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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第二章 ギルドという組織

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33話 力の制御法を求めて


 カームルド帝国がウェルトをミーグレイス連邦に送り込んだ事を聞き、思考が固まってしまったハルアード達に考えを巡らせていたグランが一つの結論を下す。


「チッ、こうなってくりゃ仕方ねぇか。いいぜ、グレヴィティア共和国行きは許可してやる」


 先程までの話でグレヴィティア共和国への旅路に多少の理解はしつつも難色を示していたグランは状況の変化に気を変えた。直接ではないにしろカームルド帝国がレイアを狙い始めたとなれば話は変わってくる。何よりもグレヴィティア共和国にはギルドの本部があり、ここの支部よりも色々と手が打ちやすい。


「無理を言ってすまないな、グラン」

「これも仕事の一環だ、気にするな。だが、危険な綱を渡ることには違いない。確実に自分達のモノにしてこいよ」

「あぁ、ありがたい。もちろんそのつもりだ」


 マルスもグランの気遣いに礼を返す。マルスが簡単な様に頼んだ事ではあるが、実際の所はそれほど簡単な話ではない。今のハルアード達は表には出せない情報の塊だ。それ故にギルドの情報管理には細心の注意が必要となる。その無理難題を引き受けたグランに恩を返すには、結果を出す事だろう。


「……グレヴィティア共和国か。初めて行くね」

「一般人が見ても面白い国ではないが、ハルアードならそれほど無駄でもないか」

「俺、マルスの住んでたとこ見てみたいぜ!」

「ジュナス、遊びに行くわけじゃないんだよ」

「ハルアードもジュナスも、ちゃんと学んで帰って来いよ」

「はい!」「おう!」


 グランの激励を受けたハルアードとジュナスは気合を入れる。珍しいのは、ここで素直にジュナスが学ぶ事を受け入れた事だろうか。いつもは理由をでっち上げ、それでも無理なら強行突破で逃走を図っていた人物とは思えない返事の良さであった。先程のエレインの説教が余程効いたのであろう。



「……流石に今からだと暗いから、出発は明日かしらね? それでグレヴィティア共和国行きの船を探しましょう」

「あ、レイちゃん、即日だと確実に乗れるかわかんないよ?」

「え、そうなの? 船旅ってした事ないから……」

「……どうしましょう、支部長?」


 海洋国家であるグレヴィティア共和国への定期便が運航されている港町のシルメアまで馬車で約半日、徒歩で行けば夜を徹して歩いて日明けに間に合うかどうかといったところか。危険な夜中に無理をせずとも、そもそも日が明ければシルメアまでの馬車の定期便もあるため、そこまで焦って出発することも無い。


 ウェルトが国境を越えた関所の位置から考えても、どれだけ急ごうが一日で埋められるほどの距離ではない。ハルアード達があの遺跡に行った時も、カルエイアの街から片道六日はかかっている。それこそ転移のペンダントでも使わない限りは不可能である。

 その辺りを計算に入れてのレイアの発言ではあるが、船が都合良く停泊しているとも限らないのが現実だ。場合によっては数日足止めをくらう。


 グランはそのやり取りを聞きながら、運航予定表を引っ張り出して軽く目を通す。ギルドはあらゆる部門を持つ組織であり、その支部であるグランは支部の影響範囲内のほぼ全ての情報に通じていると言ってもいい。海運業も商業も両方にまつわる情報も持っていて当然である。


「……明後日に出航予定のギルドの運搬船があるな。護衛依頼で船に乗れるようには手配しといてやる。それに乗ってけ」

「あ、そういやありましたね! それじゃ私、護衛の指名依頼書作って来ますよ!」

「……いいのか?」

「どうせ元々、ギルドの船にはいつも護衛依頼は出してるからな。他の護衛依頼を受けた冒険者もいるから、その辺は気を付けろよ」


 グランの言葉を聞き、エレインが書類を作るために受付へと足早に歩いていく。

 元々依頼はあるにはあるのだが、大抵はそれを専門に請け負っている者がいたりする。船の上という地上とはまた違った環境であるため、それに適した戦闘スタイルを身に着けているのだ。ただし、今回のように事情があり普段は船の護衛をしない冒険者が依頼を受けることもある。

 よほど横暴な振る舞いをしない限りは専門に請け負う冒険者達も嫌な顔はしないが、トラブルが一切ないと言う訳にはいかないのが頭の痛いところである。ハルアード達の場合、主にジュナスの言動が心配されていると言ってもいい。




「……それで、グランさん。あのウェルトとかいう冒険者をどうするつもりなの?」

「チッ、流石にハルアードには気付かれるか」

「……そりゃね。経験済みだしさ……」

「そういやハル坊、ボロッボロにされた事あったな。あの時は俺がしてやりたかったもんだが……」

「その話はやめておかない? 流石にあの時の事は……」


 なんだかドンヨリと目の力を失っていくハルアードと、だんだんと殺気が籠もっていくジュナスの声に慌ててレイアが止めに入る。過去の一度、ハルアードはある事件を理由にグランによって半殺しにされている。その話題を続けるのは色々と危険だとレイアは判断したのだった。


「済んだ事は良いじゃねぇか。俺は俺の信条で動く、それだけだ」

「あーあ、ご愁傷様。そういう事なら、ウェルトって人は問題ないね」

「やり過ぎるなよ? 相手は帝国の内情の情報も持っている」

「その辺の匙加減は間違えねぇって。知ってるだろ?」

「……それもそうか」


 マルスがやり過ぎの心配をするものの、今まで一度たりともやり過ぎて後遺症が残った者もいない事を思い出し、不要な心配だと思い直す。そもそも敵の心配をしても仕方ない。

 ウェルトが情報を探りにカルエイアの街に辿り着いても、おそらく待っているのはグランの圧倒的な強さによる蹂躙劇である。たとえ他の支部の所属であろうとも、どのような理由があろうとも、身内と判断した相手を傷つける行為を決してグランは許さない。事情を考慮するのは半殺しにしてからとグランは決めていた。


