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大2

 気がつくとそこは小屋の中のようであった。外は雪の降り積もる冬のはずであるのに、感じたことのない生温い空気が肌をでた。

「な、なんでぇこいつぁ。一体俺は……げぇっ!」

 驚きつつも足元を確認した俺は嫌なものを見ちまった。


 糞の詰まった穴に片足突っ込んでやがる……。なんでこんなことに? いやいや、そんなことを考えるのは後でいい! 右足を引き抜き、小屋を出る。するとちょいと離れたところに、こっちを驚いた顔で凝視する大男がいやがった。

「な、なんでぇてめえは!」

「は……? 出し切ってねぇと思って、すぐ戻ってきたのになんで先客がいやがんだ?」

「なに訳わかんねぇこと言ってやがる! こっちが聞いてることに答えやがれ! てめぇは何者だ!?」


 大男は心底不思議そうな顔を続けながらも、勢いに押されたのか答え始めた。

「ワシは……龍造寺隆信ぞ」

「あぁん? 聞いたことねぇぞ! どこのどいつだってんだ」

「ああ……最近では名前よりあだ名で呼ばれることが多いか。みな、ワシを肥前の熊などと呼んでおるよ。疑心暗鬼の熊と……」

「クマだとぉ?」

 クマ、クマ。 なんだったか、聞いたことがある。

 確か、和人共は我らのカムイ(神)を熊と呼んでいたのではなかったか? ……なんだと?!

「きっ、貴様がカムイだと言うのか?!」

「カムイ? ワシは熊と言うたんだが」

「それだ! クマっちゅうんは俺らのカムイのことだ!」

「ふむ? ならばワシは肥前のカムイということになるのう」


 言われてみればこの大男、見事な体躯はもちろんのこと、全身毛深く恐ろしい形相はまるでカムイが人の姿をして現れたかの様であった。


「なんと……まさか本当に? 俺はルコロカムイ(神の路)を通って、カムイの世界に来ちまったってのか?」

 俄かに信じがたいことであり独り言を呟いたが、しかし他に考えようもなかった。この暖かい空気、これは今まで居た世界じゃあねえ。小屋の外にも雪ひとつ降ってねぇし……。


「世界に来たじゃと? ルコロカムイってぇのはなんだい?」

「あ、ああ説明させてくれ、いや。説明させて頂きやす、カムイ様」


 そして四半刻(30分)ほども一方的に俺が居た世界のことなどを話した。まず、雪が一年のほとんど降るような土地であること、穴を掘ってそこを便所に使っていること、溜まったらどんどん次の穴を掘ることからアシンル(新しい路)と呼んでいること。

 アイヌはあらゆるものに宿る数多の神を信じていること、アシンルも例外ではなくルコロカムイ(神の路)と呼んでいること。そして、熊こそ我らのカムイであること。


「お、おう。そうなのか? ワシの知らぬ内に、そなたらはワシを信じてくれていたと?」

「そうなのです! 毎年、カムイの為に何人もの戦士が命を落としてきました。それが今、ようやく報われたのです!」

 事実、イオマンテ(祭事)のためのカムイ(熊)狩りでは何人もの勇敢な戦士が死んでいる。


「なんと……ワシの為に命を投げ打って戦っておったというのか。そうか……土橋らのはかりごとで肥前を追われたワシの為に。ならば必ずや肥前を奪還し、その声に応えねばなるまい」

 うむ。と一人でなにやら沈んだり決心したりと忙しいカムイがこちらを向いた。

「そなた、首長だと言うておったな。兵をどれだけ集められる?」


 まさかッ、カムイの役に立てるというのか?!

「すぐにでも1千の戦士を! 一月を頂けるならば俺の力が及ぶ村々に号令を発し、5千の戦士を集めて御覧に入れます!!」


「5千だと! 一月で5千と言うたのか?!」

「はっ、はい! 俺如きではそれだけしか……」

「それだけあれば充分じゃ!! 必ずや肥前を取り返し、名実共に肥前のカムイと呼ばせてやるけぇのお!!」


 俺と肥前のカムイの出会いは不思議なものだった。敵に住処すみかを追われてしまっていた神は手先となって戦う戦士を求めていたが中々集まらずに諦めかけていた。そこに俺が来たのだという。 


 ならば全ての戦士を集め、最後の一人になろうとも神の名の下に戦ってみせる。


 これは……聖戦だ!!

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