第2話 少年王と撫子皇国地方の転移 2
マギアンティア世界統一暦・1555年・4月3日・午前7時10分頃・マギアンティア世界・中央世界第一文明圏・ユーラシアン大陸南部地方東部地域・マーリーナ海洋・撫子皇国・東南アジアン地方・シンダポール半島地方・シンダポール保護領市国・首都シンダポール市・撫子皇国海軍シンダポール市海軍基地司令本部庁にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
撫子皇国領を襲った大災害が収まってから数時間後の翌朝の事である。
撫子皇国・東南アジアン地方・シンダポール半島地方 シンダポール保護領市国・首都シンダポール市・撫子皇国海軍シンダポール市海軍基地司令本部では、撫子皇国との通信が途絶して居た。
「どう言う事だ。撫子本国と連絡が付かないなんて・・・・・・・・・・・・」
「晴海っ!祥子達の撫子皇国海軍・バヌアーツ諸島海軍基地とは連絡が取れた。」
「そうかっ!良かった。」と撫子皇国海軍シンダポール市海軍基地司令本部を預かる角田晴海中将は安堵の言葉が漏れた。
「ジー・・・・ザザザ・・・・こちら撫子皇国海軍・・・・マラック岩礁諸島海軍基地・・・・聞こえて居たら何処でも良い。応答を願う。」
「晴海、亀代からだっ!」
「亀代、此方はシンダポール市撫子皇国海軍基地司令本部の晴海よっ! 其方の状況は?」
「晴海?そう、シンダポール市撫子皇国海軍基地司令本部は無事なの?」
「ええ、こっちも多少なりとも施設に被害は出た程度で済んで居るわ。だけども撫子皇国本国との連絡が付かないの。」
「其方からは連絡が取れないかしら?」
「此方も取れて居ないんだ。けれども五十鈴とは連絡が付いて居るよ。向こうは晴海たちと祥子達とは連絡が付かないって心配して居る。」
「そうか、祥子達は無事よ。先ほど連絡が付いた所なの。」
「そう、五十鈴からは夕霧達が無事だと聞いて居る。」
「他は?」
「判らない。けれども五十鈴は急いで報せたい事が有るって言って居た。」
「報せたいこと?」
「うん。如何も私達は、異世界に居るらしいって言って居た。」
「異世界ですってっ!?」
「その証拠に、横須賀市の北側が、緑豊かな平原と森林地帯が点在していると言ってたよ。」
「そんな事って・・・・・・・」
「其処で五十鈴は、手始めに各基地の周辺地域を調査して、各地方の位置を特定し合いつつ、横須賀市を目指して欲しいと言って居る。」
「横須賀市に?」
「うん。横須賀市で、今後の対策方針を話し合いたいらしいよ。」
「分かったわ。祥子達にも連絡して、直ぐに行動を起こすわね。」
「うん、そっちも頑張ってね。」と言うと亀代は通信を終えた。
「大変な事に成ったわね。」
「晴海。」
「ええ、直ぐに陸海軍の幹部を招集、対策会議を終えたら、各方向への調査開始するわ。」
シンダポール市海軍基地司令本部を預かる司令官である角田晴海中将と副司令官たる山口多美少将の二人は、非常事態を打開するべく行動を開始する。
マギアンティア世界統一暦・1555年・4月13日・午前7時10分頃・マギアンティア世界・中央世界第一文明圏・ユーラシアン大陸・ユーラシアン大陸南部地方・キリヤ公国・ムツ地方自治州区東方地域・ヒロサキ町近隣地域・旧撫子皇国領・三浦川県・三浦半島地方・横須賀市・撫子皇国海軍・横須賀鎮守府・撫子皇国海軍司令長官室にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
撫子皇国が本土領と保護統治領として居た地域が、異世界に在るマギアンティア世界へと転移してしまう。
これが新米世界神のユイテルシアにより巻き起こった神クラスの天災である神災が発生した事による転移災害である。
その大神災に巻き込まれしまった撫子皇国の人々は、神々の過ちに由り、見知らぬ異世界へと放り込まれ、今は生きる術を模索して居た。
