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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第二章 ギルドという組織

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27話 魔術の実験


 カルエイアの街を出て街道を進む事しばらく、街道を逸れて草原を横断していく。草原には疎らにしか魔物の姿はなかった。街道沿いのため、討伐依頼が常設されているからだろう。

 目的の森に辿り着く頃には昼になっていた。大体予定通りといったところだろう。


「さて、到着ね」

「ちょっとは疲れるかと思ったけど、全然平気だ」


 ハルアードは結構重い大剣を持ち歩きながら移動した事で多少の疲労は覚悟していたが、掛かりっぱなしの自己強化魔術のおかけが、全く疲れる気配が無かった。


「うん、この辺なら街道からも逸れてるし多少の魔術の実験してもいけるかな?」

「そうだな、ハルアード、何から試す?」

「とりあえずは普通の魔紙を使った術式と、詠唱の術式だね。その後はマルスさん経由で使えるかどうか検証かな?」

「……私を経由してか。……まぁ、その話はあとでも良いか」

「何か気になることでもあるの?」

「まぁな。だが、一先ずは通常のものを試そう」


 ハルアードとマルスが二人で実験の順序を決めていく。ここに来るまでの道中でレイアと相談し、討伐前に軽く調べる事は決めておいた。いきなり実戦で遺跡であったような馬鹿げた威力の土壁が現れても困るからである。


「レイアさん、何枚かの魔紙と記述用の魔石筆を出してもらえる?」

「はい、これね。私はちょっと離れた所から見てるわよ?」


 レイアは魔紙の束とそれぞれ属性の違う魔石の付いた筆を四本ほど鞄から取り出し、ハルアードに手渡した。持ち物管理はレイアの担当であり、大抵の荷物はレイアの鞄の中に片付けられている。ただし、戦闘時に使ったりする道具や簡易的な治療道具や薬はハルアードも持ち歩いている。


「それじゃまずは火から行こうかな」


 そう言って魔紙に火の魔石のついた筆で術式を書いていく。マルスほど異常に素早い書き方ではないがスラスラと躊躇いなく術式を書いていく。そして程なく、書き終えた。


「よし、出来た。書けるって事はちゃんと魔力自体は流れてるわけだ」


 術式を書く際に利用される属性の魔石のついた筆は、術式を書く事にのみ特化した現代の魔術道具である。魔石へ自身の魔力を流し込み、混ぜ合わせた魔力で属性を定義し術式を書く事で魔術の起動に必要な術式が完成する。ただの筆で書いた術式では属性が定義されず、また魔術の発動の際に必要となる魔力の通り道を作ることが出来ない為に魔術の要件を満たさないのである。

 術式が書けたという事は、魔石と自身の魔力を混ぜ合わせ属性の定義が出来た魔術の術式がちゃんと成立しているという事だ。

 色々とジュナスの身体は異常なのでハルアードは慎重になって作業を進めている。


「さてと、発動するよ! 『ファイアボール』、ってあれ!?」

「……ふむ、なるほど。そういう事が起こるのか」


 書いた術式は初歩も初歩の『ファイアボール』の魔術のものである。だが、術式は弾け飛ぶように消滅し、魔術は発動には至らなかった。その予想外の結果に、ハルアードは思わず呆然とする。


「ねぇマルスさん、一体何が起きたか分かる? 俺、手順は間違ってないと思うんだけど……」

「以前、似たような現象を見たことがある。稀有なものだが、これは魔力の過剰供給だな」

「魔力の、過剰供給……?」

「少なければ発動はしないのは当たり前に知られているがな、多少魔力が多い分には問題なく発動出来るからよく見落とされるのだ。魔力量の調整が出来ない未熟で大量の魔力の持ち主が魔術を発動させようとすればそのように術式が崩壊し、そのようになる」


 マルスの語る説明を聞き、ハルアードは呆然としていた表情が納得したように普通に表情へと戻っていく。だが、少し腑に落ちない点があった。


「そんなのあるんだ、初耳だよ」

「まぁ、そうだろうな。その様な事態が起こる事は稀有な例だ。普通ならばその現象を見た師が気付いて矯正する類の問題だからな」

「……って事は、矯正すればなんとかなる?」

「どの程度過剰なのかにもよるが、おそらくハルアードならば大丈夫だろう。……それにしてもジュナスの自己申告を素直に聞き入れていたのが間違いだったな……」

「……やっぱり馬鹿ジュナスか」

「おい! 二人して好き勝手言うなよ!」

「「……はぁ」」


 ジュナスの苦情に、同時にため息をつくハルアードとマルスであった。マルス自身もジュナスの師である訳ではなく、共に行動するようになった時に聞いたジュナスの自己申告をずっとそのまま真実だと思っていただけである。問題の原因というのならばジュナスの育った周りの環境のせいだろうが、今はそれを言ったところで意味はない。


