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第8話 巫術師 玄雨雫と空(くう)

 齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫女、玄雨雫。自称、日の本の国の神。

 そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。

 中学2年生の神峰純は、こともあろうか雫が趣味で営む骨董屋一六堂に入って行った事から、二人に神の資質を見抜かれ、女神、玄雨純になった。

 二人に宇宙の零脈を見せたいと宇宙に行った純。霊脈は二人を感動させる。

 だが、突如アフリカから噴出した霊脈は、純の宇宙船を大破させる。

 アリスのとっさの判断で、緊急脱出した純だったが、次第に地球に引き寄せられていく。

■純、落下する


 今思い出しても、よく助かったと思う。

 大気圏外から落下して、助かるなんて、普通無いよね。


 と、純は神様専用ブログに書き込んだ。

 ここからは、純のブログの文章。


 宇宙に行って、アリスさんと雫さんに宇宙と日本の霊脈を視せて、アフリカの上空に行ったら、アリスさんのとっさの判断で、ボクは緊急脱出。

 その直後、アフリカのどこかから、霊脈が噴出して、ボクの乗ってきた「コバンザメくん」は大破。

 ボクは、地球に引っ張られていって。

 このままだと、大気圏で燃え尽きちゃう!

 って思っとき、思い出した。


 雫さんと垂直離着陸機に乗っていた時の事。

 雫さん、玄雨神社上空に来たら、パラシュートも付けずに飛び出すと、何事も無かったみたいに着地した。

 その時、空中で舞いを舞ってた。


 やってみよう。それしかない!


 舞う事になるなんて思ってないから、扇は無い。

 「無しの扇」を作って舞い始めると。

 すごく難しい。

 舞台に足を着いていないと、舞えない。舞えなくて、くるくる回るだけ。

 どうしよう!

 って思った時、雫さんのリンクの声が聞こえた。

『純、「無しの扇」の話、覚えているか』

 そこで雫さんが言った、事を思いだした。

 心象、つまり、イメージで術者が「ある」と思えば、巫術は「ある」と思って作用する。

 これが、「遠当ての術」の基本概念。

『純、地球全部が、宇宙全部が舞い舞台と思え!』

 ボクは目を閉じて、玄雨神社の舞い舞台をイメージした。

 目を開けると、うっすらと舞い舞台が視える。

 舞える!

 どう気脈を操れば良いか、判らないのに、勝手に身体が動く。

 リンクを辿ると、雫さんの舞ってる気配がする。

 雫さん、リンクを通じた同調で、ボクに舞いを伝えてくれていたんだ。

 柔らかい空気の固まりがボクの身体を包んで、大気摩擦の熱から防いでくれた。

 舞いのお陰で、落下速度はやや緩くなったけど、まだかなり速いのが判る。

『雫! なんとか落下速度、抑えられない!』

 アリスさんの悲鳴みたいなリンクの声が聞こえた。

『上昇気流を下から起して、純の速度を抑える』

 ボクは雫さんが伝えてくれた舞いを舞い続けた。

 雫さんは、ボクの下の大気を操って、上昇気流を作り、ボクの落下を緩めてくれた。

 だけど、まだ速いのが、ボクにも判った。

 その時、ボクの頭に、雫さんが教えてくれた言葉が響いた。

「巫術は、素粒子よりも小さい階層に作用する」

 それは雫さんの仮説で、アリスさんの会社の科学力が一般科学より百年は進んでいる基本概念。

 なら、もしかしたら、重力自体を操れるはず。

 というか、その時、ボクはそれに賭けるしかない。

 あれ、違うな。

 それが正解だって、知ったんだ。

 舞いの形と、気脈霊脈の操り方が勝手にボクの心に浮かび上がってきて、その通り舞い始めたら。


■純、消える


 そしたら、それが起こった。

 ボクの記憶で言うと、気がついたら玄雨神社で、雫さんが介抱してくれていた。

 すぐにアリスさんが現れた。


 ボクは雫さんを見た後、意識を失ったから、アリスさんがすぐ現れたって思ったけど、随分長い間、眠っていたみたい。

 雫さんに聞いたら、ボクが眠っている間、アリスさん、うろうろしたり、じっと固まったかと思ったら、雫さんに抱きついて泣き出したりして、ボクの事を心配していたんだって。

