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第6話 巫術師 玄雨雫と記録

 齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫女、玄雨雫。自称、日の本の国の神。

 そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。

 中学2年生の神峰純は、こともあろうか雫が趣味で営む骨董屋一六堂に入って行った事から、二人に神の資質を見抜かれ、神になった。その後の一ヶ月を振り返る。

■純の神様限定ブログ


 これは、ボク、あ、ま、いいや。

 もう身体はすっかり女の子になったんだけど、あたし、とか、私とか言う言い方にまだ慣れないから、このままで行く事にする。


 ええと、仕切り直して。

 これは、ボク、女神、玄雨純の神様限定ブログです。

 サーバは、アリスさんの会社の中にあって、特別厳重なセキュリティで守られてます。

 ネットワークも特別だから、これを読めるのは、ボクと雫さんとアリスさんだけです。

 そう書くと、アリスさんも雫さんもやっているみたいに思えるけど、ブログを書いているのは、ボクだけです。

 アリスさんはいつも大忙しだし、雫さんはコンピュータがあまり好きじゃないみたい。

 でも、この前、普通のネット検索してるの見たら、ブラインドタッチで凄く早くてびっくりした。

 話が脱線した。

 雫さんからは、リンクで話せるのに、なんでたった三人限定のブログなんてするんだ、純? って言われた。


 説明したら納得してくれた。

 このブログは、ボク達に起こった事を書き綴っていこうと考えたからなんだ。


 この数週間、物凄く大変な事が立て続けに起こった。

 今でも混乱する。

 それを整理したい、っていうのもある。

 雫さんは、多分、この辺を汲んでくれたんだと思う。


 人に読んでもらう形の方が、書きやすいしね。


 事の発端は、アリスさんが帰った後、ボクの修業が再開して、しばらく経った時だった。

 いつもの基本の舞いから始まって、雫さんが、目について教えるって言って、話してくれたんだ。


 「昇格の儀の後、純が行ったのは、『目合わせの術』の応用らしい」


 あ、これは、ボクがアリスさんの目に霊脈を付けて、神脈を見せてあげたやつ。

 あれから、雫さんは古い巫術の書物の中から、それを見つけたんだけど、書庫で探してた気配は全然ないから、一体何時探したんだろう。

 ちょっと不思議だった。


「アリスと話した『運命の分岐点』だが」


 ごめんなさい、雫さん。ボクまだ良く判らなかった。もう少し基礎知識が必要だって痛感した。

 アリスさんも知識凄いけど、雫さんの知識量も物凄い。

 巫術だけじゃなくて、最新科学の用語で巫術を説明してみたりとか。

 また脱線しちゃうけど、アリスさんの会社の科学力がマッドサイエンティストレベルなのって、雫さんの巫術を研究したからなんだって。

 それで納得した。

 あの「純くん改造マシ〜ン」で、身体が温かく感じたのが、気脈でボクを暖めた時のとおんなじ感じがしたの。


 ああ、ちっとも話しが前に進まない。

 これ、添削しないでくださいね。レポートの時みたいに(笑)と誤魔化しておこう。


 で、今出来る目の使い方だけは判った。

 霊脈を目に吸い込んで、意識を何かに向けると、その未来が視えるんだ。

 これが、「視知の術」

 意識していないと、近くにいる巫術師の視点に入れ替わっちゃうんだって。

 これが、さっき雫さんが言った「目合わせの術」

 だから、お風呂で雫さんの視点になったんだ。


 で、その修業の最中に、妙な事が起こった。

 これは、後から書いているから、その時起こった事を、ボク目線だけじゃなくて、だいぶ客観的に書けると思う。


 雫さんは、ボクが一瞬消えた、って言った。

 ボクは、過去を視たんだと思う。


 ボクが視たのは、雫さんの師匠で、初めての弟子の玄雨望さんが、雫さんの事を思って、雫さんの出生の秘密にまつわるものが入った箱、それを舞い舞台の向かって右手の社殿の床下に隠した所だったんだ。

