25話 試験の結果
Bランク特別昇格試験は勝敗は関係ないと言っていた。だからハルアード達は誰も合格の基準が分からない。四人のうちで冒険者部門の通常のBランクへの試験すら受けた者がいない為、どの程度の実力であれば良いのかなど知らない。Aランクの冒険者であるウェルトには勝ったがあれは遺物の力込みのものであるため、判断基準としては弱い。
だから、グランが試験結果が伝えるのを固唾を飲んで待っていた。
「あー結果から言うぞ。ハルアード・ジェイル、Bランク特別昇格試験は合格だ。まぁ名義上はジュナスが合格って事になるがな」
「よっし!」
「よくやったぜ、ハル坊!」
「やったわね、ハルアード!」
「これで私達は共に戦える、よくやった、ハルアード」
グランの合格という言葉に、ハルアードはガッツポーズをし、他の三人は口々に称賛を示している。
「っていうかな、もうちょいその身体に馴染んでからなら多分Aランクもいけるぞ? 模擬戦して実感したわ。ハルアードお前、体格に恵まれなさすぎたな。技術だけならAランクでも通用するぞ」
「えっ!? ……なんか色々と複雑な評価だよね。喜んでいいのか悲しんだらいいのかわかんないや……」
なんとも言い難い評価を受けたハルアードは少し落ち込むが、今の状態での評価を前向きに捉える事にした。元に戻る手段を探す為にも、戦闘力もギルドのランクも高い方が良いのは確実だからだ。元の体の体格の恵まれなさは、元に戻ってから考えればいいと結論付ける。
「逆にジュナスはAランクでも通用する肉体でDランク止まりとか何やってたんだ? 例えばだがお前、さっきの模擬戦の攻撃は全部、防御すらしねぇだろ?」
「あったり前じゃねぇか、あんなもんダメージになんねーよ!」
「だからお前はDランク止まりなんだよ……。宝の持ち腐れっていうのはこういうのを言うんだろうな」
ジュナスはハルアードの動きの半分でも出来ればすぐにでもCランクに上がれるだろうが、無自覚な強靭さが原因か、生来の性格の問題か、どちらにしても中身にかなり問題があった。戦闘時の勘の良さはグランも知っているが、それだけでランクをあげる訳にもいかないのが現実である。特に本人に改善の意思がないとなれば尚更だ。
とりあえず今はジュナスは籠手なのが幸いではあるが、元の体に戻る前までにはジュナスの意識改革は必須となるだろう。
「そういやハルアード、お前魔術は使わなかったんだな?」
「あー自己強化魔術はまだ切れてないままだけど……」
「一晩経ってもまだ効果中ってどういう事だよ……いや、それはいい。良くはないが、とにかくいい。わざと隙を見せた時にでも使ってくるかとも思ってたんだがな?」
ただの魔石を使って詠唱で発動させる魔術は遺物由来のものではないので試験での使用は可能だった。それを確認する意味もあり、わざと狙いやすい隙を作った側面もある。ただし実戦で魔術を使う前衛の人間も少ないが。ハルアードも自身の魔力の少なさは自覚しているので実戦で使う事はあまり無い。
「あ、それは単純に普段は魔石を持ち歩いてないからだね」
「あーまだそっちの方は用意が出来てない訳か。詠唱にしても術式を書くにしても魔石はいるからな」
「そういう事。あと、威力確認せずに使うのはちょっと怖いかな?」
普段使わないからこそ持ち歩く習慣もなく、用意もしていなかった。そしてジュナスの身体になってから使った魔術は魔石の要らない自己強化魔術とマルスが展開したあの凶悪な威力の土壁だけ。実験なしにいきなり使うような危険な事はしたくなかった。
「あー天井ぶち抜いたとかいう魔術か。それ、本当に魔術か?」
「あぁ、あれか。あれは魔術ではない、魔法だ」
「あーやっぱりか。発動の感覚、魔術より遺物の発動に近かったし」
「……おい、とんでもねぇ事をサラッと言うなよ、マルス?」
冗談混じりに言った言葉をあっさりとマルスに肯定されて、グランは思わず動揺する。魔法の発動は遺物を介してのみ、魔法そのものの発動原理に関する知識は完全に失われていて世界中が今も研究を続けている最大のテーマである。
