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第5話 巫術師 玄雨雫の呪

 齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫女、玄雨雫。自称、日の本の国の神。

 そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。

 中学2年生の神峰純は、こともあろうか雫が趣味で営む骨董屋一六堂に入って行った事から、二人に神の資質を見抜かれ、神になった。そして、雫と修業する純。修業の最中、純は意外なものを視る事になる。

■アリス、帰る


 昇格の儀が終り、三人は数日共に過ごした。

 アリスの空き時間、仕事の隙間時間というべきかも、が無くなり、アリスは、それはもう、後ろ髪をそれこそ、彼女のサーバント全員に引かれる思いで、玄雨神社を後にした。

 分かれる前、当然のようにアリスは雫に抱きついた。雫はそれ程嫌そうにしなかった。アリスは、少しあれ?と思ったが、彼女にしてみれば、良い事だから、アリス嬉しい、とますます力を入れたら、流石に「苦しい、アリス」と押し返された。

 アリスは、同じように純を抱きしめた。男子中学2年生だった時の純なら、とぎまぎしただろうけれど、既に女神となった純は、アリスを抱き返した。大切な姉を思う、妹の様だった。

 だが、良い雰囲気はここまでだった。

「純くん、かわいい〜〜!!」

 アリスは素早く、純にキスした。固まる純。睨む雫。

 アリスは、余裕でウィンクすると、「ただの挨拶よぉ」と言う。

 雫は、はあ、とため息をついたが、純はと見れば、純がぷるぷる震えている。

「ボ、ボクのファーストキスが〜」と小さく呟いている。

 この一言が、アリスの悪ノリに燃料投下。

「純くんのファーストキス、頂き〜〜〜。アリス幸せ〜〜。純くんもこぉんな美女がファーストキスのお相手で、良い記念になったわね〜〜♡』

 まあ、確かに有る側面は事実ではあるものの、純がショックである事には変わりない。

「アリス!」

 雫が怒った。

「ごめんごめん。あんまりかわいいから、つい」

 てへへ、と誤魔化そうとする。

「そういう問題じゃないだろう。アリス!」

「あれ?嫉妬してるの、雫ぅ。違うか〜、どっちかって言うと、保護者の顔ね。じゃ、私も安心だ」

 雫の怒気が立ち消えした。

「世界一頼りになって、怖〜い保護者が付いているんだから、純くんも安心。それであたしも安心」

 じゃあ、というと、アリスは去っていった。

 雫は、純の肩に手を置くと、言った。

「アリスはああいうヤツだ。傷つけたとしたら、謝る」

 純のぷるぷるは収まっていた。

「もう大丈夫です。ちょっとビックリしただけです」

「修業を始めよう」

 こうして、純の修業が再開した。


■純、修業を再開する。

 

