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第33話 巫術師 玄雨純と灯

 齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫術師、玄雨雫。自称、日の本の国の神。

 そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。

 スーパーソーラーストームが防げない。時を巻き戻そうとした灯。だが、リンクに別の声が溢れた。

■声


『なに、今の!?』

 アリスの問いに、誰も答えられない。

 灯の声に似ていたが、だが、言っている内容がおかしい。

 雫にも判らない。

『あ!』

『どうした、灯』

『説明するより、視た方が、いいです』

 動揺している灯の声が、雫とアリスに届いた。

 二人の視界が、灯のものに変わった。

 宇宙空間。地球で見るよりも遥かに大きな太陽。

 だが、二人が固唾を呑む程、背筋に寒気を覚える程の驚きを覚えたのは、その視界に、宇宙服「ベネット」が多数現れていたからだった。

 宇宙空間に巫女装束に似た宇宙服が多数。

 その数、二十三。

『何が起こったの、雫』

 アリスの問いに、雫も答えられない。

 少しの沈黙の後、再び声が響いた。

『一緒に。今度は上手くいくから。ボク達が付いてる!』


■二十四の灯


 灯は判った。

 あれはボクなんだ。

 そして、何をしようとしているのかも判った。

 アリスと雫は、灯が舞いを舞うのを感じた。

 「空の穴」の舞いだ。

 だが、少し動きがゆっくりだった。

 まるで、大きなものを成すかのように。

 そして、アリスと雫の視界には、灯と同じように、ゆっくりと「空の穴」の舞いを舞う、二十三の「ベネット」の姿が視えた。

 灯は目を閉じた。

 アリスと雫の視界に、太陽と、そして地球が現れた。

 視界が、灯の心象に切り替わったとアリスと雫は理解した。

 俯瞰の様な心象の風景の中の太陽と地球、その太陽よりの位置に、それが現れた。

 巨大な「(くう)の穴」、その数二つ。

 その直系は、地球の二倍以上。

 途方もない大きさだった。

 太陽のフレアの活動が活性化した。

 スーパーソーラーストームが発生した。

 巨大なフレアが、地球に向かって噴出する。

 それの姿は、暴れる巨大な炎の龍のようだった。

 炎の龍が、地球目がけ飛翔する。

 だが、その途中には、巨大な「空の穴」。

 炎の龍は、「空の穴」に触れると、もう一つの「空の穴」から流れ出た。

 龍の進路は、地球から完全に反れていた。


『い、今のは、何?』

『灯の視知の術、だ。地球は救われた』

 二人の視界が、再び宇宙空間に戻った。

 二十三の『ベネット」の姿が目に入る。

『ありがとう』

 そういうリンクの声が聞こえた。

 ふわり。まるで、宇宙に溶け込むように、一つの「ベネット」の姿が消えた。

『ありがとう』

 ふわり。まるで、宇宙に溶け込むように、別の「ベネット」の姿が消えた。


『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』

『ありがとう』『ありがとう』


 木霊のように、同じ声が聞こえた。

 その度に、一つ一つ「ベネット」の姿が消えていく。そのどれも、宇宙に溶けて行くように。


『この声って』

 まるで、代替わりする時、消えていくあたしの子供たちの声にそっくり。

 アリスはそう想った。

 アリスが死に、代替わりすると、次のアリスとなるアリスの子供の人格が消える。その際、その子供の人格は、消えゆく最中、現れたアリスの人格と会話する。そして、「ありがとう」という言葉を残し消えていく。

