなんじゃなかったっけ?」
ザッツロードの言葉にラーニャが一瞬間を置いて怒って言う
「…少しぐらいは良いの!」
ラーニャが不満そうに頬を染め膨れると ザッツロードが笑う それでも地図をたたみながら東へ向かおうと歩みを始めると ザッツロードの後ろにホログラムを作っているプログラマーが言う
『東へ向かってもベネテクト国へは行かれない、先の大戦時に大破したベネテクト城の瓦礫が 道を塞いでいる』
ザッツロードが振り返りプログラマーを見上げて言う
「先の大戦って…たしか5年前の?」
プログラマーが言う
『ああ、それ以降 道は塞がれたままだ』
ザッツロードとプログラマーの会話に ラーニャが口を挟んで言う
「5年も経ってたら普通、人が通れる位には どかしてるんじゃないの?」
ザッツロードもラーニャに同意してプログラマーへ視線を向ける プログラマーが言う
『国王と王子がデネシア国に捕らわれていた為 復興作業は行われていなかった 現在は行われているが 道はまだ通じていない』
ザッツロードが驚いて言う
「え?それじゃバーネット国王は今デネシアに?」
プログラマーが答える
『先日、アバロン国の国王が救出した それで 復興作業が開始されたんだ』
ミラが言う
「どうせならもう少し早く救出してくれたら その道も通じてたでしょうにね?またローレシア領域まで戻らなきゃいけないじゃない」
ミラの意見に同感して ラーニャもめんどくさそうに言う
「最初っから分かってたら デネシア国の移動魔法陣を 確認しておいたのに~」
口々に愚痴るミラとラーニャに レーミヤが言う
「まぁまぁ…」
ザッツロードも苦笑して言う
「さぁ、悔やんでいても仕方ない ”行こう!”」
ザッツロードが歩き出すと仲間達も歩き出す
【 アバロン城 】
ザッツロードと仲間達は アバロン城へたどり着く 城下町への門を通ると 町は活気に溢れている ラーニャが言う
「わぁ~すっごい人」
レーミヤが言う
「久し振りに来たけど、やっぱりアバロンは活気があるわね」
ミラが言う
「私、うるさいのって嫌いなのよね」
ザッツロードが無言で周囲を見渡している ラーニャが声を掛ける
「ザッツはローレシア城からいつも城下町を見てるから あんまり感動しないって感じ?」
ザッツロードが苦笑して言う
「いや、そんな事は無いよ… 僕もアバロンの活気は凄いと思う、ローレシアも昔はもっと活気に満ちていたらしいんだけど… 今はアバロンに少し負けてしまってるかな」
ミラはふ~んと頷く ラーニャが笑顔でザッツロードの背を叩いて言う
「活気が減っちゃったって事?でも、また勇者ザッツロードが旅立って世界を平和に導くんだから きっと活気が戻るんじゃない?ね?元気出して!」
ザッツロードがちょっと痛そうに顔を歪めてから ラーニャの慰めに苦笑を返す
ザッツロードと仲間たちは 城下町の入り口からまっすぐ伸びるアバロン城への道を進む 仲間たちが周囲に沢山ある食料品の店や衣類の店へ視線を向けるのに対し ザッツロードはアバロン国の得意とする武器 大剣を売る店を眺めながら歩く その表情が暗い事に気付いたミラが声を掛ける
「どうかしたの?なんだか随分落ち込んでるみたいだけど?」
ザッツロードがハッとして言う
「え?あ、いや… その… あんな大きな剣を自在に操るなんて やっぱりアバロンの剣士は凄いんだろうな…って思ってただけで…」
ミラとザッツロードの会話に ラーニャが問う
「その凄い剣士を仲間にするんでしょ?これって喜ぶ所じゃない?」
ラーニャの言葉に共感してミラが頷くと 2人はザッツロードの顔を覗き込む 2人の視線にたじろぎながらザッツロードが答える
「そ、そうだね”喜ぶ所”だね?はは…」
ラーニャが不思議そうに首を傾げて言う
「変なザッツ~」
ラーニャとミラは視線を外しザッツロードを開放する
アバロン城へ到着したザッツロードたち 入り口の警備兵に通され玉座の間へ向かう アバロン国国王ヴィクトールの前に跪き ザッツロードが言う
「お目通りを 有り難うございます ヴィクトール陛下」
ヴィクトールがザッツロードを見下ろして言う
「ローレシア国のザッツロード王子 噂は聞いていた、ローレシアの勇者ザッツロードの末裔が旅に出たと」
ザッツロードが傅いたまま言う
「はい、各国に保管されている宝玉を集め 魔王を討つべく旅立ちました どうかこのアバロン国に保管されている宝玉を 私に預けて頂けないでしょうか?」
ザッツロードの言葉に ヴィクトールが頷いて言う
「ああ、承知している、ただその前に1つ聞きたい事があるのだが 良いだろうか?」
ヴィクトールの言葉にザッツロードは顔を上げ返事をする ヴィクトールはザッツロードをじっと見据え問う
「勇者ザッツロードの伝説 あれは何処までが真実なのだ?」
ヴィクトールの言葉にザッツロードが驚き声を上げる
「え?」
ヴィクトールが続けて言う
「100年前のローレシア国の王子の名がザッツロードであり、我が国の剣士を仲間にし…失礼、そちらに居られる魔力に長けた者も含まれていたな そして魔王を倒したと」
ヴィクトールの言葉に直に返事をするザッツロード
「はい、」
ヴィクトールがザッツロードを見据えて言う
「その戦いに宝玉の力を使った…それだけだろうか?」
ザッツロードがヴィクトールへ視線を向けて言う
「はい、私の知る限りでは そうだと思います…」
ヴィクトールが少し間を置きザッツロードの言葉を待つ しかし当のザッツロードもそれ以上続けられる事が無く黙ると やがてヴィクトールは納得した様子を見せる
「分かった、では 我が国の宝玉を貴公へ預ける 励んでくれ」
ヴィクトールが片手を上げ合図を送ると 兵が宝玉をザッツロードの下へ持って来る それを受け取ったザッツロードはヴィクトールへ再び向き直し敬礼する しかし、そんなザッツロードの後ろでラーニャが言う
「え?!ちょっと、仲間にする剣士は?」
小声で言ったがその声はヴィクトールの耳にも聞こえる ザッツロードがあっと声を上げる その様子に微笑するヴィクトール 言い辛そうにザッツロードが顔を向けるとヴィクトールは玉座の間の外へ向かって声を掛ける
「ヘクター、来ているか?」
ヴィクトールが声を掛けるのと同時に ザッツロードたちがその方向へ向く そこへヘクターが現れて言う
「とっくに来てるっつーの!いつ呼んでくれるのかって 待ちくたびれてたトコだぜ」
現れたのは アバロン国の大剣使いらしい派手な髪形の剣士 ヘクターはザッツロードたちを見て言う
「あ?あんたが勇者ザッツロードか?…ふ~ん 思ってたより ずっと弱そうだな?いまいちピンと来ないって~か… なぁヴィクトール?ホントにコイツなのか?」
呆気に取られるザッツロード その後ろでヴィクトールが1つ咳払いをして言う
「ヘクター、こちらは勇者ザッツロードであり、同時にローレシア国の第二王子でもある」
ヴィクトールの言葉に ヘクターが納得した様子で答える
「ああ、王子様か…なるほどね?」
ヘクターの失礼な態度に 言葉を失うザッツロード ヴィクトールが言う
「彼の無礼を謝ろう だが貴公に預けられる兵士は彼だけだ アバロンの大剣使いは少々口が悪い それは彼らが元々傭兵であった事が影響しており… 残念ながら治りそうに無い」
ヴィクトールの言葉に ヘクターが片手で頭を掻いて照れて見せて言う
「いや~照れるぜ!」
ヴィクトールが呆れた様子で言う
「ヘクター、私は 褒めてはいない」
ヘクターが再び照れた様子で頭を掻いて言う
「あ?」
笑うヘクター ザッツロードは沈黙したままそのやり取りを見ている ヴィクトールが気を取り直して言う
「しかし、彼の大剣使いとしての実力はこの国で… いや、この世界において右に出るものは居ない その点は保障しよう 連れて行くか行かないは貴公の判断に委ねる」
ヴィクトールの言葉を受けながらも ヘクターは両腕を頭の後ろへ回し終始くつろいだ様子 ミラに突っ突かれたザッツロードがハッと我に返り言う
「あ、優秀な兵士をありがとうございます」
やっと口にしたザッツロードの言葉に ヴィクトールが苦笑しながらも頷く ザッツロードの言葉を聞いたヘクターがヴィクトールへ振り返って言う
「な?今のはちょっと褒められてたよな?」
ヘクターの言葉に ヴィクトールが言う
「さぁ?お前の今後の働きで決まるだろう」
ヴィクトールの言葉に ヘクターが疑問して言う
「はあ?」
ヘクターが納得いかない様子で首を傾げる プログラマーがヘクターを見つめている
【 道中 】
ヘクターを連れ 城を後にしたザッツロードと仲間たち 城下町を歩きながら ザッツロードが言う
「ヘクター、アバロンの人は 皆 国王陛下にも あんな喋り方なのかい?」
ザッツロードの問いに ヘクターが変わらずリラックスムードで答える
「いや、んな事は無いぜ?俺はヴィクトールと子供の頃からの付き合いでさ?俺の親父も前の国王様と友達で ベネテクトの国王とか王子とかも歳が近くてよ?よく遊んでたんだよなー」
ザッツロードが思い出したように言う
「ああ、そういえばアバロンはベネテクトと、とても仲が良いよね?」
ヘクターが笑顔で言う
「ああ!ベネテクトの国王も面白い人でさ!俺はあーゆー国王って好きだったな~ ああ、もちろんアバロンの前王ヴィクトール12世様も強くて優しくて最高だったけどな!」
ヘクターの自信ありげな言葉に ザッツロードが少し押され気味に言う
「僕が旅に出る前まで アバロンの国王はヴィクトール12世陛下であったから、今日は少し驚いたよ ヴィクトール13世… 僕とほとんど歳が変わらないのに あんなに立派な姿で…」
ヘクターがのん気に言う
「あ?ああ、そっか、ザッツもローレシアの王子様だもんな?それじゃ この旅が終ったら国王様になるのか?」
ヘクターの言葉に ザッツロードが自信無さげに答える
「いや、僕は第二王子だから、国王には兄上がなるよ」
ヘクターは相変わらずのん気に言う
「そっか国王様にはならないのか …でもよ、ヴィクトールは羨ましがると思うぜ?あいつ最近国王になって色々始めたけど なんか思ってたほど国王が出来る事は少ないとか何とか言って落ち込んでたぜ?何したかったんだか知らねーけど、そんなモンらしい」
ザッツロードが視線を落として言う
「そうなんだ…」
ヘクターが横目にザッツロードを見て問う
「ん?なんか元気ないな?腹でも壊してんのか?」
俯くザッツロード 覗き込むヘクター そこへラーニャが言う
「そうそう、今日のザッツちょっと変だよ?」
ミラが腕組みをして言う
「調子が悪いなら言って貰えた方が 余計な気 使わないで済むんだけど?」
ザッツロードが困った様子で言う
「あ、ごめん心配掛けて… ただその…」
全員の視線が集まる ザッツロードがいう
「僕は勇者ザッツロードとして世界を回らなきゃいけない …と、判ってはいるんだけど どうしてもローレシアの王子としての想いも入ってしまうんだ 特にこのアバロン国の様に… 昔のローレシアみたいな活気を持っている国を見ると なんだか少し…」
ラーニャが問う
「寂しくなる?」
ミラが言う
「胸が苦しいって感じなのね?」
ザッツロードが続ける
「ローレシアに このアバロンの様な活気を取り戻したいと思うけれど… ローレシアの事は父上と兄上に任せるしかないし でも、僕も昔から国王としての教育を受けいた だからヴィクトール陛下や兄上の様に 国王として期待され そして国王になって勤めを果たせるのは …羨ましいなって」
ザッツロードの話に平民である仲間達がう~んと考える ザッツロードが自分の悩みから皆を解放しようと慌てて言う
「あ、いや、ごめん、良いんだ、僕は…」
ヘクターが思い付いた様に言う
「でもよ?それってザッツが世界を救わなきゃ出来ない話だろ?」
ヘクターの言葉にザッツロードが思わず疑問の声を上げる
「え?」
ヘクターが続けてザッツロードへ言う
「ザッツは世界を救う勇者様だろ?その世界にはローレシアもアバロンも ベネテクトとか俺の好きな国も入ってる訳だし その全部の国の活気を戻せる勇者って凄くないか?」
ラーニャが共感して声を上げる
「そうだよ!凄いよ!」
ヘクターが笑顔で言う
「故郷の国が一番恋しいのは解るけどよ、ザッツはまず勇者としての勤めを果たさねーと …だろ?で、その手伝いを 俺がするぜ?」
ラーニャが言う
「あ!私も!」
ミラが言う
「私もさせてもらうわ」
レーミヤが言う
「ふふ…っ もちろん私もね?」
ザッツロードが皆の顔を順番に見て言う
「ヘクター… ラーニャ ミラ レーミヤも 皆 ありがとう、はは… やっぱり”勇者の仲間”って凄いな?」
皆が笑う
【 ローゼント国 】
仲間達との絆を深めたザッツロードは アバロン国から次の宝玉を求めソルベキア国へ向かう アバロンから東への道は 先日起きたアバロン国とカイッズ国の戦のため 国境が閉鎖されている アバロンから南へソルベキアを目指すザッツロードたちは 途中の国ローゼント国へ立ち寄る ザッツロードに国の名前を聞いたヘクターが声を上げる
「ローゼントか!なら俺知り合いが居るぜ?もしかしたら仲間になるかもな!」
ヘクターの言葉にザッツロードがヘクターへ問う
「ローゼント国と言うと、確か長剣使いの国だね ヘクターの知り合いって事は やっぱり凄く強いのかい?」
ヘクターが笑顔で答える
「おう、俺と同じか 次ぐらいかな~?」
ザッツロードが微笑んで言う
「それは頼もしいね 探してみようか?名前は?」
ヘクターが嬉しそうに言う
「名前は ヴェルだ、あぁ、違った!ヴェルアロンスライツァーだ!ローゼント国の第2部隊隊長だぜ?」
ローゼント国の兵に場所を聞いて ザッツたちはヘクターの知り合いを探す 程なくしてその人を見つけたザッツロードたち、姿を確認したヘクターが駆け寄って言う
「よう!ヴェル!」
ヘクターに気付いたヴェルアロンスライツァーが振り返って言う
「ヘクター?先日訪れてくれたばかりであったが?時を置かずして何故再び ローゼントへ?」
ヴェルアロンスライツァーがヘクターの後ろから付いて来たザッツロードたちを見て問う
「彼らは?」
ヴェルアロンスライツァーの問いに ヘクターが答える
「ローレシア国の勇者様と仲間達だぜ!」
ヘクターに紹介され ザッツロードが改めて名乗る
「ローレシア国の勇者の末裔ザッツロード6世です こちらはラーニャ、レーミヤにミラ あなたがヴェルアロンスライツァーですね?ヘクターに聞きました とても強い方だと」
ザッツロードの言葉にヴェルアロンスライツァーが答える
「お褒めの言葉痛み入る 勇者ザッツロード殿 お噂はかねがね」
言葉と共に軽く敬礼するヴェルアロンスライツァー ザッツロードも同じ様に返して言う
「唐突なお願いなのですが もし可能であれば、貴方の力を我々に貸して頂け無いでしょうか?我々の目的は この世界に悪魔力を振り撒いている悪の根源である魔王を倒す事です 貴方が共に来てくれるなら とても心強いのですが」
ザッツロードが言う間 彼の後ろで微笑んでみせる仲間達 ヘクターだけが悪戯っぽく笑っている そんな彼らを見渡すヴェルアロンスライツァー、視線をザッツロードへ戻して言う
「勇者ザッツロードの仲間へのお誘い このヴェルアロンスライツァー、光栄の至り しかしながら、私がお仕えするのは生涯このローゼント国の王女アンネローゼ様 唯1人 よって貴殿からの名誉あるお誘いは 辞退させて頂きたい」
ヴェルアロンスライツァーの返答を聞き終え ラーニャが思わず落胆の声を上げて言う
「え~ そんなぁ…」
ザッツロードも残念そうな表情を浮かべながら言う
「そうですか… 残念です しかし 仕方がありません 今回は諦める事にします」
ヴェルアロンスライツァーが軽く頷き言う
「貴殿らの活躍を願っている」
ヴェルアロンスライツァーと分かれたザッツロードらは ソルベキア国へ向けローゼント国を後にする
【 道中 】
ラーニャが言う
「残念だったねー あの人」
ミラが言う
「いかにも騎士って感じの人だったわよね」
ラーニャが言う
「なんて名前だったっけ?ヴェルア…?」
ミラが言う
「ヴェルアロンスライツァーよ」
2人の会話にレーミヤが入って言う
「確かローゼント国の古い言葉で ”王を守る剣”って意味だったと思うわ」
レーミヤの言葉に ラーニャが表情を明るめ言う
「わーそれって すっごい解る~!」
ミラが腕組みをして言う
「正に 名前の通りの人物になった訳ね ヘクターが褒める位強いんでしょ?」
レーミヤが言う
「それに、この国の王女様だけに仕えるって言うのも名前の通りね…」
ラーニャが堪らないと言った 表情で言う
「ますます残念!」
ミラが頷きながら言う
「でも私たちに加わらない事が 彼の道なのよ きっと」
剣を振るわないラーニャ達の会話に ヘクターは少し機嫌悪く ザッツロードは少し落ち込み気味に苦笑する そこへいつもは皆をたしなめる役のレーミヤが言う
「あんなに剣士様らしい方は 初めて見…」
そこまで言い掛け 自分を見つめる2人 ヘクターとザッツロードに気付き レーミヤが言う
「あ…」
口を押さえながら焦るレーミヤに ヘクターが言う
「俺は剣士様らしくねーって事か?」
ザッツロードが落ち込み気味に苦笑して言う
「僕も一応剣を使うんだけど…」
二人の言葉に レーミヤは思わず言う
「ご、ごめんなさい…」
レーミヤがすまなそうに小さくなって謝ると その後ろでラーニャが言う
