第二話「その夜は深いようで。」
「青花さん?何言ってるの?」
突然の住込み宣言に数秒固まってしまった。
「だから、これからは私が朝ごはんを・・・」
「だから、なんで?!」
彼女はなんで?という顔で衝撃の一言を発した。
「だって私は貴方の妻じゃない?」
妻とはあの妻だろうか。
生涯を寄り添う的なあれだろうか。
「いったいなんで・・・」
「あら?ご両親から聞いてないの?婚約のお話」
勿論、聞いてない。
電話で親に確認を取ったがどうやら本当らしい。
「えーと青花さ・・・」
「菜月。婚約者に苗字呼びは無いんじゃないかしら?」
「じゃあ・・・菜月さん。なんで俺なんかと婚約を?」
若干、「なんか」というところで反応した気がしたが、
多分、気のせいだろう。
「約束したじゃない(ぼそっ)・・・」
「え?なにか?」
「いえ、何も。それより学校に遅刻しますよ?」
俺はゆっくり時計を見る。
八時。
「遅刻ギリギリだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「青花さんってどこに住んでるの?」
輝夜の鋭い質問が聞こえてしまった俺は少しだけ、死ぬ覚悟をした。
「乙女の秘密」
なんだ、その回答は。
「えー。教えてよ」
これ以上の追求は危ないと思い、止めようとしたその刹那。
「みんなおはよう!席に着けー!」
先生の介入によって話は強制的に幕を閉じた。
「あの青花・・・菜月さん。あとでちょっといい?」
そう言って俺は昼休みに彼女を呼び出した。
「秘密にしたい?」
「うん。さすがに中学生が婚約して、一緒に住むなんて
普通じゃないし・・・」
「わかりました。では二人だけの秘密ということで」
なんか思ったのと少し違うが、まぁいいだろ。
「じゃあ、そういうことで」
俺は教室に戻ろうとする。
「軌城さん。あの・・・」
青花さんから話しかけられた。
初めてかな。
「夏輝でいいよ。なに?」
言ってから気づいたがなつき被りは問題点だな。
「実は・・・まだベットを買っていなくて・・・」
何が言いたいのだろう?
「当分は昨日と同じでお願いします。では」
「あっ!ちょっと!」
彼女は走って逃げてしまった。
昨日と同じとはどういうことだろう。
一緒に寝るとかそういうことか・・・?
まさか。俺の勘違いだろう。
きっとなにか別のことを伝えたかったのだろう。
そう信じて俺は午後の授業に臨んだ。
家に帰ると、一足先に帰っていた青花さんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。あなた」
真顔から繰り出される「あなた」は中々の大ダメージだ。
「えーと、ただいま」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・」
それともってなんだ?!
私的なあれか?!
期待していいのか?!
「たわし?」
・・・たわし、かぁ。
その選択肢・・・いる?
さっきまでの俺が恥ずかしいわ。
「たわしと言いたいとこだけど時間も時間だし
まだいいかな」
少ししょんぼりしているようだが
可愛いので放置して、俺は部屋に戻る。
その後は夕食を取り風呂に入り寝る準備をする。
そして問題の時間がやってきた。
息を整える。
焦りや緊迫感をこらえ、静かに目を閉じる。
大丈夫だ。耐えられる。
理性を保て!俺!
「夏輝さん?」
「わっ?!」
ベットから転げ落ちる。
隣に居たのは、俺を悩ませるその人。
青花 菜月だった。
「な、何かな?青は・・・菜月さん」
俺は焦りつつもベットに戻る。
「そろそろ就寝時間だと思いまして・・・ダメでしたか?」
顔を赤らめる彼女は新鮮でとても、なんか、いいな!
「いや、ダメじゃないよ」
「そう・・・ですか・・・では」
そう言って彼女はベットに座った。
そう。ベットに座ったのである。
俺の隣。
呼吸が伝わる。
鼓動が響く。
ダメだ・・・抑えろ。
「夏輝さん?」
「え、あ、な、何?」
めっちゃ噛んだ。
ヤバい。緊張が伝わる。
「いえ、ただ寝ないのかな・・・と」
「あ、そうだね。寝よっか」
寝よっかって響きがヤバいな。
「はい。そうですね」
そうして彼女は布団に潜る。
俺も呼吸を整えつつ、布団に入った。
・・・・・・・・・
夜の静けさが二人を包む。
だが、その静けさが今は一番つらい。
俺は心音を抑え、目を閉じる。
彼女の吐息が俺の首筋を通ってゆく。
部屋に鳴り響く時計の音と
二人の鼓動が重なる。
数分がたった。
未だ、眠れない。
ダメだ。一度、脱出しなくては。
「あ、あのさ。ちょっと散歩しない?」