 それにそっくりだと、アリスは想ったのだ。

 理由を知らず、アリスの両目から涙が溢れた。


 視界に残ったのは、一つの「ベネット」。

 その「ベネット」が風を使い、近づいてくる。

 その「ベネット」は「空の穴」の舞いを舞う。そしてその手が、灯を押した。


 アリスと雫の視界が自分のものに戻った。

 暫しぼう然とする二人。

 だが、雫は気付く。そしてアリスにもその知らせが届く。

『灯が、「ベネット」を着たまま境内に!』

『時の女神の反応、玄雨神社!』

 アリスは素早く行動を起した。

『雫、アウターのヘルメットの頚の所、緊急開閉スイッチがついてる! 灯ちゃんを!』

 そう言うと、アリスは固定された「空の穴」のある、玄雨神社分社に急いだ。


「灯、聞こえるか、灯!」

 アウターを脱がせ、灯からヘルメットを外す。そして雫は灯に呼びかけ続けた。

 気脈の流れが弱い。

 インナーが神脈の状態では無くなっている。

 雫は、インナーに装着された木札が割れている事に気がついた。

 灯の気脈が次第に弱く、細く、そして、輝きを失っていく事を、雫は認めざる得なかった。

 このままでは、灯が死ぬ。

 雫は必死に、懸命に気脈を錬ると、灯に流し込み続けた。

「雫! あたしも手伝う!」

 玄雨神社に現れたアリスは、灯の側に駆け寄ると、雫と同じように気脈を錬り、流し込んだ。

 だが、灯の気脈は、所々、黒く変わり始めていた。

 亡くなる前のベネットのように。

「灯ちゃん! 地球が救われたのに、灯ちゃん死んじゃったら、何にもならないじゃない! そんなの、あたし嫌だよ」

 アリスの声が震えていた。

「灯ちゃん! お母さんに、純くんに会いたいんでしょう! 会う前に死んじゃったら、純くんが哀しむよ! お願い、目を覚まして!!」

 ごく幽かだが、灯の気脈に輝きが戻った。

「アリス!」

 雫はアリスを見ると、強い声音で言った。

「純の事が、灯の命を繋ぐ!」

 アリスは小さく頷くと、言葉を続けた。

「純くんに会えるように、灯ちゃん、強くなってるんだよ。お母さんに会えるよ、必ず。だから死なないで。産まれる前に死んじゃうなんて、灯ちゃん、そんなの嫌だよ。純くんもきっと、ぜったい、哀しむから、お願い、お願い。目を覚まして!!」

