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第9話 巫術師 玄雨雫と太鼓

 齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫女、玄雨雫。自称、日の本の国の神。

 そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。

 中学2年生の神峰純は、こともあろうか雫が趣味で営む骨董屋一六堂に入って行った事から、二人に神の資質を見抜かれ、女神、玄雨純になった。

 純は覚えた「空の穴」の術を使い、雫と共に玄雨神社に戻ろうとしたが、出てきたのは、ジャングルに囲まれた、集落の中だった。

■誰もいない村


 夜。しん、と静まり返っている。時折、遠くから野鳥の鳴く音が聞こえてくる以外、音はしない。

 純の「(くう)の穴」の術で、純と雫が出てきた先は、ジャングルに囲まれた集落だった。

 なんで、こんな所に、それより、ここはどこなの?

 純の心はざわめいた。

 漆黒の闇が、純に原始的な恐怖を感じさせる。

 雫の手を握る純の手が震えた。

 純の不安を感じ、雫は握った純の手にほんの少し、力を込めた。

 雫さんと一緒なんだもの、大丈夫。

 純の心が鎮まっていく。

「純。気付いていると思うが、『神』になると、感覚が鋭敏になる。慣れてくれば、星明かりでも、見えるようになる」

 あ、そうか。

 純に残った最後の恐怖が消えていった。

 だが、その雫も、これが異常事態と心得ていた。

 雫は警戒し、気脈で人の気配を探った。だが、人の気配はない。

 純は、ふと空を見上げた。

 空は晴れて、満天の星空だ。

 まるで、宇宙にいるみたい。

 気脈で辺りを探る雫に何かが感じられた。

 その時、アリスの驚いていた声がリンクで届く。

『純くん、どうしてアフリカにいるの。しかも、霊脈放出した場所に!』

 二人は、一瞬、身が固まるのを覚えた。

『純くんに渡した「月影くん」、ソフトウェアアップデート出来るように、こっちのサーバと繋がってるの、GPSも付いてるから、判ったの。一体何があったの!?」

 アリスの口調が非常事態だと伝えてくる。お気楽モードのアリスがまったく出てこない。

『アリス、ヘリポートから純と一緒に「空の穴」で玄雨神社に戻ろうとした。すると』

 雫が、説明する。

『そこに出た、訳ね』

 アリスはすぐに判断した。

『判ったわ。すぐ迎えのヘリを送る。最短時間で、二人を日本に戻す。また雫と霊脈が途切れたら、大変だもの』

 雫と雫が編んだ世界秩序を維持する霊脈のリンクが途切れる事は、世界的危機を意味する。

『頼むアリス。何か変化があったら、すぐに知らせる』

 リンクの向こうのアリスの緊張が、ふっと緩んでいくのが感じられた。

『雫ぅ、あたしの純くんのコト、頼んだわよぉ〜。雫は純くんの史上最強の保護者なんだから〜〜。じゃあね〜』

 あたしの純くん。

 アリスのこの微妙な言葉は、二人の気持ちに違う反応を引き起こした。

 純は、アリスとの「禊の儀」を思い出して真っ赤になった。

 雫は、自慢の弟子の一部を取られたような気がして、ちょっと面白くない、という気持ちと、アリスが純の事を大切に思っている事が伝わり、嬉しい、という気持ちがないまぜになった。

「純、アリスと仲よくなったね」

 あ、あの、雫さん、何を。

 「禊の儀」を思い出していた純は動揺した。

「アリスの事は良く判っている」

 まだ目がなれない純には、真っ暗で雫の表情は分からない。が、声は優しい。

「アリスと純が仲良くしてくれて嬉しい」

 ちょっと間を置いた。

「純を」

 というと、黙った。

 え、なんなの。雫さん。

「何でもない」

 そう言うと、雫は有る方角に歩き出した。繋がれた手に引かれて、純も歩き出す。

「先程気脈を巡らし、辺りを調べた。こちらに、何か、ある」

 純の目もなれてきて、辺りが大分視えるようになってきた。

 雫について、歩いていくのに困らなかった。

 あれ?

