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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第二章 ギルドという組織

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24話 特別昇格試験、開始


 ギルバート孤児院の翌日の朝、普段は騒がしい筈だが子供達は元気のない様子で朝食を食べていた。ハルアードとレイアがその中で共に朝食を食べていたが、いたたまれない気分でいた。レイアの体調自体は復調しているのは幸いではあるが。


「みんな辛いのは分かるけど、レイアちゃんとジュナスちゃんはちゃんと居るのよ? それにマルスさんもハルアードちゃんも行方が分からないだけで、死んだと決まったわけじゃないの。そのうちひょっこり戻ってくるわよ」


 そう言って励ますのはカールの妻で、共に孤児院の運営をしているケリー・ギルバートである。カールとケリーの間には子宝には恵まれず実子はいないが、孤児院の子供達を自分の子供達として接する母代わりとも言える人である。

 ケリーは普段は温厚でとても優しいが、悪い事には厳しい側面もあり、辛いときには皆の心を解す包容力も持ち合わせている。そして、カールはケリーのその一面に触れ、一瞬で恋に落ち、裏社会の情報屋から足を洗い口説き落として今に至る。


 ケリー自身はギルドの直接の関係者ではないため裏の事情は伏せられている。そして心優しいケリーが人知れず、マルスとハルアードの行方不明に涙を流していた事も知っている。

 カールはそのことを心苦しくは思ってはいるが、知らない方が安全ということもあり断腸の思いで真実を伏せている。

 


 そんな朝食を終えて、ハルアードとレイアは軽く荷物を抱え、ギルドに向けて出発の用意を整えている。


「ねぇ、レイアさん」

「ん? どうしたの?」

「俺、絶対に元の姿に戻る方法を見つけ出すから!」

「そうよね、子供達のあんな泣き顔見ちゃったら、そうするしかないわよね!」


 ハルアードの決意の宣言に、少し落ち込んでいたレイアも気合を入れるために両手で自分の顔を思い切り叩く。バシッと大きな音と共にレイアにも気合が入っていた。

 目標は定まった。そして一先ずの目的はマルスとジュナスと共に居る為の資格を得る事。つまり特別昇格試験の合格を勝ち取ることである。気合は充分に二人はギルドへ向かって歩き出した。




 ギルドに到着すると早朝ということもあり、新規の依頼を狙った冒険者達が依頼の争奪戦を繰り広げている。これはいつもの光景といえばいつもの光景だ。

 レイアとハルアードに時折、顔見知りの冒険者達が目を向けるが、気を使うように無理に話しかけては来ない。特殊事項があったという情報が既に出回っているのだろう。


「あ、レイちゃんおはよー。思ったより早かったね? ジュナっちもおはよー」

「エレ? もしかして待ってたの?」

「まぁ、ちょっとだけだけどねー」


 人目があるためか、エレインはハルアードをジュナスとして呼ぶ。どうやら今朝の受付業務は他の職員に任せてハルアード達がやってくるのを待っていたようだ。


「まだまだ予断は許さない情勢みたいだけど、なんとか今朝までには支部長の方も一段落はしたから、特別昇格試験は受けれるようになってるよ? どうする? すぐにでもやる?」

「すぐにでもやる!」

「そう言うと思った。支部長は模擬戦室で待ってるからそこでやるよー」


 気合の入ったハルアードの即答を聞き、エレインが先導するように模擬戦室へと歩きだす。ハルアードとレイアはエレインの後をついていく。

 渡り廊下を通り、別棟に建てられた模擬戦用の円形の建物へと辿り着く。個室となっている模擬戦用の六部屋と、闘技場の役割を果たしている中央舞台が存在している。模擬戦室は利用申請をして空きがあるときがあればギルドの加入者なら誰でも使用する事が出来るようになっている。そして、中央舞台は基本的にイベント用であり、ここは普段は貸し出されてはいない。

