第4話 模擬戦闘2
ストレアの試合の後の試合も終わった後で、教師が声を上げる。
「次のやつら!来い!」
「よし、じゃあ行ってくるわ」
グランが腰を上げ、シルヴが声をかける。
「無理するんじゃないぞ?」
「余裕で勝てるさ」
グランが茶化して答え、観客席の階段を降りていき、手摺を飛び越え会場に飛び降りる。すると、周りから、
「おいおい、マジであいつも試合に出るのかよ?」
「召喚獣の加護を受けられない奴が何やってんだ?」
周りから声が上がる。
それを聞きつけたストレアが
「加護を受けられない?さっき君が言ってたことと関係あるのかい?」
シルヴに聞く、
「ああ、奴の四月の初めの召喚獣の授業の時に奴が召喚獣を出したんだがな、不思議なことにグランのやつはその召喚獣による加護を受けられなかったんだ。それに....召喚獣自体もな...」
「ふーん...でも、グランがそれでも行ったってことは勝てると思ってるからでしょ?」
ストレアが問いかける。
「流石だな、よくグランのことをわかってる。まあ、他の奴らもそれが面白くないんだろうがな」
2人が会話をしている間に、試合の準備が終わり、アナウンスの声が響く、
『制限無しのデスマッチでよろしいですね?』
「オッケーよ〜」
「いいぞ!」
グランとその相手が答える。そして、カウントが進み、それが終わった瞬間2人が召喚獣を呼ぶ、
「こい!火炎暴犬!」
「イナリ、いくぞ。」
グランの頭の上に、尻尾が九つある掌サイズの狐が出てきて、相手の横に全身に炎を纏った狼のような魔獣が現れる。
「ふっ、そんな哀れな魔獣と共に戦うのか?」
相手がグランを嘲笑する。すると、頭の上の狐が、
「クゥン...」
グランに申し訳ないというふうに鳴く、グランはそれに対し、
「気にすんな、お前は俺の最高のパートナーだよ、あいつの見る目がねえだけさ」
「ふん!弱者同士の馴れ合い、見るに耐えんな!」
相手が手の中にバスターソードを持ち、グランの前に踏み込んでくる!それをグランは紙一重で躱し、後ろに跳ぶが、
「遅いわぁ!」
相手の動きの方が遥かに速く、すぐに追いつかれてしまう。しかし、それに対しグランは冷静に見極め、イナリに指示をだす。
「イナリ」
「コン!」
向かってきた相手の顔に向かってイナリが手のひらほどの炎を放つ、それを相手は無防備に受けるが、
「小細工を!」
少しもダメージを受けた様子もなく、その場に立ち止まるだけであった。しかし、その時にグランは、
「武器を持つ前に斬りかかるとは卑怯な奴だ。」
いうと、グランの手の中に見ただけでも他の生徒が使う武器とは格が違うとわかる武器が現れる。
「炎刀カグツチ」
グランがその名を呼ぶと、グランの周りに炎が巻き上がる。
「さて、ここからだぜ」
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一方、その頃のシルヴ達は、
「卒業もしてないのに固有武装を持ってるなんて!」
珍しくストレアが驚いた声を出し、
「そうか、そういえばお前はまだ見たことが無かったな。あれはグランの父親が居なくなると同時にグランの部屋に置かれていたものだ。」
「置かれていた?」
「ああ、何も言わずに消えてしまったから真実はわからんがそれは紛れも無く、グランの為のものであると言うことを示すように、グラン以外の人物が持つと、刀身が熱くなって持てんのだ。」
「へえ、優れた固有武装には意志が宿ると言うけど、凄いね。そこまでとは....もしかして、これがグランの勝算ってやつ?」
「いや、グランは単純に自分の動きで勝てると考えているぞ?何しろ、使い手を選ぶとは言え、あれ自体は炎を出せる以外は切れ味が良いというくらいしか他の剣と違いはないからな。」
「あ、そうなの...」
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「ふん、固有武装とは....前から思っていたが身の丈に合わん物を持っているな。武器が泣いているぞ?」
なおも嘲笑をぶつけてくる相手に対し、
「はっ!戦闘能力と身体能力を勘違いしているやつは本当に愚かだな?おとなしく新体操でもやっていたらどうだ?」
グランは煽って返答する。
「貴様....!!」
「怖いねぇ」
相手がバスターソードを持って、再び斬りつけてくるが今度はグランはそれを受け止めると同時に受け流す、
「イナリ!危ないから下がってろ!」
「コン!」
イナリが頭の上から飛び降り、後ろに下がる。
相手は武器の大きさに関わらず、それを凄い速さで振り回す。しかし、グランはそれを全て受け流しながら、後ろに下がる。
「ふん!逃げるばかりか!」
「うるさいなあ」
攻撃が当たらないことに焦れたのか、相手は
「こい!フレアハウンド!」
自分の召喚獣を呼んで、攻撃に参加させる。
「チッ!」
今までも防戦一方だったが、グランはさらに追い込まれる。
「どうした!?受けきれてないぞ!」
「ガルル!」
「くそッ!」
グランが一際大きく、飛び下がり、
「上級身体強化!」
グランの体を赤い光が包み込む。そこに相手が斬りかかってくるが、今までとは一線を隠す動きで避ける!
