8話 遺物の発見
広間の探索を始めたものの、広間には物自体が少ないため壁周りを中心に何かがないかを探すことになっていた。マルスが入り口から見て左側、ジュナスが正面、ハルアードが右側の壁を重点的に調べていく。
「あっ! マルスさん、ジュナスこっち来て! 何かある!」
「そっちにあったか!」
「ちっ、先を越された!」
ジュナスの余計な言葉はともかく、二人はハルアードの元へと小走りで移動していく。
「どこだ?」
「そこ。薄っすらと長方形に凹んでる」
ハルアードは壁一部を指差して、見つけた場所を伝える。素早くマルスがその場所を検分し、なにか納得する様に呟く声が漏れ出てくる。
「やはり、細かな位置こそ違うがここも同じか……ならば、ここに魔力を流し込めば……」
マルスは僅かにある壁の窪みに歩み寄り、手を当て魔力を流し込む。少し間を開けてガコンッという何かの駆動音が響き、広間の入り口から正面にある壁が上部へと移動していくのが見えた。
「うおっ!? なんじゃこりゃ!?」
「マルスさん、せめて少し説明してからやってよ! なんか今日はらしくないよ!?」
「……そうか、そうだな。すまなかった……」
何も説明もなく突然仕掛けを作動させたマルスのどこか気のないその謝罪に釈然としないジュナスとハルアードであったが、そうしている間に壁の移動が終わったのか、再びガコンッいう音が聞こえてきた。
壁が移動してその先に見えた物は、マルスの腰の辺りから、頭の少し上の辺りまでが透き通った素材になっているもう一枚の壁であった。
透き通った壁の先には小部屋があるようで、その小部屋の中に淡い光を放つ手の平大の宝珠のような物が台座の上に安置されているのがよく見える。透き通った壁の途切れる右端の方には、奥の小部屋へと続いていると思われる扉も存在している。
「やはりあったか……」
マルスの魔術師としての好奇心と、まだ帝国に奪われずにあったことに対する安堵と、逆に何かの間違いで存在自体していて欲しくなかったという色々な感情が入り混じった一言の前にして、ジュナスとハルアードが壁の奥を覗き込み、台座の上に置かれた宝珠を見た。
「……あれが特級遺物? そんなに凄い物には見えないけど」
「いや、ハル坊。見た目で舐めたら痛い目見るぜ。俺にはヤバくしか感じねぇ……」
「そんなに危険なんだ。流石は、獣の勘。あとハル坊は止めろ」
「誰が獣だ!? 喧嘩売ってるなら買ってやるぜ、ハ・ル・坊!?」
「喧嘩売ってるのはどっちだよ! ハル坊は止めろって言ってるだろうが!」
「……この状況で喧嘩出来るのはプレッシャーに呑まれて、まともに動けなくなるのと比べるとどちらがマシなのだろうな……?」
いつもの様に突発的に始まった口喧嘩と、今にも始まりそうな喧嘩と言っていいのかわからない戦闘体勢に移っている二人に、先程までの話の緊張感は何処へ消えたのか呆れ果てつつ、喧嘩を止めるために杖を振り上げるマルス。
どんな事態でもいつもと変わらない二人の様子に少しだけマルスの焦る気持ちが緩和されていたが、それはそれ、これはこれ。
放置しておけない喧嘩を止めるべく、二つの打撃音が鳴り響いたのだった。
喧嘩両成敗という形で喧嘩を抑え、探索を再開する。奥の部屋へと続く扉を確認したところ、先程の動いた壁と同じように魔力を流すと可動する仕組みのようであった。
あとは扉を開けて中の遺物を回収するだけである。
「この扉は先程の壁と同じ仕組みだな。魔力を流せば扉が開く」
「魔力なしの俺じゃ開けれねぇな。で、どうすんだ? マルス開けて、中身は普通に持って帰ったらいいのか?」
「いや。遺物が発動させる訳にはいかんから、不用意には触れん。少し待て」
マルスはそう言いながら、自身の荷物から数枚の魔紙を床に並べ、ナイフを取り出し自らの腕を切ろうとする。突然の凶行に慌てたハルアードが素早くその手を掴み、阻止する。そしてマルスは何故止められたのか分からないのか、呆けたような少し困惑した表情を浮かべている。
「ちょっと待って、マルスさん何する気!?」
「……あぁそうか、なるほど。そういえばこれはあまり知られていない手法だったか」
