プロローグ
「うわぁぁぁぁぁあ!」
森の奥地から叫び声が聞こえた。
「北東3kmだな」
漆黒のローブをまとった身長約170cmほどの男が、音を超える速度で悲鳴の元へ駆け出した。
奥地は、異常なほどに成長した魔物が現れる場所である。
男は、およそ3kmほどの距離を数秒とかけずに走り、即座に男を襲っている魔狼を蹴飛ばした。魔狼は、冒険ギルドでAランクと正式に定められている。
周りを見渡すと、りんごが大量に積まれた馬車と、手練れであろう六人の護衛者の死体が見てとれる。このことから推察するに、今襲われているのは商人なのであろう。
「グルルルルゥオォォ‼︎」
男に対して放たれた威嚇は、周りの木々をざわつかせ
並みの魔狼でないことを分からせたが、男を怯ませるには到底足らなかった。
男が誰にも聞こえないほどの声で詠唱すると、次の瞬間には右手に純白の剣が握られており、それもまた誰にも見えないほどの速度で、魔狼の首を断ち切るのであった。
結局、この一連の流れにおいて商人がかろうじて目撃できたのは、突然目の前を覆う黒い布と、瞬きの後残った魔狼の死体のみであった。
商人には助けてくれた礼をする時間すらなかったのである。
これは、八本の剣を携えた漆黒の勇者の話である。