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第6話 孤児院の朝


「あら、レティシアも一緒なのね。2人とも無事で良かった」


ネチェロ孤児院に戻るとヒルダ婦人が腕を組んで待っていた。なかなか帰らないヒロトたちにやきもきしていたらしい。


「ジェリコとロトがヒロトと逸れたって泣いて帰ってきたの」


2人が迷惑かけてごめんなさいね、と婦人は謝るが彼女のせいではないだろう。


「そもそも土地勘の無い僕が動き回らなければよかったので」


いつの間にかジェリコとロトが居なくなってしまったことは不可抗力かもしれないけれど、焦らずにあの場に留まっていれば裏路地の鬼ごっこは無かったかもしれない。ヒロトにしてみれば、レティシアに出会えたことだけでそれを上回る成果があったと言っていい。今回はそれで十分だ。


「と・も・か・く、みんな無事で良かったじゃない、明日も早いし今日は寝ましょう」


レティシアの号令で3人は解散する。ヒロトは充てがわれた部屋に向かい、少し体を拭いてから床についた。部屋には見知らぬ金髪の青年が居たがぐっすり寝ているのか入ってきたヒロトには気づかなかったようだ。何処かで虫の鳴き声がする。ヒロトが眠りにつくまでそう長くはかからなかった。





ー同時刻、ナンドラ北方領域ー


巨大な要塞が立ち並ぶその一角に人影が2つ。





「少佐、また出張ですか」


先に口を開いたのは小柄な男の方だった。


「ああ、調査に戻らねば。やつは帝国にとって最重要人物だ。他国の手に渡れば帝国の趨勢は危ういからな」


もう1人は鍛えられた細身の体躯で小声であっても威厳を感じさせる声だ。


「確か信頼できる情報筋から報告があったそうで」


「ああ、先日の二の舞はごめんだが、今回は足跡をつかめるだろう」


少佐、と呼ばれた男は随分と自信を持っているようだった。


「そうですか。最近は近隣諸国もきな臭いですからね。」


小柄な男は懐中時計をちらりと見た。


「では、都合がつけばまたこちらにいらしてください」


「ああ、吉報を待ってろ」


そうして2人は別れる。まるで、何事も無かったかのように。



よく晴れた夜の空を風がさあっと撫でていった。









ヒロトは窓辺で遥か彼方、下の方に浮かぶ雲を見ていた。頰に当たる風が心地よい。いつまでもこうしていたい、そんな気分に包まれた。

が、

ふいに、地面が消失した。ヒロトは支えを失って頭から落ちていく。何処までもどこまでもーー。





「痛っ」


気がつくと知らない天井が見えた。


「とっとと起きなさい!」


「はっ、はい、すみません」


急に横合いから声がして反射的に謝る。覚醒しきらない頭で声の方を見るとそこにいたのは10歳くらいの少女だった。真紅の髪の毛を肩口まで伸ばしていて薄青色のシャツに短いズボンを履いている。そして何故かヒロトの枕を抱えていた。


「あれ、レティシア背が縮んだ?」


「なわけないでしょっ」


言うが否や枕を頭に投げつけられた。痛い。




彼女はアイシャというそうだ。なかなか起きてこないヒロトの所へヒルダさんが遣わしたらしい。最初見た時レティシアが小さくなったのかと思ったが髪の色からして違った。アイシャの髪の毛は真紅だがレティシアのは赤っぽいけどもっと薄いというか、言葉にしにくい赤さだ。



アイシャが持ってきていた服に着替え諸々の支度をしてから食堂に行くと、ちょうどみんなが朝食を食べるところだった。院の子供達とヒルダさん、レティシア、そして同室の青年がいる。

ヒロトは空いている席を見つけて座った。円卓の対面を見るとジェリコとロトがいる。2人もヒロトを見つけてニヤッと笑みを浮かべていた。元気そうで何よりだ。


「さあ、お寝坊のお兄さんも揃ったことだし頂くことにしましょう。作ってくれたお姉さんと食べ物に感謝

して、」


「「「「いただきます」」」」


ぐわんと声が重なった後、みんな早速食事に取り掛かる。ヒロトも手始めにきのこのスープから食べてみることにした。おっ、これはなかなかいける。


食後は子供達は遊びに出かけ、ヒルダさんとレティシアはそれぞれの仕事に戻って行った。ヒロトも力仕事を頼まれている。勝手が分からずもたもたしていると先程の青年がやってきた。



「やあヒロト。僕は、ニックって言うんだ。よろしく!」


「あ、よろしくお願いします」


「まあ、そんなに堅くならなくていいよ。僕のことはニックって呼んでくれ」


みんなそう呼んでるしね、と彼は付け加える。笑顔が好印象なさわやかな人だ。


「これからする事は2つ。フィーゴの種と衣服を運ぶことだ。種はみんなで植えて食べたり売ったりするのに使って衣服は修繕して持ち主に返すことで収益を得るんだ」


「作業は院のみんなでやる。子供達には巣立つ時の食い扶持にもなるだろうしそうやってお金稼がなければ院の経営が立ち行かなくなるからね」


とりあえず僕についてきてくれ、とニックはウィンデルン通りに向かう。朝を迎えて活気付いた街は多くの人で賑わっていた。昨夜は開いてなかった店も今は門戸を開いており数々の商品が並んでいた。



辺りで一番大きな商店の前で足を止めたニックは暖簾をくぐる。ヒロトもニックについて入店した。


店内は薄暗く埃っぽい羊皮紙の匂いがした。棚の上には食材から日用品、大小様々な仕事道具が置かれ部屋の片隅には古めかしい甲冑まである。そして、不用心なことにカウンターには誰も居なかった。


「キリタニさーん?いますかー?」


奥の方で返事が聞こえたかと思うとやって来たのは片眼鏡をかけた男性だった。



「いらっしゃいませ」


「いつもの品と預かっている衣類をお願いします」


ニックは慣れた様子で注文をする。


「はいはい、承知しました。おや、後ろにいらっしゃるのは新しい職員の方かな?」



目ざとく変化に気づくのは商人の性だろうか。こういう新たな人とのつながりを大切にしてこそ商人なのだう。


「あ、そうです。昨日から働かせて貰ってますヒロトと言います」


院はこの商会を懇意にしているらしいのでヒロトも改まって挨拶した。


「そうですか。私はキリタニ。この商会の代表をしております。どうぞよしなに」


キリタニさんは自然な仕草で礼をする。



「種はいつものところでしょうか?」


「ええ、そうです。ヒルダさんから今月分は頂いているのでどうぞもって行ってください」


ニックはヒロトに付いてくるよう促した。


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