Out grow
部活の演劇に使った脚本です。
想定上演時間30~40分程度。
人、設備等が少なくて済むように設計されています。
登場人物
男子
キョウ …… 主人公。勉強や運動は『そこそこ』優秀で、若干周りを見下し気味。
しかし人より飛び抜けてできることや、やりたいことがないため、
自分より劣っているのに輝いている人を密かに妬んでいる。
カズキ …… 小説を書くのが大好き。他人から何を言われても動じず、小説家になる
という夢の実現のために日々努力し続ける。
モブ二名ほど。
女子
アスカ …… 優秀なのに、言訳ばかりで何もしようとしないキョウに苛立ちを覚えている。バンドをやっている。
モモカ …… 気弱でトロいが、手先が器用。父親の会社を継ぐという夢を持っている。キョウを昔からずっと尊敬し続けている。
あらすじ …… 自分よりも劣っているはずの周囲の人間が、自分から何かをしようとしたり、夢を追いかけている姿を見て、冷めたフリをしながらも思い悩むキョウの青春系成長物語。
必要な小道具
・携帯 (・ストラップ) ・弁当箱、弁当箱入れ
・ペットボトル
1(教室。カズキ以外座ってる状態から)
アスカ 「やーっと、終わったー! やった、やぁったー!」
キョウ 「おいおいアスカ。今日は最後のテストが返却されただけで、別にテスト自体はも
う終わってるだろ? そんな大げさに言うことか?」
アスカ 「解ってないわねー。最後のテストが返される。私が笑っている。それがどういうことか……キョウなら解るでしょ?」
キョウ 「解らん」
アスカ 「なーんーでーよー!」(地団駄を踏む)
モモカ 「(袖から登場しつつ)もしかして、赤点なかった、とか?」
(二人、モモカの方を見る)
アスカ 「流石モモカ! そう、お二人ともよく聞きなさい! 私、アスカは、今回の中間
テストにおいて、赤点をひとっつも取りませんでした!(ドヤ顔」
キョウ 「……へぇ」
アスカ 「何よ、反応薄いわねー」
モモカ 「えっと、キョウ君はどうだったの?」
キョウ 「俺? まぁ俺は……いつも通り。一桁に入れたらいいかな、くらい」
アスカ 「へぇ、やっぱ凄いんだねー」
キョウ 「中途半端に、な」
モモカ 「そうだよ! キョウ君はいつもすごいんだ。中学のときなんて……」
キョウ 「おいモモカ、止めろって」
モモカ 「あ、ごめん……」
アスカ 「?」
(カズキ、勢いよく登場してキョウの肩を突き飛ばす)
カズキ 「おーっすお前らー! お前ら俺の小説読みたいか? 読みたいよな?
読みたいだろ? 読みたいのか! そっかーなら仕方ない! 特別に
本日限りの大公開だー! いぇーいパチパチパチー!」
キョウ 「いてて……急に入ってくんなよ……」
モモカ 「あれ、カズキ君、もう完成したんだ?」
カズキ 「そう! 稀代の天才新時代的若手作家! 候補のこの俺の作品が、またしても
この世に生を受けてしまったのだ!」
モモカ 「わぁ! うん、是非読ませてよ!」
アスカ 「私も読みたい読みたい! ねぇねぇ、今度はどんな話?」
キョウ 「確か、テスト前からずっと書いてたヤツだよな? 完成したんだ。
よかったじゃん」
カズキ 「ふっはっはっは。まぁまぁ落ち着け。印刷した原稿は一冊しかないんだ。誰から
読ませてやろうかなぁ……キョウ、たまにはお前が一番に……」
キョウ 「いや、俺は別にいいよ……それよりカズキ、お前はテストどうだったんだ?」
カズキ 「おいおいキョウ。このカズキ様がテストなんてものに翻弄されると思っているの
か? それは心外だ。この天才新時代的若手作家、の候補であるこの俺を以てすれば、テストなぞ簡単に!(決めポーズ」
アスカ 「簡単に?」
カズキ 「……(少しずつ顔だけ逸らす)」
モモカ 「あ、黙った」
キョウ 「再試に補習に……次の作品とやらはまだしばらく先みたいだな」
カズキ 「いいんだよ! 今回の作品を投稿したらしばらくはコンテストないんだから!」
アスカ 「あれ。またコンテスト出すことにしたんだ? 『今の自分の作品を出すのは、審査員の方にも失礼だ』とか言ってたのに……」
カズキ 「それは昔の弱かった俺の話! ただの天才新時代的若手作家候補であった俺は、真なる天才新時代的若手作家候補として生まれ変わったのだァ! ふふふ、今回のは今までにないほどの自信作……読んでくれた審査員の方を損なんかさせないぜ」
キョウ 「ま、テストを犠牲にしたほどの作品だもんな」
カズキ 「茶化すな!」
モモカ 「あっ……! そうだ、そろそろ行かなきゃ……」
キョウ 「ん? モモカ、何か用事か?」
モモカ 「うん。今日、お父さんの会社で資格の勉強会があるんだ。この歳で受かる資格じゃないらしいけど……勉強だけはしておきたいから。そういう訳で、カズキ君の
新作、明日読ませてもらえるかな?」
カズキ 「おう勿論だ! ばっちり何度でも読ませてやるから、モモカもばっちり勉強して
こい!」
モモカ 「ありがとう、それじゃお先に」
アスカ 「モモカ、じゃあねー。新作はお先にー」
モモカ 「うん、バイバーイ」