「あらら…謝っちゃった、」
ミラが言う
「謝るって事は 言った事を肯定するって事よね?」
レーミヤが怒って言う
「もうっ2人とも!」
レーミヤに怒られ 自分達が根本だった事に笑う
【 ソルベキア国 】
ソルベキア国の城下町へ辿り着いたザッツロードは 慣れた様子でソルベキア城へと向かう 他国に比べ城下町から城までの道が入り組んでいるソルベキア国 その道を迷う事無く先行するザッツロードへ ラーニャが問う
「あれ?ザッツはソルベキア国に詳しいの?」
ザッツロードが言う
「うん、僕が子供の頃 良く父上と来た事があったんだ ローレシアの次に道の分かる国だと思うよ」
ミラが言う
「意外ねローレシアは機械化の遅れている国だから ザッツもそこの誰かさんみたいに 町へ入るだけで顔色を悪くするかと思ったわ」
ミラが言い終えると共に全員からだいぶ遅れてフラフラ歩くヘクターを指差す 今まで後ろを見る事無く先行していたザッツロードが驚いて言う
「ヘクター?大丈夫かい?!」
問われたヘクターは 近くの壁に片手をつきながら 苦しそうに言う
「なんなんだ?この… 臭い匂いは?…ゴホゴホッ 喉痛ぇし… ゲホッ」
体を折り曲げ苦しそうなヘクターの後ろに プログラマーのホログラムが現れて言う
『光化学スモッグだな』
ヘクターが視線だけを上げて言う
「こうかがく…モップ?」
プログラマーが無表情に言う
『光化学スモッグだ、周囲にある工場や 馬車の馬の換わりに使われている機械車が発するガスなどに含まれる窒素酸化物や炭化水素に この大陸でもっとも南に位置しているソルベキア国の特有の強い太陽光に含まれる紫外線の影響が加わり 光化学反応を起こす現象だ 個人差にも寄るが 余り長期間ここに居る事は勧められない』
ヘクターが苦しそうに言う
「あぁ…?なんか…難しいけど 空気が悪くて 暑いせいで…何かなってるのか?」
プログラマーが無表情に言う
『…まぁ そんな所だ』
ヘクターが頭を下げて言う
「はぁ… そっか… そんで 俺… ちょっと やばい かも…」
ザッツロード、レーミヤ、ミラが声を掛けながら駆け寄る
「ヘクター?」「ちょっと!ヘクター!?」「ヘクター!!」
ヘクターが地面に倒れる ザッツロードが慌てて言う
「ヘクター!?どうしたんだ!?ヘクター!?」
レーミヤが言う
「すぐに回復魔法を!」
慌てるザッツロードたち その中で プログラマーが冷静に言う
『大丈夫だ、命に別状は無い ただ 空気の良い室内で休ませるのが得策なのだが』
ザッツロードがプログラマーを見上げ 少し考えて言う
「それなら、僕の知り合いの屋敷へ行こう!きっと休ませてくれる」
そう言ったザッツロードがヘクターの肩を担いで立ち上がる ザッツロードに次いで背の高いレーミヤがもう片側の肩を担ぐ ザッツロードが道を示して言う
「そこの角を左へ」
ザッツロードたちがヘクターを運ぶ ザッツロードの示すままに行くと やがて大きな屋敷が見えて来る 屋敷の門まで来たザッツロードは門にある呼び鈴を鳴らす 間もなくして門が開くと共に スファルツが使用人を引き連れてやって来る
「ザッツロード王子、ようこそいらっしゃいました …して、そちらの方は如何されました?」
ザッツロードが言う
「スファルツ卿、突然の訪問申し訳ない しかし、急を有した為 どうか力を貸して下さい」
スファルツが 冷静な表情で言う
「勿論です さ、お連れの方を彼らへ」
スファルツの使用人たちにヘクターを預けるザッツロード 使用人たちがヘクターを抱え運ぶ中 ザッツロードがスファルツへ言う
「えっと…僕達の仲間が言うには 彼は光化… えっと…」
ザッツロードが咄嗟に聞き慣れない言葉が思い出せず口ごもると 後方の仲間達へ向いてプログラマーの姿を探すが プログラマーのホログラフはそこには無い ザッツロードが言う
「あ、あれ? デス?」
名を呼んで辺りを見渡してもプログラマーは現れない 困ったザッツロードがそこに居る仲間達に問う
「デスはなんて言ってたっけ?『こうか…』?」
ラーニャが言う
「何とかモップだっけ?」
ミラが言う
「スモッグよ、煙でしょ?喉が痛くなる」
レーミヤが言う
「えぇと それで全部で何て言ってたかしら…?」
全員の意見を聞いたスファルツが言う
「”光化学スモッグ”ですね?あぁ… そういえば 今日は警報が出ていたはずです ささ、我々も中へ入りましょう これからもっと酷くなりますから」
スファルツの招きに ザッツロードが微笑んで言う
「ありがとうございます、スファルツ卿」
スファルツと共に屋敷へと入ったザッツロードと仲間達 使用人がスファルツへ耳打ちする
「お仲間の方は客室で休ませております」
スファルツへ使用人が連絡しているのを見るザッツロード その後ろでは仲間達が豪華な屋敷の内装を眺めている スファルツがザッツロードへ言う
「彼はしばらく休ませれば大丈夫だそうです、その間… 丁度時間も近いですし、宜しければ昼食でもご一緒に如何でしょうか?」
ザッツロードが言葉を言い掛け
「あ… い…」
遠慮しようとしたザッツロードの後ろで 豪華な屋敷に見入っていたラーニャが歓声を上げる
「え!?ホント!?」
ザッツロードが苦笑すると ミラやレーミヤも喜んでみせる 仲間達の反応を見たスファルツが笑顔を見せ言う
「世界を救う勇者様とそのお仲間の方々と 食事をご一緒させていただけると 私も嬉しい限りです」
スファルツの言葉に ザッツロードは申し訳なさそうに微笑して言う
「…ありがとうございます、それでは」
ザッツロードの形式張った礼を受ける前に ラーニャが声を上げる
「やったー!」
ミラが言う
「これこそ役得ね」
仲間達の素直な喜びようにスファルツが 微笑んで道を示す
「では、どうぞこちらへ」
【 別室 】
ヘクターが目を覚ます 豪華な部屋の中のベッドに寝かされている 傍に居たプログラマーのホログラムへ ヘクターが問う
「…うん? あれ? 俺…」
プログラマーが言う
『気が付いた様だな』
ヘクターが言う
「デス…? ここは?」
プログラマーが言う
『ここはソルベキア国スファルツ卿の屋敷だ、ザッツロードの知り合いらしい』
ヘクターが言う
「あ~…そうなのか そっか…俺…」
額に手を置きながら枕に埋もれるヘクターへ プログラマーが言う
『光化学スモッグのガスにやられて倒れたんだ、アバロン人は化学物質に慣れていない為、影響が強く出たのだろう』
ヘクター返事をして 起き上がる
「そっか… うっ」
ヘクターが身を起こし気分が悪そうに胸を押さえると プログラマーが言う
『起き上がれるのなら シャワーでも浴びて来ると良い 皮膚に付いた有毒成分を洗い流すんだな』
ヘクターが言う
「あ…そうなのか…?そうだな、気付けにもなりそうだし そうする… 皆は?」
プログラマーが言う
『スファルツ卿と昼食を取っている』
ヘクターがベッドから出て辺りを見渡すし 浴室がありそうなドアを見つけると言う
「そっか… んじゃ悪りぃけどザッツに 俺が起きた って伝えといてくれるか?」
プログラマーが沈黙する ヘクターが向かっていた足を止め疑問して言う
「どうした?」
プログラマーが言う
『…私の姿をソルベキアの民に見せたくない』
ヘクターは 振り向き言う
「あ?そうなのか?…仲悪いのか?同じ 機械好き 同士だろ?」
プログラマーが言う
『奴らと一緒にするな …どちらにせよ、ザッツロードたちは食事を終えたらここへ来るはずだ その時に伝えておく』
ヘクターが苦笑して言う
「…ああ、よろしく」
ヘクターが出て行く 残されたプログラマーが ザッツロードたちの居る方向を向いてから姿を消す
【 別室 】
スファルツが言う
「お味の方は如何ですか?ローレシアに比べると少々味が強目かもしれませんが…」
運ばれてくる食事にを次々に平らげる仲間達 一方一通りのマナーをわきまえるザッツロードが静かに答える
「とても美味しいです、ソルベキアは辛い香辛料を良く使うと聞いていたのですが そうでもないみたいですね?」
ザッツロードの言葉にスファルツが微笑んで言う
「あぁ、一昔前までは どんなものにでも香辛料を使っていたのですが、食にこだわるアバロンの方々の影響を受ける様になってからは だいぶ変わったのですよ」
ザッツロードが納得した様子で言う
「そうでしたか…」
食べるのに夢中な仲間達の代わりにザッツロードが会話をする スファルツは仲間達の様子を楽しげに見やってから言う
「そういえば、ソルベキアのロボットが完成した事をご存知ですか?」
ザッツロードが首を傾げて言う
「ロボット?」
スファルツが静かに言う
「はい、今までの機械とは違い、人と同じ様に二本足で歩き、どんな物も手で持つ事も出来るのですよ 人間が行う作業を 代行する事が出来るのです」
ザッツロードが驚いて言う
「人と同じ事が 機械に出来るのですか?」
スファルツは微笑んで言う
「ずっと研究開発を続けてきたソルベキアの技術の結晶です、先日シュレイザー国が購入して早速使用したそうなのですが…やはり未だ開発途中のものだった為 残念ながら上手く動かず失敗したそうですが それからずっと改良を続けていたのです」
自分の考えの及ばない範囲の話にザッツロードは曖昧な返事をする
「へぇ…」
仲間達は柔軟な受け取りをして ラーニャ、ミラ、レーミヤが感想を述べる
「人間と同じ様に動ける機械なんて 信じられないわね?」
「機械って鉄で出来てるんでしょ?そんな硬いのがどうやって人間みたいに動けるの?」
「機械で出来た人間?人間の作業をちょっと手伝うぐらいなら 今までの機械と変わらないわよね?」
スファルツが彼らの返答を聞いて笑う
「はっはっは… いや、失礼、皆さんの知っている機械と言うのは随分昔のものみたいですね?今このソルベキアではただ動くだけなら人間とまったく同じ動きを出来る所まで技術は進んでおりますよ もしお時間を頂けるのでしたら 最新の物…とまでは行きませんが、それ相当のロボットを皆さんにお見せしたいのですが」
ラーニャ、ミラ、レーミヤが順番に喜んで言う
「え?見られるの!?見たい見たいーっ」
「す、少しぐらいなら… 確認は しておいた方が良いわよね?ソルベキアの 最新技術でしょ?」
「是非見せていただきたいわー」
戸惑うザッツロードを差し置いて 仲間達は興味津々な様子
「あ、みんな…」
スファルツも喜んで頷く
「ザッツロード王子、申し訳有りませんが、少しだけお時間を頂いて お仲間の方をご案内しても宜しいでしょうか?」
スファルツの言葉に ザッツロードが苦笑して言う
「何から何まで…申し訳ないです、スファルツ卿」
スファルツが笑顔で答える
「いえいえ、これは私の我侭ですので」
食事を終えザッツロードが 部屋に戻るとベッドからヘクターが消えている
「あれ?ヘクター?」
ザッツロードが名を呼びながら周囲を見渡すと デスの声が聞こえる
『ヘクターはすぐに戻る、それよりスファルツ卿に宝玉の話はしたのか?』
声のした方を向いたザッツロードの前にデスがホログラムを映し出す それを確認したザッツロードが微笑して言う
「うん、父上から各国の国王へ連絡を入れてくれているけど いつ到着するかまでは伝えられないから スファルツ卿が僕達が到着した事をソルベキア国王へ伝えてくれるって」
ザッツロードとデスの会話が終ると 丁度ヘクターが部屋へ戻ってくる
「ふぅ、気分も体もさっぱりしたぜ」
ザッツロードがヘクターへ向いて言う
「ヘクター、大丈夫かい?」
ヘクターがザッツロードに気付いて言う
「お!ああ、もう大丈夫だ!迷惑かけちまって わりー」
軽く謝るヘクターへザッツロードは首を横に振る
「いや、良いんだよ、大した事無かったみたいで良かった」
ザッツロードの後ろなどを見ながら問うヘクター
「ああ… あれ?他の皆は?」
ザッツロードが答える
「うん、ソルベキアの開発したロボットを見せてもらってる、ヘクターも大丈夫そうなら一緒に行かないかい?」
腕を組んで考えるヘクター
「ロボット?…ロボット~ なんだっけ? なんか知ってる様な~…?」
デスが言う
『シュレイザー国へ渡ったものより新しいものらしい お前達が破壊したものより遥かに技術が上がっているのだろう』
デスの言葉にザッツロードが疑問して言う
「え?」
ヘクターが深く考え 思い出して言う
「俺らが破壊したシュレイザーのって…あれは ああ、そうだ『ロボット兵』」
ザッツロードが言う
「え?ロボット兵?」
ヘクターがザッツロードへ向き直って言う
「ああ、俺達が戦ったのは『ロボット兵』ってやつだった …え?ロボット兵を見に行くのか!?」
ザッツロードの顔を見て問うヘクター 問われたザッツロードは慌てて言う
「いや、兵とは言って無かったよ?!ロボットだって…?人の重労働を代わりにやってくれるものだって言ってたけど?」
デスが呆れた様子で言う
『元は軍事目的で開発されているものだ まさか本当に奴が言うような「人間の重労働軽減」目的で作られていると思っているのか?』
デスの言葉に ザッツロードがショックを受けて言う
「そんな…スファルツ卿が軍事目的のロボットに関わるなんて…」
デスが無表情に言う
『どちらにしろ見ておく事だ 見た事があるのと無いのでは 大きな差になる』
ザッツロードとヘクターが屋敷の使用人に連れられ向かうと ラーニャが自分達の居る場所より低い場所で作業をしている ロボットを指差し声を上げている
ラーニャ「見てーあのロボットあんな小さい物運ぶのに すっごいゆっくり~」
ミラ「あれでは日が暮れてしまうわね」
ラーニャ「わ、あっちのロボットは あんなに重そうなもの1人で持ってるよー?」
ラーニャの驚きに答えるスファルツがザッツロードたちの登場に気付く
「あのロボットの起重力は1500キロですので、あれ位は十分持ち上げられます ん?ああ、いらっしゃいましたね?」
ラーニャがヘクターの回復を喜んで彼の背中を叩く ヘクターは痛そうにしながらも笑う
「あ、ヘクター!大丈夫?!」「おう!もう平気だ、迷惑掛けたな、」「もーびっくりしたよー」「はは、悪ぃ悪ぃ」
ヘクターの様子にスファルツも微笑んで言う
「すっかり良くなられたようで安心致しました」
ザッツロードがスファルツを示してヘクターへ言う
「ヘクター、こちらはスファルツ卿、僕の父上の古くからの知り合いなんだ」
ヘクターが頭を掻きながら言う
「ああ、さっきデスに聞いた スファルツ卿さん 迷惑掛けてすまねぇ」
スファルツは微笑んで言う
「いえいえ、元を正せばこのソルベキアの空気の悪さがしでかした事ですので、謝るのは私の方です」
スファルツの言葉に頭を振るヘクター そんなやり取りの中ラーニャがまたロボットを指差す
「あ、見て見て!あのロボット あんな持ち方して大丈夫かな~?」
見ると一体のロボットが不安定な物を持ち上げ歩き出している だが一、二歩歩いたところで ラーニャが言う
「あ!ほら~落としちゃった、」
不安定な物の上に積まれていたものが落ちる そのロボットの後ろでは別のロボットが同じく不安定な物を持ち上げる だが ミラが言う
「あ…あのロボットは ちゃんと位置を修正したわ」
先ほどのロボットとは違う動きをする かと思えば先ほどのロボットはまた同じ失敗を繰り返す その2体を見たラーニャとミラが顔を見合わせる 2人の疑問を解決させようとスファルツが説明をする
「あの片方のロボットにはAIと呼ばれるチップが入っているのですよ」
ラーニャとミラが声を合わせる
「「AI?」」
スファルツが更に説明をする
「人工知能と呼ばれるものです、あちらのロボットが同じ失敗を繰り返すのと違い、人工知能を有したロボットは経験から学ぶ事が出来るのです、ですから 同じ失敗を繰り返さないための行動を自らの経験と 元々持ちうる情報から詮索して行うのです」
スファルツの言葉にザッツロードが思わず言葉を漏らす
「そんなことが…」
スファルツの屋敷を後にしたザッツロードたちはソルベキア城へ向かう スファルツ卿がザッツロードたちに言う
「馬車を用意させましたので どうぞご利用下さい」
スファルツの用意した機械式の馬車に乗ったザッツロードたち 馬の代わりに機械が付けられ 操作をする人物が居なくても自動で城まで動く 経験のあるザッツロードを除く仲間達が驚いている間に 機械馬車は城へ到着する 自動で開いた扉から降りるザッツロード、それに続く仲間達 そして 車酔いしたヘクターが最後に続く
「うぇ…気持ちわりぃ…」
そんなヘクターに回復魔法を掛けるレーミヤ ザッツが苦笑しながら問う
「ソルベキアとアバロンは同じ中央大陸にあるのに そう言えばアバロンにはまったくと言って良いほどソルベキアの機械が入っていないよね?」
回復したヘクターが言う
「ああ…俺達アバロンの民は自然を愛するんだ、機械だの魔法だのは使わないのが慣わしなんだぜ」
ヘクターの言葉にミラが腕組みをして言う
「魔法は使わないんじゃなくて 使えない の間違いではなくて?」
ミラが片眉を吊り上げる 回復魔法のお陰で体調が回復したヘクターは レーミヤに礼を言いながらミラへ振り返る
「ん~まぁ、そうだけどよ、もし使えても、使わないって考えだったんだ でも最近は少し変わって来てる ウィザードも居るしな!」
ヘクターの言葉にミラが食い付いて言う
「ウィザードですって!?」
ヘクターがのん気に続ける