 その箱の中身、ちょっと怖かった。雫さんの双子の弟の「あと」の木乃伊(みいら)が入っていたから。

 それが、雫さんを「縛る」呪物だったんだ。


 ボクは「縛る」っていう意味が分からなかった。

 そしたら、いきなりアリスがリンクで話しかけてきた。

 『雫を日本に縛ってるの、それだ! み〜つけた!!!」

 後から二人が説明してくれた内容を書く。これも凄い話しだった。

 アリスさんは、雫さんを見つけた後、米国に連れて行こうとしたんだって。

 そうだよね。今でも仲がいいけど、あの時は、特別だもの。

 雫さんも、そうするつもりだったらしい。

 新政府になってから、日本がどんどん近代化していくの、耐えられなかったみたい。

 こう言ってた。

 「人が心を失っていくのを視ていくのが辛い」って。

 その時気がついた。

 どうして雫さんは自分の事を「日本の神」じゃななくて「日の本の国の神」って言うか。

 「日の本の国」って、江戸時代の言い方だから。


 それで、アリスさんは船で雫さんを連れて行こうとした。

 ところが、船が出て、ある所まで来たら、雫さんが消えてしまったんだ。

 海に落ちたのかって、探したけど見つからない。

 雫さんが慌てたリンクの声で、『気づけば、玄雨神社に戻っていた!』って言ったんだって。

 急いでアリスさんが、玄雨神社に戻ったら、雫さんが居て、どうしてか、二人で話し合った。

 結論は、雫さんには何かの呪いがかけられていて、日本から出られなくなっているんだろうって。

 その時の、雫さんを連れて帰れなかったアリスさんの気持ちを思うと、堪らなくなる。

 アリスさんは、どうしても雫さんを連れ出したいから、太平洋戦争が終った後、今度は飛行機で連れだそうとした。

 そしたらやっぱり、途中で雫さんが消えて、やっぱり玄雨神社に戻っちゃうんだ。


 雫さんは、巫術で「あと」との縛りを解きほぐした後、ボクと一緒に、玄雨神社の裏にある、望さんのお墓の隣に、穴を掘って、「あと」とそれと『彦』の鍬を一緒に埋めた。

 手を合わせていると、雫さんの目から、また、涙が流れた。

 ボクの知る限り、雫さんに(まつ)わる、それも、大きな心の傷なんかが、三つもそろって、それが全部帳消しには出来ないけど、一応の「終り」がついたんだから。


 後から付けたし。少し違うらしいけど、だいたいそんな所だ、純、って言ってくれた。

 そう言ってくれた時、雫さん、少し照れてたような気がしたけど、気のせいかな。


 その後は、その起動式の前々日まで、修業して過ごした。

 この間に、ボクの身体は、すっかり女の子になった。

 身体の違和感が無くなって、とても嬉しかったのを覚えてる。

 出発の前、ちょっと荷造りして、ヘリポートからあのアリスさん専用垂直離着陸機で、米軍基地に行って、アリスさんの会社の専用機で、ボクがいろんな検査を受けたアリスさんの会社に着いた。