カズキ 「さーて、じゃ、この俺様の最新作、試読会と行こうぜー!」
アスカ 「オー!」
キョウ 「はいはい」
2(教室)(カズキ弁当箱持参)
モモカ 「――よし、できた。はいどうぞ(アスカに携帯を渡す)」
アスカ 「わぁ、ありがとう。スマートフォンって、ストラップつけ辛くて困るわよねー」
キョウ 「いやー、モモカって本当手先器用だよなー(腕を組みながら)」
モモカ 「あはは、ちょっとしたコツがあるんだよ(照れながら)」
アスカ 「いいなー、手先器用なのって。憧れるなぁ……」
モモカ 「アスカだって、楽器弾けるじゃない。私なんてリコーダーもうまく吹けないのに」
キョウ 「そういえばそうだったなぁ……よかったな、この学校は音楽が一年生だけで」
モモカ 「あはは、本当だよ」
アスカ 「あーそうそう。楽器と言えばさぁ、二人とも、楽器やってる知り合い、私の他に
居たりしない?」
モモカ 「楽器? うーん、吹奏楽部の子なら居るけど……どうして?」
アスカ 「あー、それじゃダメだなぁ。っていうのもね。実は、そのー……バンド組もうか
なぁって思っててさ。でも中々上手くいかなくてね」
キョウ 「へぇ、大変そうだなぁ」
アスカ 「そうよー、めっちゃくちゃ大変なんだから! 『ボーカル志望!』なーんて言ってる人なら居るんだけど、ボーカルだけ集めたらアカペラ軍団だし。丁度良くメンバー集めるのに、後何ヶ月かかるやら……ま、そんなこと言っても、なーんにも解決しないんだけど」
キョウ 「ふぅん……」
カズキ 「おーっす、あれ、もう飯食い終わっちゃった感じ?」
アスカ 「残念でした。授業早く終わったからね」
カズキ 「嘘だろー!? 他のクラスまで来て一人で弁当食うって、俺どんだけ変な人だよ!」
キョウ 「言うまでもなく変な奴だろ……」
モモカ 「変な人だしねぇ……」
アスカ 「よっ、変な人のパイオニア」
(カズキ、何か言われる度に面白いポーズ)
カズキ 「……お前ら、お前らがもし将来路頭に困って、俺がプロになって超金持ちになってたとしても、金はあんまり貸さないからな……」
アスカ 「あ、ねぇカズキ。楽器やってる知り合いとか居ない? バンド組もうと思ってるんだけど、メンバー見つからなくて」
カズキ 「散々言った後によくそんな……まぁいいや。うーん、まぁウチのクラスに何人か居るかもなぁ。今度訊いてみるよ」
アスカ 「ほんと? ありがとー! さっすがカズキ! 有能先鋭的ルーキー小説家候補様は違うなー。アンタの小説、入選できるように祈ってあげるね!」
カズキ 「天才新時代的若手作家の候補! 調子良いヤツだなぁ、ったく」
モモカ 「あはは、二人とも頑張ってね。小説にバンドに……なんか、物語の主人公みたい」
カズキ 「だっろー? 俺は新時代を切り開く者だからな!」
アスカ 「アンタも調子良いじゃないの!」
カズキ 「モモカだって頑張ってるだろー? すっげー資格取るための勉強してんじゃん」
モモカ 「うーん、受かるかは解らないけどね」
キョウ 「……なんか、皆色々頑張ってんだな」
カズキ 「まぁ、俺の場合は才能に恵まれた者の義務、って感じだけどな!」
キョウ 「本当調子良いなぁお前……」
カズキ 「さーて、やっぱ俺教室帰って飯食うわ。アスカの頼まれ事もしなきゃだしな」
アスカ 「よっろしくー!」
(カズキはける)
モブ 「モモカー、面談、モモカの番だよー」
モモカ 「あ、はーい! 今行く! あー、変なこと言われないといいな。行ってきます」
(モモカはける)
アスカ 「行ってらっしゃーい。そういえば、キョウはもう面談受けたんだっけ? どうだった? ……って言っても、アンタのことだし悪いことは言われないか」
キョウ 「まぁ、今の成績で行ける大学とか、そんな話」
アスカ 「あー、私怒られちゃうかなー。あ、でも赤点なかったし今回は大丈夫かも! うーん、でも順位自体は上がってないし……」
キョウ 「――ま、まぁ、頑張れ」
アスカ 「あーぁ、成績良いって羨ましいなぁ」
キョウ 「逆に言えば成績くらいしか良いのないってことだよ。就職とかの面接、何言えばいいんだか」
アスカ 「今から何か趣味始めればいいんじゃない? なんかあるでしょ」
キョウ 「なんかってなんだよ……無いよ、何も」
アスカ 「何にもないってことないでしょー。ほら、カズキみたいに小説書いたり、あ、楽器とか……」
キョウ 「……もういいだろ、この話」
アスカ 「あ、う、うん……ごめん」
キョウ 「別に謝ることじゃないだろ。自分の心配しとけって」
(気を取り直すように、冗談混じり)
アスカ 「思い出させないでよー! あーぁ。目が覚めたら成績トップになっててバンドも
色々上手くいってたりしないかなぁ……」
キョウ 「現実を見ろ」
(アスカ、肩を落として暗転)
3(下校前。全員カバン所持)
先生 「さて、もうすぐテスト期間だな。勉強を始めるのに早すぎるなんてことないから、早めに準備しとけよ。はい、じゃあ今日はこれで終わり。来週も元気に学校来いよー」
(三人、教科書をカバンに入れるなど帰宅準備)