「ああ、ガルバディアのウィザードだ 1人だけだけど あいつのお陰でこの前はすっごく助かったし ああ、山火事の時もな、だから 少しずつだけど魔法も受け入れるように…」
ミラが声を荒げる
「冗談じゃないわ!!」
ザッツロードが驚いて言う
「ど、どうしたんだい?ミラ…」
ミラがザッツロードを無視してヘクターへ怒鳴る
「ウィザードの力は私たちの使う 聖魔力ではない!悪魔力なのよ!?あんな力 使って良い訳ない!」
ミラに怒鳴られたヘクターは一瞬後退るが、すぐに体勢を立て直して言う
「あいつは良い奴だ!悪い奴じゃねー!だから もし悪魔力を使ってるんだとしても!俺はあいつを信じる!」
しかしミラも譲らない
「あいつって!?あなた、デネシア国を襲ったウィザードが居るって知らないでしょ!?」
ヘクターが一瞬驚き言う
「知ってるさ!そのウィザードが今アバロンに居るんだ」
ヘクターの言葉にミラが驚く 再びミラが怒って言う
「なら、尚更解ってないわ!私の姉はね!その時デネシアでウィザードと戦って大怪我したの!そんな化け物を よく国に置いておけるわね!?」
ヘクターが負けずに声を張る
「知ってる!俺だってその時 戦っていた!」
ミラが驚く
「…え?」
ヘクターは続ける
「怪我もした、…でもそれは あいつがガルバディアの研究者って奴に操られていたからで!今はもう、操られる事はねーんだ、だから、あいつは大丈夫なんだよ」
ミラが驚きながら言う
「戦ったって… まさか?もしかして あなたが私の姉と一緒に戦ったって言う アバロン国の3番隊隊長…?」
ヘクターが言う
「ああ、俺はアバロン3番隊の隊長だ… なんだ?あん時の魔法使い お前の姉さんだったのか?」
ミラが怒って言う
「魔法使いじゃなくて 魔術師よ!」
ヘクターが苦笑して言う
「あぁ 悪ぃ、俺その差が分からねーんだよ」
ミラが沈黙する
「…」
ミラが腕組みをして膨れる ヘクターが頭を掻く やがてミラがヘクターの前へ立ち 顔を見上げて言う
「あんたがあの時のアバロン兵なら 一言言う事があるわ」
ヘクターが姿勢を直し どんな言葉にも負けないと気合を入れて言う
「あ?…お、おう なんだよ?」
ミラが静かに言う
「…姉や皆を助けてくれて … ありがとう…」
ヘクターが意外な言葉に思わず返す言葉を失い 驚いた顔でミラの前で止まっていると やがてミラがプイッと顔を背けて言う
「それだけよ … 何してるの? さっさとソルベキアの国王様に会うんでしょ!?」
ミラが今まで空気になっていたザッツロードや仲間達を差し置いて先行する ザッツロードが慌てて後を追う ラーニャは硬直の解けないヘクターの下へ近づき言う
「ミラがお礼を言うなんて… なんか 悪い事でも起きなきゃ良いけど…」
レーミアが苦笑する ヘクターはやっと硬直を解かれ困惑したまま言う
「あ…ああ、なんか 今日は…頭がおかしくなりそーな事ばかりだぜ…」
国王の前まで通されたザッツロードたち、挨拶をするよりも早くザッツロードの前に宝玉が差し出される
「あ、あの、ガライナ陛下、私たちは…」
挨拶をしようとしたザッツロードだが、ソルベキア国王が言う
「全て分かっている、ザッツロード王子…いや、勇者ザッツロード 魔王討伐の旅 精進してくれ」
ザッツロードが差し出された宝玉を前に言う
「ありがとうございます…」
それを見届けたソルベキア国王は1つ頷くと立ち去って行く ザッツロードは敬礼したまま見送る
ソルベキア城を出たザッツロードたち、ラーニャが気だるそうに言う
「なんか~ 宝玉を渡してくれるのは有り難いけど… 全然 感情入って無い感じだったって言うか~」
不満を前面に押し出して言うラーニャに 手にした宝玉を見つめていたザッツロードが顔を上げて言う
「しょうがないよ… ガライナ陛下も きっと忙しい中、時間を割いて下さったんだろうから」
不満が拭い切れないラーニャが言う
「そうかなー?」
ラーニャに笑顔を見せてザッツロードは言う
「さあ!ヘクターがまた気分を悪くしない内に 先へ進もう!」
ザッツロードの言葉にヘクターを除く仲間達がヘクターを見る と、そこには再び気分を悪くした様子でヘクターが屈んでいて言う
「い…言うなってのに…」
【 ソルベキア国→(アバロン国)→ベネテクト国 】
ソルベキア国から移動の魔法でアバロン国の移動魔法陣まで飛んだザッツロードたちは そこから東のベネテクト国へ向かう ベネテクト領域へ入るとラーニャがヘクターへ問う
「ヘクターはベネテクト城に行った事はあるの?」
ヘクターは首を横に振る
「いや、子供の頃は 1人で旅に出られるようになったら最初に行きたいと思っていた国だったんだけどな?一人旅出来る様になった時にはベネテクトの国王様がデネシア国に囚われてたもんだから 行く気にならなくてよ… けど、この前戻ったんだ!だから今日は俺 すげー楽しみなんだぜ!」
ヘクターが言い終えると同時に笑顔になる 仲間達も嬉しい気分になってミラが言う
「ヘクターがそんなに気に入ってるベネテクトの国王様ってどんな人なのかしら?なんだか…あんまり規律正しい人では無い気がするのだけど?」
ミラの言葉に ヘクターが答える
「俺の知るベネテクトの王様ははデネシアで殺されちまったんだ だから 今国王なのは息子のバーネット2世の方だけど… へへっ王子も結構面白い奴だったから やっぱり楽しみだな!」
ラーニャが問う
「殺されたって…どうして?」
ヘクターはう~んと唸り間を置いてから答える
「5年前にアバロンが色んな国に襲われそうになって…それをベネテクト国が防いだんだ でもデネシアはアバロンを襲うのではなく 守るために向かっていたのに まったく関係のないベネテクト国から奇襲されたって言い張ってさ?その責任を取らされる形でベネテクト国の王と王子がデネシア国に幽閉されて 挙句の果てにデネシアはベネテクトの国王を殺したんだ」
ラーニャが悩む表情で言う
「え~…何かそれ酷くない?アバロンが襲われるって分かったから ベネテクト国が助ける為に防いだんでしょ?デネシア国の 守るために来ていた って言う方が 後からの言い訳なんじゃないの?」
ラーニャの言葉に共感するヘクターが言う
「俺もそう思う、デネシアは間違いなく 他国と一緒にアバロンを狙ってたはずなんだ、そうじゃなかったらデネシアがわざわざアバロン山脈を迂回してベネテクト領域からの経路を取る必要なんてねーんだ」
ザッツロードが言う
「しかし、デネシア国はその年に王女がアバロン国へ嫁いでいてアバロン国第一王子をその身に宿していた そして、その事は公に公表されていたし 当時かなり寂れていたデネシア国が 例え全力でアバロンへ奇襲を掛けたとしても その戦力では勝ち目が無いという事も 世界中の国々に知られていた だからベネテクト国の言い分が効力を持たなかったんだ」
ザッツロードの説明に納得するラーニャ
「え~?デネシアの王女様がアバロンに?…それじゃ、デネシアはアバロンを襲うわけ無いか…子供まで出来てたんだし?」
ヘクターは譲らず言う
「デネシアは!絶対アバロンを襲おうとしていたんだ!じゃなかったら アバロンの友好国であるベネテクトが ベネテクト城を破壊してまで道を塞いだりしねーよ!」
ヘクターの言葉にミラが口を挟んで言う
「それね?前にデスが言ってた『先の大戦で破壊されて通れなくなった道』って」
ラーニャが視線を上げ考える様子で言う
「そんな事言ってたっけ?」
ラナが呆れて言う
「言ってたじゃない、ガルバディアからベネテクトへ抜けようって話してた時よ」
ラーニャが記憶を辿りながら曖昧な返事を返す
「あ~、そうだったかも?」
話を逸らされたヘクターは視線の先を変えて言う
「ベネテクトは 今も昔もアバロンの味方なんだ、だけどデネシアはそれを良く思ってねー」
ヘクターの独り言のような言葉に ザッツロードが考え深げに言う
「確かに… ベネテクトとアバロンは王女などを嫁がせる事も無いのに 何処よりも堅い友好条約を維持しているよね 本当に不思議な繋がりを持った両国なんだ… 過去に何度も王女を嫁がせた デネシア国に対するものよりも それは強いものみたいだし」
ザッツの言葉に ラーニャが乗る
「じゃぁさ、?デネシア国は~ そのアバロンとベネテクトの繋がりに 嫉妬してやったのかな?」
ミラが呆れて言う
「そんな訳無いじゃない、男女の恋愛じゃあるまいし」
ラーニャが笑って言う
「そっかぁ~それもそうよね?国同士の争いなんだし?」
皆の話を聞いていたレーミヤが笑って言う
「でも、そう考えてみると…何だか納得出来る様な気もするから 不思議ね?」
レーミヤの言葉に共感してラーニャも笑って言う
「うんうん!何か私も早くベネテクトの国王様に会ってみたくなっちゃった!」
【 ベネテクト城 】
ベネテクト国へ入ったザッツロードたちは北にあるベネテクト城を目指す しかし、そこに見えてくるのは瓦礫の山 ラーニャが言う
「ねーザッツ?ベネテクト城は壊れちゃったんでしょ?それじゃ国王様は別のところに居るんじゃないの?」
ザッツロードが考えながら答える
「う~ん そうかもしれない…でも、とりあえず行ってみよう?今は城を再建設している訳だから、そこに居る人たちに聞いたら分かるだろうし」
崩れた城門を通り先へ進むザッツロードたち、周囲には大型人種の人々が重そうな石材を運んでいる ラーニャが言う
「もしかして…巨人族?私、初めて見た」
ミラが言う
「私も目にしたのは初めてだけど 確か巨人族はデネシア国に居るんじゃ?」
ザッツロードが言う
「デネシア国の巨人族は 度々他国の重作業を手伝いに行くんだよ 城の建設の様に大掛かりなものの時には 特に力を発揮出来るしね?」
ザッツロードが先行し 仲間たちが巨人族を見ながら奥へ進んで行くと その先に1人 作業を行っている人々とは違うザッツロードたちと同じ人種の人物が居る いち早く見つけたラーニャが その人物を指差して言う
「あ!あの人に聞いてみようよ!」
黒い衣服に黒いマントで 顔と右腕しか見えない人物 それを見たヘクターが声を上げる
「お?…おお?おおー!バーネット!バーネットじゃねーか!!」
ヘクターが大きな声で名を呼びながら駆け出す その様子にラーニャが驚いて言う
「え?あの人がバーネット国王?」
ザッツロードと仲間達が慌ててヘクターの後を追う ヘクターが駆け寄ってくるのを見たバーネットが目を細めて人物の確認をする その間にも駆けていたヘクターが目の前にたどり着くと その姿を確認してバーネットが言葉を発する
「ヘクター?お前… アバロンのヘクターか!?」
ヘクターが声を上げながらバーネットの肩を強く叩いて言う
「おうよ!ひっさしぶりだなバーネット!」
そこへザッツロードたちがやって来る ザッツロードが声を掛けようとした瞬間 バーネットが言う
「てめぇえ!ヘクター!生きてやがったんなら 何で助けに来やがらなかったんだぁあ!この野郎がぁああ!!」
ザッツロードの前に一瞬何かが勢い良く飛ぶ、
「―!?」
ザッツロードが視線を上げると バーネットの鞭がヘクターの首を絞めている ヘクターが言う
「うぐっ く、苦しい…」
ザッツロードが言葉を失う
「………」
バーネットは青ざめてきたヘクターの首を開放すると 息を切らせながら両手を地面に着いたヘクターの背に足を置き 手にしていた鞭を振り上げて言う
「一発殴らせろ…」
ヘクターが咽ながら言う
「ゲホッゲホッ た、助けになんか行ける訳ねーだろーが…ゲホッ」
ザッツロードが恐々言う
「あ…あの…」
ザッツロードの声に バーネットが睨みを効かせて言う
「あん?」
ザッツロードは思わず後ずさりながらも言う
「あ、あなたが… ベネテクト国の こ、国王様 バーネット2世陛下ですか…?」
バーネットが 視線を強めて言う
「…だったら何だ?てめぇは?」
バーネットに更に凄みを利かされ ザッツロードが後退りつつ言う
「ぼ、僕はローレシア国第二王子のザ…ザッツロード6世です」
一瞬間を置いて バーネットが問う
「…で?」
ザッツロードが言葉を失う
「えっと あ、あの…」
バーネットがムッとした表情で言う
「何だ?早く言えよ?こっちは見ての通り 取り込み中なんだよ!?」
ザッツロードが苦笑して後退りながら言う
「…っ いえ、やっぱり後でも?」
ザッツロードが後回しにしようと遠ざかると ヘクターが呼ぶ
「おいっザッツ!」
仲間達が呆気に取られて居るヘクターが言う
「誰か助けてくれよ! こいつの鞭痛ぇーんだからっ」
ヘクターの言葉にバーネットがニヤリと笑って言う
「はっはー 覚えていたのか?なら久し振りに一発食らうか?」
ヘクターが声を上げて逃げ出す しかし逃れられた事に不思議がって言う
「いらねぇって!あ… あら?」
バーネットが残念そうに笑うと 一部始終を見守っていたザッツロードへ向き直り言う
「ザッツロード…?ああ、ローレシアの勇者様だったかぁ?それが?ベネテクト国に何の用だ?」
バーネットが鞭を肩に掛け問う ザッツロードは気を取り直し それでも少し焦り気味に言う
「あの、ぼ、僕達は魔王を倒すべく世界各国に預けられている宝玉を集めています …えっと 私の父から連絡が入っていると思うのですが このベネテクト国に保管されている宝玉を 私に預けて頂きたく」
ザッツロードの言葉にバーネットが視線を逸らし 考えながら言う
「あん?宝玉?んなモン… あったかな?」
バーネットの返答にラーニャが声を上げる
「ええーっ!?」
ラーニャと共に目を丸くしているザッツロードと仲間達を見て バーネットが笑う
「はっはー まぁ あんだろよ?んなに心配しやがるなって?」
高々に笑いながらそう言ったバーネットが歩き始め 周囲の人々に向かって言う
「おい!てめぇら!サボったら後でひっ叩くからな!?」
言葉と共に手にしていた鞭で 勢い良く床を叩く 周囲に鞭の音が響き渡る その音にザッツロードたちが誰よりも痛そうな顔をして目を瞑る バーネットが付いて来ないザッツロードたちへ向いて言う
「おい?おめぇらは何突っ立ってやがる?こっちだ、付いて来いよ?」
ラーニャとミラがザッツロードの背を押しながら歩き出す
崩れ残った城の一角 バーネットがそこにある地下室への階段を下り 更に先へ行った場所にある扉の鍵を外す ザッツロードたちが後ろに続く 冷たい地下通路 辺りを見渡すヘクターがバーネットへ言う
「ここは地下牢か何かか?それにしては牢屋がねーし…」
バーネットが視線を向けないまま言う
「はっはー!牢屋じゃねぇよ ここは…」
バーネットが言葉と共に扉を開け中へ入る 続いてザッツロードたちも進み入ると バーネットが言う
「俺の部屋だ」
狭い室内 周囲は石の壁 しかし、地下室には不釣合いな 重厚な机と椅子 壁にはバーネット1世やその他の絵が飾られている ラーニャが言う
「なんで… 地下室に?!」
思ったままの言葉を口にしたラーニャ バーネットが別の部屋への扉を開けながら言う
「んなの決まってんだろーが?城をぶっ壊しても残る場所に 最初っから作るんだよ」
言い終わると共に扉が開く音 しかしザッツロードたちはバーネットの返答に驚いて扉の開く音など気が付かない様子 ミラが言う
「それでは、まるでお城は壊す事を前提に 作っているみたいじゃない?」
ミラの言葉にバーネットが答える
「『みたい』じゃねぇ、そう作ってんだ」
驚きの声が上がる バーネットは気にする事無く開かれた扉を進む ザッツロードたちもそれに続く そして、中の様子を見たラーニャが声を上げる
「す、すごーいっ!」
続けて見たミラが言う
「これって」
レーミアも驚いて言う
「宝物の山ね…」
その部屋には絵に書いた様に積まれた金銀財宝の山 その中を漁っているバーネット 右手一本でそれらを退かしながら 目当ての宝玉を捜している様子 しかしその財宝の山を前にバーネットは一度考えると 立ち上がり部屋の壁を探る 何箇所か叩いた後 一箇所を強く叩くと 隠された扉が開かれる そこにある物を後ろから見ていたラーニャが指差して言う
「あ!あった宝玉!」
バーネットがその言葉に口角をを上げると 宝玉を手に取って言う
「すっかり忘れてたぜ、そー言われてみれば こんなのがあるって聞いてたな」
部屋の入り口へ戻ってきたバーネットは そこで待っていたザッツロードへ宝玉を渡す
「これだろ?忘れてて良かったぜ 危うく売っちまう所だった」
バーネットがザッツロードの横をすり抜ける ザッツロードが苦笑して言う
「ほ、宝玉を売る…!?」
仲間たちが呆れる バーネットがザッツロードらを気にせず 一息吐きながら部屋に置かれた一脚しかない椅子に腰を下ろして言う
「…で?まだ何か用がありやがんのか?」
気だるそうに両足を机の上に乗せ バーネットはザッツロードたちを見やる 宝玉を見つめていたザッツロードがハッと顔を上げバーネットへ向き直して言う
「あ、ありがとうございます」
ザッツロードの礼を聞いて バーネットが返事と共に言う
「おう、…用が済んだんなら行けよ?のんびりしてて良い旅じゃねぇだろ?」
バーネットがそう言って視線を逸らす その様子にヘクターは違和感を覚えてバーネットへ近づき見据える バーネットがバツが悪そうに言う
「!? …なんだよ?」
バーネットが近くへ来たヘクターを見上げる その様子に レーミヤが声を掛ける
「ヘクター?バーネット陛下はお忙しいのだし そろそろ…」
その言葉に気を取られたバーネットの隙を付いて ヘクターがバーネットの左腕を掴み引き上げる
