メルトスモーク、
機会があって書きました。よければどうぞ
加湿器が活躍しだす、10月下旬。コタツにするのも面倒で布団が1番の功労者で、ヒーターは遅れたやってくる。寒さとかいう怪獣が暴れ回ったその後に、だ。役立たずとそう言いたい。
日中はそこそこ暖かいが、1日暖かいピークであるも昼がもうそろ終わる。そんでもって俺らは昼食をとっていない。激混み間違いなしの昼ど真ん中に行くのは気が進まないってのが俺らの定番。行ったは良いが30分待ちとか言われたら、30分前の自分をビンタしてやりたくなる。
まぁそれでも混んでて待たされることなんてしばしばあるけど、今はその話はいいか。
なんにせよ、お腹は空いた。
「んー、さて。久々に裏道のイタリアンでも行きますかぁ...ヒビキさん?」
「イタリアン?あー、でもあそこ美味くないじゃん」
背伸びを1つ、間の抜けた声で言葉を投げる。読んでいた本に栞をとじて声を返すその人は、随分と辛口評価のようだった。
「否定はしねぇけど、お前気に入ってるだろ?雰囲気とか内装とか。それでディスるなよ可哀想だろ」
「.....バレてるし」
「バレるもなにも、俺がお前のことわからんかったことあるかよ。....あるな」
「自己解決しないでよ、ほんっとに大袈裟に物言う所かわってないよね。久しぶりに会ったっていうのに、もうー」
いつものノリ、いつものツッコミ。これをオートでやりのけてくれるのは、さすが幼馴染と言ったところか。居心地を作るその手際には頭があがらんね。
デコに手を当て敬礼のような仕草でもうー、に続けたため息が聞こえる。そこまで露骨にやるなよ。傷つくだろ。ちょびっとだけ。
「んで?どーすんだ?」
「イタリアンもいいけど、今日はカフェ行きたいんだ。バレンシアで新メニュー出たらしいし」
「まー俺は何でもいいけどよ。よし、んじゃ....行くかぁ。」
軽口叩いて気だるそうに、その気だるい相手を転がすように。
俺たちはそうやって今日を過ごす。
まるで、なにか深くに踏み込まないように
まぁ結論から言えば、俺達はどの道、お互いがどう転んでも傍にいる。
これは’’それだけ’’の物語だ
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街は足音と会話の喧騒に満ちている。その中で私達は小さなコツコツという音を共有し、目的地を目指して歩いていく。
徒歩で向かっていてなんだが、街を歩くのは苦手だ。
できることなら部屋からでたくないのもそうだけど、有無を言わさずファッションをチェックされてる感覚がどうにも好きになれない。
とはいえ、それをうだうだ言うほど子供でもないし、他人の目を気にしてたら毎日がやっていけない。そんな考えを巡らせる。
何を話す訳でもなく、携帯に時間をとられながら歩いていると、目の前の記事が目に留まった。どうせ2人で歩いているのだ、話を振ってあげるのが大人だろう。そう理由をつけ画面を彼に見せた
「この芸能人、結婚するんだって」
「へぇ、芸能とか全然わかんねぇけど、若そうだな。」
「若いよ?私たちと同じくらいか、ちょっと下」
「なるほどねぇ...ヒビキさんも焦る時期ってのを暗に言いたいわけね。」
「私、焦ってないから。大丈夫、ちゃんと王子様現れるし。」
「そりゃメルヘンなお話だこと。」
口を開けば嫌味が1つ。こいつの言葉を翻訳するのは本当に面倒くさい。でも別に悪い気がする訳じゃない。イラつくけど。悪い気してたわ、なんかごめん。なんで私が謝ってんだむかつくなぁ。
勝手に考えて自己完結するのはいい癖なのか悪い癖なのか、すごーく判断に困る。
けれど、悲しいかな、何を考えて飲み込んだところで彼の前ではお見通しなのが腹立たしい。
ダメだコイツ。処す?
