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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第一章 解き放たれたもの

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13話 苛立ちと変化


「ウェルト殿、何を呆けているのですか? やはり貴方ごと処分したほうが」

「っ!? いや、戦うから!!」


 決闘中に相手側が自らの武具と喧嘩を始めるという思わぬ展開に呆けていたウェルトは、セリナの物騒な発言によって正常な思考へと引き戻される。いや、物騒過ぎた発言に若干焦りが混じっているので正常を少し通り越してはいるが。


 未だにギャーギャー騒ぎ続けるハルアード達に目を向け、ウェルトは改めて剣を構えた。その顔には先程まで呆けていた人間とは思えない程の怒りが滲み出ていた。先程まではどうにか生き延びてくれればという気持ちもあったはずだが、今はそれも消え去っていた。

 護衛や傭兵等で対人戦も多く経験しているウェルトだが、命乞いでの見苦しい裏切り合い等は見た事は何度もあるが、決闘で相手側に喧嘩を始められたのは初めての経験であった。


「何がなんだか知らねぇが、無視してんじゃねぇよ!」


 ウェルトは手加減を止め、威力と速度が増し苛立ちの込められた剣が袈裟斬りに振り下ろされる。その剣は『溶断』が発動され、必殺の刃となりハルアードに襲いかかる。だが、身体強化魔術が発動した状態のハルアードは軽く余裕を持って大きくそれを避けた。

 現在ジュナスの身体と入れ替わっているハルアードとしては、自身の身体との動きの違いに惑わされていながらも先程までも辛うじてとはいえ避けれていた攻撃ではある。ウェルトの手加減がなくなって威力も速度も上がったとはいえ、身体強化で能力が上がっているのはハルアードも同じであり、ハルアードの操るジュナスの身体にとってはこの状況こそが正常な状態でもある。

 ジュナスの身体能力とハルアードの技量を合わせれば、身体のリーチと間合いのズレさえ修正出来れば、今のように大きく間を取って避けずとも紙一重で躱すことも出来るだろう。


「ハルアード! ジュナスの件はまた後でだ!」

「了解! 徹底的に絞め上げてやるから覚悟しとけ、ジュナス!」

「だからしつこいってんだよ! 後で何する気だ、てめぇら!?」


 ハルアードの動きに余裕があるのに気付いたマルスだが、流石にこれ以上この場で追求する訳にもいかないのを感じたのか後回しにしようとする。ハルアードもそれに同意し、ジュナスは抗議の声を上げていた。あくまで後回しにするだけで、後から追求する気満々なマルスとハルアードであった。

 そして、その言葉を聞いたウェルトは本気で怒りに呑まれていた。格下であるDランクで、先程まで自分に苦戦していたハルアードが既にこの窮地を乗り越えた気になっているのに腹が立っていた。


「舐めてんじゃねぇぞ、クソガキが!」


 怒りに任せたウェルトの攻撃は次第に単調となり、ハルアードも余裕で躱せるようになっていく。そして、反撃も繰り出せるようになっていた。だが、ハルアードの攻撃は使い慣れない不慣れな大型の武器であり、身体能力の高い身体でも自在に扱うとはいかず、簡単に回避されてしまう。

 重量があり、優れた身体能力から繰り広げられる大剣の一撃も当たらなければ意味がない。様々な武器を扱えるハルアードであったが、元の身体の小柄さからくる大型武器への適性の無さがここにきて弱点として露わになる。弱点とも言えない弱点だが、現状では一番致命的な部分であった。

 回避されるだけなら良いが次第にウェルトはハルアードの剣戟を『溶断』で受け止めようとし始めた。防御でもって武器破壊する狙いなのであろう。振り切った大剣に合わせて『溶断』を構え、ハルアードが強引に途中で止めるか、軌道を変えるという荒業を使うしかなくなり、より攻撃が行いにくくなっていく。


「ひらひら避けるくせに、全然攻撃がなっちゃいねぇ! その割に異常な攻撃の止め方もしやがる! 見切りは早いくせに、避ける時の間合いもおかしい! チグハグ過ぎてどうなってんだ、おい!」

「色々あって、色々慣れてないんだよ!」


 互いに決定打を与えられず、膠着状態に陥りつつあった。

 ウェルトは次第に焦り出す。格下であるDランクの小僧が慣れない武器を使って自分自身と渡り合って、膠着状態を作り出しつつあるという事にである。実情はもっと複雑でややこしい事になっているが、ウェルトがそんな事情を知るはずがない。

 ウェルトの切り札は『溶断』だけという訳では決してない。だが、最大の武器は自分自身の剣技と『溶断』の二つである。まともな防御すら許さない『溶断』ではあるが、ここまで躱されてはただの剣と何も変わらない。負けはしないが決定打が決定打にならない事が非常に不味かった。

