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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第一章 解き放たれたもの

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12話 ウェルトとの戦い


 ハルアードがジュナスとマルスを装備し、ウェルトへと向かい合う。


「『意思ある武具』ってのは初めて見たが面白いもんだな? 何処で手に入れた?」


「……言う訳ないだろ!」


 その軽口に思わずハルアードの頭に血が上る。事情を知らないとはいえ、仲間を道具呼ばわりされるのが許せなかった。普段は気に入らないと思っているジュナスの事ですら苛立ってくる。なんだかんだ言いながらハルアードはジュナスの事を仲間だと思っている証拠なのだろう。


「そりゃそうだ! ま、いいや。一応俺は冒険者なんで、その流儀には則るぜ。これは依頼被りの決闘だ、いいな?」

「よくそんな事が言えるね!? そっちの依頼は、どう考えてもギルドの規約違反じゃないか!」

「こっちにはこっちの事情があんだよ。決闘形式にしてやってるだけ有り難いと思え」

「くそっ!」

「ハルアード、落ち着け」

「とりあえずそういう事だ。嬢ちゃん、手は出すなよ?」

「……分かったわよ」


 依頼被りの決闘とは、標的が重複する依頼を別々に受けた冒険者が獲物の取り合いになった場合に適応されるルールである。個人ならそのまま当人が、PTならば代表者を一人選出し、一対一で戦い所有権を決める事となっている。ただし、わざと他人の獲物を狙うなど悪質な場合においては適応されず、罰則の対象とされている。

 だが、このような一方がありとあらゆる規則や法規を無視している場合に適応するようなものではない。ウェルトの言う通りこれは相手側の温情によるものだと理解して、ハルアードは苦虫を噛み潰したような気分になる。気休め程度にマルスが声をかけるがあまり効果はなかった。


 ハルアードにとって不慣れな身体に、普段使うことのない大型の武器、そして相手は間違いなく格上。かなりの悪条件に嫌気が指す。それでもあのセリナの相手をするよりは遥かにマシだという事実が恐ろしくもある。


「Aランク、ウェルト・アーガストだ」

「……」

「名乗るぐらいしやがれ!」

「……Dランク、ハルアード・ジェイル」


 決闘の合図となる名乗りを上げながら腰の長剣を引き抜くウェルトと、ジュナスの身体でハルアードと名乗っていいものか悩み口籠るハルアードだったが、結局ハルアード自身の名乗りを上げた。

 ウェルトの抜いた剣は両刃の長めの片手剣であり、赤い刀身と、鍔に埋め込まれた赤い魔石が目を引く。


「……へぇ? Dランクか、『意思ある武具』を持ってるからてっきりBランク以上かと思ってたぜ!」


 そう言いながら、ウェルトが横薙に長剣で斬りかかる。ハルアードは咄嗟にマルスでその剣を受け止めるが、受け止めた後に慌ててしまう。重いウェルトの一撃を受けたマルスが大丈夫なのかが分からないのだ。


「思わず剣で受けたけど、マルスさん大丈夫!?」

「……あぁ問題はなさそうだ。ハルアード、私達の事は気にせず戦え」


「戦闘中に剣とお喋りとか舐めてんのか、てめぇ!」


 若干苛立ちの混じった上段からの振り下ろしを、再びマルスで受け止める。先程よりもかなり重い一撃だった。そこから下段からの切り上げ、薙ぎ払い、刺突とウェルトの連撃が繰り広げられるが、辛うじてすべてを受けきったものの、ハルアードの顔に余裕はない。


「受けてるだけじゃ勝てねぇぞ!」


 そう言いながら、ウェルトは上段から振り下ろす。ただし、その剣は赤い光を帯びながら。ハルアードは先程までと同じように受けようとする。


「受けるな、ハル坊! 躱せ!」


 ジュナスのその声に、咄嗟には受けの態勢を崩し強引に転がるように避けた。ハルアードが避ける前にいた部分は切られた跡ではなく熱で溶かされたような有様になっていた。こんな攻撃をマルスの大剣で受けていればどんな事になったかわからない。耐久性すら分かっていない以上、下手な事を試す訳にもいかない。ジュナスの警告がなければと思うとゾッと背筋が寒くなるハルアードであった。


「よく受けずに避けたな。籠手に感謝しとけよ? ついでに、こいつは『溶断』って言ってな。この通り、熱で焼き切る代物だ」


 余裕を見せつけているのか、わざわざ解説を付け加えるウェルト。そして、再びウェルトの連撃がハルアードを襲う。先程までと違い、受ける事が出来ず避ける事しか出来ていない。

