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第24話 巫術師 玄雨純の帰り

 齢数百年にして政に関わり強大な巫術を使う不老不死の巫術師、玄雨雫。自称、日の本の国の神。

 そして、欧米諸国を支配する多国籍企業ファイブラインズのCEO、アリス・ゴールドスミス。彼女もまた自称、西洋の女神。

 中学2年生の神峰純は、こともあろうに雫が趣味で営む骨董屋一六堂に入って行った事から、二人に神の資質を見抜かれ、女神、玄雨純となった。

 その純に告白した春喜が、純の実家の神峰家を訪れた。

■春喜、導く


「大事な話って?」

 亮が機材を自分の部屋に片づける間、リビングで桜は春喜にお茶を出していた。

「亮おじさんと桜おばさん、ここの舞い舞台に一緒に行って欲しいんです」

 妙な話だと桜は思ったが、春喜の真剣な様子に、そうした方が良いと感じた。

 やがて、機材を片づけ終えた亮が、リビングに現れた。

 春喜は真剣な口調で言った。

「お二人に紹介したい人がいるんです。そのために、こちらの舞い舞台に、一緒に来てください」

 なんとなく、春喜の恋人でも紹介したいのか、と亮は思った。

 だけど、ウチの舞い舞台って、おかしくないか?

「行ってみましょうよ。お父さん」

 これだけ真剣な春ちゃん、大会でゲームしてる時以外、見た事ないわ。きっと大事な事ね。良く判らないけど。

 桜の助け船の力もあって、春喜は二人を舞い舞台に引っ張り出す事に成功した。

 第1段階、作戦成功、だよね。

「何が始まるの?」

「少し、待ってください。驚くような事が始まります」

 そう言うと、春喜は、舞い舞台前に二人に座るように促した。

 しばらく、沈黙が降りた。

 待つ身は長い。

 春喜は、それが早く始まらないかと気が気では無かった。

 なんだろうねぇ、随分経つんじゃないか、と亮と桜が顔を見合わせた時。


 舞い舞台に、巫女装束の娘が二人、忽然と現れた。


■純、告げる。


 事情を知る春喜はともかくとして、亮も桜も驚いた。

 桜は開いた口に手を当てて、亮はあんぐりと口を開けて、ただただ驚いていた。

 最後となった、鬼の集積の鬼除きの時、春喜は雫から告げられたのだ。

 神峰家の方に純を預ける、その手伝いをお願いしたいと。

 その手はずを、今日、春喜はしたのだった。

「お騒がせ致しまして、申し訳御座いません。突然、お邪魔するご無礼をお許しください」

 舞い舞台の上の、見るからに格上と思われる巫女装束の娘が、良く通る声で言った。

 非日常的な出来事の驚きを、日常の範囲内の口上が二人の驚きを少しばかり小さくした。

 桜は気がついた。以前、鎮魂の舞いを舞っていった、二人の姉妹の事を。

 だけど、妹さんの方がいらっしゃらないわ。二人とも同じくらいの年、よね。

「この度、誠に大事なお話が有り、東雲春喜殿に手はずを整えて頂きました」

 亮も思い出した。以前舞い舞台で舞いを舞っていった巫女装束の姉妹の事を。

 だが、まだ、非日常的な感覚が残っている。

 舞い舞台に対して、春喜、亮、桜の順に並んでいる。

 頚を回して、右隣の春喜を見る。

 春喜も、亮の目を見た。

 なんなんだ、コレは。

 そう、その目は訴えていた。

 亮おじさん、この先、もっと驚く事になるよ。

「自己紹介致します。私は玄雨神社に住まいする不老不死の巫女『日の本の国の神』玄雨雫にございます」

 そして、と巫女装束の娘は、扇でその右側にいるもう一人の娘を指し示すと、言葉を続けた。

「これは、我が弟子『時の女神』玄雨純にございます。以前お会いした時より、このように成長致しております」

 え、この娘が、以前合った、純に似た妹さん!? それに、神とか女神とか。

 ほとんど同じような感想を、亮と桜は持った。

 だが、桜はその説明を、特に、妹が急に成長したというところが、素直に見て取れた。

 確かに、18才くらいになって、綺麗になってる。でも、前の面影が有る。やっぱり純に似てる。

「さて、この度、神峰家の皆さまに、お願いしたき事が御座いまして、伺いました」

 その前に、と言うと、雫は正座すると、床に手を付き、頭を下げた。

「神峰家の長男、神峰純を、神として向かえ、そのため、人として死なせた事、おわび致申し上げます」

 な、何を言ってるの、この人。

 な、何を言ってるんだ、この人は。

 二人は頭の芯が痺れた。

 立っていた巫女装束の娘が座ると、同じように床に手を付き、頭を下げた。

「お父さん、お母さん、勝手に人をやめて、神になってごめんなさい。ボク、玄雨純は」

 そこまで言うと、純は顔を上げた。

「神峰純です」

 あげた純の顔。

 純の目からは涙が溢れ、頬を濡らしていた。

 そんなバカな!

