第9話 グランの秘密
その後はシルヴの相手が棄権し、その他に特筆するべき試合も無く、終わった。そして、放課後の校門でグランとストレア、シルヴの三人が帰ろうとしていたところに声をかけてくる者がいた。それは
「あ、あの!」
その声にグランが振り向くとそこにいたのは
「お前は....」
黒髪を下ろし、強気そうだが非常に整った顔を持った少女、椎崎 灰音であった。
「何の用だ?」
グランが問いをかけると、椎崎は非常に戸惑いながら
「えっと、あの、その....」
いつものはっきりとした態度は鳴りを潜め、随分と戸惑いながら話す。そして、その様子を見かね、全ての事情を理解してるストレアが救いの船を出す。
「椎崎さん?僕たちと一緒に帰らない?」
椎崎はそれを聞いた瞬間、華が綻んだような笑顔で
「ええ、お願いするわ!」
と、返すのであった。
帰り道の途中で、
「それでだな、もうあの技をおれが生み出したのはな....」
グランは何度目かもわからない自分の自慢話をしようとしたところで、
「やかましいわ!もう何回その話を、聞いたかわからんわ!」
シルヴがうんざりだと言う風に、話を無理やり切る。ちなみにここまで校門から五分ほど歩いているが、椎崎は一度も話せていない。すると、それを察したという訳でもないがグランが椎崎に声をかける。
「なんで椎崎はおれらと一緒に帰ろうだなんて思ったんだ?」
「え、えーと、それは...」
戸惑う椎崎の心中は
(言えない....今日ストレアと知り合えたからグラン君とも仲良くなれるチャンスだと思ったからなんて言えない)
と、なかなか穏やかでは無く、ここでもまたストレアが助け舟を送る。
「きっと今日のグランの技が気になったんじゃないかな?ね?椎崎さん?」
「え、ええ!そうなの!出来たら私も技の極意を知りたいなぁとか.....」
最後の方は尻すぼみになってしまい、ほとんど聞こえなかったはずだが、グランは
「そうかそうか!いやしかしこの技は俺の奥義だからなぁ....」
などと、さっきまで自信満々に話してたくせに、白々しくも勿体ぶる。それをみたシルヴが呆れたように
「さっきまでその技について語らんでも良いのに語ってたくせにどの口が言うんだか」
すると、場の流れで、勢い余った椎崎が
「私にできることならなんでもするわ!」
などと、言ってしまったためにグランが
「ん?今なんでもするっtt、ブベラ!?」
「何を言っとるんだ貴様は!」
シルヴにカバンで顔面を強打され、椎崎は
「やばい、勢いで言っちゃったけど、グラン君に命令される上にグラン君に2人きりで教えてもらうなんて役得じゃない?」
などと、誰にも聞こえないほどの小声で言った後に、
「いえ、男に二言は無いってやつね!どんな命令でもどんと来い!」
「君は女だろう!?というか、初対面の人にあまり言いたくは無いが、君は実は馬鹿なのか!?」
「いえ、十分に考えて私の利益を追求した結果よ!」
「余計に手に負えんわ!」
シルヴのツッコミが夕焼けの空に響く、それをみたストレアは
「やっぱり、君たち見てるとおもしろいなぁ」
と呟くのだった。
そこからグランと椎崎の話は有耶無耶になり、グランの家の前で
「よし、じゃあな!ストレア、椎崎!」
グランは二人に別れを告げる。ちなみにシルヴの家はグランの家よりも学校に近いため、すでに分かれている。
「うん、じゃあねグラン」
「さよなら、グラン君」
二人が去っていくのを見た後に、グランは家に入り、冷蔵庫の中に入っているチョコレートを取り出し、食べる。そして、
「よし!行くか!」
グランはいつもの特訓場所へと移動するために一枚のタロットカードを取り出す。それに描かれた絵柄は21番目の世界。それを手に持ち、唱える。
「反転する世界」
瞬間、グランの周りの色が一瞬で灰色になり、グランの体が、天井に向かって落ちる。そして、天井に手を当て、逆立ちの姿勢になり、天井を床にして立つ。灰色の世界のありとあらゆるものはすでに朽ち果てている。グランの家だと思われるものはすでに廃墟同然となっており、グランは既に外れている扉から外に出ると、まず横に落ち、空中に浮遊している巨大な瓦礫を足場にして立つ。そこから、その瓦礫の上を歩くと急に瓦礫が地面に落ち、グランの体が地面に落ちる。そして落ちる寸前で地面に手を付き、体勢を戻す。
「ふぅ、毎度毎度めんどくさい世界だな。」
と言いつつも、重力や、建物がおかしな動きをする世界を歩いて行くと、グランがいつも修行をしている、湖の前へとたどり着く、そこはその世界の中では異常なほどに色彩に溢れ、やすらぎの有る空間であった。