 心配かけてごめんなさい。アリスさん。


 ここで純は、少し手を止めると、涙を拭った。

 またブログを書き始めた。


 雫さんは、意識を失ったボクにずっと気脈を送り続けてくれたって後から知った。

 だから、そんなに長く意識を失っていなかったって。


 ボクが空中から玄雨神社でいったん目を覚ますまでの事を後から聞いて、驚いた。

 ボクの動きは、宇宙服に付いてるGPSと通信機なんかで、場所が分かる。

 ところが、その信号が急に途絶えて、大騒ぎになったんだって。

 アリスさんは、ボクの宇宙行きの「コバンザメくん」の出発から、あの作戦室にいて、いろいろサーバントに指示を出してたんだって。

 それで、ボクが大気圏突入を始めたら、何か出来る事は無いかって、考えられる方法をためそうとしたらしいけど、流石に難しくて、「雫、お願い」って祈ってたらしい。

 アリスさんには、ボクの落下速度、位置が正確に判るから、このまま行ったらどうなるかは、占わなくても判る。

 その位置と速度の表示が出なくなったんだ。

 と、同時にボクと二人のリンクが切れた。

 二人はすごく動揺して、アリスさんが、あんなに動揺した雫を見たのは初めてだって、言ってた。


 純のブログを書く手が少し止まった。純は下唇を噛んでいる。


 雫さん、心配かけてごめんなさい。

 で、少ししたら、アリスさんのサーバントが叫んだんだ。

「ターゲット捕捉、場所、玄雨神社!」

『玄雨神社。なぜ』

 アリスさんのリンクの声が雫さんに聞こえて、雫さんがボクの気脈を探ったら、ボクは舞い舞台、いつも稽古している場所の前の境内に倒れているのを見つけた。

『アリス、純がいる。倒れてる。宇宙服で。脱がし方を教えてくれ!』

 アリスさんは、脱がし方を雫さんに伝えると、その後の予定を全部キャンセルして、大急ぎで玄雨神社にやって来た。

 そして、ボクは目を覚ました。

 雫さんが、ボクを視て、「もう大丈夫だ」って言ったら、アリスさん、寝ているボクの手を取って、

「こんなに心配したのは、雫が熱を出した時以来よ」

 って言って、ぽろっと涙を流した。

「すみません」ってボクは小さく言った。

 アリスさんは、すっ、て立つと、

「純くんが大丈夫なら、私は安心。じゃ、戻るから、後はお願いね〜。雫ぅ」

 って言って、雫さんをちょっと抱きしめると、米国に帰っていった。


(くう)の穴の術


 アリスさんが居なくなると、ボクはまた眠りに落ちた。

 目が覚めたて、目を開けたら、視界に雫さんがいて、

「無事で良かった」

 って言って、寝ているボクを抱きしめた。

 肩が小さく震えてた。

 すごく心配かけたんだって、また、思い知らされた。

「ごめんなさい。雫さん。舞いを伝えてくれて助かりました」

 って言ったら、抱きしめるのを止めて、優しくこう聞いたんだ。

「純。消える前、舞っているのを感じたが、どんな舞いを待ったか、覚えているか?」


 覚えてる。と思う。

 と答えた。

 立てるか、と言うので、自分の気脈を読んだら、大丈夫そうだった。

 それで、立って、その舞いを思い出しながら舞ってみたんだ。


 舞い自体はそんなに長い物じゃなかったけど、舞い終ると、酷く疲れてた。

 何も起こらない。

 雫さんをがっかりさせちゃったかな、って振り返ったら、雫さんが目を見開いている。

 何を見てるんだろうって、ボクが雫さんの視線を追って振り返ったら。


 それが出現していた。

 まっくろな球体。

 まるで、空間に開いた穴みたいなの。

 それが、舞い舞台の前の境内に。

 地面から少し浮いて、直径2メートルくらいの漆黒の球体。

 ボクと雫さんが、それをじっと視ていると、アリスさんがリンクで妙な事を言ってきた。

『執務室なんだけど、妙な感じがするのよね。なにか、ここにあるような。でも、あたしには見えないんだけど〜』

 ボクは目に霊脈を吸い込むと、アリスさんに送った。ボクの視覚じゃなくて、アリスさんに気脈や霊脈が見えるように。

 そしたら、アリスさんが叫んだんだ。リンクだけじゃなくて、多分、肉声でも。

『何!これ! 真っ黒な球体が、執務室の真ん中に浮いてる!』

