僕と結婚してくだい! 美咲の独り言 テストされたほうの話
《プロローグ》
私には幼稚園から一緒に過ごす蘭という幼馴染の同級生の女の子がいた。
彼女には2つ上の兄がおり、三人で遊ぶのが通例になっていた。
その関係は小、中、高、大学、社会人と続く。
高校と大学の時、彼氏が出来たことはあった。
彼らは心の繋がりではなく、体の繋がりを求めて来たため、
一ヶ月もたずに別れている。
社会人になり、声をかけてくれる人はいたが、
過去の出来事から前には進めなかった。
気づけば結婚適齢期ギリギリまで年を重ねていた。
《居酒屋》
その日は親友の欄に呼び出され居酒屋でお酒を飲んでいた。
彼女には彼氏がおり酒の席では必ずのろけ話を聞かされていた。
「ねえ、美咲、彼氏作らないの?」
彼女は痛いところをついてきた。
「彼氏か。男の人ちょっと怖い。」
「怖がっていたら、なーんも出来ないよ。とりあえず、安全な奴呼ぶよ。」
「誰?」
「アニキ。」
蘭の兄、大和は私のことを素で見てくれる、もっとも信頼の出来る人だ。
過去に付き合った男達とは比べられないほど、心の繋がりがあると思っている。
思えば、彼からのプロポーズを待っているのかも知れない。
しばらくして彼が居酒屋に到着する。
彼を弄ると彼はとんでもない構想を発表した。
『三本の矢』作戦。失敗するといいなと思った。
《マンション》
飲み会後、そのまま大和のマンションの部屋で3人ごろ寝をした。
子供の頃からたまにお泊りをしているが私は毎回ドキドキしている。
蘭抜きの二人っきりのお泊りもあった。
彼は多少文句は言うが私のことを受け入れてくれた。
彼に一度起こされたが、2度寝を決め込んだ。昨日の飲みすぎた。
昼頃に蘭と共に起きる。
「蘭、何か食べる?」
「食べる~。何出来そう?」
彼の冷蔵庫を勝手に開ける。
「チャーハンが出来るかな。」
「おーチャーハン最高。」
「すぐ作るから、部屋のかたづけ宜しく。」
「了解。」
食卓に2人分のチャーハンが並ぶ。
「いただきます。」
「めしあがれ。」
二人で酔い覚ましのチャーハンを食べる。
「いやーしかし、美咲って昔から料理上手いよね。」
「そんなことないよ。」
「この、料理の腕があれば男なんてイチコロじゃない?」
「残念。揮う相手がいません。」
正直、基準が解らない。私の料理食べているのって、親と幼馴染二人だけだ。
蘭が話題を変えてくる。
「しかし、まさかの結婚相談所に料理教室か。何考えてるんだろ。あほアニキ。」
「真剣に出会いを求めているんじゃない?私も見習わないと。」
嘘をはいた。そんなことこれっぽちも思ってない。
「美咲でいいじゃん。ねえ。」
「え。」
蘭の言葉に戸惑った。言葉がでない。私もそう思うなんて言えない。
彼女は面白そうにニコニコしている。すべて御見通しという顔だ。
「吉報を待ちますか。」
「ええ。」
食器をかたづけ、軽く掃除をし彼の部屋をでた。
《卵かけご飯》
彼がTwitterを始めるとは聞いていたが、地味な写真を載せているなぁと思った。
こんな文章では女性との出会いなどないであろうと一安心する。
それと同時に私にとってはきっかけになると思った。
彼の部屋のチャイムを押す。慣れた行為ではあるが、今回は新鮮な感じがした。
簡素ではあったが、彼の手料理が食べれて嬉しかった。
土曜日のあの日、車に轢かれているのは蘭から聞いている。
私自身も憔悴してしまった。
そこで体調面等いろいろ気になる彼に現状を聞くことにした。
「どう、轢かれたあとの体調は?」
「特に問題ないな。心配かけてすまん。」
本当に安心した。いつもの大和だ。
「なら、いいけど。そうそう。『三本の矢』計画は順調?」
彼は『三本の矢』の意味合い間違っている。
今回のは『下手な鉄砲も数打てば当たる。』のほうだ。
どういう状況かとても気になる。
「上手くいかないな。ちっとも出会えてない。結婚相談所は順調だけど。」
「良かったね。」
いえ、良くないです。出来れば私を見て欲しい。
《餃子》
次の週のTwitter。
私は大和の料理が楽しみになっていた。
それと同時に彼の計画の推移も気になった。
私自身にも蘭からの依頼。
大和のフォローだ。彼が他の女性とくっつく手伝いは嫌なんだけど。
前回と同様に彼の部屋のチャイムを押す。
あきれ顔の彼。でも優しい顔。この姿がたまらなく好きだ。
会話もはずむ。
彼は2週間で結婚相談所の女性と週末デートを確定させていた。
他では社交ダンス、料理教室とも順調な交際が進んでいるようだ。
4人の女性の連絡先手に入れるなんて、口べた男のはずなのになぜ?