「うっ!」
苦しそうな声を発したバーネット ヘクターが掴んでいたバーネットの腕を見たザッツロードたちが驚く その腕には雑に巻かれた血の滲んだ包帯がある バーネットが怒って言う
「っ 何しやがる!」
ヘクターの手を振り払ってバーネットが睨む ヘクターが言う
「通りで… なんか様子がおかしいと思ったんだよな? お前なら あん時俺を取り逃がしたりなんかしねーと思ってさ、それに ずっと右腕一本しか使かわねーし 他にも怪我してるんだろ?」
ヘクターが近付くと バーネットが腰に備えていたレイピアを抜いて突き付けて言う
「この前ドラゴン相手の 賞金稼ぎをやった時に ちょいとヘマしただけだ 大した事ねぇよ」
ラーニャが驚いて言う
「王様が賞金稼ぎ?」
その横でミラが呆れた様子で言う
「なんかもう、何聞いても見ても驚かなくなって来たわ」
レーミヤも苦笑を浮かべて言う
「前代未聞ね…」
そんなザッツロードの仲間達の前でヘクターに剣を突き付けたまま その剣を軽く動かしバーネットが言う
「お前らには関係ねぇだろ?ほら、用が済んだんなら さっさと行けってんだ!…誰にも言うんじゃねぇぞ!?」
その言葉にラーニャが言う
「あ、そっか?王様が怪我をしてるって他の国の王様に分かったら困るんだ?」
ミラが腕組みをして言う
「今こそ攻め込んで下さいって事になるわね」
ラーニャとミラの容赦ない言葉に バーネットが苛立たしげに焦る ずっと剣を突き付けられていたヘクターは一息吐いて言う
「あのなー 言う訳ねぇだろ?俺はベネテクトの友好国 アバロンの民だし、ザッツたちだって 今世界を救おうとしてる勇者様と仲間たちだぜ?それよりコレ使えよ」
そう言ってヘクターは回復薬を手渡す その様子を見ていたレーミヤが微笑しバーネットの下へ行くと 彼の腕へ手をかざし回復魔法を唱える それを見たラーニャが同じ様に続き 軽く息を吐いたミラも続いてバーネットへ回復魔法を使う バーネットが驚いて言う
「あ?お、おい…っ!?」
3人の回復魔法で腕だけでなく体にもあった怪我が治されていく それを見ていたヘクターがニヤリと笑って言う
「だから言ったろ?世界を守る勇者様の仲間だって!」
戸惑っていたバーネットが 軽く笑って言う
「ハッ!…らしいな?」
ラーニャ達が回復作業を終えると バーネットはヘクターから受け取っていた回復薬を飲み干す すっかり回復したバーネットが言う
「感謝するぜ、お陰で予定がだいぶ早まりそうだ」
疑問するラーニャが言う
「予定?お城の完成をって事?」
バーネットが笑って言う
「まぁ…そんな所だぜ さて、一仕事してもらっといて悪いが ここには食い物とか置いてねぇんだよ 食事をご馳走になろうなんざ 考えてんじゃねぇぞ?」
バーネットの言葉に ラーニャたちが一瞬驚き笑う
【 道中 】
ベネテクト城を後にしたザッツロードたちは 南にあるスプローニ国を目指す ラーニャが笑顔で言う
「バーネット陛下ってホント面白い人ね!」
ラーニャの言葉に ヘクターが返す
「だろ?前王のバーネット1世はもっと豪快で面白人だったんだ、まぁ俺の親父も良い勝負だったけど」
ザッツロードがヘクターへ向いて言う
「ヘクターのお父上は 今アバロンに居るのかい?」
ザッツロードの問いに ヘクターは首を横に振る
「いや、どっか行って帰ってこねぇーんだ、まぁ その内帰って来んじゃねかな?もしかしたらこの旅の最中に どっかで会うかもしれねーけど?」
ヘクターがのんびり言って歩く その後姿を見てラーニャが言う
「なんか、ヘクターのお父さんってちょっと想像出来るかも?」
ミラが考える様子で言う
「ヘクターをもっと豪快にしてバーネット陛下も足した感じかしら?」
ラーニャが苦笑して言う
「それってとんでもない人になるんじゃない?」
ミラが呆れて言う
「もう想像が出来るんだか出来ないんだか分からなくなって来たわ」
ラーニャ達の会話にヘクターが笑う ザッツロードも苦笑を見せながら 歩き続ける
スプローニ国に到着したザッツロードたち、城へ向かう道中ヘクターがあっと声を上げる
「そういやー!スプローニにはロキが居るな!」
ヘクターの言葉にザッツロードが問う
「ロキ?」
ヘクターがザッツロードへ顔を向けて言う
「ああ、スプローニ国の3番隊…じゃなかった、第三部隊の隊長なんだ!」
ザッツロードが微笑して言う
「ヘクターは本当に顔が広いね?ローゼントのヴェルアロンスライツァーにベネテクトのバーネット陛下、それにこのスプローニ国にも知り合いが居るなんて」
感心するザッツロードにヘクターは続ける
「それにローレシアのザッツロード王子と キャリトールのラーニャ、テキスツのレーミヤに ソイッドのミラな! この旅を続ければもっと増えそうだぜ?!」
そう言って笑うヘクターに 名を呼ばれた仲間達が微笑む
スプローニ城の入り口でザッツロードが用件を述べると 兵がザッツロードたちを玉座の間へ案内する 入り口で少し待たされた後 すぐに名を呼ばれ進み入る ザッツロードたちが中へ入ると 玉座に座るスプローニ国王が声を掛ける
「ザッツロード王子、よくぞ参られた 先だってローレシア国王より連絡を受け 宝玉を用意しておった」
国王の言葉と共に 運ばれてきた宝玉 それを一度手に取ったスプローニ国王はザッツロードへ視線を向け言う
「この宝玉には 多量の聖魔力が蓄積されている 数をそろえればその魔力は果てしないものになるのだろう しかし…」
言葉を区切ったスブローニ国王は 宝玉を元の場所へ戻し 話を続ける
「それほど巨大な聖魔力を持ってせねば倒せぬ魔王とは…いかなる者か?とても…人間とは思えぬ ザッツロード王子、そなたは恐ろしいとは思わぬのか?」
スプローニ国王の言葉に 頭を下げていたザッツロードは視線を上げ スプローニ国王を見上げ 国王の真剣な眼差しの前で言う
「確かに、恐ろしいと思います しかし、私には心強い仲間達が居ます そして、勇者ザッツロードの末裔である私に期待してくれる民や 私を信用して宝玉を預けて下さった各国の国王陛下 その全ての人々の気持ちに 私は支えられています」
ザッツロードの答えにスプローニ国王はゆっくりと頷くと言う
「多くの人々の想い それこそが勇者の後ろ盾か…分かった、もはや何も言うまい」
スプローニ国王が合図をすると 宝玉を預かった兵がザッツロードの下へ運ぶ ザッツロードは差し出された宝玉を受け取ると 再びスプローニ国王へ顔を向け敬礼して言う
「スプローニ国の宝玉と陛下のご期待 確かに受け取りました」
ザッツロードの言葉に スプローニ国王が力強く言う
「うむ、期待しておるぞ、勇者ザッツロード」
城を出たザッツロードたち 外の空気に触れるなり ザッツロード以外の仲間達が大きく深呼吸する ラーニャが息を吐きながら言う
「あ~緊張した~」
ミラが肩を解しながら言う
「ほんと、息が詰まるかと思ったわ」
レーミヤが苦笑して言う
「バーネット陛下の次だから よけいに堅く感じたのかしら?」
ヘクターが笑って言う
「あっはは、それ今度バーネットに言っとくぜ?」
レーミヤが慌てて言う
「や、やだっ言わないで ヘクター!」
ラーニャが首を傾げて言う
「あれ?もしかしてレーミヤ、バーネット陛下の事好きなの?」
レーミヤが慌てて言う
「そ、そんなのではなくてっ」
ミラが微笑んで言う
「あら、めずらしいわね?レーミヤが取り乱すなんて」
ヘクターが笑って言う
「お?なんだよ?バーネットの事気に入ったのか?あいつの妃は金髪で碧眼じゃないといけないんだぜ?ああ、レーミヤなら大丈夫かもな?!」
ラーニャが不思議そうに言う
「え?そんな決まりがあるの」
ヘクターが軽く笑って言う
「ああ、ベネテクト国の決まりらしい、国王だけのな」
ラナが不思議そうに言う
「へぇ~」
口々に話す仲間たち そんな彼らを見ながら手に入れた宝玉を両手で包むザッツロード 独り言を言って空を見上げる
「残るはシュレイザー国のひとつ…」
そこへ話をひと段落させたヘクターが話しかける
「なあザッツ、宝玉も無事手に入ったし、ロキでも誘いに行かねーか?」
ヘクターの提案に 思い出した様にザッツロードが返事をする
「ああ、そうだね スプローニ国王のあの感じだと この国の兵は仲間になってくれるかもしれないね?」
笑顔を返すザッツロードに ヘクターも笑って言う
「おう!行ってみようぜ!」
開口一発 ロキはヘクターの誘いを断る
「断る」
呆気に取られるザッツロードと仲間たち ヘクターが食い下がる
「そー言うなよーロキ?お前だってこの国の兵相手に訓練するより 魔王相手に戦った方が修行になるだろ?」
ヘクターの言葉に ロキは言う
「…俺はこの国を守る兵だ、どこに居るのかも分からぬ魔王を探して旅をするなど そんな悠長な事をする気は無い」
言い終えると共にロキが顔を背ける ヘクターが腕組みをして言う
「じゃあ 魔王の居場所が分かったら 仲間になっても良いって事か?」
ヘクターの言葉に ロキは他方へ向けていた顔をヘクターへ向け頷いて言う
「…決戦の前に誘いに来たというのであれば 諸卿に同行しても構わん それか…」
ロキの言い掛けた言葉に ヘクターが問う
「それか?」
ロキが間を置いて答える
「…いや、それだけだ」
ヘクターが止められた言葉の先を問い質す
「はぁ?」
ロキは顔を逸らしたまま言う
「…それだけだ、俺は訓練に戻る 諸卿も無駄な時間を使わず 魔王探索でも行う事を推奨する」
言い終えると共にロキが立ち去る 残されたヘクターは残念そうに頭を掻くとザッツロードたちへ向き直り言う
「駄目だった…」
ラーニャが呆気に取られたまま言う
「なんか…ローゼント国のヴェルアロンスライツァーとは違う感じで …でも同じぐらいハッキリ断られたって感じ?」
レーミヤが焦りながら言う
「誘いの話を聞いて 一言で断るだなんて …なんだか凄い人ね」
ミラが首を傾げて言う
「自信過剰…とは違うわよね…何なのかしら?」
ザッツロードが苦笑して言う
「ま、まぁしょうがないよ、さぁ!彼の言う通り 時間を大切にしよう?」
ザッツロードの言葉に頷き 彼らは次なる目的地 シュレイザー国へ向かう
シュレイザー国へやって来たザッツロードたち 城下町への門を入るとカモメの声が響く 右手に広がる海と左手遠くに見えるシュレイザー城 海には何隻もの船が並び中にはとても豪華な外装の船も並んでいる 海辺特有の強い潮風に髪をなびかせる魔力使いたち 珍しく何も感想を述べないラーニャの代わりにミラが言う
「めずらしいわね?あなたならきっとあの辺りの船を指差して 乗りたーい とか言うかと思ったのだけど?」
ミラの言葉に ラーニャは言う
「あ~…あたし、海は苦手なんだ、その…」
ヘクターが身を屈めて問う
「泳げねーのか?もしかして、」
ヘクターが笑いながら言うとラーニャは怒って言う
「そ、そうよ!悪い?!そう言うヘクターは泳げるの?!」
ヘクターが軽く笑って言う
「ああ、得意って程じゃねーけど、アバロン運河で泳いだりしてたしな?」
ラーニャが返す言葉を失って 何とか返事をする
「あ…そう…」
消沈するラーニャにレーミヤが言う
「キャリトールはウィルトンの港町に近いじゃない?遊びに行って泳いだりはしなかったの?」
ラーニャが詰め寄って言う
「ヴィルトンの近くでなんか泳げる訳ないじゃない!?あそこは海賊の町よ?盗賊だって居るし…行く事自体危ないわよ」
ミラが首を傾げて言う
「ウィルトンの港町に居る海賊は義賊だって言うじゃない?別に危険なんて無いと思うけど?」
痛い所を突かれた様子で ギクッと肩を揺らしたラーニャが言い訳を考えながらゆっくり振り返る しかしそれより早くザッツロードが言う
「僕も泳げないよ?…と言うか、海に入った事が無いんだけど でも船で海を行くのは好きだったな… ラーニャは 船も嫌いなのかい?」
ザッツロードの言葉に ラーニャは一瞬驚く素振りを見せるが すぐに普段の様子で言い放つ
「あ、あたしは 船も 泳ぐのも 両方嫌いなの!さあ、早くお城に行こうよ!?」
先行するラーニャに 不思議そうに首を傾げながらヘクターがザッツロードへ視線を送る 無言の問い掛けにザッツロードも首を傾げてみせる
城へたどり着いたザッツロードたちは玉座の間へと通される しかし シュレイザー国王は今自室に居ると言われしばらくその場で待つ だが一向に国王は現れる様子が無い ヘクターが床に座り込んでいた状態で痺れを切らして言う
「なぁ?まだなのか?俺 腹減ってきたぜ…」
ラーニャが言う
「急に来たからしょうがないって言うのは分かるけど…もう1時間も待ってるじゃない?」
ミラが言う
「ほんと、いつまで待たせるのかしら」
ザッツロードとレーミヤが苦笑する中 ついに待ちわびた王の来場を告げる声が掛かる
「シュレイザー国 国王陛下の ご来場!」
ヘクターが言う
「やっと来たかー よっと!」
ヘクターが勢いをつけて立ち上がると ザッツロードも気分を改め正面を向き直る そこへ シュレイザー国王が護衛兵を引き連れ現れる 手には宝玉が握られている シュレイザー国王が玉座に腰を下ろすと ザッツロードが跪き言う
「シュレイザー国国王様、お忙しい最中お呼び立て致しまして申し訳有りません、私はローレシア国の…」
シュレイザー国王がザッツロードの言葉を遮って言う
「あ、ああ~~ き、聞いておる~~」
ザッツロードが疑問して言う
「あ、あの…」
ザッツロードが言葉に詰まると シュレイザー国王は手にしていた宝玉を両手で大切そうに抱えながら言う
「ほ、宝玉を持って行く~~ のだな~~? な、何と言う事じゃ~~ ほ、宝玉を渡さねばならぬとは~~…」
シュレイザー国王が 何度も悔やみながら宝玉を握り締めると ザッツロードの表情は知らぬ間に申し訳なさそうな表情へ変わっているが 気分を切り替えると 深々と敬礼して言う
「私達は 魔王討伐に必要な宝玉を 各国からお借りしております、どうかシュレイザー国の宝玉も 私に預けていただけ無いでしょうか?」
ザッツロードが言い放ち 敬礼の姿勢のまま動かずに居ると シュレイザー国王が玉座から立ち上がり ザッツロードの下へ近づいて言う
「わ、分かっておる~~ き、聞いておる~~ ロ、ローレシア国から れ、連絡を受けてから~~ ず、ずっとずっと… な、何と言うことか~~ し、しかし分かっておる~~ わ、渡さぬ訳には~~ い、行かんのじゃ~~」
シュレイザー国王が ザッツロードの前を何度も左右へ歩いて気持ちを落ち着けている様子 ザッツロードが変わらず待っていると やがて立ち止まって言う
「か、返してくれるのだろうな?な?」
ザッツロードが返事をする
「もちろん、魔王の討伐を終わらせた後 必ずお返しします、どうか私たちを信頼し宝玉をお預け下さい」
ザッツロードの強い眼差しの前 シュレイザー国王はしばらく宝玉を握ったまま立ち止まると やがてゆっくりその両手に持った宝玉をザッツロードへ差し出して言う
「か、必ずだぞ~~?か、必ず… ま、魔王を倒したら~~ こ、このシュレイザー国へ い、一番最初に返しに来るのだ~~ 良いな?な?」
ザッツロードは思わず苦笑を戻すと 差し出された宝玉を両手で受け取り頷いて言う
「はい!必ず …出来るだけ早くお返しに参ります」
シュレイザー国王が言う
「う、うむ~~」
ザッツロードに宝玉を渡し その手に握るものが無くなったシュレイザー国王は再びおろおろとしながら玉座の方へ歩きながら言う
「あぁ~~ な、無くなってしまった~~ ほ、宝玉が… あぁぁ~~ な、何と言うことだ…」
シュレイザー国王が悔やみながら玉座へ座して頭を抱えると 傍に居る大臣が仕方なさげに声を掛ける
「陛下、無くなったのではなく 勇者様へお預けしたのです、どうかお気をお沈め下さい」
シュレイザー国王が叫ぶ
「わ、分かっておる~~ 分かっておるわ~~ ローレシアの勇者殿に あ、預けしたのじゃ~~ あぁ~しかし宝玉が あぁ~何と言うことか…」
大臣が言う
「陛下、お部屋へ戻りましょう、少しお休みになられた方が」
シュレイザー国王が叫ぶ
「休んでなどおれるか~~! 宝玉が無くなったのだぞ~~?このシュレイザー国から~~ ほ、宝玉が無くなってしまっては~~ あぁ~どうしたら良いのだ… あぁ~~…」
シュレイザー国王の様子に 立ち去る切っ掛けを失ってしまったザッツロードたちが その光景を見つめていると 大臣が振り向き声を掛ける
「ザッツロード王子、どうか心配せずに行って下され、我が王は少し取り乱しておられるだけで しばらくすれば落ち着かれる」
シュレイザー国王が 頭を抱えたまま玉座でうずくまっている ザッツロードはもう一度敬礼して言う
「それでは失礼します、シュレイザー国王 どうか吉報をお待ちください」
ザッツロードの言葉にシュレイザー国王は何とか顔を上げると うんうんと2回頷くだけが精一杯の様子 それでもザッツロードはそんなシュレイザー国王へ自信を持った微笑を向けてから立ち去る
シュレイザー城を出たザッツロードたち ラーニャが誰に問わず言う
「あんなに おどおどしなくても良いと思うんだけど 信用無いのかしら?」
ミラが言う
「あれは信用が有る無いに関わらず 元の性格なんじゃないの?あんなで良く国王が務まるわよね」
レーミヤが言う
「シュレイザー国はあまり武芸に秀でてはいないから 少し臆病になっているのかもしれないわね」
ヘクターも入る