 雫さんは、腕組みをすると、目を閉じた。何かを探す気配がした。

『純、アリス。これは「空の穴」だ。そちらとこちらが繋がっている」

 アリスさんが入ろうとする気配がすると、雫さんが素早く言った。

『入るなアリス。作った術者以外が触れると危険だ』


 雫さんから聞いた話しをまとめると、こういう事らしい。

 ボクはどうやら、玄雨神社に昔からある巫術書に書かれていた『空の穴』という術を完成させたんだって。

 ボクが落下中にその穴を作り、その穴を通じて、玄雨神社の舞い舞台に着いた、らしい。

 物理的な穴だったら、ボクは境内の地面に叩きつけられていたはず。

 そうならなかったのは、これが巫術で、素粒子以下での作用が働いたからだって、雫さんは説明してくれた。

 こう言ってた。

「故に、作った術者、あるいは、同等の術者でなくば、その穴に触れれば、移動はするが、巫術の副作用に耐えられず、おそらく死ぬ」

 だから、アリスさんを止めたんだ。


 作った術者は移動出来る。実際、そうやって空中から玄雨神社に戻った訳だけど。

「これ、消えないんですか?」って雫さんに聞いたら、

「ほうっておけば、次第に小さくなって消えるはずだ。だが、追試は必要だ」

 なんの事だろうと思っていたら、雫さん「空の穴」を指さして、

「純、入れ」

 って言ったんだ。

 もう一度試してみろ、という事みたい。

 穴の前に行って、ボクがためらっていたら。

「大丈夫だ、入れ。純」って、雫さんが優しく言った。

 そう言われて心が決まった。ボクは、「空の穴」に飛び込んだ。

 気付いたら、アリスさんの執務室に居た。

 今度は意識を失わなかった。

 でも、アリスさんが急に現れたボクに驚いて大声出しちゃったから、警備のサーバントさんがドアから飛び込んできて、ボクを見つけて、口をぽかんと開けた。

 誰だって、ビックリするよね。

 第一、あの時、ボクだってビックリしたんだから。

 『純、無事に着いたな』

 って雫さんのリンクの声が聞こえた。

『占ってあったが、無事で良かった』

 その時思い出した。

 そう言えば、扇をとりだして、いつもの占いやってた。

 そういう事だったんだ。

 ボクが雫さんが占いをしている事を思い出していたら、アリスさんが駆け寄ってきて、いきなりキスしてきた。

 ボクが固まっている内に、すっと離れると、リンクで雫さんに聞いた。

『雫ぅ! 純くん、これ、一日、何回れくらいできる?』

 雫さんが遠当ての術で、ボクの気脈を探るのが感じられた。

『今は1日2回程度だが、熟達してくれば、回数は増えていく。だが、今日はもう無理そうだ』

 って言ったら、アリスさんがちょっと頬を膨らませて言った。

『アリス残念〜。ちょっと空き時間が作れそうたから、ぱぱっと雫に合いにいけると思ったのに〜』

 あ、アリスさん、ボク、タクシーかなんかじゃ無いんですけど。

 でも、いつものアリスさんに戻ってる。

 そう思って、ボクはちょっと安心した。

『純、今日はアリスの所に泊まって、明日戻っておいで』

 雫さんが優しくそう言ってくれた後、アリスさんがまたキスしてきた。

 なんなの、もう。

 ボクがポカンとしてたら、アリスさんが、しょうがないな〜って顔して言った。

「純くん、気付いてないの? これでアリス、いつでも雫の所に行けるんだよ!!!」

 そう言って、ボクをぎゅって抱きしめた。

 ちょっと苦しかった。でも、ボク、何でアリスさんがこんなに喜んでいるか、判った。

 そうか。

 ボクがこの術に熟達したら、アリスさんが好きな時に、雫さんと会えるんだ。

 雫さんは、日本から出られないけど、アリスさんがすぐに来られる。

「純くん、雫と一緒に宇宙の霊脈視せてくれて、ありがとう。その上、こんなの。純くん、純くんはあたしの女神さまだよ!」

 なんだか、とんでもない台詞を聞いた気がした。

 世界をコントロールして、デザインして、世界中の重要人物を手玉に取る、西洋の女神さまが、ついこないだまで中学二年生のしかも、弄られキャラの男子のだったボクのコトを、「あたしの女神さま」って言うなんて!

