第32話 巫術師 玄雨純の試し
齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫術師、玄雨雫。自称、日の本の国の神。
そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。
作戦用の宇宙服で新しい術を成した灯が、玄雨神社に戻ってきた。
■蛙
「お帰り、灯。大体の所は判っている」
雫は、微笑んだ。
純といい、灯といい、驚かされるばかりだ。
灯、はちょっとほっとした。
良かった。
そう思って、灯は気がついた。
礫さんの技、勝手にまねして怒られるかもって、思ってた。
「弟子の上達を叱ったりしない」
雫の灯を見る目は暖かった。
『灯ちゃん、インナーの酸素は2時間分だから、一度脱いで、こっちの準備が出来たら、着て来て。脱ぎ方は、着る時の逆だから。あ、先に木札外すの忘れないでね〜』
リンクでのアリスからのメッセージだった。
「雫さん、着替えてきます」
灯は、浴室に行きインナーを脱ぐと、いつもの巫女装束に戻った。
「先程の術だが」
舞い舞台に戻った灯に、雫が言った。
「はい。『空の穴』の舞いに似てるんですけど、もう少し、荒い感じなんです。扱う対象と言うか、そういうのが」
その言葉に、雫はやはり、というように頷いた。
空間を直接繋ぐ「空の穴」に対して質量を軽減させる技は、おそらく、物質のレイヤーのやや上の方、荒い方に作用する、と雫は考えていたからだ。
「舞ってみます」
と灯が舞おうとすると、雫が止めた。
「今はやめた方が良い気がする。おそらく、インナーの補助が無いと、術への熟達が必要。おそらく、しばらく眠る事になると思う。純が『空の穴』を初めて成した時のように」
あ、そうか。と灯は思った。
「それにしても、アリスのラボで作ったインナーの仕上がりは素晴らしいな」
『んふふふ。その内、地上用の巫術師サポートウェア作っちゃうからね〜。もちろん雫のも〜』
得意満面なアリスが想像出来るリンクの声に、雫は少々嫌そうな顔をした。
『アリスの妙な趣味が入らなければ、喜んで頂く事としたい』
『なによ〜。ちょこっと、カエルっぽくしてあげるだけよ〜』
『それを余計な趣味と言う』
暫しの沈黙の後、アリスがぽつりと言った。
『カエル好きなくせに』
『ふん。カエルは好きだが、カエルになるのは別だ』
あれ? いつもアリスさんから貰ったカエルの着ぐるみ風パジャマ着て寝てるのに、変なの。と灯は思った。
『え? あ、こっち相談やら提案で行列出来てるからこれでね〜』
アリスがリンクでの会話から抜けた。
「アリスは忙しいようだな」
「ボクが、新しい術を成しちゃったから、ですよね」
「灯が気にする事は無い。むしろアリスが言った通り、策にとっては良い結果だ」
雫は、灯の瞼が少し下がってきているのに気がついた。
「灯。少し休んだ方が良い。インナーの補助が有っても、やはり疲労している」
灯も、自分の頭が少しぼおっとしてきたのに気がついた。
「すみません。少しだけ休んできます」
灯は雫の部屋に行こうとした。そして、ちらり、と雫を見た。
雫は優しく微笑むと、「一緒に寝てあげよう」と二人で雫の部屋で休んだ。
しっかりしている所も有るが、甘えん坊な所はまだ残っている。
灯を寝かせ付けている時、そう雫は思った。
■二術同刻
二時間ほど、灯は眠った。
灯が目を覚ますと、雫と灯は舞い舞台に戻った。
「灯、二つの無しの扇の修業のおさらいだ」
二つの無しの扇。
同時に二つの無しの扇を作る修業。
同時に二つの術を行うための基本的な習得工程。
アリスが宇宙服を用意している間、雫は灯に必要と思われる新しい巫術の技を教えていたのだ。
灯は目を閉じると、両腕を水平に広げ、開いた手のひらを上に向けた。
灯が目を開くと、両手の平の上に、無しの扇が形作られた。
灯の心が、同時に二つの意識に振り分けられた。同時に二つの事を考えるのに似ていた。
右手の無しの扇は右回転、左の無しの扇は左回転を始めた。
左右対称に動かすのは、比較的難度が低い。
「次へ」