 修業は淡々と進んでいった。

 以前と違うのは、純が舞っている時に、気脈を通じ、雫が補佐を入れるようになった事だ。

 肌合わせの儀の本当の狙いは、気脈の根底的な同調にある。

 これで、師匠と弟子は、気脈を通じ、潜在意識レベルでの、共感能力を得る。

 動きや感情をまねるミラーニューロンの働きが強化され、弟子は師匠の動き、所作、技を、見ただけで、ある程度、出来るようにさえ成るのである。

 剣道で言う、見取り稽古の強化版と言えるかも知れない。

 雫曰く、「視れば判る、視れば出来る」という事らしい。

 純の上達の速度は増していった。

 雫は目について教える段階に至ったと考え、調べていた事を純に話した。

 「視知の術」の事。素質のある術者が、零脈を目に取り入れ、ものに意識を向けると、そのもっとも近い未来の変化を読み取るという能力だ。

 では、意識を向けないとどうなるか。

「それが、純が私の視点で見た、『目合わせの術』だ。近い巫術者の視点で、視る事が出来る技だ」

 その後、「運命の分岐点」について、雫は説明したが、内容が難解で、純が混乱しているのを視て取ると、雫は説明をやめて、「その内判る」と優しく言った。

 運命の分岐点。


 雫の占いが外れる事がある。ほとんど百発百中の雫の占いが、大きく反れるのだ。

 占ったタイミングと、それの後発生した事象で、未来が変わってしまったと、初めは考えられた。

 だが、ある事象が生じる事自体を折り込んで占いの結果が出る。

 とすると、それは特別な事象が原因では無いかと、アリスは調べたのだった。

 だが、事象を特定出来ない。

 事象の種類には関係しないのではないか、もしかすると、時間軸、運命が分岐しているのではないか。

 やがて、そいう仮説に至った。

 その分岐点の事を「運命の分岐点」と二人は呼んでいる。

 世界をデザインし、コントロールしているアリスにとっては、すべては予定調和である事が望ましい。

 そうでない要因は、ことごとく把握しておきたい。とアリスは考える。

 という話しを雫が量子力学から、独自の宇宙観を含め説明し始めたものだから、元中学2年生男子の純が混乱しない訳がない。

 雫は、「視知の術」の修行の方法を示すと、純に行うように言った。

「手始めに」と言って、向かって左手の社殿を示した。

「あれを『視知の術』で視てみよ」

 純が、『視知の術』で視た時、異変が起こった。


■純が視たもの


 雫の目には、一瞬ではあるが、純が消えた様に見えた。

 すぐに現れた純は、まるで幽霊を見たような顔をしていた。

「どうした、純!」

 ごくり、と唾を飲み込むと、純は言った。

「女の人が視えました。巫女装束を着た年配の女性です。左の手の甲に火傷の痕がありました」

 雫の目が見開かれる。

「望、だ」


 玄雨望は、雫の師匠であり、初めての弟子でもある。

 数百年以上前に亡くなっているが、どうやら純が視たのは幽霊では無さそうだ。

 純は視た事を雫に伝えた。

 何かの箱を持った望が、左手の社殿の床下に入ると、しばらくして出てきた。

 その時には、手に箱は持っていなかった。

 雫の記憶には、そういう逸話はなかった。

 気になった二人は、修業を中断すると、左手の社殿の床下を調べた。

 すると、床の下側に、和釘で打ち付けられた一つの箱が見つかった。

 どうやら純が見たものは、過去の映像だったようだ。

 純は「視知の術」のもう一つの力を示したのだ。

 未来ではなく、過去を視る力。

 雫は、その箱を床下からそっと引き剥がすと、二人は稽古場に戻った。

 箱の蓋を開ける。

 すると、中には和とじの書物と、もう一つの箱が出てきた。

 その書物を読む雫。

 読み進む雫の頬に、一筋の涙が流れた。


「これは望の日記だ」


■望の日記


「望は、私の行く末を占ったようだ。そして知った。私が近い将来、玄雨家の家督を継ぎ、望が務めている朝廷の占い方に任ぜられると言う事を」

 それは、つまり。

「計らずも、望は自分の死を知ったのだ。そうでなくては、占いのどおり結果にならぬ。望は、私が苦しまぬようにと、この箱を、隠す事にした、と(したため)てある」