 アリスは叫んでいた。

 幽かに輝きが増した灯の気脈を黒い陰が覆っていく。

 気脈を送る雫の額に、汗が滲んだ。

 灯が死ぬ。

 その想いは、雫に、恐怖にも似た哀しみを予感させた。

「死ぬな! 灯! 頼む」

「灯ちゃん、お願い!」

 二人が必死に気脈を送る。だが、黒い陰は次第に灯の気脈全体を覆おっていく。


「灯!」

 境内に、灯を呼ぶ声が響いた。

 雫もアリスは北側、舞い舞台側から灯に気脈を送っていた。雫は灯の頭側、アリスはお腹側。

 灯を呼ぶ声は、南側、境内側から。

 灯に集中しているアリスと雫は、その声に気がつかない。

 声の主は、ふらつきながらも灯に駆け寄ってくる。

「灯!」

 声の主は、灯の側につくやいなや、灯を抱きかかえた。

 厚いコートにマフラー、手袋をしている。

「灯! 灯!」

 新たに現れた人物に、アリスと雫は、気付くと、驚きの声を上げた。

「純!」

「純くん!」

 純は手袋を素早く脱ぐや、灯の胸元、木札が入っている所に右手を添える。

「灯! 目を覚まして。ボクまだ、灯を産んでない。でも、でも、もう灯はここにいるんだよ」

 純は左手をお腹に添えた。

 純の下腹部に、小さな輝きが灯った。その輝きは次第に大きくなっていく。そして、その輝きは光の帯となり純の右手へと流れていく。

 割れた木札が輝いた。

 インナーの身体に沿った線が、脈打つように光る。

 インナーが、再起動したのだ。

 周りの霊脈が、インナーを通じて灯の身体へと、流れ込んでいく。

 黒い陰の広がりが弱まった。

「アリス!」

 雫の声で、アリスは灯の胸元に、純の右手の上に手を重ねた。そして気脈を流し込む。

 その上に、雫の手が乗せられる。

「灯ちゃん!」「灯!」「灯!」

 三人が叫ぶ。

 手を添えられた三人の手の上に、霊脈の柱が形作られた。渦を巻いて、さながら、安寧の舞いを舞う時の女神の霊脈の柱のようだった。

 灯を覆う、黒い陰が消えてゆく。


 灯の瞼が動いた。

 三人が息を呑んだ。

 灯の瞼がゆっくりと開いていく。

 灯の瞳に、三人の姿が映った。

「お…お母さん」

 灯は小さい声で言った。

「お母さん!!」

 灯はそう声を上げると、純に抱きついた。

「灯!」

 ほっとするアリス。その様子をじっと見詰める雫。

 ほっとしていたアリスが、警戒するような目を、雫に向けた。

『雫、灯ちゃんに純くんの記憶!』

 雫は灯を見詰めるのを止め、アリスの方を向く。

『大丈夫だ。気脈に乱れは無い。灯は純と会っても、記憶の流入を防いでいる』

 良かった。

 アリスの肩から、力が抜けた。

 雫は純に顔を向けた。

「純、どうしてここに」

 雫が問うた。

「あたしが連れてきたんだよぅ」

 純が駆けてきた境内のその場所から、別の声が響いた。あだっぽい声が。

 雫とアリスがその方を見る。

 そこには、白酉(しらとり)(つぶて)、死に神の姿があった。


四神相応(しじんそうおう)、再び


「お互い、判らない事だらけだろうから、まずは、あたしから知ってる事を話そうかねぇ」

 再び眠りについた灯を、雫の部屋に寝かせると、雫、アリス、純、礫の四人は、舞い舞台へと戻ったのだった。

「あたしの店に『空の穴』が現れたら、妙な巫女装束をした灯が現れたのさあ。妙なのはその格好だけじゃない。言ってる事も、妙だったよぅ」


 ボクが、最後のボクが死にそうなんです。礫さん、お母さんを、お母さんを連れて玄雨神社に! お願い! 急いで!


「そう、必死に言うんだ。訳は判らないが、灯が必死に頼んでいる。東雲(しののめ)の守り神としちゃあ、ほおっては置けない。判ったよぅ、と返事をしたら、『お母さん』と言って、お腹を押さえるんだ。その意味は判った。あたしは頷いて、東雲に電話したんだ。これから純ちゃんを玄雨神社に連れて行かなきゃいけない。訳はあたしも知らない。お前の娘が、母を連れて行けと必死に頼んだ。純ちゃんには、できる限り暖い格好をさせろ、とねぇ」

 礫は想い出していた。

 礫がそう、春喜に告げている間、その妙な巫女装束の灯の姿が薄れていくのを。

「電話が終った時だよぅ。灯が消えたんだ。いつもの『空の穴』の消え方じゃない。そうだねぇ。まるで、墨を一滴、水に落としたみたいだったよぅ。溶けるみたいに消えていったんだ。あたしもいろんな怪異を見たけど、あんなのは初めてだ。胸騒ぎがしたよぅ」

 そして礫は、飛翔の術を使うと、東雲家がある漢方薬局福寿堂が入っているビルの屋上に跳んだ。

「東雲は心得てて、ビルの屋上で純ちゃんと居た。あたしがそこに来ると、察してたんだねぇ。急いで跳ぶから、寒くなる。だから純ちゃんには暖い格好をさせろと言いつけた。東雲は言いつけを守った。懐妊したては寒くするのは毒だからねぇ」

 純は身ごもっていたのだ。

「で、急いで神社に跳んだ。ついたら驚いたよぅ。灯が倒れて死にそうになってるじゃないか。純ちゃん、灯に気がつくと、ふらつきながら、灯の方に走ってく。転ばないかと心配したよぅ」

 礫の飛翔の術は、質量を軽減させる術と重力操作を組み合わせて使う。そのため、共に跳ぶものは重力の変動で、三半規管が少しばかり混乱する。眩暈がするのだ。

「ボクにも、灯が死にそうなのは判りました。巫術はほとんど使えなくなりましたけど、気脈を視る事はできましたから。死にそうになってる灯を視たら、身体が勝手に動いて、走って、叫んでました」