 亮の常識が、それを否定していた。

 その横を、桜が走っていく。舞い舞台に向かって、まっすぐに。

「純! 純!」

 そう言うと、桜は純を抱きしめていた。

 桜、だって、純は男の子で、それに死んでる。年も違う。

「亮おじさん、本当なんです」

 亮は右側から聞こえた声が、春喜のものだと気がつくまで、暫くかかった。

「なんだって」

 亮はゆっくりと頚を回して、春喜を見た。

「あの巫女装束の女性、今、桜おばさんと抱き合っているのが、純なんです」

 亮は舞い舞台を見た。

 再び春喜は同じ言葉を口にした。

「本当なんです」


■桜、悟る


「やっぱり。やっぱり。やっぱりそうだったのね」

「お母さん、お母さん」

 純の母君は、薄々玄雨純が神峰純だと気付いている。

 雫さんの考えはやっぱり当たってた。

「女の子になってるのに、年も違ってるのに、ボクだって、どうして判るの」

 桜は少し純から離れ、その目を見詰めた。

「自分で産んだ子供だもの。見れば判るわ。そう思ってたって、今気がついたけど、三回忌法要の時、見かけた時から、そうかも、そうじゃないかって、思ってたのよ。お母さん、純じゃないかって」

 奇しくも、見れば判る、と桜も言っていた。

 桜はまた、純を抱きしめた。

「お母さん」

 その様子を見ている内、亮は、これが事実だと、桜が抱きしめている年ごろの女性が、自分の息子の純だったのだと、いや、娘の純なのだと、そういう考えがしみ込んでいった。

 そうなると、論理性、段取りを重んじる血がたぎるプログラマである亮は急に有る事を思い出し、口にする。

「お願いしたい事、というのは」

 すっと頭を上げると、雫は言った。

「お願いしたい事とは、この玄雨純、嫁入りのため、今一度、神峰純に戻させて頂きたい、という事に御座います」

 別の衝撃が、神峰家舞い舞台、日本舞踊稽古場に流れた。

 人が急に現れて、死んだと思っていた息子が、娘になって帰ってきて、その上。

 嫁入り?

 神峰純に戻す?

 そうでなくても、混乱しない方がおかしい状況が作り上げられ、亮はまさに目の前がぐらぐらし始めるのを感じた。床が歪んで見える。

 ぼんやりと、遠くで、妻桜の声がする。

「純、お嫁入りするの! 相手はだれ! 神峰純に戻るってどういう事!」

 酷く嬉しそうな桜の声が響いてくる。

 いったい、何が起こってるんだ。

「亮おじさん、大丈夫」

 隣から、春喜の声が聞こえる。

 亮の頭の中で、何かがパチリと嵌まる音がした。

「あーーっ!!」

 突然、亮が叫んだ。立ち上がっていた。

「判った! 全部繋がった!」

 まるで、丸一日かけて追いかけていたバグの本体を見つけたような、そういう何かにたどり着いた感覚を亮を覚えていた。

 きっ、と春喜を見下ろす形で見る亮。

「春喜、お前だな!」

 舞い舞台の上の桜が、さっと、春喜の方を見た。そして、純の方を見た。

 桜の瞳に映る純の頬は、朱に染まっていた。

「そうなのね」

 純はこくん、と頷いた。

「そうです。亮おじさん」

 春喜は亮を見上げる形で、淡々とそう言った。

 亮はぺたん、と座った。酷く消耗している。

 ここに来て、花嫁の父親と言う、それはそれはデリケートな役割が降って湧いた事に気がついたからだ。

 それも、今日、いや、今、急に。何の心の準備も出来ないまま。

「それで、純を、神峰純に戻す、というのは」

 亮は、段取りを整える、という作業に従って、いや、しがみついて、なんとか、自我を繋ぎ止めた。

「玄雨純は、神。人ではありません。当然、戸籍も無い。そこで、いったん、米国国籍のジュン・ゴールドスミスとなり、その後、神峰家の養女にして頂きたいのです。米国国籍の方は、当方で準備致します」

