五話
俺がユージの頭部を潰す音。とても大きかったはずだ。おそらく廊下まで聞こえているだろう。
そう考えた矢先、ドアが力強く開かれた。
「シャドウさん!ユージ、さん?」
受付嬢のキトは、その凛々しい赤色の目を震わせて言った。
赤色の目…悪魔の血族か。動揺で、偽装魔法が解けたようだ。しかし、俺を欺くほどの偽装魔法、さすが悪魔だ。やはり、生かしてはおけないな。
「シャドウさんも、その腕…」
「それよりも、お前の目だよ」
キトはハッとして目の色を変えた。
「魔法の起動時間も人間とは桁違いだ。やはり悪魔は殺さなければならないようだ」
俺はさっきのように頭に術式を思い浮かべ、詠唱を行なった。
そして、左手に再生の剣、ミュエルを召喚した。
「再生の剣、ミュエルよ。我が右腕を再生させたまえ」
俺の右腕がみるみる生えてくる。再生の剣、聖職者ミュエルが持っていた勇者の剣。俺が持つ8本の剣の中でも、これが1番実用性があると思っている。
そして立て続けに、右手に殺戮の剣、オスクロルを召喚した。
「じゃあ、始めようか、悪魔」
俺は、やる前から気づいていた。というよりも、悪魔と戦う時、毎回ろくなことにならないなんてのは、俺の中でもはや常識なのだ。
「仕方ありません…人間界で仲良く過ごしたかっただけなのに…本当に、残念です」
キトは、目の色を変えるのをやめて、牙をむき出しにした。
始まる…勝った方もただではすまないだろうな。
まあ、それこそ仕方ないが。