そして『意思ある武具』は魔法を発動させることはあってもその内容に言及する事は今まで事例が存在しない。
「おそらくここでの会話のみに留めた方が良いだろうな。グラン、それでも聞くか?」
「……いや止めておく。それを聞けば俺は本部に報告しなきゃならんからな。聞かなかった事にしておく」
「そうか。まぁ私が触れた魔法の一端を知れば、グレヴィティア共和国の連中が群がって来て下手すれば戦争が起こるな。もしや、カームルド帝国の奴らは魔法の一端に触れたのか?」
「聞かなかった事にするって言ってんだから続けんなよ!?」
「それもそうだな。すまん」
危険性を感じて聞くのを止めたのにそのまま思考を続けて話すマルスにグランがキレた。
「あーともかく、今のは俺は何も聞いてない。エレインもいいな?」
「はーい。カームルド帝国だけでも厄介なのに他の国まで相手したくないですしねー。さて、それじゃジュナっちのギルド証の更新手続きしてきますねー。みんなはここで待ってていいよ」
エレインはそう言って、ハルアードからジュナス名義のギルド証を預かって模擬戦室を出ていった。ハルアードとマルスの分は何処かに消えてしまったが、ジュナスの分だけはちゃんと残っていた。
ギルド証とはその名の通りギルドが発行する加入者の身分証であり、そこには氏名、拠点として登録している支部(ない場合は最後に訪れた支部)、年齢、所属している部門(複数登録可)、所属する部門毎のそれぞれのランク、所持している遺物の一覧が記載されている。
特殊な魔紙で作られており、ギルドの受付でのみ書き換えが可能となっており、今回のようにランクが上がったなどの記載内容の変更が必要になった時はギルドの職員が書き換えを行う事になっている。
そして、ギルド証はギルドの支部がある国ではどこでも通用する身分証として使われている。
「よし、とりあえずはこれで一先ずの問題は片付いた。あとは本部と国の対策待ちだな」
「あの、グランさん」
「ん? どうしたよ?」
「ちょっと軽めの依頼受けて、身体の慣らしをしてきてもいい? あと魔術も試しておきたいし」
「そのくらいなら構わんが、あんまり遠出はするなよ? 場合によっちゃ、お前ら呼び出す可能性もあるからな。あ、それと今のお前ら実情は四人のままだけど、表向きは二人だからパーティー用の依頼は受けれんからな」
「あ、そういやそうなるのか」
「とりあえず、今回は弱めの相手で良いんじゃないかしら? Dランクくらいの大型魔物の討伐か、魔物の群れの討伐かしらね?」
「立ち回りと魔術の威力確認だし、そんなものかな?」
「身体の感覚のズレは、後でカールさんに稽古つけて貰うのはどう?」
「やっぱりその辺りは魔物相手よりは、対人相手の方がいいかな? 魔物相手に使える武器の確認程度でいいか」
レイアとハルアードがそうやってこれからの方針を立てていく。大型魔物は魔術の実験台で魔物の群れは立ち回りの確認が主ではあるが、場合によってはどちらでも両方を試す事も出来る。こればっかりは魔物次第にはなるが。後は都合よくそんな依頼が残っているかだが、それは依頼掲示板を見てから考えるしかない。
依頼の推奨ランクは基本的にパーティーランクを基準にしているが、二ランク下の依頼であればパーティー用の依頼も単独で受ける事は出来る事になっている。後はエレインが更新したギルド証を受け取り、大剣マルスと籠手ジュナスを装備して、依頼を選べば済むところまで話は進む。
「お待たせー。更新してきたよー。あとついでに依頼書も良さそうなの見繕ってきたよー」
「準備いいっすね、エレインさん」
「さすが、エレ! さすが私の親友!」
「えへへー、レイちゃん照れるなー」
仕事モードの時はしっかりしているがグランの前やレイア達の前では真面目な雰囲気は消え失せて、ゆるーい雰囲気でレイアに抱きしめられているエレインだった。そして籠手からの声は誰にも相手にされてはいなかった。