 後から考えると、アリスさんにはとっても悪いけど、やっぱり雫さんは日本を離れちゃいけなかったんだ。


■米国へ


 移動中に、「例の起動式」について雫さんがボクに教えてくれた。

 アリスさんの今の会社の位置って、雫さんが占って決めたんだって。良い龍脈があるからって。

 龍脈というのは、地面の中を流れる大きな霊脈の河の事。

 それと、霊脈の元は、太陽だって、雫さんは考えてるみたい。

 だから、宇宙は霊脈が枯れた場所じゃなくて、霊脈に満ちた場所じゃないかって。

 巫術師がロケットに乗って、行って視ないと確かめられないけど。

 それで、空から霊脈が落ちてきて、それが集まって龍脈になる。

 それを五行という古代の哲学の考え方で言うと、空から降ってくるものは「水」だから「雨」。色は「玄」だから、「玄雨」なんだって。


 へーって感心した。

 雫さんが継ぐ前の「玄雨神社」「玄雨」は、多分、「水」が一番初めに出来たもの、という意味から付けたんだろう、って言ってた。あ、これも五行の考え方。

 もう引き払っちゃったけど、雫さんの骨董屋さんの名前、あれが「一六堂」なのも、一と六が水を表す数字だからなんだって。あ、だから「水曜営業」だったのか。

 そうだ。五行って聞いて、もしかしたら、アリスさんの会社の名前、これからなの? って雫さんに聞いたら、

「五行を表す英語の言葉もあるが、アリスの一言で決まった」そうで。

 アリスさん、「それより、ファイブラインズの方がカッコイイ! こっちにけってーい!」って言ったって。

 アリスさんらしい。

 アリスさん、凄い人だと思うけど、あの悪ノリは、ちょっと困る。

 それと、どうして雫という名前なのかも教えてくれた。

 玄雨神社に元から有る巫術を、雫さんがいったん全部解体して、改めて編み直したものが、今の玄雨流巫術。

 その始まり、初めの一雫だから、雫なんだって。

 雫さんの宇宙観も、その時いろいろ聞けた。

 書くと長くなりそうだから、別の機会に書こうと思う。


 あ、また脱線した。


 で、起動式っていうのは、その丁度アリスさんの会社の下と言うか真ん中というか、ほら、アリスさんの会社、物凄く広い敷地に、地上から見ると、平屋の丸い一階建ての建物が幾何学的に並んでるんだけど、全部、地下五十階くらいになってて、その間を龍脈が流れるように配置されてるんだって。


 その龍脈から、本格的に霊脈を取り出す実験装置の起動式が「例の起動式」ってことらしい。


 もともとの計画だと、雫さんが、遠当ての巫術というので、起動させる予定だったんだって。

 この時知ったけど、巫術の発動場所は、術者の位置とは関係ないんだって。

 心象、イメージの力が強ければ出来る、って雫さんが言ってた。

 初めは力のコントロールとイメージの両方を訓練するのは難しいから、身体感覚を使って、気脈霊脈の操り方を覚えて、それに熟達したら、次の段階が、「無しの扇」という、「あると思えば、ある」という段階だって。

 う〜ん。正直、哲学みたいで、良く判らない。って言ったら。雫さんが優しく笑って、今はそれで充分だ、って言ってくれた。

 今回は、雫さんが直接行くから、起動式の前に、雫さんが一差し舞って、起動の最後の調整をして、後はボタンを押すだけ、っていう状態にした。

 そして、三人、あ、三柱でボタンを押して、起動した。

 龍脈から流れ出る霊脈が凄く綺麗で、圧倒的で、ボク、視とれちゃった。

 アリスさんに視せてあげたら、あのアリスさんでさえ、しばらく言葉失ってたほどだものね。

 でも、その後、雫さんがアリスさんに女神の祝福した後、なんで雫さん、あんなに怒ってたんだろう。


 そう言えば、雫さん、ボクが女神になってからな、あんまり怖い顔をしなくなった気がする。

 優しい表情の時が多くなってきた気がするな。ま、修業中は厳しい。だって師匠だものね。

 あ、思いだした。あの時は、怖い顔になってた。


 あの時っていうのは、アリスさんの会社でアリスさんに会ったら、「純くん、女の子になったのに、その服装はないわ〜。引くわ〜」ってアリスさんが言って。

 確かに、男物のしかも学生服だったから。だって、学生服来て、雫さんのお店に行ったら、いきなり怒濤の展開でそのまま女神になったんだから。

 その後も修業三昧ですよ。女の子の服買う暇なんか無いですよ。悪いですか。

 下着だけは、雫さんが、そっと間接的に渡してくれた。もし、直接渡されてたら、ボク、多分、いや確実に真っ赤になってたと思う。少し前まで、中学二年生男子だっんだから。


 で、アリスさんが無理やり時間作って、なんかのパーティーすっぽかすとかで、調整役のサーバントさん、(アリスさんの傍若無人ぶりみていると、「さん」て付けたくなりました)、大慌てでした。

 作った時間で、近くの街で、ボクの服を買ってくれるんだって。

 アリスさん専用のお店だと、ボクに合うのが無いからだって。どーせそーですよ。

 で、三人で普通の街で買い物した時だったんだけど、そこでちょとドタバタが起こって、ボクが困った事になって、雫さんが怖い顔をした。

(ちょっと長くなるから省略します。後で書きたいです)

