自殺
私は今、ある高層ビルの屋上に立っている。
自殺をするためだ。
ここは人がめったに来ないことを、事前に調べておいた。
飛び降りた直後に死に顔を人に見られでもしたら、恥ずかしくて死んでも死にきれない。
ここから飛び降りる……。
正直とても怖い。足が震える。
でも死ねば、解放される。
あの日々から……。
悩んでいても仕方がない。
覚悟はしてきたはずだ。
掴んでいた柵から手を離す。
と、その時、
トンッ
誰かに背中を押された。
頭から地面に落ちてゆく。
落ちる刹那、私は自分を押した相手を見た。
そいつは、私を、いじめていたやつだった。
かなりのスピードで落ちているはずなのに、なぜか時間がゆっくりに感じる。
徐々に、目の前が学校の景色に見えてきた。
誰かが泣いている。
あれは私だ。
ああ、そうか、これが走馬灯というやつなのか。
* * *
4月、まだ学校になれていなかった私はクラスの中で一番おとなしかった。
私が入学できた学校はなかなかの進学校だった。
そのせいもあるのだろう。ストレスを抱えている人が多かった。
だいたいの人はストレスを上手く消化していたが、中には人にやつ当たりをする人もいた。
そういう人達の格好の的だったのだ、私は。
あいつらは、私を上手にいじめた。
先生が気づくような方法はせずに、じわじわと心が傷ついていくようないじめ方をした。
休み時間に一緒に話しをしてくれる人もいたが、あいつらが来ると、遠慮気味にいなくなるのだ。
人は人、自分は自分。
そう割りきっているようだった。
学校に私の居場所はなかった。
私の学校の成績はあまり良くなかった。
親はどうして点が取れないのか、とよく聞いてきた。
自分は必死に努力している。理由があるなら、聞きたいのはこちらの方だ。
だが、言い返しても怒鳴られて終わりだ。
私は内心で唇を強く噛みながらも、親には謝ることしか出来なかった。
私は毎日のように声を殺して部屋で泣いた。
私の味方は誰もいなかった。
* * *
私は目をつぶった。
やはり私は間違っていなかった。
あの苦しい日々から開放されるのだから。
おかしい……。
いくら何でも長すぎる。
私はまだ死んでいない。
目を開けて周りをみると、真っ暗だった。
町の景色ではない。
ここはどこなんだろう。
私はどこまで落ちてゆくのだろう。