 その後、ボクは急に眠くなって、眠ってしまった。

 やっぱり、熟達しないとダメなんだね。


 目が覚めると、アリスさんの寝室に寝かされてた。

 「起きた。純くん」

 声のする方見たら、寝そべったアリスさんが両手を頬につけて、ボクを見てた。

 優しい目で見てた。

「はい」って言って起き上がろうとしたら、ボク、裸になってた。

 よく見たら、アリスさんも裸だ。

 一瞬で真っ赤になった。

 アリスさんは、「『禊の儀』だから」って言うと、やさしく口付けしてくれた。

 その時分かった。

 これは、アリスさんからのお礼で、西洋の女神の祝福なんだ。

 ボクが早く雫さんの所に帰れるように、気脈を高めてくれようとしてるんだって。

 アリスさんがボクをやさしく抱きしめた。ボクも優しく抱き返した。


■純、アリスとおしゃべりする


 「禊の儀」が終って、しばらく二人で話しをした。

 もちろん、その時は服着たよ。

 だって、恥ずかしいもん。

 アリスさんも、ボクが恥ずかしがるから、服を着て、じゃあ、って言って、二人でアリスさんのプライベートエリアにある、まるで大きな喫茶店みたいな部屋で、お茶を飲んでお話した。

 色々話したけど、面白かったのは、前に米国に来た時の話し。

 三人で街に買い物に言った時の事。あ、街と言っても特大のショッピングモールみたな所。すっごく豪華版の。

 アリスさんを口説こうとした男がいたんだって。知らなかった。

 ボクが知らないのも当たり前で、少しの間だけど、アリスさん、ボクと雫さんという組合せで、離れてしまったから。

 初めのお店で、服を買ってもらったボクと雫さんが歩いていると、いかにも「ナンパしますけど何か?」みたいな三人組が出てきて、ボクに声をかけてきて、ボクは足止めされてしまった。

 アリスさん、それに気がつかなかったみたいで、先に歩いていったんだけど。

 なんでも、アリスさんがすっぽかしたパーティーに代わり出たサーバントさんから連絡が入って、そっちに気を取られてたんだって。

 雫さんは途中で気がついたみたい。

 ボクは、三人に囲まれて、いろいろ「かわいい」とか、「一緒にお茶しようと」か、言ってたみたいなんだけど、あの、ちょっと怖かった。

 だって、身長差が三十センチくらいあって、その上向こうは三人。

 ちょっと前まで中学二年生男子で弄られキャラのボクは、不良にからまれた感じしか、しなかったんだよ〜。

 だって、男の人にお茶に誘われるとか、かわいいとか言われたコト、ないし。

 その内、真っ赤になって、どう対応していいか、判らなくて、パニックになった。

 その様子見たら、雫さんが凄い勢いで戻ってきて、まるで、いじめっ子からボクを守るみたいに両手を広げて、

「私の純に何をする!」

 って、一括したんだ。

 そしてら、三人は気分をそがれたというか、やる気を無くしたというか、ボクにナンパするの止めて、ボクたちと反対側に歩いて行ったんだ。

 で、去り際に、「あの娘、可愛いけど、怖〜いお姉さんが付いてるから、ナンパは無理だわ」って言うのが聞こえてきた。

 それを聞くと、雫さんが最近めずらしく凄く怖い顔して、「行くぞ。純」て言って、ボクの手を取ってずんずん歩いていって、アリスさんと合流出来た。

「へ〜〜。そんなコトがあったんだ〜。純くん可愛いから、ナンパされるよね〜〜。でも、雫が怖いお姉さんっていうの、面白過ぎる〜〜〜」

 って、けたけた笑ってたら、雫さんがリンクで『笑うな!アリス』って言ってきた。

 そしたら、アリスさんが、

『純くんの保護者役、ありがとうね。もし私がその場にいたら、やっぱり、同じ事したと思うわ。ちょっと遣り方は違うけど』

 って言って、ちょっと悪人の顔になってた。

 あの三人、ボクが雫さんと一緒の時で、運が良かったのかも。

「こっちは、こっちで、ちょっと面白い事があったんだよ〜」

 と、言って、その時の話しをしてくれたんだ。

 アリスさんが立ち止まって、サーバントさんとリンクで話していると、視線を感じたんだって。

 品の良さそうな、いかにも上流階級の子息って言う感じの若者がアリスさんを見詰めてたんだ。

「感じの良さそうな若者だったから、ちょっと隙を造ってあげたんだよね。話しかけやすいように。話しかけられたくない時とか、きっちりガードして寄せ付けない雰囲気を造れるのよ、私くらいになるとね。雫の結界みたいに、うふふ」

