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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第二章 ギルドという組織

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28話 ジュナスのやらかし、再び


「そういう事は早く言え! 馬鹿ジュナス!!!」


 そんなハルアードの心からの絶叫と強烈な光に包まれた中、マルスは冷静な判断を下す。


「ハルアード! すぐに魔術を解け!」

「あ、そうか。詠唱術式は任意で解けるんだった!?」


 ハルアードは普段は全くと言っていいほどに詠唱による魔術を使わない為に、動転した事もあり魔力を魔石に流すのを止めれば魔術が解けることを失念してしまっていた。慌ててハルアードは魔力を流すのを止め、魔術を解除した。

 当然と言えば当然だが、それで『フレアライト』は効力を失い、強烈な光は消え去った。


「目がチカチカして、まともに前が見えないわね……」

「……俺もだよ」


 突然の強烈過ぎる光に目をやられたのか、レイアとハルアードが口々に呟いていた。二人の視力が回復するのに暫く時間が必要となるだろう。


「……それでジュナス、先程の発言はどういう事だ?」

「どういう事も何もそのままの意味だぜ? まさかあれはこんな理由だったとはなー」

「……そうか、そういう事か。これだけの魔力を持ちながら自覚がないのは不自然だとは思っていたのだ」

「なるほど。周りの人達は理解してて、使わせないようにしてた訳だね。それを魔力無しだと思い込んだのは馬鹿ジュナスの問題ってことか」

「ねぇ、マルス? グランさんに頼んだ『意思ある武具』に対する拷問って本当に必要だと思わない?」

「……あぁ、これならば必要であろうな」


 責めるようなマルスの言葉から始まり、段々と苛立ちが隠しきれなくなっていくハルアード、マルス、レイアの三人。そしてギルドでは難色を示していたマルスもレイアの意見に賛同するようになっていた。


「え、あれ? なんで三人ともそんなに怒ってるんだ?」

「「「馬鹿は黙ってろ(なさい)!!」」」

「……はい、スミマセン」


 何故怒られているのかも理解していないジュナスだが、あまりの剣幕に謝るしかなかった。そして、重要な情報を忘れ去ってた上に、魔力があるのをジュナスの周囲の人は認知していた事と、その制御出来ない強力さを持て余してジュナスに魔術を使わせないという方針を勝手に魔力がないと思いこんでいたジュナスに苛立っていた。おそらくは説明はされていただろう、ジュナスが理解していなかっただけで……。



「……ともかくだ。ジュナスの魔力はどれだけ桁外れに多いのだ? ハルアード、魔力の流した感覚はどうだ?」

「……そうだね、感覚としてはいつもの、いや元の身体の時に比べて三割減くらいのつもりでやったけど、全然減らし方が足りなかったみたいだね……」


 ハルアードも先の魔紙での魔力の過剰供給からある程度は意図的に使う魔力量を減らしていたが、想像を遥かに上回る魔力量にどうしていいのか分からなくなっていた。


「感覚的に三割減らしてこれか……これは相当な難物だぞ。そもそもどこまでの範囲までーー」

「どうしたのよ、マルス?」

「マルスさん?」


 マルスもハルアードと同様に困惑していたが、ある可能性が思い浮かび言葉が途切れる。不意に途切れたマルスの様子を心配するようにレイアとハルアードが声をかけた。そしてジュナスは言われた通りに黙っている。


「……レイア、ハルアード、先程の『フレアライト』の効果範囲は確認出来たか?」

「……いやあれは無理でしょ」

「そうね、私もまだ目がチカチカしてまともに見えないし」

「って、あぁ!? マルスさんの危惧してる事が分かった!」

「マルスの危惧してる事? ……確かによく考えたらこんなとこであれは相当マズいわね」

「二人共、気付いたか。おそらく魔物のスタンピードが起こるぞ」


 スタンピード、言い方を変えるのであれば魔物の暴走とでも言うのが適切であろうか。魔物の住む森の中で影響範囲の分からない閃光とも言える無差別な灯りの魔術に突然襲われれば、魔物は一体どうなるかと言えば、大体予想も付くだろう。

 普通の動物であればただひたすらに発生源から逃げるだろう。だが、魔物は元は動物であっても『邪刻』により変質している生物であり、その行動原理は異なってくる。こういう場合であれば敵対者とみなし、排除すべく襲い掛かってくるだろう。おそらくは森の中にいるほぼ全ての魔物がだ。


 その事実を示すように、森の奥から地響きが聞こえ始める。幸いと言えるのは森に入る手前の位置で実験していた為、背後に広がる草原の方からは僅かにしか魔物の姿が見えないことだろうか。