雫がそう言うと、灯の左手で回転している無しの扇がいったん止まり、水平を軸に回転し始めた。
その様子を視る雫の顔は、満足そうだった。
「充分だろう」
灯は無しの扇を消した。
「灯、これで同時に二つの術を成す事が出来よう。次にアリスの所へ跳ぶ時、自分で無しの扇を成し、「空の穴」で跳んでみると良い」
同時に二つの術を成す、その意味と意義を灯は知った。
「これで、『空の穴』の術は、実質的に灯の知っている場所、心に描ける場所に跳べる術となる」
そう雫が言った時、アリスがリンクで伝えてきた。
『アウター準備終了よ〜。灯ちゃん、インナー来て、こっちに来て〜』
■アウター
「雫さん、行ってきます」
インナーを装着した灯が、雫に言った。
「暫し待て」
雫は短い舞いを舞う。灯はインナーにセットされた木札に、霊脈が吸い込まれたのを感じた。
「インナーの霊脈の流れを調整した。これで、インナーが起動している間、この術が灯を宇宙線から守る。術はその木札に封じて有る」
「…雫さん」
「弟子を守るのは師の務めだ。行っておいで、灯」
「はい!」
灯は目を閉じると、ラボの入り口に無しの扇を形作った。
目を開き、「空の穴」の舞いを舞う。そして成した「空の穴」に飛び込んだ。
「いらっしゃい。灯ちゃん」
アリスは微笑んだ。
「さすがは日の本の国の神の雫ね〜。あたしが頼まなくても、先に手を打ってくれたわ〜。まあ、月軌道じゃ普通の遮へいでも問題ないけど、太陽の近くだと、そうは行かないからね〜」
アリスは、ラボ中央の、やはりハンガーに吊られているアウターを指さした。
「あれが新しいアウターよ」
灯の目には、バックパックとヘルメットが付いている以外、ほとんど普通の巫女装束に見えた。
「小さくなったでしょ。元の質量で10kgぐらい。灯ちゃんの術で、今だと、400グラムぐらになってるわ。普通に着れる重さよね〜」
アリスがタブレット型端末を操作すると、アウターのヘルメットが持ち上がり、頚からお腹まで、切れ目が現れた。
「じゃ、着てみて」
灯は開いたアウターの前まで進む。舞いを舞う。
ふわり。
アウターが風で持ち上がり、灯も風で宙に浮く。
灯はするりと、アウターの中に入ると、着地した。
アリスがタブレット型端末を操作し、アウターを閉じる。
「今はあたしが開閉したけど、ヘルメットのアイコンの操作でもできるから。これと、これね」
ヘルメット下部の二つのアイコンが点滅した。
「判りました。アリスさん」
「さて、実験の開始よ。ヘルメットに、到着目的座標の映像を表示したわ」
灯はそれを見詰めると、頭の中に、地球と月のイメージを浮かべた。
目を閉じ、目的の位置に無しの扇を形作る。
目を開けると、「空の穴」の舞いを舞う。「空の穴」が現れる。
「アリスさん! まるでアウター着てないみたいに、いつも通り舞えます!」
ラボのあちこちで、ハイタッチするサーバントの姿がいくつもあった。
アリスも満足そうだ。
「灯ちゃん、関節部の調整はいらないみたいね。じゃあ、跳んでいってみて」
「はい」
灯は「空の穴」に飛び込んだ。
■月軌道
『灯ちゃん、聞こえる?』
アリスからのリンクの声が届いた。
『はい。聞こえます』
灯は、月の向こうに見える地球を見詰めていた。
「じゃ、こっちの声は?」
少し遅れて、スピーカーからアリスの肉声が届いた。
「聞こえます」
『やっぱり、リンクの声は同時性だったわね。雫』
『灯がいる所まで、光の速度でも約1秒かかる。リンクの声にはそのラグが無い』
『じゃ、灯ちゃん、通信はリンク経由で行きましょう。どの道、太陽に行ったら、8分のラグで普通の通信は使えないから』
『じゃあ、こっちの視覚を送ります』
灯は、インナーに満ちている霊脈を目に吸い込むと、アリスと雫に送った。
『灯ちゃんが視てるの、視えるわ』
『こちらも同様だ。月の向こうに地球が見える。なかなかの絶景だ』
『そうね〜。純くんが視せてくれた時の事、思い出すわ〜』
『そうだな。アリス。だが、そうのんびりとしていられない』
『判ってるわ、雫。灯ちゃん、ヘルメットに、到達位置が緑と目的座標が赤で表示されてると思うけど』
『少し離れてます』
