26話 討伐依頼と装備
エレインが持ってきた何枚かの依頼書を吟味し、一つの依頼に決定する。
選んだのは一本の角を持つ熊『ホーンベア』の討伐依頼だ。依頼の場所は適度にカルメイアの街から離れた森の中。討伐数は一体、推奨ランクはパーティーランクでDであり、報酬は金貨七枚となっている。
適度に素早さと耐久性を持ち合わせ一撃も重い、単独撃破が可能かどうかでCランクになれるかどうかという目安になっているため、Cランクの壁と呼ばれている魔物である。俊敏とまでいかないがそれなりに早い動きの魔物の為、立ち回りを鳴らすのには適度に良く、レイアに足止めを頼めば魔術の実験の標的にも出来る。
「エレインさん、この依頼書の受理お願い」
「えーと、ホーンベアの討伐依頼だねー。位置的には今からならなんとか日帰りで行ける範囲だね」
地理的にはカルエイアの街から南部側にある街道を少し進み、草原を越えた辺りにある森林地帯であり、その森の中では最上位の魔物である。
ハルアードの特別昇格試験はそれほど時間はかからなかったのでまだ午前中ではあり、今から出発すれば昼頃には到着し、無駄に討伐に時間がかからない限りは日帰りも問題ないだろう。
とはいえ、レイアが二級遺物である『虚飾の鞄』という収納用の遺物を持っているため、一日くらいの野営は特に問題はない。収納用の遺物である『虚飾』シリーズは格納できる量によって一級から三級までに分類されている。二級であれば大体そこそこ広めの物置小屋一軒分くらいの収納量があるが、内部に保管しているものの位置関係をきちんと把握し管理できなければすぐに欲するものを取り出せないので扱い辛い。
物の管理が雑なマルスと、馬鹿なジュナスにはまともに扱えない。ハルアードは扱えるが、扱いさえ出来れば非常に便利なものの入手が難しく、また手に入れたが鞄の形状だった為、前衛で動き回るハルアードには邪魔になったため、レイアが管理することになっていた。
「それじゃ、受付登録するから受付窓口まで行こうかー」
「あー最後にちょっとだけいいか? 特にジュナスには念入りに釘を刺しておく必要があるからな」
「んだよ? グラン、俺がなんかやらかすってのか?」
「一番やらかしそうなのがお前なのは間違いないが、マルスもだな」
「回りくどい言い方をするものだな? なんだと言うのだ?」
「お前ら二人、人目のあるとこであんまり喋るなよ? 特に知り合いの前ではな。『意思ある武具』自体は珍しいといえ存在はするから基本的に喋るのは問題ないけどな、お前らの口調とメンバー構成だと、面識ある人間だと気付くからな?」
エレインが受付へと向かおうとした時、グランが一行を止める。当たり前といえば当たり前のグランの発言に、ジュナスは疑問符を浮かべ、マルスは納得していた。
「とにかくそういう事だ。レイア、ハルアード、二人の方でも気をつけておいてくれ」
「まぁ確かにジュナスは不安だね……」
「うるせぇよ! 不安で悪かったな!」
「……私はそんな事は無いと思うのだが」
「何かに熱中している時なら、マルスも相当怪しいわよ」
厳しいハルアードとレイアの判断にジュナスとマルスは反論出来る材料が見つからなかった。
「さて、今度こそ受付窓口いくよー」
そのエレインの宣言に従い、ハルアード達は行動を開始する。すぐに移動と言いたいが、まずは大剣マルスと籠手ジュナスの装備が先だ。先程のギルド証の更新の際にどちらも所有者登録もしてくれたようでギルド証の所有遺物の一覧に『警告の声手』と『万化の魔刃』が記入されている。もちろんBランクへ表記もきちんと変わっていた。
これで名義上はジュナスだが正式にハルアードの物として登録され、自由に持ち歩き使用する事が許されることになった。とりあえず、ハルアードは籠手ジュナスを左手に装備してふと呟く。
「このオーダーメイドみたいにピッタリ合うっていうのがなんか気味が悪いなぁ……ジュナスだし」
「うるせぇよ! 俺だってこんな状況でなきゃハル坊の防具なんてしてられるか!」
「ハル坊言うなつってんだろ!」