 その後、みんなで海に行った。もちろん水着も買ってたから。

 海の所、書きたくないな。だって、水着着たら、凄く恥ずかしかったから。

 アリスさんも雫さんも「かわいい」って言ってくれた。嬉しかった。

 でも、あんなに男の人にジロジロ見られるのが恥ずかしいなんて、知らなかった。

 もしかしたら、ボク、男の子の時に、そっち側だったかも、と思って反省した。

 でも、一番嫌だったのが、恥ずかしがっているボクをアリスさんが弄ってきたこと。

 雫さんが「純を弄るな、アリス!」って怒ってくれたから、救われたけど。

 きっと、アニメの水着回なんかで、弄られる女の子キャラですよ〜だ。ボクは。


 ここだけ、アリスさんがレスくれたけど、ボクの心の傷に塩を塗り込むから、管理者権限で消しました。

「ボクを弄るのも大概にしろ!アリス!」って言えたら言いたいです。

 でも、そう言ったらきっと、

「キャ〜〜、純くんこわーい、雫ぅ助けて〜」って言って、雫さんに抱きつくんだろうな。はあ。


■『月影くん』


 あ、脱線ついでに。

 アリスさんが、ボクにブレスレットをくれた。

 何ですかって聞いたら。

「これはね〜、純くんの生理を予測する装置『月影くん』。これがあれば、吸血衝動が何時来るか、判るから便利よ〜」

 あ、って思った。そうだった。もう女の子だから、気をつけないといけない。

「これで、重い日も安心だね〜〜」

 いろんな意味で、そう思った。

 そうだ。占いや「視知の術」で、予測出来るんじゃないかって、初め思ったんだけど、雫さんが教えてくれた。

「巫術師は、直接自分の事を占っても、答えが出ない。自分の事は、直接は占えない」って。

 試しに「視知の術」で、鏡に映ったボクの姿を視たら、鏡自体の未来、割れてる状態、が視えた。

 そんな訳で、『月陰くん』を付けてる。おしゃれな普通の時計みたい。

 アリスさんの作ったメカのネーミングは相変わらず可笑しいけど、デザインセンスは良いと思う。

 吸血衝動までのカウントダウンが、時間で表示されてる。

 安心なんだけど、これ見るたびに、もう人間じゃないんだって、ちょっと感傷的になる。

 貰った時も、喜んだ後、やっぱりボクは感傷的になった。そしたら雫さんが、何も言わず、頭をくしゃくしゃ撫でてくれて、心が落ち着いた。

 そしたらアリスさん。

「あ〜〜、純くんだけなんて、雫するいぞ〜、アリスにも〜〜」

 って言って、雫さんにせがんだから、雫さん、思いっきりって訳でも無いんけど、ちょっと背伸びしてアリスさんの頭、なでなでしてた。

 ちょっと、おかしな構図だった。


■記憶の話


 あ、そうだ。これ書いておかないといけないと思う。

 女神になって、ボク、思い出した事がある。

 初めにアリスさんの会社で、アリスさんと面接した時に、アリスさんから聞かれた事。

 「純くん、あなた小さい頃、自分が宙に浮いてて、自分を見下ろしていて、その後、身体に吸い込まれて、気がついたら、今の自分になった。というか、自我を持った、みたいな記憶無い?」

 アリスさん、そういう記憶があるんだって。

 雫さんには無いんだけど、これも神の資質の一つかも、って考えてるみたい。

 質問された時は、思いだせなかったんだけど、女神になって、思い出した。

 そういう記憶、あった。

 もしかしたら、男の子の方のボクの記憶じゃなくて、女の子の方の脳の記憶だったんじゃないかって思う。

 だから、女神化して、そっちの脳が起きたから、思い出したんだろうって、アリスさんも言ってた。

 そう言えば、ちょっと違うけど、雫さんも、凄く小さい頃、「これは『鬼』だ。この子に封じる」っていう記憶があるんだって。

 なんなんだろう。


■切れた霊脈


 話しを元に戻す。キリッ。


 で、起動式が終って、雫さんがアリスさんを抱きしめて、その後良く判らないけど雫さんが怒った後、とんでもない知らせが入ってきて、それどころじゃ無くなった。

 大変な事が起こっていた。

 具体的な地名とかは、ちょっと書きたくないから省略。

 アリスさんも、書きたくない事は、書かなくて言いよって言ってくれたし。


 優しいアリスさんは好きだけど、悪ノリしてるアリスさんは嫌いです。あと、弄るのは、最悪。


 そういう訳で、特定の地名や国をさす用語、ところどころぼかしてます。


 その大変な事って言うのは、あと少しで戦争になるかも、っていう大事件。

 太平洋に面したある国のある島の領有権でもめてる大国の戦艦が、その大国の上層部の命令が無いのに、勝手にその島に急接近した。

 その知らせを聞いて、ボク達は作戦室に行く事になったんだけど、その時には、そのある国の国際的には軍隊と見なされている部隊の戦闘艦も出動してて、島を挟んでにらみ合いの状態になってた。