「シュレイザー国はあんまり国って感じしねーんだよなー、だから、どこの国も攻めねーんじゃねーか?」
ザッツロードが言う
「シュレイザー国は貿易が盛んな国なんだよ、この国を介して様々な国と国が繋がっている だからこの国を攻めるとなるとそれは他の国との繋がりにも複雑に絡んでくるんだ」
ザッツロードの説明を聞いた仲間たちが その説明から再び考える 一番最初にヘクターが言う
「つまり、もし攻めると、どうなっちまうか分かんねーから 攻めねーって事か?」
ヘクターの言葉に ザッツロードが苦笑して言う
「あはは、そうだね、確かにそれに近いかもしれないね?」
ヘクターが納得した様子で笑う ザッツロードが他の仲間たちもそれで話を終えたことを確認すると 改めて言う
「さあ、ついに宝玉が揃った、一度ローレシアに戻ろう 魔王の居場所の手がかりが何か掴めてるかも知れない」
ザッツロードたちは 瞬間移動の魔法でローレシア国へ飛ぶ
ローレシア国へ戻ったザッツロードと仲間たちが 城下から城への道を行く 勇者とその仲間たちの帰還に 兵や民が期待と希望に満ちた瞳で 彼らを見送る ラーニャが言う
「なんだか…ちょっと恥ずかしいわね」
ミラが言う
「それは無事魔王を倒してから思うべきだわ、今は彼らの希望に答える為のプレッシャーを感じるべきよ」
ヘクターが言う
「へぇーミラはそんなモン感じねーのかと思ったぜ」
ミラが衝撃を受け 怒って言う
「ヘクターに言われたくないわ!?」
ヘクターが得意げに言う
「あ?俺はこれでもアバロン国3番隊隊長だぜ?期待されるのには慣れてんだ」
ラーニャが悪戯っぽく笑んで言う
「ああ、そっか、ミラは緊張してるのね?」
ミラが焦って言う
「緊張じゃなくてプレッシャーよ!」
レーミヤが疑問して言う
「同じ事の様な気がするけど…」
ミラが焦って言う
「ちょっと、それレーミヤが言う!?」
皆が苦笑する 仲間たちが騒ぎながら付いて来るのに先行してザッツロードが道を行く 民や兵のその期待が自分に向けられているのをしっかりと感じ取って力強く歩く
【 ローレシア城 】
玉座の間へ辿り着いたザッツロードと仲間たち イシュラーンがザッツロードの旅立の時と同様に 玉座に座りザッツロードを見下ろし 自分の前に跪くザッツロードへ声を掛ける
「良くぞ戻った、勇者ザッツロード、我が息子よ」
ザッツロードが敬礼と共に言う
「はい!父上 ザッツロード6世 各国の王より宝玉を託され今ここに帰還致しました」
イシュラーンが ザッツロードと後ろに居る仲間たちへ視線を走らせ 一度頷いてから言葉を続ける
「心強い仲間も得られたようだな、何よりだ そして…」
イシュラーンの視線が 仲間たちの最も後ろに その姿を現しているプログラマーへ向けられ言う
「ガルバディア国の プログラマーまで仲間にしたとは なんとも心強い」
イシュラーンの言葉に ザッツロードが答える
「はい、彼の力は 仲間の1人 アバロン国の大剣使いヘクターの力を凄まじく上昇させ その力はきっと魔王にも匹敵するでしょう」
ザッツロードが力強く微笑み言い放つと イシュラーンがプログラマーを見て言う
「ガルバディアが兵を出すとは…」
イシュラーンの思わずこぼしたその言葉を受け プログラマーが言う
『ローレシア国からは 宝玉の受託のみの連絡を受け取ったが ザッツロード王子の心よりの願いを 勝手ながら聞き入れさせて貰った』
プログラマーの言葉に ザッツロードが驚いて言う
「え!?」
ヘクターが言う
「なんだ お前 ローレシアの王様に頼まれて無いのに 付いて来たのか?」
プログラマーが答える
『ローレシア国王からの連絡には 頼まれていなかったが ザッツロード王子には頼まれた』
ザッツロードが驚いた様子のまま言う
「僕はてっきり 宝玉の連絡と共に 兵の要求もしているものだと…」
プログラマーが言う
『…迷惑だったか?強要した覚えは無い』
ザッツロードが慌てて言う
「とんでもないっ ただ 意外だったっと言うか…」
ザッツロードが自分たちの現状を忘れて笑う その様子に仲間たちも笑う ザッツロードがハッと自分の状況を思い出すと イシュラーンへ振り返り再び姿勢を正す イシュラーンが言う
「私もまさかガルバディア国が 兵を出してくれるとは 思いもしなかったのだ …かの国は長きに渡り国を閉ざしていたのでな」
プログラマーが沈黙を向ける イシュラーンがプログラマーの沈黙に何かを感じつつも言葉を続ける
「…それでも、兵を得られた事は 何よりであった …さて、彼らには期待するとして 宝玉の件だが」
ザッツロードが力強く言う
「はい!ガルバディア、アバロン、ソルベキア、ベネテクト、スプローニ、そしてシュレイザー 宝玉を保管する全ての国より 6つの宝玉を預かって参りました」
ザッツロードが言葉と共に宝玉を見せると イシュラーンがそれを確認し頷いて言う
「うむ、確かに 我がローレシアも魔王討伐の為 その居場所の探索を今も全力を挙げて行っておる そして…」
イシュラーンの言葉に集中するザッツロードと仲間たち 彼らの様子を確認した上で イシュラーンは続ける
「ついに後一歩の所まで漕ぎ着けた」
ザッツロードたちの表情が明るくなる しかしイシュラーンは険しい表情のまま言う
「だが、後一歩の所で強い悪魔力に遮られ手を拱いていた お前達が戻って来るのを今か今かと待ちわびていたのだ」
ラーニャがハッとして言う
「え!?もしかして!それを 私たちの魔力でとか!? ム、ムリムリ!」
ラーニャが思わず声を上げる イシュラーンが微笑み言う
「いや、案ずるな 確かに勇者と共に魔王と戦った魔法使いの末裔である そなたの魔力は素晴らしいものであろう だが、今我々が相手にしている悪魔力を解き去るには…」
ミラが空かさず言う
「宝玉の聖魔力ね、」
イシュラーンが頷き言う
「ザッツロード、そなたらが預かってきた宝玉を 一度私に預けて欲しい 我がローレシアの優秀なる研究者たちが 必ずやこの世界の敵、魔王の居場所を突き止めてくれるだろう」
イシュラーンがそう言うと ザッツロードの前に兵が現れ膝を着く ザッツロードはイシュラーンの言葉に頷き 宝玉をその兵へ渡す イシュラーンがそれを確認し言う
「確かに預かった、さて、お前も仲間たちも この長旅で疲れておろう?後の事は我々に任せ 魔王との戦いに備え、今は英気を養うが良い」
ザッツロードが言う
「はい、父上 お心遣いをありがとうございます」
ザッツロードは敬礼すると仲間たちを振り返り 共に玉座の間を出て行く
通路に出ると緊張を解かれた仲間たち ラーニャが言う
「宝玉も渡しちゃったし、魔王の居場所はまだ分からないし…これからどうするの?」
ヘクターも同意で言う
「ローレシア国王様にはあー言われたけどよ?なんかここに来て 休めって 言われてもなぁ?」
ミラも同意で言う
「なんだか気が抜けちゃうわよね」
皆がザッツロードへ視線を向ける 皆の意見にザッツロードが言う
「それじゃ、僕たちの方でも魔王に関する情報を集めてみようか?余り遠くには行けないからローレシア領域の キャリトールやソイッド、テキスツ 3人の故郷 それと港町のヴィルトンへ行ってみないかい?」
ミラが腕組みをして言う
「そうね、正直 勇者様が何でも知ってるものだと思っていたから 魔王の事を わざわざ村で調べたりは した事無かったのよね?」
ラーニャが言う
「あ、あたしもー!もしかしたら 村の誰かがもっと詳しく知ってるかも?」
ヘクターが言う
「アバロンに居た時も思ったんだけどよ?なんで勇者様の伝説って ほとんど残ってねーんだ?」
ヘクターの問いにラーニャも乗る
「そうよねー?たった100年前の話なんだから もっと残ってても良いと思うんだけど?」
ザッツロードが答える
「一番の原因は宝玉戦争だと思うよ」
ラーニャが驚いて言う
「宝玉戦争!?」
ザッツロードが頷いて言う
「うん、魔王を封印した後に その強い魔力を有した宝玉を求めて 国同士が争ったんだ その戦乱のせいで 直前に行われた勇者の話がしっかり記録される事が無いままに 時が過ぎてしまったらしい」
ミラが言う
「まぁ確かに 国同士の争いが起きてたら その他の事なんて記録してる余裕無いわね」
ラーニャが疑問して言う
「それでー その宝玉戦争に勝ち残った国が 今、宝玉を持っていた国って事?」
ザッツロードが苦笑して言う
「実は、それも分かって無いんだ」
ラーニャが驚きの声を上げる
「えぇー!?」
ミラが驚きを隠して言う
「それじゃ、宝玉を持ってた国は どうして自国がその宝玉を保管しているのか 分かってないって事?」
レーミヤが考えながら言う
「そう言われてみれば… ベネテクトのバーネット陛下は宝玉の事を忘れていらしたし、そうかと思えばシュレイザーの王様は 宝玉を渡す事をとても躊躇っていらしたし…」
ラーニャが言う
「なんだか意外ー」
ヘクターが言う
「俺としちゃー 勇者様の伝説も 宝玉がどーだとかも どうでも良いからよ?悪の元凶である魔王の居場所だけは ハッキリさせといて貰いたかったぜ それなら宝玉があろーがなかろーが 直接行けば分かるだろ?」
ミラが呆れて言う
「直接行ったって 宝玉の力やその他の事が何も分からないのでは ただの犬死になるじゃない」
ヘクターが疑問しつつ言う
「そうかー?そうかもしれねーけど…」
ザッツロードが苦笑して言う
「まぁまぁ、ヘクターの気持ちも分かるけど そちらは 父上とローレシアの研究者たちを信じて 僕らは僕らに出来る事をしようよ?」
ヘクターが不満でありつつ返事をする
「へーい」
ヘクターが片手を上げて了承の返事をすると そんな返事にザッツロードと仲間たちが微笑する
【 ヴィルトンの港町 】
山間に造られた町ヴィルトン ザッツロードたちは眼下に広がる 小さくてもにぎわっているヴィルトンの町を見下ろす ヘクターが嬉しそうに言う
「ここがヴィルトンか!なんか活気があって良い感じだな!」
ミラが不満そうに言う
「そうかしら?何だかゴチャゴチャして いかにも盗賊か何かが居そうって感じだけど」
ラーニャが嫌そうに言う
「盗賊も海賊も居る町よー?あたし来たくなかったのよね!」
ザッツロードが言う
「そういえば、ラーニャはシュレイザー国でもそんな事を言っていたね?海や船が嫌いだって ヴィルトンはラーニャの故郷に一番近いのに」
ラーニャが言う
「そ!お陰で盗賊が私達の町まで来たりするの 高価な魔法アイテムとか しょっちゅう盗まれたりして 本当、ヴィルトンの町さえなければそんな事起きないのにーって感じよ」
レーミヤが首を傾げて言う
「ヴィルトンの町が嫌いだから 海も船も嫌いって事かしら?」
ラーニャが言い辛そうに言う
「う… ま、まぁそんなトコ!さ、早く行こう!」
ラーニャが先導していく それに続くヘクター 残った仲間は首を傾げる レーミヤが言う
「どうしてだか分からないけど ラーニャはこの話題が苦手みたいね?」
ミラが言う
「まぁ、嫌がることを聞く必要は無いんじゃない?私たちも行きましょうよ」
ザッツロードが頷いて言う
「うん、そうだね 2人に置いてかれてしまうよ 急ごう!」
町で魔王に関することを聞くザッツロードたち ザッツロードとミラ、レーミヤの3人と ヘクターとラーニャ、プログラマーの3人で別れ 手分けをして行う ザッツロードとミラ、レーミヤの3人が一通り回って待ち合わせの場所へ戻って来る ヘクターたちは来ていない ザッツロードが周囲を見渡して言う
「あれ?遅くなったと思ったんだけど」
ミラが言う
「急ぐ必要は無かったみたいね」
レーミヤが微笑んで言う
「きっと 少ししたら来るでしょうから それまで休んでいましょう?」
ザッツロードたちはしばらくその場で待つ しかし、一向にヘクターたちは来ない ミラが言う
「来ないわね」
ザッツロードが言う
「何かあったのかな?」
レーミヤが言い掛ける
「私、占ってみ…」
レーミヤが言い掛けた時 遠くからラーニャが叫びながら走ってくる
「ザッツー!たーいへーん!」
ザッツロードたちが何事かと驚くと ラーニャが到着して息を切らせる ザッツロードが心配して言う
「一体どうしたんだい?ラーニャ、ヘクターは?」
ラーニャが息を整えつつ言う
「はぁ…はぁ…そ、それが大変なんだって!」
ミラが言う
「大変だって事は分かったから 早く理由を言いなさいよ?」
ラーニャがどこから話したら言いか分からず 困った様子で言う
「ん~~~あ~~っ 言うより見た方が早いの!レーミヤ!今すぐヘクターの所まで 対人移動魔法を お願い!」
レーミヤに掴み掛かりながら言うラーニャに レーミヤが頷いて言う
「え、ええ 分かったわ!」
ザッツロードたちが魔法でヘクターの下へ飛ぶ ザッツロードたちがヘクターの後方に姿を現すと ザッツロードたちはヘクターとその周囲の状況に驚く ヘクターが叫ぶ
「取り消せっつてんだよ!」
アルバレロが笑って言う
「はははっ!何で事実を取り消さなけりゃいけねぇーんだ?アバロンがどーしてもって、泣き付いてきたから 仕方なくデネシア国は申し出を受け入れてやったんだぜ?」
ヘクターが怒って叫ぶ
「んなわけねー!!」
ヘクターが自分の倍近い大きさの巨人族の男に声を荒げている ザッツロードが状況を把握できない様子で ラーニャへ問う
「一体何がっ!?」
ラーニャが言う
「もぉ!ヘクターったら あの大男がアバロンに嫁いだデネシアの王女様は ヴィクトール陛下がどうしても結婚したいって 泣き付いたんだって言うの、それでヘクターは そんな筈は無いって怒って さっきから一触即発なのよ!お願いザッツ!ヘクターを止めて!」
ザッツロードが衝撃を受け焦って言う
「えぇ!?ぼ、僕が?」
ラーニャが怒って叫ぶ
「当たり前じゃないっ!他に誰が居るのよ!?」
ザッツロードがラーニャに背中を押されてヘクターのすぐ後ろへ押し出される ザッツロードが恐る恐る言う
「へ、ヘクター?」
ヘクターはすぐにザッツロードの言葉を止めて言う
「ザッツは黙っててくれ、これはアバロンとデネシアの喧嘩だ」
ザッツロードが苦笑しつつ言う
「け、喧嘩は良くないよ… ほら、ここは… 平和的に話し合おう?」
ザッツロードの言葉に アルバレロが笑う
「あははははっ!平和的にか?アバロンの民みてぇな野生人に 平和的な話し合いなんか無理だろ?まぁローレシアの民なら… 少しぐらいは話せるだろうけどな?」
ヘクターがその言葉に更に怒る ザッツロードが慌ててヘクターの肩を掴むヘクターが言う
「どっちが野生人だ!この野郎!お前らなんか ずっとベネテクトで奴隷になってれば良いんだ!」
アルバレロが怒って言う
「なんだと?あんな瓦礫国の カス王の奴隷になんざ なってたまるか!!」
ベネテクト国の悪口にヘクターが更に怒って叫ぶ
「カス王だと!?てめえ!許さねー!!」
ヘクターが言い放つと同時に剣を抜く アルバレロも腰に掛けていた斧を手に取る 周囲を取り囲んでいた野次馬達が騒ぎ立てる ザッツロードが慌ててヘクターを後ろから押さえるが 振り払われてしまう ザッツロードがその勢いのままに後方へ転倒すると 仲間たちが駆け寄る ヘクターとアルバレロが武器を交える 武器のぶつかり合う音と 野次馬の捲くし立てる声が響く ザッツロードが仲間たちに体を起こされた状態で言う
「と、止めないと…っ」
ミラがヘクターを見上げながら言う
「でもどうやって」
盛り上がる周囲とは裏腹に ザッツロードがどうしたら良いかと手を拱いていると その場を震撼させる大きな銃声が響く その場に居た人々が銃声の方を向く そこに 1人の男が銃身の太い銃を上空に向けたまま立っている 銃の銃口からは煙が上がっている その男を見上げたアルバレロが名を呼ぶ
「ス、スカル船長…」
名を呼ばれると共に銃を下ろしたスカルが アルバレロの下へ大股で近づく スカルがアルバレロの前に立ち 自分より大きなアルバレロへ睨みを利かせると アルバレロがビクッと身を震わせ姿勢を正す スカルが言う
「アルバレロ、てめぇ~… 言い付けて置いた作業をサボって こんな所で何やってやがる?」
アルバレロが答える
「は、はい スカル船長 ちょっと…アバロンの野郎にイチャモン付けられたもんで…つい…」
スカルがアルバレロの言葉を聞いて ゆっくりとヘクターの方へ視線を移す ヘクターもスカルを見る スカルが言う
「こいつの言ってる事は本当か?アバロンの… 大剣使い、何もしてねぇコイツに お前が イチャモンを付けたのか?」
スカルの言葉にヘクターが答える
「そいつが アバロン王のウソを言ってたから 修正したんだ」
スカルが無言でアルバレロを見上げる その無言の問い掛けにアルバレロが答える
「嘘じゃねぇです!アバロンの王が デネシアの王女に求婚したんですよ」
ヘクターが掴みかかろうとする
「てめぇ!”泣き付いた”とか 抜かしたじゃねーか!!」
ヘクターが更に近づく 間に居たスカルが ヘクターへ銃を向けて止めて言う
「”泣き付いた”か どうかは知らねぇが 両者が結婚したって事は間違いじゃねぇ… なら 他の事なんか どうでも良いじゃねぇか?」
ヘクターが怒って叫ぶ
「良くねー!!」
ヘクターが再び殴りかかろうとすると ヘクターの額にスカルが銃口を突き付け 顔を左右に振りながら言う
「細けぇ事気にすんなよ?…アバロンの大剣使いは デカイ剣を使うくせに その心は小せぇのか?」
ヘクターが怒りを抑えられて言う
「クッ…」