「あー、そういや、さ」
殺気だった所で思考に言葉が割り込んでくる。
「んー?」
「....仕事、どうすんだ?ほら前に言ってた辞めるかどうかの話。まぁ俺は良いと思うけど」
でたでたその話し方。先に結論から入るのどうなの?有無を言わせない感じが、反論の自由など与えません!とまで聞こえてきそうだよ。抗議する自由を訴えたいね、ほんとに。
「ははは、今辞めたら私何するの?冗談に決まってるじゃん。って前にも言ったのにホント人の話聞かない」
「なんだよ、あの時の驚きと俺の考えた時間返せ馬鹿」
「あの時は....きっとそういう気分だったの。そういうことだよ。多分」
「そうかよ。.......」
「図星ならもうちょい隠せって言わないの?」
「なんだそれ、.....分かってんなら言うなよ」
「はは、ごめんね。アオの特技真似したの」
考えてくれたんだ、と。それが心に残った。
それが虚を突かれた唐突な話で、私の地雷を撫でるみたいな話でも、嬉しかった。
多くは語らず俺ならなんて言うかわかるだろ?俺に口出されても嫌だろ?って。その態度が仕草が口ほどに物語る。
考えてくれる。わかってくれる。話を聞いてくれる
今はそれで満足なんだ。
と、そう私が思い至るより前にカフェに着いたのは、
今思えば良かったのかもしれない。
この時の私は、知るはずもないけれど、ね
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休日ということもあり、『珈琲 cafe バレンシア』は混んでいた。常連は席に座ったと同時に注文は済ませられる。楽でいいわぁ...欲しいものは追加すればそれでいいし。
俺達はいつもの定位置であるテラスの1番奥の席に座る。この時期は少し寒いけれど、コーヒーは暖かいし、なにより誰かに話を聞かれているような心配もない。それが俺達のベストプレイス、穴場カフェの特等テラス席なのだ。
さて基本的に居心地のいいこのカフェだが長いこと通っていれば口出ししたいことがひとつぐらい生まれる。
毎度毎度思うことだが、店名になんで漢字、英語、カタカタをフル活用したのか。ひながなも混ぜてやれよ。仲間はずれは良くないぞ。
「なんでひらがなも混ぜてあげなかったんだろうね。」
「怖いぐらい考えること一緒なのなんなん?」
「絶対わたしのせいじゃないでしょ、それ」
と、そこに注文したものが運ばれてくる。オリジナルブレンドのコーヒーとガトーショコラ。同じコーヒーとオレンジパイ。
珍しいことなのか、背伸びでもしたかったのかコーヒーを頼んだヒビキ。雪でも降るのか?
「砂糖は3つ、だったか?」
「そ、わかってるね。」
「そりゃ当然」
「そのドヤ顔相変わらずむかつくなぁ」
「何年付き合ってると思ってんだ。お前もそうだろ」
「そうかなぁ...」
いいつつ、こいつは誤魔化す時は少しばかり目をそらす。腹の中ではどれだけ言葉飲み込んで笑ってたと思ってんだばーか、とか思ってんだろうな。
......そりゃ、とんでもない偏見か
「じゃあほら試してみりゃいい。アオクイズ。」
「アオクイズ?アオの好きな物答えたらいいの?」
そ、と返事を返し質問をしていく。
「コーヒーは?」
「ブラック」
「甘いものは?」
「苦手だけど、苦味優先甘みあとからならよし」
「髪の長さの好みは?」
「ロングかミドル。ショートはなんとも言えない。ポニーテール、ハーフアップなら最高」
「ほれみたことか」
「いやいや、これは普通だってば」
10年以上の幼馴染が持つポテンシャルを遺憾無く発揮したところで、コーヒーを1口。つられてヒビキも。
「ま、これだけ長い付き合いならだいたいわかるもんだ。お互いに、な」
俺がヒビキに分かったような口を聞くのは信頼の上に俺たちが成り立ってることを知ってるからだ。