その未曾有大災害への対策を講じるべく、撫子皇国領の転移地域が一体と成って立ち上げた撫子皇国臨時行政政府。
その代表に選ばれたのが政治家・軍人・民間人等か聞こえが高い才人である山本五十鈴であった。
彼女の今の立場は、撫子皇国軍の総軍臨時司令官と臨時行政政府代表等を兼務して居る。
そんな彼女が横須賀鎮守府の執務室で、転移災害に由って大混乱と成って居る撫子皇国領の雑務処理により、次から次へとやって来る書類仕事に精を出して居た。
其処へ撫子皇国海軍・第一戦隊副司令官にして、五十鈴の副官でも在る烏柿肇大佐が新たな情報を持って現れた。
「五十鈴さん。」
「肇、何かしら?」
「はい。各近隣地域を偵察活動中の各陸軍部隊から新たな情報が入りました。」
「如何やら私達が居るのは、マギアンティア世界と言う異世界で、この辺りはユーラシアン大陸と呼ばれる大陸の様です。」
「それに加えて、三浦川県と各撫子皇国保護領域に隣接するのは、西に大陸領を持ち、東に離島列島領を持った公王制国家であるキリヤ公国と北方に国土を持った帝政大国であるゲルニアン帝国との間に挟まれて居るとの事です。」
「はぁ~、それは厄介な話ね。」
「何方も我々の存在を知ったら、何を仕掛けて来るかは分からないわ。」
「はい。ですが、キリヤ公国は建国してから3月が過ぎた新興国国家のようです。まぁ、実質的には、たったの二月くらいだそうですが・・・」
「それは如何言う事なの?」
「はい。近隣地域を隈なく偵察した所によると、此処から真っ直ぐ西側に行った所には、キリヤ公国のムツ地方自治州区と言う自治州が在るそうです。」
「その最も東に位置して居るゲルニアン帝国との国境の町で、ヒロサキ町が在ります。」
「そのヒロサキ町で、我が撫子皇国陸軍の偵察隊が町の偵察活動と無用な争いを避ける為に、物々交換を目的とした補給物資の買い付けをしました。」
「その際に何気なく、この世界に付いての情報を聞いたのですが、キリヤ公国と言うのは、今年の初めにキリヤ公国の国土を領有をして居たガリアナ王国が、何でも跡取り娘である王女の婿に迎えた事が、新たな国家を建国した経緯らしく。」
「その公国の始まりと言うのは、ガリアナ王国首都クーデター事変を防いだ事で手柄を上げたと言う少年。桐谷勇治と言う平民出身の少年を公王に取り立てたとの事です。」
「その少年は婚約した際に、この地方を分割割譲し、キリヤ公国の建国宣言を行って、つい二ヶ月ほど前から西側に在る首都に住み始めた様です。」
「そんな理由から、キリヤ公国と言うのは、国づくりは始まったばかりで、我らの脅威には成り得ないかとの事です。」
「それでも常備軍くらいは、居るのでしょう?」
「それが・・・・居るには居ますが、何でも聞いた話では、我々の元居た世界で言えば、ヨーロッパ地方の中世時代くらいの装備でしかなく。」
「近代化装備軍で固められた我らを相手に戦えば、相手方の方の全滅は、確実に必須かと思います。」
「そう、それは助かる話だけども、その少年王君の事は、少しばかり気に成るわね。我が横須賀地方の隣国と成ったキリヤ公国を建国して住んで居るっ言うおとぎ話の様な成り立ちを持った少年王。」
「名前だけ聞くと、何だか撫子皇国人が、この世界に迷い込んだかのようにも思えるけど、その辺りは如何なの?」
「其処まで判り兼ねます。」
「ですが、北東部にはアマテラス神皇国地方と言う、我ら撫子皇国の様な文化的に近い島国が在るらしく。」
「ひょっとしたら、件の少年王は、其処の出身者なのかも知れませんね。」
「本当に不思議な話ね。正に異世界と言った所かしら?」
「それと北方の雄たる列強国と謳われて居る。ゲルニアン帝国に付いてのですが、我々が転移してしまった異世界である。このマギアンティア世界には、世界各地に文明圏と呼称される地域が在り、其処の盟主国家の事を列強国と呼んで居るようです。」
「文明圏に列強国?何所の世界にも似たような区割りグループ勢力が在る物ね。」