 純は気がついた。雫の耳が、ほんの少しだけ赤いのに。

 しかし、そこからの始まる純の思索は、雫の言葉で途切れた。

「ここだ」

 そう言うと、雫は純から手を放した。

 「純。このあたりに、『何か』ある。二人で探す方が速い。視て、探そう」

 純は雫が何を言っているか判った。

 雫は霊脈で、純は目で視て、何か変わったものが無いか、探そうと言うのだ。

 目がなれてきた純は、まず、普通に見た。

 壊れかけた家のようなものが目の前にあった。

 次に、視た。

 霊脈はそれ程濃くは無いが、辺りを漂っている。

 その霊脈を目に吸い込んで、「視知の術」を壊れかけた家に使う。

 「視知の術」は、そのものの未来を視取る術。ときおり、未来では無いものも視る。

 家自体に変化は無い。

 ん?

 純は、家の中に、ぼんやりと光るものを認めた。

 家の中に入っていく。

 家の少し奥が、ぼおっと光っている。

 意識を向ける対象を、次々に切り替え、光ったものの正体を絞り込む。

 サーチエンジンの検索みたい。

 ちょっと、場違いな感想を純は持った。

 純は、光っているものの正体にたどり着いた。

「雫さん、たぶん、これ…」

 これ、なの、と言いかけて、純は戸惑った。

 中学二年生男子から、女神化して、身体は完全に女性になった。

 思考形態も次第に女性化が進んでいる。女の子の話し方が出てくると、まだ、残っている男の子の思考形態が、反発して、戸惑わせる。

 痛くも辛くも無いけど、妙な感じ。

 女の子になっただけじゃ、ないからかな。

 純の思索がさまよい始めた時、雫が言った。

「それ、のようだ。純」


 それは、円筒形の筒のようなものだった。


「どうやら、元は太鼓のようだ。皮は先に朽ちてしまったのだろう」

 雫は純を見た。

「純、『視知の術』で、もっと深く、あの太鼓を。それと私にも」

 純は、霊脈を目に吸い込むと、その一部を雫の目に飛ばした。

 純式「目合わせの術」。

 これで、純の視たものを雫も視る事ができる。

 純は、その太鼓に意識を向けた。


■アフリカの少女


 二人には、視た。


 急に周りに村人が現れ、歩き周り、生活する姿を。

 気配さえ感じる事が出来るようだった。

 賑やかな、色鮮やかな光景が視えた。

 子供の笑い声、赤ん坊の泣き声が聞こえた気がした。

 