傍から見れば自身の左手と喧嘩をしているようにしか見えない状況の中、ハルアードは喧嘩しながら大剣マルスを装備しようとしてふと気付く。
「……これ、どうやって持ち運べば良いの?」
抜き身にままで鞘もない大剣マルスを手に、それをどうやって装備するかに頭を悩ませる。ただでさえかなり大きな大剣である。何もなしに持ち運ぶのは困難で、運ぶとしても背中に背負うような形にしなければ普段は邪魔過ぎだ。
「ねぇ、レイアさん。このサイズの大剣を固定できそうな物とか持ってたりしない?」
「……流石にそのサイズの大剣に合いそうなのはなかったと思うわね。オーダーメイドでも頼むしかないかしら?」
レイアは念の為、鞄の中を確認しているがそう都合よく使える物がある訳がなかった。無いとなれば専用で作るしかなくなる。そして持ち運べない状況では依頼を受ける前に先にそちらの発注をしに行かなければならないだろう。
ハルアードとレイアの二人は予定の変更を頭の中で考え出して、エレインもそれを察して待ってくれている。そんな思考を中断させたのは運ばれる本人?であるマルスだった。
「……ハルアード、試しになのだが背中に私を装備するように持ってみてはくれないか?」
「? 良いけど、そんなことしてーー」
ハルアードは不思議に思いながらもマルスの言葉に従いながら大剣を背後に回す。すると何処からともなく鞘とそれを固定する装備が現れ、ハルアードの背後に勝手に装備され大剣がその中に綺麗に収まった。何処にも無理な負荷がかからず、これ以上ないとでも言うような完璧な収まり具合にハルアードの言葉が途切れる。
「……やはりか」
「マルスさん、どういう事?」
「籠手になったジュナスがサイズが最適なものだとするなら、私の方にも何かあるのではと思っただけなんだがな。これは思った以上の結果だな」
「……そうだね、これはちょっと気持ち悪いくらいにしっくりきすぎてるよ……」
一先ずは持ち運びの問題は解決したはずではあるが、どこか釈然としない顔を浮かべるハルアードであった。元々どんな効果でこんな状況に陥っているのかもわからないのに、益々謎が増えていく状況では便利であったとしても素直に喜ぶ事などできなかった。
「なんだが、ハルアード、ジュナス、マルスで三人ワンセットにされたような感じよね?」
「確かにそんな感じだね……」
「ほら、解決したなら早くしてよー」
大剣マルスの持ち運び問題が片付くのを待っていたエレインがハルアード達を急かしてくる。予定を変更が必要ないと分かった以上は元々の予定通りとなる。
エレインに急かされるままに模擬戦室を出て、受付へと辿り着く。今日の早朝の依頼争奪戦は終わった後のようで人気は少なく、今受付の周辺にいるのはハルアード達だけであった。人気と言えば朝の依頼受付ラッシュの処理を終えた職員か、大物依頼の作戦会議をしている冒険者PTがいくつか食堂兼酒場にいるくらいだろう。
「はーい、それじゃホーンベアの討伐依頼の受理は完了ね。討伐証明は邪刻石と角だから忘れずにねー」
魔物とは『邪刻』が現れた生物の総称であり、死ぬと偏在属性・邪に染まった血晶が体内に生成される。特に大きく生成されるのが心臓を内包した物で、それを邪刻石と呼ぶ。それを回収する事で討伐の証明としているが、一番の理由は他の生物がそれを食べる事により魔物化する要因となっている為である。
「じゃあ、行ってきます」
「エレも、仕事頑張ってね」
「ジュナっち、レイちゃん、いってらっしゃーい!」
エレインの他の冒険者には決して見せないその親しげな様子も、この街を拠点にしている冒険者達には見慣れた光景である。密かに男の冒険者達の間では人気のあるエレインだが、嫉妬するような様子はまるでない。
ジュナスやハルアードがレイア達と行動を共にするようになってすぐの頃は嫉妬するような者も多数いたが、ジュナスはただの馬鹿である事と、ハルアードは実年齢より遥かに幼く見えるため嫉妬する事そのものが馬鹿らしくなって、今に至っている。
姿に合わせた呼び方でエレインに見送られ、ハルアード達は依頼兼実験へと向かうのだった。