「問題は帝国の方って事か?」

「そういう事になるわね。ねぇグランさん、今回のグレヴィティア共和国行きの許可は私に帝国を接触させないため?」

「まぁそういう事になるな。ある意味レイア達の狙い通りではあるが、今はタイミングが悪すぎるってのもある。まずはハルアードにジュナスの魔力を使いこなさせる方が先だ」


 今回のグレヴィティア共和国行きはあくまでも時間稼ぎであり逃げ続けるなどという事は出来ない。それこそレイアもハルアードも一生軟禁生活で、ジュナスとマルスをギルドの保管庫行きにでもするしかなくなる。しかしそんなものはギルドの方針とは異なるし、実行に移す気もなかった。

 だからこそハルアード自身に今持つジュナスの強大な魔力を扱いこなし、たとえ『聖刻』持ち相手でも自衛を出来るようになってもらう必要があり、その可能性を持っているとグランは判断した。。


 そこに一枚の用紙を持ったエレインが戻ってくる。他にもペンを持ってきていた。


「依頼書、書き上がったよー! ハル君かレイちゃん、依頼書の受注項目の記入お願いね!」

「エレ、私が書くわ」

「はい、どーぞ」

「ありがと」


 レイアはエレインから依頼書とペンを手渡され、必要な項目を記入していく。本来ならば受付窓口で行う事ではあるが、二日連続で悪目立ちしている為にエレインが配慮した結果である。そしてもう一つは一般の冒険者からの情報漏れを防ぐ為でもある。

 完全な目撃情報を遮断する事は不可能だが、この支部で何らかの依頼を受けて出掛けたという情報を伏せる事くらいは出来るだろう。


「支部長、オッケーです!」

「そうか。よし、お前ら明日はギルドの顔を出さなくて良いからそのままシルメアに向けて出発してくれ。目立たずにそっとな?」

「うん」「あぁ」「分かったわ」

「え? なんで?」


 グランの意図を察したハルアード、マルス、レイアは了承するように頷いた。ジュナスだけは理解できていなかったが、心構えが変わったとはいえ頭の出来はすぐにはどうにも出来そうになかった。





 グランとエレインに礼を告げて一行はギルドを出る。夜は夜で違った喧騒に包まれるカルエイアの街を歩き、拠点である孤児院へと帰っていく。結構遅い時間となってしまったため、子供たちの大半は寝静まっていた。


「おう、帰ったか。ずいぶん遅かったじゃねぇか?」


 Bランク特別昇格試験を受けに行った筈なのに一向に帰ってくる気配のないハルアード達の事を心配しながらカールが帰りを待っていた。


「あはは、こんなに遅くなるとは思ってなくて……」

「……また色々とあったのよ」 


 こちらでもまたやらかした事の説明をしなくてはならない事にハルアードとレイアはげんなりしつつも事情の説明を始めた。まさか自分たちの心配をして待ってくれていたカールに説明をしないという訳にもいかない。明日からしばらくこの国を離れるという事も言っておかなければならないからだ。


 スタンダードを引き起こした際の話をしたときにはカールは引き攣った笑みを浮かべながら、予想外の状況にカールは深刻そうに顔を伏せていた。グレヴィティア共和国行きについても色々と思うことがあるのだろう。


「あーマルス、あの国に戻って大丈夫なのか?」

「なに、心配はいらんさ。それにバレたらバレたでやりようはいくらでもある」

「そうか、ならいいんだがな。どうにも俺は不安でならんのだが……」


 マルスにはバレた時の対策も一応はあるようだが、一度過去に帝国で大暴れした際のグレヴィティア共和国とのいざこざを知っているカールには不安しかなかった。レイアを助ける為に「大丈夫だ」と言ってマルスが用意したのが、グレヴィティア共和国でも希少な魔術道具や素材を山程勝手に持ってきたからだ。

 その結果は知っての通り、レイアとエレインの救出には成功するが父親のアルバートは助けられず、マルスはグレヴィティア共和国の多くの研究者や魔術師から恨みを買った。グランが手を打ってくれなければ未だに指名手配であった可能性が高いのである。


「なに、珍妙な状況の者が三人だ。研究者や魔術師が過去の事を水に流すには充分すぎるだろう」

「ちょっと待て、マルス!」

「……マルスさん、流石に聞き流せないかな?」

「……二人とも落ち着け、あくまでも最終手段だ!」


「……レイアさん、やっぱり例の物、ジュナス以外にも必要かも?」

「ぐっ、俺は変わるんだ……。我慢しろ……」


 何処か遠い目をしながら対『意思ある武具』用の拷問手段の確立を考えるハルアードと、言い返したいのを我慢しているジュナスの姿と、さらっと最終手段で自分達を実験台として売り渡す事を計画していたマルスに、レイアは呆れてため息をついた。


「……本当に大丈夫なのかしら、これ」

「まぁ、頑張れよ、レイア」


 カールがレイアを慰めるものの欠片も不安が解消される事ない。明日からはミーグレイス連邦を離れ、グレヴィティア共和国への旅路が待っている。休める時にはしっかりと休んでいなければならないのに、余計な不安要素が心を休ませてくれずに、その日の夜は更けていったのだった。


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