 両方ともメンツがあって引き返せなくなってて、このままだと、戦いに発展しそうな状態。


 でも、本当の大問題は、雫さんが永い時間かけて作った秩序制御用の霊脈と雫さんのリンクが切れた事なんだ。

 雫さんが日本を離れたのが原因で。

 世界は、秩序の自動回復能力を失っていた。

 これが元で、事が起こったんだって、雫さんが言ってた。

 そうでもなければ、世界を支配してるアリスさんが知らない紛争なんて起こらないんだから。


 知らせを聞いた後のこと。


 その事を知った後、雫さんが、どうも妙だ、と感じて、霊脈を探ったら切れているのが判った。

「アリス、私と世界秩序用の霊脈のリンクが、いつのまにか途切れている。事の原因はこれだ」

「も、もしかして、雫が日本を離れたのが、原因、なの?」

「多分そうだ。霊脈を編む時、これほど遠くに来る事など、折り込んでいない」

 アリスさんは、雫さんが日本を離れた事が原因で、リンクが切れた事を知って、すごくショックを受けてた。

「呪いが解けたのに、解けたのに!」

 悔しそうだった。肩が震えてた。

 雫さんが、そっとアリスさんを抱きしめたて優しく言った。

「アリス、今は、事を収めるのが先だ」

 雫さんの言葉を聞くと、アリスさん、急に、りんとした顔になって(多分、いつも仕事してる時のアリスさんの顔なんだと思う)、「作戦室へ行くわよ!」って、いかにも、世界を支配してますみたいな感じのモニターとか表示のある部屋に行ったんだ。

