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禁断の色は何時だって命の色

「立って。」






“心此処に在らず”。


またもや、女神の心情を鋭く察したのか、女神の腕を、グイッと引っ張り、(ナカ)ば強引に立たせる。


すらりと長く、造りの細い指を握る指は、皮膚が厚くてゴツゴツと節張(フシバ)った、如何(イカ)にも武芸者らしい手。



男神が、空を(アオ)ぐ様に、上を見る。


女神も、其れに(ナラ)う様に、上を向く。


空を振り仰ぎ、覗く薄紅色の花々の隙間から、空の青さ、雲の白さ、陽の眩しさが垣間見え、見事なまでの晴天ぶりを見た。






「降りるよ。」






そうして、女神を横抱きに抱え、桜の大樹の上から、美しい緑が生い茂る地面へと着地する。


女神を地に立たせる様に下ろし、月から地球へと導いた時の様に、手を取り合い、山の中を降りて行く。



盛んに生える緑は、陽光を、一身に受け止めて、何処までも、瑞々(ミズミズ)しい。


そんな美しい緑に負け(オト)らない位、百とも千とも映える様々で華やかな花々の数々。


清らかで素敵に満ちた山の中、歩く2人の(カス)かな音は、何処までも穏やかで軽やかだ。






ボトリッ






突然、何かが、待ち構えて居たかの様に、1本前の木の上から、2神の目の前まで、落ちて来た。


いきなり、姿を現した、其の正体は、日の光で、新緑の様な色の体を、キラキラと、緑色に輝かせる蛇だった。






「やぁ。…例の物は、持って来てくれた?」






男神の問いに答える様に、蛇は、ひんやりと、肌に吸い付く様に、男神の逞しい腕に絡み付く。


そして、易々(ヤスヤス)と、其の大きな口に、加えて居た“モノ”を、男神の掌の上に、そっと、置き、手渡す。






「ん、ご苦労様♪」






満足の行った笑みを浮かべ、取って来てくれた蛇へと、(ネギラ)いの言葉を贈る。


蛇は、コクンと頷き、『シューッ』と、一声、鳴いた後、シュルシュルと、緩やかに男神の腕から離れ、地面へと滑り落ちた後、草木の緑の中へ、帰って行った。






「?」






其の遣り取りに、頭にクエスチョンマークを浮かべながら、首を傾げる、女神。


そんな女神を気にも留めず、蛇が持って来た“モノ”を、ポーン、ポーンと、上に投げ、キャッチを繰り返す男神は、女神の手を、再び、引きながら、歩き出す。



ふと、目の前を()ぎった、ふわりと、漂って来る暖かい風と共に流される花弁を追って行く。


すると、やがて、上から下へと、轟音を立てながら、飛沫(シブキ)を風に散らし、荒々しい滝に()る、水の落花流水に辿り着く。


滝から流れた澄み切った水は、花びら達を乗せ、運びながら、小川の方へサラサラと流れ往き、其のせせらぎには、何処か身体中を流れ廻るモノと、良く似た、心地良い優しさが、ある。



山を下り切れば、2人の眼前に広がる海の水面(ミナモ)は、キラキラと眩しいばかりの光を弾き、金や銀色の波の穏やかな揺らめき。


通って来た道を振り返れば、淡い青色の空を背負った、新緑と、色取り取りの花達や、選り取り見取りの果実達による、鮮やかな色の宴。



砂浜に辿り着けば、潮の匂いが、ツンッと立ち込め、鼻腔を(クスグ)らせた。


ザザンッと打ち寄せる波の音と、其の打ち寄せた波が、ズ……と引く海鳴りは、(ニギ)やかに、絶え間ないハーモニーを奏でて、鳴り響く。






「はい、食べて。」






向き合う様に、振り返った男神は、女神へと、先程、蛇から渡された“モノ”を差し出す。


蛇から男神へと、男神から女神へと、差し出され、女神の掌の上に載せられた、“モノ”の正体は、林檎。


甘い香りに、鮮やかな色、美しい形は、陽光と水と大地の恵みを受けて育った、立派な果実であり、地球の中でだけ、実る事を、許された“楽園の証”其の物。



“楽園の証”である、魅惑的な、林檎の果実。


其の甘い匂いを漂わせる林檎に、誘われる様に、ゆっくり、ゆっくりと、唇を近付る。



一口、齧る。


果汁たっぷりのジューシーな味わいが、口一杯に広がる。



また、一口、齧る。


そして、噛んで潰しては、味わう。



味を堪能する様に咀嚼し、次々と飲み込む。


1つの林檎を、あっという間に、ペロリと、(タイ)らげ、食べてしまった女神。


林檎は、女神の胃の腑に収められ、徐々(ジョジョ)に、其の身の内へ溶けて染み渡って行く。






「――――ッ!!」






林檎を食べ終わった直後、脳に、此の地球での情報の全てが、溢れんばかりに雪崩(ナダ)れ込んで来た。


其の莫大な知識の量に、息を詰まらせ、耐え(ガタ)い頭痛に、頭を両手で押さえ込み、其の場に、ガクリと(ヒザ)を付いた。


しかし、其れでも耐え切れず、膝立ちで居た体は、グラリと傾ぎ、砂浜の大地に()そうとした寸前、女神の体、忽然と姿を消した。






ザザァン…






海に立つ波が、騒ぐ。






「行ってらっしゃい。」






つい先程まで、女神が居た場所を眺めながら、男神が、クスッと、小さく笑って、呟いた。











And that's all…?

(それでおしまい…?)

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