「ですね。」と五十鈴と肇の二人は、元居た世界を思いながら苦笑交じり言う。
「そのゲルニアン帝国は、ユーラシアン大陸の約7割を支配する大国です。彼の国内総人口が100億人で、常備保有兵力は2千万人と言われて居るそうです。」
「総人口がっ!!百億人にっ!常備保有兵力が二千万人ですって?!」
「ですが、その軍備はマスケット銃やフランキ砲と言った近世レベルの装備に加えて、中世時代の装備が交じり合った感じの物なのらしく。馬鹿正直に真っ向勝負さえしなければ、然したる問題は無いかと思います。」
「それでも二千万人よ。近代化が進んだ我が軍が相手取るには、兵力差に措いての桁だけを見れば、非常に厄介な相手だわ。」
「海軍戦力も在るそうですが、総兵力は30万人で、艦船戦力は3万隻の帆船式戦列艦隊が在るだけの様です。」
「此方も近代化海軍と成って居る撫子皇国海軍と戦えば、完全に粉砕は可能でしょう。」
「それでも面倒くさい相手よ。此方には東南アジアン地方の田畑と地下資源、それに横須賀市工業地帯と各保護領の工業地帯が豊富だから、補給物資の入手に心配が要らないのが幸いだわ。」
「それでもよ。万が一、ゲルニアン帝国と戦争と成って、長期戦とも成れば、非常に面倒な戦いと成るは目に見える居るわ。」
「早めにゲルニアン帝国を含めたこの世界に在る各国との間に、国交樹立と不可侵条約を結びたいわね。」
マギアンティア世界統一暦・1555年・4月13日・午前9時10分頃・マギアンティア世界・中央世界第一文明圏・ユーラシアン大陸・ユーラシアン大陸北部地方・ゲルニアン帝国・帝都ベルリナ市・ベルリナ帝城宮殿・皇帝執務室にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
五十鈴達と撫子皇国領が、転移災害によってマギアンティア世界へと流れ付いてから10日が過ぎて居た頃の事。
ユーラシアン大陸の列強国であるゲルニアン帝国にも動きが見られて居た。
ゲルニアン帝国とは、マギアンティア世界・中央世界第一文明圏・ユーラシアン大陸の北部全土7割を支配している列強国である。
その支配地域の広さを例えると、地球で言えばシベリアからインドシナ半島とインド辺りくらいの広さを誇って居た。
この国以外で、ユーラシアン大陸の北部に唯一残っているとすれば、北西部のスノーランド部族国と北東部のアーラスカン共和国と日本列島に似た形をしたアマテラス神皇国の三ヶ国くらいだろう。
何れの国も帝国が軍を派遣しても旨味の無い痩せた土地と辺鄙な土地柄で、軍事的に脅威にも成らないと彼らからは見られて居たからである。
しかし、大陸南側は別である。
多くの耕作地域と豊かな水資源や大自然が広がって居て、人口がとても多いし、土地柄も魅力的だったからだ。
これらの土地を狙って居るゲルニアン帝国は、南方地域へと度々軍隊を派兵して居るが、何れも地の利を活かした戦いを繰り広げる南方諸国の連合軍に撃退されて居た。
そして、キリヤ地方と今は呼んで居る元ガリアナ王国領の東部領イーステァ地方と呼ばれたキリヤ公国の国土は、今の今までゲルニアン帝国でさえも見向きもしなかった土地である。
人口が少ないし、未開拓で占領しても旨味が無いと思って居たからだった。
そんな土地にある日突然、素晴らしい程に開拓され、未知の異界から土地と技術を持った人材に民が現れたとの報せが、ゲルニアン帝国の南方辺境領を治める大貴族諸侯でも在るフェリス辺境侯爵家から齎されて居た。
フェリス辺境侯爵家の当主であるアルベルゴ・フェリスは、新しい出来た小国であり、ガリアナ王国の属国であるキリヤ公国と南北とで国境を接して居る領主である。
そのアルベル侯爵からキリヤ公国とフェリス辺境侯爵家領に跨って見たことも無い土地が忽然と現れたとの報告をして来たのであった。
その詳細な報告書は、ゲルニアン帝国の皇帝ヒットラン・アドルフラーの元へと届けられて居た。