 雫は、望が隠した箱の中から出てきて箱を指さした。

「この日記を読むと、何故、私があれ程止めても、戦場に行った理由が判った」


 望の先代巫術師、玄雨(くろさめ)(さく)は、風の技を使い、さまざま事を行ったそうだ。

 望は、自分もそういう者になりたいと、願った。

 丁度私が望の舞いを視て、人を傷つけずに事を収めた事に、心酔し、望のようになりたいと思ったように。

 だが、望には、霊脈が見えず、結果、風の技を会得出来なかった。

 その才が無い、と酷く落胆したと書いてある。

 賊が来た時、舞いを舞ったのも、自分の非力さ故と。

 もしできるならば、風の技を使い、賊を追い返したかったが、出来ぬ事は出来ぬ。

 望は、歓待と自分の舞いに賭けたのだ、と。

 大きな賭だった。舞いながら冷や汗が止まらなかったと、書き記してある。

 自分に力があれば、脅えながら酌をして回る、「さき」にあんなに怖い思いをさせずに済んだのに、と、悔しくて堪らない、とも書いてあった。

 「さき」か、懐かしい名前だ。私の昔の名前。

 そんな望に、私は風の技を教えてしまった。


 雫は上を向くと、しばし黙った。そして、遠くを見ると言った。

 「やはり、望を死なせたのは、私だ」


 望が戦場に赴く事になったのも、そして死んだのも、風の技を会得したからだった。

 だから、雫は望の死を己の責と考える。


 望の日記を置くと、もう一つ箱を開けた。

 中のものの異形に、純は後ずさった。

 雫の顔も強ばっている。

 中に入っていたのは、赤子の木乃伊(みいら)と書きつけだった。


■雫のもう一人の弟


 雫は書きつけを読み始めた。

 途端に雫の顔色が変わって行く。それはまるで、初めて純と『彦』の鍬を見た時と同じだった。

 雫は自分の身体が重くなっていくのを感じた。倒れそうになり、片手を突く。

 呼吸が荒い、目の前が暗くなっていく。

 あと少しで意識を失いかける直前、雫は、身体の内側が、暖くなるのを感じた。

 暖かさは広がっていき、身体の隅々に行き渡る。

 雫の身体は復調した。

 気付くと、純が気脈を操り、雫に送っていたのだ。

「ありがとう、純。もう大丈夫だ」

 その声を聞いて、純は溜めた息を吐きだすと、気脈を送るのを止めた。

 張りつめた緊張が溶けていく。

 雫は、箱の中の赤子の木乃伊を示すと言った。


「この赤子は、私の弟だ。名は『あと』」

 あ、と純は気がついた。

「そうだ、『さき』という私の名は、先に生まれた子供だったからだ」

 そう言うと、雫は書き付けに書いてある事を純に読んで聴かせた。


 「さき」は、巫術師になる格別の才がある。

 だが、大き過ぎる力は禍を呼ぶ。

 「さき」がもし、玄雨家に禍を成さぬよう、また、玄雨家から逃さぬよう、この「あと」の亡骸を持って、「さき」を縛る。


 純には良く判らない文面だったが、雫には、強く思いあたる事があった。

 それは、アリスにとっても。

『雫を日本に縛ってるの、それだ! み〜つけた!!!」

『そのようだアリス』

『やっぱり呪いだったんだ! 雫が日本から出られないの。初めて会って、船で一緒に米国に行こうとした時、それから、戦争が終って、飛行機で渡米させようとした時』

『いずれも私が、いつの間にかこの玄雨神社に戻ってきてしまった理由。それがこの呪い』

『あたしと雫を離れ離れにしてる、一番の原因が、それなのね!』

『「縛る」とは、正にその呪いの事』

『雫ぅ! その呪い、解ける?』

『暫し待て』

 そう言うと、雫は目を閉じた。まるで頭の中を探すような感じだった。

『有った。できるぞ。アリス』

 この後のアリスの大喜びぶりは凄まじかった。

 あれ程、雫の事を好きと言ってはばからないアリス。いつも共に居たいと、心底願っている。

 だが、その縛る呪いのため、幾度試しても、成しえない。

 数百年に渡り探しだした同胞、そして、親友、盟友、それ以上に大切に思っている雫とアリスの間を阻む、呪物。

 その呪いが解ける!

