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春夏秋冬の戯れ

四つ葉のクローバー探しに夢中

今や世界で、唯一、息衝く“星”に、≪四季≫と言う物が出来た。


四季は、暖かい『春』、暑い『夏』、涼しい『秋』、寒い『冬』と、四つの季節で、出来て居る。



“命”を宿す肉体を、年がら年中、(セワ)しなく動かす生命体達に、配慮しての事だろう。


謂わば、交代制度の様な物で、肉体を酷使し過ぎて、過労死しない様に、休息を取る様に、生み出された規則の様な物だ。


そして、其々(ソレゾレ)が、より一層、此の星を、居心地良く、快適に過ごし、星全体に、満遍(マンベン)なく“命”が行き渡り、自由に巡れる様にと、創り出された慈愛に満ち(アフ)れるシステム。



しかし、其の温情を与えられない例外が、存在した。


其れは、体力も精神力も、少し位の事では、へこたれない、タフな戦士と成り、『Hati』と『Sköll』と言う名を授けられた、かつて、男神と女神の御子だった2人。



そして、異例もあった。


光でも、空気でも、水でも、土から得る栄養でも無く、純粋な神気のみで育った、1本の桜の木。


非常に生命力が強く、四季問わず、其れこそ、年がら年中、絶え間なく、薄紅色の花を、咲き乱れさせた満開の状態の侭の、巨大な大樹。



其の咲き誇る桜の木を、HatiとSköllは、棲み家として居た。


Hatiは、桜の木の中で1番太く、自分が余裕で、軽く寝転がれる(タクマ)しい枝に、仰向けに横たわり、軽く瞼を伏せ、微睡(マドロ)みの中、穏やかに微笑み、思う。






「(春は花々が、いっぱい咲き乱れて、華やかで好きぞよ。夏は暑いけれど、緑や水が、キラキラして居て好きぞよ。秋は紅葉も素敵だけど、美味しい食べ物が、いっぱいで好きぞよ。冬は、寒いけれど、綺麗な雪が、いっぱい舞い降りて来て好きぞよ。)」