ゲルニアン帝国を世界一の国にすべく邁進中で、ユーラシアン大陸の統一と諸外国を従わせる力を持てる国家の確立を自分の代で確率しようとしている。
しかしながら近隣諸国を含めた世界中の国々からは、国が無ければ単なる鼻の下にちょび髭を生やした顔付きの悪いおっさんでしかないと言われてしまって居る愚皇帝と言う渾名が後世の歴史書に残って居る。
そのヒットラン皇帝と突如として現れた未開地域対策に付いての話して居るのはロンデル・エルバン大元帥と言う人物。
電撃戦のロンデル大元帥と言う異名持つ人物で、ゲルニアン帝国の大元帥で在り、大胆な戦術を取ることで知られている。1千万人の軍勢を操れば敵は無いと諸外国から恐れられて居るらしい。
その顔つきは特徴的で、口周りに立派な髭蓄えたおっさんと言った風貌の顔付きをして居た。
「ロンデルよ、アルベルゴ侯爵から面白い報告書が上がって来たのう。」
「はい。私めも上がって来た報告書を読みましたが、最初は馬鹿な事をと思いましたが、その情報の裏を取って見れば実に興味深く。」
「事実である事が判りました。」
「わしも聞いて居る。」
「それに彼の未開地域は、我が帝国の国土すら侵食して居り、それを理由になんらかの交渉の糸口が無いのかを探りたいと思います。」
「ガリアナ国王のジンバル国王とキリヤ公国を建国した桐谷とか言う小僧の動きは如何だ?」
「はっ!!両国へと入り込んで偵察活動している諜報部の者達での報告では、未だ未開地域が現れたとの話は知らない様子。」
「それは吉報だ。これを機にキリヤ公国とか言う子共が統治領とする領国と未開地域を切り取るのも、一考かも知れんなのう。」
「はい。ですが、事を起こす前に未開地域の者達と話し合うべきです。」
「ほう、ロンデルにしては慎重ようのう?」
「はい。幾ら未開地域とは言え、報告書を読む限りでは、それなりに文明が発達して居ると見られ、どのような軍備が在るのかさえ分かり兼ねます。」
「先ずは偵察を兼ねて、彼の地の代表者達と接触し、将兵や予算の無駄遣いを避けるべきかと・・・・・」
「くくくくくっ!!流石だなロンデルよ。知恵が良く回るな。」
「お褒めの言葉、光栄の至りであります。」
「成らば、未開地域との交渉を進めよ。」
「ははっ!!畏まりました。」
ゲルニアン帝国の皇帝ヒットランは、転移災害に由って路頭に迷いつつ在るが、自給自足と国防軍を有する独立自治州との交渉をすると決めたのであった。
マギアンティア世界統一暦・1555年・4月17日・午前11時10分頃マギアンティア世界・中央世界第一文明圏・ユーラシアン大陸・ユーラシアン大陸南部地方・キリヤ公国・ムツ地方自治州区東方地域・ヒロサキ町近隣地域・旧撫子皇国領・三浦川県・三浦半島地方・横須賀市・撫子皇国海軍・横須賀鎮守府・撫子皇国海軍司令長官室にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
転移災害によって孤立してしまった撫子皇国領を守ろうとする山本五十鈴は、同じく転移災害によってこの世界にやって来た同僚達と共に防備を固め、経済基盤と食料自給を確立しつつ、如何動こうかと模索して居た。
何せ外交的な伝手が一切無い異世界である。
使える手立てとして、陸軍の偵察部隊がユーラシアン大陸南部地方の各地へと送り出され、情報収集と接触しても問題無さそうな国家を探す日々が続く。
そんな中で撫子地方領の地図が出来上がったと言う時期に、ユーラシアン大陸の列強国であるゲルニアン帝国から外交使節団の使者が送られて来た。
五十鈴達は、列強国であるゲルニアン帝国がやって来たと言う事は、彼の国から目を付けられて居るか、本当に国交樹立をしにやって来たと見て居た。
ゲルニアン帝国の外務大臣であるヘスター・ダッケン外務大臣は、横須賀市・撫子皇国海軍・横須賀鎮守府内に在る五十鈴の執務室へと通された。
