第27話 少年王とビクトリナ南洋大戦の始まり 1
キリヤ公国連合国の初の対外戦争たる公帝戦争が終結してから二週間が経とうとして居た。
列強国との大戦争が終わり、先送りしていた国作りにようやく専念する事が出来ていた僕らは、旧帝国領だった土地を整備しながらも、キリヤ公国連合国の各地もしっかりとより一層良くしようと奮闘していた日々を送って居た。
その一つが鉄道計画である。鉄道はキリヤ公国本国の国内全土の殆んどの地域で走っている。
キリヤ公国連合加盟国内では、線路建設の選定を行いつつ、各々の首都近郊にて短距離だが、試験走行が始まって居た。
キリヤ公国連合国で最も急務と成って居る沿岸地域での湾口の開発も進み、造船ドッグでは、同盟友好国と連合加盟国内向けの蒸気船や重油を使った鋼鉄船が建造されて行き、その船を使った定期便が次第にだが、当たり前と成って行く産業革命の時代を迎えようとして居た。
キリヤ公国連合国の各国の殆んどが沿岸地域であり、港湾開発と鉄道施設計画は最優先事項と言うべき急務の国家プロジェクトと成って居る。
そんな中でも、キリヤ公国本土内では、国の将来に向けて電気機関車の大量生産とガスタービンエンジンの導入した大型船舶の造船開発の視野に入れた計画が始まって居る。
河川や湖では、川の治水工事が進められ、農業用水用と水力発電用の大型ダムの建設が進み、その下流では食料生産倍増を目指して、家畜の飼育用の牧場を広げたり、田畑の開墾をし、淡水魚の養殖場の整備が進められ居る。
食料自給率の増加計画の一環で、海の魚貝類の養殖生産にも手がけ、自然界の食用魚貝類の獲り過ぎに配慮するべく対策も取りつつも、雇用促進政策をキリヤ公国連合国・中央政府やナデシコ自治地方自治州区系商社が中心と成って、官民を挙げて計画を推し進めていた。
国内のインフラ整備が急速に進んで行くと、人々の暮らしは馬車を使った輸送から、徐々に鉄道やトラックと自動車の社会への移行も進みつつあった。
現在はナデシコ地方自治州区内が特別道路交通法指定区域とされ、ナデシコ地方自治州区内の方では、自動車が車両交通優先の最上位とされて居る。
反対に特別道路交通法指定区域外は、比較的に足が遅い乗り物が優先と成って居る。
キリヤ公国連合国内の今の所は、自動車優先道路以外の一般公道を通るには、特別な許可が必要とされ、自賠責保険の加入が必ず義務付けられて居る。
因みに公王都・キリヤ市内では、公用車以外の自動車は乗り入れ禁止とされ、車を持ちたい場合は、一人一台を公共指定駐車場を借りて駐車する事が、キリヤ公国連合国・道路交通法で定められて居る。
まだまだ自動車が珍しいキリヤ公国連合国内では、大都会での自動車事故を避ける狙いが勇治から提案され、市内の移動は自転車か市内電鉄を利用するのが当たり前と成って居る。
バスとタクシー等の交通機関会社の乗り物は、市内郊外の停留所でお客を下ろすと、後は徒歩か市内交通機関を利用して下さいと案内をして立ち去っていた。
それらに加えて、空の交通機関の整備も進められて居た。
今は軍用だけだが主要地方同士を結んだ飛行場を建設し、飛行機を使った物資や人の移動も始まって居る。
勇治のタブレッドの力を用いて居る物の、キリヤ公国連合国は、建国からたったの7ヶ月足らずで、近代国家への道を有り得ない速度で歩んで居た。
そんな平和で忙しい日々で平穏だった日常の中を、災厄って奴は突然やって来るもんだね。
マギアンティア世界統一暦・1555年・8月14日・午前10時33分頃・マギアンティア世界・中央世界第一文明圏・キリヤ公国連合国・ナデシコ地方自治州管区・ナデシコ第三地方地域・アセアニア地方・アセアニア自治州区・バヌアーツ諸島自治区・マーリーナ海洋海洋地域にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ナデシコ地方自治州管区・ナデシコ第三地方地域・アセアニア地方は、元々は撫子皇国に、国際連盟から委任統治保護領として統治を任されていた地域の一つだった。
