古代悠久への望郷
裏切者と冒涜者は光と闇を閉ざす呪歌を詠う
「見ツケタゾ。」
「漸ク、来オッタ。」
「アァァ、憎ヤ、恨メシヤ!」
「我等ヲ裏切リ、此ノ世界ノ涯ニ追イ遣リ、縛リ付ケ様トシタ、忌マワシキ光ノ縁者共メ!」
「許シ難キ罪ヲ背負イシ存在!!!」
「貴様等モ、アノ星ニアル光、全テヲ八ツ裂キニシテシマオウ。」
「ソウダッ。根絶ヤシニシテ、クレヨウゾ!」
「我等ガ、恨ミ、思イ知レ!!」
「あっは。弱い奴程、良く吠える。」
「黙レェェ!貴様カラ血祭リニ、上ゲテ遣ルッ!!!!」
我が強くも、地球で過ごして居る時のSköllは、愛想が良く、フレンドリーだ。
特に、Hatiに関しては、其れにプラスして、スキンシップも多く、其処は少々、困り者な位。
と言っても、至高の存在に対しては、Hatiとは、また別の意味で特別扱いをして居るらしく、何時も冷ややかで、素っ気ない態度を取りつつも、棘を含んだ物言いをする。
至高の存在も、また、Sköll同様、敵意を持って、毒を含んだ物言いで言い返しながら、応戦するかの様に、大人気なく、Sköllを、きつく見据え、対抗する。
其の時は、両者、一歩も譲らずに、バチバチと火花を散らし合いながら、一触即発の冷戦状態に成るモノだから、Hatiが仲裁に入って、何とか地球に被害が出ない様に済むのが、もう、お決まりの定番と化して居る。
そんな普段は、ケロリと平然として居て、楽し気に、愉快そうに、飄々(ヒョウヒョウ)と過ごして居るSköll。
けれども、戦いと成ると、Sköllは何時も通りにニコニコと笑って居る筈なのに、其の表情と声は、温度も潤みも無く、渇き切って居る。
そして、地球では見られない、両目に宿る眼差しの光だけは、彼自身も自覚し、認めて居るだろうが、他とは異なり、余計な不純物を、一切合切、取り除いた、何処までも強く鋭く輝く、純真無垢な灼熱を帯びた剣の如く。
「弱い者苛めは、好きだよ。」
「我等ヲ見縊ルナ!!!」
「だから、俺は君達を歓迎するヨ。」
「身代ワリ人形デアリナガラ、随分ト生意気ナッ!!」
「我等ニ歯向カウ者共ニハ、制裁アルノミ!!」
ジャンッ!
暗黒の闇が、怒り狂った雄叫びを、上げる。
其れを戦闘開始の合図に、直ぐ様、Sköllが、闇との間合いを跳躍で一気に詰め、懐に飛び込む。
鋭い爪が生えて居る足で、踏み付けた闇に、勢い良く、其の場に縫い付ける様に、突き立てた錫杖の金の輪が、一際、強く鳴った。
「『日の代行者たる大神Sköllの名のもとに、誓いを立てよ。』」
Sköllの薄い唇からは、残酷なまでに優しい呪歌が、紡がれる。
Sköllの歌声は、暗黒の闇が発する邪気を祓い清め、邪気に覆われて居た本体の姿を暴く。
Hatiも、両手で錫杖を持ち、其の先で、様々な闇の存在が1つに集結して居る暗黒の真上に位置する、ある1点の場所を指し示す。
シャラランッ
其の際、銀の輪がSköllの歌に続く様に歌う。
「『月の代行者たる大神Hatiの名のもとに、祈りを込めよ。』」
次にHatiが、Sköllが剥き出しにした闇の集合体の内側にある“核の塊”を視通す。
そして、訴えかける様に、Sköllの呪歌と、錫杖の音色に合わせて、Hatiも唱える様に、高く澄んだ声で、歌い出す。
鈴の如き、優し気で、涼やかな、凛とした音色の呪歌に、合わせる様に、淡い光が、フワフワと、幾つも出現する。
頼りなさ気な光達は、どす黒い怨念の闇の塊の元へと昇って行き、周りを囲い、寄り添う様に、ホロホロと、溶け込む様に、闇の中へと入って行く。
「ヤ、ヤメヨ!!」
「中ニ入ッテ来ルナッ!」
「「『地に御座す我等が天の主に、願を懸ける為に、想い馳せ参じたならば、星と成りて、満天下を鎮護せよ!』」」
詠唱が、終わる。
と同時に、Sköllは、錫杖の柄を掴み、引き抜く。
仕込錫杖だった其処から、現れたのは、血よりも濃い緋色の刃の直刀。
Sköllは、其の刀に太陽神と成った祖神から受け賜りし“純陽の加護”を纏った、金色に輝く、一筋の火流を巻き付かせる。
轟々と勢い良く輝き燃える剣を、悠然と笑いながらも勇ましく、不浄な気を、一切寄せ付ける事を許さず、容赦無く、ぶった斬りにしようと、迷わず上段に構える様は、まるで、修羅か武神の様だ。
「嫌ダ、嫌ダ、消エタクナイ。」
「助ケテ、助ケテクレ!」