スカルの言葉に勢いが弱まるヘクター 周囲の海賊が笑う ヘクターが思い出して言う
「コイツは!バーネットの事 ”カス王”って言いやがった!」
スカルが疑問して言う
「バーネット?…ああ、ベネテクトの王か?この前は大変だったらしいが デネシアを脅かしてたドラゴンを退治したって奴だろ?アルバレロ、そいつはイケねぇ… 謝れ」
アルバレロが言う
「け、けど スカル船長!奴ぁデネシアの巨人族を 奴隷扱いしてやがるんですよ!?そんな奴!」
スカルが言葉を制して言う
「お前も俺の奴隷だろ?」
スカルの言葉に アルバレロが一瞬止まって考えると 思い出して言う
「スカル船長は ちゃんと金を 払ってくれてまさぁ」
スカルが首を傾げて言う
「奴もそうだろ?その大金で デネシアは復興してるそうじゃねぇか?」
アルバレロが返す言葉を失い唸る
「…うぅ~」
アルバレロがヘクターへ視線を移して言う
「ベネテクト王の件は… 取り消す」
アルバレロの言葉に スカルがニッと笑い言う
「よく言ったアルバレロ!海の男はそうじゃなきゃイケねぇ 海のようにデカイ心で 何でも受け入れる位じゃねぇとな?」
スカルが満足げに ゆっくりその場を離れ 歩きながら両手を広げて言う しかしヘクターが言う
「アバロン王の件も取り消せ!」
ヘクターが言葉と共に剣に手を掛ける その後頭部に スカルの銃口が向けられて言う
「そっちは関係ねぇ 本当の事は本人たちにでも聞かねぇと 分からねぇ事だからな?」
ヘクターが怒って言う
「聞かなくても分かる!ヴィクトールは俺のガキの頃からの親友だ!あいつが デネシア”なんか”の王女に 泣きつ…」
スカルが言葉を制して言う
「お~っと?」
ヘクターが疑問する スカルが言う
「そいつは言っちゃイケねぇ… アバロンの大剣使い、何とか”なんか”って言い方は 相手をおとしめている …なぁ?アルバレロ?」
スカルが言って見上げると アルバレロが怒りに燃えている しかしヘクターは言う
「謝る気はねぇ!」
ヘクターとアルバレロの間に火花が散る スカルは両手を空へ向けて広げると言う
「あ~あ、こうなっちまったからには 決着付けるしかねぇな?」
スカルの言葉にヘクターとアルバレロが同意してアルバレロが言う
「やらせて下せぇスカル船長!」
ヘクターが言う
「望むところだぜ!」
スカルが言う
「よーし分かった、それじゃ決闘だな?」
それまで黙っていたザッツロードたち ラーニャが言う
「ちょ、ちょっと待って!」
皆の視線が向く ラーニャが言う
「喧嘩も決闘も同じよ!ヘクター!今はそんな事してる場合じゃないでしょ?」
スカルが苦笑して言う
「ああ、お忙しいなら… この勝負は アルバレロの不戦勝って事だ」
スカルの言葉に、にやけるアルバレロ ヘクターが怒って言う
「冗談じゃねー!俺はやる!」
ラーニャが怒ってザッツロードへ言う
「もうっ!ヘクター!ちょっとザッツも何とか言ってよ!?」
ザッツロードが困って言う
「う… う、うん えっと…?」
スカルが話を進める
「悪いがこっちも予定がある アルバレロにはやってもらわなきゃイケねぇ作業があってな?決闘は明日の朝でかまわねぇか?あぁ、急ぎか?なら今夜でも良い」
ヘクターが言う
「ああ!こっちも急ぎの用があるから 今夜で頼むぜ!」
スカルが言う
「よ~し それなら…」
スカルが時間と場所を指定すると アルバレロを連れて去って行く ヘクターは剣を鞘に収めて振り返る ラーニャが怒って言う
「もう!何やってるのよぉ!?」
ヘクターが苦笑して言う
「しょうがねーだろ?」
ラーニャが怒って言う
「しょうがなく無い!」
ヘクターがラーニャの説教を受けながらザッツロードの前へやって来ると あっと声をあげて言う
「あ!そうだ、ザッツ 魔王の情報あったぜ?」
ザッツロードが呆気に取られて言う
「え!?」
ヘクターが落ち着いて言う
「まぁ、”それっぽい”ってだけの話なんだけどよ?ソイッド村のずっと南の海で 波の様子がおかしいんだって?けど、ただの渦じゃねーかとも言われてるってさ?」
ヘクターの言葉に ラーニャが首を傾げて言う
「ただの渦?」
ミラが言う
「あぁ、それなら知ってるわ ソイッド村は私の故郷だもの、あの海域は潮の流れが乱れる事が多くて よく渦だの何だのが出来るのよ …2、3日もすれば無くなるわ」
ミラの言葉に全員の肩から力が抜ける ヘクターが言う
「何だ そっか… じゃ、こっちは情報無しに修正だぜ それで、そっちは?」
ヘクターの問いにザッツロードが顔を左右に振る ヘクターが苦笑して言う
「じゃぁ やっぱりこの町でも情報はなし かー」
ミラが言う
「それはそうと、ヘクター 決闘はどうするの?」
ヘクターが笑んで答える
「ああ!もちろん!やるぜ!」
ミラが言う
「相手はデネシアの巨人族よ?ヘクターの力任せな大剣では 不利なのではない?」
ヘクターが答える
「正面から力で押し合ったら勝ち目はねーけど、向こうはスピードがねーから まぁ心配ねーって!」
ヘクターとミラが話しているとラーニャが言う
「でもさ?もしあっちが相棒を付けて来たらどうする?巨人族のそのスピードを …ソルベキアのプログラマーとか ハッカーの力で修正してきたりして?」
ミラが言う
「巨人族がソルベキアのプログラマーや ハッカーを相棒に持つなんて 聞いた事無いわよ?」
ミラの言葉に納得するラーニャ
「…それもそうね?」
レーミヤが言う
「待って、あの人… スカル船長って人 船長ならソルベキアのプログラマーや ハッカーを雇っている可能性があるんじゃない?」
ラーニャが首を傾げて言う
「あの人が巨人族の為に プログラマーやハッカーを使うかな?」
ミラが言う
「海賊は仲間を大切にするらしいから その可能性はあるわね」
仲間たちの言葉に 余裕に満ちていたヘクターから余裕が消えていく ラーニャが言う
「巨人族の力に スピードまであったら… ちょっとヤバイんじゃないヘクター?」
ヘクターが困った様子で言う
「え?あ… う~…」
ヘクターが腕組みをして考えると 何かに気が付いたように言う
「…なら、こっちも相棒を使うまでだぜ!おいデス!あっちがスピードだの何だの プログラムで上げてきやがったら こっちも俺のスピードと力を…」
プログラマーが空かさず言う
『私は手を貸す気は無い』
ヘクターが言う
「え?」
ヘクターの前でプログラマーがプイとそっぽを向く ヘクターがその向いた先へ移動して言う
「なんでだよ?いつもは勝手に 俺の力や速さを上げたりするじゃねーか!?」
プログラマーが答える
『それは下らん決闘などでは無く 魔物との戦いであるからだ 私は、たかが喧嘩に加わるつもりは無い』
ヘクターが怒って言う
「たかがって言うなよ!?アバロンとデネシアの喧嘩だぜ!?」
プログラマーが冷静に言う
『私はガルバディアのプログラマーだ』
ヘクターが言い返す
「向こうはソルベキアのプログラマーだか を付けて来るかもしれないんだぜ?!」
プログラマーが言い返す
『ならば お前もソルベキアのプログラマーだか を付けろ、運良くここはソルベキアに近いローレシア領域だ 雇うなら探せば見付かるだろう』
ヘクターがムッとして言う
「ぐぬぅ…」
プログラマーが視線を逸らして言う
『まぁ… お前がソルベキアのプログラマーと 上手く提携出来るとは思えないがな?』
プログラマーの挑発にヘクターが乗る
「やってやるぜ!デス!お前がそんな白状な奴だとは思ってな…!…お、思ってた気もするぜ!…見てろよ!?後で謝らせてやるからな!」
プログラマーが無視する ヘクターが怒って大股で歩き出す ザッツロードが呼び止めようと言う
「ヘクター!?どこへ行くんだい!?」
ヘクターが一度立ち止まると 前を向いたまま言う
「夜の決闘が終るまで 俺はこの町から離れねー!皆は… 白状なガルバディアのプログラマーと一緒に 他に行くんなら 勝手に行ってくれ!」
ヘクターが再び歩き始める ザッツロードが仲間たちを振り返ると ラーニャが両手を腰に当てて怒っている ミラが呆れた様子 レーミヤが苦笑を浮かべている ザッツロードは1つため息を吐いてからヘクターを追って言う
「待ってくれ ヘクター!」
【 酒場 】
一軒の酒場に入ったヘクター まっすぐカウンターへ向かい マスターへ声を掛ける
「ちょっと急ぎでプログラマーとか 探してるんだ 誰か雇える奴居ないか?」
ヘクターの言葉に マスターがグラスを磨く手を動かしたまま言う
「プログラマー ”とか” って?プログラマーなのか 他のモンなのか ハッキリしてくれないと困るな?」
マスターの反応に ヘクターはイライラと頭を掻いて言う
「プログラマーとかっ!ああ… プログラム使って来る相手と戦うのに!役に立つ奴だ!何でも良い!」
マスターが無愛想に言う
「相手のプログラムを解除させるのがハッカーで、自分の相棒や 相手に対し プログラムを使うのがプログラマーだ 雇い料は3倍違う」
ヘクターが驚いて言う
「さ、3倍!?…じゃ、じゃぁ、 ハッカーで…」
マスターが相変わらず言う
「ちなみに今手配できるのは プログラマーだけだ」
ヘクターが衝撃を受け怒って言う
「なら!先に言えっての!!」
マスターが変わらず言う
「料金は先払いだ」
ヘクターが言われた金を払うと マスターは壁の機械を操作する モニターに1人の男が映る それを確認したマスターが別のグラスを拭きながら言う
「モーリアス、アバロンの大剣使いが お呼びだ、料金はきっちり払ってくれた お前もきっちり働いてくれよ?」
モーリアスと呼ばれた男がモニターの中でだるそう首を掻く
『アバロンの大剣使いだって?…上手く行く気がしないなぁ?…まぁ俺は やれるだけの事をするだけさ』
モニターに向かってヘクターが言う
「おい、どこに居るんだ?お前も本体が傍に来ねー プログラマーなのか?」
ヘクターが後方に居るプログラマーのホログラムを横目に見る プログラマーがそっぽを向く モーリアスがモニターの中で言う
『はぁ?意味分かんないけど 今行くよ…』
モーリアスが程なくして酒場に現れる ヘクターは彼の前へ手を差し出して言う
「俺はアバロンの大剣使いヘクターだ、よろしくな!モーリアス」
モーリアスが言う
「ソルベキアのプログラマー モーリアスだ …アバロンのヘクターって まさか、あの傭兵隊長か!?」
ヘクターが微笑して言う
「ああ、傭兵隊は 今はアバロンの3番隊だぜ?」
モーリアスが微笑して言う
「そうか…悪くない 一度 上等な剣士のプログラムをやってみたいと思っていたんだ 俺もソルベキアでは そこそこ名の売れたプログラマーだからな?あんたとなら楽しめそうだ」
夜
ヘクターたちが時間通り決闘の場所へ向かう その場所には既に多くの野次馬と アルバレロ、そしてスカルが居る ヘクターの姿に気付いた周囲の野次馬が声を上げると 次々に連鎖して歓声が上がる コンテナの上に座ったスカルが酒を片手にヘクターへ声を掛ける
「よう、待ってたぜ?」
スカルの言葉に アルバレロがにやりと笑ってヘクターを見る ヘクターも笑って見せる 飲み終えた酒をコンテナに置いたスカルが地面に降りて言う
「後で卑怯だなんて言われたくねーから、先に言っとくが アルバレロは見ての通りのデカブツだ普通にアバロンの兵士と一対一でやったんじゃ~ そのスピードの差がもろに出ちまう だからこっちは相棒を付かせる、悪く思うなよ?俺ら海賊は家族だからな、互いに足りない力を合わせるのが常識なんだ」
スカルが言い終えると共に レイナがモバイルPCを持ってアルバレロとスカルの間に立つ 一瞬、間を置いてから レイナが一歩スカルへ近づき言う
「この前の首飾りくれるって、約束だからね?」
スカルが衝撃を受け 表情の強張らせると小声で言う
「―後で渡してやるって言っただろっ!?」
スカルが咳払いし 改めてヘクターへ顔を向ける そんなやり取りが聞こえなかったヘクターは頷いてから言う
「ああ、こっちもだ 相棒が付いた巨人族と 真っ向勝負ってのも悪くないけどな」
ヘクターが言い終えるとモーリアスがヘクターの後ろに付く スカルがモーリアスを見て首を傾げて言う
「あらー…?昼間居たガルバディアのプログラマーじゃねぇのか?」
スカルの問いに ヘクターが周囲を見てプログラマーを探す しかしプログラマーは居ない それを確認したヘクターがスカルに向き直って言う
「白状なガルバディアのプログラマーには見捨てられちまった、で、こいつが居る」
ヘクターがモーリアスの肩を叩く スカルたちが呆気にとられた後笑い スカルが言う
「そいつぁは大変だったな?まぁ頑張ってくれ」
スカルが合図を送る様にアルバレロの背を軽く叩く アルバレロが笑み武器の斧を手に ヘクターの下へ向かう ヘクターも剣を抜き向かう モーリアスが後ろへ下がる
決闘はヘクターが敗北する ラーニャが焦って言う
「ちょっと!モーリアス!何やってるのよ!?全然ヘクターにプログラムが 掛かって無いじゃない!!」
モーリアスが焦って言う
「う、うるさいっ俺はやってる!ヘクターが受け取らないんだ!」
レーミヤが焦って言う
「ヘクター!危ない!」
ミラが慌てて叫ぶ
「ダメよ!ヘクター!その手は読まれてる!」
ヘクターは 普段慣れているプログラマーのプログラムとは違い過ぎる為 モーリアスのプログラムをまったく自身の力に出来ずに ザッツロードたち仲間の前で惨敗 アルバレロがヘクターへ止めを刺そうとするのを スカルが止めて叫ぶ
「アルバレロ!止めやがれ!」
アルバレロがヘクターの首ギリギリの所で斧を止める ラーニャが悲鳴を上げ目を伏せていた状態から顔を上げると アルバレロが斧を引いて体勢を直す ラーニャがヘクターの下へ駆け寄る ミラとレーミヤが少し遅れてそれに続く ザッツロードに肩を借りてヘクターが立ち上がり言う
「はぁ…はぁ… ち、ちくしょ…」
スカルが来て言う
「よう大丈夫か?ずいぶん無様だったなー?俺の知ってるアバロンの大剣使いってのは もっとイカした奴だったぜ?いつの間にアバロンの大剣使いはそんなに落っこっちまったんだ?」
ヘクターがスカルの言葉に返せないでいると スカルが軽く笑って言う
「ははっ!まぁ良い アルバレロ、気は済んだか?」
アルバレロが意気揚々と言う
「あーはは いやぁ もう最高ですぜ!自分があんなスピードで動けるなんて 夢みたいでさぁー!」
スカルが微笑して言う
「そいつあレイナに礼を言っとけよ?最近プログラマーに目覚めたお姫様によ」
レイナが言う
「そうそう、あんたの図体にプログラム掛けるの大変なんだからぁ~」
アルバレロが笑顔で言う
「へっへっ ありがとよ!」
ヘクターの目にアルバレロとレイナの姿が映る ヘクターの横にモーリアスが来て言う
「おいっ!俺のせいじゃないからな!?お前が 俺のプログラムを 受け取らなかったんだぞ?ちゃんと見えてただろう!?」
ヘクターがモーリアスへ向いて言う
「あぁ…見えた、けど 俺の欲しいところじゃ…もっと…」
ヘクターの言葉にモーリアスがため息を吐く
「こっちは お前達の状況を確認した上でプログラムを実行してるんだから 無視するなよ… ま、アバロンの大剣使いと プログラマーは合わないってのは、こういう事なのかもしれないな?良い経験になったぜ」
モーリアスはそう言うとヘクターへ背を向けて言う
「ヘクター、お前はプログラマーをサポートに付ける事に向いてない プログラマーと息を合わせる気が まったく無いみたいだからな?」
モーリアス立ち去って行く スカルがヘクターを振り向き言う
「俺たちはこれで終りにさせてもらうぜ?じゃあな?せいぜい 薄情なガルバディアのプログラマーと 仲良くするこった」
スカルが背を向け 海賊達が去っていく ヘクターが瞬きをすると その目前にプログラマーの後姿が映る プログラマーは海賊たちを見送ると 振り返ってヘクターを見て言う
『お前より解っている様だ』
ヘクターが沈黙する プログラマーが言う
『私へ言う事が あるのではないか?』
ヘクターが間を置いて言う
「…お前のプログラムは… …俺に合ってる」
プログラマーが間を置いて言う
『…それで?』
ヘクターが言い辛そうに言う
「だから… 俺の相棒で… …居て良いぜ?」
プログラマーが呆気に取られた後 顔を逸らして言う
『覚えて置こう』
2人の会話を聞いて ラーニャが言う
「こーら!ヘクター?ちゃんと ごめんなさいって 言わなきゃダメでしょ?」
ラーニャが言葉と共にヘクターの背中を叩くと 怪我をしているヘクターが悲鳴を上げる
「痛ぇ!」
仲間たちが笑う ヘクターが痛そうに苦笑する
【 ソイッド村 】
ザッツロードたちがソイッド村に到着すると 村は慌ただしい様子 ただならぬその様子にミラが何事かと近くに居た村人へ問う
「ねえ、一体どうしたの?何の騒ぎよ?」
ミラの問いに ミラより魔力の低い村人が怯えた様子で言う
「む…村に津波が来る…っ この村を飲み込むぐらい 大きな津波が…っ!」
ミラが驚いて言う
「なんですって!?」
ミラは長老の家へ向かって走り出す ラーニャが言う
「ちょっと!ミラ!待ってよー!」
ラーニャの言葉に振り返る事も無くミラは行ってしまう 残されたザッツロードたちも後を追う
覚えのある長老の家へ入ったザッツロード その耳にミラの声が響く
「そんな!どうして!?避難するべきよ!!村なんて… どうなったって良いじゃない!!」
