俺と君の惰性
爆速3秒圏内
「……桜の妖精ぞよね」
「ん?」
「Sköllが、桜の妖精みたいだなって思ったんだぞよ。」
大方、Sköllの髪の色と、住処として居る此の桜の木の花の色を、結び付けたのだろう。
Sköllは突拍子も無い頓珍漢な思考回路をして居ると、常々、Hatiは小言の様に文句を言うが、Hatiだって、似た様な物だと、Sköllは思う。
「男の俺が?」
「ぞよ?妖精に性別は……あると思うぞよ。」
「今の間は?」
「う゛……」
Sköll同様、知恵の樹に成った禁断の果実である林檎を食べたと言うのに、未だにHatiの頭の中は、お花畑だと、毒舌気味にSköllは評価して居る。
「せめて、桜人にして欲しいな。」
「寝床にしか思って無いクセにぞよか?」
「花見をしてるんだヨ。」
「ふふっ…嘘吐きぞよね。」
此の世の全ての幸せを詰め込んだ様に微笑する声音で、そう優しく反論して来たHati。
そんな小生意気なHatiを横目にして、起き上がり、珍しく淡く微笑み、腕を翼の様に、ゆっくりと広げて、其の温かい翼に、幸せの者を静かに包んだ。
Hatiの笑いが、一瞬止まり、無言で目を見張る。
しかし、Hatiは、またクスクスと、本当に楽し気に、笑い始め、Sköllが、何が其れ程までに、楽しいのかと、謎に思った。
与える事は当然であって、与えられる事など、皆無だった。
いつもいつも、不要なゴミを入れられ、処理する様な、腐った役割を、こなす日々。
そんな世界のゴミ箱扱い的な虐げを受けて来た、此の世で、たった唯一無二の存在同士。
だからだろうか?
彼女の聲が、聞こえ始めたのは。
『醜いぞよ。』
『嫌だぞよ。』
『もう沢山だぞよ!』
悲しさと切なさから生まれた、哀願の嘆きに、自分には無い愛しさを感じた。
そして、同時に、腹立たしい様な、苛立つ様な、何とも言い難い気持ちが胸中で、グルグルと渦を巻いた。
それよりも難解なのは、独りを嘆き、塞ぎ込む彼女の、其の思考と心が、少しも理解出来無かった。
けれども、彼女と会って、其れは難解でも、何でも無く、必然だったのだと、軽い驚きと、緩やかな得心に満ちた。
『Sköll』
だからだろうか?
俺が居る時は、屈託なく笑えるクセに、1人の時は、ぐずぐずと、泣きべそをかいて、また煩く、幼子の様に呼ぶ聲がするのだ。
「う……ぐ」
片膝を付いた体に、また裂傷が走った。
喉をついて溢れかけた悲鳴を、Sköllは歯を合わせて噛み殺す。
また、無数の光と闇の混合矢が、雨の如くSköllを襲った。
まだ、何とか動かせる利き腕で、既に仕込錫杖だった其処から、抜刀した血よりも濃い緋色の刃の直刀を振いまくって、8割は切り落とすが、それでも、確実に、じわじわと、劣勢に成って来て居る。
「「全ての代償ヲ払う覚悟ハ出来タカ?」」
「だから、さぁ……――――ッ」
まさか、至高の存在が、“荒振神”の“闇神”と、手を結んで“混ざり合って”居たとは…。
Deus ex machinaを創ったと、情報を得た時は、裏で手を組んでる事は見抜けたが、まさか、“至高の存在”としての己をも“差し出して”居たとは、想像出来なかった。
其の点だけは、恐れ入った。
其の読みだけは、此方の完敗だ。
当たった2割の光と闇の呪力は、酷く醜い鈍痛を与えて来る。
臓腑と血肉を、鉄の棒で掻き回される様な不快感に加え、爆竹の様に爆ぜる激痛感。
其れでも……――――。
『Sköll』
「ぁ…ん…まり」
「「何?」」
「イライラさせないで欲しいよね!!」
光が、噴き出す。
血の様に、赤く輝くソレは、Sköllを包み込み、赤い流星となって、一瞬で、至高の存在in闇神を、地球まで、吹っ飛ばした。
「さて、俺が誓いの塔に連れて来られてたって事は、御姫様は、差し詰め、祈りの塔か。全く、俺等も落ちたもんだね。平和ボケにも程がある。」
こんな事態に成って居るのは、戦いが終わりに近付き、平和が訪れる寸前での、気の緩みが、1番の原因に他ならない。
だから、こうして、隙を突かれ、無様な醜態を晒す事態に成ってしまって居る。
「さて、そんじゃ、もう1発、打ち噛まそーか♪」
先程ので、あの力の放出の仕方は、分かった。
アレをもう一発やれば、月になんて、3秒と掛からないだろう。
運が良ければ、あの至高の存在in闇神が戻って来る前に、Deus ex machinaも、俺の獲物として、独占出来る。
そう思うと、失態を犯した不愉快感など、砂の上の城の様に脆く崩れ去り、代わりに、禍々(マガマガ)しく紅い瞳には、ただ、愉悦の色だけが宿って居た。
And that's all…?
(それでおしまい…?)