 雫は理解した。

 灯を救った、インナーを再起動した気脈の正体を。

 もう一人の灯。まだ純の胎内に居る灯が、気脈を操ったのだと。

 アリスは両手を突くと、礫に向かい、頭を下げた。

「灯ちゃんを救う手助けをして頂き、本当にありがとうございます。時の女神が救われました」

 その言葉の終りの方は震えていた。

 雫もアリス同様、両手を突くと礫に向かい、頭を下げた。

「礫殿。灯を助けて頂き、誠に有り難う御座います。日の本の国の神、この恩義、決して忘れは致しません」

 礫は少しばかり、照れ臭そうな笑みを浮かべた。

「大げさだよぅ。あたしは東雲の守り神。灯は純ちゃんの娘。助けるのは当たり前だよぅ。玄雨や世界一の大悪党に礼を言われる事じゃないよぅ」

 礫は、ああ、と言った。

「礼と言うなら、一体何があったか、教えちゃくれないかい? うちの店に来た灯はなんなんだい? どうも消え方といい、もうこの世のものじゃないみたいだったよぅ」

 雫とアリスは頭を上げた。

「お話致しましょう、礫殿。私共が何を成そうとしていたかを」


■時の女神救出大作戦


「驚いたねぇ。そんな事をしてたのかい」

「灯はそんな事を」

「純も、二度世界を救ったが、灯も世界を救った。そして」

 雫は純を見た。

「自分の母を哀しませぬよう、それを成した」

「この作戦の名前『時の女神救出大作戦』というの。灯ちゃんが付けたのよ。あたし判った。自分が無事産まれたい、という意味じゃないって事。時の女神って、純くんの事だって。純くんを哀しませたくないって事だって」

 だから、とアリスは言葉を続けた。

「灯ちゃんが死んじゃうなんて、あたし、嫌だった」

「灯が親孝行な娘なのは、あたしも判ってるよぅ」

 それにしても、と礫は想った。

 女神達は途方もない事をしてるもんだねぇ。あたしは死に神で良かったのかも知れないよぅ。

「だけどさぁ、それじゃあ、ウチの店で消えた灯や、その、宇宙に現れた他の灯が何だったのか、誰も知らないという事になるねぇ」

「左様。私共も、そこは謎なのです」

 ですが、と雫は口にした。

「時の女神が関わる事、時に関わる出来事かと」

「事は成る、結果として、かぃ。妙な占いだねぇ」

「誠に。この時の線であるけれど、他の時の線のような」

 舞い舞台に暫し沈黙が訪れた。


■灯、目覚める


「お話します」

 舞い舞台に、その声が響いた。

 全員がその声の主の方を見ると、インナーの上に普段の巫女装束を着た灯が立っていた。

 灯は四人の側に近寄ると、正座した。

 そして、三つ指突くと、丁寧に頭を下げた。

「ボクを助けて頂き、ほんとうに有り難う御座いました」

 灯は頭を上げた。すっと母、純の方を見る。

「お母さん、本当はもっと一緒にいたいけど、ごめんなさい。ボクまだ、お母さんと長く一緒にいられません。今はなんとか、防いでるけど、お母さんの記憶、お父さんとの記憶が流れ込んでくるの、長く防げません」

 灯は立ち上がると、舞いを舞った。

 ふわりと純の身体が持ち上がった。純の足には、脱いだブーツが履かされている。

「お母さん、光が産まれて、七つのお祝いを祝う時、ボク、お母さん、お父さんと会えます。それまで、お別れです」

「灯」

 純は、自分のお腹に両手を重ねた。

 灯は「空の穴」の舞いを舞う。純は自分の後ろに「空の穴」が現れるのを感じた。

 灯は純を「空の穴」へと押した。

 純は消えた。

 灯の両目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

 灯は、純が座っていた席に座った。

「それでは、お話します。何が起こったかを」


■時の女神の事の次第


「まず、現れた二十三の『ベネット』は、ボクです。少し離れた時の線の」

 雫が、やはり、という顔をした。

「初めのボクは、小惑星がスーパーソーラーストームの原因でなく、作戦が失敗したと知った時、スーパーソーラーストーム自体の向きを変えようと、『空の穴』で成そうとしました」

 だが、いかにアウターやインナーで強化した時の女神の力でも、太陽から放たれる炎の龍、そのすべての向きを変える事は敵わなかった。

「視知の術で、それが叶わぬと知ると、初めのボクは、極僅か、時を遡り、次のボクと共に、『空の穴』で防ごうとしました。ですが、それも叶いません」

 雫もアリスも礫も、何が起こったかを悟った。

 都合二十三回、少しずつ時を遡り、二十三人の灯が、今の時の線に現れたのだ。

 遡る毎に、時の線は枝分かれしていった事になる。

「そして、最後のボクと力を合わせて、大きな『空の穴』成し、願いを叶えました。地球を救う願いを」

 雫は頷いた。

「成程。アリスの科学力で強化された二十四人の時の女神の力が、防いだ。しかし」

「二十三人の時の女神がいた時の線は、焼き払われた未来。そこでは誰も助かりません。因果律に従うなら、ボクは産まれない。二十三人の時の女神は、この時の線に留まる事を止め、因果律に身を任せました」