モモカ 「アスカ、キョウ君、帰ろう?」
アスカ 「帰ろう帰ろう。あーぁ、もうすぐテスト期間かー。この前終わったばっかだと思ってたのに、本当にあっという間」
キョウ 「ついこの間、赤点なかった! とか言って騒いでたのにな。今回でまた落ちたりしないようにな」
モモカ 「あはは。アスカなら大丈夫だよ、きっと」
アスカ 「あーもー。ライブ終わったら、即勉強地獄だー!」
キョウ 「……え、ライブ?」
モモカ 「そういえば、バンドメンバー揃ったって言ってたもんね。ライブ、とうとうやるんだ?」
アスカ 「ふふふ、そうなのよ! さっきの休み時間、メンバーから連絡あってね。丁度新人バンド募集してるライブがあったって!」
モモカ 「へぇー、すっごーい! 頑張ってね!」
(カズキ駆け込んでくる)
カズキ 「おーいおいおいおい! 聞いてくれ、聞いてくれよおい!」
アスカ 「カズキ、いつも走って出てくるわねー」
キョウ 「また『天才なんちゃら的なんちゃら』か?」
カズキ 「天才新時代的若手作家! の、候補だ! じゃなくて、そんなことじゃないんだ!」
アスカ 「え、何? 遂に秀才改革的新人作家候補、の候補が取れるとか!」
キョウ 「いや、流石にそれはないだろー(若干バカにするように)」
カズキ 「そう、そうなんだよ!」
(キョウ、アスカが驚いた声を上げる)
カズキ 「いや、正確には、っていうか全然まだまだなんだけど! この前投稿したヤツ、一次選考通過したらしいんだよ!」
アスカ 「え、ウソ! 凄―い、やっぱり、自信作って言ってただけあるわね!」
カズキ 「ホント、こんなの初めてで、うれしすぎて、どういう反応すればいいのかわからねぇ……っていうかいつものキャラが保てない……」
キョウ 「キャラって……」
モモカ 「でも、本当に凄いね。お祝いしなきゃ」
カズキ 「いいよそんなの。まだ一次選考通過した、ってだけで賞取ったわけじゃないし」
モモカ 「ほら、ついでにアスカの初ライブの成功を祈ってさ」
カズキ 「え、初ライブ? アスカ、ライブすんの?」
アスカ 「そうそう。丁度テスト期間の直前。他のバンドさんと合同でね」
カズキ 「へー、マジかぁ……」
モモカ 「よし、じゃあ今日は二人のお祝いで決定だね」
アスカ 「じゃあ何処行こうか? 私、クレープ食べたいなー」
カズキ 「クレープかー、こんなときじゃないと食べる機会ないし、いいな、それ!」
モモカ 「じゃあ、放課後ね。クレープか、久しぶりだなー」
キョウ 「……悪い、俺今日ちょっと急ぎだから。先帰るわ」
(キョウ、気まずそうに退場)
モモカ 「あ、キョウ君……! ごめん、二人共。お祝い、また今度でいいかな?」
カズキ 「え、あ、おう……」
モモカ 「じゃあね二人共! 来週、クレープ奢るね!」
(モモカ、キョウを追いかけるように退場)
カズキ 「お、おー……じゃあなー……(遠くに手を振りながら」
アスカ 「……どうしよっか」
カズキ 「どうするもなにも……帰ろうぜ。二人でクレープっていうのも何かアレだし。それに、今からならまだ追いつけるだろ」
アスカ 「追いかけちゃっていいのかな……なんか、キョウ様子変だったじゃん」
カズキ 「そう……だった、か?」
アスカ 「カズキ、作家志望でその鈍さはマズくない?」
カズキ 「うるさい! 独自のセンスで売っていくスタイルなんだよ! ……でも、様子が変って、どんな感じだったんだよ」
アスカ 「そりゃあ、細かいことは解らないけど……悩みがあるとかかな?」
カズキ 「悩み? キョウが悩むなんてこと、あるのか?」
アスカ 「そりゃあるでしょ。前だって……」
カズキ 「(ちょっと間を空けて)……『前だって』?」
アスカ 「……ごめん、やっぱなんでもない。まぁとにかく! キョウのことはモモカに任せようってこと!」
カズキ 「んー、まぁ、そうだなぁ。付き合いの長さじゃ敵わないし」
アスカ 「そうそう。それに、モモカって結構人の悩みとか見抜くの得意だし。キョウのこともちゃんと解ってあげられるんじゃないかな?」
カズキ 「へぇ、意外。何? 実体験?」
アスカ 「……まぁ、ね」
カズキ 「え、嘘マジか」
アスカ 「いつだったかなー、私が一人で楽器弾いてた頃でさ。突然『どうしたの?』って声掛けられて。私、全然暗い顔してた自覚とかなかったのに。でも、モモカはなーんか見抜いたみたいで」
(カズキ、興味深そうに頷く)
アスカ 「私もビックリしちゃって。『一人で楽器弾いてるだけじゃ将来何にもならないなーって思っちゃって』みたいな話をして、さ」
カズキ 「あ、それで、バンド組もうと思ったとか?」
アスカ 「先に言わないでよ。まぁ、そうなんだけど。モモカね、私の話聞いて、『何にもならなくていいんじゃないかなぁ』って言ったの」
カズキ 「え? 逆に?」
アスカ 「茶々入れない。続きがあるのよ。『友達と一緒に遊ぶとき、将来のことなんて考えないでしょ。でも、意味はちゃんとあるでしょ』って」
カズキ 「……成る程」
