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トリニティ・クライシス 〜三つの意思が世界を変える〜  作者: 加部川ツトシ
第一章 解き放たれたもの

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1話 困惑する異常事態

初投稿です!


 遺跡の外で見張りをしていたレイア・アルステインは少し焦っている。敵が来るのは想定内だったが、その相手が想定を大きく超えていた為だ。


 三人の仲間とは今は別行動中である。見張りに出ていて正解だったが、三人の方に成果があるのかも気になっていた。欠片も想像していなかった程の強大な敵。その存在を確認した時点で撤退を決めて、仲間の元へと移動している途中であった。


「かなり不味いことになったわね。さっさと撤収しないと……」


 古びた廃墟の中に隠された地下への階段を降り、明らかに雰囲気の違う扉を潜り抜ける。その先は同じ建物から通じているとは思えない程、素材が何かも分からない異質なの通路があった。

 気になる点は多々あるがそんな事を気にしている場合ではない。レイアは松明を手に周囲を警戒し、仲間を探しながら足早に奥へと進んでいく。

 幸いなことに一本道であったため迷うことはない。


 しばらく進んでいくと、少し言い合いをするような聞き覚えのある声が聞こえてきて、目的の場所が近いことに少し安堵する。そして、いつものように喧嘩をしている二人の姿を思い浮かべつつ呆れてため息をついていた。


「こんな時まで喧嘩してるのね。ちょっとお仕置きでも……」


 喧嘩ばかりしている仲間二人の対処を頭に思い浮かべながら、警戒心は途切らせないように奥へと進む。

 その時、突如として遺跡を揺らす衝撃が襲ってきた。一度ではなく、何度も何度も繰り返される衝撃。


「ちょっと、冗談でしょう!? あいつら遺跡を壊すつもりなの!?」


 まだ撤退出来るだけの時間的猶予はあると思っていたレイアだが、その予想もしていない衝撃に動揺する。遺跡を調査して内部の遺物を持ち帰るのを目的とする集団が発掘前に遺跡を破壊するような行動に出るとは誰が想像出来ようか。


「みんな、いる!? 聞こえたら返事して!」


 敵の存在がここまであからさまになった以上、レイアは秘密裏に脱出出来る可能性を切り捨て、大声で仲間に呼びかける。


「レーーか! 一体ーがあっー!? このーーはーんだ!?」

「帝国の奴らよ! ヤバいやつが来てる!」


 返事と思わしき声が聞こえてくるが断続的に続く衝撃のせいか、一部しか聞き取れない。無駄かもしれないと思いながらもレイアは大声で敵の事を伝える。それ以上悠長に考えている暇もなく走り出した。

 先程まで仲間の騒ぎ声が聞こえていたのでそれほど離れた場所ではなく、少し先に灯りがあるのが見て取れる。そこに仲間達がいると当たりをつけ、レイアは走る速度を上げる。



「くっ遅かったか!?」

「なんだっ!? どうなってやがるんだよ!?」

「ジュナスの馬鹿! 今、一体なにやった!?」


 もう少しで広間への入り口というところで、その広間から強烈な光と共に切羽詰まったような仲間たちの声が聞こえてきた。


「ちょっと、どうしたの!?」


 あまり聞いたことの無い仲間たちの声にレイアは慌てて広間に飛び込むが、まだ強烈な発光は続いており事態を把握することは無理だった。何があったか確認するには光が収まるのを待つしかない。

 レイアはそう判断し、広間から飛び出す。そして鞄からマントを取り出し強烈な光を遮った。


「ハルアード、ジュナス、マルス、大丈夫なの!?」


 仲間たちに呼びかけるが返答はなく、焦る気持ちを抑えながら発光が収まるのを待っていた。仲があまり良くない二人がいるが、決して三人とも弱くはない。その三人が同時に巻き込まれた異常事態を前に、緊張感が高まっていく。レイアには未だに断続的に続く振動にも神経を削られながら、事態が収まるのを待つことしか出来なかった。



 実際にはどの程度の時間が経ったか分からない。レイアの体感時間的には非常に長かった発光がようやく収まったのを確認して、息を呑みながらマントを仕舞いつつ広間へと足を踏み入れた。


 そこには古代の物とは思えないほど綺麗で、よく分からない素材で作られたの広間。

 その中でも特に異質な光景がレイアの視界に入る。他のものと見比べて妙に奇麗で浮いた存在感を示す、明らかに特別な部屋のものだと思われる入口が開いていた。広間とその部屋の間にある壁は、透き通った素材で出来ていて部屋の内部が僅かだが見て取れる。だが、そこからは部屋の内部を全て見る事は出来なかった。


 仲間達の姿は手前の広間には見当たらず、あからさまに怪しい部屋への入口が一つ。レイアは警戒心を最大限に高めながら、部屋の中へと歩みを進めていく。



 その異質な部屋の内壁は先程部屋とはまた違う見た事もない材質で出来ていた。あまり広くはないが、中央には何かの台座とその近くにくすんで少し砕けた宝珠のような物が転がっているのが目に入る。こちらの部屋側から見ると先程の透き通っていた壁は透き通っては見えず、他の壁と同じようにしか見えなかった。


 広間側からは見えなかった床にはレイアの身の丈程はありそうな控えめな装飾の無骨な黒塗りの大振りの両刃の剣と、左手分だけの大きめのサイズの赤褐色の籠手が転がっていた。


