表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その月はとても綺麗で。  作者: 空野 刹那
3/5

第三話「その思い出は淡いようで。」

十時。なぜ俺は夜間の散歩という危ない橋を渡ろうとしたのだろう。

これもきっと緊張のせいだ。

話すこともなくただただ歩くという謎の時間が続いていく。

月灯りに照らされた彼女の顔は初めて見た時に思った「満月」とは

ほど遠く、どこか欠けたような「三日月」だった。

しかし彼女はなぜ俺と婚約したのだろうか。

会った事もない俺なんかと。

こういう時こそ聞いてみるのもいいかもしれないな。

「あのさ、前にも聞いたけどさ

菜月さんはなんで俺と婚約したの?」

菜月はその場に立ち止まった。

彼女は一息おいて、こう言った。

「私は夏輝君に会うのが初めてじゃないからだよ」

俺にはその一言が少し悲しそうに聞こえた。

「覚えてる?小6の夏。君が私と出逢った日」

俺は気づけていなかったことに気づく。

小6の夏。俺は、祖父母の家に里帰りしていた。

親が出張でいなかった為、預けられていたのだ。

祖父母は二人とも気まぐれな人で、

特に門限や出禁などといった制限はなかった。

「あの日、私は一人で遊んでた。そう。一人で。」

彼女にとって「一人」という言葉は慣れているのだろう。

その言葉からは何も感じられなかった。

「そこに現れたのが夏輝君。きー君だったんだよ」

「きー・・・君・・・?」

それは懐かしくて、悲しい想い出を俺に思い出させた。


「夏輝?どこ行ったの?」

祖母の声がする。僕は父の眼鏡を置き、祖母の元へ向かう。

この頃はまだ一人称は「僕」で眼鏡もしていなかった。

「何?おばあちゃん」

「悪いけどお客さんが来るから少し出ていておくれ」

「わかった」

特にやることもなかった俺は近くの「太宰湖」の近くを歩いていた。

太宰湖の名前の由来はかの有名な太宰 治とは関係なく、

ただ地主が太宰さんだったから付けられたらしい。

太宰湖の中心には大樹がたっている。太宰湖は浅く、中を通って

大樹に向かう。

大樹は中が空洞になっており、ここで読書をするのが

唯一の楽しみだった。

ただその日は先客がいた。

白い髪の綺麗な女の子。

ただその綺麗さは少し欠けている。

例えるなら「三日月」だ。

「あの?何か?」

話しかけられた。

「いや、何してるのかなと思って」

「別に、ただ一人で遊んでるだけ」

彼女の「一人」は重く、鈍いものだった。

「僕と一緒に遊ばない?」

何故か、そう言いたくなってしまった。

きっと、それが僕の「初恋」だ。

それから僕らは毎日遊んだ。

僕らはあだ名で呼び合うことにした。

名前が同じだったから。

彼女は僕のことをキー君と呼んだ。

そして僕は彼女のことを

なーちゃんと呼んだ。

いつのまにか僕らは互いの事を好きと認識していた。

ある日、いつもどおり大樹へ向かうと

彼女が泣いていた。

「なーちゃん?どうしたの?」

声をかけると彼女は泣きながら抱きついてきた。

「私、一人なんだ。味方なんていなかったんだ」

彼女の言葉が僕に刺さる。

「怖いよ・・・悲しいよ・・・苦しいよ・・・」

彼女の一言が僕の心を締め付ける。

「なにかあったの?」

問いかけても、返事はない。

「泣くなよ。泣いてる顔なんて見たくないよ」

だって君が泣いていると僕まで苦しくなるから。

「ねぇ・・・キー君・・・私、キー君の事が好き」

とてもうれしい言葉だった。

でも何故か涙が出てきた。

「僕も好きだ。なーちゃんのことが好きだ。

だから泣いてる顔なんて見たくない。

ずっと笑っていてほしいんだ」

心からの言葉だった。

「キー君、約束して?

いつか、私をお嫁さんにして?」

その頃の俺にはこの重みは分からなかった。

でも、弾き出す答えは同じだと思う。

「わかった。約束する。

僕・・・いや俺、強くなるよ。君を守れるくらいに。

そうしたら結婚しよう」

彼女は涙を拭いて俺に向かって微笑んだ。

「約束だよ」

次の日、彼女はこの街を去っていった。

俺にはできる事なんてなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