アスカ 「それで、私も単純だからね。なんか、馬鹿らしくなっちゃって。どうせ何もならないなら、いっそ本気で何にもならないことをしたいじゃない?」
カズキ 「そういう風に考えられるのは……なんか、アスカの良い所だよな」
アスカ 「え、カズキ今私の事褒めた?」
カズキ 「拾う所そこかよ!」
アスカ 「ま、そんな訳でキョウの事もモモカが何とかしてくれるってことで! 売店行こう! カズキの奢りね!」
カズキ 「ま、待て待て! なんで奢ることになってんの俺!」
アスカ 「私の事褒めてくれたでしょ? だから奢り!」
カズキ 「いくら天才新時代的若手作家候補の俺でもその斬新さは解らないから!」
アスカ 「ほら早く行くよー!」
(歩いてはけながら暗転)
4(背景なし、キョウ板付き、モモカ明転入り)
モモカ 「バス、行っちゃったみたいだね」
キョウ 「……なんで追いかけてきたんだよ。お祝い、行くんじゃなかったのか?」
モモカ 「んー、それは来週でいいかなって。私も、早めに帰りたかったし」
キョウ 「あっそ」
モモカ 「そっか。それにしても、二人とも凄いよね。ライブとか、コンテストとか……なんか、物語の主人公みたい」
キョウ 「主人公かぁ……」
モモカ 「なんちゃって」
キョウ 「っていうか、俺から見れば、モモカだってあいつ等と一緒だよ。何もしなくてもお父さんの会社入れるっていうのに、今から資格の勉強したり……」
モモカ 「あはは、ただコネ入社して何の役にも立たないんじゃ、意味ないもん。お父さみ
たいになるのが夢……って、変な夢かもしれないけど」
キョウ 「そんなことねぇよ。俺なんて……」
モモカ 「キョウ君の方がずっとすごいよ」
キョウ 「え?」
モモカ 「中学の時から人気者でさ。体育祭のときとか、すっごく盛り上げてくれて……
先生相手にも全然怯まずに、皆の意見を代表して言ってくれて……凄く恰好よかったなぁ」
キョウ 「別に……それはなんか、反抗期の延長みたいなもんだったし」
モモカ 「頭も良くてさ。この学校もほとんど勉強しないで合格してたじゃん」
キョウ 「そんなの、中学までだよ」
モモカ 「そんなことないって。キョウ君は、ずっと私の憧れだったんだから」
キョウ 「やめろよ(強めに)」
(若干の沈黙)
キョウ 「……俺は、お前らとは違うんだよ。確かに俺は、中学までは、自分で言うのもなんだけど、それなりに優秀だった。でも、この学校に来てるのは皆、そういうヤツらばっかりでさ」
モモカ 「でも、席次も結構上の方だし……」
キョウ 「上の方、程度じゃ何の意味もないだろ! 一位とか二位の奴は、元から頭が良い上に、授業も真面目に受けて、家でも勉強して……そういう風に努力できた奴だよ。だから皆に凄いって言われたり尊敬されるんだ。中途半端に勉強して、中途半端に怠けて、中途半端な順位取って……俺に、凄いなんて言われる資格はねぇんだよ!」
モモカ 「……(何を言うべきか迷うように)」
キョウ 「あのさ。俺って何もできないわけ。アスカみたいに楽器もできないし、必死になってメンバー探しとかもできない。カズキみたいに、他人からバカにされるような夢をまっすぐ追いかけられるわけでもない。モモカみたいに、憧れも持ってないし、そもそも自分のしたいことも見つけられない」
モモカ 「そ、そんなの、まだ高校生だから仕方ないって」
キョウ 「そうやって!」
(モモカ、キョウの大声に驚く)
キョウ 「そうやって、大丈夫とか、仕方ないとか、俺は凄いとか! 言ってくれるせいでさぁ! 俺、勘違いしちゃうだろ! このままでいいんだ、わざわざ頑張ろうとしなくていいんだ、なんてバカなことを信じ始めちゃうだろ!」
(キョウ、顔を隠しながらしゃがむ)
キョウ 「……本当はさ、別に。お前らが楽しそうに、嬉しそうに話してるからさ……聞いてられなくなったんだよ(先ほどより静かに」
モモカ 「聞いてられないって、どういうこと?」
キョウ 「皆、自分のしたいことを信じてやってきて、それが報われて……そういうの聞いてると、俺だけ何してるんだ、って気分になって……いや、モモカには、お前らにはわからないことだよ」
モモカ 「……ごめん」
(キョウとモモカ、お互い顔を気まずそうに反対側を向いて暗転)
5 (アスカとキョウはカバン所持。それぞれ入り次第自分の机に置く)
アスカ 「モモカおはよー!」
モモカ 「あ、アスカ……おはよう」
アスカ 「あれ? まだキョウ来てないんだ。珍しいね」
モモカ 「うん……先週、ちょっと変な事言っちゃって。だから、気まずくて別々に来ちゃったんだ」
アスカ 「モモカとキョウが喧嘩ァ? 確かに先週キョウの様子変だったけど……本当に珍しいね。何があったの?」
モモカ 「あはは。うーん、なんていうか……『自分には皆と違って何もない』みたいなこと、言ってて。そんなことない、キョウ君は凄いよ、って言ったんだけど、逆効果だったみたいで」
アスカ 「それ、私もキョウから聞いた! ……でも、そっか。あのときは流しちゃったけど、結構真剣に考えてたんだ……」
モモカ 「そんなこと全然ないのに、ね。 ……あ、さっき私の言ったこと、誰にも内緒ね! 勿論、キョウ君にも!」