 作戦室に着くと、アリスさんが状況を把握してから言った。

 「もし、これで戦争始まったら、ちょっとコントロール外れてるから、収束させるまで時間かかっちゃうな〜。今の段階で、両方無傷で上げた手を下ろせる状況にしないと〜〜」

 って、例の調子で、でも、相当高度な政治的なコト言ってた、と思う。

 で、アリスさんが策を錬って、それが上手く行くか、雫さんが占った。

 良い結果が出るまで、アリスさんは、多分、会社の全部のリソースっていうんだっけ、を使って、作戦を練り続けた。

 ボクも初めだけ少し手伝った。

 現状のままだったら、女神が干渉しなかったら、この先どうなるか。

 まず、それを把握する事が必要だったから。

 時間が無かったから、占うより「視知の術」の方が早いから。

 作戦室の中央にある、テーブル型PCのモニターに表示されてる、その島の地図を視た。

 緊張してた所為かもしれないけど、修業の時より、はっきり視えた。

 島を挟んで、戦闘状態になってて、燃えた船、炎が視えた。海に沢山の人が浮いてた。死体だった。

 その事伝えた後、ボク、気分が悪くなって、吐いた。

 そしたら、「純、辛いものを見せてしまって済まない」って雫さんが言って、ボクは少し休む事になった。

 作戦室を出る時、アリスさんが「絶対そうならないようにするから、安心して休んでね〜〜」っていつものノリで言ってくれて、気分が少しだけ良くなった。


 雫さんが、人が死ぬのが嫌いっていうの、判った。

 巫術で人の死を知るのって、TVでそういう映像見るのとは全然違う。

 まるでその場にいて、その人達の強い思いが押し寄せてくる。そういう体験をするから。


 あの時、本当に防がないと、と思った。


 後から、雫さんが教えてくれた。

 テーブル型PCの未来じゃなくて、そこに映っているものの未来が見えたのは、ボクが遠当ての巫術を使っていたからなんだって。

 まだ、教えてもらってもいない事ができたのって、火事場の莫迦力みたいなものだったのかも、と思う。


 ボクを作戦室の近くの医務室に連れていってくれたのは、ボクより年がだいぶ下の小さな女の子だった。

「大丈夫?」と聞いてくれたけど、まだ気分が悪くて上手く答えられなかった。

 その子、帰り際に「あたしセリスっていうの」って言って、戻っていった。

 あの子も、アリスさんのサーバントなんだろうな。でも、小さい女の子のサーバントは初めて見た。


 ボクの気分が治って作戦室に戻ると、アリスさんの作戦を雫さんが占ってる所だった。

「良い結果が出たぞ、アリス!」

「やった〜〜!!」

 雫さんに飛びつこうとするアリスさんを雫さんが制して、

「念のため、一滴にも占わせる」

 って言った。

 一滴さん(でいいんだよね)が出てきて、もう一度占って、一滴さんが、

「雫さまの占いと同じ結果でございました」

 と言ったら、アリスさんが、

「作戦名は『びっくり調停大作戦』!作戦開始よ〜〜!」

 やっぱり微妙にネーミングが変だと思った。

 後から考えたら、わりと本質を突いていたみたい。

 作戦開始で、雫さんとボクは、急いで日本に戻った。


■再び日本へ


 アリスさんの会社の専用機で米軍基地に着いて、あのアリスさん専用の垂直離着陸機に乗って玄雨神社を目指した。

 そしたら、雫さん、神社上空に来たら、こう言って、言ってパラシュートも付けずにダイブしたんだ。

 「時が惜しい。私はここから降りる故、純は後から来い」

 そのまま何事もなかったように着地。

 途中、舞ってるように見えたから、きっと風の技を使ったんだと思う。

 天狗が団扇で空を飛ぶって、こういう事かと思った。


 神社に戻った雫さんは、霊脈を取り合えず繋いだ。

 本格的にやるには、かなり時間がかかるからしくて、

「無粋な技だが、今は時が惜しい」

 って、言ってた。


 世界秩序用の霊脈って、戦で望さんが死んで、戦が出来るだけ起こらないようにするにはどうすればいいか、って、雫さんが考えに考えて、秩序が乱れなければ争いは起こらない、ならば、秩序が乱れたら、元に戻るようにする(すべ)を作り出して、編んだものなんだって。

 とても永い時間をかけて、日本中に巡らされているらしい。

 そこから溢れる霊脈が世界中を巡って、世界秩序の自動修復機能が機能してるって、教えてくれた。

 だから、雫さんの体調が悪くなったり、リンクが切れたりすると、自動修復機能が低下したり、無くなったりする。


 ボク達が、そうやってる間に、アリスさんはサーバントを通じて国連を動かして、あ、アリスさんのサーバントって、世界中の重要人物かを動かせる位置に配置されてるんだって。

 だから、アリスさんが、こう世界をデザインしたいって思ったら、大抵できるらしいけど、アリスさんの頭の中は、脳内マップで言ったら全部「雫」って字で埋まってるから、あんまり、細かい事干渉してないんじゃないかな。