 中央舞台の客席の下部が模擬戦室となっていて、今回の特別昇格試験は個室である模擬戦室で行うようだ。


「おう、二人とも来たな」

「やっと来たか。遅いぞ、ハル坊!」

「……眠れないからといって、一晩待ち疲れたのはわかるがギルドは開いたばかりの時間だぞ?」


 そこには模擬戦用の木で作られた様々な武器を用意して待ってたグランと、机の上に置かれているジュナスとマルスの姿があった。どうやら籠手と大剣の姿をになったことで睡眠が不要になり、暇を持て余していたジュナスが文句をつけてくる。


「……なんだろう、いつもの腹立つ呼び方なのに、なんかホッとした気分だ」


 だが、珍しい事にハルアードは今日は喧嘩にはならなかった。余程、子供達の泣き顔が堪えていたのだろう。いつもと変わらないやり取りに安心感を覚えていたハルアードであった。だが、それでは逆にジュナスの調子が狂う。


「……なんだよ? 調子狂うじゃねぇか……」

「ジュナス、実はねーー」


 レイアが端的にではあるが昨日の孤児院での様子をジュナスとマルスに伝えた。


「あのクソ生意気なガキ共がそんなに……」

「私達は思ってた以上に慕われていたのだな……」


 ハルアードの様子の理由を理解したジュナスとマルスはなんと言えば良いのか言葉が見つけられないでいた。


「ねぇ、ジュナス、マルスさん。俺は絶対に元の姿に戻るからね」

「……それには俺も同感だ。ガキ達を泣かせたまま大人しくしてられるか!」

「そうだな、私だけの問題ならこの今のままでも良いとは思うが、そうは言ってられんな」


 三人の思いが一致した瞬間だった。そして、話が一段落ついたのを確認してからグランが声をかけてくる。


「気合は充分って感じだな? それじゃ早速やるか」

「お願いします!」

「とりあえず、試験内容の説明な? 遺物の使用は禁止で模擬戦用の武器を使用すること。魔術の使用は可だが、魔紙による事前準備は禁止。遺物に依存しない純粋な力量を測るためだからな。勝敗自体は基本的に関係ないがあまり無様なら失格だ。いいか?」

「合格基準はどんな感じ?」

「それは教えたら意味ねぇだろ。まぁBランクの奴が試験官の時のなら教えてやるよ。最低限、Bランクと戦ってもちゃんと渡り合えるかどうかが基準だな」

「うん、大体わかった」

「よし、なら武器を選べ。そしたら試験開始だ」


 グランの試験の説明が終わり、木製の武器を選ぶ事になる。用意されているのは大剣、片手剣、槌、槍、短剣など使う人の多い標準的な装備だ。一つ一つ手に取って感触を確かめていく。

