一話
「暇だな…とりあえず家にいるのもなんだし、王国に出かけるか」
ーーリース王国ーー
門をくぐるとすぐそこは賑やかな城下町だった。
「うほー。すげーなぁ」
飲食店や売店が立ち並んでおり、すぐに目移りしてしまいそうになるが、一応の目的を果たすために断腸の思いで我慢する。
今日の目的は、冒険ギルドに行って冒険者登録を済ませることだ。
冒険者とは、いろんな人物から出される頼みごと、クエストを解決する職業だ。
俺は生まれてこのかた、四年前のあの一回以外、森から出てないからな。未だに冒険者登録していない。
冒険者登録が終わって時間があれば店を見て回ろう。
門から十分ぐらい歩いたところに、冒険者ギルド本部があった。
中に入ると、屈強な冒険者たちで溢れていた。
きょろきょろとしながら受付カウンターに歩いて行くと、突然体に大きな衝撃を感じた。
「なんだぁ?にいちゃん!喧嘩売ってんのか」
(しまった。余所見しているうちに誰かに当たったようだ)
「ああ。すまない。余所見をしていた」
前を見ると、40才ぐらいで身長が2mを超えている筋骨隆々な男がこちらを睨んで立っていた。
「…お前、俺を舐めてるみたいだな。俺を知らねぇ訳じゃねぇだろ?」
「いや、知らないな」
俺がそう言い放つと、筋肉おじじはさらに厳つい顔になった。
「俺は、Aランク冒険者のガルシア様だぞ!」
ランクとは、冒険者ギルドが定める世界共通の強さのことだ。冒険者や魔物はこのランクによって格付けされていて、ランクにはS〜DまであってAは上から二番目、つまりこいつは相当強いみたいだ。
ガルシアが叫んだことで、俺たち2人は周りからジロジロ見られている。気分はいいもんじゃない。
「そうか。俺はシャドウ。ガルシア、ぶつかってすまなかった」
「その態度が気に入らねーつってんだよ!」
ガルシアは、体に見合わない速度で殴りかかってはきたが、俺には止まっているように見えた。
(本当にAランクなのか…?)
俺は隙だらけな首に素早く手刀を放ち、ガルシアを気絶させた。
すると周りの奴らは、目をまん丸にして俺を見た。
「こいつが先に殴りかかってきたんだ。そこまで見られる義理はない」
俺は言い訳をしてから、カウンターに向かってまた歩き出した。