アスカ 「うんうん、解ってる解ってる」
キョウ 「誰に内緒だって?」
アスカ 「キ、キョウ! いつから居たの!」
キョウ 「いや今来たばっかりだけど……何慌ててんだよ。そんなにヤバい話してたのか?」
アスカ 「べ、別に全然そんな……ねぇモモカ?」
モモカ 「う、うん。あはは(苦笑い」
キョウ 「あー……モモカ。先週はごめんな。ちょっとカッとなって」
モモカ 「……うぅん、寧ろこっちがごめん。なんていうか、キョウ君のこと全然解ってあげられなくて……」
キョウ 「いいよ。そういうの、止めとこう」
モモカ 「え? あ、うん……」
(ちょっと変な雰囲気になったところでカズキ突入)
カズキ 「おーっすおはよーう!(元気に) 天才新時代的若手作家候補であるこの俺が朝の挨拶に来てやったぞー!」
アスカ 「カズキ、アンタ……もしかして自分のクラスに友達居ないの?」
カズキ 「違うわ! アスカのライブ、今週末だろ? だからそのときの予定確認しておこうかと思って来たの!」
アスカ 「あー、土曜日の話ね。ライブはちょっと早くて三時からで、 開場は二時から! 私達の出番は多分四時ごろになっちゃうけど、ちゃんと最初から来てね?」
カズキ 「了解! どうする? 会場って駅の近くのあそこだよな」
モモカ 「あ、ねぇカズキ君、私その場所よく解らないんだけど……」
カズキ 「あぁ、じゃあ案内してやるよ! 駅に一旦集合しよう。キョウもそれでいいか?」
キョウ 「……悪い。それなんだけど、さ。俺、行けないわ」
カズキ 「えぇ? マジかよ! 折角アスカの初ライブなんだぜ? ちょっとの用事くらい……」
モモカ 「ま、まぁまぁ」
アスカ 「うーん、用事なら仕方ないわよねー。今度やるときは来てよね!」
キョウ 「……あぁ、そう、だな」
アスカ 「何よ歯切れ悪いわねー?」
キョウ 「俺、先生に用事あるから」
(キョウ、冷たく言い放ってさっさと出ていく)
アスカ 「あれ、行っちゃった。……なんか、まだ機嫌悪い感じ?」
カズキ 「あーそう言えば結局、金曜日はなんでアイツ変だったんだ?」
アスカ 「なんでって……あ、そっか、さっきカズキ聞いてなかったんだっけ」
カズキ 「え、何々!」
アスカ 「モモカ……言っても大丈夫?」
モモカ 「まぁ、カズキ君なら……」
カズキ 「あ、聞いちゃマズい感じだった?」
アスカ 「そうよ、って言っても聞くんでしょ。えっとね、なんか、『自分には何もできない』って悩んでるみたいなんだよね、キョウ」
カズキ 「何にもって……アイツ、頭良いじゃん」
アスカ 「んー、そういうのじゃなくて、趣味らしい趣味っていうか、やりたいことがはっきりとは解らない、って感じだったかな」
カズキ 「やりたいこと、ねぇ……そんなの無くても珍しくないと思うけどなー? 俺が天才ゆえに特別なだけで」
アスカ 「ね。私もそう思うんだけど。贅沢な悩みだっての」
カズキ 「まぁ、ちょーっとプライド高いっていうのもあるかもなぁ」
(この辺りからモモカこっそり離脱してはける)
アスカ 「うーん、逆にさぁ、キョウが何かしたいことを見つけちゃえば全部解決、ってことでしょ?」
カズキ 「いや、そりゃそうだろうけど、そんな簡単に行くか? っていうか、簡単に行かないからこそ悩んでるんじゃ……」
アスカ 「よし、私、後でキョウに話してみる! やりたいこと探してみなよ、って!」
カズキ 「え、マジで?」
アスカ 「マジよ、当たり前でしょ! モモカも一緒に言ってあげようよ! ……って、アレ? モモカ?」
カズキ 「あれ……いつの間にか消えちゃってた?」
アスカ 「キョウのこと悪く言いすぎちゃったかな」
カズキ 「……モモカ、キョウのこと尊敬してるもんな」
アスカ 「はぁ、どうしよう……ただでさえキョウもなんか変な感じなのに、この上モモカとまでぎくしゃくしちゃうなんて……全部キョウがうじうじしてるのが悪いのよ! やっぱり、私がビシっと言ってあげないと!(グッと意思を固めたポーズ」
カズキ 「大丈夫かなぁ……」
6(キョウとモモカ、学生服に着替えて中学時代の演出)
モモカ 「ねぇキョウ君、キョウ君は何処の高校受けるの? やっぱり、進学校?」
キョウ 「おいおいモモカ。俺がそんなつまらない高校に行く訳ないだろ? 普通高校に固執してちゃ、今の時代生きていけないぜ?」
モモカ 「って、ことは?」
キョウ 「そう、高専だよ。お前と一緒だな」
モモカ 「わぁ、本当に? 高校に入ってもキョウ君と一緒なんて」
キョウ 「やめろ、気持ち悪い」
(モブが通りすがる)
モモカ 「あ、今の……」
キョウ 「モモカ、知り合い? 二年だろ?」
モモカ 「キョウ君覚えてないの? 今朝の全校朝会で表彰されてたじゃん」
キョウ 「あー。それ完全に寝てた」
モモカ 「ボランティアを頑張って、市から表彰されたんだって。中学生なのに凄いよね」
キョウ 「ボランティア? どうせそんなの、内申書狙いか、それこそ表彰狙いだろ?(嫌味っぽく)」