 そしてその横にはレイアの仲間の一人である大柄で筋肉質の男、ジュナス・アジュールが倒れていた。意識は失っているが呼吸はしている様子を確認し、レイアは少し安堵した。だが、他の二人の姿が見つからない状況ではまだ安心する訳にもいかなかった。


「ジュナス、起きて! 一体何があったの!?」


 本来なら自然に起きるのを待ちたいところだったが、事態が何一つ分からない以上は現場にいた人間に状況の説明を求めるしかなかった。

 幸いな事にレイアの呼びかけによってすぐにジュナスは意識を取り戻していく。


「……レイアさん? あれ、これどういう状況?」

「それは私が聞きたいんだけど……ちょっと不味いことになったからこっちに来たんだけど、一体何があったの? ハルアードとマルスはどこ?」

「……レイアさん、ハルアードは俺だって。冗談でもあんな脳筋バカと間違えないでよ! あのバカが余計な事したせいで変な光が……!」

「えっ?」


 そのジュナスの苛立ちながら悪態をつく言葉を聞き、レイアは酷く困惑して間抜けな声が出ていた。レイアの目に映るその姿はどこからどう見てもジュナスであり、どこをどう見間違えたとしてもハルアードには見えなかった。


「……どういうこと? どこからどう見てもジュナスじゃない!?」

「……えっ?」


 レイアのその言葉に間抜けな声を上げたのはジュナスであった。何を言われているのかがいまいち理解出来ずにいるのか、呆然としている。


「さっきからレイアさんは何を言ってるの? どうしてあのバカと間違えーーーー」


 そう言いながら立ち上がろうとした時、不意に言葉が途切れる。自身の体に違和感を覚えたのか何かを確かめるように、喉を押さえ、手を眺め、足を眺め、全身を自身の手で触れて、やがてその手が止まる。


「何これ!? どうなってんの!?」

「……それは私が聞きたいわよ」


 酷く困惑した様子で思わず叫んだジュナス(?)と、訳が分からない状況につい遠い目をしてしまうレイアだった。


 二人が落ち着くまでに少しの間が必要となった。敵が迫っている上に未だ断続的に振動は続いている。急がなければならないが、こちらもまた異常事態のようでそう簡単には撤退はさせてもらえないらしい。


「それで、結局どういう事なのよ?」

「……俺にもなにがなんだか。自分がハルアードっていう自覚はあるけど、体はこんなだし」

「私の目が狂っていなければ、どう見てもジュナスよね? それがハルアードと自覚? 幻惑系の魔術かしら……それとも……」


 レイアはブツブツと呟きながら思考の海へと沈んでいく。

 頭を抱えてしまいたくなる状況であるが、ジュナス(?)はとりあえず深呼吸し、状況の把握に務める事にした。

 まずは周囲を見回し、先程までとの差異を探す。部屋そのものに変化はない。台座の上の水晶の色が変わっている。部屋に入るまでは無かったはずの四つの魔石が埋め込まれている以外は特に装飾の類の無い無骨な黒い大剣、そして片手分だけの少し大きめの赤銅色の籠手。そして先程まで一緒にいたはずの姿が見えない仲間二人。


「あの、レイアさん。いくつか気にーー」


「あーくっそ、一体何がどうなった!?」


 ジュナス(?)が気付いた変化をレイアに伝えようとした時、不意に声が聞こえてきた。

 その声を聞いたレイアとジュナスは目を見合わせ、頷いた。聞き間違いではなく今のはハルアードの声だ。二人は周囲を見回すがやはり人影は見当たらない。


「ハルアード、どこにいるの!?」

「姐さんか!? てかなんでハル坊!? って、あれ、俺どうなってんだ!?」


 レイアの呼びかけに答える声ははっきりと返って来たものの、どうもこちらの様子もおかしい。ハルアードの声ではあるが、ハルアードはレイアの事を姐さんとは呼ばない。


「……ほんとどうなってんだ? 体がちっとも動かねぇ……なんか目もおかしいしよ……」


カタッカタカタ、カタッ


 その声が聞こえてくる方と同じ方向から何か物音も聞こえてくる。レイアとジュナス(?)の視線がその物音がしている方へと向いていく。

 そこには無造作に転がっている赤銅色の籠手があった。


「あれ? 姐さん、身長伸びた? てかなんで俺がそこに……って、ええっ!!」

「もう、本当にどうなってるのかしらね……」

「俺、やっぱりジュナスの姿なんだ……」


 その困惑したハルアードの声は、どうやらその籠手から発せられているので間違いはなさそうだった。

 異常に次ぐ異常に三者三様に困惑と戸惑いと色々と整理しきれない感情に押し流されていく。そんな時、聞き慣れたもう一人の声が聞こえてきた。


「三人とも、少し落ち着け。混乱するのも無理はないが、状況を整理するぞ」


 聞き慣れた彼らの中で普段は冷静なマルスの頼もしい声。ただし、姿は見当たらない。嫌な予感を覚えつつも、レイアは問いかける。


「マルスなの?」

「あぁ、そうだ。どうもおかしな事になったようだな」


 黒い大剣に問いかけたその言葉を肯定するように、まさしく大剣から返事が聞こえてきた。その状況にレイアは盛大にため息をつき、大きく息を吸い込んだ。


「一体、何がどうなってんのよー!?」


 何があったのか分からないどころか更なる異常を突き付けられ、レイアの自制心を超えたのか、必要以上の大きな叫び声が遺跡中に響き渡っていた。

 いつの間にか収まった振動に気付いた者は彼らの中にはまだいない。




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