 急に周りが静かになった。

 賑やかで、色鮮やかだった光景は消え、寂しい雰囲気が漂っている。

 一人の少女が、その太鼓、まだ皮が朽ちていない頃の太鼓に手を添えて、たたずんでいる。

 少女は、長い縮れ毛をヘアバンドで止め、後ろに流している。

 顔に入れ墨が有り、唇が厚い。肌の色は黒く、手足が長い。

 しばらく少女は太鼓を見ていたが、哀しそうに太鼓から手を離すと、立ち去っていった。


 光景は消えた。

「雫さん、今のは」

 雫は腕を組み、目を閉じている。

「おそらく、この太鼓が記憶した、過去の光景だろう」

 かつて盛んだった時期の集落の記憶。

 そしてもう一つは、おそらく最後に太鼓に触れた人の記憶。

 雫は言った。

「純、あの太鼓を気脈で探ってみて欲しい」

 純は目では無く、自分の気脈を伸ばして、太鼓に触れた。

 不意に、純に有る光景が蘇った。

 純が乗った宇宙船を破壊した、アフリカから噴出した霊脈。

「あの時、噴出してきた霊脈…を思い出しました」

 雫は扇を取り出すと、広げ、短い舞いを一差し舞った。

 家の屋根は朽ちたのか、壊れたのか、無く、そこから差し込む星明かりで、雫の舞いは美しく映えた。

 太鼓が一瞬光ると、すぐにその光は消えた。

 あ、これ、前に。

 雫を日本に縛る、雫の双子の弟「あと」の木乃伊(みいら)。その呪いを解いた時の事を、純は思い出した。

 舞い終えると、雫はアリスにリンクで伝えた。

『アリス、どうしてここに来たのか、そして、帰る方法も分かった。ヘリは不要だ』

『え、どういうこと?』

 流石に驚いている。

『玄雨神社に戻ったら、話す。時が惜しい』

『判った〜。じゃ、ヘリはキャンセルしとくね〜』

 『よろしく頼む。アリス』

 そうアリスとの会話を切り上げると、雫は扇をしまうと、純の目の前に手を刺しだした。

 雫の手に「無しの扇」が作られた。

「純、今からこれと同じ「無しの扇」を、玄雨神社に作る。それを想って、『空の穴』を現せ」

 雫の手の「無しの扇」は、ふっと消えた。

 純は理由を知りたかった。

 だけど、雫さんが後から話すって、それに、時が惜しい、って。今は早く日本に帰る事が大事。

 純は「無しの扇」を作り出すと、舞いを舞い、「空の穴」を現した。雫が作った「無しの扇」を思い浮かべながら。

 真っ黒な球体が、いつものように出現した。

 二人は手を繋ぐと、現れた「空の穴」に飛び込んだ。


■二人、玄雨神社に戻る


 「空の穴」から出ると、そこは玄雨神社の境内。舞い舞台の前だった。

 雫の「無しの扇」が宙に浮いている。

 雫が目を閉じると、「無しの扇」は消えた。

 雫はしばらく目を閉じていたが、目を開けると、声に出して、そしてリンクで言った。

「アリス、純、霊脈とのリンクは途絶えていない。短時間の故だろう」

 ほっとするアリスの気配が、リンク越しに伝わってきた。


『ねぇ、雫ぅ。そろそろ、真相を教えてくれないと、アリス気になって眠れないよ〜〜』

 純の寝顔を見ながら、未だ待て、と雫はアリスに伝えた。

 玄雨神社に戻った後、純はすぐに眠りに落ちてしまったのだ。

 雫は、風の技で純を舞い舞台に運んだ後、布団に移した。

 雫のまなざしは優しい。

 うん。

 純が目を覚ました。

 術の後の寝る時間が短くなってきているのに、雫は気がついた。

 術に習熟しつつある。

『アリス、純が起きた。真相を話すとしよう』


「まず、何故、玄雨神社でなく、アフリカに出てしまったか」

 話しは肉声と、リンク経由でアリスにも伝えられている。

 すまない、と雫は純に頭を下げた。

「どうやら私は、『空の穴』の特性を誤解していたようだ」

 えっ? 純は驚いた。

「『空の穴』は、場所と場所を結ぶ技では無く、人と人、より正確に言えば、気脈と気脈を結ぶ技だ」

 あ!そうか。

「そうだ。だから、アリスのいる執務室に空の穴が空き、初めは、私の居る、ここ玄雨神社に出口の穴が空いたのだ」

 納得する純。

『え〜〜〜。それじゃ何〜〜。初めの一番危ない時、純くんは、あたし、じゃなくて、雫の方を選んだってこと〜〜。アリスおかんむり〜〜〜』

 名探偵の推理披露にちゃちゃを入れるのは、お気楽モードのアリスくらいのものだ。

「純はたぶん、帰りたい、と思ったのだろう。帰ると言えば、師匠の居るところだ」

『ちぇ。しょうがないか〜。でも〜、純くん、今度危ない事があったら、あたしの所に来てね〜』

 どう答えたたら良いか純が悩んでいると、助け船を出すように、雫が話しを続けた。

「続ける。エアポートで、私と純が玄雨神社に戻ろうとしたが、玄雨神社に私はいない」

 居ない所に飛ぼうとしたから。

『ちょっと待って〜〜。そしたら、あたしの所に出口が出来てもいいんじゃない〜』

 確かにそう。純は思った。

 そこで、雫は純の目を見た。

「純、あのアフリカから吹きだした霊脈、気になっていただろう」

 気になってた!

 アリスも気がついた。

『そうか〜〜。そうだよね〜〜。あたしと雫は、怖い目にあってないから、あそこの事、そのままほうおって置こうって、まあ、ある意味、大人の納得出来たけど、純くんは当事者だもんね〜』