ザッツロードに続き家へ入ったラーニャがその声に驚いて 先に入っていたザッツロードへ問う
「な、なに?」
ザッツロードが言う
「わ、分からない… 入っても… 良いかな?」
ただならぬ雰囲気に踏み入って良いものかと躊躇するザッツロード その後ろからヘクターが狭い入り口を入りながら言う
「おい、何やってんだ?ここ狭いんだから そこに立ち止まるな …とっ!?」
ラーニャが押されて言う
「ちょ、 きゃぁ!」
ザッツロードが押されて言う
「え?あ!」
ヘクターが体制を崩して言う
「おわっ!」
長老と話していたミラが振り返ると そこへザッツロードを一番下に その上にラーニャ それを庇いながらヘクターが積み重なって倒れ込む 激しい物音と共に 雪崩れ込んだ彼らへ 家の中に居た者たちが一斉にそちらを見やる ラーニャが言う
「いったぁ~ もうっ 何で止まるのよっ!?」
ザッツロードが言う
「ご、ごめん…」
ヘクターが言う
「いってぇ~」
ヘクターが起き上がりながら床へぶつけた頭を擦る ヘクターが退くと ラーニャが服を調えながら立ち上がる ザッツロードが急いで立ち上がるが自分たちに注がれている視線に気付き 言葉に迷って言う
「あ…えーっと…」
ミラは苛立たしげに一息吐き ザッツロードたち3人の前まで強い足取りで向かい 立ち止まって言う
「あなた達には関係ない話よ、それより この村は、これから大変な事になるから 今すぐに離れて」
ミラが言い放つと共にザッツロードたちに背を向け もとの場所へ戻ろうとする ラーニャが言う
「離れてって… ミラはどうするのよ!?」
ミラは振り返らずに言う
「…私は残るわ これは魔術師の問題なの 貴方たちには関係ないし、ここに居たら… 皆 死ぬわ だから行って」
ラーニャが言う
「し、死ぬって…?」
ミラが声を荒げる
「いいから 行きなさいって言ってるでしょ!?」
ヘクターが言う
「なんだよ?行ける訳ねーだろ?何があったか知らねーが 仲間を置いて行けるかってんだ」
ヘクターの言葉に ミラが我慢の限界を迎える
「なら教えてあげるわよ!!もうすぐ津波が来るの!この村を飲み込む位とても大きな… 私たち魔術師皆の魔力を 全部ぶつけても抑え切れない位大きな津波が!でも…皆は… 皆は 最後まで 村を守るって言うのよっ!!」
ミラの言葉に3人が息を飲む ラーニャはミラの目に浮かぶ涙に気付く ヘクターが問う
「何… 言ってんだよ?抑えきれない津波なんだろ?それなのに最後まで守るって… そんな事したら そこに残った魔術師が 皆 死んじまうじゃねーか?」
ヘクターが訳が分からない様子で言うと ミラがもはや抑えきれなくなった涙をこぼしながら言う
「そうよ… 馬鹿よ… 皆 大馬鹿だわ…っ」
ラーニャが言う
「…嘘でしょ?なんで?なんで そんな事するの!?」
ラーニャの言葉に 今までその様子を見守っていた長老が言う
「我々魔術師たちは この地を守る様 古くから言われて来た… たとえ 魔術師の種族が途絶え様とも…」
ヘクターが言う
「はぁ?」
ヘクターが疑問すると そんなヘクターの隣に姿を現したプログラマーが言う
『…愚かだな』
ヘクターがプログラマーへ振り返ると その言葉を肯定する様子で 視線を戻して言う
「そうだぜ!愚かだ!逃げるべきだ!」
プログラマーが言う
『違う 私が言っているのは 他者へ助けを求めないと言う事に対してだ』
プログラマーの言葉に ミラが顔を上げ言う
「助け…?」
プログラマーが言う
『そうだ、この村の魔術師の力だけでは無く このローレシア領域に共存する 魔法使いや占い師 それら魔力を扱う者へ助けを求め 協力出来れば 現在このソイッド村に近付いていると言う 津波を抑える事が出来る だが、それが分かっていながら 奴らは行おうとしない』
ラーニャとヘクターが声を合わせて叫ぶ
「何でよ!?」「何でだよ!?」
長老が苦笑して言う
「我々はずっと 魔法使いや占い師を見下して来た… ここへ来て 今更助けを請う事などは事は出来ない」
ラーニャが言う
「そんなの関係無いわよ!キャリトールの魔法使いの皆は きっと来てくれる!人を助けるのに 過去の話なんて関係ないわよ!」
ミラが驚いて言う
「ラーニャ…」
レーミヤが言う
「それは テキスツ村の占い師たちも同じです 皆が力を合わせる事で このソイッド村を守られると言うのでしたら」
プログラマーが言う
『魔力者の確保が出来たとしたら もう1人必要な人物が居る もしくは 一番重要とも言えるが …それら多くの魔力を一つに終結し 放てる剣士』
ヘクターが言う
「剣士なら俺でもザッツでも良い!ここに居る!だから 今すぐ魔法使いと占い師の皆に来てもらおうぜ!?」
ヘクターは希望を掴んだごとく その喜びのままに声を上げて 魔術師の長老の前へ向かう しかし長老は顔を横に振る ヘクターたちが驚く 長老が言う
「気持ちは有り難いが… それは出来ない」
ラーニャが怒って言う
「なんでよっ!?皆協力してくれるのよ!?」
長老が言う
「我らソイッド村の魔術師は この世界最強の魔力者としての誇りを保って来た ガルバディアのウィザードに敗れた今 更に 他の魔力者たちに力を借りるなど…」
ラーニャが怒って叫ぶ
「そんな馬鹿みたいなプライドで!村の魔術師全員を殺す気!?あなたそれでも村を治める長なの!?」
ラーニャの言葉を 周囲に居る魔術師が止めて言う
「いや、これは我々全員の意志だ… 馬鹿だと思うなら思ってくれ 今までの事を今更悔いて 魔法使いや占い師達へ 頭を下げるぐらいなら…」
「そう、これが我々の出した答えなのだ、ウィザードに完膚なきまでに敗れた今 最後まで魔術師としての誇りを持ち 海の精霊様の裁きを受けるのだ」
2人の魔術師の言葉に他の魔術師たちも頷く ラーニャが力を失って言う
「そんな…」
ラーニャがミラを振り返ると ミラはもう涙を流してはいない 代わりにその瞳には強い意志を湛えている ラーニャが言う
「ミラ」
ラーニャの声に ミラはラーニャを見て言う
「ここでお別れみたいね」
ミラの言葉にラーニャが後退る そのラーニャの後ろに居たヘクターが言う
「なら俺も残るぜ?」
ヘクターの言葉に周囲がざわめき 長老も驚きの声を上げる
「なんと!?」
ラーニャが言葉の意味が理解できず一瞬止まってから改めて声を上げる
「な…っ?ちょ、ちょっと!何言ってるのよヘクター!?」
ヘクターが その場に居る全員の視線を一身に浴びながら もう一度言う
「剣士の俺が 魔力を剣に受けて その剣で衝撃を与える方が 魔力だけより力が増すんだろ?俺知ってるぜ?魔法剣とか言うんだよな?」
ヘクターが気軽に言ってのけると 長老が言う
「そ、それはそうじゃが…」
ヘクターが気軽に言う
「それなら、今ここに居て 津波の相手なんかしても良い剣士ってのは 俺だけだろ?」
ヘクターが一度ザッツロードを振り返ってから 自慢げに胸を張る そんなヘクターへプログラマーの冷静な声が降りかかる
『それで、押し寄せる津波を 足りぬ魔力と共に一時抑えた後 お前は彼らと共に消えると言う訳だな?』
思わずラーニャが声を荒げる
「デス!」
プログラマーは続ける
『私は事実を言っているまでだ この村の魔術師の魔力を… 仮に1%の障害も無くヘクターの剣へ届け、そして 初めて受ける魔術師 複数人の魔力を完全にコントロールして放った所で 間もなく押し寄せて来るあの津波から この村を守る事は100%不可能だ』
プログラマーの言葉に誰もが肩を落とし言葉を失う 短い沈黙の後プログラマーはもう一度言う
『他の魔力使いへの助力を求められないのであれば お前が残っても 意味が無い この村の魔術師同様 お前も無駄死にだ』
プログラマーの言葉に ヘクターは返事をしない 長老が立ち上がって言う
「さぁ、勇者ザッツロードとお仲間の方々 あなた方を巻き込む訳には参りません 早いうちに崖の上まで避難して下さい…」
長老が 優しい微笑と共にそう言う ザッツロードは浮かない顔のまま示された出口へ向かう
ザッツロードが言う
「本当に…残るのかい?ミラ?」
ミラが言う
「ええ」
ラーニャが言う
「…あなたは勇者の仲間でしょ?こんな所で死んじゃって良いわけ?」
ラーニャの問いに ミラはラーニャを正面から見て言う
「今回も魔術師は 最後まで勇者のお供が出来なかったわね …貴女が正しかったわ」
ラーニャが言う
「…ばかっ!」
長老の家から出た一行は これからやって来るであろう津波が来る方向を見る 抜けるような青い空と広がる静かな海 しかし、その砂浜は驚くほど干上がっている 長老はザッツロードへ握手を求めて言う
「皆様の ご無事とご健闘を… あの世からお祈りさせて頂きます」
ザッツロードは胸の痛みを堪えながらその手を取る ザッツロードと仲間たちが立ち去る しかしヘクターは動かない レーミアが言う
「ヘクター、移動魔法で崖の上まで上がるわ こっちへ…」
ヘクターはその声に振り返り言う
「ああ、行ってくれ」
レーミヤが驚いて言う
「え?」
ヘクターは両手を腰に当て軽く言う
「俺はここに残るからよ …そー言ったろ?」
誰もが彼の言葉は取り消されたものだと思っていた為、皆改めて驚く 長老も苦笑して言う
「ヘクター殿、お気持ちだけで十分です」
長老が仲間の下へと促す ヘクターはそれを否定するようにそっぽを向く 仲間が名を呼ぶがヘクターは振り返らない やがて 今まで黙っていたプログラマーが言葉を発する
『おい、ヘクター 時間が無いぞ これ以上 お前の仲間に迷惑を掛ける気か?複数人へ移動魔法を掛けるには 強い集中力が必要だ レーミヤを焦らせるな』
プログラマーの言葉に ヘクターが間を置いてから振り返って言う
「デス…お前は 何で やらないんだよ?」
プログラマーが言う
『…何の話だ?』
ヘクターの珍しく静かな落ち着いた声に問われ プログラマーは訝しむ ヘクターはプログラマーの返答に怒りを露にして叫ぶ
「お前なら出来るはずだ!出来るんだろ!? あの津波を止める事がよ!!」
プログラマーが沈黙する ヘクターが続けて言う
「ガルバディアのプログラマーは 万物を支配出来るんだろ?だったら どうなんだ?出来るのか出来ないのか… お前の得意な 何パーセント って奴で言ってみろよ!」
ヘクターの言葉に 皆が驚いてプログラマーを見て ラーニャが言う
「万物を…?それってっ!?」
プログラマーが言う
『それは ガルバディアが 国を閉ざす以前の話だ』
ヘクターが言う
「けど、お前は 今 俺の目の前に姿を現してる 国は閉ざしていても そのガルバディアの民である お前は外に居るじゃねーか?」
プログラマーは何も言わない ヘクター足音高く近づき問い詰める
「どうなんだよ?今のお前に 出来るのか出来ねーのか!わからねーのか?そんくらいの計算なんて!いつものお前なら1秒も掛からねーだろう!」
デスが言う
『99%だ …いや、正確に言えば99.8%と言った所だ』
プログラマーの答えを聞いたヘクターが 微笑して言う
「やっぱりな!思った通りだぜ!」
ヘクターの言葉に 当の2人以外の人々が驚きの表情を見せる ラーニャが疑問して言う
「どう言う… 事?」
皆の視線がヘクターへ集まる ヘクターはその視線に胸を張って言う
「0.2%も 成功する確率があるってよ!」
ヘクターの満面の笑みと共に告げられた言葉 皆は一瞬意味を理解できず固まる そんな皆を差し置いて ヘクターがプログラマーへ言う
「なぁ、そのお前のプログラムに 魔術師たちの…」
プログラマーが言葉を制して言う
『出来ない 余計に失敗確立が上がる』
ヘクターが残念そうに言う
「…そっか~」
ヘクターがぽりぽりと頭を掻く ラーニャが慌てて言う
「ちょ、ちょっと待って!ヘクター?本気で言ってるの?99.8%失敗なんでしょ?そんなの無理に決まってるじゃない!!」
プログラマーが言う
『私も同感だ、さっさと避難するんだな』
ヘクターが呆気に取られて言う
「あ?」
プログラマーが続けて言う
『比率で答えろと言われたから答えたまでだ、成功率が80%以下のプログラムなど不可能だと思え』
ヘクターが不満そうに言う
「なんでだよ?」
プログラマーが苛立ちつつ言う
『…お前に話した所で埒が明かん』
ヘクターが言う
「0.2%出来るって言ったじゃねーか?」
プログラマーが言う
『99.8%出来ないと言ったんだ、良いか?お前の言う0.2%と言うのは 全てが成功した時だ』
ヘクターが言う
「成功させたら良いだろ?」
プログラマーが言う
『それが無理だと言っている』
プログラマーの言葉に ヘクターが意外そうに言う
「お前にも無理な事があるのか?」
プログラマーが言う
『当たり前だ 私が人である以上 100%ミスをしない事など 不可能だ』
ヘクターだけでなく仲間達全員が驚く プログラマーがそっぽを向いている ヘクターもようやく肩を落とし納得する
「そっか~… はは、なんだ、ガルバディアのプログラマーって言っても そんなモンなんだな?」
ヘクターが軽く笑った後言う
「…ま、しょうがねぇな!」
ヘクターが気を取り直して言う
「じゃ、行ってくれ ここでお別れだ」
ラーニャが言う
「ヘクター!」
ヘクターは振り返らず津波が押し寄せてくる海岸へと歩いて行く ラーニャが思わず追いかけようとするがその肩を ザッツロードが押えると レーミヤが移動魔法の詠唱を開始する ラーニャの声が響く
「ヘクターー!」
ヘクターが1人静かに海を見つめている その隣の空間がブレると プログラマーのホログラムが現れ言う
『本当に残るとは… お前は何処まで馬鹿なんだ?』
プログラマーの言葉に ヘクターは視線そのままに言う
「あ?何だよ?お前も残ったのか?」
プログラマーが言う
『これは映像だ、お前が津波に飲まれて死んだって 私はその横でお前の死に顔を眺めて居られる』
ヘクターが苦笑して言う
「悪趣味な奴」
ヘクターが乾いた笑いをする プログラマーは表情を変える事無く続ける
『今ならまだ… お前は私のプログラムのサポートを用いて あの崖を登る事が出来る』
デスの言葉に ヘクターが即答する
「俺は残るって言っただろ?」
プログラマーがヘクターへ顔を向ける ヘクターが視線を向けないまま言う
「俺は今までも ”何かをやる”って言ったら 必ずやって来た 今回だって同じだ」
プログラマーが言う
『死ぬぞ』
プログラマーの抑揚の無い言葉に ヘクターが苦笑する プログラマーがヘクターの横顔を眺める ヘクターがデスへ視線を向けて言う
「魔術師の皆が命がけで守ろうって言うんだぜ?”じゃあ頑張れよ!” なんて手を振れるか?…あいつら 分かってるんだぜ?防げねぇってさ?」
プログラマーが言う
『お前がその巻き添えを食う必要は 無いはずだ』
ヘクターが言う
「俺にもアバロンの大剣使いとしてのプライドがある …ここで黙って逃げたら 俺はそのプライドを失っちまうんだ お前だって分かるだろ?」
プログラマーが言う
『ここはアバロン領域ではなく、ローレシア領域だ ローレシアの王子であるザッツロードが避難している以上 お前が逃げる事は 許される筈だ』
ヘクターが言う
「いや!俺は逃げねぇ …逃げらんねぇよ 仲間を置いてはよ」
ヘクターが言葉と共に魔術師たちを振り返る その魔術師達の先頭に居るミラが ヘクターへ視線を向ける プログラマーが言う
『友情と自愛の国アバロン… そのアバロンの民としてのプライドを賭け お前はローレシアの地で死ぬのだな』
ヘクターが苦笑して言う
「はは… 出来ればアバロンの地で …でもって、アバロンの町や城を守るような戦いの中で 死にたかったぜ」
ずっと引いていた潮が止まる ヘクターが息を飲んで言う
「来るか?」
プログラマーが言う
『約28分後だ』
ヘクターが言う
「長げーな…」
プログラマーが沈黙する ヘクターが間を置いて言う
「…ホントはさ?」
ヘクターが小声で言う
「今… すげー怖ーよ… 今までこんなに怖いって思った事はねーんだ …これが最期って奴なのか?」
プログラマーが間を置いて言う
『…ヘクター まだ 間に合うぞ?』
ヘクターがプログラマーの言葉に顔を左右に振って言う
「もう無理だ、ここまで来て逃げ出したら それこそアバロンの恥晒しになっちまうよ」
プログラマーが沈黙する 再び訪れる短い沈黙を ヘクターが破って言う
「あ~… その… あれだ、よし!折角 お前が最期まで俺を見ててくれるんならさ… 言っちまうわ」
ヘクターが照れ隠しに無駄な動きを繰り返しながら 言い辛らそうに言う
「俺よ?プログラマーって奴が 昔っからすっっげぇ嫌いでよ?正直、ザッツたちの中に お前が居るって知った時 マジで最悪な気分だった」
デスが苦笑して言う
『…知っている』
ヘクターが軽く笑って言う
「はは、まぁ 魔力者やプログラマーを嫌うアバロンの民は多いから 俺もその1人だった訳だ… けどよ?」
ヘクターはプログラマーへ向いて続ける
「初めてお前のプログラム使って戦った時 その… 今まで考えが全部 一瞬でふっ飛んでよ!?」
プログラマーが一瞬呆気に取られる ヘクターが視線を逸らして 言い辛そうに言う
「プログラムって言うのは… いや、ガルバディアのプログラマーって すげぇな!って思ったんだ で… 俺は あの瞬間から何も怖いもんが 無くなった、どんなに強そうな魔物を前にしたって どんな多数を相手にしたって どんなにでっけーのを前にしたって 今回みたいにー… 津波なんかが相手だってよ!?」