『練習だ、灯。そこで今一度、無しの扇と「空の穴」で、移ろってみよ』
『はい』
灯は目を閉じ、目的座標をイメージした。無しの扇を成すと、「空の穴」の舞いを舞う。
純は大気圏突入時、空中で舞いを舞うのに苦労した。だが、灯は自然とそれを行っている。純の記憶だけでなく、経験も受け継がれている。
リンクからの気配で、雫は灯が「空の穴」の舞いを、地上で舞うのと同じように舞っているのを感じた。
『移動しました』
ヘルメットの緑の点と赤の点は、完全に一致していた。
『見事だ』
雫の賛辞に、灯は頬赤らめた。
『雫、宇宙線の遮へい、インナーのバイタルで確認。完璧だわ。さすがね〜』
『インナーの霊脈消耗はどうだ? アリス』
『全然問題ない範囲。むしろアウターのバックパックに充電、じゃない充霊中よ〜』
『それは良かった。自動起動する巫術故、霊脈の消耗が心配だった』
『第1回のテストは大成功ね〜。灯ちゃん、こっちに戻ってきて〜』
『はい』
ラボには既にアリスが居る。灯は無しの扇を形作らず、「空の穴」でラボに戻った。
■供給過剰
アウターを脱ぎ、インナーのみになった灯に、アリスは言った。
「今日のテストはこれで終り」
アリスはタブレット型端末を操作した。
「インナーの情報、こっちに貰ったから」
タブレットを見るアリスの目が、少し鋭くなった。
「灯ちゃん、少し暑くなかった?」
そう言えば、暖いと言うより、少し暑かったかも。
灯は頷いた。
「そうか〜。大きな術を使うと、どうやら少し霊脈が大目に術者に送られちゃってる。少しデリケートな調整が必要みたい」
アリスは少し考え込んだように見えた。
「判ったわ。灯ちゃん、明日一日は灯ちゃんは休養。こっちでその問題点を修正しとく。明後日、別の小惑星が太陽に近づくからそれの軌道修正するテストを行いましょう。上手くいけば、それが最終テスト」
そう言うと、アリスは押し黙った。
今、すごい勢いで、サーバントリンクで議論してるんだ。
灯はそう思った。
「じゃ、ボク、帰ります」
灯はそう言うと、「空の穴」で玄雨神社に戻った。
インナーから巫女装束に戻った灯を見て、雫が言った。
「灯、顔が赤い。少し熱があるのでは」
雫が灯の額に手を当てると、少し熱が有るのが判った。
『雫、霊脈の過剰供給の副作用だと思う。手当てしてあげて。こっちはその調整プランとかやってるから』
『気脈に大きな乱れは無い。任せておけアリス』
『お願いね〜』
「アリスのやつ、少々怒っているな」
「え?」
「灯に少しばかり無茶をさせたと、後悔している。サーバントがとばっちりをくらってるやも知れぬ」
「そんなの、可愛そうです。ラボの人達…」
『だそうだ、アリス』
『ちょっと議論してるだけです〜。別に怒ってないよ。サーバントには』
『自分に当たるのも、やめておけ、灯が逆に心配している』
『判ったわよ。自分に怒るのやめる。ごめんね、灯ちゃん、時間が無いから、かなり強行なテスト計画だったの』
『ボクなら大丈夫です。今、雫さんに余剰の霊脈取り除いてもらって、熱も下がりました』
『良かった』
心底ほっとしたリンクの声だった。
『こちらでも、灯に霊脈の取り込みを調整するよう指導する。灯ならすぐ物にするだろう』
『判ったわ。雫。お願いね。でも、こっちはこっちで、万全を尽くす。事が事だから』
『承知した』
■新しいインナー
翌日、アリスが新しいインナーを持って、玄雨神社に現れた。
「今度のは、霊脈を常に供給するんじゃなくて、身体とインナーの間に行き渡らせて、巡らせるようにしたの。灯ちゃんは、必要な分、そこから霊脈取り込んでみて。取り込んだ分はすぐに補われるから」
インナーを着込んだ灯は、その新しいインナーで、幾つかの舞いを舞う。
「前のより、暑くならないです…」
灯はちょっと言いにくそうだった。
「灯、はっきり言って大丈夫だ。アリスは怒らない」
「…あの、前の方が、舞いやすかったです」
アリスの瞳が輝いた。
「やっぱりね! ぽちっとな!」
アリスがお約束なセリフを言って、タブレット型端末の画面を押した。
「バージョンを二種類用意してたの。今、次のバージョンをインストールしたわ。もう一度、舞ってみて」