「だから、存在が消えた、のね」

 だから、ありがとう、って言ったのね。

 自分の世界はなくなっちゃったけど、一つの時の線は救う事が出来たから。

 だから、消えていくあたしの娘達みたいな事、言ったのね。

 アリスの頬を涙が流れ落ちる。

『ママ、あたしでもそう言うよ』

 セリスの心の声が、アリスに届いた。

『消えていった灯ちゃん達の気持ち、あたし判る』

「だが」

 雫が言った。

「この時の線の灯は、力を使い過ぎ、木札が割れた。気脈をほとんど使い果たし、死ぬ寸前だった」

「はい。一つ前のボクはそれに気がつくと、『空の穴』でボクを玄雨神社に飛ばしました。そして」

「あたしの店に現れたんだねぇ。あたしに頼むために」

「はい。ボクを助けるには、もう一人のボクの力が必要だと知っていたから」

「純くんのお腹にいる灯ちゃんね」

「それと、光の力も。ボクが産まれる前に時を遡る時、光の力を全部貰いました。貰う前は光も時の女神」

 雫も、アリスも、そして礫も作戦名の本当の意味を知った。

「お母さんを哀しませず、光が産まれる未来。ボクだけでじゃなく、三人の時の女神を助ける作戦だったんです」


「あたしは帰るよぅ」

 礫は境内に降り立った。

「それにしても、二十三もの世界の犠牲の上に、この世界があるんじゃあ、死に神としてもしっかり働かないといけないねぇ」

 その声音が聞こえた時には、礫の姿は消えていた。礫の立っていた所には、小さい風が起こっている。

 雫の目には上空に光る球体が見えた。それを見送りながら、雫が言った。

「事は成る、結果として、という占いの意味が判った。事はこの時の線で起こった。故に私の占いは当たった。だが」

 枝分かれした二十三の時の線。

「他の時の線が織りなして、事が成った。よって、結果として、という占いとなった」

「雫、灯ちゃんが眠ったわ」

 アリスの声で、雫が振り返ると、アリスの隣で眠っている灯の姿が雫の瞳に映る。

「早く、灯ちゃんが純くんと会えると良いね」

 雫は微笑んだ。

「時の女神の神託は、光が七つのお祝いの時、とある」

 少し言葉を区切ると、雫は言った。


「必ず会える」


■光と灯


 東雲光が産まれる前、産婦人科の超音波診断では、双子と告げられていた。

 だが、光一人が出産された。

 医者は頚をひねったが、母純はやはり、という顔をしたという。

 そして、光は自分と共にある、幽かな友達、いや、姉の存在に気がついていた。

 光が何か危ない目に遭いそうになると、必ず、そうならないようにしてくれる存在の気配を、光は言葉を覚えるずっと前から感じていた。

 光は、その存在を「灯」と呼んでいた。

 光の秘密の友達。不思議な姉。

 幽かに自分、光の側いにいる存在、「灯」と。

 自分を守る、幽かな存在、と。

 そして、東雲光は六つになった。


■前日


「明日、七五三のお祝いをするから、お母さんのとても懐かしい場所に行くの」

 光が保育園から帰る時、母純がそう言った。

「どこに、いくの?」

「玄雨神社」

「とおいの?」

「…遠くて、近いの」

 母純はそう言うと、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しいような、悲しいような、複雑な顔を浮かべた。

「…やっと、会える」


■再会


 その日、東雲家の人々は、東雲家が営む漢方薬局福寿堂があり、家族が住んでいるビルの屋上に居た。

 十月終りのその日、その季節にしては、やや暖い風が吹く日。 

 全員が光の七五三のお祝いの装い。光は振り袖を着ていた。

「純ちゃん。やっと会えるのね」

 義母の(しのぶ)が純に声をかけた。

「はい。…やっとです」

 そう純が言った時、純は漆黒の球体が現れたのを視た。

 そして、東雲家、五人の前に、急に人が現れた。

 純と春喜(はるのぶ)は、手を繋いだ。そしてその繋いだ手にともに力が込められるのを感じた。

 光はまるでこうなるのを知っていたかのような、既視感を覚えた。

 光の弟の青樹(あおき)は、ぽかんとしていた。

 春喜の母の忍は、神としての純と初めてあった時を想い出していた。

 現れたのは、巫女装束の六つくらいの少女だった。

 そして、現れた巫女装束の少女は、光にそっくりだった。

 少女は言った。


「玄雨神社にご案内致します」

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