 まあ、と桜は喜んだ。

「純が生きている上に、この家からお嫁に出せるなんて」

「まて」

 亮が右手を挙げて、場を制した。

「おかしい。縁もゆかりもない米国国籍のジュン・ゴールドスミスさんが、どうしてウチの養女になる」

 仕様バグを見つけたプログラマの冷徹さで、亮は言っていた。

「お父さん、細かい事は好いじゃない」

 桜はすっかりうきうきしている。

「いや、おかしい。だって、誰かに聞かれた時、ちゃんと返事ができない。まさか、息子が女の子になってて、その上神様で、お嫁入りするから戻ってきた、なんて、全然説明出来ない!」

 そうだよねー、俺もそう思う。

 春喜もそう思った。

「抜かりは御座いません。まあ、多少口裏を合わせる必要はございますが、書類関係、米国の証人なら、完璧に用意致します」

 この話は、純も春喜も初耳だった。

 一同の視線が雫に集まる。

 雫は語り始めた。


■雫のシナリオ


 まず、神峰純とジュン・ゴールドスミスは、神峰純の体験留学のホームステイでの知り合いです。

 そこで、ジュン・ゴールドスミスは、東雲春喜が神峰純の親しい親戚であると知ります。

 ジュン・ゴールドスミスは亮さんがお作りになっているゲーム「舞術師」のファンであり、「舞術師」の達人の誉れも高い東雲春喜の事も知っております。

 神峰純は、いずれジュン・ゴールドスミスを日本に招き、二人を会わせるという約束を致します。

 しかし、神峰純は事故に遭い他界します。

 不幸は続きます。

 ジュン・ゴールドスミスの両親もまた、別の事故にて亡くなってしまいます。

 傷心のジュン・ゴールドスミスは、親子の違いは合っても、共に肉親を亡くした者同士、慰め合う事が出来るのでは、と、神峰家を訪れます。

 それが、今日。


 そう言うと、雫は純と春喜を見た。


 ジュン・ゴールドスミスが神峰純の位牌に焼香していると、そこに東雲春喜が神峰家を訪れます。

 二人は純の話から、「舞術師」の話題に移り、意気投合、双方ほぼ一目ぼれに近い恋愛関係となります。

 ですが、ここで大きな障害が出て参ります。

 それは、春喜の母、忍さん。

 東雲家は古くから伝わる家系。日本国籍でない者を嫁にめとる事など能わず、と、けんもほろろにジュン・ゴールドスミスを追い返します。

 その話を聞いた、亮さん。


 いきなり自分の名前が出て、亮はきょとんとした。

 それを無視して、雫は続ける。


 ならばと、こうジュン・ゴールドスミスに持ちかけます。

 ウチの養女にならないかと。ならば日本国籍になる。あたたは両親を亡くし、ウチは同じ名前の子供無くしている。これも天の配剤。

 幸い東雲家は神峰家とも親戚。

 その家の養女となれば、忍さんも拒むまい、と。

 かくしてジュン・ゴールドスミスは、神峰家の養女となり、東雲家に嫁入りする次第に御座います。


■亮の想い


 一同、ぽかん、としている。

 先に、正気、というか自意識を取り戻したのは、桜だった。

「素晴らしいです。好いお話です」

 両手を叩いて拍手を繰り返す。

 かなり強引だけど、所々、本当の事が混じってて、ホントみたい。

 これは純の感想。

 うわあ、なんだか物凄く恥ずかしい恋愛物みたいじゃないか。

 と春喜。

 で、ここで、幼なじみの中学二年生男子が女神になって、それに恋してしまった自分に考えが至る。

 あ、い、いや、全然、おかしく無いです。

 と思い直す。

 残るは、亮のみ。

 亮、ぽかんとした所から立ち直ると、雫の話の論理矛盾点を探そうと、その頭脳を振り絞る。

 だが。

「論理矛盾点見つかりません。神峰家が巻き込まれ型になっているから、公式な結婚式を開かなくても、おかしく無い設定ですし、第一、忍さんならそう言ったと言っても誰も不思議に思わないでしょう」

 ただ、と一言言い添える。

「春喜がいきなり意気投合の大恋愛、と言う点が、少々気になりますが、そこは春喜の演技次第、ですね」

 まあ、と続ける。

「無いとは思いますが、春喜が知らない所で、春喜に思いを寄せている女性が居れば、少々面倒な火種にはなるでしょうが。春喜に限ってそんな事はないでしょうから。頭ゲームでいっぱいですからね」

 亮おじさん、それはないんじゃない!