私は内心焦りまくった。
見てろよ。今度の日曜日ギャフンと言わせてやる。
《ギャフンは私でした》
日曜の朝、蘭、直伝の化粧を施す。髪型を変え最後に眼鏡をはずしコンタクトへ。
デートモードの美咲様だ。大和も見たことないでしょ。私も初めて見た。
彼をデートへ誘いだす。
昨日の結婚相談所の女性とのデートは不発に終わったらしい。
あまりのダメさ加減に安心する。
でも一人がダメだっただけだ。
これから経験を積めば結婚相手が見つかってしまうかもしれない。
私はどうすれば彼に振り向いてもらえる?
そこに蘭からのLINE。驚く。でもこれは、私へのエールかも知れない。
「行こう。」
「大和、私も興味ある。ホテルにも、そのHにも。」
いつもの私なら絶対に言わないセリフ。焦っていたと思う。
ホテルに入り後悔した。
違う。違う。これは、私の求めているものではないと気づいた。
彼に抱かれた。
一度ぐらいなら経験だったと割りきろう。そう思った。
だが行為は明け方まで終わらなかった。
彼と私は心が繋がっていると信じていた。
真剣に頼めば言うことは聞いてくれると思っていた。
彼は体を求めた。私の拒否を彼は聞いてくれなかった。
何もかショックだった。心に亀裂が入った。
《小籠包》
もう、恐怖でしかなかった。彼に会わないように過ごす。
好きだとか、付き合ってとか、言われていない。
お手伝いなのに何回も抱かれてしまった。
彼の『三本の矢』計画は遂行中。
私の部屋のチャイムがなる。彼だ。
あの日、たまたまあの流れになっただけかも知れない。
彼をもう一度だけ信頼しよう。いつも通りに。
力を貸して。黄色くま。
そして、再び抱かれてしまった。
残念ながら、私はセレフ程度らしい。心の亀裂はもう戻らない。
私は彼から逃げることにした。
《蘭》
彼が料理教室へ出かけるのを見計らい、マンションを出る計画だ。
料理教室の時間は把握している。
実家へ行く準備が終了したとき、親友の彼女が現れた。
「よ!美咲。どう?順調?」
「ら~ん~」
泣きながら彼女へ抱き付いた。
「何があったの?」
考えがまとまらない。彼女の腕の中でわんわん泣いた。
ある程度泣き、スッキリしたとこで彼女に向き合う。
私は蘭の代わりに黄色くまを抱く。
蘭も緊張しているように見えた。
「で、何があった?」
「何もないよ。」
「嘘だよね。私が悪い?あんなLINE送ったから?エッチ出来なかった?」
首を振り否定する。
「ゴメン。多分、私の問題。大和は男性だったよ。男の人が怖いんだよ。」
蘭はそれ以上何も追及してこなかった。
彼女がしぶしぶ帰ったあと、私はマンションを後にした。
《空白》
実家へ帰ってきた。何も考えられられず家でボーと過ごした。
父は喜んでいたが母は複雑そうだった。
大和から何度もLINEが入って来た。私は彼のコメントは見ることが出来なかった。
蘭のLINEには返事をした。私の大親友だ。無下には出来ない。
少しずつ。少しずつ。ではあるが、あの出来事について冷静に考える余裕が出来てきた。
私の思いも少しだけ蘇る。
《来訪》
買い物帰りに大和に声をかけられた。予想外の出来事だった。
彼との距離を取ろうとしたが腕を捕まれ、逃げることが出来なかった。
覚悟を決めた。
ただの幼馴染に戻ろう。そうすれば何もかも丸く収まる。
今回はマンションへ戻るが、いずれ引き払おう。
「婚活中なんだから私を見てはダメ。彼女に嫌われるよ。」