 アリスは雫といつも一緒に居られる喜びに打ち震えた。

『じゃ、それちゃちゃっとやって、こっちに来て!来て!来て!』

 が、それに雫が水を差す。

『そうはしたいが、純の修業が有る』

 雫には、アリスの気持ちが痛いほど判っている。だが、純の修業が有る。

 リンクから、アリスが必死に考えているのが伝わってくる。

『ずっと居てとは、言いたいし思ってるけど、ひとまず、あの「起動式」だけ、来てくれない?』

 アリスは相当の譲歩をした。

 それは雫にも、伝わった。

『判った、アリス。その時、そちらに行く。純も一緒だ』

 アリスは歓喜した。

 その歓喜は、一時的に単に雫が自分の所に来る、というだけのものでは無いだろう。

 おそらく、一度こっちに来てしまえば後はなんとか、などと言う腹黒い計略も考えていたに違いない。

 アリスはとびっきりの策士で、その上、トップレベルの問題解決手腕を持っているのだから。

 アリスの喜びは、やや狂気に満ちて、執務室を対象にして、ぶちまけられた。

 怪獣が暴れているような物音を聞きつけて、警備のサーバントが執務室のドアを開けると、執務室にある物を次々に投げ上げ、喜びの声を上げているアリスの姿があった。

 アリスの執務室は、壊滅した。


■鎮魂歌


 雫は、「あと」の入った箱を置くと、舞いを舞い始めた。

 純には、まるで鎮魂歌を歌っているように思えた。

 有る意味、これは「あと」の弔いなのだ。

 純は気がついた。

 弟の弔い。

 雫が初めての吸血衝動。その時の事故で、木から落ちて死んだ雫の弟『彦』。雫は玄雨神社との約定でその葬儀に出られなかった。

 もしかすると、雫は「あと」だけでなく、『彦』の弔いの舞いも舞っているのかも知れない。

 その舞いから流れ出る気脈は、「あと」の亡骸に吸い込まれていく。

 純は視た。

 「あと」の亡骸が、一瞬光ったのを。

 そして、それが、呪いが解けた瞬間だった。


 途端、純はある事を思いだした。

 いや、視た。


 熱に浮かされるように、純が意外な事を言い始めた。

「雫さんは、『彦』を殺していません。木から落ちた『彦』を助けようとしたんです」

 雫は、純が何を言っているのかと、目を見張った。

「雫さんは、『彦』を助けようとしたんです。唾を付ければ、傷が治るって、教わっていたから」

 雫の思考が停止する。

「だから、血を舐めていたんじゃないんです。『彦』を助けようと、傷口に唾をつけようとしていたんです」

 それ故、大人たちは、両親は、私を責めなかったのか。

 この時、初めて、雫は事の真相を知った。

 かくん、と純の首が下がった。

「純!」

 雫は純の前に駆け寄った。

 はっと純が顔を上げる。

「あれ、雫さん」

 純はまるで、何故雫が前に居るのか、判らない様子だった。

「何故、判った?」

「何がです? 雫さん?」

 純は意味が分からない様子だった。

「何が視えた?」

 純の頭がはっきりとしてきた。

「ボクに似た、小さな男の子の姿が視えました。あの」

 純はそこで気がついた。

 雫の両目から、涙が流れているのを。

 それを見て、純の何かを聞こうとした気持ちが消え、何を聞こうとしたかも溶けてなくなった。


 雫と純は、神社の裏にある、望の墓の隣に穴を掘ると、「あと」の亡骸と、『彦』の鍬を一緒に埋めた。

 合掌する二人。

 雫は、自分の心の動きを見詰めていた。

 罪の意識から、ずっと持っていた、『彦』の鍬。

 『彦』に似た純を見た事から、純は女神になった。

 そして、雫のもっとも重い枷を二つ、取り去ってくれた。

 『彦』の事。望の事。

 そして、自分を縛る呪いを解く切っ掛けとなってくれた。

 いろいろな思いが、雫の中を駆け寄った。

 日記を読んで、望の事も判った。

 望は先代当主玄雨朔が、「さき」に呪いをかけた事もあり、また、ちょうど自分の子供のような年と言う事もあって、本当に「さき」の事を想っていたのだ。

 その愛情を、雫は初めて知った。

 「あと」の亡骸を知れば、「さき」は、苦しむ。

 自分が死んだ後、家督を継げば、いずれこの箱を見つける。

 己の死を知った、自分の日記も、「さき」を苦しめるかもしれない。

 二つとも、「さき」の目の届かない所に隠そう。