当然、赤の他人とはこんな話出来るはずもない、する気もねぇけど。
だから、言っちまえば俺はこの関係性が好きなんだと思うし、そのせいもあって、こいつの傍にいる事が多いのかもしれない。
「えー、なら私が考えてること当ててみてよ」
「子供かお前は。霊感あるの?私についてる?って言ってんのと同じだぞそれ」
なんだかなぁ、とため息がもれる。それに呼応するように腹を立てたヒビキかややそっぽを向いた。
「いいでしょ?私、単細胞だし」
「へいへい、....あーそうだなぁ」
何考えてるか、あててみて、と言われましても。
先に言うけどそれが本音
頭にヒビキをイメージして何考えてるのかを予測とかたててみるけど、こういうのはなんとなく出てくるものだと俺は思ってる。なんなら、わかってるだろ?ってのは常套句もいいとこだ。
俺が毎回考えて喋ってると思うなよ、と
大きな声で言いたいまである。
ま、いい暇つぶしにはなるけどな。
「んー、例えばそうだなぁ.....。..ミルクを入れたい、苦すぎ。アオなんでこんなの飲んでんの?おかしいよ?とか」
「いい線言っててあってるけど、アオの中の私どうなってんの?」
「毎日楽しい!」
「間違ってないけど、アバウトだなぁ....それは絶対ずるいと思う?」
ケチを付けるのはどうなんだ?それは?
確かにテキトーだけどさ。
抗議したい気持ちを抑え次を考えていく。
「あー、たの....いやいいや、えーっと」
「なに口ごもって?言ったら?」
俺がわざわざ飲み込んだってのに、この残念方向音痴少女は言葉の隙を見逃さなかった。
それはなんとなく危ないと感じた言葉でもあった。今する話じゃないな、とそう感じた話でもあった。
だからこそ避けた。
でも、
言い訳を携えて俺は口を開いた。
「楽しい....けれど楽しくない。辛いとは違う、なんだろうな。俺に対して漠然とした不安を持ってる」
「.......っ」
でも、
でも、いつか話す話なんだ。話す機会があるなら蟠りも隠し事もない方がずっといい。
そう思って口を開いて言葉を出した。
「......あはは」
返ってきたのは、乾いた声とバツの悪そうな笑顔。
ヒビキは核を突かれた事で、焦っているようにも見えた。
なにより、俺は一連のしぐさを見逃してやらない。
くだらない話にただ笑ったり、都合の悪い話を笑って流したり。どことなく会話から逸れるように笑う。そのしぐさ、ヒビキの癖だ。
そしてそれがヒビキの癖なのは、きっと俺だけが知っている。
だから
口にだしてその返事を聞いて、俺は後悔をしてしまう。そして何度か繰り返したことがある光景故に、学んでねぇな、と自分に失望してしまうのだ。
俺は沈黙を破るように煙草に火をつける。
そしてこれが俺の悪い癖だってことを
俺は知らないんだ。
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失敗したなぁ....と思った時にはもう遅くて、無意識に声が漏れた。
【楽しい....けれど楽しくない。辛いとは違う、なんだろうな。俺に対して漠然とした不安を持ってる】
図星も図星、怖いぐらいだ。キャッチャーミットのど真ん中に500kmのストレートを投げられた気分。
そして、動揺が収まらないうちに言葉を返してしまう。
「どうして.....そう思うの?」
「........フー...」
アオは煙を吐くだけで、なにも言わなかった。
だから、続ける
「私が...苦しいってこと、なんでわかるの....?」
「いや....、わかってる訳じゃねぇよ。ヒビキが言ったんだろ?当ててみて?ってよ。俺の言葉を予想であって確信じゃない。そうだろ?」
逃げるように言葉を吐くアオ。そしてそれは、正しい、間違ってない、正論だ。
アオは続ける。逃げる為のその言葉を。
でもね、アオ。ニガサナイヨ?