 流石に、春喜もちょっとむっとした。

「では、この筋立ててで、進めさせて頂く事と致します」

 と雫が締めようとすると、亮が、ちょっと待ったと言う。

 春喜の方を向くと、その顔をわりあい真剣な目で見詰めた。

「春喜。純がいきなり女の子というか、女性になって現れて、春喜がその嫁入り先で、もう二人が相思相愛なのは充分にわかるけれど」

 亮はそこで言葉を区切った。

「俺は今日、今、いきなり、花嫁の父親になったんだ。判るか」

 あ。

 亮は察した。身体の向きを亮の法に向け、床に両手を付いた。

「亮おじさん。純さんを、俺のお嫁さんにください」

 純は、娘をよろしくと言う、亮の返事を期待した。

 が。

「いやだ」と亮は応えた。

 え!

「すんなり渡したら、娘のために、なんにもしてあげてないダメ父親になる」

 そう言うと、亮は目の涙を拭った。

「純が死んだ時。いや、死んだと思った時、どうして、もっと、一緒に遊んであげなかったのかと、酷く後悔した。全部親父に任せ切って、仕事ばかりして、それが、とても悔しかった」

 すう、と亮が息を吸い込むと、春喜には亮の背筋が伸びた気がした。

「だから、勝負だ、春喜。お前が勝ったら、純はお前にやる」

 きっと春喜と睨むと、亮は宣言した。

「俺が勝ったら、俺の言うことを聞いてもらう。どうだ」

「勝負って」

「もちろん『舞術師』で勝負だ!」

「亮おじさん。『舞術師』で俺に勝てる人、世界でもそうは居ないよ」

 亮はにやり、と笑った。

「勝負は下駄を履くまで判らないものだよ、春喜」


■ゲーム勝負


「なんだか、妙な風向きになったものだ」

 亮と春喜が、亮の部屋、開発機材やゲーム機で埋まっている部屋へ向かっていくのを見ながら、雫は言った。

「あの人、素直に言えないものだから、あんなコト」

「春お兄ちゃん…」

「大丈夫よ。春ちゃんが、ゲームで一度でも負けた事有る?」

「…無いと思う。いつもお父さんが負けてばかりだった気がする」

「でしょ」

 そうこう言う内に、奥の方からゲームサウンドと効果音、それと、春喜の掛け声に、悔しそうな亮の声が聞こえてきた。

「ほらね」

 ところが。

 途中から、亮の勢いづいた怒声と悔しそうな春喜の声に変わった。

「お、お母さん」

「だ、大丈夫よ」

 そこで桜は、今日、亮が新しい開発機材を持ち帰っていたことに気がついた。

 出がけに亮はこう言っていたのだ。

「特別にカスタマイズした『舞術師』のチューニングが終ったのが届くんだ。そのテスト」

 まさか。

 あの人、それを使って。

「どうしたの、お母さん」

「もしかしたら、今、勝負に使ってるの、春ちゃんも知らない機能が付いてる『舞術師』の新バージョンかも」

 純は目を丸くした。

 そんなのずるいを通り越して、もう卑怯の領域じゃん!

 開発者権限使って、娘の嫁入り邪魔する父親、どこのいるの!

 …あ、ウチのお父さん、変人だった。

 と、純が父親の評価を新たにしていると、奥の方から春喜の声が聞こえてきた。

「ぐあ〜〜〜。それは無いよ。そんな機能、市販品には無いよ。酷いよ、おじさん」

「ふん。だから言っただろう。勝負は下駄を履くまで判らないと」

 さっそうと歩いてくる亮の後ろを、春喜がとぼとぼと付いてくる。

「は、春お兄ちゃん…」

「ごめん、純、負けた」

「え」

 純は泣きそうになった。


■花嫁の父親


 やばい!

「じゅ、純、泣くな。お前が嬉し泣き以外で泣くと、大変な事になる!!!」

「あ」

 純は涙を堪えた。

「純が泣くとどうなるんだって」

 耳ざとく聞きつけた亮が尋ねた。

「春お兄ちゃん、百回切り刻まれて、風で宇宙まで飛ばされて、東京タワーの3倍の高さから落とされて、たぶん冗談だろうけど、核攻撃されるんです」

 純がちらり、と雫を見る、連られて亮も雫を見る。

「そうなるかどうかは、春喜次第だ。女神に死に神、それに春喜の母君も、春喜が純を泣かせると、斯様(かよう)な報復処置を講じる用意が有る」

 と、春喜を睨む。

 亮、春喜を見て、こう言った。

「春喜。お前も大変な状態になってるんだな。だが、ここは花嫁の父として、言わせてもらう。もし、純を泣かせたら、どんな手段を講じても、二度とお前が『舞術師』できないように、アカウントを凍結し、新規アカウントも取れなくする!」

 え、おじさん。それ、前の女神死に神お袋と同じくらい相当酷いコトじゃないか。

 あれ?