この地域の防衛を任されて居るのが、第一連合自治方面軍・ナデシコ自治統合海軍・第五地方統合戦闘艦隊。
ナデシコ第三地方地域・アセアニア地方・アセアニア自治州区・バヌアーツ諸島自治区・ゾルモン諸島自治区・ミィーシャルン諸島自治区・マーリーナ海洋海洋地域一帯を預かる防衛艦隊であり、事在れば外征艦隊と成るキリヤ公国連合国としても、主力艦隊の一つと見なして居る艦隊である。
その通称・第五戦隊の艦隊は、国土防衛と領海沖の警備の為に、キリヤ公国連合国の南方方面を哨戒中である。
アセアニア地方は撫子皇国が国際連盟から委託された保護領であり、今はナデシコ地方自治州区が管理し、キリヤ公国連合国の統治下に措かれて居るキリヤ公国連合国の南方地域勢力圏の東端地域でにして、最も需要な拠点地域でもある。
アセアニア地方から3千キロの洋上を超えた先には、巨大な山脈と河川に、様々な地形や厳しい気候を有するドラゴ大陸が在る。
その大陸は、異世界マギアンティアの列強国地域の一角である第4文明列強国の勢力圏と言われ、数百の属国と数百の部族と人種を従える龍人族の頂点に立って居る火炎龍族が中心の竜人族の大帝国が在るから油断が出来ない。
今は彼のドラリュウス帝国は、キリヤ公国連合国には興味が無い事と、陸地が少ない地域を超えての遠征は、強靭な肉体を有する彼らでさえ、なかなか難しいと言えるので、今の所は心配無いが、キリヤ公国連合国中央政府とナデシコ自治統合軍の間では、仮想敵国として警戒をして居る列強国の一つだった。
そのドラリュウス帝国を警戒して南方海域たるマーリーナ海洋方面の洋上を哨戒警備の任に当たって居る第五戦隊司令官・渡辺祥子大佐と第五戦隊副司令官・近藤信代大佐等が率いる第五戦隊は、2艦隊に別れて哨戒任務に就いて居た。
第五戦隊陣容は以下の通り、戦艦・信濃、金剛、比叡。空母・雲竜、大鳳、瑞鳳。重巡・鳥海、青葉、衣笠。
軽巡・天龍、龍田、鬼怒、大淀。駆逐艦・暁、響、雷、電、凪風等々・・・・・・・
定期的な国境警備を欠かす事の出きないこの世界では、油断をして居れば、簡単に他国の軍隊に付け入られる事も有るだろう。
特に南方領は離れた群島も多いので、艦隊クラスの戦隊が定期的に哨戒警戒活動警備が必要なのだ。
何せ、ドラリュウス帝国と言う奴は、この世界各地に戦争吹っかけて居ると言う物騒な国であると言うのだから、ナデシコ自治統合軍の幹部らが警戒を強めるのは当然の事だろう。
「嫌な天気だぜ。それに時化って来やがった。」
「そろそろ引き上げますか?」
セミロング風の髪型と穏やかな顔付きをした近藤信代が乗艦して居る戦艦・金剛から、艦隊司令官である祥子のが乗艦して居る第五戦隊の旗艦である戦艦信濃から飛んで居る無線電波を通しての呟きに対して聞き返して居た。
「そうだな。前の世界からすりゃ、此処まで海が荒いのも珍しいもんたぜっ!」
「それに無理して、船が転覆しちまうのも不味い。」
「故国撫子からの引き継いだ大事な船達だ。ここ等辺で引き上げるのも妥当だろうな。」
「近藤っ!これ以上時化る前に、トラク諸島自治区・ナデシコ自治統合海軍基地へ帰投するぞっ!」
「了解ですっ!」
「あっ?!そういやー、俺達が転移して来たのも、こんな天気だったな。」
「そう言えば、そうでしたね。変な事に成らければ良いのですが・・・・・・・・」
「近藤、それを口にすると、後で決まってロクな事に成らないぜっ!!」
