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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第一章 解き放たれたもの

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9話 襲撃と緊急手段


 マルスの自信の籠もった言葉を聞いても、いつものマルスとは様子が違い過ぎることにハルアードは不安を覚えていた。 


「……本当に大丈夫なんだよね? 動揺しててミスしたりしないよね?」

「先程までなら危うかった可能性はあったが、今は大丈夫だ。心配かけてすまなかったな」


 その言葉には先程までの焦りや動揺などは感じられず、ハルアードはひとまずはいつものマルスに戻ったようでホッと安心したように息をついた。そして、拗ねていたジュナスも話の区切りがついたのを見計らって、立ち上がながら会話に割り込んでくる。


「んな事は気にしなくていいっての。で、説明終わったって事でいいのか?」

「あぁ。これから『魔封じの血晶』を作る。その際に多少の出血は伴うが」


 そのマルスの言葉を遮るように突然、遺跡全体を揺らす衝撃が奔った。一度だけではなく何度も何度も繰り返し断続的に振動が襲ってくる。

 三人はその突然の異変に、警戒度を最大まで跳ね上げる。ハルアードは短剣を抜き、ジュナスは身構え、マルスは杖を両手で持ち即座に魔術の術式展開を行えるように用意をする。

 淀みなく即座に臨戦態勢に移行した三人は、それぞれの死角をカバーするように位置取りを変える。


「今度はなんだよ!?」

「……罠が発動とかってないよね?」

「……分からん。私の以前聞いたここに似た遺跡では罠はなかったと聞いたが……」


 三人は警戒を高め事態の把握に務めていると、聞き覚えのある声が響いてきた。


「みーー、いー!? 聞ーーーら返ーーて!」


「レイアか! 一体何があった!? この振動はなんだ!?」


「帝国ーーらよ! ーーいやーが来てる!」


 断続的的に続く振動の為か、レイアの声は断続的にしか聞こえず、文章としての認識が難しくなっていた。マルスが即座に呼びかけ返すが、レイアの耳に正しく届いたかは分からない。僅かにだが、響く足音も聞こえて来るためもうすぐレイアがこの場にやってくる事は予想できた。


「くそっ、聴き取り辛い……!」

「姐さん、帝国って言ってたぞ! この振動は奴らのせいか!?」

「帝国は何を考えている!? 遺跡ごと破壊するつもりか!?」


 遺跡の調査が目的であるとするならば、暴挙としか言いようがない振動である。具体的に何をしているかは地上が見えないため分からないが、尋常な事ではないことだけは理解できてしまう。

 分かることと言えば、もう時間切れが迫ってきているという事のみだろう。


「マルスさん、すぐにでも『魔封じの血晶』を作って宝珠を回収して撤退しよう!」


「……無理だ! こんなに振動だらけの状況では細かな調整が必要なあれは作れん!」


 ハルアードが最善だと思われる手段を提示するが、その手段は不可能だとマルスに切り捨てる。

 マルスは『魔封じの血晶』を作れるタイミングを逃してしまった事を痛感する。だが、そうだとしても大人しく引き下がる事が許される状況ではない。作るのは不可能となれば、何か他の代替手段を使うしかない。


「だったら、どうするのさ!! 何か他に手段はないの!?」


「……持っている魔紙を全て使って宝珠を覆う。魔紙の魔力の定着の性質を利用するが、あれは元々大した量の魔力の保持は出来ないから気休めにしかならないかもしれんが、そのまま持つよりはいくらかマシだろう」

「おい、そんなんで大丈夫なのかよ!?」


 ハルアードに手段を問われ、マルスは自身の持つ知識を総動員して代替手段を探し、それを伝えるが、その言葉に自信は欠片もない。

 その自信の無いマルスの言葉にジュナスが噛み付いた。不安の滲み出るマルスの表情を見て黙っている事も出来なかった。


「……仕方ないだろう! 無理に『魔封じの血晶』を作ったとしても、少しでも造りが雑になっていれば、それだけで血の魔力で特級遺物が発動する可能性がある! まだ魔紙を使う方が安全だ!」


 マルスの焦りの混じった怒鳴り声が広間に響く。非常に珍しいマルスの鬼気迫るその様子に思わずハルアードが後退る。


「なにより、帝国にあれを渡す訳にはいかんのだ!」


「……マルスさん」


「……すまん、また取り乱してしまったな。とにかく扉を開けるが、ハルアード、魔紙で特級遺物を覆うのを任せてもいいか? 今の私はやるべきではなさそうだ……」


 そう言いながら、マルスは扉を開けるための場所に魔力を流し込む。この取り乱し具合から、本人もミスの可能性を否定しきれなくなったのか、ハルアードへと作業を託す事にしたようだ。


「その方が良さそうだね。分かった、引き受けるよ。どうやれば良い?」

「壊れ物を紙で梱包する要領で構わない。ただし、宝珠には絶対に素手で触れるな。その後は、運ぶのはジュナスに任せたい。構わないか?」

「分かった。……ジュナス?」


 マルスの指示を了承したハルアードが、返事もせずに俯きながら何かを考え込んでいるジュナスの様子を気にかける。そして、ジュナスは何かを思いついたかのようにハッと顔を上げて問いかける。


「なぁ、要するに魔力がその特級遺物とやらに触れなきゃいいんだよな?」

「そうだが、それが困難だから困っている。……ちょっと待て、何を考えている!?」


 何か嫌な予感を覚えたマルスが、詰問しようとするが既に遅かった。


「だったら魔力のない俺はうってつけじゃねぇか!」


 そう言って得意気に開いたばかりの部屋へ飛び込み、特級遺物に手を伸ばすジュナス。マルスとハルアードが慌ててその行為を止める為に部屋に飛び込む。


「ジュナスやめろ! 魔力が全くない人間など存在しない! 少ない魔力でもっ、くっ遅かったか!?」


 だが、時は既に遅く特級遺物である宝珠はジュナスの手の中にあった。ジュナス自身が少し慌てての行動だった為か、丁寧に取り上げるのではなく、力任せに掴み取るような形であった。

 そして、直後に異変が訪れた。ジュナスの手にした特級遺物の宝珠が強烈な光を放ち始める。


「なんだっ!? どうなってやがるんだよ!?」

「ジュナスの馬鹿! 今、一体なにやった!?」


 不意の光に困惑するジュナスと、不用意な行動に怒りを表すハルアード。そして、扉が誰も触ってもいないのにまるで閉じ込めるように自動的に閉じた。光が更に強力になっていき、視界の全てを埋め尽くしていく。


「……特級遺物が発動したか」


 全てを悟ったかのようなマルスのその一言を最後に、断続的な振動が続く遺跡の最奥の部屋で三人の意識は途絶えることになった。

 



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