プログラマーが沈黙する ヘクターが視線を落として言う
「俺は怖くなかった… でも、今は…怖ぇよ ははは… 情けねぇよな?つまり、結局 俺の強さは 昔 嫌ってた筈の プログラマーの… お前の強さだった… て事なんだな?」
プログラマーが言う
『それは違う』
ヘクターが驚いて視線を向ける プログラマーが言う
『プログラムは所詮情報の羅列に過ぎない、それを 何処まで感じ取り 信じる事で 現実空間へ現し 利用して使いこなす事が出来るか… アバロンにはその力を持った大剣使いが現れる …お前はその才能の持ち主だ だから私は お前のサポートをずっと行って来た』
ヘクターが苦笑して言う
「いや、やっぱお前が すげぇんだよ、その証拠にさ 俺 お前のプログラムの無かった この前の戦いじゃー ボロボロに負けちまっただろ?モーリアスに言われたんだ お前はプログラマーをサポートに付ける事に向いてないってよ?」
プログラマーが言う
『ソルベキアの民は 元はハッカーだ 奴らのプログラムはレベルが低い お前のサポートには向いていないだけだ』
ヘクターは軽く笑って言う
「そっか… それに 俺 他の力でサポートしてもらってもよ なんかダメなんだよ… ラーニャとかレーミヤの魔法と 一緒に戦っても…」
ヘクターは空を見上げて続ける
「お前と一緒に戦ってる時みたいに ”なんっも怖くねーぜ!” …って気分にはならねーんだ …だから」
ヘクターが意を決して言う
「デス、お前は 世界一のプログラマーで …世界一の 俺の相棒だった …ありがとな?」
プログラマーが沈黙する ヘクターは恥ずかしさに耐え切れずに そっぽを向いて頭を掻きながら それでも続ける
「俺よ、あの世に行ったら自慢するわ!俺は 世界一のプログラマーと一緒に 世界一の大剣使いになったんだ!てな?」
ヘクターが満面の笑みを浮かべる プログラマーはそんなヘクターを黙って見ていたが やがて言う
『私は世界一のプログラマーなどでは無い もしそうなら、自分の相棒である剣士を 死なせたりなどしない』
ヘクターが苦笑して言う
「…う~ん それは、まぁ… 俺の勝手で決めちまった事だしよ?ははっ」
ヘクターが軽く笑うと プログラマーが言う
『もう間に合わない 逃げ出す事は出来ないぞ ヘクター』
ヘクターが一瞬驚いた後 頷いて言う
「…おうっ」
ヘクターが海を見る 目の前の海から波が消えている ヘクターが苦笑して言う
「やっぱ お前も行ってくれ、デス… 俺がビビってガタガタ震える姿とか… 見せたくねーわ」
プログラマーが言う
『ヘクター』
ヘクターが構わず続ける
「デス、俺、お前の事 死んでも忘れねーよ 俺の認めた 唯一のプログラマーだからな!」
ヘクターが顔を上げ剣の柄を握る その後姿に プログラマーが言う
『…ヘクター、私を置いて 勝手に先へ進むな まだプログラムを作り終えていない』
ヘクターが間を置いて疑問し言う
「…あ?」
プログラマーが言う
『戻って魔術師たちに伝えろ 津波が来ても 絶対に魔術を使うなと …余計な力が加わると 私のプログラムの邪魔になる』
ヘクターが呆気に取られたまま言う
「デス…?それじゃ!?」
プログラマーが続けて言う
『時間が無い、残りの時間でプログラムを完成させる ホログラムを映像化している余裕も無い しばらく姿を消す』
プログラマーがホログラムを消すと ヘクターが一瞬間を置いて慌てて魔術師たちの下へ走る
言葉少なく最期の時を待っていた魔術師達は 走って来たヘクターを驚いた様子で見る ヘクターが魔術師の先頭に立っていたミラの前に立つと喜んで言う
「ミラ!やったぜ!?デスが!デスがやってくれる!!」
ミラが呆気に取られて言う
「…え?」
ヘクターが意気揚々と言う
「あいつが手を貸してくれるぜ!だから頼む!俺とデスを信じて 津波が来ても魔術を使わないように 皆に言ってくれ!悪ぃけど、デスのプログラムの邪魔になっちまうんだ!」
ヘクターが音を立てて両手を顔の前で合わせて頼む ミラが信じられないと言った様子で目を丸くして言う
「デスが…?信じられない いつも… 何にも興味を示さなくて 私たちのやる事を 傍観してるだけだったのに…」
ミラの言葉にヘクターが笑う
「んな事無いぜ?あいつのプログラムを受けて一緒に戦ってみれば分かる あいつはいつも 色んな事に興味を持って、色々試して楽しんでる、デスは、そんな奴だぜ?」
ミラが呆気に取られたまま言う
「ヘクター…」
ヘクターが思わず言ってしまった言葉に 今更照れながら言う
「ははは、…まぁ そーゆう事だからよ?よろしく頼むぜ!?」
ヘクターが恥ずかしさを笑って誤魔化すと ミラが微笑して言う
「デスは変わったのよ、あなたと一緒に戦ってる内にね?ヘクター」
ヘクターが疑問して言う
「あ?そーなのか?」
ヘクターが疑問していると ミラが微笑んで言う
「分かったわ!貴方たち2人を信じるから… そうね、私たちだって 祈りって魔術なら 使っても良いわよね?」
ミラの言葉に ヘクターも笑顔で答える
「おう!その魔術なら全力で頼む!」
ヘクターが先ほどの海岸近くへ戻り眺めていると ヘクターの後方の空間が歪み プログラマーが言う
『プログラムが出来上がった、後は… 何処まで成功させられるか だ』
ヘクターが 自分の後ろに現れたプログラフのデスへ正面を向いたまま答える
「おうっ!待ってたぜ 相棒!」
ヘクターの呼びかけに プログラマーが声を出さないまま微笑する ヘクターは見えていないが 同じ様に微笑してから振り返って言う
「お前が消えてから今までよ…?こんっなに長い28分は初めてだったぜ?」
プログラマーが言う
『25分だ、後3分ある』
ヘクターが衝撃を受けて言う
「え?マジかよ?う~ん… 1時間ぐらい待ってた気分なんだけどな…」
ヘクターが疲れたフリをする プログラマーが苦笑して言う
『そんなに体感時間がズレているのでは プログラムを作り直さねばならないぞ?』
ヘクターが軽く笑って言う
「はは、そいつは大変だ」
2人が笑い合うがどちらも空笑いである プログラマーが空気を変えて言う
『お前の方の準備はどうだ?』
ヘクターが笑んで言う
「俺は いつだって 準備万端!」
ヘクターが大剣を構える プログラマーが言う
『心構え… と言った方だ』
ヘクターが言う
「ああ、それなら…」
2人が顔を合わせて話していた状態から ヘクターそれを逸らして言う
「お前が来たからよ、もう大丈夫だ」
プログラマーが間を置いて言う
『…そうか』
ヘクターが気恥ずかしそうに頭を掻くと わざと勢いをつけて問う
「お前こそ大丈夫か?プログラムは準備万端でも、その… お前の 心構えの方はさ?」
ヘクターが苦笑する しかし ヘクターの冗談で言った言葉に プログラマーが黙る ヘクターが疑問してプログラマーの顔を覗き込と ヘクターの無言の問いに プログラマーが答える
『…正直に言おう、ヘクター 私は自信が無い』
ヘクターが驚いて言う
「え!?」
ヘクターが慌てて言う
「お… おいおいおい!ここまで来て それは無いだろ!?」
プログラマーが下げていた視線をキッとヘクターへ向けて言う
『勝手を言うな!私は最初から 無理だと言った筈だ!』
ヘクターが慌てて言う
「プログラムは 出来たんだろっ!?ならっ!?」
プログラマーが言う
『作る事は出来る、だが ”それだけ"だ 言った筈だぞ ヘクター?私は100%成功させる事などは出来ない それが出来るのは …機械だけだ』
ヘクターが言う
「じゃあ 何パーセントなら成功させられるってんだ?」
プログラマーが視線を逸らして言う
『100%成功させなければ 津波は抑えられない』
プログラマーの言葉に ヘクターが一瞬沈黙するが 次の瞬間 表情を明るめて言う
「ならよ?余裕持って… 120%成功させちまおうぜっ!?」
プログラマーが衝撃を受け言う
『なぁっ!?』
ヘクターが両手を頭の後ろに組んでフラフラ歩きながら言う
「俺なんてよー?しょっちゅうだぜ?お前と一緒に戦ってる時は、いっつも自分が思ってる事の それ以上の事が出来るんだ!…それって120%って言うだろ?」
ヘクターが言葉と共に プログラマーへ振り返る プログラマーが苦笑して言う
『…そうだな お前は いつも120%の成果を出してくれる …大した奴だ』
ヘクターが笑んで言う
「だから今回はお前もさ!?」
プログラマーが言う
『私は… お前ではない』
プログラマーは視線を合わせない ヘクターが考えて言う
「あ!そうだ!俺達にはよ?後ろの魔術師達の”祈り”って魔術も 付いてるんだぜ?」
ヘクターが明るい表情で言うが プログラマーは即答する
『プログラムには 魔法も魔術も 通じない』
ヘクターが力強く言う
「信じれば良い!お前は俺の相棒だろ?俺みたいによ!色んなモンを信じて!それを全部 力にするんだ!出来るさ!」
プログラマーが言う
『…時間だ、来るぞ』
ヘクターが剣を構えて言う
「俺はお前を信じてるぜ!デス!」
海の向こうから大きな津波が押し寄せてくる 空気が激しく吸い寄せられる感覚の中 ヘクターは剣を構える プログラマーが言う
『お前の剣が造る衝撃波を増幅させる 津波を切り裂いた後 押し寄せる水を押えろ』
ヘクターが言う
「おう!任せとけっ!!」
巨大な津波が弧を描き 海岸を飲み込んで崩れる 押し寄せる高波 ヘクターは走り出す
「うおぉおおおお!!!だぁああ!!!」
ヘクターが高く振り上げた大剣を全力で振り下ろす その大剣から見えない衝撃波が作られ プログラマーのプログラムが 衝撃波を数字の羅列で覆い 数千倍の威力に増幅させる ヘクターの大剣が作った衝撃波が 波を一刀両断すると 2つに割れた波はその間の溝に流れ込み 溝から造られた新たな水の塊がヘクターへ押し寄せる ヘクターは大剣を構え直し 再び掲げると ヘクターに向かってに飛び込んできた水の塊へ 振り下ろして大量の水を抑えて唸る
「ぐぅうう!!!」
ヘクターは大剣を抑え続ける 大剣を中心に左右に張られた衝撃波の盾は迫り来る水を押さえ その威力は村とヘクター自身を守る 大自然の海を相手に その威力を抑え続けるヘクター なかなか終らない津波の勢いに押されそうになるが 目の前の大剣から見えるプログラムの数字の羅列を見つめ ヘクターは最後の力を振り絞ぼって叫ぶ
「うおおおおおお!!!」
【 ガルバディア国 】
一方、ソイッド村から遥か北ガルバディア国では 機械に埋め尽くされた一室の中心 精製水に満たされたベッドの中、無数の配線が取り付けられた人間の手が苦しそうに微動する 通常の何倍ものプログラム演算 全身の神経に埋め込まれているマイクロトランスミッターがその演算ミスによる負荷に耐えられずショートする 全身のあちこちで起きるショートで神経が焼き切られ 痙攣が起きる それでもプログラムを続けるプログラマー 彼がプログラム演算をやめれば ヘクターの剣から発せられているエネルギーが途絶えてしまう
【 ソイッド村 】
引き寄せた潮を全て放った津波は その大量の海水と共に海へと戻って行く 自分に圧し掛かっていた波の重さが消えると ヘクターはそのまま前へ倒れる 間一髪顔面を強打する事から逃れたヘクターは 片手を剣から離し ぎこちなく重心を移動させて仰向けになって言う
「お… 終っ… たぁ~… 」
ヘクターの視線の先 何事も無かったかの様に 相変わらず澄み切っている青空へ向け ヘクターはふぅ…と息を吐いて目を閉じる 一瞬の間を置き魔術師たちの歓喜の声が上がると 我先にと 押し寄せてきた魔術師たちの中 ミラがヘクターに声を掛ける
「ヘクター!すごい… あなた凄いわ!」
興奮するミラの横で他の魔術師たちが言う
「早く怪我の手当てを!」
「で、でも身体に傷はありませんよ!?」
「外観ではなく骨や神経を診るんだ!疲労している神経や筋肉に回復呪文を」
ヘクターが身動きできないでいると その身体へ魔術師たちが回復魔法を掛ける やわらかく暖かな光に照らされる様な感覚がヘクターの疲れ切った身体を癒して行く ヘクターは閉じていた目を開き 声を出す
「よう… ミラ…」
ミラが言う
「ヘクター…っ」
ミラは言葉を続けようとするが 嬉し泣きの涙に声を奪われてしまう ヘクターはそんなミラに微笑むと プログラマーへ向けて言う
「デス やったぜ…?…出来たじゃねーか?」
ヘクターが言いながら 視線だけでその姿を探すが プログラマーのホログラムは見当たらない ヘクターが言う
「…デス?どこだ…?デス!…痛っ」
ヘクターが返答の無いプログラマーを探して 無理やり身体を起こそうとするが 激痛に呻くと ミラが言う
「無理しないでヘクター!」
ミラが慌てて止める ヘクターはそれでも起き上がろうとすると プログラマーの声が返って来る
『ヘクタ… 無事… ったか…?』
プログラマーの弱々しいが、間違いのないその声に ヘクターは安心して笑んで言う
「おう 無事だぜ?…なんだよ いつも俺以上に 俺の事が分かるくせに… 分かんねぇのか?お前… 何処に居るんだ?見えねーぞ…?」
ヘクターが会話をしている間にも魔術師たちによる回復が行われ ヘクターの体から痛みが取り払われる 体の痛みが無くなり起き上がったヘクターはあたりを見回して プログラマーのホログラムを探す プログラマーの声と雑音だけが聞こえる
『ああ… …いにく 姿…を 映像… する…どの… …が無いんだ 今…は ただ… お前と 音声…にて会話を…るのが やっと… だな』
雑音交じりのデスの声に ヘクターは笑って言う
「はは、なんだよ これじゃ そこら辺の通信機より悪いぜ?」
『…そう だな…』
ヘクターとプログラマーが笑うと プログラマーの声が聞こえないミラと魔術師たちだが ヘクターの言葉だけを聞いて状況を理解して 皆がヘクターへが礼を述べる 遅れてやって来た長老も心からヘクターへ礼を述べる
「ヘクター殿 本当に… 本当に… なんと礼を言ったら良いものか…」
ヘクターはそれを受け取りながら嬉しそうに微笑んで言う
「俺だけじゃねーぜ?俺の世界一の相棒で、世界一のプログラマー デスのお陰だ!」
ヘクターが 姿を見せられないプログラマーの代わりに 沢山の礼を受け止めると プログラマーへ声を掛ける
「おい デス!皆がお前に感謝してるぜ?聞こえてるか?」
プログラマーからは返答が無い ヘクターが疑問して言う
「ん?おい、デス?」
プログラマーの声が聞こえる
『…ああ 聞こえ… いる…』
ヘクターがプログラマーの異常に気付いて言う
「デス?お前 …どうかしたのか?」
プログラマーが沈黙する ヘクターが言う
「デス?」
プログラマーの声が聞こえる
『ヘクター… どうやら …の世で 相棒の自慢話をするのは… 私の方… だった様だ…』
【 ガルバディア国 】
ガルバディア城の一角では プログラマーのプログラム実行により発生した度重なるショートと オーバーヒートしたコンピュータが発火炎上し 周囲の機械を巻き込んで爆発を起こした跡が残っている
【 ソイッド村 】
ヘクターが叫ぶ
「デス!?どう言う事だ?ちゃんと説明しろよ!!」
ヘクターの慌て様に デスの声が聞こえないミラが驚く そこへ崖上から移動魔法で降りて来た仲間たちが掛け付けるとラーニャが言う
「ヘクター!?…何?どうしたの?デスが?どうかしたの?」
ヘクターの尋常ではない様子に ラーニャは隣に居るミラへ視線を送るが ミラは事情が把握出来ていない為 顔を横に振る ヘクターが焦りながら言う
「デスが… あいつ、どうかしちまったらしい! デス!おいデス!!」
ヘクターが慌てていると プログラマーの声がする
『そんなに 大きな声を出すな… 音量 調整も …出来ない』
ヘクターが言う
「だから!?…なんで お前がそんなに 食らってんだよ?」
プログラマーの声がする
『…120% の… 代償… か』
ヘクターが言う
「はぁ!?」
プログラマーの声がする
『いや…違う… これが… 私の 100% だ… 今まで キープして いた 20% は… こう 言う…』
音声の途切れが悪化していく ヘクターが真剣に言う
「デス?なんだよ?すげーやべぇのか!?」
【 ガルバディア国 】
プログラマーが意識の薄れ行く中 初めてその目を開く ぼやける視界に見える 強い白い光がまぶしくも暖かい プログラマーが言う
『ヘクター… 私は 初めて 太陽を見た… いつも お前達が見ている物… お前にも 今 同じ物が 見えている の だろうな…』
プログラマーの意識に ヘクターの声が聞こえた気がする
『デス!!』
プログラマーが その体を動かそうとするが動かない プログラマーの唇が僅かに動くが 声は出ない
「…」
【 ソイッド村 】
ヘクターがレーミヤの肩を掴んで叫ぶ
「レーミヤ!今すぐ俺をガルバディアへ飛ばしてくれ!!」
レーミヤが焦って言う
「ま、まって、そんな 急にっ」
ヘクターが叫ぶ
「頼む!ダメなら 近くの国まででも良い!」
ヘクターがレーミヤの肩を強く揺する レーミヤはヘクターの腕に手を置いて言う
「落ち着いてヘクター 前にデスに聞いた位置情報が正しければ ガルバディア城へ直接行けるから」
ヘクターが叫ぶ
「なら 急いでくれっ!」
レーミヤが言う
「待って、みんなの息を合わせないとっ」
ヘクターが声を荒げて言う
「俺だけで良い!頼む急いでくれ!あいつが!デスがっ 死んじまうよ!!」