「ダメだよ。あくまで私はアドバイザーの幼馴染。」
大和はこの言葉で納得したらしい。
彼を残し公園を立ち去る。
これで、いいはずなのに涙が溢れて来た。
《女子高生》
あの時よりマンションへは戻って来た。色々あったせいか、風邪気味で体調が悪い。
そんな中、恐れていた事態が発生する。
女子高生が大和の部屋の前で食材を持ち、彼の部屋の前で立っていた。
あのほど言ったのに。女子高生は犯罪。
見かねて私は彼女に声をかけた。
「こんにちは、私はこの部屋の住人の知人ですけど、どうしましたか?」
「え?あ! 美咲さん?ですか?」
「あ、はい。美咲ですけど。」
何故か彼女は私の名前を知っていた。
「初めまして!私、足立朱里と言います。大和さんとはTwitterで知り合いました。」
ますます、犯罪者志向だ。
「雨の中は寒いでしょ。私の家で少し休んで。遠慮はいらないよ。」
「ありがとうございます。お世話になります。」
彼女は私の提案を素直に受け入れてくれた。朱里を私の部屋へ通す。
私の部屋が大和の部屋の隣ということで少々面食らったようだ。
私はすぐに大和へ連絡した。返信は速かった。
体が冷えただろうから暖かい飲み物を用意する。
朱里はコーヒーが飲めるようなのでコーヒーを出すことにした。
コーヒーを作っている途中、私は気分が悪くなった。
吐き気が止まらなかったため、朱里に後を頼んでしまった。
吐き気が収まり落ち着いたところに大和がやって来た。
結局、彼女との会話は皆無だった。
《予想外》
朱里に誘われ、一緒に大和の部屋へ行くこととなった。
あれ以来の彼の部屋だ。黄色くま。今回こそ守って。
朱里は私と大和の関係を恋人関係と思い込んでいるようだ。
そして、彼への謝罪とお礼のため手料理をごちそうしてくれるそうだ。
初々しくとても可愛い彼女。
しかし、私は彼女の手料理を食べることなく部屋に戻った。
ダメだー吐き気がする。ご飯を食べようとすると吐きたくなる。
なんだろ?これ?ネットで病名を検索してみる。
胃腸炎:悪いもの食べた?
ストレス:これがあってるかな。
妊娠:ま、待って。生理いつも順調で今回5日遅れぐらい。気にはなっているけど。
ちゃ、ちゃんと避妊したはず。そんなことはありえない。
でも1番の不安は取り除こう。
薬局へ行き、風邪薬。スポーツドリンク。ゼリー。プリン。妊娠検査薬を購入。
家に帰り、早速試してみた。
陽性
嘘でしょ!
力なく、その場に座り込んでしまった。
《病院》
わたしの中に赤ちゃんがいるの?父親は大和。イヤ、そんなことはない。
検査薬が間違っているんだ。そう言い聞かせ産婦人科に来た。
「妊娠してるね。ご結婚は?」
お医者様の言葉に重みを感じた。
「いえ。まだ。」
「早めに彼に席を入れてもらったほうがこれから楽ですよ。」
「はい。」
生返事。自分の身に起こったことなのに実感がない。何これ夢ですか?
「望まなないのなら処置もできます。」
「そんなことしません!」
先生の言葉を全力拒否!私の赤ちゃん。そんなこと出来ない。
「妊娠おめでとう。これから頑張りましょう。」
「はい。」
赤ちゃんは産もう。それだけは思った。
病院をあとにした。家に帰るつもりが公園のブランコに座っていた。
何も考えずボーとする。こんなの誰にも相談出来ない。
大和に話して責任を取ってもらう?そんなのイヤ。
私が一番嫌いな拘束の仕方だ。
シングルマザーがいいかな。この子はそれで幸せ?