『「たかだかこんなゲームでなにシリアスな顔してんだよ?」』
私は1字1句違えずアオの言葉をコピーできた。
幼馴染のポテンシャルはアオが言っていたように本当にすごいらしい。
私にはわかるのだ。アオのその雰囲気、その態度。なにより、その『悪い癖』
アオのそれは多分『嘘』だ。
「.......、なんだよ。分かってんのかよ。」
アオは少し驚いたような顔をしていた。
けれど、すぐに目を落とす。
だから私もほんの少し覚悟を決め、話し出す。
「あーあ、なんで分かっちゃうかなぁ。」
私はほんの少し目を閉じコーヒーを煽り、上を向いて口にした。そして、その言葉には少しばかり後悔が混ざっていた。
....本当の私を語るなら、の話をすれば、私は今に満足している。
今が楽しい、今がずっと続けばいい。
くだらない話をして、たまに家に遊びに行って、たまに2人で飲み明かして、語り明かして。
そうして『幼馴染』がつづけばいいと思っている。
私が本当に求めているのもはそれだった。
そして、それを失うことが。それを失うかもしれないという不安が恐怖があったのだ。
......でも、
でも、
.......でも!
話さなきゃ、始まらない。進まない。終わらない。
そして言葉をつむぎ出す。
「.....私さ、」
後悔も不安も迷いも捨てて、話し出した。
「結婚を前提に付き合って欲しいって、そう言われたの」
失うことより、そんな不安より
私はアオを信じることの方がずっと大事だとそう思ったから。
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率直に言えば、意外だった。
話題を変えて無理やりにでも盛り上げるのかと、そう思っていたからだ。
これまでと同じじゃない。これまでと違う。そういうものが続けられていた。
今まで答えを出さずに逃げ続けてきたツケが回ってきたようだった。
お互いに決まった人を作らず、友達なんて小さな関係じゃなく、親友と言われてもむず痒い。
それが俺たち、『幼馴染』のあり方なんだと、
そう思っていた。
だから今気づいた。
隠し事も悩みも何が不安だったのかも、
全てが『今』腑に落ちた。
「....結婚、か。だからこそのあの話題だったんだな。」
「うん、そう」
「不安の材料は、俺とのあり方。これまでと同じが崩れていく恐怖。分かっていても、それでも踏み込めなかった、信じきれなかった。そんな所か」
「.....うん」
おそらくは、かなり長い時間貯めていたものなんだろう。とそう気づく。
俺の家に入り浸り、ハイペースでの飯や飲み。
彼女では無いが、俺は彼女の姿。彼氏では無い、彼の姿。そんなふうにどこかそれとは似た者を、お互いに感じて言わずにいた。
これが俺達の『幼馴染』だと、信じてやまなかったんだ。
気づきたくなかった。気づくのが怖かった。
それはきっとヒビキだけが抱えていたものじゃない。
俺もまた、ヒビキと同じだったんだ。
そして俺はこう告げる
「あ〜あ、こんなところまで同じこと考えなくていいんだけどなぁ〜」
「.....え?」
俺はいつもの調子で、気だるそうに、かったるそうにダラダラと告げた。
そうして煙草の残り火を灰皿に押し付ける。
「同じだよ、俺たちは同じなんだ。」
「......同じこと考えてた、って言うんだね」
「あぁ、そうだ。俺たちはお互いに踏み込めない場所なんか無いって口にしながら、踏み込まずに放置していた。そのツケを今精算しようって話だろ?」
ヒビキは少し目を見開き、俺の言葉に驚き、飲み込めない様子でいた。そうして俺に問いかける。
「.....なんで?」
「.......?」
「なんで、そんな簡単に言うの....」
小さくヒビキは呟いた。ほんの少し、震えながら
貯めていたものを吐き出すようにして
「もう終わっちゃうかもしれないんだよ!」