「うふふっ、そうですね。これは失言でしたね。」
ふと祥子は4ヶ月くらい前に、この世界へと転移して来た状況を思い起こしていた。
そう、彼女達撫子皇国の人々が、この世界へと転移する前に、何れの地域も大規模な異常気象的な嵐に見舞われたのだった。
「ん?」
「祥子。」
「どうかしたのか近藤?」
「はい。先ほどから無線に妙なノイズ音が混じって居る様な気がするのですが・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「近藤、お前の方でキャッチした出所不明の電波をこっちにも全艦隊に向けて無線放送を使って流せっ!」
「第五戦隊の全艦内放送のスピーカーで、大音量で流して見ろっ!」
「聞いたよなっ!おめえらっ!!聞き逃すんじゃねえぞっ!こりゃ、何か在るっ!」
「はっ、・・・・・・・・」
祥子は嫌な予感がしていた。
一度、転移災害に遭った事で、災害に対する感が過敏に成って居る様であった。
「此方はビクトリナ王国・環太平洋方面軍・ビクトリナ王国海軍太平洋艦隊・第七艦隊旗艦・機動兵器空母ベルディ・アーク。」
「総司令部っ!総司令部っ!くそっ!何所にも通信が繋がらないとは・・・・・・・・」
無線通信から聞いた事も無い見知らぬ女性らしき声が聞え来た。
それも必死に何処かと交信しようとして居るらしいが、繋がらずに困り果てて居る様子である。
「祥子、これって?」
「・・・・・・・・・・ああ、どうやら当たりを引いちまったらしいな。」
「これって勇治陛下が言って居られた、天災に巻き込まれた異界の異物。又は異界人よね。」
「聞こえた内容からして、こりゃ何らかの地域か海軍の艦隊。もしくは軍事基地が在る陸地か島諸島って所だろうな。」
「どうするの?」
「こう言う場合、先手必勝だろうよ。」
祥子はキリヤ公国連合国以外の他国が、異界物を持った地域や人材達が、何も知らずに、この世界の国々に対して助けを求める事をさせない為にも、事情を良く知って居る自分達、キリヤ公国連合国が先手を打ってコンタクトを取る決断をした。
これは勇治からも許可されて居る事なので、異界物や異界人の類を他国に取られて、戦争利用される事をさせない事を目的として予防処置だった。
勇治はキリヤ公国連合国の国是として、異界物と異界人の保護をする事で、世界の均衡を保つ事を目的に活動をして居るからだった。
「此方はキリヤ公国連合国のキリヤ公国連合国軍・第一連合自治方面軍・ナデシコ自治統合海軍所属・第五戦隊司令官・渡辺祥子大佐だ。」
「俺の声が聞えて居たら応答願う。」
「えっ?通信?キリヤ公国連合国って?」
「通じたらしいな。突然で驚いただろうが、この嵐で其方の位置に行くのに一苦労しそうだ。」
「嵐が収まったら、今交信している周波数を最大まで上げて呼び掛けろっ!通信技術の有る国は、この世界にそう多くない。」
「この世界?何を言って。」
「兎に角、俺達が行くまで大人しく待って居てくれっ!」
「分かった。貴方達が何者か分からないけど、私達に助けを遣すのよね。」
「ああ、そうだ。アンタ名前は?」
「私はビクトリナ王国・環太平洋方面軍総司令官にして、旗艦・機動兵器空母ベルディ・アーク艦長をも勤めているジェシカ・クローディア大佐だ。」
「ではクローディア大佐。」
「貴方達の居る地域の天候は、ある現象が原因で荒れて居る。だから状況が良く成りしだいもう一度、我々はそちらの居る海域に行く。」
「我々は嵐を避ける為に、管轄区の基地へと戻らねばならない。」
「重ねて言うが、自衛行動以外での軽挙妄動は控えてくれよな。」
「分かった。貴方達の来訪を待って居る。」
通信は其処で途切れた。
「近藤っ!急いで戻るぞ!」
「ええ、この一件を早く勇治陛下に報せないと・・・・・」