闇達の命乞いにも全く耳を貸さず、Sköllは、Hatiが見つけた闇の“大本の核”がある頭上に向かって、其の剣を振った。
縦と横、合わせて、2度切った、其れは、まさしく、罪や罰、または、光と闇を背負う象徴とされる、十字架を体現した、正十字の、光の裁き。
「「「グァオォオオオオオオオォォ……!!」」」
暗黒の闇の力と、Sköllの力が、衝突し合って、空間を軋ませ、混沌の歪みを生み、強大な力同士が、お互いを凌ぎ合う。
押し負かされない様に、Sköllは、直刀を眼前に構え、更に力を上乗せして、肉を裂き、血飛沫が飛び散らぬ様、骨をも砕く様な衝突の波動に、無言で耐える。
やがて、其の、せめぎ合いにも、勝敗が決まる。
Sköllの光の力に押し負けた闇達は、其の輝きに捕らえられ、其の身を散り散りにされ、幾つかの塊に分断され、身動きが出来ぬ様、虚空で、磔にされた。
そして、膨張し切った、大いなる闇は、“大本の核”を斬り砕かれ、斬り刻まれ、切り離された漆黒の影の欠片達が、無数の漆黒の羽根の様に、ヒラヒラと頼りなく、躍りながら、1つ1つ剥がれ落ちる。
シャン
シャン、シャン
シャラララ……
Hatiが、磔にされ、暴かれた個々の闇の本体達を視認すると、銀色の錫杖を左右に振り、其れに合わせて清い響きが、場の荒々しさを静める。
同時に、本体から切り離され、宙を舞う闇の片鱗と成ってしまった其れ等を、1つも逃す事無く、翳しながら左右に振る錫杖に、ゆっくりと貯めて居た浄化の力を解放し、放出した。
すると、淡い銀色の光が、まるで、大雪と成って降り注がん程に、小さな黒い光を発する影の欠片に当たっては、交じり合い、溶け合う。
やがて、不浄の闇の破片と浄化の光の珠は、1つと成り、赤橙黄緑青藍紫と、1つ1つが様々な色を持つ輝きに変わり、小さな星々へと生まれ変わる。
闇の化生たる己達の体の、一部が、星屑程度とは言え、“星”に変えられた光景を目にして、磔にされて居る闇達は、畏怖と嫌悪に塗れた悲鳴を上げた。
全身がゾッとする不快な悪寒に襲われ、心が凍る様な恐ろしさに打たれながらも、敗北を認める訳でも無く、受け入れる訳でも無く、次々と、拒絶を示す否定の言葉を吼えながら、罵声を浴びせて来た。
「違ウッ、違ウッ!」
「我々ガ求メテ居タノハ、コウデハ無イ!!」
「悍マシイ、 厭ワシイ。」
「互イニ相容レヌカラコソノ対極ナノダッ。」
「其レガ交ワリ、1ツニ成ル等、在ッテハ成ラン!」
「其レデハ、孤独ニ戻ルノト同意義ゾ!!」
「オ互イ、共ニ、反発シ合イナガラモ共存ガ出来無ケレバ無意味ナノダ……ッ。」
「デナケレバ、世界ノ均衡ハ保テナイッ!!!」
「違うネ。」
「ナッ!?」
「只単に、君等が、寂しがり屋の弱虫だっただけだろう?」
光から拒絶されて、孤独に成った闇。
だから、恨みながらも、こうして、戻って来た。
嵐にも似た、激しい感情を伴った願いを抱えて。
拒絶され、引き離されても尚、自身の半身である存在の傍らに居たいと言う望みを諦め切れずに、御託を並べて、何度でも、やって来ては、縋って来る。
“至高の存在”に見捨てられた時も、始祖神が死んだ時も、太陽の帝国と月の王国を崩壊寸前まで追い遣った時も、そして……――――こうして、何度でも諦め悪く、地球に襲い掛かって来る時だって、そうだ。
「可愛らしいネ。」
「「「…………。。。」」」
「惨めでさ。」
呑気に、そして、容易く、言い捨てるSköll。
見事に、図星を指された闇達は、先程までの喚き声が、ピタリと止んだ。
否、Sköllの的を射た発言に、沈黙せざるを得なかった。
詰まる所、闇達は、光達が、大好きで、憧れ的な存在なのだ。
でも、だからこそ、悔しく、憎々しく、そして、妬ましかった。
此れぞ、まさしく、『可愛さ余って、憎さ100倍』と、言うのが妥当だろう。
「あり?負け犬の遠吠えは、もう良いの?じゃぁ、Hati、後始末、宜しくネ☆」
散々、敵を、引っ掻き回し、相手を完膚なきまでに、徹底的に、打ちのめした後、遊び相手が居なくなった事を確認して、SköllはHatiに、後の処理を、全て放り投げる様に、押し付けた。
「先に地球で、君の帰りを、待ってるヨ♪」
磔にされた侭、打ち拉がれる闇達には、もう、目もくれず、Hatiの肩を軽く叩き、横側から、すり抜けて、後ろにある地球へと、陽気に、軽く鼻唄を歌いながら、向かって行った。
And that's all…?
(それでおしまい…?)