ヒビキは声を荒らげた。
「私が彼氏を作って付き合って!結婚して!そしたら私たちはただの幼馴染には戻れないんだよ!?同じ場所で大学生やって、誕生日祝いあって!いっぱい語り合って!こんなに長い時間過ごして!なんで.....!!」
激昂とは違う、熱のこもった強い言葉だった。
怒りなのか、期待はずれなのか、失望なのか、羨望なのか。それともひとつの独占欲なのか。
「ヒビキ...?」
「言えばいいじゃん!付き合おうか?ってさ!好きかどうかなんてどうでもいい!私だって恋愛感情なんかとっくの昔に無くしたよ!でも!アオがそう言ってくれたら私は1番嬉しい妥協して!やっぱり私にはこの関係が1番似合うって!そう思えたのに!」
「........」
「どうして....、どうして.....。欲しいって思ってくれなかったの...。自分だけの幼馴染で、誰か他の人の横に立ってることなんか似合わないって。なんで思ってくれなかったの....」
「なんで.....幼馴染なの.....?違う形で会えたならもっと違う未来もあったのになんで!、なんで幼馴染を越えようと思ってくれなかったの....?」
我儘と妥協、長く続けすぎた『幼馴染』
それらが彼女を苦しめていた。そう思う。
20年近く幼馴染を続けた、その代償と言ってもいいかもしれない。
しかし
当然、これはヒビキの我儘だ。
言わなきゃ分からない、言葉にしなきゃ伝わらない。そんな風に言うことだって俺にはできる。
でもそれは今日を除けば、と条件がついてしまうのだ。
(「一緒にいるからわかる」)
(「長い付き合いだからわかる」)
(「お前のことならなんでもわかる」)
そんな特大のブーメランを今更になって回収することになるのだ。
けれど、と自分の言葉を返す。
俺はそれを悔やんだりしない。
俺は、と答えを出す
『彼女』を選べなかったことじゃない。
『幼馴染』を選んだ事じゃない。
もうひとつの選択肢
だから
「.....思うわけねぇだろ。馬鹿野郎」
まるで開き直るように、俺は受け止めた言葉へ返事をする。
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意味がわからなかった。
これだけ大きな声で思いを伝え、半ば告白まがいなことを口走らせておいて、
こんなに長く一緒にいて、独占したいって気持ちなんて1ミリも無いと、そう宣言してきたのだ。
「.....なっ.......なにを、いって....」
「俺はヒビキを選ぶつもりは毛頭ない。彼女になんかしてやれねぇしする気もねぇし、勝手に結婚すりゃ良いと思ってる!」
「だから!.....だからそれが!わかんないって言ってるの!」
「俺はウジウジしてたからヒビキに結論を言わなかったわけじゃない。俺はヒビキに言う気が無かったし、なんなら伝わってるとまで思ってたさ!」
「何が!!!」
「俺達は幼馴染だってことだろうが!!」
意味がわからない。
何度も何度も何度も、繰り返し言葉にし、繰り返し伝え、繰り返し結論付けた。
そのたった6文字の言葉。
それがアオの答えだったと、そういってきた。
特別な関係じゃなくただ育っただけ、それを持ち出してきたのだ。
「俺は彼女にすることを選ばなかったんじゃない、関係が壊れるのが怖くて選べなかったんじゃない。ハナから選ぶ気なんて無かったさ!だってそうだろ!?彼氏彼女って、関係性だけが特別じゃないんだから!」
「......なにを.....言って.....」
戸惑いの色を隠せない私に、続ける。
「まだ分かんねぇのかよ!だから!俺はっ....」
『俺達は幼馴染で!それこそが俺にしかない唯一の特別だってそう言ってんだよ!!』
そうか、私の中で何かが腑に落ちた。
そうだったんだ。
じゃあ私が思い違いをしていた?って、そういうこと.....?