「ああ、こりゃ本当に大事に成るなぁ・・・・・・・・・」
祥子達の第五戦隊は、急いで艦隊基地拠点にして居るトラク諸島自治区・ナデシコ自治統合海軍基地へと戻って行くのであった。
これが後に世に言う、ビクトリナ南洋大戦の始まりでも有ったのである。
マギアンティア世界統一暦・1555年・8月15日・午前9時03分頃・マギアンティア世界・中央世界第一文明圏・ユーラシアン大陸南部地方・キリヤ公国連合国本国・キリヤ公国・キリヤ地方・公王都キリヤ市・キリヤ城・キリヤ公国宰相内閣府及びキリヤ公国・公王執務官邸にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1日後・・・・・・キリヤ公国連合国本土・キリヤ公国・公王都キリヤ市・キリヤ城に、南方地域から急報が入る。
それはキリヤ公国連合国・バヌアーツ諸島自治区・ポートビラノア市ナデシコ自治統合海軍基地から緊急事態速報の通信が勇治の下へと届けられた。
勇治のとキリヤ公国連合国中央政府は、ナデシコ地方自治州区の転移と公帝戦争を通じて、ある法案整備を急ぎ制定した。
それが転移物対処法と言う法律だった。
この法律は強引な手段で異界物や異界地域を手にせんとする国家やその他の敵性組織に対処する法律だ。
危険度や優先的な保護対象の優先度順にランク分けされて居る。最高ランクはAランクとされて居る。
Aランクとは特別事項で緊急を要する事案とされて居る事である。
特に危険の高い転移物か国家・地域等の土地が転移して来た時のケースとして扱われて居る最高ランクの事である。
「祥子さん。現れたのは間違いなく、異世界から転移して来た土地か艦隊なんですね?」
「ああ、間違いない。」」
「確かに・・・・現物は確認しちゃ居ねぇが、間近ねえっ!」
「この前みたいに俺達が、この世界にやって来た時に経験した状況と酷似してやがるんだっ!」
勇治は通信の的確なやり取りをするべく、パソコン技術を開放すると決め、パソコンやタブレッドにスマホ等の通信機器を主だったキリヤ公国連合国の幹部全員に配って居る。
勇治と祥子、それには信代の3人は、パソコンのカメラ通信を用いてリモート通信で話して居た。
撫子人達の聞き取り調査結果を総合すると、異世界転移が起きた時は、必ず決まって異常気象的な嵐に遭う様にして別世界に飛ばされると言う事が、転移発現の発生条件として考えられていた。
他にも別の気象現象が有るかも知れないが、今の所はナデシコの面々が語る話を転移現象の参考体験談の話から得た事を転移災害発生の基本原理として居たのである。
「・・・・・では、祥子さん。」
「いいえ、キリヤ公国連合軍・第一連合自治方面軍・ナデシコ自治統合海軍所属。第五戦隊司令官・渡辺祥子大佐並びに、第五戦隊副司令官・近藤信代大佐。」
「「はっ!」」
キリヤ公国連合国・バヌアーツ諸島自治区・ポートビラノア市ナデシコ自治統合海軍基地の司令部の執務室に居る二人は、軍人らしく公王の命を受けるべく姿勢を正した。
「新たに転移して来たと思われる地域と、交信を交わした人物とその組織に付いての調査と接触を図り、僕に引き合わせる事を命じます。」
「「謹んで拝命します。」」
「何か有ったら、遠慮なく五十鈴ねぇと僕に頼って下さいね。それでは・・・・・・・・・」
通信を終える勇治は、執務室の外から見える公王都キリヤ市を見下ろしながら言う。
「文字通りの嵐の前触れかな。多分、こりゃ事が大荒れに成るよね・・・・・・・・・・・・」と祥子が言って居たみたいな事を呟く勇治。
嵐の中に現れた異界物。
嵐の前のなんとかと言う言葉を思い起こして、この一件は相当大きく事が荒れるかも知れないと、勇治は思うのであった。




