父からの手紙
拝啓
移ろいの激しい世の中で混沌を極める昨今ですが、君はよろしくやっているでしょうか?
もし何かに挫折して心が折れそうになっているならば迷わず私を頼ってください。私は全力で君を助けます。もし、私が死んでいるようなことがあったらならば、私が君をどんなに愛していたかを思い出して次の一歩を踏み出してください。
ここには私がどんなに君を愛していたかを綴っておきたいと思います。
君の妊娠が分かった時、それは本当にうれしかった。
自分の存在する意味を問うた時に、自分は別にいなくてもいい存在と安易に判断できてしまうけれども、君の存在は私の存在を意味付けるものになりました。君がいることで私は「君の父」としての存在意義をこの世に受けたのです。
母さんはもちろん大切な人ですが、その「大切」の上にさらに「血の繋り」を加えた君の存在は私にとって何にも代え難いものでした。君の姿に私の要素を見出す事が出来るから尚更かも知れません。
私が初めてお腹の中の君を見た時、君は探すのが難しいほど小さな丸い胚でした。その小さな小さな君がやがてヒトの形になり生まれてきてくれました。しかし君は素直に生まれてきてくれず、緊急帝王切開になり、準備が整わず母さんは長く苦しむことになりました。やっと生まれてきてくれた君の産声を聞いた時には幸せの涙を母さんと一緒に流しました。私がその後、へその緒を切って父としての初仕事をしたと言う事も付け加えさせてください。
毎日半分眠りながら排泄物を変え、ミルクを与え、子守歌を歌って寝かる。それは永遠に続くと思われ、とても大変な過程であったけれど、その積み重ねが愛を深くするのだと知ることができました。離乳食など、一杯のスプーンの大きさに対する与えなければならない量がおおすぎて、毎食気の遠くなる作業であったけれど、今となればそれを通して君の本当の父親になれたんだなと思います。愛していると簡単に言うことはできるけど、実際の愛は一日にしてならずといったところです。
そんな君はとてもお父さん子で、一言目の「ばいばい」に続き、二言目にちゃんとしゃべった言葉は「パパ」でした。その後は寝るときは「パパ~」、夜泣きでも「パパ~」、朝起きても「パパ~」、母さんが嫉妬するほど、どんな時にも「パパ」でした。私は得てして人と距離をおきたい達なのですが、どんなときにも抱きついてくる君のおかげで、抱き合うこと、肌を触れ合うことで愛情が深まるものだ知ることができました。
そんな過程を経たからこそ、イヤイヤ期が来て私の言うことを聞かなくてなっても愛情が薄れることは全くなく、次の段階の君の成長過程をストレスを抱えながらも楽しむことができました。君と過ごした年月分愛情が深くなっていったのです。だから例え君が誰かを殺したとしても私だけは君の味方をすることができます。
君は愛された存在なのです。その事を胸に次の一歩を踏み出してください。君は私の子なのです。結局万事が全てうまく行くようになっているのです。
かしこ
父より
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ウェブなので書式を整えることができませんでした。