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第9話 視察

そんなつもりは全く無いけど書いていると重めのストーリーになってしまう…

実家から戻ってきたルナリアはそこはかとなくご機嫌だった。やはり値がつながっている母親と会うというのは子供にとって居心地のよいことなのだろう。

 3人は来た道を戻り(途中でヒルダさんがスイーツを奢ってくれた)、ネチェロ孤児院まで無事帰還する。レティシアやニックにいろいろ尋ねられたがその日はぐっすりと眠ることができた。


 それから一週間のうちに日々の仕事をこなしつつヒルダさんに仰せつかってレティシアと一緒に遠足の行程を決める決めることになった。当初の目的であるザイモンの大樹をゴールとしてレティシアと一緒にあれこれ言いながら場所を選定していく。


「せっかく一番街まで行くんだから、貴族街を見に行こう」


とヒロト。田舎育ちのヒロトにはあの豪華な屋敷と高貴な雰囲気には目見張るものがあった。


「そんなに大勢で入れるのかな」


レティシアは顎に手を当てて難色を示す。確かに前回は少人数で確たる目的があったから入れたもののおいそれと一般人の立ち入りが許可されることはないだろう。


「そうだよね。」


ヒロト的には是非もう一度いきたいスポットだったのでとりあえず遠目に見るのは?と提案してレティシアの合意を取り付けた。


「孤児院の女子代表として言わせてもらえば、服屋さんに行きたいかな」


「それはいいんだけど、お金はあるの?」


レティシアはふるふると首を振る。


「お金は無いけど、見るだけ」


「わかった。いつか本当に買えるようになるといいね」


「うん」


そんなときが来るのだろうか。でも未来は自分で切り開くしか無いのだ。


「それはともかく。あとは、どこいこっか」


レティシアがネルスの地図を広げながら思案する。ヒロトもここ何週間かで蓄えた記憶をフル活用して遠足スポットを考えた。


「そういえば、キリタニさんの商店で出会ったんだけどミストルさんっていう人が三番街の『ルメルメの罠』っていう店がおいしいお菓子を出すって言ってたんだ」


「『ルメルメの罠』?」


「そうそう、変な名前だろ」


「そのお菓子は、何でも甘くて冷たくてふわっふわっの食感らしい」


ヒロトも聞いたときはいまいちぴんと来なかったのだが。


「ヒロト、子供たちに危ないものを食べさせる訳にはいかないわよね??」


レティシアは別人が乗り移ったようになっていた。


「う、うん」


「なら、私たちで現地視察にいかなきゃ!明日にでも!」


「そ、そうだね」


 半ばレティシアに押し通される形になったが、視察というのは悪くない提案だ。遠足を成功させるためにも、ヒロトの個人的な理由としても。


 明日は楽しい一日になりそうだ、そう思ってヒロトは窓の外に目をやる。もうずいぶん前に夜の帳は降りてきていて、薄ぼんやりと照らされた庭の木々がさわさわと音を立てていた。


 出発は次の日の十六の刻が過ぎた頃だった。レティシアが夕食の買い出しを済ませ、ヒロトが子供たちとの仕事を終えてからやっと二人の手は空く。二人は急いで身支度を済ませてから銅銭を握りしめて太陽の傾く街に繰り出した。



「えっと、確か三番街のスターチン区だったと思う」


「ここからだと結構距離があるわね」


 二人は駆け足で目的地まで急ぐ。三番街というと主に鍛冶が有名な所であるがその噂が下まで届くほどだ。きっと既に巷では有名になっているに違いない。最悪売り切れている可能性もある。

 二人はあちこちで道行く人に道を尋ねて回った。道行く人の三人に一人は知っているあたり、よく知れた店であると確信する。そうしてそろそろ限界が近づいてきた頃、程なくして件の店にたどり着いた。



「すみません、、」


 階層を一つ上がったあげく走りまわったおかげで息も絶え絶えなヒロトに代わり、執念を燃やし立ち上がったレティシアが注文を言い切る。


「甘くて、冷たくて、ふわふわの、ください」


 わかりました、店員の言葉に安心するヒロト。頑張って走った甲斐があった、そう思った。しかし、


「すみません。ちょうど品切れで一人分しかなかったので」


出てきたのは一人分と思ぼしき大きさの容器に2つのスプーンがのったふわふわだった。




「これ、どうしよう」


 ヒロトは渡されたふわふわをもってたたずんでいた。


確かに今回の視察でレティシアと仲良くなれれば、くらいのことは目論んでいた。しかし、一つのふわふわを二人で分け合って食べるなんて聞いてない。どうしよう、レティシアに全部あげてしまおうか。しかし少しくらいは食べてみたい気持ちもある。どうしよう。


大して悩む事でもなかったがヒロトは純情であった。食欲と恥ずかしさの葛藤の中で頭の中はごちゃごちゃである。


だからこそ、どさくさに紛れてスプーンを取るレティシアに気づけなかった。


「はい、ヒロト。あーん」


「んっ」


口の中にミルクと砂糖の甘さが一気に広がる。口当たりは冷たくて、さながら溶けてゆくようだった。

美味しい!


しかし、現実を飲み込むまでそう時間はかからない。


「レ、レティシア!」


「ふふっ、美味しかった?」


そう言いながら、彼女もふわふわを口にする。勿論ヒロトの使ったスプーンで。


「んん〜!」


レティシアは頰を抑えるようにして満面の笑みを浮かべた。それはもう見えているこっちまでにやけてしまう程に。

それを見ているとヒロトもだんだんそうとり立てるほどの事でも無いように思えてくる。ようやっと、容器に刺さっているもう一つスプーンを手に取った。



その後は二人でふわふわをパクつく。もともと一人分だったのですぐに無くなってしまった。満足した二人は店員にお礼を言って帰路につく。


「美味しかったね」


「視察に行ってよかったでしょ?」


「うん」


あのふわふわ、アイスクリイムと言うらしいがあのお菓子は絶品だった。あれはもう一種の革命だと思う。


「今度みんなで絶対行こうね」


レティシアがあどけなく笑う。ヒロトもこんな時間をみんなで共有出来ればな、と思った。


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