 ハルアードは片手用の長剣を選んだ。大剣はまだ不慣れな上に大剣マルスと比べると短い上に軽すぎるので却下。似たような理由から大振りな武器は全て除外する。

 一番使い慣れているのは短剣ではあるが、リーチが短く普通の剣よりも近い間合いでは、まだ埋められていない体格差からくる誤差が致命的になりかねないのでこれも却下する。

 結局のところ、無難でかつそれなりに使い慣れた武器である片手剣を選んだ。


「よし、武器はそれで良いな? じゃあ俺も同じやつでいくかね。エレイン、開始の合図を頼む」

「はーい!」


 軽い感じでエレインは了承し、そして雰囲気を切り替える。


「それではこれより、Bランク特別昇格試験を開始します。始め!」


 仕事モードの真面目な口調でエレインが試験の開始を宣言した。


 開始に合図と同時に、グランが剣を手に一足飛びに突っ込んでくる。一撃目は正面からの袈裟斬り、ハルアードは難なくそれを受け切り、鍔迫り合いへと持ち込む。


「へぇ? 前のハルアードだったらこの一撃で吹き飛ぶくらいだったが、肉体が変わればこの程度は簡単に受け止めるか。ジュナスなら避けたり受ける事すらしなかったな」

「そりゃ全然違う体なんだから同じ感覚では戦えないよ!」

「思った以上に現状をちゃんと把握出来てはいると……おいジュナス!」

「試験中じゃねぇのか? なんだよ、グラン?」


 鍔迫り合いを続けながら、グランはジュナスに呼びかける。ハルアードはその隙を狙おうとするが、絶妙な力加減で鍔迫り合いから抜け出せないでいた。


「良い機会だ、こんなチャンスなんかほぼ有り得ねぇ。面倒くさがって技術を磨いて来なかったお前の体に技術を身に着ければどれだけ動けるものか、よく見てろ!」

「お、おう」

「……これ、俺の試験じゃないの?」

「お前ら三人はもう元に戻るまでは切っても切り離せねぇからな、実質お前ら三人への試験だよ!」


 そう言いながら、グランは鍔迫り合いを終えてハルアードの剣を弾き飛ばそうとする。その攻撃の意図を察したハルアードは剣を引き、後ろへと跳ぶ。弾き飛ばそうと切り上げたグランの一撃は空振っていたが、即座にグランの追撃がハルアードを襲う。

 左から右へと横薙に振るわれた追撃を剣で受け止め防御するハルアードに、頭を狙うグランの鋭い蹴りが放たれる。咄嗟にハルアードは頭を引いて回避するが、回避しきれずに少し掠り額から血が流れ出す。

 掠らせるだけに終わったグランの蹴りは隙が多く、ハルアードは剣を持っていない左手でグランの足首を掴み、自身の体を回転させながら遠心力と腕力でグランを投げ飛ばす。


「おわっ!? そこで投げてくるか」


 少し予想外だったのかグランは驚きながらも、軽々と着地していた。以前のハルアードでは絶対に出来なかった戦法である。まだまだ粗は多いが確実に今まで出来なかった事を出来るようにしてきている。


「攻撃に対する判断は問題なし。回避行動はちょっと体の動きと感覚にズレがありそうだが、これは仕方ねぇしすぐに改善出来るだろうから、一応及第点」


 剣を構えながら、ブツブツとハルアードには聞こえない程の小さな声でグランは呟いている。試験の評価を頭で考えながらも、意図的に隙を作る。

 そしてハルアードはその隙を攻めることはしない。あからさまにわざとらし過ぎる隙だと判断したからだ。あんな隙に突っ込んでいけば手痛いカウンターを食らう。ハルアード自身がよく使っていた手だからよくわかる。

 

「あからさまな誘いには乗らないか、相変わらずこういう判断はDランクとは思えねぇな。これも問題なし」


 いつまでも露骨な隙を晒していてもハルアードは攻めてはこないだろうと判断したグランは再び攻勢に入る。あくまで今度はちゃんと反撃できる程度に抑えながらでだ。そして数度の打ち合いがあり、わざと過ぎない程度の隙を見せる。そこにハルアードが反撃を入れるが、あっさりとグランに防御されてしまい、そしてハルアードが反応出来ない速度で振るわれたグランの一撃で剣が弾き飛ばされた。


「よし、ここまでだ」

「あーやっぱり元Sランクには全然敵わないや……」

「おい、こら勝手に元にすんじゃねぇよ。支部長になっただけでランク自体はSのままだっての」


「はい、これにてBランク特別昇格試験を終了します。双方、武器を片付けて下さい」


 グランの一言を聞き、エレインが試験終了の合図を出した。ハルアードは弾き飛ばされた武器を拾いに行き、武器を元の場所へと戻していく。流石にSランクの支部長であるグラン相手では勝って合格という訳にはいかなかった。

 そして、試験の結果が伝えられる。ハルアードもやれる事はやったと思うが、どうなったかは分からない。レイアもジュナスもマルスも、結果が伝えられるのを息を呑んで待っていた。



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