灯が再び、幾つかの舞いを舞う。
「アリス」
舞いを見る雫が呟いた。その目は驚きに見開かれていた。
「どう雫。あたしにはそうに見える」
灯の姿、インナー全体が美しく輝いていた。
「神脈だ」
神脈、神の体調の良い時現れる光り輝く気脈。
「木札には雫の術、つまり気脈が封じられてる。灯ちゃんのも。それに、インナー自体にあたしとセリスの気脈を封じたの。そこに霊脈が流れる。木札の灯ちゃんの気脈が灯ちゃんの霊脈の吸収と同期する。その木札を通して、同調した霊脈を供給する」
「都合四人の巫術師の気脈が、霊脈を誘い、灯へと注がれる。それが神脈と成った理由」
灯を見ていた雫が、アリスの方を向いた。
「見事だ。アリス」
アリスはにっこりとした。
「うわ〜い。巫術の技術で雫に褒められちゃった〜。アリス大感激〜!」
アリスは雫に抱きついた。
雫はアリスの頭をなでなでした。
「灯、暑くは無いか?」
「ぜんぜん! すごく舞いやすいです! 前のより! それに、すごく綺麗」
灯は、雫の目で、自分の姿を視ていた。
インナーが神脈を帯び、荘厳な美しさで輝いているのを。
「これで備えは万全。明日、テストだな。おそらく最終の」
視界を元に戻した灯の瞳には、満足そうな雫の微笑みが映った。
■最終テスト
「灯ちゃん、これが今回のテストで使う爆破装置。セットしたら、インナーのアイコンでカウントダウンさせられるから。そしたら、100kmくらい遠くに離れてね。それなりの爆発になるから」
アリスは、ラボ中央に置かれた、1メートル四方の立方体を示して言った。
立方体上面の四辺の各中央に、取っ手が付いている。
アウターに身を包んだ灯が舞いを舞う。そして、柏手を打った。
灯とアリスの目には、立方体が輝いて視えた。
「爆破装置の重さ、1キロくらいになったわね。ほんと、便利な術よね〜」
灯はヘルメット内部に表示された目標座標を確認した。目を閉じ場所をイメージする。無しの扇を形作る。
目を開け、「空の穴」の舞いを舞う。
「じゃあ、行ってきます。アリスさん」
灯は立方体の取っ手を掴むと、「空の穴」に飛び込んだ。
灯は小惑星の前に現れた。太陽がかなり大きく見えるが、熱は木札に封じた雫の術の働きで上手く遮へいされ、灯に熱は伝わらない。
灯は、風を起し、小惑星に近づく。
現れた時、小惑星との相対速度は0になっていた。
灯が無しの扇を成す時、小惑星に張り付いた形をイメージした為だ。
それ故、まっすぐに小惑星に近づくだけで良かった。
立方体を小惑星に置く。
少し離れると、次の移動座標をイメージし、無しの扇を表す。「空の穴」の舞いを舞い、「空の穴」を表す。
ヘルメット内の爆弾アイコンにウィンクする。
立方体の上面にカウントダウンの数字が表示された。
灯は「空の穴」に飛び込み、小惑星からアリスが行った通り、100キロ程離れた。
灯の視界に、小さな光が現れ、すぐに消えた。
ヘルメットに、小惑星の軌道が表示された。予定の軌道に修正されている。
灯は、念のため視知の術で、小惑星を視た。
その軌道は、やはり、予定通り修正されているのを視てとった。
『アリスさん、小惑星の軌道、予定通りに修正されました。「ベネット」の装備と、視知の術の両方で確認しました!』
『テスト終了〜♪ 雫の言う通り、これが最終テストになったわね。灯ちゃん、戻ってきて!』
灯は「空の穴」を成すと、ラボに飛んだ。
■夢
灯がスーパーソーラーストームを視知の術で視て、九日目。最終テストの翌日は、灯の休息日となった。
作戦が実行される前日である。
雫と灯はいつも通り過ごし、アリスはアウターとインナーのメンテナンスを念入りに行った。
夜、灯は雫と共に眠りについた。
そして、灯は夢を見た。
大丈夫。次は必ず上手くいくから。心配しないで、ボク達が付いてる。
幾重にも重なるその声が、灯の耳に響いた。
しかし、その声の主の姿は見えない。
聞き覚えの有る声。それに一人称がボク。
でも、ボク達って。
僅かな灯の気脈の乱れを感じ、雫が目を覚ますと、隣で寝ている灯の目から、何故か一筋の涙がこぼれ落ちるのが見えた。
■作戦開始!