「なに!?」
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「へぇ、凄いね。上級を既に使えるの?グランは」
「ああ、召喚獣以外の分野においてはやつは天才だからな」
「まるで自分のことように自慢するんだね?シルヴ」
「ふん、ムカつくが昔からの親友だからな。」
シルヴは決して嫌そうではない表情でストレアの言うことを肯定する。それにストレアは
「いいなあ、そういう友情関係...」
羨ましそうに返答するのであった。
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「どうした?動きが鈍いぜ!」
「ぐっ!」
「グル!」
先ほどとは一転して、グランが押していく。しかし、
「ガルア!」
「チッ!」
召喚獣の攻撃が所々、入ってくるせいでうまく決めきれずにいた。さらに、
「ふー....」
召喚獣の加護とは違い、身体強化は動くはずのない体を無理矢理動かす為、疲労が大きい。いくら他の人より、鍛えているグランとも言えど、既にその反動が出始めていた。
(持ってもあと、3分程度か....やっぱ上級の反動はでけえな)
「一気に行くぜ!」
自分の限界を把握したグランは、
「火炎長槍、連続掃射!」
自分の周りに巨大な炎の槍を多数作り、それを同時に打ち出す!さらに、
「うおらぁ!」
自らもカグツチにより斬りかかる!
「グオオォォォォォ!!」
「ガルルルルル!!」
相手は迫り来る炎の槍をどんどん撃ち落とすが、少しずつ、後ろに下がり始める。そして、そこに向かってグランが追撃をかける!しかし、
「クソォ!フレアハウンドォ!俺ごとで構わん!やれ!」
「ガルア!!!」
相手の召喚獣が吠えた瞬間、地面が爆発して炎が噴き出してくる!そして、突っ込んだグランはそれをもろに食らってしまう、
「ぐあああ!!」
しかし、それは相手も同様であった。
「グウうう!!」
そして、炎が収まった後にはボロボロで膝をつくグランと、自らの召喚獣の炎であるため、加護のおかげでそこまでダメージのない対戦相手とその召喚獣がたっていた。
「フッ、やはり私の相手ではないなぁ!グラン!む?」
グランの全身ゆっくりではあるが、小さな炎が覆っていて、その炎が消えた後には傷口がなくなっていく。
「それが貴様の召喚獣の能力である、自己再生とやらか。だが、全く脅威にならんスピードだな?」
そして、そんなグランにトドメを誘うとした瞬間、
「イナリ!ここだ!」
いつの間にか、グランたちのそばに来ていたグランの召喚獣が、巨大な炎を放つ!
「なに!」
グランごと、その炎が焼くが、
「ふん!この程度の炎!ダメージにもならんわ!」
一瞬でその炎を相手は振り払う、しかし、その炎により、お互いの姿を一瞬認識できなくなった瞬間、
「超級身体強化」
グランは先ほどよりも、さらに上位の身体強化を使い、一瞬で対戦相手の背後に回り込む!
「これで終わり!」
相手の首を斬り、その頭と胴体を離す。
その瞬間、
『片方の死亡が確認されました。時空魔術を使用します。』
お互いの姿が試合開始前へと戻される。
グランとイナリは顔を見合わせ、勝利を喜ぶ、
「やったな!俺たちの勝ちだぜ!」
「コン!」
グランたちが勝利を喜んでいると、対戦相手がまるで唾棄するかのように、
「そんな手でしか勝てないくせに、魔獣討伐になりたいなどと、笑わせるな!せいぜい、ぬかよろこびを続けているがいい!」
相手は憎悪すら感じさせる雰囲気でグランに言い捨て、去っていく。グランはそれを見送りながら、
「わかってるさ、その程度のこと。」
小声で呟いた。