 って、余裕の笑顔で言ってた。

 アリスさんが隙を造ると、その若者、歩み寄ってきて、丁寧に挨拶をすると、アリスさんの右手を取って、キスしたんだって。

 ボクだったら、その瞬間に真っ赤になって、何が何だか判らなくなっちゃうと思うけど、アリスさん、ヨーロッパの貴族階級にいた事もあったらしくて、そういう挨拶の仕方、普通に思うんだって。

「ん〜〜。あたしとしては、今どき礼儀をわきまえた若者だな〜。って、ちょっと好感もっちゃったけどね〜」

 って言ってた。

 その若者、アリスさんの気を引こうと、自分の父親は、米国有数の企業の社長で、家にはこうい高級車があって、クルーザーがあって、って、自慢と言うか、そういうの、始めたんだって。

 残念だったとボクでも判る。相手が西洋の女神だもの。

 人が持ってるものなんて、アリスさん欲しくないもの。それは判る。

 アリスさんが一番欲しいのは、雫さんと一緒にいる時間。

 で、結局、初めの好感度がどんどん下がっていって、アリスさん、聞いた会社の名前をサーバントリンクに言って、ナンパを止めさせた。

 どうやったかは、良く判らないけど、その若者の携帯が鳴ったら、その父親からで、「お前が今ナンパしてるのは、ウチの会社の大株主の知人だぞ。くれぐれも失礼の無いように」っていう電話だったみたい。

 そしたら、急にえっ、て顔になって、要はビビッて、急に用が入ったから、失礼しますって、ソコは丁寧に挨拶して、さささと、去っていったんだって。

「自慢するなら、自分がやった事を言えば良かったのにね〜。もうちょっと要領が良くて、頭が回れば、サーバントにしてあげたのにな〜」

 う〜ん。その若者、運が良かったのか悪かったのか。微妙だな〜。って言っちゃったら、

「何よ、純くん。あたしのサーバントはみんなあたしに尽くす事が最大の幸せなんだからね〜〜」

 って言って、ふん、って小さく言って横向いた。

 ボクはなんだかおかしくなって、ぷ、て吹きだしたら、アリスさんも噴き出して、二人して大笑いした。

 その後、『純、もう「空の穴」を使っても良さそうだ』

 って雫さんがリンクで言ってきた。

『アリス、純と一緒にこちらに来るか?』

 って聞いてきた。

 アリスさん、サーバントリンクに何か指示を出して、答えを聞いて、

『二時間くらいなら、時間作れるけど、それじゃ』

 と言って、ボクの方を見た。

 多分、ボクがまた疲れちゃうって、心配してくれたんだと思う。

「ボクなら大丈夫。アリスさん」

『アリスの帰りも、純が送れる。純はそっちでまた休ませてくれ』

『う〜〜ん。純くんいると、つい、おしゃべりしたくなっちゃうから〜』

 ってボクの方見て、『送った後の帰りはいつものルートで、帰って。ごめんね』

 ボクその時、「空の穴の技」熟達しようって心に決めた。

 ボクの立ち位置、アリスさんが雫さんと会うための専用ワープ係。これに決まり。


 それで、「空の穴」を作って、ボクはアリスさんと手を繋いで、穴を抜けて、玄雨神社に戻った。


三柱(みはしら)、会議する


 玄雨神社の舞い舞台の前の境内に出た。どうも、こことアリスさんの執務室が繋げやすいみたい。

 雫さんが稽古場に座布団強いて、お茶と和菓子を用意して待ってた。

 で、三人でお茶と和菓子を食べながら、話したんだ。

 さっきのアリスさんとのガールズトークみたいなのとは違った、ちょっと真面目な話をした。

(さっきのがガールズトークかどうかは、ボクには判りません。だって新米女子だから、ね)