「初めまして、異世界への転移災害にによる撫子皇国領を纏めて居る撫子皇国臨時行政政府代表の山本五十鈴です。」
「元々は海軍司令官であった私は、今は撫子皇国軍の総軍臨時司令官と臨時行政政府代表を兼務して居ます。」
「初めまして山本代表。私はゲルニアン帝国の外務大臣であるヘスター・ダッケンです。」と握手を交わす二人。
「それで・・・・ヘスター外務大臣閣下。本日は如何なる要件でこの地に参られたのでしょうか?」
「はい。その事に付いてですが、単刀直入に申しましょう。」
「この撫子皇国領を我がゲルニアン帝国の地方自治政府領としませんでしょうか?」とヘスター外務大臣は提案する。
ヒットラン皇帝は、手っ取り早く撫子皇国領を如何にかする為には、力の在る覇権国家の下に付くべきだと言う思想の持ち主。
その彼が撫子皇国領の行政府の国力と軍事力が如何ほどの物であろうとも、二千万人もの兵力で如何にか出来ると考えて居るからだった。
そんな理由からヒットラン皇帝とゲルニアン帝国政府首脳陣らは、如何なる力を持とうとも、撫子皇国領の行政府を黙らせられると踏んで居る様なのであった。
そんな理由か来る提案をされた五十鈴は、余りにも遅れた外交提案で在るが故に、呆れ果てしまい思わず「・・・・・・」と黙り込む。
「この地を見た所、色々と発展はして居る様ですが、何せ外国との伝手が無いと言うのは問題ではありませんか?」
「異世界から災害に遭われて、この地へと流れ付いたとの話ですが、我が帝国から見れば、それはそれであり、此方としては北部の我が国の国土を侵食して居る事が問題なのです。」
「それに今はキリヤ公国と成って居る。この地方も行く行くは、我が国の国土となる予定なのですよ。」
「そんな時期に、この地方へと現れた貴方達は、我々の計画には無いイレギュラー土地だ。」
「我が帝国に四方を囲まれる前に去就を明らかにすれば、この地の民達を含めて貴方達は安泰だ。」
「何ならこの土地の代表者たる貴女には、公爵位を与えるとも、我らが偉大なるヒットラン皇帝陛下は仰って居られる。」
「これは悪い話では無い慈悲深い事の筈ですな。」と散々にゲルニアン帝国に有利な持論と条件をクドクドと一方的に高説するヘスター外務大臣。
それに対して五十鈴はポーカーフェイスで対応しながらも腸煮えくり返る想いを抱えて居が、終始笑顔で我慢の対応をして居た。
「・・・・・・・大変申し訳ございませんが、我が撫子皇国臨時行政政府は民主主義制を重んじて居り、その行政代表者が、国体の是非を好き勝手に決めてはいけない事に成って居ります。」
「ヒットラン皇帝陛下からご提案を頂き、ヘスター外務大臣によってお報せを下さいました交渉条件に付いてなのですが、後日改めて撫子皇国臨時行政議会を開いて、議会での会議に諮った上でお返事をさせて頂きます。」
「ほう、即決はしないとは、随分と遅れた制度ですな。」
「これ程までに好条件で在ると言うのに、まぁ、良いでしょう。貴女にも立場が在るでしょうから。」と言ってヘスター外務大臣は厭味ったらしく物を言いつつ、その場から立ち去って行った。
この会談に立ち会って居た烏柿肇は怒り心頭で、客人が立ち去って暫くした後に怒鳴り上げた。
「五十鈴さんっ!!ゲルニアン帝国と言うのはっ!!!何て無礼な国なのでしょうかっ!!!!」
「はぁ~、本当よっ!!無礼にも程があり過ぎて、あの糞オヤジ大臣の事をぶん殴る所だったわっ!!」
「肇っ!!あの大臣が立ち去ったらっ!!通り過ぎ去った道の全てに塩を巻きなさいっ!!」
「はいっ!!」と言って肇は、ヘスター外務大臣が行き帰りをした通り道の全てに、清めの塩を巻く様に命令を発したのであった。
こうしてヒットラン皇帝とヘスター外務大臣による撫子皇国臨時行政政府との外交会談は失敗に終わり、この日から五日後に現れたキリヤ公国・桐谷勇治が率いる使節団との会談で全てを決する事に成る。