未だ全てを飲み込めない私にアオは続ける。
「彼氏なんかに興味なんてない。そんな椅子他のやつにくれてやればいい。親友なんのも興味ねぇ。そんなもの勝手にお前が選べばいい。けどな」
「俺はお前の幼馴染だ。今更新しく選べない、新しく作れない。新しく築けない。それがガキの頃からずっと近くで育ってきた幼馴染って存在なんだよ。」
「特別じゃないだぁ?何言ってんだアホかお前は。特別だろうが。今から、いくらでも作れる椅子にじゃないんだから。大人になった俺達にとって1番プレミアの付いた特別。それが幼馴染なんじゃねぇのかよ!」
全部、
アオの言った全部が私の概念を塗り替えていくのがわかった。
固くなって凍っていた私の心が氷塊する。
溜め込んでいた悩み、迷い。それら全てに答えを得て結論から言い出す。
こんなにもそばにいて近くにいて違っていたのは一つだけだったという事実が今やっと理解出来た。
「......なに.....それ.....っ」
間の抜けた声が私から漏れた。同時に我慢していたものが溢れてくる。なにせとんでもないふざけた話が返ってきたのだ。
「はは......うっ......あはは.....ひぐっ....あはははは.......ひうっ......ずる.....いじゃん.....!」
泣きたいのか笑いたいのかもうどっちかもわからない。貯めてた感情が抜けて落ちて納得して理解して。そうしてでた言葉が「ずるい」だった。
「そっか......あははは...もう、笑うしかないじゃん....っ!ずるいしうざいし、意味わかんないし、考え方違うし、何がわかるだ。嘘ばっかり。」
幼馴染の認識違い。それが私たちの間にあった間違いだった。
当然のことだったのだ。お互いなんでもわかると感じていたのがアオだけだったことも、私にはそれがしっくり来なかったことも。
彼氏彼女なんて興味無いと、親友なんかに興味ないと言ったことも、全部全部、当然だったのだ。
今更、なにを言ってんだと。罵倒されバカにされ罵られたそれも全部全部。当然だったんだ。
あーあ、なんて清々しい程くだらない話なんだろうか。
そう自分に結論つけたところでアオの声が入ってくるアオは繰り返す
「なぁヒビキ、まだ分かんねぇか?」
アオは自分の幼馴染を確認するように問いかける。
「...ううん。もう分かったよ、全部わかった。」
「なら俺の言いたいことも分かるだろ?」
そして、また私は試される。ホンモノであるのどうか。でももう大丈夫だ。
この予想も全部自信を持って言いきれる
『「俺の幼馴染って特等席を奪うな」...でしょ?』
「そうだよ。なんだ、やっぱりわかってるじゃねぇか」
「.....ふふ....当たり前でしょ..?だって私は」
今、ここで私はなれたんだ。
20年以上の時間をかけて、お互いに何一つ相違なく なれたんだ。
そして
私は、座る。
アオのプレミアのついた、ネームタグのついた、他の誰のものでもない私しか座れないイスに座れたんだ。
だって私は.....
『--アオの幼馴染なんだから--』
______________________
【エピローグ】
あれから数年......
「なぁ、ここまで来て言うのもなんなんだけどさ。」
「なに?怖気付いた」
俺達はウェディグの教会の入口。その気のドアを目の前にいる。
横には白いドレスに身を包んだ幼馴染。顔はベールで見えないけど、恐らく半目でこっちを睨んでる。
こんな一大イベントぐらい、お世辞でもかわいとか綺麗だね。ぐらい言わせて欲しいもんだ。
恐らくこのポジションはお父さんとか、せめておじいちゃんがやる役割だ。
確かに何年か前に俺は特別だって、言ったけどさ。
そうだけどさ。
「正直バージンロードは荷が重いんじゃないですかねぇ?」
「だって友人代表には選べないもの。」
「わざわざそんなとこまでかしこまらなくていいっつーのに。」
「言ってないで、ほら。扉空くよ?」
「へいへい。それじゃあ友人代表より先に幼馴染限定の乾杯音頭を取らせてもらおうか?」
「ははは、なにそれ。ドリンクも持ってないのに」
「いいだろ別に?言いたいことは...」
「ううん。言わなくてもわかる。」
ギィ.....と重たい音を立てて俺達2人の視界は真っ白に染まる。
さて、と。行こうか。俺達のエンディングって奴だ。
『2人の映画に』
「2人の映画に」
『「乾杯」』
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!