「さてハルアード、倒し切れるか?」

「馬鹿魔力の自己強化魔術のおかげでスタミナ切れはなさそうだけど、数次第かな? 魔術はまだ使わないほうが良さそうだよね?」

「……そうだな。下手に攻撃魔術を使えば良くてこの辺り一帯を更地にして、悪ければ自滅といったところか」

「……私が牽制と足止めで、ハルアードがマルスの『万化の魔刃』で確実に仕留めていくってところかしらね」

「それしかないね。自分達が引き起こした事だし、下手に逃げて街まで連れて行く訳にもいかないしね。というかそんな事したらグランさんに殺されそう……生きて帰っても怒鳴られそうだけどさ」

「私もこれ終わったら、エレに怒られそうね……」


 終わった後の事を考えて、レイアとハルアードの表情は暗く落ち込む。魔術を暴発させて森中の魔物を刺激してスタンピードを引き起こしましたなんて報告すれば間違いなく怒られる。だが、怒られる心配はしているが、負ける気は全くしていない。

 森の主である一角熊を除けばDランク時でも雑魚ばかりであり、今の戦力はスタミナの心配いらずの近接攻撃と遠距離からの妨害特化の二人組である。危険は危険だが、油断しきってない限りはやってやれない事もない状況だ。


 もう目視できるほどまで地響きを上げながら接近してきた魔物に向けて、大剣マルスを構える。ハルアードにとっては多数対一の戦闘訓練と思えば以外と悪くはない状況である。囲まれると危険だが、そうならないようにレイアが対処してくれる。

 レイアもまた、自身の武器である『併せの魔弓』を取り出し構えている。状況に合わせて矢と弦の属性を切り替え、足止めと牽制を行う必要がある。些細な状況の変化も見落とせない。


「それじゃ、突っ込むよ。レイアさん、支援よろしくね」

「ハルアードも無茶するんじゃないわよ?」


 そう言いながらレイアは手早く近くの視界の開けた高めの木に登り、『併せの魔弓』を発動させる。矢は黄色、弦は青色、そして狙いは先頭の魔物の少し後ろ。黄色の矢は青色の光を纏いながら、狙った場所の地面へと突き刺さり、その地面を大雨が降った後のような泥濘へと変化させる。土属性をメインに水属性を併せた矢の効果は、泥濘を生み出す事。やり過ぎれば沼地と化すので注意が必要となる。


 突然目の前の地面が泥濘に変わるが勢い良く暴走する魔物たちにそれを避ける術はない。続々と泥濘に突っ込み、足を滑らせ多くの魔物が転倒していく。


 その様子を確認したハルアードは大剣を構えて走り出す。レイアの妨害を受けずにいた先頭にいる魔物は足の速い猪型の魔物『フォレストボア』と狼型の魔物『フォレストウルフ』が多数。

 まずは数を減らす為に、単調な動きのフォレストボアに狙いをつける。突撃してくるのを避けつつ、カウンターで大剣を頭に叩き込み、一匹を一撃で次々と葬っていく。一匹を仕留める毎にハルアードの動きは滑らかに無駄が少なくなっていく。多対一の状況が、動きの誤差を修正していく実践訓練となっていた。

 間隙を狙ってくるフォレストウルフは今は回避を優先し、確実に仕留められる時は仕留めていく。


「マルスさん、双剣にするよ」

「わかった。任せておけ」


 三十程は仕留めただろうか、その辺りでハルアードは武器を切り替える事にする。フォレストボアは大半を倒し終え、次は動きの細かなフォレストウルフが相手だからだ。まだ慣れない大剣では大振り過ぎて当て辛い。

 マルスは『千変の刃』改め『万化に魔刃』が出来るように術式を展開し、発動に備える。そしてハルアードが魔力を流し込み、大剣は鎖で繋がった双剣へと姿を変えた。そして、双剣を手に今度はフォレストウルフを仕留めるべく攻撃を再開するのであった。


 ハルアードがどんどんと魔物の数を減らしている間にもレイアは次々と矢を放ち、泥濘を増やして魔物の足を止める。


「ハルアード、ホーンベアが奥にいるわ! この状況だとあれ一匹だけの足止めは厳しいかも!」

「分かった! それまでに全部仕留めるよ!」


 森の主であり討伐依頼の対象が姿を表すが、今はすぐにどうにも出来ない。雑魚ばかりなら泥濘で足止め出来るが、ホーンベアは一体のみを相手にするならば別だが、この暴走状態の魔物だらけだと難しい。


 スタンピードの対処はまだまだ始まったばかりである。




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