「純は、あの霊脈を『視た』。おそらくかなり近くにいたから、少しは『触れた』。だから、行き場の無い出口が、あの場所に現れた」

『必然だった、と言う訳ね〜〜』

 純は気がついた。

「じゃあ、玄雨神社に戻ってくる時、『無しの扇』をここに造ったのって」

「ご明察、純。『空の穴』を場所と結びつける『印』があれば、その場所に出口が現れる」

『なんだか、純くん、だんだん、ものすごく便利能力向上中じゃない〜〜』

 にや〜〜〜としたアリスの気配を感じて、純は心の中で、首をぶんぶん振った。

 あ、アリスさん、ボクのコト、どっかの便利道具みたいに言わないで〜。

 こほん。と咳払いして、雫が言った。

「あの噴出した霊脈の正体だが」

 純もアリスも間抜けなコントを止めて、雫の話を聞こうとする。

「あの太鼓だ。あの太鼓は、ある味、『呪物』いや、むしろ『思い』に近い」

 そう言うと、雫は話し始めた。


 あの村はおそらく巫術師がいた村ではないかと思う。

 巫術はアミニズムと親和性が高い。共に原始宗教と結びつく。

 万物に魂があり、それを畏れ崇め奉るもの。

 おそらくあの太鼓は、その象徴だったのだろう。

 長年、村人の「思い」を受け止めてきた。

 日の本の国で言えば、「付喪神」に近いものに成ったのかも知れぬ。

 純が視たのは、その太鼓の記憶だ。

 あの村は栄え、そして、原因は知りようも無いが、滅んだ。

 最後に視た、あの少女は、太鼓に別れの挨拶をしたのだろう。

 そして、滅んだ村を去って行った。

 永い間、太鼓はあの村に取り残された。

 あの村の霊脈は、薄くは無い。

 その間に、数多の霊脈を取り込み、蓄えた事だろう。


 ここでアリスが、また、ちゃちゃを入れた。

『ウチの『流巻きくん』みたいなものか〜。思いが宿るかも知れないんだったら、やっぱり『くん』付けてせいか〜い。アリスすご〜い」

 あ、アリスさん、その話し今しなくても。

 純がおたおたし初め、お笑いモードに入ろうとするのを、雫は咳払い一つで押し留めた。

 多少、雫の眉がぴくぴくしている。

 雫は話しを続けた。


 人を待ち続ける太鼓。

 だが、人は現れない。

 そこに。


 純は気がついた。空高く、神脈をまとった女神が通りかかった。


 雫は、うん、と頷くと先を続けた。

 

 太鼓は、会いたさに、蓄えに蓄えた霊脈を解き放った。

 己が壊れてしまうとも、純を傷つけてしまうとも、判らずに。

 太鼓の皮は、朽ちたのでは無く、その時、飛び散ったのだろう。

 膨大な霊脈に加速された太鼓の皮の破片。

 相当な運動エネルギーを持っていたと思う。

 純が乗った宇宙船にまで届き、宇宙船を壊した。


 雫の話は終った。


 リンク越しに、アリスが哀しそうな気配と、声が聞こえてきた。

「あたしと同じだったんだね。その太鼓。雫を見つける前の、あたしと」

 哀しい太鼓。

 あ。

 どうして雫が舞いを舞い、太鼓の「呪い」いや「思い」を解き放ったのか。

 純は気がついた。

「待ち続けても、太鼓は満たされない。太鼓が満たされるには、太鼓が象徴に戻らねばならぬ」

 だが、と雫は続けた。

「象徴としての『神』には、それを崇める人々が必要。もはや叶わぬ」

 だから。

 解放してあげたんだ。

 噴出する霊脈に乗って舞い上がる太鼓の皮の心象が浮かんだ。

 そして、純は、アフリカで見た宇宙にも似た、満天の星空を思い出していた。


■アリス、セリスを連れて来る


 純が、「空の穴」の術に習熟した頃、アリスが純を呼んで、日本に連れていって欲しいと頼んできた。

 純はが「空の穴」で、アリスの執務室に着くと、アリスの側には、ちいさな女の子が居た。

 純よりも大分年下の女の子。ふわふわしたスカートを履いて、まるで仏国(フランス)人形のようだ。

 どこかで見たような。と純が考えていると、アリスが言った。

「純くん、この子はセリス。あたしの娘」

 え!

 アリスさん、娘いたの!

 アリスのドッキリ新情報に、純は驚いた。

「驚く事、ないじゃない。まあ、あんなに雫とラブラブな私に娘って、想像し難いと想うけど〜」

 散々純を弄んだ後、さらっと言った。

「養女よ」

 純は頭の中で、何かが萎れるのを感じた。

 ま、また、弄られた。何があたしの女神さまよぉ。アリスさんのばかぁ!

「ごめんごめん。で、日本に行く時、この子も連れていって欲しいんだよね〜」

 はいはい。ボクは、アリスさんを雫さんに合わせるための便利道具ですよ。ボクはそれで満足ですよ。

 と、やや自分で誓った使命を自虐的気に考えた後、純は気がついた。

 この子、前に会った事がある。

 あ。

 あの『びっくり調停大作戦』の時、気分が悪くなったボクを医務室に連れていってくれた子だ。

 まだ挨拶をしてないのに、純は気がついた。

「はじめまして、じゃないけど、ボク、玄雨純です。あの時は、ありがとう」

 小さい子相手なのに、ぺこりとお辞儀するのは純らしい。

「純って呼んでね」

 セリスは、言った。

「純お姉ちゃん、で、いい?」

 はにかみながらそう言うセリスの様子が、最近芽生え始めた純の可愛いもの好きフラグをオンにした。フラグが立った。

 かわいい!