 春喜の視界の端に、純の涙ぐんでいる姿が映った。

 純が泣いてる。や、やばい。

 と、春喜の視界が暗くなり、意識が遠くなりそうになった時。

「お父さん、ありがとう!!」

 という純の声が聞こえてきた。

 あれ? 純が喜んでる。なんで?

 春喜の視界が明るくなると、亮に抱きついている純の姿が目に入った。

「ボク達の結婚、認めてくれるのね!」

 亮はそっと微笑んだ。

「ああ。一言言うために、開発機材まで使って勝負に勝った。これも花嫁の父親の特権だ」

 ちょっと違う気もするけど、お父さんらしいからいいか。


 こうして、この日から、純は神峰家に戻る事になった。

 ただし。

「婚儀が済むまで、春喜は神峰家に立ち入る事を禁ずる」

 と、日の本の国の神に厳しく言われ、春喜はとぼとぼと家路に就いた。


(あかり)


「春喜、ちょっとかわいそうだったね」

 それは、とぼとぼと家路に就く春喜を思い出して、亮が言った感想だった。

「あのね、そうしないといけない理由があるの」

 一同は、また、舞い舞台前に戻った。

「また、驚くような事があるけど、心配しないでね」

 純は舞い舞台に上ると、「(くう)の穴」の舞いを舞い、消える。

 そして、次に現れた時、やはり巫女装束の小さな女子を連れていた。

 二人が舞台を降りて、舞い舞台前に付き、正座する。

 雫が開いた手で、その小さな女の子を示した。

「ご紹介致します。次代玄雨純であり、未来から来た純と春喜の子、灯です」

 灯はちょこん、とお辞儀した。

 この時になって、亮は純が本当に神様の仲間入りした、という事を実感した。

「純が『時の女神』というのは」

「まさしくこの事で御座います。父君」

「それでね。この子、灯ちゃん、春お兄ちゃんと会っちゃいけないの。婚儀の前に、ボクの記憶と、神の資質を受け継ぐから。そしたら、もうボクとも、もう会えなくなるの」

 純は、桜と亮の二人に視線を向けた。

「だから、玄雨神社での婚儀までの間、ボクと一緒に、ここに居させてあげてください。お願いします」

 そう言うと、純は三つ指付いて、頭を下げた。

 それを見て、灯も同じように頭を下げる。

「もちろんよ。いきなりおばあちゃんになって、驚いちゃったけど。灯ちゃん、大歓迎よ」

 雫はふっと微笑んだ。

「それでは、今回の私の役目は以上で御座います。婚儀の日は、次の日曜。お二人のご都合は付くと、占って御座います」

 雫は立ち上がると、舞い舞台に上った。

「では、私は玄雨神社に戻ります。灯」

 雫は灯を呼んだ。

 灯は「空の穴」の舞いを舞うと、雫の背を、ポンと押した。雫は消えた。

「この子も、『時の女神』なんだね」

 亮はそう呟いた。


■純の結婚式


 瞬く間に一週間が過ぎた。

 雫の占い通り、仕事で忙しい筈の亮の予定は、その日だけはぽっかりと空いていた。

 桜の方も、その日だけは友達からのお誘いも入らず、これまたぽっかりと空いていた。

「本当に、神様なんだね」

 礼服を着て、出かける準備をして、玄関に出た時、どちらともなく亮と桜は同じ事を言っていたい。

 舞い舞台から、先に玄雨神社に灯と純は飛んでいた。

 玄関で待つ神峰夫妻の前に、雫と灯の姿が現れた。

「純は、東雲家の皆さまを当神社にお送り致しております」

 そうか。灯ちゃんは春喜くんと会えないから。

 亮は合点した。

 灯が空の舞いを舞った。

 灯が亮と桜と手を繋いだ。雫は桜の手を取った。

 ほんの少しだけ、雫は不思議な感覚を持った。だが、それはすぐに消えた。

「それでは、玄雨神社にご案内致します」

 灯が一歩踏み出すと、四人は玄雨神社舞い舞台前の境内にいた。

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