「馬鹿は放っておくとして、実際のところどう調節すれば良いの?」

「……そうだな、こういう場合は先に詠唱での術式を覚えさせるのが一般的だ」

「え? 普通は詠唱は後から覚えるもんじゃなかったっけ? 魔力の無駄が多いしさ」

「無駄があっても問題ないほど多い魔力だから、詠唱が適しているんだ。詠唱の術式には過剰供給による術式破損はないからな。……その分、魔術の規模が大きくなるだけの話だ」


 一般的な魔術の習得方法は、まず魔紙を使わずに術式を書いて覚えることから始まる。間違いなく書けるようになってから魔紙と魔石の筆で術式を書き実践に入る。そこで問題なく発動出来るようになってから、詠唱での術式の構築を覚える事になっている。その順番でなければ、術式への理解が足らず暴発の危険が伴うからだ。術式を書かない分だけ、詠唱での魔術は制御が難しいとされている。

 

「単純な話ではあるんだ。魔力の量が感覚的に分からないから起こる事だから、詠唱で意図的に過剰供給状態で魔術を発動させるのだ。そうすれば過剰供給で規模の大きくなった魔術が発動して、どの程度必要量からズレているかを可視化して認識する事が出来る。そうやって過剰な魔力を可視化させてから、適度な規模の魔力量になる様に反復練習をさせ、調整をしていく」

「? どゆこと?」

「あーなるほど、見て確認してから、後は感覚で覚えろって感じなんだ」

「まぁ簡潔に言えばそうなるな」


 マルスの説明を聞いたハルアードはやり方をすぐに把握し、ジュナスは疑問符を浮かべている。今の籠手のジュナスには関係ないので二人は相手にしない。


「じゃあ、ちょっとやってみようかな? 元々詠唱も試す予定だったんだしね。 あ、レイアさん、魔石一個頂戴!」

「はいはい、どの属性?」


「ハッ!? 何か思い出しそうな気が……」


 ハルアードが詠唱による魔術の準備の為にレイアの鞄の中に保管されている魔石を渡してもらえるように頼むが指示が足らずに、レイアは鞄を漁りながら近くに歩いてくる。

 何かをジュナスが思い出したかのようにブツブツと呟いているが、ハルアードは相手にしない。しょーもない事でジュナスがこうやって会話に割り込んで来ることは時々ある事だ。大抵の場合は意味はない事ばかりだが。

 だから、気にせずにハルアードは準備を進める。


「あ、マルスさん、この場合だと何の魔術が良いの?」

「攻撃系だと下手に暴発させれば危険だから、殺傷性の一切ない『フレアライト』辺りの魔術がいいだろう」


「んー? あれ? 何だっけな?」


 マルスに試すのに最適な魔術を聞き、ハルアードは必要な魔石の種類を決めていく。鬱陶しい感じにブツブツ呟くジュナスに若干苛つきながらも放置する。相手をするだけ時間の無駄である。


「それじゃ、火の魔石だね。レイアさん、火の魔石をお願い!」

「はい、火の魔石よ」

「ありがと」


 レイアから火属性の魔石を手渡され、ハルアードが魔術を使う準備が整った。そしてハルアードは詠唱を始め、火の魔石に自身の魔力を流し込んでいく。


「”火の導きにより我らの道を照らす道標となれ”、『フレアライト』」


「あ、思い出した! 俺、昔に村のみんなから何でか知らねぇけど『絶対に詠唱すんな』とか言われた事あるわ!」


「は?」「え?」「なに?」


 唐突なそのジュナスの発言に他の三人から疑問の声が上がるが既に時は遅く、ハルアードの準備した魔術が発動する。次の瞬間には強烈な光が森中を包み込み、何も見えなくなった。


「そういう事は早く言え! 馬鹿ジュナス!!!」


 そして光に包まれて何も見えなくなった中からそんな叫び声が聞こえたのであった。


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