 望の気持ちが、雫には、今となってようやく判った。

 純と言う弟子を持って、初めて、守るものを持って。

 合掌する雫の目から、頬へと涙が落ちていく。


 二人は合掌が終ると、立ち上がった。

 雫は純の方を向いた。黙っている。

 純は私に、いろんなものを運んできてくれた。

「ど、どうしたんですか」

 いつにない雫の様子に純は戸惑った。

「何でもない」

 そう言うと、雫は稽古場に向かって歩き出した。

「修業の再開だ。純」

「はい」

 そう言うと、純は雫の後を追った。

「あ、あの、アリスさんが言ってた『起動式』ってなんですか?」

 雫は純を振り返ると、ふっと、表情を緩めた。

「行って、視れば、純にも判る」

 そう言うと、雫はまた背を見せて歩き始めた。

 純も何も聞かず後を追う。

 今の雫さん、少し感じが違ったな。なんだか、良く判らないけど、重い荷物を下ろしたみたいだ。


■純、女神(完全版)になる


 昇格の儀から、二週間が過ぎた。

 純の身体は、完全に女性になっていた。

 「雫さん、これで完全に女神ですね」

 純がそういうのを雫は嬉しく思った。

 儀の後、自分の身体を鏡で見た純がした、嫌な表情が気になっていたから。

 昇格の儀で、心は先に女性になったが、身体が完全に女性になるにはさらに二週間が必要だった。

 その間、純は男性の身体に違和感を抱き続けていたのを、雫は知っている。

「え、雫さん」

 急に雫に抱きつかれて、純の頭は混乱した。

 え、雫さん、どうしたの。え、え、?

 雫はすっと離れると、くるりと後ろを向いた。

「祝福だ。先輩の女神からの、な」

 純は、腑に落ちなかったけど、その言葉を無理に飲み込んだ。

 無理に飲み込んだのは、後ろから幽かに見える雫の耳が赤かったからだ。

 ありがとう、純。

 私の心の枷と呪いを解いてくれて。

 いつか、純にお礼がしたかった。

 なかなか機会が掴めず、純の完全女神化という事のお祝いに乗る形で、お礼をしたのだった。

 だが、自分から考えて抱きしめる、という行為に慣れていない雫は、抱きしめた後、自分の行動が急に恥ずかしくなった。

 顔が赤くなっていくのが判る。

 見られたくない!

 それで急に後ろを向いたと言う訳だ。


 一部始終をリンクで感じ取っていたアリスは、心穏やかではなかった。


 確かに完全女神化の祝福は良いよ〜〜。

 でも、赤くなって、くるって、後ろ向くなんて、ソレ、なんであたしじゃなくて、純くんが先なのよ〜。

 くそ〜〜〜。

 こうなったら、起動式が成功したら、おんなじ事してもらうもんね〜〜。

 ぜ〜〜ったい、雫にそういうコトしてもらうんだから〜〜〜。

 起動式の後、雫を返さない策略、タンカー五隻分くらい準備しちゃったもんね〜。

 きしししししし。


■起動式


 その「起動式」の日の前々日に、雫と純は米国のアリスの元へと向かった。

 玄雨神社近くのヘリポートからアリス専用の垂直理着機で、米軍基地へ飛び、アリスがCEOを務めるファイブラインズ者の専用機で、米国へ向かった。

 「じゃ〜〜〜ん。これが、龍脈微弱捕獲装置、通称『龍巻きくん』よ〜〜」

 純は思った。

 ボクの昇格の儀の時と同じ、悪のりアリスさんが、また、出た。

 「流れる龍脈から、霊脈を、ちょっとだけ取り出して、こっちの、力場に巻き取るから『龍巻きくん』なの〜」

 雫が、はあ、とため息をつく。

「相変わらず、アリスの意匠の趣味は、どこかおかしい」

 ぷ、と純が吹きだす。かろうじて笑い出すのを我慢する。肩が震えている。

「なによ、純くん!」

 口から手を放して、純は言った。

「だってアリスさん、こんな巨大なものの名前が『龍巻きくん』なんですか、『くん』なんですか」


 アリスの会社を何処に置くかにあたり、雫が占って場所を決めた。

 運気という点を考慮して、龍脈の流れる場所を選んだ。龍脈、つまり、地面の下を河のように流れる霊脈の流れ。

 雫の選んだのは、龍脈の中でもかなり大きなものだった。

 アリスの会社の建物は、その龍脈の流れを阻害しないように、龍脈の両側に、地上から見ると幾何学的にいくつも配置されている。一つ一つは円形の平屋だが、地下50階もある。

