荒振神の天鵞絨
黒い影は暗黒の星を求む
長々しい戦争に因って、両国の神々は疲弊して行った。
“星”も、神々しい光を、とうに失い、天鵞絨の布の様な暗黒に覆われて居た。
国の城も、黒ずんだ色へと変色し、ボロボロに崩れた柱等の残骸が地に落ちて居て、廃墟と化して居た。
かつての栄華を極めた、太陽の帝国である金烏帝国も、月の王国である玉兎王国も、絶滅寸前だった。
闇は、戦争を招来させた事に因って、生まれた暴力、憎悪、悲哀等、負の感情に充ちたエネルギーを、一滴残らず搾り取り、大いなる暗黒へと進化を遂げて居た。
そして、大いなる暗黒は、自らを“荒振神”と名乗った。
「此れは、復讐なのだ!我等を裏切った“至高の存在”と、忌々しい男神と女神に対する!!男神と女神の光は消えた!残るは、“至高の存在”の星の光、唯1つ!!!」
そう禍々しくも、晴れ晴れとした荒振神が、嘲笑しながら、高らかに宣言をした時だった。
ゴオォ……ッ!!
カッ!!
激しい轟音。
眩い光。
一点の曇りも無かった頃の太陽と月が、一斉に砕けたかの如き光が、世界を照らす。
「がぁァ!!!」
荒振神の血を吐く様な悲鳴。
そして、強烈な光は、其の場から、世界の外側の端まで、荒振神を、弾き飛ばした。
カアァァッッ!!!
光が荒々しい乱反射を起こす中、荒振神は、弾き飛ばされる瞬間、確かに見た。
勇ましさと慈しみさと同時に、不浄な気を、一切寄せ付けない清さを纏い、凛と佇み、此方を厳しい目で見据えた男神と女神の姿を…。
「おのれ、おのれぇ、許さん、絶対に許さんぞぉぉう…!!」
強い怨嗟の籠った声の絶叫を最後に、荒振神は、撃退させられた。
強烈な光は、渦潮の様な、うねりを造り、やがて、2つの球体へと転じた。
1つは、太陽の帝国である、金烏帝国の日照殿の中心部にある“誓いの塔”へと落ちた。
もう1つは、月の王国である、玉兎王国の月宮殿の中心部にある“祈りの塔”へと落ちた。
鮮烈な輝きの光の珠。
新しい、男神と女神の誕生だった。
And that's all…?
(それでおしまい…?)