モモカ 「そんなことないって。でも、自分で作文コンテストに出したりして表彰される人って、やっぱり凄いよね」
キョウ 「そうかー?」
モモカ 「もちろん、キョウ君も凄いよ。この前のテストも、学年で一桁だったんでしょ?」
キョウ 「まーな。中学程度のテストなら、勉強なんてしなくても余裕だぜ!」
モモカ 「へぇ、やっぱりキョウ君は凄いなぁ」
キョウ 「俺も、表彰とか狙ってみようかなー。テストで一位取っても表彰されるわけじゃないし」
モモカ 「うん、キョウ君ならきっとすぐに表彰されるよ! 楽しみにしてるね!」
キョウ 「さて、どんな賞を取ってやろうかなー!」
7
アナウンス 「ありがとうございましたー!」
(ガヤ)
カズキ 「いやーカッコよかったなー。練習期間そんなになかったはずなのに」
モモカ 「うん、流石アスカって感じ」
アスカ 「本当? ありがとねー」
モモカ 「わっ、アスカ。どうしてここに?」
アスカ 「他のバンドが終わるまで暇なのよ。あー良かった、失敗しなくて」
モモカ 「本当凄かったよ。今度のライブも楽しみ」
カズキ 「そうだな。その時はキョウも……」
(カズキ、ハッとした顔をする。モモカとアスカも気まずそうな顔)
モモカ 「……キョウ君、あの日から、学校終わったらすぐ家に帰るよね」
カズキ 「……昼休みも、弁当持ってどっか行っちまうし。何してるんだろうな? 今日の用事っていうのも、結局何の事なのか教えてくれなかったなー」
アスカ 「まぁ、もういいじゃん! 放っておこう、あんな奴」
(キョウ、顔を隠しながら入場し、捌けようとする)
モモカ 「キョウ!」
アスカ 「キョウ……き、来てたの?」
キョウ 「(バツが悪そうに)……用事が夜からだったんだよ。来ちゃ悪いか」
アスカ 「悪くないけど……っていうか、ありがたいけど」
カズキ 「なんだよー来るなら俺達に連絡してくれればよかったのに! そっちの方が、一緒に見られるし……」
キョウ 「……いいだろ、別に」
アスカ 「ねぇ、この後も他のバンドの演奏あるから、今から皆で聞こうよ!」
カズキ 「お、そうだな! あ、アスカ打ち上げとかある? ないなら、結局今まで行けなかったクレープとかさ」
アスカ 「あ、それいいね、さんせ……」
キョウ 「うるせぇよ!」
アスカ 「……え?」
キョウ 「わざわざ呼び止めたと思ったら、そうやってまたお前らだけで楽しんでるところを俺に見せつけやがって……もう俺に話しかけるな!」
アスカ 「は、はぁ? 何言ってんのよアンタ! だから今、一緒に遊ぼうって話をしてるんじゃない! 勝手な悪意作り出してんじゃないわよ!」
キョウ 「お前らはいいよなぁ! 三人ともそれぞれやりたいことがあって、全員が褒めあって! 気持ちいいか? 気持ちいいよなぁ! だったら俺なんかに構うなよ! それとも、仲間外れの俺を見るのも楽しいってか? そうだよなぁ、俺はお前らと違って、落ちぶれっぱなしのクズだからなぁ!」
モモカ 「キ、キョウ君……ごめん、違うんだ! そんなつもりは、全然……」
キョウ 「お前だってそうだよモモカ! 俺の腰巾着のフリなんてしやがって、本当は裏でバカにしてたんだろ!」
(アスカ、キョウをビンタ)
キョウ 「な、なにすんだよアスカ!」
アスカ 「アンタ、ふざけんのも大概にしなさいよ!」
モモカ 「アスカ、やりすぎだよ!」
アスカ 「モモカは黙ってて! 私とカズキに関しては、とりあえずこの際どうでもいいわ! でもねぇ! モモカがどんだけ、アンタのこと心配してたと思ってんのよ!」
キョウ 「そんなの……フリだけなら誰にでもできるだろ」
アスカ 「アンタねぇ……もう一発叩かなきゃわかんない? ねぇ!」
モモカ 「アスカ、もういいよ」
アスカ 「でも……」
カズキ 「モモカがいいって言ってるんだ、落ち着けアスカ」
キョウ 「はっ、流石作家候補様は違うなぁ。冷静で賢くて、いつものキャラも計算か?」
カズキ 「キョウ、いい加減にしろよ。いつまでそうやってるつもりなんだ」
キョウ 「はぁ? 何のこと言ってるんだよ。俺に何か夢でも見つけろってか? 今まで散々、そんなの無くても珍しくないとか、まだ高校生だからとか言っておきながら、今更俺を追い詰める気か? 勝手も大概にしろよ!」
アスカ 「勝手はどっちよ! 勝手に悩んで、勝手に逃げて……私たち、友達じゃなかったの? どうして相談してくれなかったのよ……」
キョウ 「(少し沈黙してから)……そういうところだよ。そうやって、『できない側』の気持ちを全く解ってない奴に相談したって、意味はないからだ」
カズキ 「はぁ? 解ってない?」
キョウ 「お前らはいいよな。やりたいことが簡単に見つけられて。でもさ、それがどうしてもできない奴だってこの世の中には居るんだよ。そういう気持ち解るか? 解んねぇだろ?」
アスカ 「別に、私たちだって簡単に見つけたわけじゃないわよ! それに、今まで散々チャンスはあったはずなのに、それを掴みに行こうとしなかったのは、アンタ自身でしょ!」
キョウ 「先生はさぁ!」
(キョウ、舞台中心。周りは少し離れる)