 『龍巻きくん』は、霊脈の流れの両側に配置された、龍脈から霊脈を取り出し、発生させた力場に閉じこめる装置。

 その大きさは、地下50階あるアリスの社屋群の一つと同じ大きさの巨大な物体だった。

 大地の中を流れる龍脈は、外からは見えないが、純はその流れを感じていた。

 純は思った。

 そう言えば、前に検査の時に来た時、低いうなりみたいなのをときどき感じたのは、これだったんだ。

 アリスの会社の施設で、純は精密検査を受けた。その結果、女神である事が判明したのだ。

 「起動式」というのは、アリスが言う所の『龍巻きくん』の火入れ式という事だった。

 「起動式」と言っても、社外秘というか神様だけのヒミツなので、偉い人のスピーチも、テープカットも無い。無駄が嫌いなアリスは、最低限の事しかしないので、ぜんぜん「式」らしくない。

 「式」らしいものと言えば、最終調整のために、雫が一差し舞ったくらいだ。

 「で、これが、『龍巻きくん』の起動スイッチ。『龍巻けくん』よ〜〜」

 そう言えば、『純くん改造マシ〜ン』の時も、そういう事言ってた。と純は思い出した。

「でね、これを女神三人で、あ、三柱で、一緒に押すの〜〜〜。それが『起動式』!」

 純は、あ、と思った。

 そうか。

 これがアリスさんのやりたかった事なんだ。だからあんなに喜んだんだ。

 素直な純はそう思うと、嬉しくなった。

 アリスがタンカー五隻分もの、雫引き止め作戦を準備しているとも知らず。

「いい、一緒に押すんだよ〜〜。掛け声はいつもの。せ〜の」

「ぽちっとな〜〜」

 仕方なくアリスのノリに付き合う雫。嬉しそうに言う純。

 『龍巻きくん』が起動し、龍脈から霊脈を力場に巻き取り始める。

 巻き取られた霊脈の流れを、純は視た。

 凄まじい量の霊脈だった。青白い光の筋が数え切れないほど、それが途方もない密度に詰まっている。

 荘厳な美しさだった。

 思わず、純の口が空いていく。

「なになに〜〜。そんなに綺麗なの〜〜。視せて、視せて〜〜」

 霊脈を目に飲み込んで、その一部を出して、アリスの目と繋ぐ。

 アリスが言葉を失った。

 自分で作ったものが、どういう流れを生み出したのか。

 アリスは感動していた。永い記憶を持つアリスにしても、この光景は圧巻だった。

 思わず、口に手を当ててしまう。

 無理も無い。

 雫は思った。初めて龍脈の一部でも見れば、そう感じる。

 はっとアリスは自分を取り戻した。彼女には起動式の後、やらねばならぬ事がある。

 ぱっと両手を広げるアリス。

 きょとんとする雫。

 「はーい。雫ぅ。起動式大成功〜〜! 私にも、女神の祝福して〜〜♡」

 はあ、とため息をつくと、アリスを抱きしめた。

「おめでとう。アリス。起動は大成功だ」

 アリスは心の中で思った。

 こっちも大成功だよ。あ、これからか。

 アリスは小さい声で、言った。

「純くん抱きしめた後、なんで真っ赤になったの?」

 ぼっ。

 瞬間湯沸かし器のように、一気に雫の顔が真っ赤になった。

 慌ててアリスから離れると、誰にも見られないようにくるりと後ろを向く。

 やった〜〜〜!!作戦大成功〜!!

 アリスは大喜び。

 なにがおこったんだろ?

 純には何が起こったのか、よく判らない。

 そうして、雫の手を見た。ぷるぷるしていた。まるで何か我慢しているみたいに。

「アリス!」

 雫は振り返るとアリスに向かって怒鳴った。

 顔は赤いが、今度のは「怒り」だ。

「なになに〜〜」


 いつもの二人のドタバタが始まろうとした時、ある知らせが飛び込んできた。

 世界をコントロールするアリスがデザインしない出来事の知らせが。

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