 でも、今回は非秩序状態で起こった異常事態だから、そうとう強引な手を使ったみたい。


 アリスさんは、国連に「特別領土問題調停機構」っていうのを作って、今回の領土問題についての調停当事者を合衆国大統領に指名して、米軍を動かせるようにした。

 ただ、大国の戦艦とある国の戦闘艦がにらみ合っている所に出て行くと、もっと問題が大きくなる。

 下手するとその大国と米国の戦争になるかもしれないし。

 それに、その国の軍艦は、世界秩序が弱くなった時に行動してるから、何かのきっかけが無いと、上げた拳を収め難い状態、なんだって。

 アリスさんは、大抵、まずそうな問題は、事が起こる前に芽を摘み取るやり方で、世界をコントロールしてるって言ってた。

「事が起こってから、対処方法を考えるなんて、おバカのすることなのよ〜〜。そうならないように、多重に策を用意して、柔軟に応用する。これが大切で〜〜〜す」

 って、例によってバカっぽく言ってたけど、とても大切な事だと思った。


 話しがまた、脱線しちゃった。

 とにかく、何かキッカケがあれば、うまく収められると言う段取りは出来た。


■雫、台風を作る


 そこで、雫さんの出番。


 この時、雫さんの事、本当に神様なんだって思った。

 雫さんは、玄雨神社から一歩も出ないで、その問題の島の近くに強力な台風を発生させた。

 玄雨神社の舞い舞台で、雫さんが舞い始めると、海水温が上昇してきて、あっという間に熱帯低気圧が出来て、それが台風に発達して。

 台風の暴風圏は狭いけど、風速は並の台風が子供に思えるくらいの激しいやつ。

 台風より、巨大な竜巻、って言う方が、もしかしたら近いのかも知れない。大き過ぎて竜巻に見えないけど。

 ボクは舞ってる雫さんと、この神様専用PCに送られてくる海水温、風速、気圧情報の両方を視ていたけど、ほんとに、雫さんの舞いと同期するように海水温や気圧か変わっていく。

 雫さんを視ると、地面からの霊脈だけじゃなくて、空からの霊脈も使っていて、まるで、雫さん身体を貫いて、天まで届く霊脈が流れる柱があるみたいだった。

 もしかしたら、神様を一柱、二柱って数えるのは、こういうの視える人がそう言ったのかも。


 そして、雫さんは台風をその島の上に三日間押しとどめると、急北上させて、すぐに消滅させた。


 その大国の軍艦とある国の戦闘艦は、台風が来るとそれを避ける為に一時撤退せざる得なくなった。

 台風が来ても、引かないかも知れないからって、アリスさんは国際世論、マスコミを総動員して、「戦闘でも無いのに死者を出す危険を犯すなんて、おバカのすることなのよ〜」キャンペーンをやったんだって。

 それで、両方の国の指導者も撤退させやすくなったみたい。

 そう言えば、アリスさんがこう言ってた。

 「落とし所を作ってあげないとね〜〜」

 アリスさんの手のひらの上で、みんな踊ってるみたい。

 で、台風が急北上、消滅のタイミングを知ってたみたいに、米軍がその島を占拠して、一時国連の管理下に置いた。

 それで、武力衝突は避けられた。領土問題はそのままだけど、ね。


 これは、その時の米海軍の軍艦の作戦開始時の映像の音声部分をテキスト起ししたの。


副官「この計画書では、作戦開始時にあの大型台風が移動する、という予測となっておりますが……」

指令「作戦通り、台風に関わらず定時に指定海域に侵入する」

副官「定刻になりました」

指令「作戦開始。指定海域に向け、進め!」

副官「た、台風が北上を始めました!」

指令「……この計画の立案者は、予知能力者か何かか……」

副官「……あの台風は、気象兵器、だったんでしょうか……」

 

 ある意味、両方当たってる。

 世界をデザインする女神が立案し、秩序を司る女神が占いで確かめて、巫術で台風を発生させたんだから。


 前にアリスさんが言ったのを思い出した。

「あたしと雫が組んで、出来ない事なんて、ほとんど無いんだよ〜〜」

 ほんとにそうだと思った。


■霊脈を繋ぐ舞い


 その後、雫さんはきちんと霊脈をつなぎ直した。

 その舞いは、台風を起した時とは全然違って、穏やかで、緩やかだった。ボクは見とれてた。

 いつかボクもあんな風に舞って見たい、と思った。

 雫さんとリンクが切れて、霊脈はところどころ途切れてるけど、一度通った霊脈の道は残っているから、作るよりは遥かに早く繋ぐ事ができるらしい。

 でも、それでも相当時間のかかるものだから、雫さんは随分長く舞っていた。


 長い舞いが終ると、雫さんは、こう言ったんだ。

 「今、張り巡らした霊脈が輝いているはず。空から見れば、さぞ美しかろう」

 ボクも視てみたい、って思った。


 霊脈の修復が完全に終った事をアリスさんに伝えたら、

「わかったよ〜〜ん。こっちも上手く行ったわよ〜。しばらくは、国連管理でいけそうよ〜」

 っていつもの調子で言ってた。

 でも、その後、凄く哀しそうなリンクの声が聞こえてきた。

 きっと泣いてたんだと思う。


「結局、雫は呪いが解けても、日本から離れられないんだ」


 ボクは真剣に、何か二人に出来ないかな

 って考えた。

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