 話しというのは、ボクが乗ってた宇宙船「コバンザメくん」を壊したアフリカからの霊脈の話。

 何が起こったのか、雫さんはずっと推理してたんだって。

 たぶん、と言って、雫さんは話し始めた。

「直接の原因は、宇宙から、アフリカを、正確には霊脈が放出された場所を、純が視たから。視られたと知ったその場所の術者が、視られたくないと、術を行った、と思う」

 ただ、と雫さんは言った。

「あれほど距離があるのに、純の場所を正確に捉えたのは、出発前に女神二人が行った、『禊の儀』で、純が神脈の状態にあったからだろう」

 アリスさんが、あ、という顔をした。

「ごめんなさい。純くん。純くんが危ない目にあったのって、あたしの所為だったのね」

 ちょっと困った。ボク的には結果オーライで、二人の役に立てる術が覚えられて良い事だったんだけど。

 どう言っていいのか、わからない。

 その時、雫さんがまるでボクの心を読んだみたいにこう言った。

「アリス。純は無事帰ってきたし、私でも為しえなかった高度な巫術を物にした。アリスが来たい時に、こちらに来られるように出来て、純は喜んでいる。アリスが悲しんで、純が困ってる」

「そっかー、結果オーライね〜〜。アリス納得〜〜」

 いつものアリスさんに戻った。そして、急に身を乗り出した。

「で、ソコどうしたら良いと思う?」

 ソコっていうのは、アフリカの霊脈の場所の事。

 雫さんは、腕組して、ちょっと考えてこう言ったんだ。

「アリス、その辺りに何か、アリスの知る歴史的な出来事はあったか?」

 アリスさん、ちょっと考えて、その後、サーバントリンクに質問して、「無いわ」って答えた。

 雫さんは腕組を解いた。

「ならば、今回の出来事は、少々運の悪い事故のようなもの。歴史に干渉しないなら、そっとしておくが良いと思う」

「そうね〜。純くんを危ない目に合わせた埋め合わせはさせたいけど、雫がそう言うなら、アリスもそれで良いわよ〜」

 ボクもそれで良いと思った。

 ある意味、のぞき見したのはボクなんだもの。

 その後は、ガールズトークというよりは、どっちかって言うと、茶飲み話しみたいで、ときどきアリスさんが雫さんやボクに抱きついたりして、あっと言う間にアリスさんの空き時間が無くなって、ボクは空の穴の術でアリスさんを送っていった。

 そして、ボクはいつものルートで日本に向かった。帰りのアリスさんの会社の専用機で、ボクはぐっすり眠って疲れがすっかり取れた。

 ボクがヘリポートに着くと、雫さんが出迎えてくれた。

 巫女装束じゃなくて、ボクが一六堂で初めて会った時と同じ、検査のためにアリスさんの会社行って帰ってきた時に空港で迎えてくれた時と同じ、長い髪をポニーテールにして、そこに真っ赤な櫛を刺し、白いセーター、黒いパンツ、薄い黄色のベルト、足袋を着け緑色の鼻緒の下駄を履いていた。

「おかえり。純」

 そういう雫さんの笑顔は、送りだす時と同じくらい明るかった。

「ただいま、雫さん」

 宇宙に行くのに、玄雨神社を出て、途中、一度、「空の穴」で帰ってきたけど、今本当に帰ってきた気がした。

 雫さんが、何か言おうとした。

 なんとなくボクには判った。

 アリスさんがしたみたいに、雫さんの口に人さし指を付けて、言葉を封じて、ボクは言った。

「師匠が弟子にお願いするのは、その、ちょっと違う気がします。お命じください。雫さん」

 そう言って人さし指を話した。

 雫さんは、少し赤くなると、こう言った。

「では、純。『空の穴』の術で、玄雨神社に帰ろう」

 ボクは「空の穴」の舞いを一差し舞って、「空の穴」を現した。

 雫さんが、そっと、ボクの手を握ってきた。暖い。ボクもそっと握り返した。

 すっと、二人で空の穴に踏み込んで、玄雨神社に、舞い舞台の前の境内に戻った。


 戻るはずだった。

 でも、ボクと雫さんが出てきたのは、ジャングルに囲まれた、集落の中だった。

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