「はい、灯ちゃん。インナーよ」
作戦当日。固定化した「空の穴」で玄雨神社舞い舞台に現れたアリスは、灯にインナーを手渡した。
やれるだけの事はした、アリスの目はそう語っていた。
「ありがとうございます。必ず」
「お願いね」
灯はインナーを着用する。
「灯、最終テスト通り行えば大丈夫だ」
「雫さん、行ってきます!」
灯は「空の穴」現すと、をアリスと共に、ラボに跳んだ。
見送った雫は、そして静かに呟いた。
「事は成る」
結果として。
僅かだが、雫は不安を覚えていた。
灯はラボに着くと、アウターを装着。そして立方体の爆薬を軽くする。
「対象の小惑星の座標は『ベネット』に設定済みよ」
準備は整った。
灯は、ヘルメットに表示された小惑星の位置を確認した。目を閉じ、それをイメージする。
灯の意識は地球から太陽の側へ。そして小惑星へと、焦点を合わせた。
小惑星に張り付く、無しの扇。
心象が固まった。
灯は「空の穴」の舞いを舞い、それを現した。
灯はアリスを見る。アリスも灯を見詰めていた。
「時の女神救出大作戦。作戦開始!」
「はい!」
灯は、現した「空の穴」に飛び込んだ。
灯の目の前に、最終テストの時より、大きめの小惑星が現れた。
太陽は、最終テストの時と同じくらいの大きさに見えた。
座標を確認すると、目標座標を現す赤の点と、現在座標を示す緑の点は、完全に一致していた。
『アリスさん。目標の小惑星に着きました。これから、爆薬を起動します』
灯は立方体の爆弾を、小惑星に乗せた。爆薬の起動アイコンにウィンクする。
立方体上面のカウントダウンを確認すると、無しの扇、「空の穴」を現し、100キロ程遠くに跳んだ。
『3、2、1、0』
灯の視界に、小さな閃光が輝いた。
灯は状況を確認する。
『小惑星の軌道変更を確認。これから、視知の術で、視ます』
ヘルメットに表示された小惑星の予測軌道は、作戦どおりに修正されていた。
灯はインナーに満ちている霊脈を目に吸い込んだ。
小惑星を視る。
小惑星が、太陽の側を通り過ぎていくのが視えた。
灯が、ほっとした瞬間。
太陽の様子が変わった。
フレアの活動が活発化した。
『あ、アリスさん。スーパーソーラーストーム、起こります』
『な、なんですって!』
『視知の術で……視ました。小惑星が太陽を通り過ぎて、そのあと、あれが起こるの…』
リンク越しでも、アリスが凍りついているのが判った。
『小惑星の落下は、原因では無かった、という事か』
雫の声は冷静に聞こえた。だが、その言葉に力は無かった。
『灯ちゃん、ご神体の霊脈でやりなおして、お願い!』
アリスの悲鳴に似た、リンクの声がリンクに溢れた。
灯は、ヘルメットに表示されている、無限大のアイコンを見た。
最終案全装置。ご神体。東雲の鬼の集積を封印した銅鏡。
それをアウターのバックパックから取り外すためのボタン。
四度目。
灯は、アイコンを見詰める。
灯がウィンクしようとした瞬間。
『大丈夫。次は必ず上手くいくから。心配しないで、ボク達が付いてる』
その声が、リンクの声が、灯、雫、アリスに聞こえた。