 そして何より、ウェルトの背後には狂人セリナが控えている。ことここまで至ってしまえば、ハルアードを仕留めなければ死ぬのはウェルト自身である。


「あぁ、もう大剣は慣れないからやりにくい! 『千変の刃』はどこいったんだよ!」

「何故使わないのか疑問だったが、ないのか?」

「あったらとっくに使ってるってば! せめて使い捨てられる剣一本で良いから欲しいとこ!」


 致命の一撃の応酬を繰り広げながら、ハルアードが嘆くように言い捨てる。『千変の刃』があれば武器は好きな物を自在に扱える。だが、目が覚めてから混乱しながらもそれとなく探してはいたが何処にも見つからなかったのである。

 ハルアードとしては『溶断』を一瞬凌ぎさえすれば、大剣の一撃を食らわせる目算は立っている。伊達にあの体力馬鹿で異常な勘を持つジュナスと一対一で一度も負ける事なく戦ってきた訳ではない。異常な防御を破れずに勝てた事もないが。

 動作の見切りに関してのみで言えば、現在の状況のようにAランクに匹敵する実力は持っている。だが今の状況を打破するには一手足らない。


「……『千変の刃』、一体何処へ消えた? そもそも私とハルアードの身体も何処へ消えて、この大剣とジュナスの籠手は何処から現れた……?」


 マルスはハルアードに振るわれながらも、先程のハルアードの言葉から思考の海へと潜っていく。正直な所、この状態で魔術は使えそうになく、ハルアードの回避にも問題がなさそうなのでする事が無かったのである。ジュナスも同様ではあるが、あちらはあちらでボロクソに言われた先の喧嘩に苛立ちながらも勘による警戒だけは怠ってはいない。

 ウェルトの『溶断』による溶解音と、自身が振るわれる事による破砕音を背景音としながら、マルスは考える。考えているうちに何かがぼんやりと脳裏に浮かんでくる。大剣に脳裏という表現が正しいのか怪しいものではあるが、次第にそれははっきりとしていく。そしてある瞬間にマルスは何かを理解した。言葉に言い表せないその感覚的なものに、確実に触れた。


「……そうか、消えたのではない。作り変えられたのか。ならば……」


 いつ終わりが来るか分からないウェルトとハルアードの戦いは続く。そしてマルスは逆転の為の手段の獲得へと近付いていく。

 マルスの脳裏に浮かぶのは『千変の刃』のイメージ像。そしてその意味も理解した。


「私の中にあるという訳か。ハルアード、突破口を見つけたぞ!」

「えっ!? 本当に!?」


「ちっ、何なんだよ、お前らは!?」


 大剣から発せられたその言葉にウェルトは動揺し、だが攻撃の手は緩めない。しかし焦る心を抑えることは出来ずにいた。

 ウェルトとは裏腹に、ハルアードはその朗報に浮かれない様に気を引き締める。こんな事で気を緩めて真っ二つになんてされたくないからだ。だから、手段は端的に聞く。


「どうすればいい?」

「『千変の刃』は消えてはいない。いつもにように私に向かって使えばいい。そこから先は私の役目だ」

「……詳しいことは後で聞くよ。いつも通りでいいんだね?」

「あぁ、今望む武器を思い描き、私に魔力を流し込め」


 ハルアードにはいくつも聞きたいことが頭に浮かぶが、それは後回しにする。言われるがまま、頭の中にイメージする。今必要なのは、『溶断』を止める使い捨ての武器と、敵を仕留める為の武器。思い描くのは二本一対の双剣。そのイメージと共に魔力を流す。


「よし、きたな。『千変の刃』の術式を展開……ふははっ! これが遺物の術式か! これが『魔法』の一端!!」


 何か妙なテンションになっているマルスの姿が徐々に変わっていく。大剣の姿が崩れ、二つの塊に分かれ、そしてそれぞれが剣の形へと変わっていく。変化が終わった時にあったのは、柄の先が長い鎖で繋がった二本一対の双剣。ハルアードのイメージした通りの物であった。


「ハルアード、これは『千変の刃』と同じだ。核の魔石と武器の半分以上が無事なら修復できる」

「そっか、なら心配はいらないんだね?」

「あぁ、思う存分やってこい!」


 姿を変えた双剣のマルスを左右の手に持ち、ハルアードは構えを取る。大剣と違い、使い込んでいた訳ではないがそれなりに扱ったことのある武器だ。構えに隙はない。


 膠着状態が続いたウェルトとハルアードの戦いは佳境を迎えようとしていた。




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