キョウ 「学校の先生はさぁ、俺に色んなことを教えてくれたよ。勉強は勿論、受験のコツとか、ちょっとした社会の厳しさとか……でもさぁ!」
(キョウ、ここから泣き気味)
キョウ 「夢の見つけ方なんて、好きなことに打ち込む方法なんて、全っ然教えてくれなかったんだよ!」
アスカ 「キョウ……」
キョウ 「なのにさ、何だよ。みんな、当たり前みたいに好きな事見つけて、本気になって……バカにしてた筈なのに、気づいたら俺の方がバカになってた……そんな気持ち! お前らに解らねぇだろ!」
(言い切ってから間を置く)
キョウ 「……悪い、俺、用事あるから帰る。……もう、俺には話しかけないでくれ」
(キョウ、顔を逸らして帰ろうとする。モモカ、それを後ろから追いかける)
アスカ 「モモカ!」
モモカ 「ねぇ、キョウ君」
キョウ 「……すまんなモモカ。お前が例えフリだけでも尊敬してくれていた俺は、こんなに弱い人間だったんだ。お前の方がよっぽど凄い。俺のことなんて、もう……」
モモカ 「キョウ君は、ずっと恰好いいよ」
キョウ 「え?」
モモカ 「中学のときから、会ったときから。体育祭で皆を引っ張ったときも、先生に堂々と意見を言ってくれたときも。表彰されてた人が本当は羨ましいのに隠していたときも。今だって。ずっと、キョウ君は恰好いい。キョウ君は、私の尊敬する人なの」
キョウ 「は、はぁ……? なんで、なんでそんなこと言ってくれるんだよ……こんな俺を、何でまだかっこいいなんて言うんだよ!」
モモカ 「……キョウ君、最近忙しい理由とか、当ててみていい?」
(キョウ、訝しげな表情)
モモカ 「お勉強、かな?」
(キョウ、少し驚く)
アスカ 「え?」
カズキ 「おいモモカ。キョウがテスト前でもないのに勉強なんて……」
キョウ 「……誰から聞いたんだよ」
カズキ 「え、マジ?」
モモカ 「あはは、先生から聞いたんだ。最近、キョウ君がよく質問に来るって」
キョウ 「で、でも、、だからって俺が勉強の為に早く帰ってるとは限らないだろ?」
モモカ 「うーん、それくらい解るよ。キョウ君のことだもん」
カズキ 「超能力かよ……」
アスカ 「え、ちょ、どういうことよ! モモカ! 置いてけぼりにしないでちゃんと説明して!」
モモカ 「そのまんま。キョウ、この頃ずっと勉強してたんでしょ?」
キョウ 「……別に。何となく、やってみるかって思っただけだよ」
モモカ 「一位、狙ってるんでしょ?(笑顔)」
カズキ 「えぇ!? キ、キョウ。モモカの言ってること、本当なのか?」
キョウ 「そ、そうだよ! モモカの言う通り、俺は一位狙って勉強してんの! 悪いか!」
アスカ 「わ、悪いっていうか、寧ろ……」
カズキ 「う、うん、すげぇじゃんキョウ!」
アスカ 「やりたいこと、見つけられてんじゃん!」
キョウ 「ち、ちげぇよ。寧ろ見つけられないから、じゃあ今何ができるのかって考えて……勉強なら、一応得意だし、それに成績良ければ色んな大学入れるようになるから、好きなことを見つけられるようになるんじゃないかって……」
アスカ 「すっごーい! そんなことまで考えてるなんて!」
カズキ 「そうだよキョウ! 無理に夢とか見つけなくても、そういう風に自分のできることからやっていけば、そうすればその内やりたいことが解るんだよ!」
キョウ 「え……そうなの?」
アスカ 「でも、良かったぁ……キョウが私たちのこと嫌いになったんじゃないかって、私たちと話したくないから早く帰ってるんだって、そう思ってたのに。まさか、勉強してるなんてねー」
キョウ 「まぁ、それもあったけど」
カズキ 「あったのかよ!」
キョウ 「でもやっぱり、俺はこれをやってます、って宣言してやるのが恥ずかしくて……だから、気まずくてさ」
モモカ 「ふふ、ほら、私の言った通りだ」
キョウ 「え? モモカ、俺のこと何か言ってたの?」
アスカ 「さっき言ったでしょ、モモカは凄く心配してたんだって」
モモカ 「そっちじゃなくて。いつも言ってるじゃない。キョウ君は、いつも凄いんだ」
キョウ 「うわ、改めて言われるとすっげー照れる」
アスカ 「ねぇ、一位目指すならさ、私たちも勉強教えてあげるよ! キョウが解らないところが、私は解ればだけど……」
カズキ 「教えられることは……なさそうだな」
アスカ 「お、教えることも勉強よ! ということでキョウ! よろしくお願いします!」
キョウ 「おいおい……まぁ、いいけど(呆れ気味)」
モモカ 「じゃあ、皆で勉強しなきゃね!」
カズキ 「よし、この天才新時代的若手作家候補のこの俺も、その勉強会に参加してやるかー!」
アスカ 「参加させてください、でしょ」
カズキ 「……はい」
アスカ 「あ、いっけない! もうすぐ最後のバンドが終わったみたい! ごめん、片付け行ってくるね!」
(アスカ捌ける)
カズキ 「よし、じゃあ早速、勉強会の計画練ろうぜ!」
モモカ 「うん、場所は学校の学習室として……どれくらいやろうか?」
カズキ 「そうだなぁ……天才新時代的若手作家候補であるこの俺としては、原稿をやる時間も欲しいからー……」