 しかも間合いを間違えるせいか、次第に何度も攻撃が当たり始め軽い火傷を負う。まともに喰らえば火傷どころではなく体の一部を失いかねない凶悪な攻撃だった。

 そしてハルアードは息切れし始める。


「おいおい、もう息切れしてんのかよ? 俺が相手とはいえお前、ほんとにDランクか?」

「はぁ、はぁ、おい、ジュナス! どうなってんだ、お前の身体。いくらなんでも燃費が悪すぎるぞ!」


 ハルアードはいつもの感覚で動いているだけだったが、体格の違いから出る無駄な動きも多い為、その影響はあるのだろう。だが、それでもスタミナの減りが異常に速かった。

 元々ハルアードの動きは無駄な動きを減らし、洗練された動きでスタミナを節約する戦闘スタイルである。多少無駄な動きがあったとしても普段の底なしのジュナスのスタミナを見ていると異常に感じてしまう。普段のジュナスの動きなんてものは無駄な動きばかりでしかないからだ。


「はぁ? んなもん、ガッと力を入れてグワッとやれば勝手に体の内から湧いてくるだろうが。何言ってんだよ?」


「はい?」「なんだと?」


 異常なスタミナ消費に頭を抱えたくなっていたところに予想もしていないジュナスの言葉。思わずハルアードとマルスの疑問の声が重なる。今コイツは何と言った? 何を言っていたのか理解が出来ず、一瞬動きが止まってしまう。そしてそんなに隙を見逃してくれる相手ではない。


「だから、余計なお喋りしてんじゃねぇよ!」


 そのウェルトの声で思考が再起動したハルアードは、声と同時に放たれた鋭い一撃を背後に飛び退いて避ける。そして、ある可能性に思い至る。だが、もしこれが可能であればある決定的な事実が判明する事になる。

 一瞬迷うが、すぐに迷いを振り払い疑惑を検証する事を決意する。時間があるのならもう少し別の手段を使いたいがその余裕はない。普段のハルアードではまず使う事はないし、勘違いなら無駄に隙を生むが、その時は駄目元でカウンターを狙えばいい。覚悟を決めたハルアードはマルスを構えながら、詠唱による術式の構築を始めた。


「”我が身の内に火の猛りを刻め”」


「ちっ、火事場の馬鹿力でなんとかしようって魂胆か!」

「ハルアード? 何をする気だ!?」


「『ブロウ・アップ』」


 ハルアードの詠唱を聞き、即座に妨害へと動くウェルトがハルアードに向かって剣を一閃させる。詠唱内容から即座に効果を理解し、妨害に移るのはさすがAランク冒険者と言えるだろう。だが、ハルアードの目的は違っていた。ジュナスは常々言っていた。自分には魔力がないと……。

 ハルアードはウェルトの攻撃を今回は余裕を持って躱し、少し距離を取る。ハルアードが使った魔術の基本戦術とまるで異なる動きにウェルトは違和感を覚え、追撃は放たず距離を保つ。ハルアードは使った魔術とその結果を体感し、大剣を構えたまま動かず肩を震わせていた。

 様子のおかしいハルアードにウェルトが問い詰めるように声を発する。


「……なんのつもりだ?」


「……馬鹿だ、馬鹿だと何回も言ってきたけど、どこまで馬鹿やらかせば気が済むんだよ、馬鹿ジュナス!?」

「いきなり馬鹿馬鹿うるせぇわ! なんのつもりだハル坊!?」

「……なるほど、なんとなくだが理解した。……今回ばかりは私からもこう言わせてもらおう、馬鹿ジュナス」

「マルスまで!?」


 突然始まった籠手と大剣と持ち主による喧嘩にウェルトは思わず面食らう。離れた所で見ていたレイアも額に手を当て、ため息をついているのが見受けられた。


 ハルアードが使った魔術は自己強化魔術。魔石を必要とせず自身の魔力だけで発動し、自身の肉体の強化を行う。今回使ったのは強制的に体力を増強し、全面的に少し身体能力を底上げするもの。火力特化、防御特化、治癒特化などいくつか種類もある。戦闘には非常に向いたように思われる魔術だが、全ての自己強化魔術には共通する致命的な欠陥を持っている。

 急激な強化による肉体を扱う感覚のズレと、発動中は常時消費され続ける自身の魔力と常に苛まれる激痛、そして効果切れの後にくる肉体を酷使したために起こる後遺症。それらが理由で安定した運用が出来ないとされ、通称は自爆魔術。

 それでも使われる事はあるが、それは本当に生死が掛かった戦いか、自滅前提の特攻を行う時くらいである。本来ならば……。


 今回発覚した事実は主に二つ。

 一つは魔力は無いと自己申告していたジュナスが膨大な魔力を持っていて、その自覚が無かった事。

 そしてもう一つは本来ならば苛まれ続ける痛みが発生していない事から、手段までは分からないが自己強化魔術を常用していたという事であった。

 ハルアードとマルスがキレるのも仕方ない事であろう……。



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