温情は与えられずとも、戦士にも休息は必要だ。


其れに、そんな物、与えられずとも、メリットは、有った。


Hatiが思った通り、4つの季節の、どれにも属して居ないからこそ、春・夏・秋・冬と、一通りの良さを味わえると言う楽しみを、得る事が出来た。






「……寒、い。」




「寒くないぞよ。今は暖かな春ぞよ?Sköll。」






真夏を思わせる体温が、体を包み込んだと思ったら、耳元で聞こえた、弱々しく、(カス)れた、今にも壊れて消えてしまいそうなアルトの音色の声。


しかし、其の声音の裏には、あからさまに、ワザとらしく、芝居(シバイ)がかった態度を取って居るであろう事は、瞳を閉じた状態からでも、手に取る様に分かった。






「真冬並みに、君が寒いんだよ。」




「Sköllが暑苦しいだけぞよ。」




「だから、温めてあげようと思って。優しいネ、俺。」




「お願いだから、言葉のキャッチボールを、しっかりやってぞよ。」






Sköllの体温は、男神の頃の名残か、体温が高い。


対して、Hatiも、女神の頃の名残か、体温が低い。



其れでも、2人の生みの親である始祖神の様に、触れ合えない訳では無い。


現に、こうして、2人はお互いの体温差に文句を言い合いながらも、触れ合い、抱き合える事が出来る。



ゆっくり、瞼を持ち上げる。


見えたのは、案の定、平然と笑みを浮かべて居るSköllの顔。






「あ、俺の勝ち。」




「何が、勝ちぞよ?」




「君が俺を心配して、目を開けちゃったから、俺の勝ち。」




「いや、其れだけは絶対に無いぞよ。」




「いやー、勝てるのかどうか、ハラハラしちゃったヨ、俺。」






言う割には、とても楽し気な眼に、意地悪そうに、歪められた口元。


そして、相変わらず会話を成り立たせてくれないSköllに、Hatiは小さく溜息を吐いた。






「溜息を吐くと、幸せが逃げちゃうゾ☆」




「一体、誰がそうさせてると…、」






Hatiの言葉は、最後まで続かない。


何故なら、Hatiの唇は、言葉を(ツム)ぐ途中で、Sköllの唇に()って、塞がれたからだ。






「!?」






Sköllの突然の不意打ちに、Hatiは大きく目を見張る。


驚愕した表情で、Sköllの顔を見ると、確信めいた笑みが(ニジ)んで居た。


また、其の目の奥の瞳には、『してやったり』と、成功した愉快犯としての、ご満悦の色が、はっきりと見えた。






「~~~~~~~~~~~~~ッッッ!!?」






驚いて、頭の中が、混乱する。


反射的に、引き剥がそうとするが、より一層、強く抱き締められて、無理だった。



随分と、そうして抱き締められ、キスをされて居た。


しかし、只々、塞がれ続けるだけの長い口付けに、歯痒(ハガユ)さを感じ始めた頃、漸く、キスからは、解放された。






「なん……急に、何、するぞよ。」




「物足りない?」




「は?……はぁ!?そ、そんな訳…――――、」




「此れ以上、俺の御姫様の幸せが逃げない為に、だよ。」




「……。」






Sköllは、何時(イツ)も、張り付けて居る、笑みと言う名の仮面を、取り外す。


普段、滅多な事では、感情を表に出さない瞳は、酷く真っ直ぐで、Hatiを射抜く様な強い目で、じぃっと、見つめる。






「……Sköll?」






あの強いSköllが、不安を感じて居る。


其の事は、直ぐに分かったが、何に対して、不安に襲われて居るのかが、Hatiには、分からなかった。



名を呼ぶ。


でも、其の続きの言葉が出て来ない。



其れはそうだ。


不安の原因が分からない以上、何の言葉を掛ければ良いのかなんて、思い付く筈も無かった。



簡単に、『何だか分からないけど、元気出して!』なんて、其の場凌(バシノ)ぎの無責任な物言いはしない。


そんな逃げる様な()け方で、大切なSköllのSOSのシグナルを、(アタカ)も無かったかの様に、片付ける手段を取っては、いけないし、取りたくも無い。






「ねぇ、Hati…、」






ゴロゴロゴロッ






Sköllが言葉を紡ごうとした矢先、タイミング悪く、果てしなく晴れやかに澄み渡る空の青さが、急変した。


黒い雲が近付いて来て、空が急に暗く成り、間を置く事無く、()て付いた強い風が吹き抜け、雷の鳴る音が聞こえ、どんよりした空模様に変わった。




其れは、束の間の休息の終わりを示す。


と同時に、戦いの始まりを告げる合図だ。






「行こっか♪」






Sköllが、Hatiの上から退()き、立ち上がり、空の様子を確認した後、再び、視線をHatiへと移した。


其処には、もう、先程の不安は微塵たりとも無く、何時も通りに不敵な笑みを浮かべ、泰然(タイゼン)と立って、無邪気な子供がピクニックに出かける様な気軽さで、楽し気な声をHatiに掛け、手を差し出して来る。






「俺の、“宿命の片翼(ベターハーフ)”。」






“宿命の片翼”


初めて会った時にも言われた言葉。


あの時は、意味が分からなかったが、知恵の樹に成った禁断の果実である林檎を食べた時に、其の言葉の意味を知り、理解した。



“ベターハーフ”とは、簡単に言って、“玉女”の事。


玉女とは、本来、『玉の様に美しい女性』、『仙女』、『天女』と言う意味を持つが、此の場合では、唯一無二の珠玉(シュギョク)たる妻と成る者の意味合いを持つ。



其れを小酒落(コジャレ)た言葉で表現した物言いが、“宿命の片翼”だった。


そして、“玉女”は、≪生涯のパートナー≫と言う女人(ニョニン)の称であると同時に、伴侶(ハンリョ)が吐き出す毒を受け止め、浄化する役目を(ニナ)った存在である。






「はいぞよ。」






でも、先程、Sköllは、毒を吐き出さなかった。


其れが、Hatiにも分かってしまったから、分からなくなってしまった。


月の王国で、全ての女神達の不浄を浄化して来たと言うのに、Hatiの心は、不安に揺れる。




Sköllの言う、Sköllにとっての“宿命の片翼”。


果たして、本当に、其れは、Hatiであるのだろうか?


もし、別に其の存在が実在するならば、Sköllは、Hatiは、どうするのか。




考えようとしても、まるで、分からない。


いや、そんな嫌な事等は、考えたくない。




そんな考えを、頭の中から振り払う様に、差し出されたSköllの手に、Hatiは手を重ね、強く握り締めて、立ち上がる。


そして、Sköllの隣に立って、Sköllと同様に、暗雲が立ち込めて来た空を見上げ、此れから始まるであろう戦いに、勝利する事だけを考え、(ソラ)を翔けた。











And that's all…?

(それでおしまい…?)

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