 ある意味、ひな鳥が初めて見たものを親鳥と思うようなインプリンティングが、純の可愛い物好きの嗜好にセットされた。玄雨神社には、かわいいと言えるものは、あまり無い。しぶい物なら、雫の骨董趣味に数多とあるのだろうが。それ故、セリスとの二度目の出会いは、純にとって強力なものとなった。

 ちょっと頬を朱に染めながら、純はセリスに頷いた。

 そして、アリスの方を向いた。

「すぐに、行った方が良いんです、よね?」

 アリスが頷く。アリスはいつも忙しい。だから、なんとか空き時間をかき集めて、雫に会いに行く時間を作る。

 純は、「無しの扇」を作ると、「空の穴」の舞いを舞った。

 セリスはその舞いを見て、「わあ、綺麗」と言った。

 舞い終った時、純の顔は真っ赤になっていた。

 ボ、ボクの舞いを綺麗って言ってくれた〜〜。

 雫の舞いに憧れる純にとっては、最大級の祝辞だ。

 純が手を出すと、セリスは純の手を取った。既にアリスとセリスは手を繋いでいる。

 三人は、「空の穴」を通って、日本の玄雨神社の舞い舞台前に出た。


■新しい弟子


 アリスは、雫と話しがあると言って、二人で御神体拝礼の間へ行った。大抵三人で過ごすのに、珍しいな、と純は思った。

 純は気付かなかったが、去り際、雫とアリスにこういうやり取りがあった。

 「アリス、あの子が次の」

 アリスは頷いた。

 二人は三十分ほどして戻ってきた。

 その間、純はセリスにせがまれて、舞いを披露していた。

 セリスは、純の舞いが終るたびに、目を輝かせ、綺麗、凄い、と手を叩いて喜んだ。

 恥ずかしがりながらも、純は、嬉しかった。

 二人が戻ってきた時、純は少し様子が違う事に気がついた。

 雫が少し沈んでいるように感じたからだ。

 アリスはいつもの調子だが、微妙にノリが悪い気がする。

「純、セリスが私に仮弟子入りする事になった」

 え。

 驚く純とは別に、セリスはきちんと三つ指を突いて、頭を下げた。

「師匠、純お姉ちゃん、弟子になりました、セリスです。どうぞ、よろしくお願いします」

「純、妹弟子だ。面倒を頼む」

 純は、はいっと答えた。

「純お姉ちゃん、これから、一緒だね」

 純の可愛いもの好きフラグから派生する、可愛いもの好きメーターが上昇した。

「じゃあ、雫ぅ、またね〜」

 そう言うと、アリスは雫に抱きついた。雫も優しく抱き返した。

 いつもの事なのに、なんとなく純は違和感を覚えた。

 しかし、それが何かと思索したいという感情よりも、可愛いもの好きメーターの方が勝り、違和感はすぐに消えうせた。

 純はアリスを送ると、すぐに戻ってきた。

 その日から、セリスの修業が始まった。


■セリス、修業する


 セリスの初めの修業は、視る事だった。

 セリスは初め霊脈を見る事が出来なかったが、純の「目合わせの術」で視ている内、やがて自力で視えるようになった。

 雫は言った。

「セリス、これで本当の弟子になった。視えぬ物には教えられぬ、からな」

 雫は、ほっとしたような顔になった。

 セリスは、日本舞踊の経験は無かったが、バレエを学んでいたため、舞いのテンポを覚えるのは速かった。

 ただ、足運びが異なるため、そこは少し手間取ったが、すぐに舞いを覚えていった。

 純が学んだのと同じ手順を、雫では無く、純が姉弟子として、セリスを指導し、不足のある所を、師匠である雫がサポートするという形で、修業は続いた。

 他の人に教える難しさを、純は実感する。

 と同時に教える事で、自分の技が向上してくのも感じた。

 純とセリスは「セリスちゃん」「純お姉ちゃん」と呼び合い、本当の姉妹のように仲よくなっていった。

 その様子を、なぜか雫は少し悲しそうな目で見詰めていた。

 

 こうして、セリスが基本的な舞い習得し、気脈霊脈の基本的な操作を覚えた頃、ある天体が地球に近づいてきた。

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