「さっきもハル坊が言ってたが、らしくねぇぞ? いつも冷静なのがマルスじゃねぇか」
「どうやら自分が思っている以上に動揺しているらしいな……」
マルスは止められた理由に気付き、一度大きく深呼吸をして予想外に乱れている精神を落ち着かせようとする。その後も二度、三度と深呼吸をして、ようやく少し落ち着いたのかマルスが先程の凶行の説明のために口を開いた。
「先程のは、血晶を作るための血液を採取しようとしただけだ。変に心配させてすまなかったな」
「それはまぁ説明してくれるなら良いけどさ、血晶ってなんの為に? あれって特に用途はないよね?」
「血晶ってなんだ……? あーあれか? 魔物倒して血抜きしなかった時によく見るなんかキラキラした血の塊みたいなヤツ?」
「まぁそれで間違ってはいないが……。先程止められるまで一般的に知られていない事を失念していたが、実は特殊な用途がある。まず生物の持つ魔力の多くは血の流れに乗って循環し、生物の魔力には干渉は出来ないのは知っているな?」
「えっ……、あ、いやそれくらいもちろん知ってるぜ! 常識じゃねぇか!」
「ちょっと馬鹿ジュナス、黙ってろ! 真面目な話の邪魔!」
いちいち無意味な余計な一言を入れてくるジュナスにハルアードが切れる。流石に悪いと思ったのかジュナスは少し拗ねたように黙り込み、壁の付近に座り込む。その様子にマルスがため息をつく。いざ説明しようとなっても一人は全く内容が通じないのでは説明もし辛くなってくる。
「……ジュナスと違って俺はちゃんと知ってるよ。血の魔力を操れたら魔物も人も何でも瞬殺できるけど、実際そんな事は出来ない」
「あぁ、そうだ。そして、その性質を逆に利用し、生き血で血晶を作れば魔力で干渉が不可能な物が出来上がる。それで魔力を必要とする物を密閉するように覆えばどうなると思う?」
マルスの問いかけにハルアードが少し考え込み、そしてハッと何かに気付く。
「……魔力が通らなくなって機能しなくなる……?」
「そういう事だ。『魔封じの血晶』と呼ばれていてな、研究者の間ではよく使われる物だ。これを破るには、同質の魔力を流して結晶化そのものを解除するか、圧倒的に上回る他量の魔力で無理やり制御を奪うしかなくてな。人それぞれに魔力の属性の含有率も偏在属性の偏りも違うから、貴重品や研究成果の保管としても使える訳だ」
「……マルスさんは、特級遺物を封じる為の血晶を作ろうとしたって事だね?」
「そういう事だ。あくまでも簡易的な手段だが、自分の血を使うのが一番確実だ。後はそうだな、偏在属性を使うためにも自身の血である必要もあった」
「そっか、偏在属性の邪属性で魔力の引き合う性質を変質させるんだね? でも、狙った通りに変質なんて出来るの?」
「細かな調整が必要になるため誰にでも簡単に出来る訳ではないが、私は問題なく行える。ただし、道具がそれほど揃っていないから簡易的な物にはなるがな」
淡々と事実を語るようにマルスは断言しする。そこにあるには自身の技術への絶対的な自信であった。
人に限らず全ての生物は、大気中に漂う魔力を体内に取り込み身体に蓄えている。それが集中しているのが血液であり、体内の魔力は意識下、無意識に関わらず、その身体の持ち主の制御下にある。
そして、基本属性である火、水、風、地の四属性が混ざった状態であり、四属性の含有率は人それぞれでバラバラであるが、血縁や同一の生活環境で似たようなバランスになる傾向がある。
それとはまた別に偏在属性と呼ばれる、基本属性とは性質が全く異なり、同時に存在する属性がある。これを持つのは心を持つ生物だけとされており、聖属性と邪属性が対となって存在している。一般的には5:5の割合で存在し、心の在り方でその割合がどちらかに偏っていく。故に偏在属性と呼ばれている。
また偏在属性は基本属性に影響を与える性質を持ち、聖ならば増幅、邪なら変質させる特徴を持つ。偏り過ぎない限りは、自身の意思でどちらの属性を使用するかの制御は可能である。
聖10:0邪まで偏ると『聖刻』、聖0:10邪まで偏ると『邪刻』と呼ばれる紋様が身体の何処かに浮かび上がり、偏在属性が固定される事となる。