キョウ 「お、おい……(戸惑い気味に)」
カズキ 「ん? なんだよ。やっぱり一人で勉強したいってか?」
キョウ 「いや、そうじゃなくて……いいのか?」
モモカ 「いいのかって、何が?」
キョウ 「だって、俺さっき、お前らのこと散々……バカにしてるんだろとか、俺の気持ち解らないとか、キャラ作りとか……」
カズキ 「はぁ? そんなん、当たり前だろ? 他人なんだから、気持ちなんて解るわけないし……だから、お前もバカにしてると思い込んだわけだろ?」
モモカ 「それに、キャラ作りも本当、と」
カズキ 「余計なこと言わなくていいの!」
キョウ 「でも、あんなこと言われて、ムカつかないのか?」
カズキ 「はぁ? ムカつくに決まってんだろ、何言ってんだよ」
キョウ 「え……じゃ、じゃあどうして?」
カズキ 「そんなの決まってるじゃん、なぁモモカ?」
モモカ 「うん、決まってる決まってる」
キョウ 「な、なんだよ……」
カズキ 「だって俺達、仲間だろ!」
モモカ 「だって私達、仲間でしょ!」
(二人がドヤ顔でハモって暗転)
8(教室、カズキ以外立ってる)
アスカ 「やったーーー! やった、やったぁ!」
カズキ 「どうした、また赤点無しで狂喜乱舞か?」
アスカ 「違うわよ! いやそうだけど! 順位が三つも上がってたの! 真ん中より上! 凄い私、私凄い!」
モモカ 「わー、おめでとう。私も、苦手教科が結構上がってた」
カズキ 「おいおいアスカ。凄いのはキョウだろ。アスカ、結局、一つもキョウに教えられたことなかったじゃねぇか!」
アスカ 「う……い、いいのよ! それよりもキョウ、どうだった!?」
カズキ 「そうだよキョウ! お前、何位だったんだよ!」
(全員でキョウの方を向き、キョウが音を立てて立ち上がる)
キョウ 「ど、どうしよう……」
アスカ 「あ……」
カズキ 「あっちゃー……ま、仕方ねぇよ。いきなり一位なんて」
モモカ 「そ、そうそう、キョウ君なら次もきっと……」
キョウ 「ちげぇよバカ! 俺、俺……」
(アスカ、キョウの成績表を覗き込む)
アスカ 「え、ウソ……」
(次いでモモカ、カズキも慌てて覗き込み、驚く)
アスカ 「アンタ、本当に一位じゃない!」
モモカ 「す、凄ーい! キョウ君、本当に頑張ったんだ!」
アスカ 「勿論、頑張ってたのは私達が一番知ってるけど……」
キョウ 「ど、どうしよう。俺、頑張っちゃった……頑張っちゃったよ、俺!」
アスカ 「頑張っちゃった、ねぇ……」
モモカ 「あはは、私の予言二つ目的中だ」
アスカ 「『キョウがやりたいこと見つけたら、本当に凄い』ってヤツ?」
キョウ 「うわ、モモカそんなことまで言ってたのかよ……」
モモカ 「うん、信じてるからね」
キョウ 「はー、照れるっつーか……お前は昔から変わらないよなー」
モモカ 「えへへ……」
カズキ 「あ、あのぉ……」
アスカ 「え、どうしたのモモカ」
カズキ 「このタイミングで言うのもなんだけどさぁ……」
モモカ 「う、うん」
カズキ 「この前の、一次選考通過したヤツですがぁ……」
キョウ 「そ、それで……?」
カズキ 「無事にぃ……」
キョウ 「お、おぉ!?」
カズキ 「二次選考で……」
アスカ 「早く言いなさいよ!」
カズキ 「落ちました!」
(全員沈黙)
カズキ 「で、でも! 次の作品も、前回に次ぐくらいの大作なんだよ! 今度こそ、天才新時代的若手作家のデビュー作に……!」
アスカ 「あ、そうだ! 次といえば、私もまたライブできそうなの! しかも、今度はもっと凄いライブ!」
モモカ 「次、次かぁ……」
キョウ 「こりゃあ、俺も、次のテスト頑張んなきゃだな」
モモカ 「うん、期待してる! 今度は私も頑張って、二位狙おうかな?」
キョウ 「おいおい、どうせ狙うなら、一位だろ!」
モモカ 「あはは、うん、そうだね!」
カズキ 「おっと、全員また頑張ることいっぱいみたいだな?」
キョウ 「よし、今日は俺のお祝い兼、全員の壮行会だぁ!」
アスカ 「お祝いって、それ自分で言う?」
カズキ 「俺にとっては残念会兼壮行会……? 斬新だ! 流石天才……」
モモカ 「新時代的若手作家、候補だね?」
カズキ 「取られたぁ!」
アスカ 「さ、じゃあ、どこでしよっか? やっぱり、クレープ?」
カズキ 「俺飯がいい!」
モモカ 「あ……ちょ、ちょっといい?」
キョウ 「ん、モモカ、どうした?」
モモカ 「実はさ、最近、もう一つ頑張りたいことができたんだ!」
アスカ 「え、本当? どんなのどんなの?」
モモカ 「あはは、改めて言うと照れるなー」
カズキ 「大丈夫、俺の夢の方が一般的には恥ずかしい」
モモカ 「うーんとねー……」
(モモカ、少しずつ舞台中心前へ。他の三人はそれに注目)
モモカ 「キョウ君に、相応しい女の子になること!(言い切って、キョウの方を向く)」
アスカ 「え、えー!」
(キョウ、驚いた顔。カズキ、茶化すようにキョウをモモカの方に突き飛ばす)
(二人で照れたり、アスカやカズキがひやかしながらエンディング、幕閉じ)