「おう、病院どうだった。」
今、一番会いたくない人に声をかけられた。
大和は真剣な眼差しで私のことを見ていた。
その目に私は真実を答えられない。
逃げるように家に帰る。彼も普通について来た。
帰路でも彼の質問攻めは続いた。
危うく全てを打ち明けそうになるが留まった。
彼の為ではない。私のケジメのためだ。
部屋の前まで来ると彼に部屋に来るように誘われた。行こう。
部屋に入り、後ろから彼の背中に抱き着いた。
バイバイ。大和。
《蘭来訪》
親友が家にやってきた。
「はーい。美咲。遊びに来たよ。」
相変わらずのテンションだ。でも様子伺いだよね。
「どうぞ~。」
いつもののように呼び込む。
「私、ちょっと風邪気味で調子悪いんだ。食欲なくて。だから蘭の分だけお茶用意するよ。」
不自然かな?
「あ、いい。自分で準備するから休んでて。」
そう言う彼女は自らお茶の準備をする。
「実はさ、美咲に聞いて欲しい話があって。」
「何?」
私は身構えた。
「私は結婚していいのかな?」
「はい?」
蘭の悩みを聞くことになった。
これは世に言うマリッジブルーってヤツだ。
彼女のような、意志が強いタイプでも考えてしまうらしい。
私ならもっとヒドイかも。
私からアドバイスすることなどなく、
『うん。うん。』と頷いた。
そして油断した。いつの間にか主導権が変わっていた。
「美咲はこんな気持ちなったことない?」
「ある。現在進行中。」
「どんなことで?」
「大和との関係。」
「どうしたい?」
「わからない。でも。」
私はその先は言わなかった。軽くお腹を擦り、心の中で言った。
『この子は生みたいと思う。』
彼女は帰った。ほっとした。誤魔化しきれたとはおもわないが、
妊娠や引っ越しには気づかれまい。
つわりのため体調は良くない。しばし休憩。
蘭よりLINEがはいる。
今度の日曜日。OKの返事をだす。
ホントにラストデートだ。
それが終わったら彼の前から姿を消そう。
《オムライス》
大和からご飯のお誘いがくる。作り過ぎたらしい。
Twitterを確認する。ハートマークの書かれたオムライスだった。
笑ってしまった。彼は何がしたいのかな?
ついつい、その陽気な雰囲気に呑まれ彼の部屋のチャイムを押していた。
そして、ミスに気付く。私、今ほぼ、何も食べててない。
大和のご飯たぶん食べれない。
食卓にて彼に心配される。一口でも食べてみせないと。
「あれ?食べれる。なんで!!」
「おい、何がなんでた。俺の料理なめるな!」
「大和食べれるよー。」
私はボロボロ涙をこぼした。
「おいおい。さすがにそれは大げさだろう。」
「美味しいい。」
ほほ一週間ぶりのまともな食事。感激で涙が止まらない。
昔から彼は私の心を揺れ動かす。
彼が私のシェフになってくれた。
でも、あと3日。
《ラストデート》
気負いしない、ラフな格好で向かう。
まだ体調不良は続いていたため、顔色を隠す濃いめの化粧をした。
お弁当のサンドイッチはスーパーで買い詰め直した。
大和と最後のデートだ。
自分に素直になろう。
本当に楽しいデートとなった。
前回の大和と彼女のデート内容も満点に近い。いいな、大和の彼女。
私は本当にこれでおしまい。大和、お幸せに。
「大和、成長したね。もう、お試しデート必要ないね。」
その言葉を伝えると彼はベンチを立ち、私の方を見た。
「美咲、改めて言う。俺と付き合って、いや。」
「僕と結婚して下さい。」
私は彼の意図を掴み切れないでいた。
大和は真っすぐ、私の瞳を見ている。
確認のために何度も質問を繰り返す。
彼はその都度、私を好きだと伝えてきた。
真剣な気持ちが伝わって来た。私も本音で答えよう。
「私も告白するね。私は大和のことが小さな時から大好きです。」
彼に私が逃げた理由を話す。
一気に彼の顔色が青くなる。
キッチリと言葉を受け止め謝罪してくれた。彼は元来誠実な人柄なのだ。
私は全てを吐き出し、もう一度彼に聞いた。
「大和、今でも好きだよ。私でよければ貰ってくれる?」
「もちろんだ。」
そして、口づけを交わした。とても幸せな時間が始まった。