第5話 模擬戦闘3
その後、いくつかの試合が終わった後に
「次は俺だな。」
シルヴが立ち上がる。
「お、学年主席のお力見せてもらうぜ?」
グランが茶化すように言うと、ストレアも追従して
「楽しみだなぁ、何秒で終わらせてくれるのかなぁ?」
「貴様ら....まあいい行ってくる。」
シルヴが降りて行った後、
「まあ、正直な話多分20秒もあれば十分だろ」
「僕も彼とは戦いたくないなぁ....本当に」
2人はしみじみと呟いていた。
「よし、では2人ともスタートラインに立って」
「わかりました。」
「はい」
2人がスタートラインに立った時にシルヴの対戦相手が
「勝たせていただきますよ?自分、秘策があるんでね」
「ほう?楽しみにさせてもらおうか」
『カウントダウン開始します。』
カウントダウンが終わった瞬間、
「うおおー!!!」
シルヴの相手が開幕でスタートダッシュをして、突っ込んだ!そしてそれをシルヴはつまらなさそうに、
「それをもしあいつがやって来たのなら俺は負けてたかもしれんが...貴様ごとき、素で十分叩き潰せるわ!」
相手の拳を避け、顔を掴んで地面へと叩きつける。
「ガッ...!..!」
「貴様のそれはただの逃げだ,...それを使うのなら、あいつに勝てるものなどほとんどおらんだろうよ....」
言うと、シルヴは相手を蹴りつけスタートラインまで戻させる。そして、
「召喚獣を出してみろ....いくぞ、オリヴィエ」
シルヴの背後に現れるは、神聖を象ったかのような圧倒的神秘、片手に槍を持ち、鎧を着た女神がそこにいた。
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「相変わらず、とんでもねえな....シルヴの召喚獣....いや、召喚神とでも言えばいいのかねえ...」
「すごい....あれがシルヴの?」
「ああ、ランクG〜SSSまで存在する中のSSランク、戦女神ヴァルキリーだ。」
ここで余談だが、ストレアの召喚獣、黒灰龍はランクB+、グランの召喚獣、イナリこと九尾は実際のランクはS+だが、幼体であるため、ランクGである。また、危険度的にはランクBが一体いた場合、県や都市が一つ潰れると言うのを基準に見てる。これを決めたのは魔獣討伐統括組織の「フィオーナ」である。
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「クソォ....勝てるわけねぇ....審判、棄権します....」
相手が棄権を申し出た瞬間、
「ふざけるなぁ!逃げるのか!」
シルヴが相手を責め立てる。しかし、
「シルヴ、そこまでにしてやれ。」
先生がそれを咎めたため、
「っ....!わかりました....」
渋々という風にシルヴは了承をする。そして、
『片方の棄権が申告されました。試合終了とします。』
シルヴが不満だという表情で、グラン達の元に戻ると、
「別にどうだっていいだろ?あいつ別にズルをしたってわけでもねえし、そもそも取るに足らないってやつじゃねえか」
グランがシルヴのさっきの態度に対し、諭すようにいうと
「ふん、別にムキになってたわけではない。ただ、元から貴様らの挑発で虫の居所が悪かっただけだ。」
「またまたぁ〜」
そこで、ストレアが
「ほらほら、次の試合もあるんだし策でも練ってたらどうなんだい?」
と、問いかけてくると、グランは
「おれの策はもう決まってんのよ。ま、たのしみにしてなって」
不敵に笑いながら言うのであった。
そこから、何試合か行った後に、
「よし、では2週目に入る!ストレア、椎崎、はいれ!」
教師が声をあげる。
「よし、僕の番か。行ってくるよ」
「おう、行ってらっしゃい!」
「相手は椎崎か、お手並み拝見というやつだな。」
シルヴが面白そうにいうと、
「ん?椎崎ってどんな人なの?」
とストレアが問いかけて、
「まあ、それは戦ってからのお楽しみというやつだ。」
シルヴはその問いに対し、はぐらかして答えた。
「よし、では両者スタートラインに立って、準備を。」
「はい」
「わかったわ」
ストレアと、黒い髪を腰の長さ程に下ろした強気そうな少女が答える。その少女に向かってストレアが
「じゃあ、椎崎さん、だっけ?よろしくね。」
と、いうと
「ええ、いい勝負にしましょう?」
と、微笑みながら返してくる。しかし、ストレアはその笑みに何か含みを感じて仕方なかった。
『ではカウントダウンを開始します。』
アナウンスの声が聞こえ、カウントが終わり、お互いが召喚獣を呼ぶ。
「おいで、黒灰龍」
「来なさい!天嵐龍!」
ストレアの背後に黒灰龍が現れ、椎崎の背後には全身を白い鱗で覆い、足がなく、宙に浮いた状態のヘビのようなドラゴンが現れる。その手には奇妙な穴が空いている。
「随分と珍しいドラゴンだね」
「そうでもないわよ!」
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「また、すげえやつが出て来たな。さっきの試合とか全然見てねえからわかんなかったわ。」
グランが呟くと、シルヴもそれに追従し、
「ランクA+、テンペストドラゴンだ。ストレアには少し不利な戦闘だな。」
「ああ、だけど、勝負ってのは召喚獣で決まるもんじゃねえ....ストレア、意地の見せ所だぜ。あ、そういやさっきお前椎崎のこと知ってるぽかったじゃん?だれ?」
グランが思い出したかのように問いかける。それに対しシルヴが
「ああ、彼女は椎崎 灰音、学年第三席だ。というか、休んでいたストレアはまだしも、貴様は知らんかったのか。」
グランは冷や汗を垂らしながら、
「い、いやー、ほら、私1位以外には興味ないっていうかね?」
シルヴはそんなグランに対し、嫌味っぽく
「ほう?あんな下から数えた方が早いやつになんとか勝てるような人間は言うことが違うな?」
「バッカ!あれは手抜いてやってたんだよ!次では本気だすし?」
グランは大焦りであった。
「ほら、それより見ないと!」
「全く貴様は....」
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「行くわよ!」
椎崎の両手に手の先から肘まで覆うほどの鎧が現れる。さらに、
「天嵐龍!天之衣を使って!」
椎崎が呼びかけると同時に天嵐龍が咆哮を上げ、椎崎の両手の鎧と足回りが風を纏う。
それと同時にストレアも細剣を手に現れさせ、それを振るい、周りにいくつもの魔法陣を作る。そして、
「黒灰龍、行くよ!」
先に仕掛けたのはストレアだった!背後の黒灰龍が一拍の溜めを入れてから、黒い光線、龍族の代名詞とも言える攻撃、龍の息吹を放つ!だが、それは椎崎も天嵐龍も躱してしまう、そして、
「そんなでかいモーションの攻撃が当たるか!」
椎崎が距離を詰め、ストレアへと殴りかかり、天嵐龍はそんな主人の邪魔をさせないかのように、黒灰龍へと尻尾を叩きつけ、2人から離す。ここで、2人と2匹に戦闘が別れることとなる。
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「ランク的にはストレアのドラゴンが不利だが...ストレアと椎崎だったらストレアの方が強いだろ、これは意外と長くなりそうな試合だな。」
グランがぼやくと、
「いや、そうでもなさそうだぞ?」
シルヴが面白そうに、言う。彼らの目の前ではなかなか面白い光景があった。
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「ガアアァァ!!」
黒灰龍が天嵐龍の顔の部分を殴り、天嵐龍が怯んだところに尻尾を振るい、吹き飛ばす。さらにそこに追撃を仕掛けるかのように翼を使い、低空飛行で距離を詰める。そしてそのまま両手をハンマーのように固め、天嵐龍を地面へと叩きつけた!天嵐龍が声にならぬ悲鳴をあげながら地面へと叩きつけられると同じ頃に、ストレアと椎崎は、お互いの拳と剣をぶつけ合っていた。
「イイィヤァ!」
「はぁ!」
火花を散らしながら、互いの武器をぶつけ合うがストレアはどんどんと後ろに下がらされていた。ストレアが一度、後ろに下がりながら、氷雪弾を牽制で4発放つが、それは竜種の召喚を行なった者がもつ絶対障壁によって防がれてしまう。
「いつも自分が世話になってるものに、苦しめられるとはね...」
ストレアはボヤくが、ストレアはただ下がっただけなので、相手は猛スピードで距離を詰めてきている。
「せい!」
「ぐっ!」
ストレアには苦しい時間だった。
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「なんか、全然想像した展開と真逆だな。ストレアの方が技術、筋力共に勝ってはいるんだが、あの天之衣とか言う奴が想像以上に厄介だな。椎崎が動くたびにあの風が椎崎の動きを補助してるだけじゃなく、一撃一撃全てに風の加護が乗っかってるからストレアがまともに攻撃を受け止められない」
グランが冷静に状況を観察し、シルヴも、
「逆にドラゴン同士の戦いは黒灰龍が天嵐龍本来の機動力を生かしつつ、遠距離攻撃で相手を仕留めるという戦い方を一切させないことによって、うまく封じ込めてるな。最初に天嵐龍が尻尾を使って攻撃してきたところを上手く狙ったな。」
2人の見立てはかなり正確であったが、ある一点を見落としていた。そして、その一点が今、戦況を変えようとしていた。